有事システム・秒読み「県国民保護計画」(4)

<2006年2月12日 朝刊26面>
有事システム・秒読み「県国民保護計画」(4)
ぼやける境界
「防災」足場に浸透
社会全体支配の懸念も
 恩納村のビーチ。白い砂をけり、自衛官と消防隊員が力を合わせて担架を運ぶ。上空には戦闘機や哨戒機が飛び交い、沖合を巨大輸送艦「おおすみ」がもうもうと黒煙を吐き出しながら横切った。
 見物していた読谷村の主婦(26)は「自衛隊があんなに大きな船を持っているとは思わなかった」と、目を丸くした。地元の主婦(67)は「本物の戦争みたい。怖い」と、表情をこわばらせる。
 二〇〇五年九月の県総合防災訓練は、軍事色に覆われた。九州最大の陸上自衛隊の拠点を抱える熊本県の消防隊員でさえ、「県の訓練にこれほど大規模な自衛隊の参加は見たことがない」と、口をそろえたほどだ。
 閉会式で、自衛官を真ん中に挟んで整列した参加者に向かい、牧野浩隆副知事は総括した。「従来にも増して、充実した訓練だった。こうした蓄積が国民保護に役立つものと確信する」
 防災と有事の境界は、次第にぼやけている。県の国民保護担当は防災危機管理課。国側の窓口は消防庁だ。
 県が〇五年七月に開いた県国民保護フォーラムの客席にも、市町村消防の制服が目立った。だが、壇上では「テポドン」「潜水艦侵入」など、きな臭い事例が次々に紹介される。
 中部のある消防団長は、あっけに取られた様子で話した。「国民保護と聞いて、てっきり防災の話だと思っていた。テロとか有事とか言われて、ちょっとパニックだ。われわれも有事に巻き込まれるのか」
 防災を足場に、有事の体制が組まれる。県は「防災は基本。国民保護は応用だ」と説明するが、双方には大きな違いがある。防災が市町村本来の仕事なのに対し、国民保護では国から県、市町村へと指示が下されるトップダウンの思想が貫かれている。
 自衛隊は攻勢をかけている。先月末には、陸上自衛隊西部方面隊(熊本市)が日米共同指揮所演習に沖縄など八県の国民保護担当者を初めて招いた。「作戦時の日米の動きを把握してもらうのが目的」だ。
 さらに〇六年度から、自衛官募集が主な仕事だった地方連絡部は「地方協力本部(仮称)」に格上げ。新設ポストの「国民保護・災害対策連絡調整官(仮称)」が一人ずつ常駐、市町村の計画作成の手伝いや有事の際の調整に当たる。防衛庁は「国民保護で、自衛隊への期待は高まっている。協力体制を強化する」と力を込める。
 「あってはならない武力攻撃、なくてはならない国民保護」。〇五年のフォーラムで、消防庁の担当者は意義を強調した。だが、「万が一」の備えを固めるうちに、気が付いた時には社会全体が有事システムに支配されている可能性も、否定はできない。(社会部・阿部岳)=おわり=
http://www.okinawatimes.co.jp/spe/yuji20060212.htm

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