2007年5月17日(木) 朝刊 1面
跡地経済効果1兆円/基地再編返還予定地
生産誘発1兆7000億円/地代収入1900億円損失に
在日米軍再編で合意した嘉手納基地より南の米軍基地・施設の返還に伴う地域経済への影響などについて、県が二〇〇六年度に実施した調査で、返還予定地の跡地整備における建築・土木費などの直接経済効果は約一兆円に上り、生産誘発額は約一兆七千億円規模、約千三百億円の税収が見込まれることが十六日、分かった。
跡地での立地企業による販売活動などに伴う直接経済効果(年間販売額)は約八千七百億円で、生産誘発額を年間約七千百億円と推計。一方、返還に伴う損失として地代収入などマイナス面も指摘。県は近く報告書をまとめ、今後の大規模跡地利用策や沖縄振興、経済展望などについて検討作業に入る。
同調査は「駐留軍用地跡地利用に伴う経済波及効果等検討調査」。普天間飛行場、キャンプ桑江、キャンプ瑞慶覧、牧港補給地区(キャンプ・キンザー)、那覇港湾施設(那覇軍港)の五カ所について、那覇新都心地区の土地利用構成などを基にそれぞれの地区の土地利用を想定。その上で、同地区の平方メートル単価などを用いて算出した。
こうした結果から、嘉手納基地以南の大規模返還に伴う開発は、税収増や地域経済にプラスの効果がある―と分析。ただ、周辺地域の既存商店街への影響や開発事業に伴う財政負担などを挙げ、今後の跡地利用には「新たな開発事業方式の導入、周辺との共生による推進が必要」としている。
また、土地の供給・需要面から跡地利用計画策定以前に、中南部圏全体の土地利用の最適化計画(仮称)の策定を提起。商業・住宅等の需要予測の必要性を挙げた。
中南部圏全体における軍用地・施設などが返還された場合に失われる経済効果は、地代収入など年間で約千九百億円とした。
このほか、那覇市新都心地区や北谷町美浜地区など、既に返還された基地跡地における地域への経済効果を推計。那覇新都心地区(二百十四ヘクタール)では、地区整備によってもたらされる商業・サービス等の活動による波及効果は生産誘発額(年額)約六百二十九億円と大きな影響がある一方で、周辺地域の商店街などへの売り上げ減少の影響なども指摘。また、周辺地域からの人口流入や周辺地区への地価への影響なども挙げた。
北谷町美浜地区では同生産誘発額(年額)は約五百六十八億円と試算、経済効果が高いことを示した。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705171300_01.html
社説(2007年5月17日朝刊)
[復帰35年・日米密約]
対米従属からの脱却を
使途不明の軍用地補償費
沖縄の返還交渉に絡む日米両政府の密約が米公文書から新たに明らかになった。
一つは、一九七二年五月の返還を前に米政府が支払うはずの軍用地復元補償費四百万ドルを肩代わりする密約の発覚を恐れ、日本政府が軍用地主らへの補償費支払い業務を延期するよう米側に働き掛けていたというものだ。
米側は財務、国務、陸軍の三省間で検討を重ね、支払い業務開始を七三年に先送りした。
また、実際に地主に支払われた補償費は百万ドルを下回り、一部は支払い業務を担当した米陸軍工兵隊の経費にも充てられていたことが分かった。
復帰前、米政府がドル建てで支払っていた軍用地料は、年間総額約八百六十一万ドル(七一年度、当時の一ドル三百六十円換算で約三十一億円)で、軍用地復元補償費はその約半分に相当する額だ。
駐沖縄米総領事は七五年七月二十九日付の国務省あての公電で、残りの三百万ドル余りについて「(日本政府向けに)問題を引き起こさない使途の説明が必要になる」と指摘しているが、使途は明らかになっていない。
同密約をめぐっては、元毎日新聞記者の西山太吉氏が入手した外務省の極秘公電を基に社会党が七二年に国会で追及したが、政府は今日に至るまでその存在を否定している。
もう一つは、いわゆる「思いやり予算」の原型になったとされている「米軍基地改善費」と称する対米支出の問題だ。それに絡む密約の動きも米公文書などから浮かび上がっている。
日米地位協定(第二四条)では、施設の維持・整備は米側の負担と定められている。
同協定がまだ適用されない復帰前の沖縄では、当然ながら、米政府自身が沖縄基地の維持・整備費を全額支出していた。
そんな中で七三年二月、社会党は沖縄返還協定で規定された米資産買い取りなどの対米支払い三億二千万ドルとは別に、米軍基地改善費六千五百万ドルを支払う密約があったと追及した。
地位協定の解釈を変更
政府は密約を否定したが、七二―七三年の米太平洋軍年次報告書は、国会紛糾の影響で那覇空港返還に向けた米海軍の対潜哨戒機移転先の工事が一年以上遅れた経緯に言及した上で、六千五百万ドルは那覇空港の返還に伴う移転関連基金に充てられたとしている。
復帰前の米軍の全面占領下では、那覇空港も那覇海軍航空施設、那覇空軍・海軍補助施設として使われていた。
復帰直後の七三年一月に開かれた第十四回日米安全保障協議委員会(2プラス2)で初めて在沖米軍基地の整理統合計画が協議され、那覇空港の米軍施設は嘉手納基地への統合が合意されている。
こうした経緯から見ると、米軍基地改善費六千五百万ドルは日米地位協定の枠外で那覇空港の米軍施設の移転費に充てられたと読み解けよう。
在日米大使館は七五年十二月二十四日付の国務省あての文書で、その使途について地位協定が適用できない案件だったとした上で「今後は協定の緩やかな解釈を求めることが困難」と報告。施設改善で日本側から新たな財政支援を引き出す方法を考える必要性を示している。
これに、日本政府は地位協定第二四条の解釈変更による「思いやり予算」で応じることになる。
突出する「思いやり予算」
七八年、まず基地従業員の労務費のうち社会保険料を初めて思いやり予算として負担。軍用地料の全額、新規の提供施設についても「可能」との解釈を打ち出し、過去の実態も追認して予算措置で対応するようになった。
今や、嘉手納基地ではF15戦闘機用シェルターが思いやり予算で造られ、米軍住宅建設費や基地の再建設費の日本側への肩代わり負担にほかならない移設費なども含まれている。
思いやり予算で負担している在日米軍の駐留経費は、軍用地料や基地周辺対策費などを含めスタート時の七八年の千七百五十九億円から二〇〇五年には六千四百七十九億円に膨張、この二十七年間で約十三兆円もの税金が投入されている。
日本の思いやり予算は、米軍が駐留する世界二十七カ国=北大西洋条約機構(NATO)十八、太平洋三、湾岸六=の中でも突出しており異常だ。
米国との関係強化の前に、まずこの対米従属からの脱却を図るべきだ。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070517.html#no_1
2007年5月17日(木) 夕刊 1面
未明離陸に抗議決議/北谷町議会
【北谷】米軍嘉手納基地に一時配備されていた米空軍の最新鋭ステルス戦闘機F22Aラプター十機が米本国への帰還時に未明離陸を強行したことについて北谷町議会(宮里友常議長)は十七日午前、未明離陸の禁止を求める抗議決議と意見書を全会一致で可決した。近日中に在日米国大使、在日米軍沖縄地域調整官、在沖米国総領事、外務省沖縄担当大使、那覇防衛施設局長らに抗議と要請を行う。
抗議決議、意見書では「幾度となく未明離陸中止の要請を行ってきたが、米軍の姿勢は基地周辺住民を軽視している」と厳しく批判。整備上の理由で二機が午前十時二十五分に離陸したことを指摘し、「他の基地を経由して帰還することが十分可能と考えられる」として、未明離陸を回避する運用改善を求めている。
また、教科書検定で沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に関する日本軍の関与が高校の歴史教科書から削除された問題について、検定意見の撤回を求める意見書を可決。首相、文部科学大臣、衆参両院議長らに要請する。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705171700_05.html