2007年6月3日(日) 朝刊 1面
「軍命が死を強要」/「集団自決」シンポ
体験者、再び証言/検定の問題点を論議
文部科学省の教科書検定で沖縄戦の「集団自決」の記述から「軍命」削除を求める検定意見がついた問題をテーマに、シンポジウム「挑まれる沖縄戦―『集団自決』検定を問う」(主催・沖縄タイムス社)が二日、
講話した金城さんは、一九四五年三月、渡嘉敷島の「集団自決」を体験。「米軍上陸の一週間前に手りゅう弾が日本軍から住民に渡された。一木一葉まで日本軍の指揮下だった。村長といえど、住民に死を強要することなどできなかった」と語り、軍命による悲劇であることを強調した。
金城さんは当時十六歳。「スパイ容疑で日本軍が住民や朝鮮人軍夫を処刑した。島に日本軍がいる中、米軍が上陸し、離島の狭い空間で精神的にも追い詰められていき、死につながった。軍隊のいたところでしか集団死は起きていない」と語った。
講話後のパネルディスカッションでは高嶋伸欣琉球大学教授、安仁屋政昭沖縄国際大学名誉教授、屋嘉比収沖縄大学准教授らが教科書検定の実態や沖縄戦の「集団自決」について議論を深めた。諸見里道浩沖縄タイムス社編集局長がコーディネートした。
高嶋教授は「沖縄がしっかり意思表示すれば、検定意見を変えさせることは可能だ」と述べ、検定撤回に向けた取り組みの必要性を訴えた。
フロアからの意見で、現職教員が「戦争体験に全く興味を示さない子どもたちがいる」と語るなど、風化が叫ばれる沖縄戦を継承する難しさがあらためて指摘された。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706031300_01.html
2007年6月3日(日) 朝刊 21・20面
厳しい真実証言/「歪曲」に危機感
「軍命がなければ住民は集団死を選ぶことはなかった」。体験者は静かに語り、「過去の歴史やいまの教育行政に対するうそを見逃さしてはいけない」と研究者が力強く呼び掛けた。二日、
「私が体験した時は十六歳の少年だった。あの生き地獄から六十二年間、今日まで生かされている」。渡嘉敷島でいわゆる「集団自決」を体験した金城重明・沖縄キリスト教短大名誉教授は、訥々と話した。
「兄と二人で母や弟、妹に手をかけ、自分たちの順番を待った」。重く、厳しい真実をどう話せばいいのか。考えが行きつ戻りつする。「決して自発的な死ではない。日本軍の命令、強制、抑圧によって死に追い込まれたんです」。一番伝えたい思いが、何度も口をついた。
パネルディスカッションでは高嶋伸欣琉大教授が、なぜ今年の検定で歴史教科書の「集団自決」の記述から「軍命による」の主語が消されたのか、背景を解いた。
文科省は「集団自決」訴訟を理由に挙げているが「訴訟は二年前に提訴された。安倍内閣の方針におもんぱかったのでは」と指摘、「教科書が印刷されるのは年末。県民が声を上げ、全国を動かせばまだ修正させることは可能」と呼び掛けた。
安仁屋政昭沖国大名誉教授は「合囲地境(自陣が陸海空ともに敵軍に囲まれている状態)」という言葉を引き合いに、軍命の存在を裏付けた。「『合囲地境の状況で、民政は存在しない』のが日本軍の常識だ。渡嘉敷、座間味はまさにこの状況だった。大局から見ればすべて軍命だった」と語った。
一九八二年の教科書検定でも、日本軍による沖縄戦での住民虐殺の記述が削られた。屋嘉比収沖縄大准教授は当時と現在の違いとして「戦争体験者が減少した沖縄社会の変化」を挙げた。
「非体験者がその次の世代にいかに沖縄戦を伝えるかが課題」と述べ、「八二年当時は教科書検定をきっかけに、県史が売り切れた。今回の危機も、沖縄戦を学び直す機会に」と提案した。
◇ ◇ ◇
聴衆「全国に届く機運を」
「この流れを止めなければ」「若い世代につなぐ教育とは」―。フロアの参加者からは、高校の歴史教科書から「軍関与」が消されたことへの憤りや、沖縄戦の事実を語り継ぐという重い課題について、さまざまな意見が聞かれた。
「沖縄戦に関心を持つ生徒と、そうでない生徒の二極化が進んでいる」。うるま市の高校教諭知念勝美さん(37)は語気を強めた。
学校現場で感じるのは、格差社会が進む中で、親に大事にされず、人とのかかわりが希薄な生徒が増えたことだ。「そんな子どもたちに沖縄戦の背景や証言者の話を聞かせても心に入ってこない。証言者が減っているという量の変化と同時に、若い世代の質の変化という現実を認識して対応することが大事だと思う」
バスガイドの仲間静香さん(32)=
「教科書検定はすきをつかれた」と指摘する
高校の社会科教員を目指す琉球大学四年の松田浩史さん(24)は「体験者の話で分からないことも多かった。疑問をきちんと自分なりに調べ、伝えることを常に意識していきたい」と語った。
市民団体、撤回へ意欲
文部科学省は二〇〇八年度から使用される五社七冊の日本史A、Bで「集団自決」について、日本軍の関与を記した申請段階の表現の削除・修正を教科書会社に求めた。
これまでは日本軍の関与を明記してきた教科書会社側も今回は、文科省の修正に応じた。
これに対し県内では反発が強まっている。仲井真弘多知事が「軍命」削除に疑義を唱え、県内の市町村議会では検定意見の撤回を求める意見書の採択が相次いでいる。公明党県本部も文科省を訪れ、検定意見の見直しを訴えた。
市民団体や労組は「沖縄戦の実相をゆがめる行為だ」と抗議。「沖縄戦の歴史歪曲を許さず、沖縄から平和教育をすすめる会」や沖教組、高教組が中心となって、軍関与を記した申請時の表現に戻すよう求めた。
「すすめる会」などは九日に五千人規模の「沖縄戦の歴史歪曲を許さない!沖縄県民大会」(主催・同実行委員会)を県庁前の県民広場で計画。
県議会に対し検定撤回の意見書決議を求めていく方針だ。
県議会は一九八二年に文部省(当時)が今回と同様に「住民虐殺」記述を削除しようとしたことに対し、全会一致で意見書を採択。記述を復活させた経緯がある。このため同実行委は県議会の動きに強い期待を寄せている。
市民団体などは、教科書が印刷され始める秋口まで「二段、三段構えで」運動を強め、「軍命」関与の記述の復活を目指していく。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706031300_02.html
2007年6月3日(日) 朝刊 1面
自民、意見書賛成せず/県議会での採択困難に
県議会最大会派の自民党は二日、文部科学省の教科書検定で沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に日本軍が関与したとする記述が、高校の歴史教科書から削除された問題に対する意見書で、「会派内で賛否が分かれ、意見が一致しなかった」として六月定例会で賛成しない方針を固めた。意見書採択は、全会一致が原則。最大会派が合意しないことで、六月定例会での意見書採択は厳しい状況になった。
五月三十日に開かれた自民党の議員総会では「集団自決は歴史的な事実であり、多くの証言がある。記述を修正すべきではない」という賛成意見が出た一方、「軍命の有無が係争中の裁判で焦点になっている段階での意見書は司法への政治介入になる」という反対があった。
中には「司法の判断が出ていない段階で、従来の記述を修正すべきではない」などとの賛成意見もあった。
総会で賛否が分かれたことで、伊波常洋政調会長が県連役員らの意見を聞き取った結果、「議員総会で意見が一致できない状況では、意見書採択に合意できない」と判断した。
同問題には、護憲ネット、社大結連合、共産党の野党会派は修正検定意見を批判。意見書採択を五月二十九日、具志孝助副議長に要請した。公明県民会議も賛成の意向だった。
意見書を審議、採決するため今月六日を軸に調整されていた文教厚生委員会(前島明男委員長)の臨時委員会も見送られる可能性があり、開会を求めていた野党の反発は必至だ。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706031300_03.html
2007年6月3日(日) 朝刊 20面
憲法守る決意 強くアピール/「9条の会・首里」1周年
九条の会・首里(代表世話人・垣花豊順弁護士ら)は二日、
集いでは映画「戦争をしない国日本」の上映後、
代表世話人の垣花さんは「今後もあらゆる機会に手を取り合い、息の長い活動をして行こう」と呼び掛けた。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706031300_08.html
琉球新報 社説
低周波音被害 元凶はほかにもあった
那覇地裁沖縄支部が実施した普天間爆音訴訟の現場検証で測定された低周波音は、環境省の参照値を超える数値が測定されていたことが明らかになった。
低周波音については、原告らをはじめ普天間飛行場の付近住民らが以前から指摘し、訴えてきた基地被害だ。住民を苦しめている爆音被害は、航空機騒音の環境基準であるWECPNL(うるささ指数)に加え、低周波音も恒常的に影響していることが科学的に裏付けられたことになる。
現場検証は、年度末に予定されている訴訟の判決に向け5月に実施された。測定ポイントは、
検証では原告と被告である国の双方が同じ種類の測定機器を用いて騒音や低周波音を計測。その結果、低周波音は4カ所のうち3カ所で92デシベルを超えていた。最大で97.5デシベルに達した。
低周波音は、人間の耳には聞こえにくいが、音は感じなくても頭痛や吐き気のほか、耳鳴りやイライラ、不眠など人体に影響を与えるとされる。環境省の「低周波音への苦情のための参照値」によると、心身に苦痛をもたらす低周波音のレベルは92デシベルである。この数値のほかにも周波数ごとに設定された参照値があり、4カ所すべてで参照値を上回っていた。
普天間飛行場の周辺地域のほとんどの人々は、日常的に深刻な被害にさらされているのである。
実際に一度でも体験すればすぐに分かることだが、ヘリ部隊が普天間基地周辺にまき散らす騒音は尋常ではない。
体を震わせるほどの重く低い音が屋内に響き、時に激しい騒音を発しながら離着陸や旋回が繰り返される。この異常さには何十年住んでも慣れることがない。
窓を閉めても屋内にこもるヘリの低周波音に襲われる。理不尽この上ない。住民を苦しめる元凶の排除は政治の責任だ。また司法はどう判断するのか、判決の行方も注視したい。
(6/3)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-24299-storytopic-11.html
2007年6月4日(月) 朝刊 18面
ジュゴンの会 目視調査/
米大学博士らが指導
【名護】米軍普天間飛行場の移設先、
同会では昨年十一月から辺野古周辺海域で実施している調査の試行で、数カ所のジュゴンの海草の食み跡を確認している。同日はボランティアダイバーを募集し、「マンタ法」と呼ばれる時速三キロ程度で進む船からダイバーをえい航して、ジュゴンの餌である藻場の目視によるモニタリング調査を実施。米サンフランシスコ州立大学のエレン・ハインズ博士らが指導した。
鈴木代表は「市民の手で具体性のある科学的な調査をしないと、ジュゴンを保護できない。これまでの試行の結果なども踏まえて専門家と協議し、今後の方針を決めていきたい」と話した。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706041300_04.html
沖縄タイムス 社説(2007年6月4日朝刊)
[「集団自決」と軍命]
「魂の叫び」に応えたい
「軍が駐留した島で起きた」
「あの悲劇は、決して自発的な死ではない。軍隊が駐留していた島でしか起きていない。日本軍の命令、強制、抑圧によって死に追い込まれたのです」
十六歳の時、生まれ故郷の渡嘉敷島で「集団自決」を体験した金城重明氏(沖縄キリスト教短期大学名誉教授)は、言葉を一つずつかみしめるように静かに語った。
文部科学省の教科書検定で沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」の記述から「軍命」削除を求める検定意見がついた問題で二日、
金城氏は「皇軍の支配は一木一葉に至るまで及んだ。軍の命令以外に住民の死はあり得なかった」と、あらためて軍命があったことを証言した。
沖縄戦の悲劇の極みとも言うべき「集団自決」は、米軍が上陸した一九四五年三月二十七日をはさんで、二十六日に慶良間諸島の座間味島と慶留間島で、二十八日に渡嘉敷島で起きた。
三つの島々で約七百人の住民が犠牲になったが、金城氏は日本軍の海上挺身隊が配備された島々でしか、集団自決が起こっていないことを強調している。
日本軍の命令があったかどうかについては、大阪地裁で係争中の訴訟で元戦隊長から軍命を否定する意見陳述がなされている。
しかし、軍命の物的証拠がないからといって「強制はなかった」と言い切れるのかどうか。
集団死には、当時の住民が軍や官と運命を共にする「共生共死」や「鬼畜米英」への恐怖心、「生きて虜囚の辱めを受けず」(戦陣訓)の軍国思想などさまざまな要因が複雑に絡んでいる。
沖縄戦では、方言を使っただけでスパイ行為をした者として死刑になるなど虐殺された住民も少なくない。
軍の命令があったかなかったかは、必ずしも言葉による命令があったかなかったかだけで決められるものではないことを見落としてはなるまい。
強制された「軍民共生共死」
軍は「米軍の捕虜になるな」と命令するとともに、「いざという時」のために、住民に手りゅう弾を配っていたという証言が数多くある。
そうした状況下で米軍が上陸し、住民が手りゅう弾などで自決したことは、まさに日本軍の強制、誘導があったと言ってしかるべきだ。
安仁屋政昭・沖縄国際大学名誉教授は「合囲地境」という旧戒厳令の用語を使って、軍命の存在を指摘した。
陸海空ともに敵の包囲、攻撃などに直面した状態で、「軍民共生共死の一体化が強制された」と指摘している。
軍の圧力や誘導がなければ、集団死も起こらなかったとみることができる。
高嶋伸欣琉球大学教授は「沖縄がしっかり意思表示すれば、検定意見を変えさせることは可能だ」と述べ、検定撤回に向けた取り組みの必要性を訴えた。
県内の市町村議会では「軍命」削除に異議を唱え、検定意見の撤回を求める意見書の採択が十市町村を上回り、今後も増える見通しだ。
四日には、
「教科書から歴史的事実を削らせてはいけない」という子どもたちのけなげな訴えに、土砂降りの雨が上がり、明るい日が差したような安堵感がわいてくる。
「政治介入」と自民反対
だが、県議会最大会派の自民党は「会派内で賛否が分かれ意見が一致しなかった」として六月定例会で検定意見の撤回には賛成しない方針だ。
「軍命の有無が係争中の裁判で焦点になっている段階での意見書は、司法への政治介入になる」と、反対意見があったという。
県議会は、八二年に文部省(当時)が今回と同様に「住民虐殺」の記述を削除しようとした際、全会一致で意見書を採択、記述を復活させた経緯がある。
県民の自治に関する意思決定機関であり、県民意思を代弁し、行動する意味は重い。
屋嘉比収沖縄大学准教授は「今回の教科書検定を「沖縄戦を学び直す機会にしたい」と提案した。
軍命関与の真実を究明し、無残にも自決した人たちの「魂の叫び」に応えたい。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070604.html#no_1
2007年6月4日(月) 夕刊 5面
南城・宮古島議会 決議/「集団自決」軍関与削除
【南城・宮古島・久米島】南城市議会(川平善範議長)は四日午前、六月定例会初日の本会議で、文部科学省の検定で高校の歴史教科書から沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に日本軍が関与したとする記述が削除された問題に対して、検定意見の撤回を求める意見書を全会一致で可決した。
宮古島市議会(友利恵一議長)も同日午後、全会一致で可決した。県議会最大会派の自民党は会派内で賛否が分かれているとして賛成しない方針とされるが、同市議会最大会派の自民党七人は賛成した。
また、
南城市議会は、沖縄戦の「集団自決」について「日本軍による命令、強制、誘導などなしに起こり
得なかったことは紛れもない事実だ」と指摘した。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706041700_04.html