社説(2007年5月10日朝刊)
[首相の靖国供物]
きちんと説明すべきだ
安倍晋三首相が靖国神社の春季例大祭に「内閣総理大臣」名で供物を奉納していたことが明らかになった。
「国のため戦って亡くなられた方々に敬意を表し、ご冥福をお祈りする。その思いを持ち続けていきたい」と奉納を認めたが、具体的なことについては「申し上げないことにしている」と口を閉ざしている。
靖国参拝を望む日本遺族会など保守層と中止を求める中韓両国の双方に配慮した「次善の策」とみられるが、何よりも国民への説明責任を果たさない首相の態度には問題があるといえるのではないか。
一国の首相として、参拝の是非や対外的な配慮にとどまらず、太平洋戦争に対する自らの歴史認識などを国民の前で堂々と示してもらいたい。
首相に近い政府高官は、昨年から参拝に代わる方法を模索し、「遺族会だけでなく中韓にも配慮し知恵を絞った」(政府筋)と話している。
そうであれば、内外に困惑を広げるだけであり、姑息な手法と批判されても仕方がないのではないか。真意をきちんと説明すべきだ。
首相の靖国参拝をめぐっては、小泉政権時の二〇〇五年九月、大阪高裁が「国が靖国神社を特別に支援しているとの印象を与え、特定の宗教に対する助長効果が認められる」として、憲法二〇条の「信教の自由」「政教分離原則」に照らして違憲と指摘した。
しかし、大阪高裁の前には東京高裁が「私的行為」として憲法判断に踏み込まなかった。その後の高松高裁判決も憲法判断を回避しており、裁判所の判断は世論が割れる要因にもなっている。
今回は参拝ではなく、供物を奉納しただけだが、首相の強い意思に基づくものであることに変わりはない。それも「内閣総理大臣」名で奉納されており、私的な奉納とは言えまい。
靖国神社は、戦後の政教分離で一宗教法人となったが、いまだに太平洋戦争に至る一連の戦争は「正しかった」という歴史観に立っている。
そうした神社への「内閣総理大臣」名の奉納は、公明党幹部でさえ「擬似参拝」になぞらえ、なし崩し的な参拝への懸念を示している。
近隣諸国との間であつれきを生じさせ、国益上も得策でないのはこれまでの経緯からはっきりしている。
首相は「(国のために戦った方々への)尊崇の念を表する思い」とも述べているが、首相である以上、個人の信条というわけにはいかないはずだ。
A級戦犯の分祀問題を含め、首相としての主体的な考えを示してほしい。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070510.html#no_1
2007年5月10日(木) 夕刊 1面
F22未明離陸強行 2機は日中に実施
三連協反発「回避可能」
【嘉手納】米軍嘉手納基地に一時配備されている米空軍の最新鋭ステルス戦闘機F22Aラプター十二機のうち、十機が米本国に帰還するため十日未明、離陸した。残る二機は整備上の理由で離陸を見合わせていたが、同日午前十時二十五分に離陸。二機の離陸について同基地報道部は「太平洋上の基地に向かった」としており、米軍の運用次第で未明離陸を回避できることを示す結果となった。沖縄、嘉手納、北谷の地元三市町の首長らで組織する「嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会」(三連協)の野国昌春会長(北谷町長)は「日中の離陸でも、やればできることがはっきりした」と米軍への反発を強めている。
米軍は今回のF22の未明離陸について「日中に目的地へ着陸するための措置。太平洋を横断する長時間飛行になるため、パイロットの安全運航を最大考慮し実施される」と説明。三連協は九日に未明離陸への反対を表明していた。
嘉手納基地では、同日午前三時十三分ごろを皮切りに、約六分間でF22六機とKC10、135の両空中給油機二機が南側滑走路を使用し、沖縄市方面に向けて離陸。約一時間後にF22四機と空中給油機二機が続いた。ハワイを経由して、米本国に向かうとみられる。
嘉手納町屋良の通称「安保の見える丘」で騒音を測定した町によると、同日午前三時十五分に九八・八デシベル(電車通過時の線路わきに相当)の最高値を計測した。
離陸した十四機全てが多くの人が不快に感じる七〇デシベル(一メートル先の電話のベルに相当)以上の騒音を記録。F22については、全て九〇デシベル(騒々しい工場内に相当)以上の爆音をとどろかせた。
米バージニア州ラングレー基地所属のF22は今年二月、米本国以外では初めて嘉手納基地に配備された。配備期間中、約六百回を超える飛行訓練を行ったほか、航空自衛隊那覇基地のF4戦闘機、小松基地(石川県)のF15戦闘機などとの共同訓練を実施した。
在日米軍トップのブルース・ライト司令官は四月、朝鮮半島の情勢次第で、F22を同基地に再配備する可能性との認識を示している。
◇ ◇ ◇
「未明のごう音 恐怖」
住民たたき起こされ
【中部】「未明のごう音は恐怖だ。いいかげんにしてほしい」。嘉手納基地に一時配備中のF22Aラプター戦闘機十二機が十日未明、住宅地に爆音を響かせた。残り二機は同日午前十時二十五分、離陸した。基地周辺自治体の首長、住民らは「騒音防止協定に基づき日中に離陸するべきだ」と反発を強めた。
同基地を抱える沖縄、嘉手納、北谷の三首長らで組織する「嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会」は九日夕、飛行中止を求める声明を発表した。
未明離陸の強行に、会長の野国昌春北谷町長は「声明を出したにもかかわらず、強行されて残念だ。騒音防止協定に基づき日中の離陸をするべきだ」と訴えた。
東門美津子沖縄市長は「未明離陸が強行されたことは極めて遺憾だ。飛来時から飛行途中での引き返しやソフトウエアの欠陥などがあった。F22は明らかな欠陥機であり、今後の再配備も容認できない」と強く抗議した。
沖縄市側の飛行ルート直下、沖縄市営池原団地に住む亀谷弘二さん(49)は「ものすごい音でたたき起こされ、その後は寝付けなかった。普段から騒音はひどいが、未明のごう音は恐怖だ。いいかげんにしてほしい」と不満をあらわにした。
「怖かった。何ごとかと思って跳び起きた」。市登川に住む赤嶺千恵美さん(50)は「昼間の騒音には慣らされているが、未明に突然、爆音を聞いたら怖いに決まっている」と憤った。
嘉手納町第二保育所に子ども二人を送っていた町屋良の女性(39)は「米軍は非常識だ。騒音で大人だけでなく子どもも寝不足になり、ぐずってイライラする」と憤る。
同基地に隣接する嘉手納町屋良の島袋敏雄区長は「未明離陸は地域への影響が大きい。基地負担の軽減が求められる中、再配備には賛成できない」と言い切った。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705101700_01.html
2007年5月10日(木) 夕刊 5面
平和 祈念の歩み/復帰35年 5・15行進スタート
【国頭】県内の米軍基地や沖縄の戦跡を巡り基地返還などを訴える「5・15平和行進」(主催・沖縄平和運動センター)が十日午前、国頭村役場で始まった。今年は本土復帰三十五周年を記念し、かつて復帰運動の舞台となった国頭村から名護市までの約十七キロを歩く特別コースが設けられた。在日米軍再編や教科書検定問題が浮上する中、参加者らは復帰の原点を問いながら行進した。
国頭村からのスタートは二十四年ぶり。村役場前の出発式には県内外から約六十人が参加。同センターの崎山嗣幸議長は「今の政府は三十五年前に県民が願った復帰とは違った方向に走っている。憲法改正の動きなどとともに、北部に基地が集中させられようとしている。平和への願いを、このやんばるから全国にアピールしよう」と呼び掛けた。
若い世代が多かった。県外参加者の代表であいさつした本田新太郎さん(35)=長崎県=は「沖縄を実際に歩かないと、日本の平和について考えられないと思った」。那覇市議の平良識子さん(28)は「戦後世代というより、復帰世代の私たちが、政府の動向を鋭く見詰めていかなければならない」と訴えた。
団体での参加が多い中、三重県から嘉手納町に移住して十一年目になる樋口真理子さん(45)は一人で足を運んだ。二人の娘を育てるシングルマザー。夜中の米軍機の騒音に悩まされ、以前から基地問題に関心を持っていた。家に配られた平和行進のチラシを見て、今回歩くことを決意した。
「沖縄のことを知るために、一度歩きたいと思っていた。辺野古に基地を造るのは、反対。やんばるの自然を壊さないでほしい」。そう願いながら歩いた。
特別コースは大宜味村を経由し、名護市役所まで。午後五時半からは名護市役所で集会が行われる。十一日からは東、西、南の三コースに分かれ、それぞれ名護市、恩納村、糸満市から歩く。十二日にゴールの北谷町で「5・15平和とくらしを守る県民大会」を開催。十三日には二万人の参加者を見込んで嘉手納基地を包囲する「人間の鎖」が行われる。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705101700_03.html
2007年5月11日(金) 朝刊 1面
三連協、米軍に抗議へ/F22未明離陸
【中部】米空軍の最新鋭ステルス戦闘機F22Aラプターが、米本国に帰還するため十日未明に離陸したことを受け、沖縄市、嘉手納町、北谷町の三首長らで組織する「嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会」は同日、米軍に対し「過重な騒音被害を受ける住民の負担を軽視している」として抗議することを決めた。十一日にも同基地司令官にあて抗議文書を送る。
一方、十二機のうち、整備上の理由で十日午前十時二十五分に離陸した二機は、グアムの米空軍アンダーセン基地に向かったことが判明。首長らは「未明でなくても問題ないことが実証された」と、未明離陸の必要性を強調した米軍の説明を疑問視した。
未明離陸について三連協会長の野国昌春北谷町長は「極めて残念だ。住民の安眠を確保するためにも抗議の声を上げる必要がある」と強調。米軍に対し、午後十時から午前六時までのすべての航空機の飛行、エンジン調整の中止などを求める。
米軍は未明離陸の理由を「日中に目的地へ到着するため」としてきた。東門美津子沖縄市長は「未明でなくても問題ないことが実証された。なぜ未明にこだわるのか理解できない」と批判。嘉手納町議会基地対策特別委員会の田仲康榮委員長は「運用次第で調整できることが証明された。未明離陸をなくすよう米軍に求めたい」と強調。週明けにも委員会を開き、米軍に抗議する方針だ。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705111300_01.html