2007年5月4日(金) 朝刊 22・23面
生かせ憲法 守ろう平和/那覇で講演会
施行六十年目となる憲法記念日の三日、詩人で絵本作家のアーサー・ビナードさんを招いた憲法講演会(主催・県憲法普及協議会、沖縄人権協会、日本科学者会議沖縄支部)が那覇市民会館大ホールで開かれた。ビナードさんは「聞こえのいい表現で戦争の本質を隠す、為政者たちの言葉を読み解こう」と語り、「憲法の危機を好機にしよう」と会場に呼び掛けた。主催者発表で約千五百人が聴いた。
ユーモアと風刺を織り交ぜ、言葉を選びながらエッセーを聞かせるように語る。笑いと拍手を誘いながら約一時間半話した。
ビナードさんは、日米の「ミサイル防衛システム」や「米国防総省」といった軍事関連の呼称について、自国の防衛という表現を使って戦争の実態をごまかしていると指摘。「テロとの闘い」も先制攻撃とその後の混乱の隠れみのになっていて、「言葉を作った人の意図を見抜く必要がある」と述べた。
憲法については「(九条の)正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、本気で外交に取り組んだ内閣がこれまであったでしょうか」。九条は可能性が試されたこともなく、「私たちは『新憲法制定』といった新しいという言葉にだまされやすい思考回路を持っている」と警鐘を鳴らした。
ビナードさんは一九九〇年に来日し、湾岸戦争への自衛隊派遣の是非をめぐる論議で日本に平和憲法があることを知り、九条が戦争にかかわることへの歯止めになっていることに強い衝撃を受けたという。
一方で「『九条を守ろう』と口にすると生意気な感じで違和感がある」とも。「憲法は守らなくても動じない。守られているのは私たちで、僕らが生かして使っていかなければいけないものです」と語った。
結びに「平和とはどこかで進行している戦争を知らずにいられるつかの間の優雅な無知」と、米国の詩人エドナ・セントビンセント・ミレーの言葉を紹介。「平和とは戦争をしたがる人の準備のための時間」と話したベトナム人もいたといい「私たちには戦争を準備するための時間も食い止める時間も等しく与えられている。平和憲法を生かし、実現するための時間を大切にしよう」と語った。
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悲惨な体験忘れず・戦争への加担阻止
「活かそう ホントの憲法の力」をテーマに那覇市民会館で三日開かれた憲法講演会。詩人で絵本作家のアーサー・ビナードさんの講演のほか、県憲法普及協議会の高良鉄美会長が改憲手続きを定める国民投票法案について批判。名護市辺野古で基地反対の座り込みを続ける嘉陽宗義さん(84)との意見交換会、県内歌手の宮良沢子さんらのコンサートなどさまざまなプログラムが繰り広げられた。会場を、改憲の動きに危機感を募らせる約千五百人が埋め尽くし、熱気に包まれた。
国民投票法案について高良会長は「憲法ができて二十五年の空白がある沖縄では憲法の理念などがまだまだ生かされていない。国民投票と聞こえはいいが、改憲のための法案。有権者投票数の半分で決まってしまうこと自体が憲法違反だ」と指摘した。
米軍基地周辺に植えられた夾竹桃をテーマに「夾竹桃?フェンスの向こうで」など三曲を披露した宮良さんは「夾竹桃の花言葉は、近寄るな、危険。この歌を通して平和の大切さを伝えたかった。県内には戦争体験者も多く残っており、戦争は昔のことではなく、悲惨な体験を簡単に忘れることはできない」と改憲に異議を唱えた。
名護市辺野古の基地建設に反対する座り込みを続ける嘉陽さんは、司会から安倍晋三首相の美しい国づくりについて質問され、「首相の美しい国は、精神的にか、道路整備などなのか分からない。九条は千年万年も守りたい」と語った。
最後に、琉大の学生二人が二〇〇七年沖縄・憲法宣言「マジュン、チバラヤー! 憲法(憲法よ、一緒に頑張ろう!)」を読み上げた。学生たちがまとめた文章は、改憲や教育基本法改正の動きに危機感を訴え、平和憲法の理念を世界に発信する内容。
会場にいた沖縄キリスト教学院大学の大城△武教授は「改憲のターゲットは九条で、戦争できる国にすることが見え見え」と強調した。
那覇市の盛口佳子さん(39)は「今でさえ、自衛隊の海外派遣など米国の戦争に加担しているのに改憲すると直接、戦争にかかわるのでは」と不安げな表情だった。
宜野座村の知名桐子さん(24)は憲法改正問題に興味を持つようになったのは一年前。「周りの友人は興味がない人が多い。九条は改正してほしくないが、それ以外の内容が分からないので勉強していきたい」と語った。
※(注=△は「冖」(わかんむり)の下に「且」)
九条「世界へ」宮古から声明
【宮古島】みやこ九条の会は憲法記念日の三日、宮古島市内で会見し、「憲法九条を激動する世界に輝かせたい」として、九条改憲に向けた動きに反対する声明を発表した。同市伊良部の下地島空港にも触れ「軍事的利用を画策し、自衛隊を誘致しようとする策動が行われていることは看過できない」とした。
代表世話人の一人、仲宗根将二さんは下地島空港と憲法九条の関連について「自衛隊が使用すれば、米軍と一体となった戦争の危険性が強まる」と指摘。「下地島空港を拠点とした自衛隊の在り方を警戒している」と述べた。
同会は仲宗根さんと牧師の星野勉さんを代表世話人に二〇〇六年七月に発足。「不戦と平和の誓いの象徴」として「憲法九条の碑」を市内に建てようと募金活動を進めている。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705041300_01.html
社説(2007年5月4日朝刊)
[日米2プラス2]
軍事的一体化を危惧する
日米両政府は、外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を一年ぶりに開き、日米同盟の強化と自衛隊の役割拡大を打ち出した。
今回は在日米軍再編の着実な実施やミサイル防衛(MD)システムの構築など従来の合意事項の確認が中心となり、MD強化に向けた両国間の情報共有や、日本と北大西洋条約機構(NATO)との協力拡大をうたった。
米軍普天間飛行場のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設などの在日米軍再編については、昨年五月の日米合意の着実な実施を再確認し、日米が連携して進展を図る方針を示した。
V字形案の沖合への移動などは取り上げられなかった。仲井真弘多知事は不満をにじませ、政府の柔軟対応を促した。県民世論を代弁する知事としては当然である。弱腰では政府案修正はますます不透明になるばかりだ。
今回の協議では、軍事秘密の保全に関する規則を包括的に定める「軍事情報に関する一般的保全協定」(GSOMIA)の締結に合意している。
イージス艦情報が漏えいし、政府の情報管理の甘さを懸念した米側が協定締結と国内法整備を求めた。同盟関係の二国間で秘密軍事情報を提供し合う際、第三国への漏えいを防ぐのが目的だ。しかし、国民の知る権利を侵害することにならないか、検証が必要だ。
共通戦略目標では、日米同盟とNATOを補完的関係と位置付け、広範な協力を達成するとした。MDについては地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の全面配備を前倒しし、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)のイージス艦搭載も早期の完了を目指すという。
安倍晋三首相は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ、日米同盟強化や、MD配備、NATOとの連携、集団的自衛権行使についての政府解釈の見直しに強い意欲を示している。
在日米軍再編などに伴い、米軍と自衛隊の軍事的一体化が加速し、北朝鮮情勢を背景に、安倍政権の“タカ派ぶり”が際立っている。
政府の憲法解釈では、日本国憲法の下では集団的自衛権は行使できない。有識者会議の設置は、政府が集団的自衛権行使の一部容認から全面容認への道を開くことが危惧される。
憲法改正の動きと連動し、なし崩し的な解釈改憲を進めるのはあまりにも一方的だ。「平和主義」を理念とする専守防衛の原則を踏み外してはならない。
日米の軍事的一体化で沖縄はどのような負担を強いられるのか。県民一人一人が真剣に考えなければならない。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070504.html#no_1
2007年5月5日(土) 朝刊 20面
ハワイ先住民ら抗議/普天間代替の事前調査で
【ホノルル=山城莉乃通信員】普天間飛行場の代替施設建設に反対し、ハワイから沖縄の住民運動にエールを送る人々がいる。ハワイ先住民族の主権回復を訴える団体や県系人らの「HOA」(ハワイ・沖縄アライアンス)は沖縄で行われる抗議集会に連動してホノルル市内でアピール行動を展開した。
建設予定地の名護市辺野古キャンプ・シュワブ沖で那覇防衛施設局が事前調査を実施したことに対し四月二十八日(現地時間二十七日午後)、HOAのメンバー二十五人はホノルル日本領事館に集まった。
沖縄でこの日、反対住民がシュワブ前で実施した「人間の鎖」行動に連動。「基地拡張に反対」「ジュゴンを守れ」などと書かれたプラカードを掲げ、普天間移設に抗議した。
ハワイ先住民のケリイ・コリアーさんは「異民族の基地を押し付けられているハワイ、沖縄、グアムを含むアジア太平洋、そして南米の国々が協力し外国軍基地を拒否し続ければ、必ず平和を得ることができると思う」と今回の抗議行動に参加した思いを語った。
領事館職員はプラカードの内容をメモに取り、解散を呼び掛けた。HOAメンバーが総領事との面談を求めたが受け付けなかった。
参加者の説明では、三週間前から代替施設で「共同使用」となる内容の情報開示と総領事との面談を求めたが拒否されたため、抗議集会を開いたという。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705051300_05.html
2007年5月5日(土) 朝刊 2面
11日から平和行進/復帰35年特別コースも設置
県内の米軍基地や沖縄戦の戦跡などを巡り、平和や基地問題について考える「5・15平和行進」(主催・同実行委員会)が十一―十二日の二日間、県内各地で行われる。同行進は今回で三十回目。今年は十日に国頭村役場を出発、大宜味村などを経由して名護市役所前を終点とする復帰三十五年特別コースも設けた。
同実行委員会の山城博治事務局長は「沖縄の基地を整理・縮小していくことが極東アジアの平和につながるということを行進を通して訴えていきたい」と多くの県民の参加を呼び掛けている。同実行委によると、県内外を合わせて延べ約六千人の参加を見込んでいるという。
行進は沖縄本島が東・西・南の三コース。宮古・八重山でも行われる。平和憲法を守り、米軍普天間飛行場の即時閉鎖、県内移設反対、嘉手納基地の返還などを訴えながら行進する。
十二日午後六時から北谷町の北谷球場前広場で「5・15平和とくらしを守る県民大会」を開催する。また、多くの参加者は十三日に行われる「5・13嘉手納基地包囲行動」(主催・同実行委員会)に参加する予定となっている。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705051300_06.html