沖縄タイムス・琉球新報 社説(5月19日)

沖縄タイムス 社説(2007年5月19日朝刊)
[海自艦投入]
「牙」むき海奪う行為だ
 那覇防衛施設局は、米軍普天間飛行場の移設先の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部の現況調査に着手した。海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」も、調査支援の名目で投入されている。
 海自艦の投入は、普天間飛行場の県内移設を是としない県民世論への国家の威圧である。自衛隊が県民世論に「牙」をむき、ジュゴンやアオウミガメの生息する海を奪う行為と言ってもいいのではないか。
 新たな基地建設に反対する市民グループは、カヌーなどで調査海域に繰り出し、作業船にしがみつくなど阻止行動を続けている。
 さんご礁の美しい同市大浦湾では、「自衛隊が国民に銃口を向けるような行為」「国家による新たな弾圧」「県民に対する軍事的恫喝だ」などの声が交錯した。
 自衛隊の本来の任務は、外国からの侵略などに対する「専守防衛」であり、国内で警備を必要とする事態には警察または海上保安庁が担っている。
 新たな基地建設という国策を遂行するために、掃海母艦や自衛隊員を投入することは全国でも初めてのケースといえる。
 その法的根拠として久間章生防衛相は、国家行政組織法上の「官庁間協力」を挙げ、防衛省設置法の「所掌事務の遂行に必要な調査・研究」(第四条一八号)が該当することを示唆している。
 だが、防衛施設庁と自衛隊は同じ防衛省内の機関であり、「官庁間」にはならない。これに久間氏は「官庁間ですら(協力)できるのに、庁内のことで協力しないというのはおかしい。もっと寛大に解釈できるのではないか」と述べている。
 あいまいさの残る説明であり、しっかりとした根拠を示すべきだろう。「調査・研究」の対象も明確には規定されていないとされ、拡大解釈が可能だ。これでは今後、自衛隊の出動に歯止めがかからなくなることも予想され、危険と言わざるを得ない。
 現況調査は、民間業者に委託されている。海自艦の投入は、反対派の阻止行動で民間のダイバーらが調査できない場合を想定し、官庁間協力の名目で実施されたのは明らかだ。
 大浦湾一帯は二〇〇四年十一月、タイで開かれた国際自然保護連合(IUCN)の第三回世界自然保護会議で、ジュゴンの保全が二〇〇〇年に続いて再勧告された。IUCNは、日本政府に勧告の履行を求めている。
 官庁間協力が可能なら、自衛隊だけでなく、環境省とも協力し、ジュゴンやさんご礁の保全を考えるべきだ。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070519.html#no_1

琉球新報 社説
教育改革3法案・国の関与強化でいいのか
 教員免許更新制などを盛り込んだ教育改革3法案が衆院を通過した。参院に送付され、今国会で成立する見通しだ。昨年の教育基本法改正を受けて提出された3法案は、学校現場や地方教育行政に対する国の関与を大きく認めるものとなっている。さらに、教育目標に「愛国心」や「公共の精神」も明記されるなど、極めて保守色の強いのが特徴だ。
 安倍晋三首相が憲法改正と並んで、最重要法案と位置付ける教育3法案。多くの疑問や不安、反発がありながら、与党の賛成多数での可決には拙速の感がぬぐえない。
 3法案のうち、学校教育法改正案は教育目標に「国を愛する心」「規範意識」などを盛り込む。しかし、国を愛するとは、どういう態度なのか。それは、誰が決めて、どのように評価するのか。肝心の点があいまいなまま。国を愛する気持ちは人さまざまだ。決して他人から押し付けられるものではない。まして国からとなると、それこそ論外だろう。
 さらに、教育目標には、わが国の歴史について「正しい理解に導き」ともある。だが、ここでも正しい歴史であると、誰が判断するのか。国の考える正しい歴史を押し付けるつもりなのだろうか。
 「愛国心」にあおられて戦場に駆り出された、あの悲惨な過去を、県民は忘れていない。その「愛国心」は戦前の皇民化教育でたたき込まれたことも、また事実だ。「愛国心」と「非国民」は表裏一体、ということも、多くの県民は身をもって知っている。
 そして、その「愛国心」が、集団自決という悲劇の背景の一つにあったということも、県民の認識だ。来年度から使用される高校教科書の検定で、集団自決について旧日本軍の命令や強制があったとの記述が変更された。「歴史の改ざん」と指摘されても、これが「正しい歴史」となって教科書に盛り込まれる。今回の3法案を見ると、国に都合のいいシナリオ作りが進むことが懸念される。
 そのほか、同法案は至るところで国の公教育への関与がうたわれている。教員免許更新制を打ち出した教員免許法改正案もそうだ。法案では、10年の有効期間を定め、30時間の講習終了を更新の条件としている。だが、講習内容など、すべて文科省の検討に委ねられる。講習が国主導で行われ、自主性・自律性のない、国にとって都合のいい教師づくりにならないか。
 国の未来を背負う子どもたちと、教師の関係をどう改善するのか。先進国では最悪の40人学級は据え置かれるのか。法案は多くの面で、国民が納得できる具体的なビジョンに欠ける。「教育は100年の計」という。法案は教育の根幹を揺るがしかねないだけに、参院ではしっかりとした審議が望まれる。
(5/19 10:13)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-23873-storytopic-11.html

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