月別アーカイブ: 2007年5月

沖縄タイムス・琉球新報 社説(5月19日)

沖縄タイムス 社説(2007年5月19日朝刊)
[海自艦投入]
「牙」むき海奪う行為だ
 那覇防衛施設局は、米軍普天間飛行場の移設先の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部の現況調査に着手した。海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」も、調査支援の名目で投入されている。
 海自艦の投入は、普天間飛行場の県内移設を是としない県民世論への国家の威圧である。自衛隊が県民世論に「牙」をむき、ジュゴンやアオウミガメの生息する海を奪う行為と言ってもいいのではないか。
 新たな基地建設に反対する市民グループは、カヌーなどで調査海域に繰り出し、作業船にしがみつくなど阻止行動を続けている。
 さんご礁の美しい同市大浦湾では、「自衛隊が国民に銃口を向けるような行為」「国家による新たな弾圧」「県民に対する軍事的恫喝だ」などの声が交錯した。
 自衛隊の本来の任務は、外国からの侵略などに対する「専守防衛」であり、国内で警備を必要とする事態には警察または海上保安庁が担っている。
 新たな基地建設という国策を遂行するために、掃海母艦や自衛隊員を投入することは全国でも初めてのケースといえる。
 その法的根拠として久間章生防衛相は、国家行政組織法上の「官庁間協力」を挙げ、防衛省設置法の「所掌事務の遂行に必要な調査・研究」(第四条一八号)が該当することを示唆している。
 だが、防衛施設庁と自衛隊は同じ防衛省内の機関であり、「官庁間」にはならない。これに久間氏は「官庁間ですら(協力)できるのに、庁内のことで協力しないというのはおかしい。もっと寛大に解釈できるのではないか」と述べている。
 あいまいさの残る説明であり、しっかりとした根拠を示すべきだろう。「調査・研究」の対象も明確には規定されていないとされ、拡大解釈が可能だ。これでは今後、自衛隊の出動に歯止めがかからなくなることも予想され、危険と言わざるを得ない。
 現況調査は、民間業者に委託されている。海自艦の投入は、反対派の阻止行動で民間のダイバーらが調査できない場合を想定し、官庁間協力の名目で実施されたのは明らかだ。
 大浦湾一帯は二〇〇四年十一月、タイで開かれた国際自然保護連合(IUCN)の第三回世界自然保護会議で、ジュゴンの保全が二〇〇〇年に続いて再勧告された。IUCNは、日本政府に勧告の履行を求めている。
 官庁間協力が可能なら、自衛隊だけでなく、環境省とも協力し、ジュゴンやさんご礁の保全を考えるべきだ。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070519.html#no_1

琉球新報 社説
教育改革3法案・国の関与強化でいいのか
 教員免許更新制などを盛り込んだ教育改革3法案が衆院を通過した。参院に送付され、今国会で成立する見通しだ。昨年の教育基本法改正を受けて提出された3法案は、学校現場や地方教育行政に対する国の関与を大きく認めるものとなっている。さらに、教育目標に「愛国心」や「公共の精神」も明記されるなど、極めて保守色の強いのが特徴だ。
 安倍晋三首相が憲法改正と並んで、最重要法案と位置付ける教育3法案。多くの疑問や不安、反発がありながら、与党の賛成多数での可決には拙速の感がぬぐえない。
 3法案のうち、学校教育法改正案は教育目標に「国を愛する心」「規範意識」などを盛り込む。しかし、国を愛するとは、どういう態度なのか。それは、誰が決めて、どのように評価するのか。肝心の点があいまいなまま。国を愛する気持ちは人さまざまだ。決して他人から押し付けられるものではない。まして国からとなると、それこそ論外だろう。
 さらに、教育目標には、わが国の歴史について「正しい理解に導き」ともある。だが、ここでも正しい歴史であると、誰が判断するのか。国の考える正しい歴史を押し付けるつもりなのだろうか。
 「愛国心」にあおられて戦場に駆り出された、あの悲惨な過去を、県民は忘れていない。その「愛国心」は戦前の皇民化教育でたたき込まれたことも、また事実だ。「愛国心」と「非国民」は表裏一体、ということも、多くの県民は身をもって知っている。
 そして、その「愛国心」が、集団自決という悲劇の背景の一つにあったということも、県民の認識だ。来年度から使用される高校教科書の検定で、集団自決について旧日本軍の命令や強制があったとの記述が変更された。「歴史の改ざん」と指摘されても、これが「正しい歴史」となって教科書に盛り込まれる。今回の3法案を見ると、国に都合のいいシナリオ作りが進むことが懸念される。
 そのほか、同法案は至るところで国の公教育への関与がうたわれている。教員免許更新制を打ち出した教員免許法改正案もそうだ。法案では、10年の有効期間を定め、30時間の講習終了を更新の条件としている。だが、講習内容など、すべて文科省の検討に委ねられる。講習が国主導で行われ、自主性・自律性のない、国にとって都合のいい教師づくりにならないか。
 国の未来を背負う子どもたちと、教師の関係をどう改善するのか。先進国では最悪の40人学級は据え置かれるのか。法案は多くの面で、国民が納得できる具体的なビジョンに欠ける。「教育は100年の計」という。法案は教育の根幹を揺るがしかねないだけに、参院ではしっかりとした審議が望まれる。
(5/19 10:13)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-23873-storytopic-11.html

沖縄タイムス・琉球新報 関連記事(5月19日朝刊)

沖縄タイムス 2007年5月19日(土) 朝刊 1・26・27面
海自の支援継続へ/辺野古海域調査
首相は問題視せず/きょう機材設置完了も
 米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への代替施設建設に伴う海域の現況調査(事前調査)で、那覇防衛施設局は十八日夕までに、サンゴの産卵状況を調べる着床具の大半と、海象調査機器の一部の設置を進めていたことが分かった。十九日も海上自衛隊の潜水要員の支援を受ける予定だが、同日中に着床具の全三十九地点での設置が完了する可能性もある。安倍晋三首相は十八日夜、調査に海上自衛隊の掃海母艦が参加したことに関し「行うべき調査を行ったということだ。知識、技術を持っている自衛隊が協力した」と述べ、問題ないとの認識を示した。
 防衛省の山崎信之郎運用企画局長は十八日の衆院安全保障委員会で、掃海母艦「ぶんご」の派遣について「沖合に停泊し、潜水夫を派遣することで三年前の(従来案の)ような妨害活動が減るのではないかと考えた」と説明。多数の潜水士を沖合から動員する狙いがあったことを明らかにした。辻元清美氏(社民)への答弁。
 仲井真弘多知事は同日、海自の調査参加に、「海上自衛隊が参加するような状況とは考えられない」とコメント。その上で「特殊な任務を持つ海上自衛隊が関与すべき事態かどうか疑問。反自衛隊感情を助長するようなことは避けるべきだ」とした。県内の政党、市民グループからは反発や疑問の声が上がっている。
 安倍首相は地元で反発の声が上がっていることについて「今後とも地元の皆さまに対しては誠意を持って説明をしていかなければならない」と述べた。
 一方、久間章生防衛相は衆院安保委で初日の作業について、「大きく構えて小さい部分だけで対応した」と述べた。「ぶんご」の派遣命令を十一日に下したことを明らかにし、「掃海母艦は機雷を除去するための船で、攻撃型の船とは違う。ソフトな感じだ」との考えを示した。赤嶺政賢氏(共産)への答弁。
 施設局は六月初めにも始まるサンゴの産卵期に間に合わせるため着床具の設置作業を優先した。
     ◇     ◇     ◇     
対立の海 混乱続く/反対派、捨て身の抵抗
 【名護】身を乗り出して作業船にしがみつく反対派と、引き離そうと試みる海上保安庁職員。普天間飛行場の代替施設建設のための海域調査は十八日、自衛隊員の投入で反発を強めた反対派と厳戒態勢で警備に当たった海上保安庁との間の緊張が高まった。現職の自衛隊員からも「あまり強硬にやってほしくない」と県民感情への影響を懸念する声も聞かれた。
 米軍普天間飛行場の代替施設建設に伴う海域現況調査(事前調査)で、那覇防衛施設局によるサンゴの産卵状況を調べる着床具の設置作業が行われた十八日午後、現場の辺野古沖周辺では、警備に当たった海上保安庁が調査に反対する市民団体に「作業中の業者とトラブルがあった」と任意聴取を申し入れるなどし、対立が続いた。
 調査終了後、市民団体が集会を終えた午後六時ごろ、辺野古漁港に中城海上保安署の職員十数人が訪れた。「午後四時三十五分ごろ、辺野古沖で作業中の潜水士が『市民団体側の漁船に乗船のダイバーから、水中でレギュレーターを外された』と訴えている。関係者に事情を聴きたい」と、任意聴取を申し入れた。
 集会で「私たちに協力した漁船を海保が拿捕した」と報告があった直後だけに、市民らが同保安署職員を取り囲み、説明を求めるなど騒然とした。
 第十一管区海上保安本部によると、「同施設局の委託を受けた業者がトラブルを訴えたので調べている。何の容疑に当たるのかは定かではない」状況だといい、市民団体は「事実関係がはっきりしていないのに答えられない」と反発した。
 海保は関係漁船を現場に足止めして、被害を訴えた潜水士らに任意聴取して現場確認をしたが、ダイバーからの任意聴取はこの日はあきらめた。
 現場海域で、作業監視のために潜水した市民団体の平良夏芽さん(44)は「海保こそ、エンジン付きのゴムボートをダイバーの真上に通過させるなど、危険な行為を繰り返していた」と指摘した。
海自威圧 一斉反発/「強行せず県民守れ」
 「県民を守るのが自衛隊の仕事ではないのか」「威圧して、あきらめさせるつもりか」。事前調査への海自の導入に、中南部の住民からも反発の声が相次いだ。
 糸満市摩文仁の平和の礎。沖縄戦戦没者の刻銘に囲まれ、平和ガイドの横田眞利子さん(55)は「きょうは案内で行けないが、気持ちは辺野古に向いている」と語った。「国を守るための自衛隊が、何で県民にこんなことをするの」
 同市の農産物直売店にいた赤嶺仁一さん(83)は、二十歳のころ沖縄戦を経験した。「総理は戦争経験がないでしょ」とはき捨て、「基地は全部本土に持って行ったらいい」。手にしたつえで物を払うしぐさをした。
 豊見城市商工会の会合に出た建設設備会社代表、上原直彦さん(35)。「海自を投入してまで強行し、本当に環境に配慮した調査になるのか疑問だ」と首をかしげる。「経済活動も、美しい環境が大前提。住民の気持ちをしっかりと聞き入れた上で調査すべきだ」と、真剣なまなざしで語った。
 「自衛隊本来の業務から考えると、やっていることが違うのではないか」。八重瀬町のスーパーで買い物をしていた金城由政さん(50)は「地元住民が納得するわけがない」と語気を強めた。
 うるま市の女性(35)には三人の男の子がいる。「海自の参加は威圧的な感じがする。子どもたちが大人になるころ、世の中はどうなってしまうのか」と、不安そうな表情を浮かべた。
 那覇市のパレットくもじ前にいた大学生の外間ゆかりさん(21)は「自衛隊まで出てくれば、基地は確実に造られてしまう」と危機感を募らせ、「本当は県民を守ってほしいのに」と嘆いた。
 一方、普天間飛行場に土地を持つ宜野湾市の男性(80)は「本来ならスムーズに調査を進めてほしいが、自衛隊の投入はやむを得ない」。早期移設を望み、「一日も早く自分の土地を使いたい」と訴えた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705191300_01.html

沖縄タイムス 2007年5月19日(土) 朝刊 3面
F22少数ならグアム経由可能/嘉手納広報議会に説明
 【中部】今月十日、米空軍の最新鋭ステルス戦闘機F22Aラプター二機が嘉手納基地からの未明離陸を中止し、日中グアムに向け離陸した件で、同基地のダニー・ジョンソン広報局長は十八日、嘉手納町議会の一行に「少数機であればグアムでも支援できる」と述べた。未明離陸について米側は「施設や対応できる兵員のいないグアム島などの米軍基地の中継は難しい」と説明、難色を示していた。
 未明離陸の中止要求で面談した田仲康榮町議会基地対策特別委員長によると、ジョンソン広報局長は「グアム経由の本国帰還は経費が掛かり、また支援施設も整っていない。少数機であれば支援できるが、大量の機体では対応は難しい」と説明した、という。
 田仲委員長は「米側の未明離陸の根拠の一角が崩れた」と指摘。その上で「経費などは、あくまで米軍内部の問題。早朝の爆音など、住民被害をいかになくすかを基本に考えるべきだ」とした。
 「嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会」の野国昌春会長(北谷町長)は、「住民の声を軽視した深夜・早朝の飛行はやめ、今後は少数ずつグアム経由で離陸させればいいことだ」と述べた。
 嘉手納町議会の一行は同日、那覇防衛施設局や米国総領事館などで未明離陸、F22再配備の中止を求めた。外務省沖縄事務所の倉光秀彰副所長は「操縦士の負担や経費面などの問題もある。改善の可能性を検討する」と答えた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705191300_05.html

海自の警備行動選択肢 防衛相、認識示す
 【東京】久間章生防衛相は18日午後の衆院安全保障委員会で、米軍普天間飛行場代替施設の環境現況調査(事前調査)に動員されている海上自衛隊が警備行動をする可能性について「海上の治安状況がよほど悪化した場合には法律上、絶対ないとは言えない」と述べ、法的には可能との認識を示した。その上で「そこまでは想定されていないのでする必要はないと思う。そういう手順も取っていない」と述べた。赤嶺政賢氏(共産)への答弁。
 「海上自衛隊はどういう場合に警護活動ができるのか」という赤嶺氏の質問に対し、防衛省の山崎信之郎運用企画局長は「通常の海上での警備活動ということだ。人命や公共の秩序の維持のため特別の必要がある場合、総理大臣の承認を得て自衛隊が一種の警察活動はできることになっている」と説明した。
 自衛隊法第82条の「海上警備行動」を指したものとみられる。だがこれまで発動されたのは、1999年の能登半島沖不審船射撃事件と、2004年の石垣島沖での中国「漢級」原潜による領海侵犯事件の2件だけだ。
 久間防衛相は掃海母艦「ぶんご」を派遣した理由について「結果として(作業に加わったのは)潜水士だけになったが、万一の事態を考えて対応した」と説明。「遭難者が出たり、混乱が生じた時には救難用のボートを出すことも考えられた。これから先もあるかもしれないが、ああいう形で収まりほっとしている」と述べた。辻元清美氏(社民)への答弁。
(琉球新報 5/19 9:48)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-23869-storytopic-3.html

琉球新報 社説(5月18日)

琉球新報 社説
辺野古に海自艦・「何から何を守る」のか

 政府が辺野古周辺海域に海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」を派遣する。掃海母艦は大砲や機関銃を備え、機雷の敷設や除去を主任務とする「軍艦」である。
 沖縄は大砲や機関銃を必要とする紛争地ではない。辺野古海域には機雷もない。いるのはジュゴンと米軍の新基地建設に反対する市民たちだ。掃海母艦派遣は、まさに政府が国民に大砲と銃を向けるようなもので、許されない。
 米軍普天間飛行場移設先の名護市辺野古周辺海域で、政府は新基地建設に向けた環境現況調査(事前調査)の準備を進めている。
 しかし、辺野古住民をはじめ新基地建設に反対する市民らが連日、座り込みや監視活動を展開し、調査の中止を政府に強く求めている。
 そこに降ってきたのが、政府の掃海母艦派遣の話である。防衛省首脳は16日夜「来たとしても後ろでどかっと構えるだけだろう」と、事実上、掃海母艦の沖縄近海入りを認めている。
 言葉通りなら「市民を威圧するための派遣」ということになる。
 防衛省首脳は「把握していない」と言うが、名護市辺野古海域上空では、16日に海自の掃海ヘリが確認されている。掃海母艦がすでに近海に到達している可能性もある。
 那覇防衛施設局は、6月上旬の産卵時期に間に合わせるため、サンゴ類の調査機器を優先して設置する際に、掃海母艦の潜水士らが設置を援助する、としている。
 17日の参院外交防衛委員会で、久間章生防衛相は、辺野古海域での環境現況調査に妨害などがあれば自衛隊員が実施する可能性も認めている。
 そもそも、自衛艦(掃海母艦)の派遣の有無を政府があいまいにしている点が姑息(こそく)だ。ある政府関係者は「『伝家の宝刀』は抜かない方が効き目があるかもしれない」と、自衛隊投入をあいまいにすることで国民の批判を避け、新基地建設に反対する市民の消耗を誘う意図すら示唆している。
 自衛艦派遣が自衛隊法第82条に基づく海上での人命や財産保護、治安維持のために防衛大臣が自衛隊に命令する「海上警備行動」につながるとすれば、自衛艦は「何から何を守る」のか。事前にきちんと国民に説明すべきである。
 かつて旧日本軍の戦艦大和は沖縄を守るために特攻に出たと聞く。あれから62年、国民を守るはずの自衛隊は、米軍の新基地建設に反対する国民を威圧するために「軍艦」を沖縄に派遣するのか。
 悲惨な沖縄戦が残した歴史の教訓は「軍隊は住民を守らない」ということだった。いまや時代は変わり「軍隊は住民から米軍を守る」という悲しい現実に、沖縄は直面することになるのだろうか。
(5/18 9:50)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-23850-storytopic-11.html

沖縄タイムス 関連記事(5月18日夕刊)

2007年5月18日(金) 夕刊 1面
海自、海域調査参加/辺野古沖に機材設置
反対派が阻止行動
 那覇防衛施設局は十八日午前、米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への代替施設建設に伴う海域の現況調査(事前調査)で、サンゴの産卵状況を調べる着床具の設置作業に着手した。調査支援の名目で派遣された海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」は同市辺野古沖では確認されなかったが、久間章生防衛相は同日午前、海自隊員の作業への参加を認めた。海自は数日間、作業に参加するという。一方、調査に反対する市民団体はカヌーで調査ポイント周辺に展開、作業船にしがみつくなど阻止行動を続けた。施設局は十九日以降も作業を継続する。

 関係者によると、ぶんごは周辺海域に停泊。作業に参加した海自隊員は未明から早朝にかけて沖合の調査ポイントで設置作業後、午前の段階でぶんごに引き揚げたとみられる。

 同日午前五時半ごろ、海上保安庁の巡視船や施設局がチャーターした作業船が続々と辺野古沖に到着。同六時二十分ごろから、作業船は名護市嘉陽から久志沖の海域の三千九百二十五平方メートルの範囲内で磁気探査と機器の設置作業を始めた。

 一方、反対派は泊まり込みのメンバーも含め、約百人が午前五時までに辺野古漁港に集結。同七時ごろから十数艇のカヌーが調査ポイントに展開。他のメンバーは辺野古漁港内の施設局の作業場設置を阻止するため、港のゲート付近で座り込みを続けた。

 施設局が今回実施するのは海生生物調査と海象調査。調査機器はパッシブソナー(音波探知機)三十地点、水中ビデオカメラ十四地点、着床具三十九地点、海象調査機器類は二十九地点の計百十二地点に設置する。

 施設局は六月初めにも始まるサンゴの産卵期に間に合わせるため、着床具の設置作業を優先。数日内に設置を完了させたい意向だ。着床具は六平方メートルの範囲内に、一・五メートル四方のステンレス製架台を鉄筋で海底に二組一セットで固定する。

 水中ビデオカメラは十メートル四方の範囲内に、鉄製の架台を鉄筋で海底に固定。パッシブソナーは三十五平方メートルの範囲内に、鉄製の架台にソナー本体と外部受信機を取り付け、架台を鉄筋で海底に取り付ける。

 施設局は四月下旬から準備作業としてダイバーによる調査ポイントの確認作業を実施。調査機器を設置し、データ収集を開始した段階で「調査着手」と位置付けている。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705181700_01.html

2007年5月18日(金) 夕刊 7面
反対派、必死の抵抗/辺野古調査
 【名護】「違法な調査をやめて」「人殺しの基地を造らないで」。米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への移設に反対する市民団体メンバーらが、作業を止めようと作業船にしがみつき、懸命に訴えた。海上自衛隊員が調査機器の設置作業に参加したことには、「県民の人権を無視する暴挙だ」と怒りの声が上がった。同市辺野古の漁港では前夜から座り込みを続ける市民らが阻止行動を見守った。

 辺野古海域には、海上保安庁が巡視船四隻や巡視艇数隻、十数隻のゴムボートなどを展開し、警戒に当たった。反対派は船七隻、ゴムボート一隻、カヌー十二艇を出航させた。

 同日午前六時二十分ごろ、那覇防衛施設局がチャーターした作業船や警戒船が調査海域で作業に着手した。午前七時四十分ごろ、反対派メンバーらのカヌー五艇とゴムボートの乗員が辺野古漁港沖にいた作業船にしがみついた。数人はシュノーケルをつけて入水し、海中から作業中止を訴えた。

 反対派を取り囲んだ海上保安庁のゴムボート五隻から職員が、再三にわたって「作業船から離れなさい」と警告、周辺は緊迫した雰囲気に包まれた。

 反対派のいない複数の調査ポイントでは、作業船に乗ったダイバー三、四人が、鉄製パイプや鉄筋などを船から積み降ろすなど機器の設置作業が進められた。

 一方、辺野古漁港には前日深夜から泊まり込んだ反対派メンバーも含め、午前五時までに約百人が集結。夜が明けて沖合に停泊する海保の巡視船などを確認すると、現場の緊張が高まった。

 座り込みに参加した辺野古区の嘉陽宗義さん(84)は「軍艦相手に勝負はできない。しかし世界中で平和を願う人がわれわれの味方をしている。信念を持って笑顔で闘おう」と呼び掛けた。早朝に、

 西原町から駆けつけた花城静子さん(50)は「沖縄の人たちには、銃剣とブルドーザーで、土地を強制接収された苦い思いがある。一人一人の声や力は小さいが、みんなで協力して基地建設を阻止し、美しい海を守りたい」と意気込んだ。

海保 抗議船に立ち入り

 反対派メンバーらの船が停泊する名護市漁港では、海上保安庁の職員約二十人が午前六時ごろから、海上阻止行動に向かうメンバーの抗議船や報道陣を乗せた船など計五隻に対して、従来行っていない出港前の立ち入り検査を実施。抗議船の出航は約一時間半遅れた。汀間 午前六時二十分ごろ、施設局がチャーターした作業船や警戒船が調査海域での作業を始めた。

 海保職員が抗議船に乗り込み、救命胴衣や信号灯の有無をチェック、船舶の登録書類などに目を通した。

 一方、調査作業を支援するため那覇防衛施設局にチャーターされた漁船は検査なく出航。「なぜ抗議船を狙い撃ちするのか」との質問に対し、海保側は「漁船は常々漁協などを通して確認している」と答えたという。

 抜き打ち検査について海保は「辺野古沖の警備行動にかかわることは、コメントできない」といい、警備行動の一環であることを認めた。

島ぐるみ反発も

 仲地博琉大教授の話 自衛隊の本来の役割は外国の侵略防止であり、国内の対立の現場に乗り込むことではない。特に今回は民間に委託された調査で、戦闘部隊の人員や装備が必要な場面ではない。こうしたケースは初めてではないか。自衛隊の出動が歯止めなく膨張するのは危険で、国民の監視が必要だ。

 「集団自決」に関する教科書検定が沖縄戦の記憶を呼び起こしている時期。自衛隊出動と絡み合い、保革にかかわらず県民のアイデンティティー、平和意識を刺激するだろう。県民世論に対する不用意な挑戦は、島ぐるみの反発を呼ぶ可能性がある。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705181700_02.html

2007年5月18日(金) 夕刊 7面
訓練移転中騒音増加/70デシベル超1日で130回以上
 【嘉手納】基地負担の軽減を目指し米軍戦闘機の一部訓練を本土で実施している十六、十七の両日、嘉手納基地に隣接する同町屋良地区で七〇デシベル以上の騒音は二日間とも百三十回以上測定、訓練移転を実施する直前より回数が増えた。

 嘉手納基地所属のF15五機が十六日から航空自衛隊小松基地(石川県)で空自と共同訓練している。町によると、十六日の騒音は百五十八回、十七日は百三十八回発生。

 訓練移転一週間前の十日は百七回で、昨年五月の一日平均回数約百回に比べても騒音は“激化”している。

 嘉手納町は「県外で訓練することは歓迎だが、訓練移転が必ずしも住民の負担軽減になるとは考えにくい。長期的な視野で見極めたい」としている。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705181700_03.html

沖縄タイムス 社説(5月18日)

社説(2007年5月18日朝刊)

[集団的自衛権]

国民の理解得られるか
 四月末、ワシントンで開かれた日米防衛首脳会談で、ゲーツ米国防長官が米国を狙った弾道ミサイルを日本のミサイル防衛(MD)システムで迎撃できるようにするため、集団的自衛権行使の容認を久間章生防衛相に迫ったという。

 ゲーツ長官は、自国の安全を守るためなら他国の憲法解釈も変更させることができると考えているようだが、あまりに強引すぎないか。

 最高法規である憲法解釈をめぐる議論はそれぞれの国内問題で、他国があれこれ言う筋合いのものではない。

 日本国憲法は戦争放棄を明記し、国の交戦権を認めていない。集団的自衛権をめぐる議論はさまざまあるが、現行憲法が集団的自衛権の行使を禁じているとした政府解釈は一貫して変わっていないし、国民にも定着している。

 共同通信社が今月行った全国世論調査では、集団的自衛権の行使に関する政府解釈について「今のままでよい」との回答が62・0%。「憲法解釈を変更し、行使できるようにすべきだ」の13・3%を上回った。

 米国が内政干渉ともとれる要求を突きつけてきたことは、集団的自衛権の行使容認に始まったことではない。

 二〇〇一年九月の米同時多発テロの直後に、当時のアーミテージ米国防副長官が柳井俊二元駐米大使に「ショーザ・フラッグ(旗を見せて)」と要求。この発言をきっかけに、日本は米国が掲げる対テロ戦争に協力。インド洋への自衛隊艦派遣やその後のイラクへの陸上自衛隊派遣などにつながった。

 政府は四月に集団的自衛権の行使に関し、一部容認する方向で解釈変更を検討する有識者会議を設置した。初会合が開かれるのはきょう十八日だ。

 憲法解釈をめぐっての議論は必要かもしれないが、一部有識者の考えだけで変更するのはおかしい。まして他国の国防長官が、この時期にいちいち口出しすべきものではない。

 政府は集団的自衛権の解釈変更を急ぐより、平和憲法の理念を守ることにこそ力を注ぐべきだ。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070518.html#no_2

社説(2007年5月18日朝刊)

[メア総領事発言]

これこそが米国の本音だ
 「事故が起きないのが不思議だ。早く移す方法を考えろ」。二〇〇三年十一月、上空から普天間飛行場を視察したラムズフェルド元米国防長官が、周辺住宅の密集度に驚いて口にした言葉だと言われている。

 後の報道でこの発言を知った県民は「誰が考えても普天間飛行場の実態は同じ」と、極めて真っ当な感想を示したことにほっとしたものである。だが、ケビン・メア在沖米国総領事は異なる見解を持っているようだ。

 十四日に行われた沖縄経済同友会で「米軍再編の将来展望」のテーマで講演した総領事は「私の目から見ると、厚木基地や福岡空港の周りの人口密度と比べると、普天間は特別に危険ではない。福岡空港では普天間よりも多くの航空機が飛来している」と述べているからだ。

 もちろん「宜野湾市民に、危険だという懸念や騒音の問題があるのはよくわかっており、迷惑をかけない努力をする必要がある」(15日付朝日新聞)とも語っている。だが、この問題をなぜ他空港と単純比較し簡単に口にするのか、疑問と言うしかない。

 福岡市は人口約百三十六万人の政令指定都市だ。そこと比べたら、宜野湾市だけでなく県内すべての基地周辺地域の人口密度が数値的に緩和されるのは当然だろう。

 米軍再編を推し進める側の意見であれば、ただそれとして聞くこともできる。だが、在沖総領事の発言である。市民が感じている危険性に「特別」の有無があるはずはなく、県民として異議を申し立てないわけにはいかない。

 それにしても、異なる状況下の問題をなぜ同列に扱うのだろうか。ここには「普天間」を手放したくない米国の本音が隠されているのではないか。

 メア総領事は、ラムズフェルド元長官の視察から十カ月後に隣接する沖縄国際大学構内に海兵隊所属のCH53型ヘリが墜落、炎上したことを忘れたわけではあるまい。もし忘れているとしたら、そのこと自体を問題にしなければならない。

 発言に対し仲里全輝副知事が「残念。総領事として地域の実情を把握して(ほしい)」と述べている。当然であり、県民ももっと深刻に受け止め、怒りを表明する必要がある。

 周辺の住民は、KC130給油機が普天間飛行場に着陸してはすぐに離陸する「タッチアンドゴー」の訓練を頻繁に目にしている。それこそが日常の危険性であり、「普天間」の閉鎖、返還は危険性の除去なのである。市民の恐怖心を無視した発言は厳に慎んでもらいたい。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070518.html#no_1