2007年5月14日(月) 朝刊 22・23面
基地ノー本気で/平和な島 真剣に
【中部】「みんなの心が一つになった」―。一万五千人が参加した十三日の嘉手納基地包囲行動。二〇〇〇年の九州・沖縄サミット以来、四度目の包囲には多くの家族連れらが“鎖”に加わった。「嘉手納」の機能強化反対、普天間飛行場の即時閉鎖などを訴えた参加者は、結んだ手を高く掲げ、県内外に思いをアピールした。一部つながらない場所もあったが、「これだけの人が集まったことに意味がある」との声もあちこちで上がった。
◇ ◇ ◇
「何とかしたい」切実/地元住民
「基地のせいで生まれ育った場所で暮らしたいという願いがかなわない。砂辺はそんな特殊な地域だ」。四回目の参加となった北谷町砂辺区出身の親里英文さん(55)。故郷から離れざるを得なかった悔しさに唇をかんだ。
嘉手納基地からの昼夜を問わない爆音にさらされる砂辺ではこれまで多くの住民が区を出て行った。
二十七歳で結婚した親里さんは「爆音があっても故郷で暮らしたい」と砂辺でマイホームの建築を望んだ。区を去った人の土地は国が買い上げ国有地になったため、当時の区内には新たに家を建てる場所がなかった。
「空き地があるのに使えない。同年代では同じようなケースが多く、幼なじみともばらばらになってしまった」。後ろ髪を引かれる思いで砂辺を離れ、町内の別の地域に建てた家で一男三女の家庭を築いた。
砂辺を取り巻く現状の改善に少しでも協力できればと、包囲には毎回参加している。「鎖がつながらなくてもいい。これだけの人が基地をどうにかしようと集まったことに意味があると思う」と参加者の列を見つめた。
「若者が真剣に考えなければ」。嘉手納町嘉手納から初めて参加した末吉弥さん(21)。爆音に長年悩まされてきたが、特に基地を意識したことはなく、事件・事故がなければ仲間内で話題にならなかった。七年前に行われた嘉手納基地包囲は遠目で見ていただけ。中学生ながら「どうせ何も変わらない」と思っていた。
今回参加したのは、十五日から母校、嘉手納中で生徒指導補助員になるため。喫煙やけんかなど生徒の問題行動を把握し、相談相手になることが仕事だが、子どもたちに「基地」「平和」について考えるきっかけをつくりたいという。
「参加したことで賛否の意見を勉強することができた。基地存続の有無や跡地利用は僕らの世代も真剣に議論する必要性に迫られるはず。将来のためにも何も知らない大人にはなりたくない」と話した。
親子三代 思いつなぐ
「大雨の中、みんなで手をつないで何のためにやっているのか分からないけど、つながって歓声が上がったことを今でも覚えている」。二十年前、当時小学校低学年だった伊波今日子さん(29)は、今回娘の陽香留ちゃん(3)と両親と参加した。「私が幼いころに連れてこられたように、少しでも娘の記憶に残ればうれしい」
二十年前、母親の長浜敏子さん(51)は「子どもたちに社会情勢に関心を持ってほしくて」と家族四人で参加した。長浜さんは、「二十年前は雨の中でもやらなくちゃいけないと、周りもかなり盛り上がっていたが、今回は人数も少なく、盛り上がりもない」と話した。
伊波さんは「基本は基地反対」としながらも、「周りに基地従業員もいるので雇用のことを考えると、正直、就職口のこともあるのでなくなるとどうなるのか心配」と話した。母親の長浜さんは「娘は雇用の問題を挙げるが、戦争体験者の話を聞くと、あんな時代が子や孫の世代にまた来ないかと心配なので基地はないほうがいい」と基地反対を訴えた。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705141300_02.html
社説(2007年5月14日朝刊)
[5・13嘉手納包囲]
過大負担問い続けよう
「鎖」一部でつながらず
本土復帰三十五周年を前に十三日、全周約十七キロの米軍嘉手納基地を「人間の鎖」で包囲する5・13嘉手納基地包囲行動が行われた。
参加者一万五千二百七十人(実行委員会発表)が手をつないだが、当初見込んだ二万人に達しなかったため、鎖は一部でつながらなかった。
同基地の包囲行動は、沖縄サミット開催に合わせた二〇〇〇年七月以来七年ぶり四回目。普天間飛行場包囲行動も含めると八回目となる。鎖がつながらなかったのは初めてだ。
実行委の共同代表で沖縄平和運動センターの崎山嗣幸議長は「連休をはさみ準備が足りず、鎖がつながらなかったのは残念だ。これからも基地のない平和な島に持っていくよう頑張っていきたい」と話した。
人間の鎖は、誰でも参加できるソフトな示威行動である。ソフトな形態を取りつつも、結集した民衆のエネルギーはマグマの爆発のような力を思わせる。それだけに、完全包囲に至らなかったのは残念でならない。
だが、大事なことは米軍基地が憲法で保障された「平和的生存権」を侵害するなど、復帰後三十五年たっても県民が基地の重圧にいかに苦しめられているかを引き続き訴え続けることではないのか。
圧倒的に本土より重い基地負担の不条理を、沖縄の「異議申し立て」として問い続ける必要がある。
その意味で、参加した人たちは「異議申し立て」の一人になったという誇りを持っていいはずだ。
嘉手納基地は極東最大の米軍基地であり、沖縄基地の象徴でもある。復帰三十五年の節目に同基地を包囲することは、日米両政府への強いメッセージになるからだ。
とりわけ、本土からの参加者には次世代へ平和を残すための「沖縄からの問い」を本土へ広げる原動力となってもらいたい。
包囲行動は(1)地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の配備や最新鋭のステルス戦闘機F22Aラプターの一時配備など嘉手納基地の機能強化に反対(2)普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブへの移設など基地の県内移設に反対(3)普天間飛行場の早期閉鎖と返還(4)米軍北部訓練場のヘリパッド建設中止―の四項目をスローガンに掲げた。
海自艦船の関与は混乱の種
那覇防衛施設局は近く普天間移設先の環境現況調査(事前調査)で機器の設置作業を始める方針だ。
調査を支援するため、海上自衛隊横須賀基地の掃海母艦が十四日にホワイトビーチ(うるま市)に入港予定で、同艦の潜水士がサンゴ調査に必要な着床板など機器の設置作業に加わることも予想されている。
普天間飛行場移設先での環境現況調査に関連して海上自衛隊の艦船が関与する可能性が出てきたといえる。
沖縄には、米軍の銃剣とブルドーザーで土地を奪われた歴史がある。自衛隊が調査にかかわってくるのであれば、新たな弾圧を意味するようなものではないか。
この問題には、県も腰が定まらない感じだが、民主主義の破壊につながるようなことになっては事態をますます混乱させるだけである。県としての対応をしっかりと示すべきだ。
久間章生防衛相は、今回の嘉手納基地包囲行動を「一種のパフォーマンスでしょう」と言い放ったが、政府は過大な基地負担を沖縄に押し付けながら、なお県民の苦悩解消に本気で取り組んではこなかった。
住民のマグマは消えない
米兵による犯罪や事故が起きるたびに県民世論は怒りを沸騰させるが、一方で米軍基地は、地元に雇用や見返りの経済振興策をもたらすなど大きな矛盾をはらんでいるのも事実である。
嘉手納基地フェンス際の「安保の見える丘」は、復帰前から米軍機ウオッチャーらが多く集まる場所として知られているが、最近では道を隔てた向かい側に四年前オープンした「道の駅かでな」が新たなスポットになっている。
包囲行動の日も、県内外から訪れた観光客やカップルが四階の展望台から広大な嘉手納基地を眺めていた。展望台の従業員によると、二月から一時配備されていたステルス戦闘機F22Aを目当てに、皮肉にも観光客が急増しているという。
しかし、地元では騒音被害などに対し大きな反発を呼んでいることを忘れてはならない。住民の鬱積するマグマは消えないはずだ。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070514.html#no_1
2007年5月14日(月) 夕刊 1面
豊見城市議会、検定撤回求め意見書/「集団自決」修正
【豊見城】豊見城市議会(大城英和議長、定数二四)は十四日午前、臨時会を開き、教科書検定で高校の歴史教科書から沖縄戦の集団自決に関する日本軍の関与が削除された問題で、検定意見の撤回を求める意見書案を全会一致で可決した。
同問題での意見書可決は県内自治体で初めて。あて先は、首相や文科相、衆参両院議長ら。
意見書は、検定意見について「沖縄戦体験者の数多くの証言による沖縄戦研究の蓄積・歴史的事実を否定しようとするもの」と批判。「検定結果は、歴史的事実を直視しない押し付けの教科書と言わざるを得ず、到底容認できない」としている。
その上で、「沖縄戦の歴史を正しく伝え、悲惨な戦争が再び起こされることがないよう検定意見を速やかに撤回し、記述の復活が速やかに実現されるよう強く要請する」と結んでいる。
教科書検定をめぐっては、県内の各自治体でも意見書案採択の動きがあり、十五日には那覇市、糸満市の両議会が可決を予定している。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705141700_01.html
2007年5月14日(月) 夕刊 5面
平和行進団 辺野古で拳
【名護】「嘉手納基地包囲行動」から一夜明けた十四日午前、米軍普天間飛行場代替施設建設予定地の名護市辺野古の反対派座り込みテントに5・15平和行進や嘉手納基地包囲行動の県外参加者約三百人が駆け付けた。
参加者らは代替施設建設予定地の海域を見渡しながら、「新基地建設反対」「ジュゴンの海を守れ」などとシュプレヒコール。現地で阻止行動を続けるヘリ基地反対協や平和市民連絡会のメンバーらとの連帯を誓った。
反対協の安次富浩代表委員は、代替施設建設に伴う事前調査に海上自衛隊が投入されるとの動きに「腹の底から憤りを感じている。この暴挙を絶対に許してはいけない。全国の皆さんで私たちの戦いを支援してください」と訴えた。
山本修平さん(23)=東京都=は「こんなきれいな海に人殺しの基地を造らせてはいけないと感じた。私たちは政治がどのように動いているのか注視し、政治を変えていくことをやっていきたい」と話した。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705141700_02.html