市民運動への提言「参加民主主義と連帯と」
「参加民主主義」という考え方の新鮮さ−韓国参与連帯との会談
イラク侵略以後の各国各地米軍・米軍基地をなくす運動をどう構築するか
2003年10月20日
平山基生
「(提言したいことの)一つは、民衆の中に連帯の力を強める問題に関してです。その第1は、沖縄・日本から米軍基地をなくす草の根運動のような草の根の無数の運動を、実体的に日常的に結びつけるネットの結成に向けて、意識的な努力を開始することだと思います。その第2は、思想、政党支持、宗教、信条、国籍・民族などの違いを脇において、草の根から、各国で、米軍・米軍基地をなくす個人加盟の全国単一組織を結成し、力を付けて、各種の市民団体、労働組合、政党、政府を、「各国米軍・米軍基地をなくす」と言う一点で結集するまでに育て上げるという提言です。様々なイベント、キャンペーン、運動もそのような組織的な力に育て上げ、定着させなければ、現実の力を作り上げることは出来ないでしょう。」
訪韓を前にして前号で書いたこのことは、いずれも大局的になさなければならないことであることは確かです。しかし、これだけではきわめて不十分であると言うことを韓国で「参与連帯」(参加民主主義のための人民連帯 People's Solidaritiy for Participatory Democracy)の洪日杓(Hong, il-Pyo)さんらと会談して感じました。
1短期間で大発展した参与連帯と4大活動方向
参与連帯については、2000年1月から4月にかけての「韓国落選運動」での大きな成果を勝ち得た韓国市民運動団体の一つとしてご記憶の方も多いことと思います。また、日本民主法律家協会「法と民主主義」2000年12月号が詳しく報じています。参与連帯は1994年に247人、会員会費2630万5千ウォン(2000年当時。現在1円は約11ウォンなので約240万円)で出発、2000年当時は1万1千人、会員会費4億2689万5810ウォン(約3880万円)、2003年4月現在、会員数1万4千人以上、年予算14億ウォン(約1億2727万円)、54人の常勤スタッフと200人以上のボランティアスタッフがおり、2002年末までに127件の請願・訴訟を提起しました。(以上は、「参与連帯」発行の日本語版紹介小冊子による。以下は、インタビュウでの知見も含める)
2「政府・政権を動かす」というスタンスと立法運動
参与連帯について、日本の市民運動との一番の大きな違いの一つとして感じたことは、受動的な反対者である以上に、市民として、政治に参加する、政治を変える、政策決定・立法に主導的に参加する、換言すれば、政府・政権を動かすというむしろ主導的なスタンスでした。参与連帯には活動機構・付属機関が11あります。そのうち過半数の「議政監視センター」「司法監視センター」「納税者運動本部」「社会福祉委員会」「市民科学センター」「平和軍縮センター」計6機構は、すべて政府、裁判所、議会を監視しそこに積極的政策を主導的に提出するという活動を行っていました。まさに政府・政権を動かすというスタンスでした。日本では、市民運動が要求を提起することはあっても、政策・立法運動にまで至ることは多くはありません。ましてや、主権者でありながら、個々の議員や裁判官の評価を行い、それを国民に公開して判断の材料を提供するなどということは、日本民主法律家協会が裁判官について行っているほかはほとんどないと言ってもいいのではないでしょうか。
日本国憲法では国会は国権の最高機関であり、その議員の多数決によって、法律は決定します。とするならば、議会での多数を獲得することによって、法律の改廃新規立法が可能です。現在の公職選挙法は、主権者の選挙参加を著しく制限し、がんじがらめに主権者を縛り、政権党に極端に有利になっています。そして、市民運動も選挙についてはあきらめムードである場合が多いようです。公職選挙法を民主的に改変する大運動があって当然なのですが。
3政党的中立
印象深かったのは、ホンさんが「政治的中立」という言葉で表現していたこと、日本的に言えば、「政党的中立」の立場の堅持と言うことでした。与野党もふくめて政策的立場以外には、参与連帯は政党的には完全に中立である。候補者も出さない、ということでした。
事実上かなりのところ政党系列化ないしは構成員の「政党支持の自由」が形骸化されている日本と、反共法の下で、革新政党が完全に禁止され系列化しようにもその前提を欠いていた韓国の違いを感じました。
4平和・人権・福祉など異なる要求の機構が一つの組織の中に
参与連帯には、先に書いた6機構の他に不正腐敗解決に取り組んでいる「透明な社会をつくる本部」「小さな権利要求運動本部」「経済改革センター」と付属機関の「参与社会アカデミー」「(社)参与社会研究所」の5機構・機関があります。そこからも推察できることですが、様々な市民要求が参与連帯という一つの団体に統一され、しかも各機構が自主的に動いているという姿でした。環境問題は韓国内でも大きな問題で、それには独自の市民団体がありました。参与連帯のような様々な分野を扱っている市民団体は「総合型」と呼ばれています。
日本では、政党がそのような総合的な政策活動を行うことはあっても、市民団体がこういう「総合型」である例はあまり例がなく、法律家団体や研究者運動団体、女性団体、青年団体、労働団体は総合的に問題を取り上げている例は多いのですが、それぞれの分野別になっています。
5弁護士、学者、活動家の共同
参与連帯は、弁護士、学者、活動家主導の総合型市民団体です。別に、私たちが会談した「民主主義社会をめざす弁護士協会」(「民弁」と略しますが、仮日本訳団体名です)という専門家団体はあります。その弁護士の多くが、参与連帯において学者、活動家と共同して大きな役割を果たしているようです。参与連帯の特徴は、その中心活動家の若さです。今年5月できたばかりの平和軍縮センターの担当者は、まだ30歳にもならない若い女性でした。私に説明をして下さったホンさんも30代前半の青年でした。
6常に運動で共同を組織
今回のイラクへの韓国兵派兵について、韓国の351市民団体が共同で反対運動を展開しています。2000年の落選運動では約470市民団体が、「2000年総選挙市民連帯」を結成して活動しました。記憶が定かではありませんが、2001年には、約600団体が、米軍戦車女子中学生轢殺事件であったかで、結集しています。
残念ながら、日本では、現在このような形で多数の市民団体が、結集するまでには至っていません。次第にその数に接近しつつはありますが。しかし、人口約5000万人の韓国と1億2000万人の日本とでは、日本で韓国の倍の団体数の結集があって初めて同じレベルということができるでしょう。
7曲がり角にある市民運動
反共法は存在しますが事実上骨抜きになり、革新政党も結成されはじめた現在、韓国でも、市民運動は一つの曲がり角に来ているようです。その内容については十分に伺う時間がとれなかったのは残念です。しかし、革新政党ができ日本のように市民団体が事実上政党系列化される危険も韓国市民運動にあるかもしれません。
日本の市民運動も今正念場にあると言えましょう。正当な人民の要求以外にいかなる党派的利己主義からも個人的利益からも自由な市民団体が、勇気を持って連帯することを歴史が求めています。
8参加民主主義と連帯と
日本において若者の政治離れ、政治的無関心が指摘されています。「市民団体が法律(案)をつくって市民社会に提案し、世論化の過程を経て国会を動かせるような社会」を「新しい民主主義のモデル」と河昇秀(ハ・スンス)弁護士(参与連帯・納税者運動本部実行委員長)が述べています。このように「参加民主主義」を掲げている「参与連帯」は、また、「連帯」をもまさにその理念の大きな柱としていることは、「参加民主主義のための人民連帯」という団体名に簡潔に鮮明に現れています。民主主義とは、政治に国民が日常的に参加することであり、そのためには人民は連帯しなければならない、その理念を、文字通り現実の運動に体現しようとしている参与連帯は、その理想主義とその現実主義とによって日々前進しているようです。この「参加民主主義」と「連帯」こそ、21世紀におけるグローバルな人民・市民の共通のきわめて価値ある理念ではないでしょうか。
参与連帯は4つの活動原則をたてて活動しています。(4大活動方向)
第1は、(市民参与)経費全額を会費、財政事業など純粋な市民の力で工面していること、活動へ市民が主役として参加しているということです。
第2は、(市民連帯)市民の権利要求に向けた動きとも積極的に連帯していることです。「偏見と利己心の壁を越えてこそ希望が生まれると信じて いる」というパンフレットの言葉は、人びとに感銘を与える運動の純粋性を示しています。
第3は、(市民監視)「権力の横暴があるところには、どこにでも駆けつけている。不正腐敗、国民の上に君臨している司法、道徳性を失った企業活 動などに対して市民の目になり、監視牽制する。」この原則は、もちろん日本でも一定行われていますが、活動方向の原則的なあり方として いるところに、参与連帯の優れたところを感じました。
第4は、(市民対案)「参与連帯は各種対案を研究している」「参与連帯付属の社団法人「参与社会研究所」をはじめ、500余人の専門家が対案 作りに取り組んでいる。」立法運動とも関連し、この点も日本の市民運動が大いに学ぶに値することではないでしょうか。
9. 日韓の、民衆から政府に至るまであらゆるレベルでの連帯の強化を
「ヨーロッパ共同の家」がEUの成立によって実現しつつあるとき、東北アジアでもその理念は「東北アジア共同の家」として実現されなければなりません。遙か太平洋を越えて、北東アジアにまで干渉の手を伸ばしている米国の覇権主義がその実現を阻む最大の要素です。また、古い前世紀の遺物「日米同盟(野合というべき)」にしがみつき、腐敗を極めている小泉政権こそが、日韓、日朝の民衆連帯を阻んでいる最大の障害です。
現瞬間では一見不可能にすら見える国会での多数派獲得こそが、その障害を取り除く保証です。市民運動は、まさにその正当な諸要求、たとえば、憲法改悪反対、有事法制廃止、イラク派兵法、テロ特措法などの廃止を勝ち取り、更に在日米軍基地をなくすために日米安保条約を廃止し日米友好条約を締結する、その他年金法、税法、民法、医療保険法など、人民の要求を実現する立法を行い、そのような行政を行える内閣を選出できる国会多数派議員を、ただ、正当な要求のみを基準として、選挙できるように進み出なければなりません。市民・国民・人民の政治参加を強力に阻んでいる現行公職選挙法を参加民主主義実現の方向へ向けて改正する案も提起するべきでしょう。
韓国民衆運動は、今は日本のそれの先を進んでおり、そこから自主的に学ぶことは、日韓の大きな違いを考慮した上でも、まだまだ沢山あると考えます。
10. 60年安保世代など各世代内の連帯と異世代間の連帯を
参与連帯の幹部は、386世代と称されます。これは、「30才代」「80年代に大学生」「60年代生まれ」の世代を、パソコンのインテルの世代3.86をもじって、そう呼ぶのだとのことです。1980年代は、80年5月の「光州民衆抗争」(日本ではいわゆる光州事件)に始まり、全斗煥軍部政権との苛酷な闘争の時代でした。(ちなみに現在のインテルCPUをペンティアムと呼ぶのは、インテル5.86の5をペントと呼ぶことから来ているとのこと、蛇足ですが)
今や、日本では「60才代」、「50~60年代に大学生」「30年から40年代生まれ」が定年を迎え力をもてあましています。私は参与連帯にちなみ、日本現代史最大の民衆闘争60年代安保闘争に参加した世代がそれを上回る大闘争をいま作り上げるよう、この世代の人びとに呼びかけたい。10年間で、56倍の組織を作り上げた韓国386世代に負けず、日本664世代が力を合わせ持てる力を振り絞り立ち上がろうと。また、異なった世代の間の連帯も作り上げ、日本と世界の革新を目指すすべての人びとが総力を挙げて国民に呼びかけるならば、韓国革新民主勢力に負けない大きな力を発揮することも夢ではないと思います。