沖縄タイムス 関連記事・社説(6月13日)

2007年6月13日(水) 朝刊 2面

 

 

「見切り発車」反発も/金武町長ヘリパッド受諾

 

 

 儀武剛金武町長は十二日、米軍ギンバル訓練場の返還条件となっているブルービーチ訓練場へのヘリパッド移設を「苦渋の選択」で受け入れると表明した。日米特別行動委員会(SACO)で返還のめどとしていた一九九七年度末から、約十年越しとなる地元自治体の了承で、焦点はギンバル訓練場の跡地利用に移った。政府内には安堵感が広がり、在日米軍再編を後押しするとの見方もある。しかし、地元・並里区の根強い反発など、わだかまりを残したままの「見切り発車」との声もあり、先行きは不透明だ。

 

 

同意得られた

 

 

 「SACO事案は地元の同意がすべて得られたことになる」

 

 

 儀武町長の「受け入れ表明」に防衛省幹部は声を弾ませ、「住民の代表者、責任者としての発言だ」と強調。返還に向けた米側との具体的な調整を加速する考えだ。

 

 

 一方、政府内にはギンバル訓練場の返還問題は「在日米軍再編の障害だった」(政府関係者)との見方もある。

 

 

 同問題に手を割かれ、米軍再編最終報告に盛り込まれた米軍キャンプ・ハンセンの共同使用について同町との調整が遅れていたとして、「今度は共同使用だ」(同)と次の課題を模索する動きも出ている。キャンプ・ハンセンに機能統合される浦添市の牧港補給地区など、嘉手納以南の基地返還にも追い風となるとして期待が広がっている。

 

 

「異例の配慮」

 

 

 「これで財政当局と調整に入れる」

 

 

 内閣府沖縄担当部局幹部は、儀武町長の「受け入れ表明」が、ギンバル訓練場の跡地利用事業を二〇〇八年度予算に計上する上で、財務省を説得する大きな「切り札」になるとの認識を示す。

 

 

 防衛省と内閣府はギンバル返還条件に関する町からの要望に対し、口頭ではなく文書を送付する「異例の配慮」(内閣府幹部)をした。文書が同じ日に町役場に届くよう、文書の日付や東京からの発送日も足並みをそろえた。

 

 

 幹部は「並里区を説得する根拠として、文書が儀武町長の判断を後押ししたのだろう」と述べ、安堵感をにじませた。

 

 

島田懇最終年

 

 

 内閣府は今後、財務省の査定に耐え得る実行可能性の高い跡地利用計画を目指し、担当者は「これからが重要」と気を引き締めている。

 

 

 「基地経済からの脱却」を公約に掲げる儀武町長にとって、跡地利用の大きな財源である「米軍基地所在市町村活性化特別事業」(島田懇談会事業)の期限切れを本年度末に控える中、夏場の〇八年度予算概算要求前の六月定例会が受け入れのタイムリミットだった。

 

 

 今年四月から住民説明会を七回開いたが、基地被害の増大を懸念する声が相次ぐ一方で、財源確保を危惧する意見も出るなど意見の集約は一向に図られなかった。

 

 

 儀武町長は受け入れ表明後、記者団に「町内に移設してほしくないのが本音。しかし、基地の整理・縮小の中で、返還するのは今しかないというタイミングだった」と、苦しい胸の内を語った。

 

 

 しかし、与那城直也並里区長は「訓練場の減少で、町外から見たら負担軽減かもしれないが、住民にとっては負担増でしかない」と強調。いまだ住民の反発は根強く、今後の町の対応次第では、返還作業に影響を及ぼす可能性も残っている。(東京支社・島袋晋作、吉田央、北部支社・屋良朝輝)

 

 

町議会が容認決議へ

 

 

 【金武】米軍ギンバル訓練場の返還問題で、金武町議会(松田義政議長)は十二日、返還条件となっている町内ブルービーチ訓練場へのヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の移設受け入れを儀武剛町長が表明したことを受けて、開会中の六月定例会で容認決議の検討に入った。十三日の定例会後、全員協議会を開いて協議し、十四日の最終日の決議を目指す。

 

 

 儀武町長は「日米特別行動委員会(SACO)最終合意に基づき、基地の整理・縮小という観点から、ギンバル訓練場の返還条件を受け入れ、跡地利用計画推進を図っていくことを決断した」と、受け入れを表明した。

 

 

 これを受けて複数の町議から「町長の表明を、議会として後押しする必要がある」との意見が出されたため、町議会では容認決議の検討に入ることを決めた。

 

 

 松田議長は「これまで十年間、紆余曲折があったが、町長は政治家として判断すべきだったし、しかるべき判断をしたと思う」と、町長の受け入れ表明を評価した。

 

 

 一方、仲間政治軍特委員長は「住民の合意をまだ得られていない」と指摘。防衛省がヘリパッドの移設先に、撤去可能なランディングマットを敷くとしたことについて「マットを敷いても、演習が固定化・強化される可能性はある」と話し、儀武町長の受け入れ表明に異議を唱えた。

 

 

[解説]

求められる説明責任

 

 

 儀武剛町長が、ブルービーチ訓練場への米軍ヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の移設を条件とする米軍ギンバル訓練場の返還条件の受け入れを表明した背景には、一九九六年に日米特別行動委員会(SACO)で示された返還を進めたい政府と、ギンバル跡地利用による地域活性化や「基地負担軽減」につながるとみる町側の思惑が一致したためだ。SACO合意で返還のめどとされた九七年から十年。儀武町長が条件を受け入れたことで、ギンバル返還は大きく動きだした。

 

 

 しかし、ブルービーチに隣接する並里区(与那城直也区長)は、米軍ヘリによる騒音被害増大への懸念などからヘリパッドの移設に反対しており、住民の不安を解消するための説明が求められる。

 

 

 SACOでは、演習の障害になる岩やさんご礁も少なく、米海兵隊の水陸両用車やホーバークラフトを使った上陸訓練に本島内で最も適し、キャンプ・ハンセンとの連動した訓練が望めると、ブルービーチへのヘリパッド移設を米軍が望んだ。

 

 

 しかし、並里区や町議会はこれまでに、移設反対の決議や要請などを行っており、地元の合意が得られずに返還作業は進まなかった。

 

 

 儀武町長は今年、各区で開かれた住民説明会の中で「返還条件を認めることで、町内の基地負担軽減になる。基地依存経済から脱出するチャンスだ。このまま何もしないことは、基地や訓練がそのままでいいという誤ったメッセージと受け止められる」と訴えていた。

 

 

 町民からは、跡地利用で先端医療センターやホテルの建設が計画されていることから、雇用創出に期待する声もあり、儀武町長は百二十百五十人の雇用を見込んでいる。移設先の負担増加への懸念をどのように解消するのかを示すと同時に、跡地利用による地域活性化の具体的なビジョンを示し実現する重い責任が、儀武町長に課される。(北部支社・屋良朝輝)

 

 

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706131300_04.html

 

 

2007年6月13日(水) 朝刊

 

 

「集団自決」削除/元文科相「おかしい」

 

 

 【東京】自民党の教育再生に関する特命委員会(委員長・中山成彬元文部科学相)が十二日、党本部で開かれ、文部科学省が二〇〇六年度教科用図書の検定結果を説明した。県選出の仲村正治、嘉数知賢両氏が、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の関与を高校歴史教科書から削除したことを厳しく批判。中山委員長は会合終了後、記者団に「沖縄の二人から身につまされる話があった。教科書は(中国など)外に弱くて内に強く、私に言わせればおかしい」と同調した。

 

 

 会合では鈴木恒夫氏など他の委員からも、県関係議員の発言に同調する意見が出た。今回は委員会としての結論や方向性は出さず、来週中に再度、会合を開く。

 

 

 中山委員長は南京大虐殺を例に「(死者数)三十万人なんて(史実は)ない。それを(歴史教科書で)否定すればいいのに、(沖縄戦での軍命による)殺し合いを否定するなんておかしい」とも述べた。

 

 

 沖縄戦体験者の仲村氏は「理性を失った軍隊が(住民に)『捕虜になる前に死ね』と強要したのは事実。事実は事実として(教科書に)記述して後世に伝え、二度と過ちを起こさないことが大切だ」と軍関与の記述削除を批判した。

 

 

 嘉数氏も「米軍に捕まったら女性は強姦され男性は八つ裂きにされるということで、日本軍が(住民に)手りゅう弾を渡し、集団自決に追い込まれた。自分たちで自主的に死んだことはあり得ない」と語気を強めた。

 

 

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706131300_05.html

 

 

2007年6月13日(水) 朝刊 29面

 

 

燃料流出/連絡ルート機能せず

 

 

 米軍嘉手納基地で大量のジェット燃料が流出し地元への連絡が遅れた問題で、嘉手納町議会(伊礼政吉議長)は十二日、同基地や那覇防衛施設局、県庁を訪ね、事故原因の究明と調査結果の公表、再発防止の徹底、迅速な情報開示などを求めて抗議、要請した。

 

 

 施設局の池部衛次長は、連絡の遅れについて「米軍から施設局に直接連絡するルートもあるが、今回は機能しなかった」と説明。

 

 

 佐藤勉局長が六日に第十八航空団に改善を申し入れた結果、米軍から「今後は密な連絡体制で通報したい」と返答があったという。

 

 

 環境調査については「県から十一日に環境調査の要望があり、これから文書で米軍に意向を伝える」と述べた。

 

 

 町議会基地対策特別委員会の田仲康榮委員長は、県の上原昭知事公室長に対し「今回故障したタンクとは別に、ほかのタンクの調査も含め結果を出すよう要請してほしい。地元だけの力では弱いので、県からも強く申し入れてほしい」と要請した。

 

 

全水道が抗議

 

 

 全水道県企業局水道労組の当真亨委員長らは十二日、那覇防衛施設局を訪ね、米軍嘉手納基地で大量のジェット燃料が流出したことに抗議し、県の機関による基地内立ち入り調査の実施、原因の究明と公表などを求めた。

 

 

 当真委員長は「流出した燃料が地下に浸透して、地下水を汚染するかもしれない。立ち入り調査で実態を把握できるようにすべきだ」と訴えた。

 

 

 対応した又吉利夫連絡調整室室長補佐は、「当局としても、県の立ち入りについて、側面支援する予定」と語った。

 

 

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706131300_06.html

 

 

2007年6月13日(水) 朝刊 28面

 

 

祈りの日へ平和祈念像浄め

 

 

 【糸満】二十三日の「慰霊の日」を前に、糸満市摩文仁の沖縄平和祈念堂で十二日、平和祈念像のほこりを払う恒例の「浄め」が行われた。作業には約三十人が参加。一時間ほどの作業で平和希求の象徴として知られる漆塗りの平和祈念像に一層の光沢が戻った。

 

 

 恒例の作業は毎回、沖縄バスの新人ガイドらが手伝っているが、今回初めて、県の工芸技術支援センター(南風原町)の研修生ら九人も参加。互いに仕事を分担しながら高さ十二メートル、横幅八メートルの漆塗りの像や台座に上り、布で丁寧に汚れをふき取った。

 

 

 新人バスガイドの山下裕理さん(22)=宜野湾市=は「初めて作業に参加したが、観光客を案内するガイドが平和を発信する祈念像をきれいにすることは意味があると思う」と話した。

 

 

 同祈念堂では二十二日午後七時から沖縄全戦没者追悼式前夜祭が行われる。

 

 

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200706131300_08.html

 

 

沖縄タイムス 社説(2007年6月13日朝刊)

 

 

[米艦船寄港通知]

 

 

既成事実化を許すな

 

 

 米軍が掃海艇二隻の与那国町への寄港を県に通知した問題で、外間守吉町長は住民感情や周辺の石垣市、竹富町などの意向を踏まえ反対する意向だ。当然である。

 

 

 関係自治体の足並みはそろっている。県は緊急時以外の使用を自粛するよう米軍に要請。「平和港湾宣言」をしている大浜長照市長は「県の自粛要請を無視することがあってはならない」、大盛武町長は「与那国と台湾との交流に影響が出る」と反対している。

 

 

 米軍は二十四二十六日、県管理の祖納、久部良の両港への寄港を通知。目的は「友好親善」と「乗組員の休養」。これを額面通りに受け取る人は誰もいない。米軍はいざというときの港の使い勝手を実際に入港して試しているとみるのが自然だ。むしろその方が主目的かもしれない。

 

 

 与那国町は五月に姉妹都市の台湾・花蓮市に行政連絡事務所を開設したばかり。住民団体が「せっかく築いてきた花蓮市との友好関係をないがしろにする」と懸念するのはもっともだ。

 

 

 外間町長は政府の二重基準を批判する。町長は台湾のチャーター船の入港を要請しているが、政府は出入国管理施設などの未整備などを理由に認めていない。「同じ港でも台湾は駄目で、米軍は入港できるというのはおかしい」。これまた誰もが持つ疑問だ。

 

 

 米軍艦船の国内民間港への寄港は日米地位協定五条が根拠。民間飛行場も使用できる。ここでも米軍優先の日米地位協定が顔をのぞかせる。

 

 

 米側は「乗組員を町長宅のパーティーに招待してほしい」と依頼したというから開いた口がふさがらない。招待は相手から歓迎されてなされるもので、無理強いするものではない。

 

 

 米軍が寄港を強行しても、「友好親善」にはつながらない。地元の声を無視し、横暴と取られるばかりで、損得勘定からも割が合わないはずだ。

 

 

 与那国町は台湾を望む国境の島である。米軍は潔く計画を撤回して国境に無用な波風を立たせないでほしい。政府も米軍に再考を促すべきである

 

 

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070613.html#no_2

 

 

沖縄タイムス 社説(2007年6月13日朝刊)

 

 

[ギンバル返還]

 

 

根本的解決にはならぬ

 

 

 金武町の米軍ギンバル訓練場の返還問題で、儀武剛町長は返還条件となっている町内のブルービーチ訓練場へのヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の移設受け入れを表明した。

 

 

 ギンバル訓練場の返還は、一九九六年十二月の日米特別行動委員会(SACO)で最終合意されたが、既存のヘリパッドをブルービーチ訓練場へ移すことが条件となった。

 

 

 ヘリの離着陸訓練に伴う騒音や事故の危険性もブルービーチ訓練場へ移ることになり、周辺住民には新たなリスクが生じる。

 

 

 基地機能の「たらい回し」は、一方の住民を基地負担から解放しても、新たに移設先の住民を苦しめることになり、根本的な解決にはならない。

 

 

 儀武町長は、受け入れを表明した町議会六月定例会で「大変苦渋の選択であるが、約六十ヘクタールの基地の整理・縮小が進み、跡地利用事業で基地依存経済から脱却して自立経済を進めることにつながる」と述べた。

 

 

 その上で、受け入れ理由の一つとして、同町がギンバル訓練場跡地で予定している「ふるさとづくり整備事業」の財政支援について、内閣府が引き続き支援すべく、二〇〇八年度予算概算要求に盛り込むとの文書を得た。

 

 

 もう一つは「ヘリパッドは撤去可能なものとし、移設後の周辺住民の生活に配慮する」とした防衛省の通知があったことを挙げた。

 

 

 ギンバル訓練場には、復帰前、中国全土をにらんだ核ミサイル「メースB」が配備されていた。

 

 

 人類を脅かす核基地が復帰後三十五年たち、自立経済を図るために平和利用されることには感慨深いものを感じる。地元住民や県民にとっても異存はあるまい。

 

 

 問題は、ヘリパッドの移設先の住民

 

 

をヘリの騒音や事故の危険性からいかに守り、「平和的生存権」を担保できるかだ。

 

 

 ブルービーチ訓練場は、米軍の強襲上陸作戦場であり、今後、ヘリ訓練の増加は避けられまい。

 

 

 最も隣接する並里区は、既に一九九六年と二〇〇六年にヘリパッド移設への反対決議をしており、今後の対応が注目される。

 

 

 ギンバル訓練場を含めSACOで返還合意された十一施設は、普天間飛行場や那覇軍港、牧港補給地区などそのほとんどが県内移設条件付きである。

 

 

 しかし、SACO合意がすべて実施されても、県内にはなお在日米軍専用施設の約70%が残る。過重負担にそう変わりはないことも、あらためて認識しておきたい。

 

 

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070613.html#no_1

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