中学生暴行事件、海兵隊員を釈放など  沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(3月1日、2日)

2008年3月1日(土) 朝刊 1面

海兵隊員を釈放/中学生暴行事件

被害者、告訴取り下げ/米軍が再び身柄拘束

 米兵による女子中学生暴行事件で、那覇地検は二十九日、強姦容疑で県警に逮捕され、取り調べを進めていた在沖米海兵隊キャンプ・コートニー所属の二等軍曹タイロン・ハドナット容疑者(38)を不起訴処分とし、同日午後八時四十二分、釈放した。被害者本人が告訴を取り下げた。「そっとしておいてほしい」との意向だったという。ハドナット二等軍曹の身柄は米軍の憲兵隊に引き継がれ、海兵隊が拘禁。ケビン・メア在沖米国総領事は「日本政府が一次裁判権を放棄すれば、米軍当局が証拠を調べ、捜査した上で処遇を判断することになる」と語った。

 強姦罪は、刑法により告訴がなければ起訴することができない親告罪。刑事訴訟法で、告訴は起訴までに取り消すことができるが、いったん取り消せば同じ事件で再び告訴することはできない。告訴の取り消しにより、裁判を進めるための訴訟条件が消滅した。

 告訴の取り消し理由について、那覇地検の山舖弥一郎検事正は「被害者の気持ちに反するので細かく申し上げることはできない」とし、親告罪ではない別の罪で立件する可能性について「被害者の気持ちを考えれば適当ではない」と述べた。

 ハドナット二等軍曹は二月十日午後十時半ごろ、本島中部の路上に駐車した乗用車内で、被害者を暴行したとして十一日未明に沖縄署に緊急逮捕された。被害者は午後十一時前に解放され、うずくまっているところを警察官に保護された。

 事件をめぐっては、県議会と全四十一市町村が抗議決議、沖縄や岩国基地の軍人や軍属を、無期限で外出禁止にするなどの措置が取られた。三月二十三日には北谷町で事件に抗議する県民大会の開催が予定されている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803011300_01.html

 

2008年3月1日(土) 朝刊 26・27面 

痛恨 被害者守れず/地検苦渋 天を仰ぐ

 また被害者を守れなかった―。米兵による暴行事件は二十九日、容疑者の釈放という予想外の形で幕が引かれた。日米両政府は安保体制のほころびに危機感をあらわにし、一部メディアは好奇の目を向けた。あまりにも大きな負担を背負った被害者から、届いたのは「そっとしておいてほしい」という言葉だった。天を仰ぐ那覇地検の検事正。首長や市民団体は、支援が徹底できなかった痛恨を語った。米軍基地が集中し、犯罪が頻発する現実とどう向き合うか。日米両政府は、再発防止の取り組みを誓い、県民大会の模索も続く。

 「容疑者を本日釈放した」。那覇地検五階会議室での記者説明。山舗弥一郎検事正は午後九時四十分、駆け付けた二十人の報道陣を見渡し、一言一言かみしめるように書面を読み上げた。「本日付で不起訴処分」。大きく息をついた後、「申し上げられることは以上」と言葉を切った。

 張り詰めた空気の中、報道陣から矢継ぎ早に質問が飛んだ。「告訴取り下げの理由は何か」「容疑の事実関係はどうなのか」。山舗検事正は「被害者の気持ちに反するので詳細は言えない」と、何度も繰り返した。

 被害者感情に話が及ぶと、天を仰いだ後「そっとしておいてほしい、ということのようだ」と説明。会議室は一瞬、静まり返った。

 告訴を取り下げるような働き掛けがあったかとの問いには「一切ない。失礼だ」と声を荒らげた。捜査の適正性を問う質問には「(親告罪なので)告訴が取り下げられたら絶対、起訴できない。被害者の気持ちを重視し粛々とやるしかない」と顔を紅潮させた。その後も「事情を理解してほしい」と繰り返し、説明は二十分で終了した。


     ◇     ◇     ◇     

買い物の高校生「怖い」

基地の街 不安の声


 【沖縄】「米兵がまた、同じような事件を起こさないか怖い」「外出禁止令は早めに解除してほしい」―。二等軍曹が被害者に声を掛けた沖縄市のコザ・ゲート通りは、二等軍曹が釈放された二十九日夜も、外出禁止令の影響で通りを歩く米兵の姿はなかった。米兵相手の店が多い通りでは、釈放の知らせに不安の声が上がった。

 同通りで買い物をし、迎えの家族を待っているという高校一年の女子生徒(16)は「米兵が、また事件を起こさないか。(綱紀粛正策を行っているが)忘れたころに、また事件が起きないか」と心配した。

 コザ・ミュージックタウンに食事に来たという沖縄市のアルバイトの女性(21)は「事件で日本政府だけでなく、アメリカのライス国務長官も謝罪した。大きな騒ぎになったことで被害者は動揺したのではないか」と話した。

 週末には十台近いタクシーが並ぶコザ・ゲート通りも、外出禁止令が出て二度目の週末は、わずか数台だけだった。

 うるま市のタクシー運転手(61)は「売り上げも落ちており、外出禁止令は早めに解除してほしい。しかし、(事件が発生した)米兵が出歩く街をつくったのは大人の責任でもある」と口ごもった。


県民大会呼び掛け人ら複雑/基地集中 構図同じ


 3月の県民大会開催を呼び掛けてきた市民団体も、言葉を失った。被害者の選択に理解を示しつつ、米軍基地と米兵犯罪が集中する構図は変わらないと指摘。引き続き、大会開催を模索する考えを示した。

 県婦人連合会の小渡ハル子会長は、「また同じことの繰り返しにならないか」と懸念しつつ、「被害者や家族の気持ちも分かる」と複雑な心境をのぞかせた。

 県民大会に向け、この日も東門美津子沖縄市長に協力を要請してきたばかりだった。小渡会長は、「(開催に)どうしても影響してくる」と困惑しながらも、「二度とこういう事件が起こらないように、抗議する意志は変わらない」と、実現に前向きな態度を示した。

 県子ども会育成連絡協議会の玉寄哲永会長も「容疑者釈放で、沖縄に米軍基地が集中し、米兵による女性や子どもの暴行事件が相次いでいる構造が変わるわけではない」と強調した。

 一日には、関係団体と大会開催に向けた役割分担などを話し合う予定だ。「大会開催の是非そのものを含めた話し合いになるだろう」とした上で、「米兵犯罪が集中していることを、県民が黙っているままでいいのだろうか。そのことは訴え続けたい」と話した。

 県高校PTA連合会の西銘生弘会長は「向こうは大の大人。どんな常識で考えても、被害者の子は悪くない。ライス国務長官も謝罪していたが、米政府が本当に(米兵犯罪に)危機感を持っていたら、起こるはずはなかった事件なんだ」と強く指摘した。

 二月十九日に抗議の緊急女性集会を開いた「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の高里鈴代共同代表は「この二週間以上、被害者がどれだけつらい思いをしてきたか。支えきれなかった…」と声を詰まらせた。

 一部メディアの好奇の目にさらされ、公判になればつらい質問も予想された。「成人女性でも後悔することがある。被害者の心身の安全を公的に保障するシステムをつくらない限り、皆が犯罪をただすより、沈黙を選択する社会になってしまう」と訴えた。


[解説]

被害者に大きな重圧

問われる支援態勢確立


 米兵暴行事件で容疑者が不起訴処分とされたのは、強姦が被害者の告訴を必要な親告罪であるためだ。被害者側が告訴を取り下げれば、検察が起訴して加害者の刑事責任を追及することはできない。性犯罪の場合、事件が公になることでかえって被害者に不利益になることがあり、被害者側が告訴せずに事件が表面化しない事例は少なくない。

 とりわけ、今回の事件は国内外で取り上げられ、大きな重圧がかかった。被害者側は当初,告訴の意思を示していたものの、取り下げを選択せざるを得なくなったともいえる。

 県警は事件の通報を受け、被害者の詳細な証言などから強姦の疑いが強いとみて捜査し、容疑者も容疑事実を認める供述をしていたとされる。

 一方、事件以降、県内では県民大会開催の動きが活発化。全四十一市町村と県議会が抗議決議し、米軍は軍人・軍属を外出禁止とした。日米両政府内には、米軍再編への影響を指摘する声も強まっていた。

 結果的に、被害者は日米安全保障にかかわる政治問題を一人で背負い込むことになった。加えて一部報道機関が被害者への周辺取材を進めるなどし、県警は「二次被害」を懸念していた。

 基地が集中する沖縄では、一九九五年に起きた暴行事件など、米兵絡みの性犯罪が後を絶たず、被害者が告訴をしない事例もある。今回の告訴取り下げは、被害者をどう支えていくかという課題を突きつけた。(社会部・鈴木実)


政府冷静 影響を注視/再発防止 引き続き促す


 【東京】外務省、防衛省、内閣府などの沖縄関係省は二十九日夜、一斉に事実確認などの情報収集に追われた。事件を受けた再発防止策への影響について、関係者は「日米の取り組みのきっかけは、この事件だけではない。実効性ある再発防止策を実施する方針には何ら変わりはない」(日米関係筋)など比較的、冷静な受け止めで一致している。一方で「県民大会に向けた機運にどの程度影響するかは注視したい」(防衛筋)と影響を図りかねる声も上がった。

 防衛省幹部は、「告訴取り下げはあくまでも被害者の事情によるものだ。事件が重大であることはこれまでと何も変わらない。政府の立ち位置も変わることはない」と指摘。再発防止に向けた取り組みを引き続き積極的に進める考えを強調した。

 同幹部はまた、「米軍関係者には、告訴取り下げを楽観的に受け止めないでもらいたい」とも述べ、米軍による再発防止策の取り組みを促した。

 内閣府幹部も「再発防止策は暴行事件だけでなく、酒酔い運転、住居侵入など一連の事件を受けて取り組みを始めた経緯がある」と述べ、政府の方針に変更がないことを強調した。

 一方、県幹部は同日夜、「こういうケースでは被害者の気持ちが一番大事なので県として何ともコメントできない」と述べた。一日午前、仲井真弘多知事のコメントを発表するとしている。

 二十九日夜、急きょコメントを発表したケビン・メア在沖米国総領事は「予期しなかった結果で驚いている」とした上で、「非常に遺憾な事件であることは変わらない。このようなことを防ぐため、作業部会などの検討や、教育プログラム見直しを続けたい」と表明した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803011300_02.html

 

2008年3月1日(土) 朝刊 1面

自民、県民大会に不参加/野党主導を懸念

 米兵による暴行事件を受け、県議会最大会派の自民は二十九日までに、北谷町の北谷公園で二十三日午後二時から開催予定の県民大会に参加しないことを決定した。日米安保や米軍再編に対する基本姿勢の違い、政治利用化される懸念などを挙げ、「野党主導になりかねない大会に参加すべきではない」と判断した。

 仲井真県政の与党最大会派の不参加決定で、超党派を前提にしていた仲井真弘多知事の出席も見送られる公算が大きくなった。

 自民は二月二十八日夜に開いた議員総会で、県民大会への対応を協議した。総会では「事件に対する抗議、綱紀粛正や再発防止策の徹底、基地の整理・縮小では一致している」としながらも、「米軍再編の推進で負担軽減を図りたい与党と、海兵隊の全面撤退を求める野党では基本姿勢が違う」、「六月の県議選を前に、野党の反基地運動に政治利用される」などの意見が相次ぎ組織的な参加を見送った。

 野党が、謝罪に訪れた米側高官らに対する仲井真知事の応対を批判したり、今定例会で野党議員が仲井真知事の答弁を「セカンドレイプ」と発言したりしたことなどをとらえ、「野党は知事への人格攻撃を繰り返した。知事を先頭に超党派で結集できる状況ではない」という反発も影響したという。

 新垣哲司幹事長は「県民大会とは別に、仲井真知事と連携し、米軍の綱紀粛正や再発防止策の徹底を求めていきたい」と述べた。

 自民は、県民大会の実行委員会準備会(仮称)が県議会米軍基地特別委員会に提出した県民大会の開催を求める陳情に賛成しない方針だ。

 同じく与党会派の公明県民会議の糸洲朝則代表は「定例会の代表一般質問で、仲井真知事と野党の論戦は平行線をたどり、一致していない。仲井真知事が出席できる状況なのか今後の動向を含め慎重に判断する」としている。

 同事件には、県議会や全四十一市町村議会が抗議決議を可決している。(与那原良彦)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803011300_03.html

 

2008年3月1日(土) 朝刊 2面

銃携行「極めて遺憾」/高村外相、初めて言及

 【東京】高村正彦外相は二十九日、衆院予算委員会で、県内で日本人基地従業員が、米軍司令官の命令で、拳銃を携行したまま基地外に出ていた問題について「極めて遺憾だ」と述べ、米側に綱紀粛正の徹底を申し入れたことを明らかにした。同問題に外相が言及するのは初めて。下地幹郎氏(無所属)への答弁。

 外務省日米地位協定室によると、同室は二十六日、在日米国大使館に対し事実関係を照会するとともに、「事実なら遺憾だ。基地外で銃の携行は禁じられているので徹底してほしい」などと申し入れた。

 これを受け、同大使館は二十八日、「本来の在り方と違う指示が出ていたようなので撤回した。指示が出て二十七時間後に撤回した」と釈明。同室は「きちんとやってほしい」と重ねて綱紀粛正を求めたという。

 一方、福田康夫首相は、沖縄の基地や経済の諸問題を踏まえ、「日米安保条約に基づいて沖縄に多大な負担かけているが、負担軽減を図りながら経済自立を達成するためにいろいろ工夫し、努力していかなければならない」と述べ、政府が今後も支援していく考えを示した。

 米兵暴行事件に関し、首相は「まさに、日米安保体制を壊してしまう危険性をはらんだ問題だ。日本の安全保障体制の根幹になってくるわけで、無視し得ない問題だ」と事態の深刻さを強調。

 その上で「こういうこと(米兵犯罪)をなくして、(米国との)信頼関係を強める。県民に迷惑をかけない体制をつくらないといけないと、深刻に思っている」と述べ、再発防止に向けて日米で全力を挙げて取り組む姿勢を示した。

 前原誠司氏(民主)への答弁。

 また、町村信孝官房長官は、次回の「普天間移設協議会」の開催時期について、「予算が成立することを受けて、三月末というより四月の早い時期に一回開ければ、と思っている」と述べ、四月上旬との見通しを示した。

 西銘恒三郎氏(自民)への答弁。


     ◇     ◇     ◇     

真部沖縄防衛局長「あってはならない」


 在沖米海兵隊の憲兵隊司令官が日本人警備員に拳銃を持たせて基地外を移動させた問題について、沖縄防衛局の真部朗局長は二十九日の定例会見で「あってはならないこと」と述べ、日米地位協定上、問題があるとの見解を示した。

 同問題について真部局長は「日米地位協定との関係でもすでに問題があり得る行為と思っている」と指摘。「基地外で警備員に銃器を携帯させたということについては、あってはならないことだと認識している」とし、司令官の指示が確認された場合には、撤回を求める考えを示した。

 米軍普天間飛行場の代替施設建設に向けた環境影響評価(アセスメント)で、二月中に実施できなかった冬季調査を十二月に持ち越すのかについては「一般的に考えれば冬季の調査は必要になると思うが、技術的あるいは県の意見を踏まえて他の手段があり得るかということについても検討はしたい」と説明。

 ただ、アセスに基づく冬季調査の代替手段については「特定のものを想定しているものではない」と述べ、現況調査(事前調査)の結果を活用するのかどうかについても言及を避けた。

 また、準備書の提出については「法令上、方法書に基づく調査を行った上で準備書は作成すべきものと思う」と述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803011300_04.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年3月1日朝刊)

[「迷走」防衛省]

組織体質にメス入れよ

 イージス艦衝突事故をめぐって防衛省が迷走している。例えは悪いが、迷路の中をちょろちょろ動き回るドブネズミのように見える。

 緊急時の対応手順や連絡体制が組織文化として身についていないために、情報の伝達が伝言ゲームのような様相を呈し、省幹部の説明が二転三転。食い違いを指摘されるたびに、発言を修正、訂正するという体たらくだ。

 いや、ひょっとしたら、そういうことではないのかもしれない。緊急時の連絡体制が機能していないのではなく、実は、自分たちが不利にならないように、情報を操作したり隠ぺいしたりしているのではないか。そんな疑念が消えない。

 事故発生後の国会質疑や記者会見などを通して浮かび上がってきたのは、防衛省と海上自衛隊の組織体質の問題である。

 講和条約発効後の一九五四年、防衛庁が設置され、陸・海・空自衛隊が発足した。内閣府の外局と位置づけられていた防衛庁が防衛省に昇格したのは二〇〇七年一月のことである。

 省昇格は、関係者にとって防衛庁発足以来の悲願だった。だが、皮肉なことに省昇格後、次から次に問題が噴出している。組織の信頼性を著しく損ねる結果を自ら招いているのである。

 インド洋での海上自衛隊の給油活動をめぐっては、米補給艦への給油量の誤りを〇三年に把握していたにもかかわらず、外部からの指摘で〇七年に訂正するまで、その事実を隠し続けていた。

 海上自衛隊の補給艦の航海日誌が破棄されていたことも分かった。イラク作戦への転用疑惑を隠ぺいするために意図的に破棄したのではないか、との疑いは今も消えていない。

 イージス艦の衝突事故をめぐっては、漁船発見の時間が衝突の「二分前」から「十二分前」に変わったのをはじめ、あやふやな説明と前言訂正が相次いでいる。

 防衛省は、事故を起こしたイージス護衛艦「あたご」の航海長をヘリで呼び寄せ、海上保安庁に無断で事情を聴いた。そのこと自体問題だが、事情聴取の事実関係について防衛省の説明は二転三転、そのことが口裏合わせの疑惑をもたれている。

 容易ならざる事態というほかない。

 石破茂防衛相が責任を取るのは当然だが、トップの首をすげ替えただけで組織体質が改まるとはとても思えない。

 防衛省や海上自衛隊の組織体質のどこが問題なのか。福田康夫首相は、そのことを明確にし、防衛省の解体的出直しに取り組むべきだ。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080301.html#no_1

 

2008年3月1日(土) 夕刊 1・5面

県民大会開催を確認/米兵暴行事件

 本島中部での暴行事件で逮捕された米海兵隊二等軍曹が告訴取り下げにより釈放されたことを受け、暴行事件に抗議する県民大会の開催を目指す実行委員会準備会が一日午前、大会開催の是非などについて話し合った。「米軍基地が集中する沖縄で、米兵による事件が起こり続ける構造は変わりはない」と二十三日に予定している大会の開催方針を確認した。三日に正式な準備会を開き、呼び掛け団体の意向を確認、その後に記者会見を開いて開催を正式発表する。

 話し合いをしたのは、県子ども会育成連絡協議会の玉寄哲永会長と県婦人連合会の小渡ハル子会長。小渡会長は「米兵釈放のニュースを聞き、昨夜、眠らずに考えた」と話し、「米軍統治下にあったときから、沖縄県民は米兵による犯罪の被害に遭い続けてきた。女性、子どもが被害者となる事件も続いており、大会開催の意義は変わらない」と、あらためて大会開催の意志を示した。

 玉寄会長も「沖縄で米兵による事件が続発している以上、これは県民全体の人権の問題だ」と大会開催の方針続行に同意を示した。

 大会の名称を「米兵による少女・婦女子への暴行事件に抗議する県民大会」から「米兵によるあらゆる事件、事故に抗議する県民大会」などに変更することも今後、検討する。

 自民党県連が県民大会に参加しない意向を決めたことについて、小渡会長は「これは県民全体がかかわる問題で、私たち超党派の県民組織が参加を呼び掛けている。県議会での対立構造を持ち込み、『あなたたちとは一緒にやれない』というのは理解に苦しむ」と批判し、引き続き、県議会に協力を求めていく考えを示した。

 準備会呼び掛け六団体に労働団体の代表として連合沖縄を新たに加え、七団体を中心に大会への準備を進める方針も話し合った。

 三日午前に七団体で緊急の話し合いを持ち、大会開催を決定する。八日には県民大会実行委員会の結成式を開き、準備を急ぐという。


     ◇     ◇     ◇     

引き続き再発防止要求/仲井真知事がコメント


 米兵による暴行事件の容疑者釈放を受け、仲井真弘多知事は一日午前、「いずれにしてもこのような事件は決して許されず、他の事件が続発していることも事実。米軍、日米両政府は引き続き県民が納得できる形で具体的な再発防止策を講じ、万全を期してほしい」とコメントを文書で発表した。


不起訴 揺れる関係団体/うやむや解決懸念


 【中部】米兵による暴行事件で、在沖米海兵隊の二等軍曹(38)が告訴取り下げで不起訴となり、釈放されたことを受け、事件に対する抗議集会などを予定している本島中部の各団体関係者からは、事件がうやむやになることへの懸念の声が上がる。一方で「そっとしておいた方がいいのかもしれない」「大会は必要だ」と、今後の対応をめぐり、思いが揺れている。

 不起訴から一夜明けた一日、沖縄市子ども会育成連絡協議会の久高将輝会長は「事件がうやむやにならないか心配だが、被害者の心のケアを考えるとそっとしておいた方がいいのかもしれない」と複雑な心境を明かす。

 沖縄市長に市民集会開催を陳情した同市地域安全推進協議会の大城信男会長は「集会を開くなら被害を受けた子に負担をかけない形でやろうと提案していた」と話し、今後、市民団体間の意見交換を経た上で、独自集会とするのか県民大会に参加することになるのかを決める意向だ。

 事件後、北谷町に住民大会の開催を要請した同町PTA連合会の仲地泰夫会長は「米兵による暴行事件は過去に何度も起こり、今回の事件後にも発生した。子を守る親の立場として、再発防止を求めて声を上げるべきだ」と町民の意思表示の必要性を強調した。

 住民大会開催へ向け協議している同町女性連合会の桃原雅子会長は、告訴取り下げに「事件の波紋が大きくなり、被害者の意図しない方向に向かったのかもしれない」と話した。その上で「事件自体は許せない。町内には多くの米兵が暮らしており、また同様の事件が起こらないとも限らない。問題の根源である基地の整理・縮小を求める大会が必要だ」とし、町内の各団体と開催の調整を継続する方向を示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803011700_01.html

 

2008年3月2日(日) 朝刊 23面

重大さ変わらない/暴行事件・米兵不起訴

 「心が痛い。彼女が声を上げられる状況をつくれなくて申し訳ない」―。米兵による暴行事件の被害者が告訴を取り下げ、容疑者の二等軍曹が不起訴処分となったことに、高校生のころ県内で米兵から性暴力の被害を受けた女性(四十代)が一日、重い口を開いた。基地あるが故に構造的な暴力が繰り返される現実。「告訴を取り下げても事件の重大さは変わらない。基地をなくすことと、被害者の人権が守れる社会の仕組みがなぜ作れないのか…」。同じ痛みと苦悩を抱え、複雑な心情を吐露した。(くらし報道班・岡部ルナ)

 女性は二〇〇五年、性暴力被害を稲嶺恵一知事(当時)あての公開書簡で訴え、性犯罪と基地被害の実態を告発した。

 高校から下校途中、後ろからナイフを突きつけられ、米兵三人に自宅近くの公園に連れ込まれ、暴行された。

 二十年以上が過ぎた今でも、米軍の事件・事故が起きるたびに悪夢がよみがえるという。

 二月十日に起こった米兵暴行事件を知り、自分と被害者が重なった。「現場が危険な場所というなら、危険にしたのは誰なのか。基地を置いている人が責任を取らなければいけない問題だ」

 被害者には、耐え難い性暴力の痛み、苦しみに加え、日米安全保障にかかわる政治問題がのしかかる。

 女性は自らが性犯罪の被害者であることを誰にも話せなかった。いつどこで犯人に遭うか分からない不安。道を一人で歩くのにも恐怖が襲った。「自分が守られていないとずっと思っていた」。孤独だった。

 「本当は声を上げたかった。でも、親に言えば心配させる、警察の事情聴取で何を聞かれるのかなど一人で悩んで、相談する相手がいなかった。ずっと自分が悪いと責めていた」

 一部報道による中傷、周辺取材にも「報道が向くべきは加害者の側だ」と憤る。

 「この後、自分の人生はどうなるのかという恐怖、一歩外に出れば皆が自分の敵のように思えているのではないか。被害者も、家族も、安心できる安全な場所にいてほしい」

 市民団体が計画している県民大会には必ず足を運ぶつもりだ。「彼女は悪くない。人が集まることで、彼女を守りたい人がこれだけいるんだと伝えたい」

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803021300_01.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年3月2日朝刊)

[告訴取り下げ]

被害者の声に応える道は

 「そっとしておいてほしい」―被害者とその家族の訴えを私たちはどう受け止めればいいのだろうか。

 女子中学生への暴行事件で逮捕されていた米海兵隊員は、被害者側が告訴を取り下げたため不起訴になり、釈放された。

 県内には戸惑いも広がっている。だが、被害者が発した声を正面から受け止め、問題の所在を整理し再発防止につなげていくことが、今、私たちに求められているのだと思う。

 強姦罪は被害者の告訴がなければ起訴できない「親告罪」で、今回の事件に限らず告訴が取り下げられたり、被害者が訴えることをためらったりしてうやむやになるケースは多い。

 容疑者の身柄は海兵隊が拘束しているが、日本の法律で起訴されなかったからといって二等軍曹の容疑が晴れたわけではない。

 むしろ日本側が権利を行使しないことで、米軍の責任はより重くなったととらえるべきである。

 ケビン・メア在沖米総領事は「日本側が一次裁判権を放棄するなら、米軍当局が証拠を調べ、捜査した上で処遇を判断する」と述べている。

 米軍当局は二等軍曹の行為を徹底的に洗い直し、人権への配慮を強調する民主主義国家の名に恥じない判断を下してもらいたい。

 事件が国会でも取り上げられ、大きな政治問題に発展したため、被害者はいや応なく、さまざまな問題に直面することになった。

 米兵による性犯罪が起こるたびに出る被害者の「落ち度論」もその一つである。被害者やその家族にとっては耐え難い非難であり、それが二次被害をもたらした側面も否定できない。

 告訴し法廷の場で容疑者の罪を暴こうにも、それによって逆に自らのプライバシーがさらされる恐れがある。

 被害者と家族が告訴を取り下げたのは、そのことを何よりも心配したからではなかったか。

 告訴取り下げの判断を下すに当たっては、さまざまな葛藤があったと推察される。そのことを私たちは重く受け止めたい。

 日米両政府は、今回のような性犯罪などの発生を防ぐための再発防止策を講ずるとしている。だが、本当に実効性のある防止策を構築できなければ事態は何ら変わらず、再び同様の事件が繰り返される可能性はある。

 米軍の兵士教育の在り方に問題はないのかどうか。事件や事故に至った経緯についてきちんと検証し、二度とこのような事件が起きないようにすることが両政府の責務だ。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080302.html#no_1

 

琉球新報 社説

告訴取り下げ 犯罪の容疑は消えない

 何ともやり切れぬ気持ちだ。告訴を取り下げた少女に、どんな心境の変化があったのか。事件後に浴びせられた心ない非難の声。あるいは、一部週刊誌による無節操な取材や報道。「なぜ、自分が責められねばならないのだろうか。やはり、自分が悪かったのか」。こんな思いでいるのなら、それは違うと、あらためて強く問い掛けたい。

 那覇地検は29日夜、女子中学生暴行容疑で逮捕した在沖海兵隊の二等軍曹を不起訴処分にした。被害者が告訴を取り下げたからだという。その理由について、「(少女が)そっとしてほしい、と思っている」と説明する。恐らく、精神的に追い詰められた本人と家族が、やむにやまれぬ思いで決断したのだろう。

 事件後、大きく問題化していく重圧に加え、公判ともなれば証言などで、さらに傷口を広げられるような仕打ちにも耐えなければならない。被害者や家族がそう心配するのも無理はなかろう。あえて言えば、自宅にまで押し掛ける週刊誌や、いわれなき中傷に行き場を失ったともいえる。まさに「被害少女に対する重大な人権侵害(セカンドレイプ)があった」(沖縄人権協会)ことになろう。

 本人や家族の判断は、そういう意味からも理解できるし尊重しなければならない。少女の心のケアに十分配慮し、1日も早く立ち直ることのできるよう、関係者の手当てに期待したい。

 いま、私たち大人がすべきことは、二度とこうした事件の起きない社会をつくることだろう。行政と民間が一体となっての再発防止策、子供たちへの教育、など。そのことが優先だ。決して、被害者の落ち度を言い募ることが、先ではない。それは、天につばするようなものだ。非難は自らに返ってくる。こうした社会を放置してきた大人としての自分に。

 23日の県民大会は、予定通り開かれることが決まった。3日にも呼び掛け団体で話し合う。また、8日には大会に向けた実行委員会の結成総会を開いて、アピール文を発表する予定だ。賛否もあるが、開催は当然だろう。自民党も含めて、実行委は超党派での開催に向けて全力を挙げるべきだ。

 告訴が取り下げられた、といって、犯罪の容疑が消えるわけでもない。事実、釈放された米兵は米軍に身柄を拘束されている。米側の厳しい処罰を願うばかりだ。

 ボールは日米両政府に投げられた。事件の再発防止に向けて、実効性のある施策がどれだけ実行できるか。「綱紀粛正」や「兵士教育の徹底」など、その場しのぎの対策では何の解決にもならないことは、すでに証明ずみだろう。もちろん、米軍基地の県外移転が根本的な解決策には違いない。

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http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-31833-storytopic-11.html

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