沖縄タイムス 関連記事、琉球新報 社説(10月11日、12日、13日)

2007年10月11日(木) 朝刊 1・2面

沖縄戦専門家の選任検討/文科省

訂正申請後の審議会/赤嶺議員に伝える

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題で、文部科学省が十日、出版社からの訂正申請を受けて開く「教科用図書検定調査審議会」の専門委員に、沖縄戦の専門家を新たに加えることを検討していると、赤嶺政賢衆院議員(共産)に伝えていたことが分かった。現在、同審議会に沖縄戦の専門家は不在で、同検定をめぐる審議では、議論が全くなされないまま検定意見が付された経緯があり、専門家による調査が必要と判断したとみられる。

 文科省の担当者は、専門家不在の実態を認めた上で、訂正申請を受けた審議会で専門家の配置を省内で検討していることを明らかにしたという。

 「教科用図書検定調査審議会令」では、「審議会に、専門の事項を調査させるため必要があるときは、専門委員を置くことができる」と明記。

 担当者は、同政令に基づき、専門家の選任が可能と説明。人選の例として沖縄戦に詳しい大田昌秀前参院議員の名前を挙げたという。政令によると、専門委員は非常勤で、「当該専門の事項に関する調査が終了したとき」に解任される。

 ただ、訂正申請を受けて開かれる審議会は、今回問題になっている検定意見を付した審議会と意義付けが異なるため、「沖縄戦の実態について誤解する恐れのある表現」との検定意見はそのまま残ることになる。

 赤嶺氏は、文科省の担当者に対し、「出版社から訂正申請が出るといっても、検定意見が残ったままではどのような訂正申請をしていいかも分からない。検定意見の撤回がなければ問題は解決しない」などと検定意見の撤回を強く求めた。


     ◇     ◇     ◇     

「参院の判断に任せる」/小沢代表 静観の構え


 【東京】民主党の小沢一郎代表は十日の定例会見で、参院への「沖縄戦『集団自決(強制集団死)』の教科書検定に関する決議案」提出が困難な状況となっていることについて、「参議院の判断、運営に任せている」と述べ、状況を見守る考えを示した。

 参院への決議案提出をめぐっては、自民党の執行部から反対意見が相次いでいるほか、民主党内からも「全会一致」の慣例を重視して「多数決ではできない」(平田健二参院民主党幹事長)との異論が出ており、めどが立たない状況に陥っている。

 小沢代表は会見で「全会一致でなければならない、ということではない」と、採決でも意義があるとの考えを示しつつ、「ただ、今回のことについては、審議会は中立的な仕組みになっているし、教育の問題でもある」と述べ、参院の判断を見守り、慎重に対応する姿勢を示した。

 一方、検定の在り方について、「日本の政治、行政の結論の出し方は、第三者的な審議会や調査会という形式をつくって事実上行われているのが多い。結果として、ある意味では責任を回避するやり方だ」と述べ、「教科用図書検定調査審議会」の決定を盾に検定意見の撤回を固辞する文科省の対応を批判。

 「もう少し政治が、あるいは行政が真正面から取り組む形にすべきだ」との考えを示した。


「部会」要旨公開を検討/文科省


 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書検定問題で、文部科学省が、原則非公開としている教科書検定審議会のうち、実質的に教科ごとの検定の合否を判断している「部会」の議事要旨の公開について検討を始めることが十日、分かった。文科省は今回の問題が決着した後に具体的な検討を進め、次回以降の審議会運営に反映させたい考え。

 審議会は全体で行う「総会」を頂点とし、その下の教科ごとの「部会」、さらに専門ごとに内容を精査する「小委員会」で構成されている。

 議事はすべて非公開となっているほか、議事録も総会の会長あいさつや部会での審議結果の要旨を公開しているだけで、委員の発言内容や合否を判断した根拠などは一切、明らかにならない仕組みになっている。

 また審議会の委員に、沖縄の近現代史の専門家が選ばれていないとの指摘を受けていることから、文科省は委員の選任方法や専門家の意見聴取についても検討課題としている。

 渡海紀三朗文科相は九日の閣議後の記者会見で「今までのやり方でよかったのかどうかも含めて、少し検討したい」と発言した。

 議事の全面的な公開については消極的な姿勢を示したが、審議終了後の議事録公開は検討の余地があるとの考えを示していた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710111300_01.html

 

2007年10月11日(木) 朝刊 2面

意見概要書を今月提出/「普天間代替」

 米軍普天間飛行場代替施設の建設に向けた環境影響評価(アセスメント)をめぐり、防衛省が県に対し、公告縦覧したアセス方法書への住民らの意見をまとめた概要書を今月中に提出する、と伝えていたことが十日分かった。

 アセス手続きでは、県は概要書を受理後、六十日以内(国のアセス法の場合は九十日以内)に知事意見を提出する。

 仲井真弘多知事は九日、記者団に対し、知事意見を提出する考えを表明しており、年内にも提出期限を迎えることになる。

 沖縄防衛局によると、住民らからの意見は計四百八十七通寄せられており、概要がまとまり次第、県などに提出する。

 方法書が一方的に提出されたことから、県は受け取りを「保留」してきたが、知事意見を提出することで解除することになる。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710111300_04.html

 

2007年10月11日(木) 朝刊 23面

戦火の街 悲劇二度と/十・十空襲の日 那覇市で慰霊祭

 沖縄戦での那覇市の戦没者、約二万九千人が祭られた同市若狭の「なぐやけの碑」前で十日、「第十二回なぐやけの碑慰霊祭」(主催・那覇市連合遺族会)が開かれ、首里・真和志・那覇・小禄の各地区から参列した約二百五十人の遺族が、平和への誓いを新たにした。

 昨年から、一九四四年十月十日に同市が攻撃された「十・十空襲」のあった同日に開催。気温約三十度の夏を思わせる汗ばむ陽気の中、遺族らは厳かに黙とうをささげ、うつむきながら読経に聞き入っていた。

 式では、遺族代表として小禄地区の上原栄吉さん(63)が「米軍と日本軍の勝ち負けが浮き彫りになったのが沖縄戦。与那原の部隊に徴兵された父は帰らぬ身となり、遺骨も残っていない」と弔辞。「忌まわしい戦争を再び起こしてはいけない」と語気を強めた。

 同遺族会の座喜味和則会長は「十・十空襲では爆弾や機銃掃射、焼夷弾で那覇の街は焼き尽くされた。復興は遂げたが、戦争の記憶の風化は否めない。私たち遺族が全力で食い止めよう」と呼び掛けた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710111300_05.html

 

琉球新報 社説

普天間アセス 知事意見で明確に反対主張を

 仲井真弘多知事が、名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部に建設が予定されている米軍普天間飛行場代替施設の環境影響評価(アセスメント)方法書に対する知事意見を提出する意向を示した。

 防衛省が8月、アセス方法書を提出した際、県は知事意見を出さない姿勢を強調していた。しかし、提出しない場合は行政手続き上、県が方法書の内容を了承したことになる。

 しかも、政府は県や名護市の修正要求に一切応じていない。知事意見を提出しなければ、政府案に賛成しているとも受け取られかねない。

 政府案に地元が同意しないまま、地元の意向を無視して移設に向けた手続きだけが着々と進む状況は異常である。

 そのような異常事態を変えるため、知事意見という形で、政府に対して反対意見を明確に主張していくことに異論はない。

 しかしながら、この間の政府の姿勢からして、知事意見に政府が真摯(しんし)に対応するかは、極めて不透明と言わざるを得ない。

 政府のかたくなな姿勢を改めさせるためにも、アセス終了後に控える埋め立て申請を許可しないことなど、知事の強い姿勢を意見に盛り込むことも必要ではないか。

 安倍晋三前首相は4月に来県した際、「移設では知事や地元の意見に耳を傾けていく」と述べ、地元との協調姿勢を示した。

 しかし、実態はどうか。

 アセス方法書の受け取りを拒否する県に対して、強引に書類を置いて帰るなど、乱暴な印象はぬぐえない。

 方法書は法的に受け取りを拒否することはできない。にもかかわらず、県が受け取りを拒んだのは政府の不誠実な姿勢が要因である。

 知事は高村正彦前防衛相との会談で、現状ではアセスを「やり直しするだけ」とあくまで修正案によるアセスの実施を求めた。高村前防衛相は会談後、「(アセス後に修正の是非を話し合うとの)わたしの提案に否定的な感触はなかった」と述べた。

 県と政府の認識のずれは大きい。「建設ありき」のアセス実施に固執する政府が県に歩み寄らない限り、膠着(こうちゃく)状態は続くだろう。

 安倍前首相の言葉とは裏腹に、政府は2014年の代替施設完成に合わせたスケジュール消化を第一にしているのが現状である。

 アセス結果で問題があったとしても、日米合意を最優先させる政府が事業を見直す可能性はほとんどないといっていい。

 米軍再編の目的の一つは、地元負担の軽減だった。その際、最も大切なことは地元への配慮と理解である。政府にはそれが欠けていないか。

(10/11 10:00)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27980-storytopic-11.html

 

2007年10月11日(木) 夕刊 1・5面

全5社、訂正申請を検討/教科書検定

 文部科学省の高校歴史教科書検定で沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」から、日本軍強制の記述が削除された教科書会社の全五社が文科省に記述の訂正申請をする方向で検討していることが十一日、分かった。

 十五―十六日に上京する「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員会メンバーの要請内容を聞いた上で早ければ十八日以降にも訂正申請する方針を固めた社がある一方、渡海紀三朗文科相が検定意見撤回を否定し、「元通りにするのは難しい」としていることから「文科省の対応を見ながら申請する」と戸惑いを見せている社もある。

 二〇〇六年度の教科書検定で申請したのは、山川出版、東京書籍、三省堂、実教出版、清水書院の五社。うち、実教出版と三省堂は二冊申請した。同検定で文科省は「集団自決」の記述について、「沖縄戦の実態について誤解する恐れのある表現である」と抽象的な検定意見を付けた。教科書会社は文科省の教科書調査官とやりとりし、検定意見の真意を探りながら日本軍の強制を示す記述を削除した。

 ある教科書会社の担当者は「検定意見が撤回されない限り、元通りの記述や詳しく表記することは難しいだろう」とした上で「文科省の動向を見極めながら申請する」と話す。別の社の編集者は「マスコミ報道で渡海文科相が『訂正申請に真摯に対応する』としているが、直接の説明はまったくない。どの記述なら認められるのか情報収集した上で申請するかどうか検討する」と話した。


     ◇     ◇     ◇     

要請団は120人規模/実行委 検定撤回の要望書確認


 「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員会が十一日、県議会で開かれ、十五、十六日の要請行動で、面会を求めている福田康夫首相や渡海紀三朗文部科学相、町村信孝官房長官への要望書を確認した。検定意見撤回と記述回復、審議会の再審議、沖縄戦研究家の参加、情報公開などを求める。十日までに百二十一人が東京での要請行動への参加を決めている。

 要望書は九月二十九日に十一万六千人が参加した県民大会の決議や奈良県、京都府など四府県で検定意見撤回などを求める意見書が可決されていることに基づき、作成した。

 二〇〇八年度から使用される高校歴史教科書で沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を示す記述を削除した文科省など政府に対し、(1)検定意見撤回と記述回復(2)検定結果の中立性、公平性に疑義が生じていることから、速やかな教科用図書検定調査審議会の開催と必要な措置を講じること(3)審議会を公開し、透明、中立、公正性を確保、沖縄戦研究家の参加、情報の公開(4)県民の沖縄戦体験に対する思いへの配慮、是正措置に関する政府談話の公表―などを盛り込んだ。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710111700_01.html

 

2007年10月11日(木) 夕刊 1面

公室長「検討中」と修正/アセス知事意見

 県議会米軍基地関係特別委員会(親川盛一委員長)が十一日午前開かれた。仲井真弘多知事が米軍普天間飛行場代替施設の環境影響評価(アセスメント)方法書に対する知事意見に応じる意向を表明したことについて、県の上原昭知事公室長は「検討中」と軌道修正した。その上で、沖縄防衛局から住民らの意見概要が県に提出された段階で判断する考えを示した。嘉陽宗儀委員(共産)への答弁。

 知事意見について、上原公室長は「アセス手続きにおける知事意見の位置付け等も考慮し、今後の対応を検討しているところ」との見解にとどめた。知事の発言の趣旨について、具体的な説明はなかった。

 仲井真知事は上京中の九日、記者団に知事意見への対応を問われた際、「私は節々に三回くらい意見を言う機会がある。言いますよ、それは」と言明。アセスの方法書、準備書、評価書の各段階で知事意見を提出する考えを明らかにした。

 さらに「地元の意見を聞かなければ賛成しかねる。当然の話だ」と指摘。知事意見の中で名護市が求める滑走路の沖合移動を求める考えを示唆していた。

 県は、防衛省から方法書の提出を受けた際に、「一方的だ」として受け取りを保留している。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710111700_02.html

 

2007年10月11日(木) 夕刊 5面

沖縄市長、司令官に抗議/女性暴行事件

 【沖縄】米軍嘉手納基地内に住む米軍人の息子(21)が沖縄署に強姦致傷の容疑で逮捕された事件で、沖縄市の東門美津子市長は十一日午前、同基地に第一八任務支援群司令官のマックス・カーシュバム大佐を訪ね、「女性として耐えられることではない」などと抗議し、被害女性への謝罪を要求した。

 カーシュバム大佐は「詳細はまだ把握していない」とした上で「被疑者は軍人ではないが米軍の構成員であり、事件の事実関係を確認し、しっかりと対応したい」と話したという。

 面談後、東門市長は「被害者は恐怖を感じただろう。事件は絶対に許されることではない。被害者への謝罪と再発防止の徹底を求めたい」と述べた。

 東門市長は「早めに抗議の意思を示す必要がある」と急きょ、同基地を訪ねた。同日午後には外務省沖縄事務所、沖縄防衛局、在沖米国総領事館にも同様に抗議、要請する予定。

 沖縄署によると、男は今月一日午前、沖縄市内の飲食店で従業員の女性を殴り、性的暴行を加えたという。沖縄署が九日、強姦致傷の疑いで男を逮捕した。男の母親は嘉手納基地に勤務する大尉。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710111700_05.html

 

2007年10月12日(金) 朝刊 1面

文科相、撤回拒否を明言/記述修正は示唆

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題で、沖縄側から検定意見の撤回要求が出ていることについて、渡海紀三朗文部科学相は「検定意見そのものを撤回することにならないのではないか」と述べ、撤回には応じない考えを初めて明言した。十一日午後の衆院予算委員会で赤嶺政賢氏(共産)の質問に答えた。

 文部科学省の金森越哉初等中等教育局長は、検定意見を決めた教科用図書検定調査審議会のメンバーに沖縄戦の専門家がいたのか問われたのに対し、「沖縄戦を専門に研究している委員はいなかったと承知している。(沖縄戦の記述に)委員から特段の異論はなかった」と述べ、文科省の調査官が提出した意見が、そのまま審議会で了承されたことを認めた。

 一方で、金森局長は「審議会委員は古代から現代までの各分野でバランスよく構成され、学術的・専門的な審議が行われた。政治的・行政的意図が入り込む余地はない」との認識を示した。

 また、調査官が審議会に提出する意見書をまとめる前に、専門家の意見を聞く手続きを踏んだかただされたのに対し、金森局長は「意見は出されていない」と回答。

 赤嶺氏は「学術的・専門的と言いながら、県民の検証には耐えられない意見が撤回されないのはおかしい」と批判した。

 渡海文科相は、教科書会社から訂正申請があった場合の対応について「ルールにのっとり、私が再度承認することが可能だが、その際に政治的介入を許さない意味でも再度、審議会に審議していただく」と述べ、審議会の議論で記述修正がされる可能性をあらためて示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710121300_02.html

 

2007年10月12日(金) 朝刊 27面

「絶対に撤回させる」/「自決」体験者怒り

 「要請行動で絶対に撤回させる」「大臣の資質に欠ける」―。検定意見撤回を求める県民の要請に対し、かたくなな姿勢を崩さずに国会答弁をした渡海紀三朗文部科学大臣に対し、十五、十六の両日に上京して検定意見撤回を訴える県民大会実行委員会の関係者や「集団自決(強制集団死)」の研究者や体験者からは怒りの声が上がった。

 県民大会実行委副委員長の玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会長は「審議委員をひな壇のお飾りにした上で審議をせずに教科書調査官の検定意見を通していながら、撤回に応じないのは絶対に許せない」と憤る。「国会の場でもうそを突き通すなら誰が文科相でも変わらない。政府の大うそ、不正を撤回まで追及したい」と要請行動に向け、決意を新たにした。

 同じく副委員長の小渡ハル子県婦人連合会長(78)は、「ばかにするにもほどがある。どうしても納得がいかない」と語気を強めた。小渡会長自身は、新潟県で行われる全国地域婦人団体研究大会に出席し、教科書問題で検定意見撤回を求める決議を提起するため要請行動には参加できない。「全国の会員三百五十万人の総意として決議し、総理や大臣に声を届けるようにする。全国に支援を広げていくことも必要」と多方面から声を上げることの重要性を指摘した。

 座間味島での「集団自決」の体験者、宮城恒彦さん(73)は「ただ『撤回できない』と言われても、納得できる県民は誰もいない。過ちを直すだけなのに、なぜ素直に、元通りにできないのか」と反発。「沖縄を見下しているような、差別的なものを感じる。沖縄戦の専門家を審議員に入れるという話も、沖縄だけの問題に封じ込めようとしているようだ」と怒りをあらわにした。「教科書が元通りになるまで、徹底して戦うしかない」と力強く話した。

 「政治介入はできない」とする渡海文科相の姿勢に対し「沖縄戦の歴史歪曲を許さず、沖縄から平和教育をすすめる会」事務局長の山口剛史琉球大准教授は「歴史の事実判断が間違っているのを指摘することがなぜ政治介入にあたるのか」と批判。「行政の長、監督責任者として審議会の運用の間違いを正すことがまったく理解できないのは資質がない証拠だ」と分析した。


仲里県議長が依頼文を送付

44都道府県議会へ


 高校歴史教科書の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」をめぐる日本軍強制の記述が削除された問題で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員長の仲里利信県議会議長は十一日までに、四十四都道府県議長に対し、政府に検定意見撤回と記述回復を求める意見書可決を求める依頼文を送付した。

 送付先は八日までに意見書を可決した奈良県、京都府を除いた。


「沖縄条項」新設 実行委が要望へ


 「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員会が十一日、県議会で開かれ、十五、十六日の要請行動で、面会を求めている福田康夫首相や渡海紀三朗文部科学相、町村信孝官房長官への要望書を確認した。検定意見撤回と記述回復、審議会の再審議、沖縄戦研究家の参加に加え、沖縄戦に関する記述に配慮する「沖縄条項」の新設などを求める。十一日までに百二十一人が東京での要請行動への参加を決めている。(一部地域既報)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710121300_03.html

 

琉球新報 社説

文科省の介入 検定のやり直しが必要だ

 「やっぱり」というのが、県民の率直な感想だろう。そして「ずさん」な検定に、怒りを感じたであろう。高校歴史教科書検定で、沖縄戦における「集団自決」(強制集団死)の日本軍強制の記述の削除・修正に、文部科学省の教科書調査官が深く介入していた。

 これまで政府は教科用図書検定調査審議会が「文科省の役人も安倍首相も容喙(ようかい)(口出し、干渉)できない仕組みで教科書の検定は行われている」(伊吹文明文科相=当時、現・自民党幹事長)として、審議会の中立性を強調し、「政治不介入」を根拠に県民が求める「検定意見の撤回」を拒んできた。

 しかし、審議会の委員は、文科省の教科書調査官の意見が事実上、集団自決への軍強制記述削除を決めたと証言した。

 杜撰(ずさん)とは「著作で典拠などが不確かで、いいかげんなこと。物事の仕方がぞんざいで、手落ちが多いこと」(広辞苑)を指す言葉だ。

 教育行政トップの大臣発言が、簡単に覆る。事実をよく知らず、その場しのぎで、いいかげんに発言したのであろうか。伊吹発言は、まさに「杜撰な発言」の典型であろう。

 審議会に「沖縄戦の専門家がいない」との証言にも驚いた。「沖縄戦の専門家がいれば(検定結果は)だいぶ違っただろう」という。軍強制の史実の削除は、専門家不在で決定された。これは検定制度の「杜撰さ」を露呈するものだ。

 「審議会は専門的、学術的立場から中立公平に審議するものだ」と渡海紀三朗文科相は10日の衆院予算委員会で答弁している。

 しかし、専門家不在の中で、文科省の調査官が仕切り、意見を左右する。しかも、審議委員が「集団自決をめぐる学術的な大きな変化があったとは思えない」と学術的に「違和感」を感じる中で、「軍強制」記述が削除された。

 専門的、学術的立場、中立公平の審議は、望むべくもない現実がそこにある。渡海答弁も、現状を無視した「杜撰な答弁」と言わざるを得ない。

 検定意見撤回を求めて集まった11万人超の県民の怒りに、文科省は検定過程に沖縄戦研究者を専門委員の立場で参加させる方向で検討を始めるという。専門家不在の「杜撰な審議」への反省と対応だ。

 検定やり直しは当然だが、審議委員が「審議会を全くの第3者機関にすることは難しい」と疑問視する「中立公平さ」の確保、研究成果の反映など「学術的」不備への対応など克服すべき課題は多い。

 これまでの杜撰な検定制度を徹底的にあらため、史実に忠実で正確な教科書作りに向け、真に中立公正で専門性の高い教科書作りの制度の創設を求めたい。

(10/12 9:50)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-28013-storytopic-11.html

 

2007年10月12日(金) 夕刊 1面

知事、撤回拒否に不満 文科相発言

 仲井真弘多知事は十二日午前の定例記者会見で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題について、渡海紀三朗文部科学大臣が検定意見の撤回を拒否し、元通りに記述回復することは難しいとの認識を示していることについて、「大勢の方が集まった県民大会の流れからすると、(表現は)狭いかなという感じがする」と不満感を表明し、県民の納得の得られる記述回復が必要との認識を示した。

 県民大会実行委員会などが十五、十六の両日に予定している東京での要請行動には、公務を理由に同行できないことを明らかにした。

 教科書検定に関する「沖縄条項」の新設については「検定審議会なり専門家の皆さんの中できちっと議論していただくべきものじゃないかという気がする」との見解にとどめた。

 上京中の九日に、米軍普天間飛行場代替施設の環境影響評価(アセスメント)方法書に対する知事意見に応じる意向を記者団に表明したことについて仲井真知事は「仮定の議論として協議が整わない時にどうするのかと聞かれたら、知事意見というのは(提出の機会が)三回ある。その時に言いますよということは言ったかもしれない」と釈明。現段階で決定はしていないとの認識を示した。

 仲井真知事は「(政府に)事前に地元の意見をよく聞いて理解を得て進めてもらいたいと言っている。今もその事前の協議の最中と思っている」と強調。

 その上で、知事意見を提出しない選択肢があるのかについては「論理的には有り得ないことではない」とする一方、「意見がないと反対ではないと扱われるという解釈もあり、そうはいかない。(アセス後に)埋め立て(申請を)を受ける、受けないの中で、意見を言っていないのもおかしい」と指摘。知事意見の提出期限をにらみながら、政府に「沖合移動」や「普天間飛行場の三年をめどにした閉鎖状態」への対応を求めていく考えを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710121700_01.html

 

2007年10月12日(金) 夕刊 1面

教科書検定 2社、訂正申請決定

 【東京】渡海紀三朗文部科学相は十二日午前の閣議後会見で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題について、十一日までに複数の教科書会社から訂正申請の手続きに関する照会が文科省にあり、二社が申請を正式決定したと把握していることを明らかにした。

 こうした動きを受け、文科省は教科用図書検定調査審議会の開催に向けた準備作業を本格化している。渡海文科相は再審議で沖縄戦の専門家を加えることに「どういう人がいるか作業はしている」と述べ、人選に着手していることを説明した。

 また、訂正申請手続きは、教科用図書検定規則十三条一項(誤記、誤植、誤った事実の記載)か、二項(学習を進める上に支障となる記載)に基づいて審議会を開き、判断することを明言した。

 十三条は「検定済み図書の訂正」に関する規定を示しており、文科省が検定意見の撤回や検定規則の見直しをせず、従来の手続きに沿って訂正申請に対応する方針があらためて裏付けられた。

 十五、十六日に県民大会実行委員会などが東京で要請行動し、渡海文科相との面談を要望していることには「(十五、十六日は国会の委員会に)一日中張り付くので、あまりに日が悪いというのが正直な実感だ」と述べ、困難視した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710121700_02.html

 

2007年10月12日(金) 夕刊 7面

平和訴え 講演行脚/北中城村出身・崎浜さん

 【奈良】平和教育の一環として奈良県内の小中高校で「沖縄戦について考える講演会」が定期的に行われている。講師を務めるのは奈良沖縄県人会副会長の崎浜盛喜さん(60)。北中城村出身で奈良教育大学を卒業後、同県に在住、現在は奈良県中小企業連合会奈良事務所の所長を務める傍ら、講演活動を続けている。(関西支社・外間尹敏)

 九日に奈良市内の東大寺学園高校(田中満夫校長)で行われた講演では、二年生二百二十人を前に高校歴史教科書問題を取り上げ、十一万人余が結集した県民大会を報じた沖縄タイムスの紙面を紹介しながら進めた。「沖縄戦では多くの少年少女も動員され犠牲になった」と解説、平和と命の尊さについて語った。

 生徒らは、本土になかなか伝わってこない沖縄の現状に真剣な表情で聞き入っていた。講演後、生徒らは「間違った教育と差別によって捨て石とされた沖縄の人々の悲しみ、怒りが伝わってきた」と感想を述べていた。

 崎浜さんは二十年ほど前から、奈良県内の小中高校で修学旅行の事前学習として「人権」「平和」をテーマに講演を続けており、講演した学校は百校を超えている。

 この日の講演でも、沖縄戦の実相や沖縄の心を伝えると同時に「自分の命を大切に、光り輝く人生にしてほしい」と語った。取り組みを振り返って崎浜さんは「いま、学校ではいじめや自殺など命にかかわる問題に直面している。こうした子供たちに『命どぅ宝』『イチャリバチョーデー』『沖縄の心』を理解してもらい、自らの人生を輝くものにしてほしい」と期待した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710121700_03.html

 

2007年10月13日(土) 朝刊 1面

全6社、訂正申請検討

検定意見付かずも

 文部科学省の高校歴史教科書検定で沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」から、日本軍強制の記述が削除された問題で、検定意見が付かなかった第一学習社も文科省に記述訂正の申請を検討していることが十二日、分かった。二〇〇六年度検定を受けた六社すべてが訂正申請を検討していることになる。同社の教科書は、県内の十八校で〇八年度から使用される予定。

 第一学習社の「高校日本史A」では「沖縄戦では、一般住民を含む県民十二万人が犠牲となった(「沖縄県援護課資料」)。この中には、集団自決のほか、スパイ容疑や、作戦の妨げになるなどの理由で日本軍によって殺された人もいた」と記述されている。検定意見は付かず、申請通りの記述が認められている。

 訂正申請はこれまで東京書籍と実教出版が訂正申請をすることを決めている。山川出版、三省堂、清水書院は十六日に県民大会実行委員会の要請行動を受け、申請に向けた検討を進める方針を示している。

 しかし、渡海紀三朗文部科学相は「沖縄戦の実態について誤解する恐れのある表現である」とする検定意見の撤回を否定。さらに記述を「元通りにするのは難しい」と発言していることから、各社の記述がどの程度認められるかは不透明な状況だ。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710131300_01.html

 

2007年10月13日(土) 朝刊 31面

子どもの訴え手紙で/国あて送付へ

 子どもたちの声を届けよう―。沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」から日本軍強制の記述を削除した高校歴史教科書の検定問題で、県子ども会育成連絡協議会(沖子連)は十二日、福田康夫首相や渡海紀三朗文科相、町村信孝官房長官に対し「検定意見を撤回して」「真実を知りたい」などの中高校生の訴えをつづったはがきを送る運動を展開することを決めた。

 実際に教科書を使用する子どもたちの思いを政府に届けるのが狙いで、「文科相、総理大臣、官房長官あてにはがき、手紙を送ろう運動」と銘打ち、沖子連に加盟する二十七市町村の子ども会で活動する千人余りの中高校生のジュニアリーダーに呼び掛ける。十五日付で依頼文を送付する。

 南風原町や那覇市などのジュニアリーダーは九月二十九日の県民大会で糸満市摩文仁から平和への思いをつなぐ「平和の火リレー」にも参加した。

 「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委副委員長を務める玉寄哲永沖子連会長は「六十二年前に起きた事実を改ざんする政府や文科省は許せない。実際に教科書を使う子どもたちの怒りの声を届けたい」と話した。

 同様の取り組みは、一九九五年の米兵暴行事件の時にも実施したという。


「行動やめぬ」意欲増す生徒


 【名護】高校生の立場から、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に関する教科書問題について考えようと十二日、名護市の北部農林高校で「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の参加報告会が開かれた。

 生徒らは一人一人が、真実を学び続け伝えていくことの大切さを確認するとともに、検定意見の撤回を求め、「真実を守り伝えていくために、真実を見つめる確かな目と真実を受け止める心を持ち、考え発言し行動します」とする宣言文を採択した。

 同校では、生徒会の呼び掛けで数十人の生徒が県民大会に参加。自主的な取り組みを次につなげようと、同校教諭と生徒たちの有志が企画。県民大会前後までの県内二紙や全国紙を展示し、参加報告会も開いた。会には、校内外から約六十人が参加した。

 家族で県民大会に参加したという桑江祥香さん(三年)は「私は祖母らから戦争体験を聞くことができるが、子や孫の時代には体験者がいなくなる。このままでは、真実が伝えられなくなってしまう」として、検定意見撤回が必要だと訴えた。

 大会当日は、高知県に滞在していたという北山高校の崎原裕子さん(三年)と山城志帆さん(同)は「本土のニュースでは、県民大会についてほとんど触れられていなかった。県内と本土の温度差を感じた。沖縄だけでなく、日本全体の問題として考えられるようにしないといけない」と、全国への広がりを期待した。

 生徒会長の島袋奈津子さん(三年)は「教科書は正しいと思って使っているが、後輩たちや子どもたちが真実をねじ曲げられた教科書を使うことに不安を感じる。一人一人が考えることをやめずに学んでいくことが必要だ。この問題で高校生も沖縄戦などに関心を持つようになったが、関心の薄い生徒にも伝えていくことが大事だと思う」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710131300_02.html

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