沖縄タイムス 社説(5月18日)

社説(2007年5月18日朝刊)

[集団的自衛権]

国民の理解得られるか
 四月末、ワシントンで開かれた日米防衛首脳会談で、ゲーツ米国防長官が米国を狙った弾道ミサイルを日本のミサイル防衛(MD)システムで迎撃できるようにするため、集団的自衛権行使の容認を久間章生防衛相に迫ったという。

 ゲーツ長官は、自国の安全を守るためなら他国の憲法解釈も変更させることができると考えているようだが、あまりに強引すぎないか。

 最高法規である憲法解釈をめぐる議論はそれぞれの国内問題で、他国があれこれ言う筋合いのものではない。

 日本国憲法は戦争放棄を明記し、国の交戦権を認めていない。集団的自衛権をめぐる議論はさまざまあるが、現行憲法が集団的自衛権の行使を禁じているとした政府解釈は一貫して変わっていないし、国民にも定着している。

 共同通信社が今月行った全国世論調査では、集団的自衛権の行使に関する政府解釈について「今のままでよい」との回答が62・0%。「憲法解釈を変更し、行使できるようにすべきだ」の13・3%を上回った。

 米国が内政干渉ともとれる要求を突きつけてきたことは、集団的自衛権の行使容認に始まったことではない。

 二〇〇一年九月の米同時多発テロの直後に、当時のアーミテージ米国防副長官が柳井俊二元駐米大使に「ショーザ・フラッグ(旗を見せて)」と要求。この発言をきっかけに、日本は米国が掲げる対テロ戦争に協力。インド洋への自衛隊艦派遣やその後のイラクへの陸上自衛隊派遣などにつながった。

 政府は四月に集団的自衛権の行使に関し、一部容認する方向で解釈変更を検討する有識者会議を設置した。初会合が開かれるのはきょう十八日だ。

 憲法解釈をめぐっての議論は必要かもしれないが、一部有識者の考えだけで変更するのはおかしい。まして他国の国防長官が、この時期にいちいち口出しすべきものではない。

 政府は集団的自衛権の解釈変更を急ぐより、平和憲法の理念を守ることにこそ力を注ぐべきだ。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070518.html#no_2

社説(2007年5月18日朝刊)

[メア総領事発言]

これこそが米国の本音だ
 「事故が起きないのが不思議だ。早く移す方法を考えろ」。二〇〇三年十一月、上空から普天間飛行場を視察したラムズフェルド元米国防長官が、周辺住宅の密集度に驚いて口にした言葉だと言われている。

 後の報道でこの発言を知った県民は「誰が考えても普天間飛行場の実態は同じ」と、極めて真っ当な感想を示したことにほっとしたものである。だが、ケビン・メア在沖米国総領事は異なる見解を持っているようだ。

 十四日に行われた沖縄経済同友会で「米軍再編の将来展望」のテーマで講演した総領事は「私の目から見ると、厚木基地や福岡空港の周りの人口密度と比べると、普天間は特別に危険ではない。福岡空港では普天間よりも多くの航空機が飛来している」と述べているからだ。

 もちろん「宜野湾市民に、危険だという懸念や騒音の問題があるのはよくわかっており、迷惑をかけない努力をする必要がある」(15日付朝日新聞)とも語っている。だが、この問題をなぜ他空港と単純比較し簡単に口にするのか、疑問と言うしかない。

 福岡市は人口約百三十六万人の政令指定都市だ。そこと比べたら、宜野湾市だけでなく県内すべての基地周辺地域の人口密度が数値的に緩和されるのは当然だろう。

 米軍再編を推し進める側の意見であれば、ただそれとして聞くこともできる。だが、在沖総領事の発言である。市民が感じている危険性に「特別」の有無があるはずはなく、県民として異議を申し立てないわけにはいかない。

 それにしても、異なる状況下の問題をなぜ同列に扱うのだろうか。ここには「普天間」を手放したくない米国の本音が隠されているのではないか。

 メア総領事は、ラムズフェルド元長官の視察から十カ月後に隣接する沖縄国際大学構内に海兵隊所属のCH53型ヘリが墜落、炎上したことを忘れたわけではあるまい。もし忘れているとしたら、そのこと自体を問題にしなければならない。

 発言に対し仲里全輝副知事が「残念。総領事として地域の実情を把握して(ほしい)」と述べている。当然であり、県民ももっと深刻に受け止め、怒りを表明する必要がある。

 周辺の住民は、KC130給油機が普天間飛行場に着陸してはすぐに離陸する「タッチアンドゴー」の訓練を頻繁に目にしている。それこそが日常の危険性であり、「普天間」の閉鎖、返還は危険性の除去なのである。市民の恐怖心を無視した発言は厳に慎んでもらいたい。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070518.html#no_1

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