「沖合移動も念頭」普天間協で官房長官  岩国市 推進派市長当選など 沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(2月8日から11日)

2008年2月8日(金) 朝刊 1・2面

「沖合移動も念頭」/普天間協で官房長官

4月前後 次回開催

 【東京】米軍普天間飛行場の移設に関する政府と地元の協議会の第六回会合が七日夕、首相官邸で開かれた。県などが求めている代替施設滑走路の沖合移動について町村信孝官房長官は「今後、環境影響評価(アセスメント)手続きを進めていく中で、地元から話のあった沖合ということも念頭に置き、建設計画の問題などについても協議する」と明言した。政府側が協議会で「沖合移動」をテーマとする意向を表明したのは初めて。次回協議会の開催時期について町村長官は「年度が替わる前後」と述べ、四月前後との見通しを示した。

 町村長官はさらに「できるだけ早い時期に決着させるよう最大限努力する必要がある」と強調。沖合移動などの実現によって普天間問題の早期解決に意欲を示した。

 協議会後の記者会見で仲井真弘多知事は「(沖合移動を)それなりに取り上げていただき始めているのではないかと受け取っている」と歓迎。「官房長官の発言などを踏まえ、動くのではないかと期待もしている」と期待感も示した。

 協議会で知事は、沖縄防衛局が知事意見を受け、五日に方法書の追加修正資料を県に提出したことについて「防衛省が速やかに対応したことは評価している」と言及。アセス調査の許認可については「知事意見への対応を踏まえ、法に基づき適切に判断する」との見解にとどめたが、協議会後の会見で「審査会が検討できる内容が整っていれば前へ進んでいく」と前向きに対応する姿勢を示した。


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[ニュース断面]

県、歓迎も冷静な見方/政府関心はアセス前進


 首相官邸で七日夕に開かれた第六回普天間移設協議会で、県は環境影響評価(アセスメント)方法書の追加資料を提出した防衛省の姿勢を初めて「評価」し、アセス調査開始に向けた道筋がついた。これを受け、町村信孝官房長官は代替施設案(V字案)の沖合移動を協議会で議題にする考えを明言。想定していなかった「アドリブ発言」で、関係省庁に衝撃が走った。仲井真弘多知事は歓迎する一方、冷静に受け止める県幹部も。日米外交筋は「官邸の独断だ」と落胆を隠さなかった。

 「大変雰囲気がいい」

 協議会の冒頭、協議会を主宰する町村官房長官がこう切り出すと、テーブルの真向かいに座る仲井真知事は満面の笑みを浮かべた。普天間移設をめぐる強硬路線で、地元との対立を繰り返してきた守屋武昌前事務次官の側近が一月人事で一掃された今、政府と地元が“蜜月”であることを印象付けた。


お土産


 政府部内で事前に配られていた発言要領では、「地元の要望を念頭に置いて、できるだけ早い時期に決着を図りたい」と書かれていた。それを町村氏は「沖合へ、という話もあるので、しっかり念頭において…」と、とっさに言い換えた。

 ある政府関係者は「県の『評価』のコメントに対する官房長官からのお土産だ」とみる。

 しかし、日米合意案の実行を促す米側の内情を知る日米外交筋は、「米側はジュゴン訴訟の対応にも追われており、とてもそれどころじゃない」と困惑気味だ。

 一方、これまで、日米合意案に固執してきた防衛省だが、従来の厳しい姿勢は影を潜め、ある幹部は「官房長官の政治的なお考えがあるんでしょう」と淡々と語った。

 石破茂防衛相は協議会後、「『(追加資料を提出した)防衛省の対応を評価する』との発言をいただいた。前向きな姿勢を感じた」と歓迎。防衛省の関心はむしろ目の前のアセス手続きに向いている。


予想外


 町村官房長官が「沖合を念頭に」と言及したことに、県内部では「予想外」と驚きが広がった。

 これまでの事務レベルの調整で、防衛省は沖合移動について「米側との交渉を含め、議論できる状況にはない」と一貫して否定的な見解を繰り返してきた。

 それだけに県内部では「これまで地元が求めている事実関係さえ述べてこなかったのがひどかっただけ」「積極的に対応するという趣旨までは踏み込んでいない」(県幹部)と冷静な見方もある。

 ただ、「沖合移動」が次回以降の協議会のテーマとして浮上したことは、一様に「意義深い」と前向きな受け止めだ。

 知事は協議会で「このまま環境影響評価手続きが進んでも、地元の意向が反映されない場合には、やむを得ず、対応を考えざるを得なくなる」とくぎを刺した。

 知事は協議会後の会見でも、県が求めている「代替施設滑走路の沖合移動」や「普天間飛行場の三年めどの閉鎖状態」については「まだゼロ回答」と指摘。「アセス上は動いてもわれわれは納得していない」と今後の政府の対応を促した。(東京支社・島袋晋作、政経部・渡辺豪)


協議会概要


 七日に首相官邸で開かれた、米軍普天間飛行場の移設に関する政府と地元の第六回協議会の主なやりとりは次の通り。

【環境影響評価】

 石破茂防衛相 仲井真弘多知事から一月二十一日、環境影響評価(アセス)方法書の書き直しを求める知事意見をいただいた。真摯に受け止め、事業内容や調査手法を取りまとめて一昨日(五日)、県に報告した。引き続き、知事意見を踏まえた対応を取る。

 仲井真弘多知事 防衛省から追加説明の報告を受け、現在調整を行っている。方法書の内容は不十分だったが、防衛省が知事意見を踏まえて速やかに追加説明の対応をしたことは評価している。アセス調査の許認可は防衛省の対応を踏まえ、法令に基づき適切に判断する。

 島袋吉和名護市長 普天間飛行場代替施設の位置は、可能な限り沖合に移動する必要がある。施設の位置、規模は協議会で十分協議してほしい。

【その他】

 仲井真知事 代替施設は可能な限り沖合へ移動してほしい。現在の普天間飛行場の危険性を早期に除去し、三年目途の閉鎖状態の実現に向け、前向きかつ確実に取り組んでほしい。

 島袋市長 名護市は普天間飛行場の危険の解消に向けて理解と協力の下、移設に取り組んでいる。再編交付金の対象になると認識しており、措置を講じる必要がある。

 東肇宜野座村長 再編交付金は基本合意により措置を講じるものと認識している。早期に配慮してほしい。

 石破防衛相 現在の政府案(V字形滑走路案)は生活環境、自然環境、実行可能性を考慮し、地元の要請を踏まえて最も適切な形として米側と合意した。今後アセス手続きを進める中で客観的なデータを収集、評価した上で誠意を持って対応したい。再編交付金の指定については、これまでの他の市町村の実例も踏まえ検討する。

 岸田文雄沖縄担当相 普天間移設に伴う課題解決のため関係者が意見交換の場を重ね、検討、調整しなければいけない。

 町村信孝官房長官 アセス手続きを進める中で、建設計画も協議したい。沖合へという話もかねてあるので、こうしたこともしっかり念頭に置いて、できるだけ早い時期に決着が図られるよう最大限の努力をしたい。次回開催は年度が替わる前後かなと思っている。


知事会見要旨


 【東京】米軍普天間飛行場の移設に関する政府と地元の協議会後、仲井真弘多知事は都内の県東京事務所で会見した。要旨は以下の通り。

 ―地元の意向が反映されない場合の対応とは。

 知事 私は三年をめどに(現在の)普天間飛行場の閉鎖や、(代替施設の)可能な限りの沖合移動を求めている。それへはまだゼロ回答。私がごねているのではなく、知事選の時から申し上げている。環境アセス上は動いてもわれわれは納得していない。

 ―公有水面埋め立てを許可しないこともあるのか。

 知事 はっきり言えないが、われわれは誠心誠意対応している。環境アセスだけ進めても飛行場は建設できない。(許可しないことも)頭に置きつつです。

 ―どの段階まで政府の譲歩を待つのか。

 知事 協議会でフランクにお互いの意見交換ができるようになった。われわれの意見を踏まえた調整ができるだろうと期待している。

 ―今日の協議会の意義は。

 知事 お互いに自由に、実質的な意見交換ができるようになった。以前の大臣や事務次官はその雰囲気がなかった。(今日から)実質的協議に入れる。

 ―滑走路の沖合移設について官房長官が「念頭に」と発言したことへの受け止めは。

 知事 踏み込んだという感触。それなりに取り上げ始めたと受け止めている。「動くのでは」と期待している。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802081300_01.html

 

2008年2月8日(金) 朝刊 1面

名護市に再編交付金支給へ/アセス受け入れで

 政府は七日、米軍再編への協力の見返りに関係自治体に支払う再編交付金をめぐり、米軍普天間飛行場の移設先である名護市への支給凍結を解除する方向で調整に入った。複数の政府関係者が明らかにした。

 普天間飛行場の代替施設は名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に建設する方針だが、同市が建設予定地をさらに沖合に移動するよう求めているため、支給を見送ってきた。しかし「強硬に構えるだけでは、移設問題の進展はない」と判断、名護市が環境影響評価(アセスメント)実施を受け入れることを条件に支給を前向きに検討する。交付により、建設地問題での名護市の軟化を促す狙いもありそうだ。

 政府は名護市をはじめ再編計画を受け入れない山口県岩国市や神奈川県座間市も支給対象から外してきたが、前防衛事務次官の守屋武昌被告(収賄罪で起訴)が主導した「アメとムチ」を使い分ける路線の軌道修正を図った形だ。

 米空母艦載機の岩国基地移転の是非を争点にした岩国市の出直し市長選(十日投開票)にも影響を与える可能性がある。

 政府高官は「名護市は移設そのものは受け入れている」と指摘。防衛省筋も「名護への支給を検討している」と認めた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802081300_02.html

 

2008年2月8日(金) 朝刊 1面 

ハンセン7割 共同使用/日米合意

 【東京】在日米軍再編で日米合意した陸上自衛隊第一混成団(那覇市)の米軍キャンプ・ハンセン共同使用に関し、日米両政府は七日の合同委員会で共同使用エリアについて合意した。ハンセンの約七割を占める約三千六百二十三万平方メートルが対象。

 ヘリなどの飛行も想定し、ハンセン上空の高度二千フィートまでのすべての空域の共同使用も確認した。

 これを受け、陸上自衛隊と在沖米海兵隊は具体的な訓練計画を作成し、三月までに訓練を開始する予定だ。

 防衛省によると、空域の共同使用は、山火事が発生した場合の消火活動時のヘリの飛行を想定。救難活動時のヘリ飛行についても「将来的に検討する」とする一方、訓練のための飛行については「現段階で想定していない」としている。

 陸地の共同使用エリアは、環境への影響を懸念する地元の要望を受け、水源涵養林やダム湖を避けて設定。金武町伊芸区に近いレンジ3、4も除外した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802081300_03.html

 

2008年2月8日(金) 朝刊 30面

高江ヘリパッド/建設反対署名2万2000人

 【東京】米軍北部訓練場の一部返還に伴う東村高江区周辺へのヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)移設に反対する「ヘリパッドいらない住民の会」の安次嶺現達共同代表や、「なはブロッコリー」の本永貴子代表らは七日午後、参院議員会館で院内集会を開き、建設計画の撤回を訴えた。ヘリパッド建設の即時中止を求める二万二千人分の署名が集まったことを報告し、県関係三人を含む野党国会議員に手渡した。

 集会には約六十人が参加。「やんばるの森に基地はいらない」と訴える住民の声に耳を傾けた。

 三年前に高江に移住して農業を営む住民の会の森岡浩二さんは「年間に五十日以上、座り込みに参加している。農業との両立で子どもの顔を見るのもままならないが、やんばるの自然を守るため続けるしかない」と過酷な現状を報告。同会メンバーで名護市に住む比嘉真人さんは「五月に高江に引っ越そうと思うが、これから生活する場所に人殺しの基地を造るのは議論の余地なく反対だ」と批判した。

 県関係国会議員の照屋寛徳(社民)、赤嶺政賢(共産)、山内徳信(社民)の各氏もあいさつし、建設計画の撤回ややんばるの希少生物保護を訴えた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802081300_08.html

 

2008年2月8日(金) 朝刊 2面

海軍病院関連施設/ヘリパッド建設で日米合意

 【東京】日米両政府は七日の合同委員会で、米軍キャンプ桑江の全面返還に伴いキャンプ瑞慶覧に移設される沖縄海軍病院の関連施設として、患者を輸送するためのヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)と、電力を同病院などに分岐させるための施設(開閉所)を建設することで合意した。

 ヘリパッドは海軍病院移設先のキャンプ瑞慶覧南側(宜野湾市)に、開閉所は同基地の北東側(北中城村)に造る。

 防衛省によると、ヘリパッドは三十メートル四方で約九百平方メートルの規模。開閉所は一棟で約百七十五平方メートル。ともに本年度中に入札手続きを終え、次年度に着工する見通し。

 海軍病院をめぐって日米は、二〇〇五年一月の合同委員会でキャンプ瑞慶覧への移設で合意。〇六年十二月には本体工事の着工で合意していた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802081300_09.html

 

2008年2月8日(金) 夕刊 1面

町村氏、支給前向き/米軍再編交付金

 【東京】町村信孝官房長官は八日午前の定例記者会見で、名護市と宜野座村への米軍再編交付金の支給に前向きな考えを初めて示唆した。

 町村長官は「米軍普天間飛行場の早期移設を実現するという大きな目的に照らし、それと直接リンクしているわけではないが北部振興策とか米軍再編交付金というものがある」と関連性を指摘。

 その上で「全体としてそれらがうまく進むことが、(米軍の)抑止力を維持しながら沖縄などの負担軽減につながる。うまく進んだらいいなあという思いは持っている」と述べ、北部振興事業費や再編交付金の支給をてこに、普天間移設の実現を図る考えを示唆した。

 米軍再編交付金は(1)受け入れ(10%)(2)環境影響評価(アセスメント)調査の着手(25%)(3)工事(埋め立てなど主要部分)の着工(66・7%)(4)再編の実施(100%)の段階に応じて支払われる。

 普天間移設で政府は、二月中にもアセス調査に着手する意向。この場合は(2)の条件を満たすことになるため、調査受け入れを条件に名護市、宜野座村に交付金を支給することを検討している。


石破氏「大幅変更ない」

普天間代替


 【東京】町村信孝官房長官が七日の「普天間移設協議会」で、米軍普天間飛行場代替施設案(V字案)の沖合移動を念頭に協議を進めていく考えを明言したことについて、石破茂防衛相は八日午前の閣議後会見で、「政府として大幅に方針を変えたかといえば、そうではない」と述べ、日米合意したV字案が「最適の案」との立場をあらためて示した。

 石破防衛相は「それ(沖合移動)はいつも念頭に置いている。政府のスタンスと地元の強い要望を念頭に置くことは矛盾するものではない」と説明した。

 一方、同協議会で名護市と宜野座村が求めた再編交付金の交付については「今の時点でその方向を決めたということではない。(普天間移設に向けた)理解と協力をいただいていると判断できる状況が必要だ」と述べ、地元の前向きな対応を求めた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802081700_01.html

 

2008年2月9日(土) 朝刊 1・2面

「普天間」代替交付金/名護・宜野座最大300億円

全国最高額/計画遅れで減額

 【東京】米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への移設で、計画が予定通りに進んだ場合に名護市と宜野座村に支払われる再編交付金の総額が十三年間にわたって計約三百億円に上ることが八日、関係者の話で分かった。再編交付金の支給候補自治体の中では全国最大の額。政府は、近く始まる見通しの代替施設建設に向けた環境影響評価(アセスメント)調査を踏まえ、両自治体に対する交付金支給の凍結解除を目指して調整を進める。(島袋晋作)

 「米軍再編推進法」は再編事業の進ちょく率を(1)受け入れ(10%)(2)環境影響評価の調査着手(25%)(3)工事(埋め立てなど主要部分)の着工(66・7%)(4)再編の実施(100%)―の四段階に分類。

 日米両政府は普天間飛行場代替施設について、二〇一四年までの完成を目標とすることで合意。予定通り計画が進めば、完成五年後の一九年度まで交付金が支払われるが、計画が遅れると、その分、交付額は減少する仕組みだ。

 進ちょく率の四段階目に相当する代替施設完成で支払われる再編交付金の上限額(100%分)は単年度で約四十億円に上る見込み。名護市と宜野座村の配分率は代替施設が占める面積などで案分されるが、おおむね五対一となる計算だ。

 政府はこれまで、名護市などが日米合意した代替施設案(V字案)を沖合に移動するよう求めていることを「再編に反対している」とみなし、支給を凍結してきた。

 しかし、七日の「普天間移設協議会」で第二段階に該当するアセス調査の開始に向け道筋が付いたことや、協議が「円滑」に進んでいる状況から、凍結解除に方針を転換した。

 ただ、支給するためには、従来のスタンスや他の対象自治体への対応、「米軍再編推進法」の趣旨などと整合性を図る必要があり、課題は山積している。

 「普天間移設協議会」の次回会合までに方向性を示すとみられるが、調整が難航する可能性もある。


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要件満たすアセス調査/凍結の根拠薄れる


 政府が名護市、宜野座村への再編交付金の支給を検討しているのは、米軍普天間飛行場移設に向けて近く始まる環境影響評価(アセスメント)調査が交付要件を一部満たすことになり、凍結の根拠が薄れてくるからだ。しかし政府内には「振興策を継続しても、いまだに移設は実現していない」と交付への慎重論が根強くある。政府の対応がこれまでとは正反対となり、従来のスタンスとの整合性を図る上でも課題は山積している。

 防衛省は昨年十一月、再編の受け入れ自治体に本年度分の再編交付金を内示したが、両自治体は「再編に反対している」と見なされ、対象から外されていた。

 これに対し二橋正弘官房副長官らが、両自治体を交付対象とするよう防衛省に強く働き掛けたが固辞され、本年度分の交付は絶望視されていた。

 しかし、アセス調査が始まろうとしている現在、第一段階の「受け入れ」は満たしていないものの、第二段階の「アセス調査着手」には該当するという「ねじれ」が顕在化。町村信孝官房長官が沖合移動に柔軟姿勢を示している以上、「沖合移動要求」が必ずしも「反対」と位置付けられなくなっている実情もある。

 こうした状況を踏まえ、政府高官は「(反対していない)名護と、(反対している)岩国を一緒にしていいものか」と、両自治体の姿勢は異なるとの見方を強調した。

 別の関係者は「再編の円滑かつ確実な実施に資する」場合に交付対象とする仕組みに着目し、「方法書の追加資料の閲覧場所を提供するなど、地元は再編に協力しており、交付要件を満たしつつある」と指摘。本年度分として「受け入れ」に該当する10%分が、来年度は「アセス調査開始」の25%分が確保できるとの見方を示した。

 ただ、再編交付金を所管する防衛省では「これまでと方針を百八十度転換するもので、新たな理屈がないと簡単に対応できない」(幹部)と戸惑いの声が上がる。

 別の幹部は「『容認していない』という点では名護も岩国も同じ。ダブルスタンダード(二重基準)との批判を浴びれば、制度そのものが崩壊しかねない」と懸念する。

 財務省など他省庁の見方も厳しい。一九九六年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告で合意した辺野古沖案を進める際、政府は年間百億の北部振興事業費を投入。二〇〇〇年から〇六年までは名護市に総額約四十七億六千万円のSACO交付金が支払われた。

 しかし、合意から約十二年を経ても移設が実現していない経緯から、政府関係者は「移設が確実になる担保はあるのか。カネを落として、移設が実現しなかったら、誰が責任を取るのか」と交付に異議を唱えた。(東京支社・島袋晋作)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802091300_01.html

 

2008年2月9日(土) 朝刊 1面

アセス追加資料 2回以上の審査必要/県審査会

 県環境影響評価審査会(会長・津嘉山正光琉大名誉教授)が八日、宜野湾市内で開かれ、米軍普天間飛行場の移設に伴う環境影響評価(アセスメント)方法書の追加修正資料について、初の審査が行われた。審査終了後に津嘉山会長は同資料について「検討すべき点は残っている」とし、今後少なくとも二回以上審査する必要があるとの認識を示した。県は審査会の結論を踏まえた上で、沖縄防衛局のアセス調査の許認可に応じる手続きを想定しており、審査の行方によっては防衛局が予定する二月中のアセス実施は困難になる可能性も出てきた。

 二月中にアセスが実施されなければ調査完了は来年以降になり、代替施設の二〇一四年完成を目指す防衛局のスケジュールがずれ込むのは必至。

 審査会の事務局を務める県環境政策課は当初、次回審査会で意見集約を想定していたが、委員からは「本来、審査とアセス調査の許認可は別で考えるべきだ」「資料の公表閲覧期間終了(十八日)以降に、市民の意見を反映させる作業が必要」などとして審査継続を望む声が上がった。

 これを受けて、次回審査会で市民の意見を反映させる方法について議論し、三回目の審査会開催につなげることがほぼ確定した。

 今回の審査会では、沖縄防衛局が資料の概要を説明。資料に記載されたのは、知事意見の二百九十九件の指摘に対し、百九十三件にとどまった。知事意見で要求したアセス調査の複数年実施は、具体的な期間について触れなかった。

 また、審査会の答申で求めた現況調査の中止についても、防衛局は「環境に配慮して事業者として自主的に実施している」とし、中止する意向がないことを示した。

 津嘉山会長は「資料の内容に関する議論はまだまだだ。委員のそれぞれの専門についてもっと詳しく意見を述べる必要がある」と述べ、今後慎重な審査の必要性を語った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802091300_02.html

 

琉球新報 社説

普天間移設協 沖合修正が解決策ではない

 町村信孝官房長官は7日開催された普天間移設措置協議会で、代替施設建設政府案の沖合修正に前向きな発言をした。これを受けた仲井真弘多知事は「(修正の方向で)動くのではないか」と期待感を示した。対立状態にあった県と国の関係改善で普天間問題は1つの節目を迎えた。しかしちょっと待ってほしい。普天間飛行場移設問題は、沖合修正が真の焦点ではないはずだ。

 普天間問題の原点は、住民への危険の除去だ。沖縄国際大学ヘリ墜

落事故を忘れてしまっては困る。住宅密集地への墜落は、多大な犠牲が出てもおかしくない状況だった。普天間移設はこの事故を起点に考えなければならないはずだ。

 移設によって「危険の除去」という最大の問題は解決するのであろうか。否である。移設される辺野古地区などの住宅上空を米軍機がまったく飛ばないというならまだしも、防衛省の防衛政策局長は昨年10月の衆院安全保障委員会で「訓練の形態によっては(住宅の上を)飛ぶことはあり得る。当然の前提だ」と述べた。それまで政府は、緊急時の飛行可能性について触れていたが、訓練時もとなると、住宅上空飛行の頻度は高くなるだろう。

 さらに次期主力兵員輸送機MV22垂直離着陸機オスプレイが配備されることが確実視されている。同機は試験飛行の段階で4回も墜落し、30人が死亡している。

 移転された辺野古周辺住民は、普天間以上の危険を背負うことになるのは明らかである。

 普天間周辺の危険はなくなるが、その代わり辺野古周辺の住民に対して危険が高まる。つまり、危険の除去ではなく、「たらい回し」でしかない。このことをしっかり認識しておきたい。

 政府の態度も無責任としか思えない。オスプレイ配備、住宅上空飛行などについて明確、詳細な説明をしていない。危険除去が目的なら、移設地住民の安全が確実に保障されるための対応をするべきである。政府の態度には日米安保条約、米軍基地最優先という姿勢が露骨ににじみ出ている。

 昨年5月実施された県民世論調査で、辺野古移設計画を進めるべきだと答えたのは17%。これに対し「国外移設」「県外移設」「無条件撤去」を合わせ76%もの人が県内移設以外を望んでいる。

 危険除去という原点に立てば、普天間飛行場の県内移設には無理がある。県民もそのことを認識している。県外に移設してこそ、本県の基地負担軽減にもつながる。

 もう1度指摘するが、沖合修正が解決策のすべてではない。大方の県民の願いは、危険な普天間飛行場は直ちに閉鎖し、次の段階として人に危険の及ばない県外移設の方策を探ることにある。

(2/9 12:22)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-31229-storytopic-11.html

 

2008年2月10日(日) 朝刊 2面

宜野湾市が基地返還基金

 【宜野湾】宜野湾市(伊波洋一市長)は二十八日開会予定の市議会三月定例会に、米軍普天間飛行場の返還に向けた「基金条例案」を提案する。市民や県民から広く寄付金を募って基金を積み立て、訪米費や米国での訴訟に向けた調査費など、同飛行場返還に向けた活動資金に充てる。募金は銀行振り込みや現金での持ち込みなどを想定している。

 市によると、全国にはまちづくりで同様な基金条例はあるが、基地問題での条例は聞いたことがないという。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802101300_05.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年2月10日朝刊)

[「沖合移動」論議]

県民への説明が必要だ


思惑秘め飛び交う発言


 米軍普天間飛行場の代替施設建設をめぐる最近の関係者の発言を追っていくと、どうしても住民不在の印象がぬぐえない。さまざまな思惑を胸に秘めながら、お互いの主張を投げあい、妥協点を模索しているようなのだが、水面下の交渉実態がよく見えないのだ。

 町村信孝官房長官は、七日の第六回普天間移設協議会で、今後、日米合意案(V字案)の沖合移動も念頭に置いて協議していくことを初めて明らかにした。

 沖合移動をめぐっては最近、ケビン・メア在沖米総領事と仲井真弘多知事がさや当てを演じたばかりである。

 メア総領事は一月三十日の定例会見で「沖合に滑走路を出せば埋め立て面積も増えるので、環境への影響が少なくなるとは常識的には考えられない」と沖合移動を求める県をけん制し、日米合意案の実行を求めた。

 これに対し仲井真知事は二月一日、「地元の意見を尊重してもらいたいと日本政府に求めている最中に、どうして(総領事が)県民に言う権限があるのか。沖縄と米国の関係をむちゃくちゃにしかねないと危惧の念を強くしている」とメア発言に反論。異例の強い調子で不快感を表明した。

 一方、沖縄防衛局の真部朗局長は一日、着任会見の席で、日米合意案が「ベスト」との認識を示した上で、「変更するということであれば合理的な理由が必要」だと、防衛省の従来の姿勢を繰り返した。

 行政の上のほうが、何やらしきりに空中戦を展開しているような、そんな印象だ。

 だが、肝心な点が伝わってこない。県はなぜ、沖合移動にこだわるのか。選挙公約だからというのでは説明にならない。環境保全との関連で、もっと言葉を尽くして県民に説明する必要がある。

 政府はなぜ、その都度「これがベスト」だと言いながら代替施設案を一九九六年以来、二転三転させてきたのか。合理的な理由があれば変更も可能だというが、合理的理由とは何か。

 正直言って今のような、住民への情報開示が不十分な交渉スタイルには危惧の念を抱かざるを得ない。


亀裂修復の動きが加速


 二〇〇五年秋の日米交渉では、キャンプ・シュワブの「沿岸案」を主張する防衛庁(当時)と、リーフ内を埋め立てる「浅瀬案」を主張する米側が対立した。「ジュゴンなど貴重な自然環境の保護」を表向きの理由にしたのは防衛庁である。米側が推す「沿岸案」には地元業者の強い後押しがあるといわれた。

 結局、防衛庁案で日米が合意することになったが、県は終始、蚊帳の外に置かれた。日米交渉をリードしたのは守屋武昌前防衛事務次官である。

 守屋方式は(1)いちいち沖縄地元の意見は聞かない(2)沖縄地元に「食い逃げ」はさせない(3)そのために米軍再編交付金制度を設ける、というものだった。一言で言えば、強硬路線だ。

 「地元の頭越しに進めることはない」と主張し続けてきた橋本龍太郎元首相(故)の協調路線からの、大きな転換である。

 現在、進行している事態は、守屋方式によって生じた地元との亀裂の修復作業だといえよう。実際、仲井真知事は、町村官房長官の発言を引き出し、前進への手応えを感じたという。

 守屋時代と比べ、政府と沖縄の関係は変わった。最近の防衛省人事も、関係修復へのシグナルだと受け取られている。

 事態は政府と県の妥協へ向けて、確実に動きつつあるように見える。


問題多いアセス方法書


 沖縄防衛局は、アセス方法書に対する知事意見を受けて五日、事業内容や調査手法を追加修正した資料を県に提出した。

 事実上の「書き直し」である。

 追加資料によって、集落上空の飛行が明らかになったほか、大型護岸や燃料貯蔵施設の能力なども判明した。

 沖縄防衛局と県は追加修正資料をホームページで公表したほか、県内五カ所で閲覧できるようにした。そうであれば、住民の意見を求め、アセスに反映させるべきだ。追加資料の閲覧は法律に基づく「公告縦覧ではない」という防衛局の見解は納得できない。

 ジュゴンの「複数年調査」を実施するのかどうかなど、方法書にはまだまだ問題がある。

 工期を気にするあまり、環境保全への対応が不十分であってはならない。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080210.html#no_1

 

2008年2月11日(月) 朝刊 23面

名護市長「影響なし」/岩国市長に福田氏

 【名護・宜野湾】山口県岩国市長選で十日、米空母艦載機移転に賛成の福田良彦氏の当選が決まったことは、同様に在日米軍再編問題を抱える名護市や神奈川県座間市の関係者に波紋を広げた。米軍普天間飛行場移設予定地の名護市の移設容認派からは「普天間も進むのでは」と歓迎する声が上がった。一方、反対派は「政府につぶされた」と残念がった。

 普天間飛行場の移設先、辺野古区の有志らでつくる代替施設推進協議会の宮城安秀代表は「選ばれた市長には国防の観点から在日米軍再編に協力してほしい。それぞれの地域で再編作業が進めば普天間や嘉手納以南の基地返還など沖縄の再編も進んでいくのではないか」と期待を込めた。

 政府案より滑走路位置を沖合に移動するよう求めている島袋吉和名護市長は「われわれは国と移設受け入れの基本合意を交わしている。(岩国市とは)立場が根本的に違い、影響はない」と強調。

 市幹部や保守系市議も「交付金目当てに名護市が沖合移動という要求を引っ込めることはない」と口をそろえた。

 一方、移設反対派の二見以北十区の会の浦島悦子共同代表は艦載機の移転に反対していた井原勝介氏落選の報に「負けたの」と声を落とした。「井原さんが勝てば政府に相当な痛手になったはず。全力でつぶしにかかったと思う。井原さんに投票した岩国の人たちも子や孫のことを考えてこれから頑張ると思う。私たちも普天間の移設阻止に向けてあきらめずに頑張るしかない」と運動の継続を誓った。

 住民投票でも岩国に出向き井原氏を支援したヘリ基地反対協議会の大西照雄代表委員は、先月にも二日間、岩国入りし、再編反対を訴えた。「福田氏は基地移設とは別の税金問題などを訴えて争点をずらしていた。厳しい選挙だなと感じていた」と残念がった。

 宜野湾市の伊波洋一市長は「(米空母艦載機移転による)将来の目に見えない負担より、目の前の補助金に市民の関心が向いたのだろう。残念だ。米軍再編で自治体の声を補助金で曲げさせる、あしき前例にならないか心配だ」とコメント。「すべての市民が受け入れを容認したとは思えないが、今後は市民の選択が試される」と話した。

 キャンプ座間への米陸軍第一軍団の新司令部移転に反対する座間市の星野勝司市長は「他の市長選の結果で座間市の基本姿勢は何も変わらない」と静観の構え。

 だが米陸軍は昨年末、地元自治体の反対を押し切り新司令部を発足させるなど計画を着々と進めている。

 一部の市民からは国との条件闘争を求める意見も。

 市民団体「キャンプ座間への米陸軍第一軍団の移駐を歓迎しない会」の金子豊貴男事務局長は「反対運動はこれからで、一喜一憂せずに問題に取り組んでいくことが大事だ」と主張している。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802111300_02.html

 

2008年2月11日(月) 朝刊 23面

「墜落か」住民騒然/嘉手納基地 航空機消火訓練

 【嘉手納】米軍嘉手納基地内で十日午後、航空機火災を想定した消火訓練が行われた。訓練用の機体が燃え、基地内の消防隊員が放水する様子が確認された。事前の通告がなかったことや民間地から近い場所での訓練だったため、「墜落事故が起こったのではないか」と不安がる住民もいた。同基地から連絡を受けた周辺自治体によると消火訓練は、十一日から始まる予定だった即応訓練を一日早めて実施したことに伴うという。

 訓練は、火災を再現する消防訓練用の機体を使用。目撃者によると、少なくとも機体の二カ所から発火し、煙が舞い上がった。数十台の緊急車両が機体を取り囲み、消防隊員の放水とともに、乗組員に見立てた人形を機内から運び、応急処置をしている様子も確認された。

 同基地によると、使用した機体は飛行はできない。同様の訓練は異なる状況に対応するため、曜日や場所を変えて実施しているという。

 同基地は、周辺自治体に対し、消火訓練が終了した後に「即応訓練を一日早めた」と通知。理由は明らかにしなかったという。

 訓練の現場は県道74号から数十メートルの距離。通りかかったドライバーは一様に驚いた様子で、訓練を見守った。嘉手納町屋良に住む女性(60)は「(訓練用の)機体が黒焦げだった。本当の事故のようで、怖かった。民間地の近くではやらないでほしい」と話した。

 嘉手納町議会基地対策特別委員会の田仲康榮委員長は「多くの県民が休日を楽しんでいる日曜日に、事前の説明もなしに、不安を与えるような訓練を行うのは許せない」と憤った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200802111300_03.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年2月11日朝刊)

[推進派市長当選]

「やむを得ぬ」苦渋の選択

 米軍再編に伴う米空母艦載機移転の是非が最大の争点となった山口県岩国市の出直し市長選で、移転推進を訴えた前自民党衆院議員の福田良彦氏が、移転反対派の前市長、井原勝介氏を退け、初当選した。

 今回は市財政が厳しい局面を抱えた中での選挙となり、市民にとって苦渋の選択となった。地域経済が冷え込む中で、移転反対か地域振興かの厳しい選択を迫られ、地元経済界などの支援を受けた福田氏が得票を伸ばした。

 選挙結果からは、岩国移駐に反対する市民も福田氏支持に流れたことがうかがえる。政府は移転を積極的に受け入れる民意だと見るべきではない。

 政府の強権的な圧力が明確になる中で、再編交付金による地域経済振興などを前提とした条件付きのやむにやまれぬ選択だと受け止めるべきだ。

 米軍再編が計画通りに実施されると米空母艦載機五十九機が岩国基地に移駐する。今選挙の結果は今後の米軍再編にも影響を与えそうだ。

 厚木基地所属の米空母艦載機の移駐をめぐって民意は揺れ動いた。合併前の市議会は全会一致で移転反対を決議し、二〇〇六年三月の住民投票では反対票が有効投票の89%と圧勝。合併に伴う同四月の市長選でも井原氏が当選し、二度も移駐反対の民意を示した。

 これに対し政府は「安全保障問題は国の専権事項」と主張し、米軍再編を推進する構えを崩さなかった。米軍再編推進法などを盾に、露骨な「アメとムチ」政策で受け入れを強く迫った。

 政府が移転反対を理由に新市庁舎建設の補助金約三十五億円を凍結したことで市民の間に動揺が広がった。昨年末には補正予算案が四度否決されるなど市長包囲網が着々と築かれた。

 今選挙で福田氏は市財政の立て直しや地域経済振興を訴え、日々の生活を重視する姿勢を強調。井原氏は空母艦載機移転の問題を主軸に据えて訴え、草の根の選挙運動を展開した。

 福田氏の当選は、背に腹は代えられぬと市民が暮らしを重視した結果だろう。移転を無条件で全面的に受け入れたわけではない。背景には移駐反対だけでは済まない厳しい現実もあろう。

 基地反対派が移転反対を正面から訴えたのに対し、移転容認派は地域振興の訴えに力を注いだ。米軍基地を抱える沖縄の選挙と同じ構図である。

 政府の強権的な政策に翻弄される岩国市の姿は、沖縄の基地所在市町村や県の姿とも重なって見える。厳しい選択を強いられた市民の姿は痛々しい。福田氏当選は移設推進の一言では言い尽くせまい。民意を読み誤ることなく今後の市政運営に反映させてほしい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080211.html#no_1

 

琉球新報 社説

岩国に新市長 住民本位の姿勢貫けるか

 米空母艦載機移転の是非を最大の争点とした山口県岩国市長選は、移転容認派が擁立した前衆院議員の福田良彦氏が、移転に反対する前市長の井原勝介氏を接戦の末に破り、初当選した。

 選挙戦で福田氏は、艦載機移転を受け入れ、米軍再編交付金を得ることで「岩国再生を実現する」と主張。市の財政状況を懸念する有権者の支持も取り付けた。

 これに対し、井原氏は「子や孫が平和な生活を送れるか不安」と訴え、2006年の住民投票で9割と圧倒的だった反対票の取り込みを狙ったが、及ばなかった。

 在日米軍再編で“アメとムチ”を使い分ける政府に同調した福田氏を有権者が選択した形だが、政府が「アメとムチはよく効く。住民なんてそんなものだ」と見くびるようなことがあれば、民意を見誤る可能性がある。

 新市長となる福田氏には、政府に迎合するのではなく、是々非々で対応してもらいたい。わけても基地問題では、住民意思を幅広く集約することが大切だ。対立候補とわずかな差だったことを踏まえれば、政府方針であっても、できない相談には応じられない旨、主張する姿勢が求められる。

 艦載機の海兵隊岩国基地への移転は、06年5月に日米両政府が合意した在日米軍再編の最終報告に盛り込まれた。騒音が大きい戦闘攻撃機FA18など59機を、神奈川の海軍厚木基地から移す計画で、岩国の滑走路沖合移設が完成する08年度末以降に実施し、14年に完了予定だ。

 岩国は軍用機が倍増し、沖縄の空軍嘉手納基地と並んで極東最大規模になる。隊員や家族ら約3800人も新たに増えるという。

 これは「応分の負担」ではなく明らかに「過重負担」であろう。基地再編交付金という“アメ”には、極東最大級の激しい“ムチ”が付随してくることを、住民も認識しておく必要がある。

 惨事が起きてからでは遅い。市政を担う福田氏の責務は重大であり、激しい騒音や墜落の恐怖、米兵による犯罪など、今後想定される過重負担を政府がどう回避、軽減してくれるのか、明確な説明を求めるべきだ。

 それにしても、政府の手法は疑問だ。今回の市長選が接戦となった背景には、艦載機移転受け入れに反対している岩国市を、政府が基地再編交付金の対象から除外したことがある。市庁舎建設補助金約35億円も凍結した。

 住民が「経済再生」を優先し、苦渋の決断をするや、政府はかさにかかって攻め立ててくる。それは普天間飛行場の移設問題を見ても明らかだ。福田氏には住民本位の姿勢を貫くこと、政府には民意を見誤らないことを求めたい。

(2/11 11:02)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-31268-storytopic-11.html

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