沖縄タイムス 2007年4月30日(月) 朝刊 1・21面
軍関与削除、9割反対 本社が市町村長アンケート
賛成ゼロ懸念強く
文部科学省の教科書検定で、二〇〇八年度以降に使用する高校歴史教科書の沖縄戦記述から、「集団自決」への日本軍関与が削除されたことについて、沖縄タイムス社が実施した緊急アンケートで回答した三十六市町村長のうち三十二人(約九割)が検定結果に「反対」と考えていることが分かった。四市町村長が「どちらともいえない」としたが、「賛成」はゼロだった。日本軍に「集団自決」が強制された沖縄戦の実相がゆがめられようとする動きに対し、多くの首長が強い懸念を示している。
アンケートは二十五日から二十九日にかけ、県内四十一市町村長を対象に実施。海外出張中の南城市長と北中城村長、「回答しない」とした嘉手納町長、粟国、多良間両村長以外の三十六人から回答を得た。
検定結果について、三十二人が検定結果に「反対」と回答。「現場にいた住民たちの証言が残っており、強制は明らか」「戦争の醜い部分を覆い隠そうとしている」「事実は事実として、きちんと記述すべきだ」「歴史を曲げた教科書で、子どもたちに教育するのはおかしい」と日本軍関与の記述削除に強く反発した。
うるま、西原、国頭、伊江の四市町村長は「どちらともいえない」としたが、「真実を教えるのが教育だ」「事実に基づいた記述であってほしい」などと沖縄戦の実相を正しく伝えるよう求めている。「本土とは認識の落差がある」との指摘もあった。
教科書検定の結果については、仲井真弘多知事が十三日と二十日の定例記者会見で言及。この中で、「これまで明記されていたことが削除・修正されたことは遺憾である」との認識を示し、「沖縄戦をきちんと検証し、教科書に公正かつ正確に記述していただきたいと考えている」と述べた。
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沖縄戦風化 悩む首長
「若い世代に、平和に対する意識が薄れつつある」。沖縄タイムス社が実施した市町村長緊急アンケートで、沖縄戦の体験について「継承されている」と答えたのは回答者の四割にとどまり、「されていない」は、「不十分」を合わせると半数を超えた。平和行政を推進しつつも沖縄戦の風化に悩む姿が浮き彫りになり、学校での平和教育の重要性が指摘された。「『集団自決』や『従軍慰安婦問題』などアジア諸国との歴史研究で、平和の連携を深めるべきだ」と建設的な意見もあった。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200704301300_01.html
沖縄タイムス 2007年4月30日(月) 朝刊 20面
不発弾保管庫限界に/海洋投棄禁止条約受け
海洋汚染を防止する「ロンドン条約九六年議定書」に伴い、不発弾の海洋投棄が今年四月から禁止されている。自衛隊は禁止後、米軍キャンプ・シュワブで陸上処理のみを行っている。二〇〇六年度の海洋投棄と陸上処理の割合は六対四。二、三月にほぼ処理したものの、四月以降、すでに読谷村の保管庫は約三分の一が埋まっている。同隊は「あと二カ月ほどで倉庫がいっぱいになるのでは」と懸念している。
環境省と防衛省は、自衛隊が撤去した不発弾の最終処分を民間業者へ委託する方針で、防衛省広報は「委託する民間企業の決定は、今年の後半以降。業者も県内か県外かは未定」と話した。
民間委託に伴い、「県民の手による不発弾の最終処分を考える会」は、最終処分をNPО事業が行い、その資金を難病を抱える子どもたちを救うために使いたいと提案。
同会の具志堅隆松事務局長は「沖縄の戦後処理をすることによって医療支援を目指したい。費用は日本、米国が技術、沖縄が作業と分担したい」と命を助ける共同作業を提唱している。今後、県議会へ陳情書を提出することにしている。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200704301300_06.html
沖縄タイムス 2007年4月30日(月) 朝刊 20面
「警報も鳴らず突然」/首里壕生存者遺族と対面
沖縄戦当時、首里の地下にあった日本軍壕の落盤から生き残った沖縄の民間人女性と日本兵の遺族が二十九日、初めて対面。遺族は、落盤の様子や最期の姿に聞き入った。戦没者の遺品や遺骨を収集し遺族に届ける活動をしているNPO法人「戦没者を慰霊し平和を守る会」(佐賀)などが仲介した。
戦況が厳しくなった一九四五(昭和二十)年五月二十、二十一日、首里当蔵の地下に造られた第三十二軍電波警戒隊の壕が米軍の艦砲射撃で落盤。隊長の赤尾茂大尉はじめ多くの人が命を落とした、という。
落盤から生き延びたのは電話交換手をしていた伊豆味栄子さん(84)と石川清子さん(84)、赤尾大尉の宿舎になっていた家の娘だった宮里遥子さん(78)=いずれも那覇市。
石川さんは二十日、座って休憩していたときに落盤、顔は埋まらなかったため、助け出されたという。隣で横になっていた同僚は即死状態だった。石川さんは「警報なども鳴らず、突然サーっと土が崩れ落ちた」と、生々しく話した。
伊豆味さんは二十一日、勤務中に落盤。兵隊二十二人とともに土を掘り、二日後に脱出した。「奥には、たくさんの兵隊さんがいたはずだが…」と振り返った。宮里さんは、母親から聞いた落盤で赤尾大尉が倒れる様子を話した。
赤尾大尉の娘の入部澄代さん(70)=鹿児島県=は、じっと黙って三人の話に聞き入っていたが「皆さんに会えて、父の話を聞けてよかった」とほっとした様子。
同NPOは、赤尾隊の壕を特定し遺骨収集につなげるため、二十九日、首里城周辺で電気探査などを行った。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200704301300_08.html
沖縄タイムス 社説(2007年4月30日朝刊)
[憲法世論調査]
「九条」見直しに警戒感
なぜ「集団的自衛権」か
憲法改正については「必要ない」(46%)とする人が「必要ある」(43%)を上回り、平和憲法の理念である九条は「改正すべきでない」(56%)が「改正すべき」(24%)の二倍以上に上ることが分かった。
本社世論調査からは、改正論議に理解を示しつつ日本国憲法の「平和主義」の柱である九条「見直し」には警戒感が広がっていることが読み取れる。
井端正幸沖国大教授が指摘するようにNHK、読売新聞などの調査でも「非改正派」が増えており、県民意識は同一線上にあると考えられる。
これは安倍政権になって加速する改憲論議に、国民が慎重さを求めているとみていいのではないか。
復帰して三十五年。県民意識の上で「本土化」が進んだのは確かだ。
だが、県民には日米両政府が約束した「負担軽減」より、「機能強化」が目立つ在沖米軍基地の存在が改憲論議と重なるのも間違いあるまい。
注目すべきなのは、「戦争放棄、交戦権の否認、戦力不保持」を唱える九条について「改正すべきでない」とする声が「改正すべき」を二倍以上も上回っていることだ。
自衛隊の認知度については、災害復旧活動や救急医療搬送などで高まってきているのはいうまでもない。
任務についても、憲法の範囲内で認められた「専守防衛」の枠内での行動形態が容認されたといっていい。
だが、防衛庁が「省」に格上げされ、今また国民的な論議もないまま有識者だけで「集団的自衛権」の解釈改憲に取り組もうとする安倍晋三首相の姿勢は「まず九条の改正ありき」で突き進んでいるようにしか見えない。
日米軍事同盟の強化が背景にあり、米軍に対する支援、協力をしやすくするための解釈改憲であるのは確かだ。
九条で禁じられている集団的自衛権の行使について51%が「使えない立場を堅持する」と答えたのは、拡大解釈の動きに対する懸念だと言えよう。
一方で「憲法解釈で使えるようにする」が24%、「九条を改正して使えるようにする」も15%あった。これは県民意識の変化と言うこともでき、その意味で注視する必要があろう。
「投票法案」は拙速避けよ
衆議院で与党単独採決され参院に送付された国民投票法案与党修正案は、憲法を改正するための手続きを定める法律だ。
しかし、法案の趣旨がきちんと国民、県民に浸透しているかどうか、疑問と言わざるを得ない。
罰則規定はないが、特殊法人職員や公務員、私立学校教員などの「便益を利用した(憲法改正をめぐる)運動の禁止」規定は、国民として憲法をどう考えるのかに網をかぶせるものにはならないのかどうか。
同法案を「早く定めるべきだ」としたのは七十代の29%が最も多かった。低いのは五十代の23%にすぎない。
全年代で20%台だったのは「憲法改正論議が不十分」(全体で54%)というのが最大の理由であり、国民の理解を得ていない証しと言えよう。
つまり七割もの人が法案に疑問を呈しているのであり、その意味を政府はきちんと分析する責務があろう。
この問題では安倍内閣の支持層でも「(論議が)十分でない中で決める必要はない」が49%。自民支持層でも「早く決める」と「決める必要はない」が45%と同率だった。
ここは性急に事を運ばず、国民の声に耳を傾けながら国会でもしっかりと論議することが求められているのだということを自覚してもらいたい。
「平和主義」の理念守れ
沖縄は一九七二年の復帰から現在まで、約束された米軍基地の整理・縮小がほとんど進んでいない。
普天間飛行場と同じように県内移設条件付きの返還が多いためで、九六年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告で返還合意された十一施設のほとんどがなお滞ったままだ。
安保条約を肯定し自衛隊容認派が増えたことで、県民意識が変化してきたのは事実である。
だが、だからといって「戦争放棄」をうたう九条を守る意識に変化が生じたわけではない。
むしろ沖縄戦に続く二十七年間の米軍支配、復帰後も存続する巨大基地が逆に憲法の必要性を意識させていることを忘れてはなるまい。
県民の思いは憲法の平和主義の理念に込められているのであり、その意義をこれからも大切にしていきたい。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070430.html#no_1