沖縄タイムス 社説、琉球新報 社説(6月24日)

沖縄タイムス 社説(2007年6月24日朝刊)

 

 

[非戦の誓い]

 

歴史をどう語り継ぐか

 

 

「今だからこそ」歩かねば

 

 

 梅雨が明け、早くも真夏の強い日差しが糸満市摩文仁にある平和の礎や魂魄の塔を照らし、糸満市役所に隣接する市民広場にも降り注いでいた。

 

 

 ことしの慰霊の日はいつもの鎮魂の日とは様相を異にし、緊迫した空気が漂った。広場を出て平和祈念公園までの九キロを歩く、県遺族連合会の平和祈願慰霊大行進参加者の表情を見て、そう感じざるを得なかった。

 

 

 午前九時。「さぁ出発しましょう」の声とともに一歩を踏み出す。

 

 

 遺族会の行進はことしで四十六回目。沖縄戦で亡くなった親や兄弟、姉妹そして親類、友人のことを思い出しながら、平和を誓う行進だ。

 

 

 六十二年前の六月。南部の地は米軍に追われて敗走する日本軍と、それを追うかのように逃げ惑う非戦闘員が入り交じり、数多くの悲劇を生んだ。

 

 

 「沖縄戦の体験者は高齢者が多い。ことしは参加者が減ったのでは」という声が聞こえる。一方で「そのお年寄りが今回はいつもの年よりも多いような気もする」との声も耳に入る。

 

 

 ひ孫の手を引いて一歩一歩、静かだが、それでも腰や膝に力を込めて歩みを進める老夫婦。隣には、三人を見守るかのように寄り添う若い母親の姿も見える。

 

 

 「さぁ頑張って。戦争中はみんな大変だったんだよ」と、一緒に歩む子どもに話し掛けるおばあさん。しかし、歩を進める多くは、黙々と目的地を目指す。

 

 

 ひめゆりの塔が近くなると行程は半ばを過ぎる。額には大粒の汗が浮かび、シャツやズボンは濡れそぼる。行進団の声が次第に沈み、重くなる。

 

 

 戦争中は梅雨の真っただ中であったはずだ。ぬかるんだ原野と艦砲射撃で荒れ果てた畑地を赤ん坊やお年寄りを背負い、手を引き、迫り来る恐怖と戦っていたことを考えれば、きれいな歩道を歩くのは苦にならない。

 

 

 行進は当時の追体験でもある。参加者それぞれの思いを胸に激戦の地を歩み、命の尊さを思う。「もう年だから大変さぁ。でも、おかしくなってきているよ。あんな世の中は嫌だからねぇ。だからいま歩くんだよ」。小さく聞こえた声が頭の中で大きく響いた。

 

 

沖縄戦の実相胸に刻もう

 

 

 平和の礎にはことし五人の韓国人名が新たに刻まれた。県外の沖縄戦戦没者百六十六人、県内は六十四人だ。

 

 

 米国が一万四千八人、韓国三百五十一人、英国と北朝鮮がそれぞれ八十二人、台湾三十四人。刻銘者の総合計は二十四万六百九人に上る。

 

 

 関係者が刻印された礎の前で献花し、線香をたく。名前をきれいにふいたあと供え物をし、静かに手を合わせる。死者への語り掛けは長い。涙をぬぐった後、また名前に手を添える。

 

 

 礎にたたずむ吉川嘉勝さん(68)も渡嘉敷島で「集団自決(強制集団死)」の場にいた一人だ。

 

 

 「『集団自決』への軍関与を削らせないのは県民の総意。安倍晋三首相には、沖縄戦の実相を見て、県民の怒りを肌で感じて帰ってほしい」

 

 

 これは県民誰もが持つ気持ちであり、多くの体験者の証言によって明らかにされた史実といえよう。

 

 

 しかし、戦争が終わって六十二年。ことしの教科書検定では高校歴史教科書の「集団自決」から「軍命」が削除された。沖縄では「歴史を改ざんしようとする」文部科学省への怒りと不信感がわき起こっている。

 

 

 慰霊の日は、私たち一人一人が沖縄戦の実相をいま一度振り返り、真実はどこにあるのかを学ぶ良い機会になっている。

 

 

歴史の歪曲は禍根を残す

 

 

 沖縄全戦没者追悼式に参列した安倍首相は、「集団自決(強制集団死)」から旧日本軍の関与が削除された問題について「(教科書検定は)教科用図書検定調査審議会が学術的な観点から検討している」と述べた。

 

 

 だが、首相が言う学術的観点とは何か。体験者の証言は学術的資料になり得ないと思うのなら、自身の歴史観とともに正直に示すべきではないのか。

 

 

 繰り返すが、県民にとって沖縄戦の“真実”は一つと言っていい。なぜ首相がそのことに目を向けようとしないのか。それが不思議でならない。

 

 

 子どもたちに教えなければならないのは歴史の真実だ。歪曲した歴史を教えたのでは将来に禍根を残す。

 

 

 沖縄戦の記憶を背景にした“非戦の誓い”をどう継承し発展させていくか。私たちはいま、歴史の大きな岐路に立っていることを自覚したい。

 

 

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070624.html#no_1

 

 

琉球新報 社説

 

復帰35年沖縄宣言 強い気概を持ち自立を

 

 本土復帰から35年。本土化の流れがほぼ定着し、価値観が多様化する中で、県民が心や思いを等しくし認識を問い直す機会の一つが「慰霊の日」である。

 慰霊の日のきのう、県内各地では、激烈な沖縄戦で犠牲になった戦没者のみ霊を慰め、非戦を誓う老若男女の変わらぬ姿があった。

 その慰霊の日に向けて、有識者ら50人の連名で「復帰35年・沖縄宣言」が発表された。

 提唱者は、大学教授、作家、工芸家、音楽家、実業家、弁護士など職業の枠や党派を超えた多彩な顔ぶれである。

 宣言全文を共通して貫いているのは、今の沖縄の姿を憂い、平和な生活に直結する自立への気概などを、強く持つよう求めたことなどだ。

 宣言は、まず沖縄戦から学んだ教訓である「命どぅ宝」に触れた後で、「人間の尊厳」の重さを説き起こしながら平和や自治や自立の確立を呼び掛ける。

 批判の切っ先は、米軍再編による日米両政府からの強権的な押し付け、自衛隊を投入した住民運動への威圧、高校教科書検定にみる歴史の歪曲(わいきょく)など最近起きた一連の問題に及ぶ。

 「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍政権の発足以来、改憲論議が急ピッチだ。平和憲法に関連して、宣言は「沖縄住民は悲願である『平和・主権・人権』を享受するはずであった」とし、基本的人権を脅かす政治、社会の現実に異を唱える。

 提唱者らの自省も込められているのだろうか。重要な事項が他律的に決定されることにも、宣言は容赦ない。

 米軍統治時代を象徴する語り草にもなっている、当時の高等弁務官による「自治神話」論を引き合いにこう説く。

 「自ら治めようという気概のない限り、『自治は神話』のままに陥ることを憂慮し、ここにあらためて沖縄自身が決める重要性を深く認識する」

 現実の波に流されるだけでは理想が遠のく。宣言が訴え掛ける意味・意義を考えてみたい。

 

 

(6/24 10:07)

 

 

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-24877-storytopic-11.html

 

 

琉球新報 社説

 

ヒル次官補訪朝 非核化の道筋を確実に

 

 北朝鮮の核開発問題をめぐる動きが慌ただしくなってきた。この勢いで「初期段階の措置」が履行され、次のステップである「核の無能力化」へと一気に突き進むのだろうか。国際社会の耳目が集まる。

 情勢変化のきっかけは、凍結された北朝鮮資金の送金手続きの完了に続く米高官の電撃訪問だ。6カ国協議の米首席代表を務めるヒル国務次官補が21日、滞在中の日本から急きょ北朝鮮を訪れた。米国務次官補の訪朝は2002年のケリー氏以来である。

 訪朝後に韓国・ソウルに立ち寄り記者会見したヒル氏は、北朝鮮が寧辺の核施設の稼働停止・封印を「速やかに履行する」との意思を示したと述べ、米朝協議の成果を強調した。

 だが対北朝鮮外交では、額面通りに受け取れないもどかしさが付きまとう。「速やかに」と表明しながら、往々にして引き延ばし戦術に出ることも少なくない。楽観できない側面があるのは否定できない。しかし、核施設の稼働停止や封印は2月の6カ国協議での合意である。本来なら2カ月前に履行されていなければならない。

 北朝鮮は今度こそ即刻約束を実行すべきだ。それが当事国に求められる誠意ではないか。

 ヒル次官補によると、北朝鮮は次の段階となる各施設の「無能力化」についても「準備ができている」と前向きな姿勢を示し、具体的手続きをめぐって一部意見交換したとも語っている。

 過剰な期待や予断は置くとしても、ヒル氏の訪朝が北朝鮮側の招請で実現していることなどからみて、北朝鮮側に現状を突き動かしたい意思があるのはまず間違いないだろう。

 予想される今後の動きとしては、国際原子力機関(IAEA)の先遣隊となる実務代表団が26日に平壌入りし、初期段階措置に向けた準備協議後、7月半ばに査察要員が北朝鮮に入る予測だ。7月後半には6カ国協議が開催される公算が大きくなっている。

 2月の6カ国協議再開は、その直前のベルリンでの米朝協議が伏線となった。同様に、米朝間の信頼醸成に向けた動きが今回の情勢変化の背景にある。

 泥沼化のイラク問題で身動きできない米国には、外交面でポイントを稼ぎたい政権事情がある。北朝鮮側には「テロ支援国家」の指定解除などの思惑が働いているのだろう。

 ただ忘れてならないのは6カ国協議の役割だ。日米韓中ロはこの機をとらえ、連携を強め、北朝鮮の非核化への道筋を確実にしたい。日本にとっては、拉致問題の進展、解決につなげるためにも一層の努力、各国との連携協力が欠かせない。

 

 

(6/24 10:08)

 

 

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-24878-storytopic-11.html

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