琉球新報 社説(5月16日)

沖縄返還密約・繰り返された隠蔽工作

 沖縄返還に絡む日本政府の欺瞞(ぎまん)がまたしても明るみに出た。返還に伴う軍用地復元補償費400万ドルを米国に代わって日本が負担するという密約の発覚を恐れ、日本政府が米側に働き掛けて補償費支払いを延期させていたのだ。
 米国側は財務、国務、陸軍三省が協議し、支払い業務開始を1972年から翌73年に延期した。日米両政府が国家ぐるみで隠蔽(いんぺい)工作を行っていたわけだ。
 しかも、日本側から提供された400万ドルのうち米国が実際に沖縄の地権者に支払ったのは100万ドルを下回っていた。積算根拠に乏しい中で、米国の言うがままの金額を支払っていた疑いが強い。
 沖縄の地主らに支出するため使われるはずだった残りの300万ドル余は米国がちゃっかり懐に入れていたのだから驚く。一部は米陸軍工兵隊の経費にも充てられていた。
 地権者に渡らなかったのなら日本政府に返すべきだろうが、使途は明らかになっていない。
 米国の当初の予定では、返還に伴う米資産買い取り費用などとして日本側から支払われる3億2000万ドルの中から400万ドルを信託基金設立に充て、72年中に復元補償費の支払い業務を始めることになっていた。これに対し日本政府が「信託基金設立は(肩代わりの)取り決めを公に認めることになる」と待ったをかけたのだ。
 国務省内には支払い遅延への沖縄側からの反発を懸念する声もあったが、国会で追及されるリスクを回避することを優先したという。
 日本政府は、国民に説明できない不適切な対米支出を覆い隠すため米国との裏交渉に奔走した結果、地主への補償を遅らせた。国民を欺いた上に、地権者に不利益を与えたことになる。まるで背信行為ではないか。
 これらは米国立公文書館に所蔵されている一連の公文書によって新たに判明した事実だが、日本政府は密約の存在そのものを一貫して否定し続けている。
 71年当時、外務省アメリカ局長として対米交渉を担当した吉野文六氏が、2006年になって「返還時に米国に支払った総額3億2千万ドルの中に原状回復費用400万ドルが含まれていた」と密約の存在を認めた後も、その姿勢は変わらない。
 主権者である国民に背を向ける極めて不誠実な態度と言わざるを得ない。
 国民には真実を知る権利があり、政府には事実を明らかにする責任がある。政府にとって都合が悪いからといって、真実を闇に葬ることは決して許されない。
 72年の本土復帰から既に35年が経過した。国民を欺いていたのなら潔く認め、密約の全容を速やかに公表すべきだ。

(5/16 10:36)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-23803-storytopic-11.html

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