沖縄タイムス 関連記事、琉球新報 社説(8月4日、5日)

2007年8月4日(土) 朝刊 1・27面

研究者団体 撤回決議へ/「集団自決」修正

会員3千人歴教協大会 検定問題討議も

 全国の小・中・高校・大学の歴史教育研究者らでつくる歴史教育者協議会(石山久男委員長)は四日午前、神戸市で第五十九回全国大会を開き、高校歴史教科書の沖縄戦の記述から「集団自決(強制集団死)」への軍の関与が削除・修正された文部科学省の検定意見撤回と記述回復を求める決議を採択する。

 同会は約三千人の会員で構成する国内最大規模の歴史教育者らの研究団体。一九八二年の教科書検定では沖縄戦の「住民虐殺」の記述が削除された際、同様の決議を行っている。

 実教出版「高校日本史B」で執筆した石山委員長は「沖縄県民や全国の歴史研究者が抗議しても文科省は態度をあらためようとしない。決議が沖縄の運動を支える一助になってほしい」と期待。その上で「文科省への申し入れや教科書会社、他の教科書執筆者に呼び掛け、記述の訂正を求めていきたい」と話した。

 県歴史教育者協議会の平良宗潤委員長は「決議は県民の怒りや抗議が正当なものであることを示している。全国の歴史教育研究者が支持してくれることは励ましになる」と語った。平良委員長ら五人が出席、平和分科会などで教科書検定問題について報告する。

 決議案は、今回の検定について「強制と誘導という事実をかくし、『集団自決』を住民の自発的なものであるかのように書き直させたことは、歴史研究を踏みにじり沖縄県民が体験し継承させてきた歴史の事実を抹殺する」と糾弾。「戦争と軍隊を美化し、海外で戦争する『日本軍』の復活を目指す憲法改悪につなげようとする意図から発したものだといわざるを得ない」と批判している。


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「集団自決」授業法紹介/県教育者協が機関誌


 県歴史教育者協議会(平良宗潤委員長)はこのほど、高校歴史教科書の検定で沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」の記述から軍関与が削除・修正された問題について、研究者や教科書執筆者らの論文、授業法などをまとめた機関誌「歴史と実践」を緊急出版した。

 同書は七部構成で、県内外の沖縄戦研究者や教科書執筆者による座談会、論文を集録。軍関与が削除・修正された背景や記述の回復などについて論じている。

 軍関与が削除・修正された検定後の教科書や、六月に開かれた検定意見撤回を求める県民大会などを例に、子どもたちに今回の問題を考えてもらうための授業実践法や「集団自決」があった座間味村や渡嘉敷村のフィールドワークを紹介。県内各地で発生した「集団自決」に関する県史や市町村史の証言リストなどもまとめられている。

 三日、県庁記者クラブで会見した平良委員長らは「授業での実践や資料集として多くの人に活用してもらいたい」と話した。

 同書は千円、三千部を発行した。問い合わせは同協議会機関誌担当、ファクス098(834)5830。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200708041300_01.html

 

2007年8月4日(土) 朝刊 27面

ジュゴン 絶滅危惧種/環境省「リスト」に初

 環境省は三日、絶滅の恐れのある野生生物の「レッドリスト」の改訂版に沖縄近海に生息するジュゴンを初めて掲載、最も高い絶滅危惧1A類に分類した。成体の個体数は五十頭未満と推定した。生息地で計画されている米軍普天間飛行場代替施設の建設について、同省は「指定も踏まえ、今後の環境影響評価で適切に対応されるものと考えている」との見方を示した。このほか、イリオモテヤマネコも1B類から1A類に危険度が上がった。

 哺乳類のレッドリスト見直しは九年ぶり。同省によると、海に生息する哺乳類は原則としてリストの対象外だが、ジュゴンは陸地近くの浅い海域で海草を食べることから、今回新たに評価の対象とした。「引き続き漁業者などの協力も得ながら保護を進めたい」と話した。

 絶滅危惧指定について、ジュゴンに詳しい沖縄美ら海水族館の内田詮三館長は「保護に向け具体的な一歩を踏み出すきっかけになれば意義がある。環境省、水産庁、防衛省をはじめ、自治体や研究者を網羅したプロジェクトチームを立ち上げ、保護区設定を含めて検討すべきだ」と指摘した。

 このほか沖縄の生物では、イリオモテヤマネコが最近の調査で個体数の減少傾向が見られるとして、1B類から1A類に。イリオモテコキクガシラコウモリは2類から1B類になった。

 また、南西諸島の魚類が大幅に評価対象に加えられ、カワボラやコゲウツボは評価対象外から1A類に危険度が上がった。

 植物では、1A類指定のヒメヨウラクヒバなどで、知られていた個体群が絶滅したと報告された。

 今回結果を公表した見直しでは、哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物の計約七万種について評価。新たに七百二種を追加、二百八十七種を指定から外し、絶滅危惧種は二千九百五十五種となった。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200708041300_02.html

 

2007年8月4日(土) 朝刊 27面

汚染土壌を撤去/北谷米軍油流出

 【北谷】北谷町の米陸軍貯油施設からディーゼル燃料が流出した問題で、米軍は三日、燃料が漏れ出た小型タンク周辺の汚染土壌を撤去した。流出現場は二〇〇三年に返還されたキャンプ桑江北側部分の跡地で、地主は「返還した時点でタンクを撤去していたら、燃料の流出事故も起きなかった」と批判している。

 那覇防衛施設局によると、流出量や原因は米軍が調査中。米軍が二日に撤去した小型タンクは、町内の米軍基地で保管している、という。米軍はショベルカーで汚染土壌を掘り起こし、ダンプに積み込んで回収。コンクリート製の土台も撤去され、ビニールシートで覆われた。北谷町の野国昌春町長は「流出量や発生原因などを確認した上で、週明けに今後の対応を決めたい」としている。

 キャンプ桑江北側部分の地主で、北谷町軍用地等地主会の玉城清松副会長は「これまでも多くの銃弾や油送管が見つかるなど、跡地利用はスムーズには進んでいない。燃料流出は区画整理の障害になり得るものであり、国はきちんと対応してほしい」と訴えた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200708041300_05.html

 

2007年8月4日(土) 朝刊 26面

ゾルゲ直筆文が存在/元特高の娘が沖国大に寄贈

 太平洋戦争直前に、日本やドイツの軍事・政治関係機密を諜報して検挙されたソ連のスパイ・ゾルゲの直筆署名文書などを含む関係資料約数千点が、このほど沖縄国際大学の南島文化研究所(小川護所長)に寄贈された。ゾルゲ事件に連座して獄死した名護市出身の画家、宮城与徳の取り調べ文書も含まれており、研究者らは「ゾルゲ事件を知る上で第一級の貴重な現物資料」としている。

 資料は、ゾルゲ事件を取り調べた元特別高等警察部(特高)の故大橋秀雄氏が所蔵していた。公開されていた資料も一部あるが、あらためてまとまった形で寄贈された。大橋氏の娘の中島和子さん(68)=神奈川県=から申し出があり、今年四月同研究所がまとめて受け入れた。

 ゾルゲ直筆署名資料や宮城与徳関係資料、警察取調書、内閣情報局週報や戦前、戦後の貴重書など計数千点。関係者によるとゾルゲ直筆の文書類などはこれまで「まったく残っていない」という。

 一九四二年三月七日、東京拘置所内でゾルゲが大橋氏にあてた直筆の手紙では「私の事件の取り調べに彼の最も同情ある、ただ最も親切であったことを記念し、私は取り調べの指揮者である彼に深い感謝を述べます」などと記されている。

 宮城与徳の取り調べ調書には「昭和十六年十二月」の日付があり、与徳が当時収集していた情報が詳細に書かれている。

 同研究所は、今後、近現代史の専門家を中心とするプロジェクトチームを組織し、目録化や翻刻作業を行いながら公開する方針。

 同研究所特別研究員の比屋根照夫琉球大学名誉教授は「これだけの資料はなかなかない。資料を検討するとゾルゲ事件を解明する新たなヒントが得られる可能性がある」と重要性を強調している。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200708041300_06.html

 

2007年8月4日(土) 朝刊 2面

北部振興 予算要求へ/高市沖縄相、強い意欲

 【東京】内閣府沖縄担当部局は三日までに、二〇〇八年度予算概算要求に北部振興事業費を盛り込む方針を固めた。高市早苗沖縄担当相は同日午前の閣議後会見で、同事業費を継続する条件の「普天間飛行場の移設に係る協議が円滑に進む状況」が崩れていないとの認識を示し、予算要求に強い意欲を示した。

 高市沖縄相は「代替施設の受け入れ、現況調査に同意いただき、調査が進められている。私と地元、小池百合子防衛相と地元の関係者間の調整も継続している」との見解を示し、予算要求ができる状況にあるとの考えを示した。

 一方で、「これに加えて一歩進めていくため、協議会を開くことが重要なポイントになると考えている」とも述べ、普天間飛行場移設に関する政府と地元の協議会の早期開催の必要性を強調した。

 防衛省が〇七年度北部振興事業費の一次配分に難色を示していることには、「来年度の要求とは違い、本年度のものは要件が満たされた上で決定されている。適切な時期に配分できるよう、防衛省などと調整する考えに変わりない」と述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200708041300_08.html

 

2007年8月4日(土) 夕刊 1面

歴史教育協、撤回・記述回復を要求/「集団自決」修正

 全国の小・中・高校・大学の歴史教育研究者らでつくる歴史教育者協議会(石山久男委員長)の全国大会が四日午前、神戸市で開幕した。会員総会で高校歴史教科書の沖縄戦の記述から「集団自決(強制集団死)」への軍関与が削除・修正された文部科学省の検定意見撤回と記述回復を求める決議を採択した。

 決議は、今回の教科書検定について「『集団自決』を住民の自発的なものであるかのように書き直させたことは、歴史研究を踏みにじり、沖縄県民が体験し継承させてきた歴史の事実を抹殺する」と指摘。

 その上で「戦争と軍隊を美化し、海外で戦争する『日本軍』の復活を目指す憲法改悪につなげようとする意図から発したものだといわざるを得ない」としている。同協議会は決議後、文科省に検定撤回などを訴えるほか、教科書会社や執筆者に呼び掛け記述の訂正を求める方針。同会は約三千人の会員で構成する国内最大規模の歴史教育者の研究団体。


全国で問題共有


 大会に出席している県歴史教育者協議会の山口剛史事務局長(琉球大学准教授)は「歴教協の活動方針の中でも教科書記述の問題が明記された。全国の教職員が問題を共有化し、正しい歴史を子どもたちにきちんと教えるために取り組んでいきたい」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200708041700_01.html

 

2007年8月5日(日) 朝刊 1・2面

ハンセン近く共同使用/陸自第一混成団

施設庁、地元説明へ/「負担増」と反発も

 在日米軍再編の最終報告に盛り込まれた米軍キャンプ・ハンセンの共同使用で、陸上自衛隊第一混成団(那覇市)が近く演習を開始することが四日分かった。これに先立ち、七日に防衛施設庁の渡部厚施設部長と那覇防衛施設局の佐藤勉局長らが、県と地元の金武町、恩納村、宜野座村に事前説明を行う。同庁は地元自治体の理解を得た上で、自衛隊による在日米軍基地の使用を規定した日米地位協定二条四項(a)に基づく手続きに着手する意向だが、地元は「負担増につながる」と難色を示しており、反発も予想される。

 陸自の演習は、ハンセン内の「中部訓練地域」の既存レンジを使用する。

 同庁は県のほか、ハンセンに隣接する四市町村のうち、同訓練地域に近い三町村に説明。地元の意見を聴取後、日米合同委員会で正式合意するとみられる。

 ハンセンでの陸自の訓練は、自衛隊単独や日米共同の戦闘訓練、射撃訓練を想定。

 同庁は「自衛隊による施設整備を要しない共同使用については二〇〇六年度からの実施が可能」として、日米間の調整や自衛隊内部で訓練内容の検討を進めていた。

 日米特別行動委員会(SACO)合意に基づく金武町のギンバル訓練場全面返還に伴い、ブルービーチへのヘリパッド移設を同町が受け入れたため、ハンセンの共同使用に向けた事務手続きに着手する意向を固めたとみられる。

 自衛隊の使用に伴う施設整備の必要性について、同庁は「検討する」としているが、現時点で新たな施設整備は実施されていない。

 恩納村議会は〇六年五月、共同使用により騒音、異臭、山火事、漁業被害、流弾事故などの悪影響が考えられるとして、「明らかに負担増」とする意見書を全会一致で可決している。

 金武町、宜野座村も共同使用は容認していない。


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「負担軽減」に逆行/ハンセン共同使用


 米軍キャンプ・ハンセンの共同使用により、那覇市に駐屯する陸上自衛隊第一混成団の訓練効率は飛躍的に向上する。現在千九百人の第一混成団は旅団格上げで二千三百―三千人規模に増強する方針が打ち出されており、今後は「質量」ともに実力を備えた部隊に変容するのは確実だ。ハンセンの共同使用で、米軍再編の目的である日米の「軍事融合化」が沖縄を舞台に進む。米軍再編の主眼とされた「沖縄の負担軽減」に逆行しているのが実情だ。

 陸自はハンセンで射撃訓練のほか、車両を伴う機動展開などの攻撃・防御訓練、対遊撃訓練を想定している。当面は自衛隊のみで訓練を行うとみられるが、米海兵隊との共同訓練も実施されることは間違いない。

 第一混成団は県内で実弾射撃訓練場が確保されていないため、これまで熊本や大分県など主に九州の自衛隊演習場に移動して訓練を実施していた。こうした「転地訓練」は、隷下の第一混成群で年間約六十日、第六高射特科群で年間約七十日、その他部隊で年間約四十日間(いずれも二〇〇四年度の例)に及ぶ。

 〇八年度以降は、陸自の小火器射撃訓練施設として整備中の沖縄市の東恩納覆道射場の使用も見込まれ、沖縄の陸自は今後、実戦的な訓練や演習の機会を大幅に増大させることになる。

 米軍再編では米空軍嘉手納基地の共同使用も合意されており、沖縄では空と陸で日米の軍事融合化が図られる。

 自衛隊基地を米軍に使用させる共同使用化に当たっては、日米地位協定の実施に伴う国有財産管理法七条で、政府は「関係行政機関の長などの意見を聞かなければならない」と規定している。だが、政府はこれまで「住民生活には軽微な影響しか与えない」として、地元の意見聴取を実施していない。

 政府は、米軍再編の実行に際し「地元の理解と協力を得て進める」としており、「地元の負担増」につながるハンセンの共同使用に当たって、地元の意向をなおざりにすることは許されない。(政経部・渡辺豪)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200708051300_01.html

 

2007年8月5日(日) 朝刊 23面

歴教協「歴史認識覆される」/研究者ら危機感共有

 高校歴史教科書から「集団自決(強制集団死)」への軍関与が削除された検定意見撤回を求める決議を採択した歴史教育者協議会(歴教協・石山久男委員長)の全国大会は四日、「地域に学ぶ集い」が神戸市産業振興センターであり、「教科書問題」の分科会も開催。参加した研究者や高校の教師など約三十人が、来年度から使用される歴史教科書の沖縄戦について認識を深めた。

 集いでは、大江・岩波沖縄戦裁判支援連絡会の小牧薫事務局長が、大阪地裁で係争中の「集団自決」訴訟について報告。県歴教協の山口剛史事務局長は検定をきっかけに、県内で「集団自決」生存者の新証言の掘り起こしが進んでいるとした。

 山口事務局長は「裁判まで含めると、教科書問題が全国に浸透しているとは言い難い」と県内との「温度差」を指摘したが、「今回の検定を許せば、この先沖縄だけでなく、日本の歴史認識が覆されるという危機感は共有できた。全国に検定意見の撤回を求める運動を広げていく出発点にしたい」と抱負を話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200708051300_05.html

 

琉球新報 社説

絶滅危惧種指定 ジュゴン保護に英知を

 国の天然記念物ジュゴンの生息環境悪化に、あらためて警鐘が鳴らされた。環境省は3日、絶滅の恐れのある野生生物の種をまとめた「新レッドリスト」を発表。その中で、旧リストでは対象外だったジュゴンを評価対象種とし、絶滅の危険性が最も高い「絶滅危惧1A類」に指定した。

 区分の定義は、国際自然保護連合(IUCN)の基準に合わせており、IA類は「ごく近い将来に野生での絶滅の危機が極めて高いもの」。ジュゴンは普天間飛行場代替施設建設予定地となっている辺野古沖の海域でたびたび目撃されている。今回の指定で、施設建設の影響がさらに憂慮される事態となったともいえよう。

 ジュゴンは海棲(かいせい)哺乳類の一種で、ジュゴン目(海牛目)ジュゴン科に属する。かつては2属2種だったが、1960年代にステラーカイギュウが絶滅したため、現在はジュゴン(1属1種)のみである。アフリカ東海岸から東シナ海、オーストラリア付近まで広く生息していたが、現在はかなり限られた海域にしかいないという。世界でも合計で10万頭ほど、との推定だ。南西諸島海域が分布の北限だが、既に50頭未満との推計もある。減少の原因としては肉用目的の乱獲、開発による生息地の環境悪化、餌となる海草の生えた藻場の消滅などが指摘されている。ほとんどが、いわば「人災」だ。

 特に懸念されるのが、辺野古沖で今春から実施されている事前調査の影響。大掛かりな機器設置やそれに伴う騒音が、ジュゴンの生息環境に、決して好ましい結果をもたらさないことは明白だ。音には敏感で、船のエンジン音を聞くと、藻場に近寄らなくなる恐れもある。さらに、施設建設となれば、壊滅的な影響は避けられない。

 既に日本哺乳類学会、水産庁でも「絶滅危惧種」として指定しており、今回の環境省の指定は「遅すぎたぐらい」との指摘もある。

 いずれにせよ、保護に向けて一歩前進とも評価できる。後は指定のみで終わるのではなく、どう具体的に保護策を取っていくか。人類の英知が試される。

(8/5 10:38)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-26050-storytopic-11.html

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