国民投票法案要旨

〈 総則 〉

 日本国憲法九六条に定める憲法改正について、国民投票に関する手続きを定めるとともに、憲法改正の発議に係る手続きの整備を行う。

〈 国民投票の実施 〉

 【総則】 (期日)国会が憲法改正を発議した日から起算して六十日以後百八十日以内で、国会の議決した期日に行う。

 (投票権)日本国民で満十八歳以上の者は投票権を有する。成年被後見人は投票権を有しない。

 (事務管理)中央選挙管理会が管理する。

 【国民投票広報協議会および国民投票に関する周知】

 (組織)委員は改憲発議がされた際、衆参議員であった者各十人旬予備員は同じく衆参各十人。各会派の所属議員数の比率で割り当てる。

 (事務)国会の発議に係る改憲案・要旨、新旧対照表その他参考となる説明、発議に当たって出された賛成・反対意見を掲載した国民投票公報の原稿の作成。客観的かつ中立的に行うとともに、賛成・反対意見の記載等は公正かつ平等に扱うものとする。

 (議事)出席要員の三分の二以上の多数で決する。

 (周知)総務相、中央選管、都道府県・市町村選挙管理委員会は国民投票の方法、必要と認める事項を投票人に周知させなければならない。

 【投票人名簿】

 市町村選管は国民投票が行われる場合、投票人名簿および在外投票人名簿を調製しなければならない。

 【投票および開票】

 (一人一票)投票は国民投票に係る改憲案ごとに、一人一票に限る。

 (投票管理者)国民投票の投票権を有する者の中から市町村選管の適任した者を充てる。

 (投票所の開閉時間)投票所は午前七時に聞き、午後八時に閉じる。

特別の事情のある場合、開場時刻を二時間以内の範囲内で繰り上げもしくは繰り下げ、閉鎖時刻を四時間以内の範囲内で繰り上げることができる。

 (投票の記載事項および投函(とうかん))投票人は改憲案に賛成のときは投票用紙に印刷された「賛成」を囲み○の記号を、反対するときは「反対」を囲み○の記号を白書し、投票箱に入れなければならない。

 (投票の秘密保持)何人も投票人のした投票の内容を陳述する義務はない。

 (開票の場合の投票の効力の決定)開票立会人の意見を聴き、開票管理者が決定。投票用紙に印刷された「反対」の文字を×の記号、二重線その他の記号を記載することにより抹消した投票は「賛成」として、投票用紙に印刷された「賛成」の文字を×の記号、二重線その他の記号を記載することにより抹消した投票は「反対」として、それぞれ有効とする。次の規定に反しない限り、投票人の意思が明白であれば、投票を有効とする。

 (無効投票)次のいずれかに該当する投票は無効▽所定の用紙を用いない▽○の記号以外の事項を記載▽○の記号を自書しない▽「賛成」の文字を囲んだ○の記号および「反対」の文字を囲んだ○の記号をともに記載▽「賛成」の文字または「反対」の文字のいずれを囲んで○の記号を記載したかを確認し難いもの。

 【国民投票分会および国民投票会】 中央選管は、直ちに改憲案に対する賛成・反対の投票数、投票総数(改

憲案に対する賀威・反対の投票数を合計した数)、並びに改憲案に対する賛成の投票の数が当該投票総数の二分の一を超える旨または超えない旨を官報で告示、総務相を通じ首相に通知。首相は直ちに衆参議長に通知。

 【国民投票運動】

 (適用上の注意)表現の自由、学問の自由および政治活廟の自由その他の憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意。

 (投票事務関係者等の

国民投票運動の禁止)投票管理者、開票管理者などは在職中、関係区域内で国民投票運動をすることができない。

 中央選管の委員、中央選管の庶務に従事する総務省職員などは在職中、国民投票運動をすることができない。

 (公務員等および教育者の地位利用による国民投票運動の禁止)国・地方公共団体の公務員、独立行政法人などの役員・

職員は、その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力を利用し、運動をすることができない。

 教育者は学校の児童、生徒・学生に対する教育上の地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力を利用し、運動をすることができない。

 (国民投票に関する放送の留意)一般放送事業者、有線テレビジョン放送事業者などは、国民投票に関する放送につい

て、政治的に公平であることなど放送法の趣旨に留意するものとする。

 (投票日前の広告放送の制限)何人も国民投票の期日前十四日に当たる日から国民投票の期日までの間は、次の規定を除くほか、国民投票運動のための広告放送することができない。

 (国民投票広報協議会および政党等による新聞広告)広報協議会は新聞に改憲案の広報のための広告をする。改憲案、要旨その他参考となるべき事項の広報を客観的かつ中立的に行う。

 政党等は無料で改憲案に対する賛成・反対の意見の広告をすることができる。改憲案に対する賛成・反対の政党等の双方に対して同一の寸法および回数を与える等同等の利便を提供しなければならない。

 【罰則】

 (組織的多数人員収および利害誘導罪)三年以下の懲役もしくは禁固または五十万円以下の罰金。

 (職権乱用による国民投票の自由妨害罪)四年以下の禁固に処する。

〈 国民投票の効果 〉

 改憲案に対する賛成の投票の数が投票総数の二分の一を超えた場合は、国民の承認があったものとする。首相は直ちに憲法改正の公布手続きをとらなければならない。

〈 国民投票無効の訴訟等 〉

 【国民投票無効の訴訟】 (訴訟)国民投票に閲し異議がある投票人は中央選管を被告として、告示の日から三十日以内に東京高等裁判所に訴訟を提起することができる。

 (判決)次に掲げる事項があり国民投票の結果に異動を及ぼす恐れがあるときは、裁判所は全部または一部の無効を判決しなければならない。▽管理執行に当たる機関が順守すべき手続きの規定に違反▽多数の投票人が自由な判断による投票を妨げられたといえる重大な違反▽賛成・反対の投票の数の確定に関する判断に誤り。 (効力)訴訟の提起があっても国民投票の効力は停止しない。

 【再投票および更正決定】 訴訟の結果、全部または一部が無効となった場合、さらに国民投票を行わなければならない。

〈 補則 〉

 国民投票に関する一切の費用は、国庫の負担。

〈 憲法改正の発議のための国会法の改正 〉

 (憲法審査会)憲法および憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、改憲原案、憲法に係る改正の発議または国民投票に関する法案等を審査するため、各院に憲法審査会を設ける。

 憲法審査会は改憲原案および憲法に係る改正の発議、国民投票に関する法案を提出することができる。提出者は憲法審査会会長。各院の憲法審査会は改憲原案に閲し、他の院の憲法審査会と協議して合同審査会を開催できる。合同審査会は各院の審査会に勧告できる。

 (憲法改正の発議)議員が改憲の原案を発議するには、衆院で議員百人以上、参院で議員五十人以上の賛成を要する。改憲原案の発議に当たっては、内容の関連する事項ごとに区分して行う。改憲原案につき議院の会議で修正の動議を議題とするには衆院では議員百人以上、参院では議員五十人以上の賛成を要する。

 国会において最後の可決があった場合、その可決をもって、国会が改青発議をし、国民に提案したものとする。両院議長は改憲発議をした旨、発議に係る改憲案を官報に公示する。最後の可決があった場合には、その院の議長から、内閣にその旨を通知、送付する。

 国民投票の期日は当該発議後速やかに、国会の議決で定める。

 (国民投票広報協議会)改憲発議があったときは、改憲案の国民に対する広報事務を行うため、国会に、各院の議員の申から選任された同数の委員で組織する広報協議会を設ける。

〈 付則 〉

 (施行期日)この法律は、公布の日から起算して三年を経過した日から施行する。ただし、国会法改正などは公布の日以後初めての国会の召集の日から施行する。

 (法制上の措置)国はこの法律が施行されるまでの間に、年齢満十八歳以上満二十歳未満の著が国政選挙に参加することができるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措麿を講ずる。措置が講じられるまでの間、国民投票の投票権を有するのは、年齢満二十歳以上の者。

 (法律施行までの間の国会法の適用に関する特例)国会法の改正のうち、改憲原案および憲法に係る改正の審査や発議などに関する規定は、この法律が施行されるまでの間は適用しない。

 (公務員の政治的行為の制限に関する検討)国はこの法律が施行されるまでの間に、公務員の政治的行為の制限を定める国家公務員法、地方公務員法などの規定に検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる。

 (憲法改正問題についての国民投票制度に関する検討)国はこの法律の施行後速やかに、改憲を要する問題、改憲対象となり得る問題の国民投票制度に関し、その意義、必要性の有無について、憲法の採用する間接民主制との集合性の確保その他の観点から検討を加え、必要な措置を講ずる。