2007年9月13日(木) 朝刊 27面
教科書・基地 期待と警戒/安倍首相退陣表明
「職責」を強調した所信表明演説の二日後、戦後最年少の総理大臣はすべてを放り出した。十二日、安倍晋三首相が突然の退陣表明。「なぜ今なのか」の質問に「私がいることがマイナス」と局面打開を強調したが、国民への謝罪を口にすることはなかった。県内からは、教科書検定や基地問題で「潮目」が変わることへの期待の声が上がった。「ボンボンだったということ」「年金はどうなる」。街頭の市民も、遅すぎる辞意表明にあきれた。
「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の小渡ハル子副実行委員長(県婦人連合会長)は、首相が辞任すれば、検定意見撤回の追い風になるとみる。「大会後に上京するが、安倍首相は面談してくれたかどうか。誰が首相になっても、今よりは県民の声に耳を傾けてくれるのではないか」と期待。「集団自決(強制集団死)」の問題を理解する人を新しい首相や文科相に、と要望した。
「首相が去っても、憲法の危機は残る」と指摘したのは、大学人九条の会沖縄代表の高良鉄美琉大法科大学院教授。国民投票法制定など一年間の“実績”を列挙し、「国民が改憲姿勢に怒って辞任に追い込んだわけではない。首相も最後まで、違憲の疑いが非常に濃いインド洋での給油活動継続にこだわった」と、警戒を緩めない。
基地問題で、米軍普天間飛行場の名護市移設を容認する荻堂盛秀同市商工会長は、移設問題でのリーダーシップ欠如について「テロ特措法などに気を取られて普天間まで、じんぶん(知恵)が回らなかったのか」と振り返った。「何度も来県しアジア・ゲートウェイ構想など沖縄振興への思いはあった。参院選敗北は、安倍さんだけの責任ではないので気の毒だ」と述べた。
逆に移設に反対し、座り込みを続ける当山栄平和市民連絡会事務局長は、「基地に苦しむ沖縄の現状を把握せず、海上自衛隊や海上保安庁を派遣するなど強権的に作業を進めてきた」と批判。辞意表明については「移設の政治日程も遅れるだろう。民意が反映される政治の契機になってほしい」と話した。
東村高江区への基地建設に反対する「ヘリパッドいらない住民の会」の石原理絵さん(43)は、座り込み中に辞意表明を知った。「突然で驚いた。基地建設を止める人が新しい首相になってほしい」と言う一方で、「流れが簡単に変わるのは難しいと思う」とも話し、期待とあきらめに揺れた。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709131300_01.html
2007年9月13日(木) 朝刊 2面
「普天間」解決遠く/調印時 麻生氏は外相
安倍晋三首相が辞任を表明し、焦点は「ポスト安倍」に移った。最有力候補とされる麻生太郎自民党幹事長は、昨年五月に日米が在日米軍再編の最終報告に調印した際の外相。名護市キャンプ・シュワブ沿岸部にV字形滑走路を造る政府案を変更する可能性は低いとみられる。沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題では、「戦後レジームからの脱却」を唱える安倍首相の退陣で「政府が柔軟化する可能性はあるのではないか」(関係省庁幹部)との期待感もある。
国会は騒然
「なぜ本会議が開かれないんだ」
十二日昼、永田町では、国会議員と政府関係者が混乱に包まれた。
午後零時四十五分前後から各会派が院内控室で代議士会を開き、本会議の呼び込みに備えた。しかし、開会直前になってもベルは鳴らず、一時前にテレビ各局が「安倍首相、辞任の意向」とテロップを流すと、国会は騒然とした。自民党代議士会ではいすにへたり込み、動けなくなる議員も。
中継を見ていた内閣府幹部は「信じられない。こんな話は聞いたことがない」とあぜんとした。
午後二時の安倍首相の辞任会見を受け、三時には総裁選挙管理委員会の臼井日出男委員長、県出身の仲村正治委員長代理が急きょ会談し、「政治の空白は許されない」との認識で一致。
自民党総裁公選規程は告示日を「投票日の十二日前」と規定するが、両氏は党則六条二項の「特に緊急を要する」に該当するとして、十四日告示、五日後の十九日には後任を決定する異例のスケジュールを決めた。
県選出国会議員の一人は、「(1)総裁選(2)内閣総辞職(3)新内閣発足(4)テロ特新法が時間切れで不成立(5)年内の衆院解散」とのシナリオを描き、選挙対策に乗り出している。
停滞を懸念
総裁候補には麻生幹事長、谷垣禎一元財務相、福田康夫元官房長官らの名前が挙がる。
最有力候補とされる麻生氏について、政府関係者は「米軍再編最終報告の当事者で、政府案(V字案)を堅持するだろう」とみる。
麻生氏は、県や名護市が求める沖合移動に柔軟姿勢を示していた久間章生元防衛相と極めて近く、「当時の久間氏の考えに理解を示していた」(政府関係者)との警戒も根強い。しかし、「久間氏は問題発言で当面、表舞台に出てこない」(同)とみており深刻さはない。
一方、沖縄の関係省庁には、政府・与党が十一月一日に期限が切れる海上自衛隊のインド洋での給油活動延長問題への対応に忙殺され、移設協議会の開催など沖縄関係閣僚の対応が停滞するとの懸念もある。
これに対し、県の上原昭知事公室長は「政府と基本的方向は一致している。(首相の)辞任で大きな影響があるとは考えていない」との見方を示している。
国家観近く
安倍首相は過去に、日本の歴史教育を「自虐的歴史観に基づいている」と批判する、自民党の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の事務局長を務めるなど、教科書検定問題に関心が強い。このため、「安倍政権では沖縄の怒りが収まる事態にならない」(内閣府幹部)との悲観論が強かった。
ただ、麻生氏は国家観や安全保障観が安倍首相と極めて近く、「麻生首相が実現しても、検定撤回は難しいのではないか」(同)と受け止められている。(東京支社・吉田央、島袋晋作)
◇ ◇ ◇
防衛省 移設への影響懸念
【東京】安倍晋三首相の突然の辞意表明で十二日、防衛省などからは米軍普天間飛行場移設問題への影響を懸念する声が上がった。
名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への移設に向け環境影響評価(アセスメント)の手続きが始まるなど、「普天間」の移設がすでに「実施」の段階に入っていることから、政府内では「従来の方針が変わることはない」(防衛省幹部)との見方が支配的だ。
政府は、移設先の埋め立て申請で、仲井真弘多知事の許可を年内にも得たい考えだ。しかし、政府関係者は「これで当面、普天間問題は止まってしまう」との懸念を漏らす。
政府・与党が当面、海上自衛隊のインド洋での洋上給油継続に集中しなければならず、この関係者は「沖縄どころではなくなる」と指摘。
今後、内閣改造が想定される上に、外務、防衛などの関係閣僚も国会対応などで拘束されるため、仲井真知事の埋め立て許可を得るための細やかな対応が困難になるとの見方を示す。
防衛省幹部は「次の総理、大臣が誰になるかによって、左右される。政府案を変えようという人もいないわけではない」と説明。県や名護市が求めている政府案(V字形滑走路)の沖合移動に、久間章生元防衛相が柔軟姿勢を示していたことを念頭に、警戒感を強めている。
内閣府 平静保つのに懸命
【東京】「完全に理性的な判断力を失っている」―。安倍晋三首相の突然の辞意表明に、内閣府沖縄担当部局でも困惑の声が広がった。
首相が答弁する本会議の直前に突然、飛び込んだ辞任のニュース。「無責任もいいところ」と露骨に不快感を表す職員も。
来週の総裁選後の内閣総辞職もささやかれる中、岸田文雄沖縄担当相は当面の日程をキャンセルしないよう事務方に指示し、平静さを保つのに懸命だった。
ある幹部は「政治家として再起を期すならもっと早く辞めるべきだったし、『テロとの戦い』に全力を尽くすなら臨時国会の論戦を全うすべきだった」と辞任のタイミングに疑問を呈した。
安倍首相は十日の所信表明演説で、テロ対策特別措置法延長など政権運営への決意を表明したばかり。十二日は午後一時開会の本会議で答弁するはずだった。
「こんな辞め方は聞いたことがない。首相の精神状態が心配だ」と漏らす幹部もいた。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709131300_02.html
2007年9月13日(木) 朝刊 27面
実行委設置 動き広がる/検定撤回 県民大会
沖縄市
【沖縄】沖縄市の東門美津子市長は十二日、宜野湾市で二十九日に開かれる「教科書検定意見撤回を求める県民大会」について、臨時、嘱託を含む全職員約千六百人に参加を呼び掛ける市長メッセージをメールで配信した。また庁内連絡会議を十三日に立ち上げ、全職員が主体となり市民や市内各種団体に参加を呼び掛けることも決めた。
東門市長は「検定意見の撤回と『集団自決(強制集団死)』に関する記述の回復は県民の総意だ」と強調。「沖縄戦の実相を正しく後世に伝えることが最も重要だ。県民の一人としてぜひ参加してほしい」と呼び掛けた。
豊見城市
【豊見城】豊見城市議会(大城英和議長)は十二日、与野党会派長会議を開き、市内の各種団体に対し、二十九日の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」への参加を呼び掛ける「豊見城市実行委員会」を結成することを確認した。
市総務部と連携して事務局を設置。十八日に市役所で自治会など、各種団体の代表らを集めて「立ち上げ式」を開き、市全体の結束を図る。約四百五十人の市職員にも参加を呼び掛ける。
大城議長は「市内のすべての団体が結束し、運動を盛り上げていきたい」と意欲を述べた。
読谷村
【読谷】二十九日に宜野湾市で開かれる「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に向け、同大会読谷村実行委員会が十二日、発足した。実行委員長に安田慶造村長、副委員長に前田善輝同村議会議長を選出。実行委を組織する村内二十三団体が中心となって大勢の村民に参加を呼び掛ける。
設立総会で、安田村長は「将来を担う子どもたちのためにも、しっかりと事実を伝えていかなければならない」と協力を求めた。
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沖教組、校長らに協力依頼県内反応複雑
沖教組(大浜敏夫委員長)は十二日、本島や周辺離島の小中学校約三百二十校の校長と県内四十一市町村教育長あてに、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」への教職員らの参加を促す依頼文を送付した。沖教組から小中学校の管理職らにあてた依頼文の送付は異例。文書は「文部科学省は県民大会の参加人数に注目している」と指摘。より多い人数が参加することで、検定撤回に向けて圧力をかけることができる―と訴えている。
具体的には、職員会議での校長からの参加呼び掛け、大会当日の参加状況の確認、PTAと協力した保護者への大会案内―などとなっている。沖教組の山本隆司副委員長は「県民総ぐるみの大会になったことで労使が一致できた」としている。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709131300_03.html
2007年9月13日(木) 朝刊 2面
縦覧期限きょうまで/普天間代替環境アセス
米軍普天間飛行場代替施設建設に向けた環境影響評価(アセスメント)手続きで、沖縄防衛局は八月十四日から開始している方法書の公告縦覧を十三日で終了する。沖縄防衛局は縦覧後、二週間以内(二十七日まで)に住民らの意見を受け付け、その意見概要を県などに送付する。方法書の受け取りを「保留」している県の対応が注目される。
沖縄防衛局は八月七日に方法書を県などに送付。滑走路の沖合移動などを求める県や名護市は「前提条件が整っていない」として受け取りを保留。公告縦覧の場所提供に応じず、同局の関連施設やホテルなどで縦覧が行われる異例の事態が続いている。
アセス手続きでは、県は意見概要の受理後、名護市など関連市町村長の意見を聴取した上で、知事意見を九十日以内(県条例に基づくアセスの場合は六十日以内)に沖縄防衛局に提出。同局は知事意見などを踏まえ、方法書を確定する。
県アセス条例は、知事意見をまとめるために、必要があれば期間内に県環境影響評価審査会の意見を聴くことができる、と規定。県が審査会に諮問するのか注目が集まりそうだ。
高村正彦防衛相は八日の仲井真弘多知事との面談で「アセス後の修正」を検討することを提案。「知事から否定的な感触はなかった」と強調している。
一方、仲井真知事は「アセスに入る前に互いの考えを一致させた方がいい」と主張しているが、知事意見への対応については「まだ少し考えてみたい」と明言を避けている。
「不快感与え申し訳ない」/沖縄防衛局長
沖縄防衛局の鎌田昭良局長が着任会見で再編交付金について「ボーナスのようなもの」と発言したことに関し、同局長は十二日、「交付については関係市町村が協力をしているかどうかが一つの判断基準であるとの趣旨を述べたものだが、『ボーナス』という言葉を使用したことで関係者の方々に不快感を与えたことは申し訳ないと思う」とのコメントを発表した。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709131300_04.html
2007年9月13日(木) 朝刊 2面
未明離陸は困る 地元の声伝えて/東門市長
【沖縄】沖縄防衛局の鎌田昭良局長は十二日、沖縄市役所に東門美津子市長を訪ね、就任あいさつをした。
米軍嘉手納基地所属のF15戦闘機など五機が十一日に未明離陸した問題について「未明離陸をされたら困るという地元の声を、米軍側にしっかりと伝えたい」と述べた。
東門市長は「騒音防止協定が守られていない現実と市民の負担は、本土に届いていない。沖縄の現実と市民の思いを政府に伝えてほしい」と強調した。
これに対し、鎌田局長は、米軍から未明離陸の情報が入った時点で実施しないよう求めていたことを説明した上で「結果的に実施されてしまい申し訳なく思う」と陳謝。「安保の最前線である沖縄で県民の負担を肌身で感じ、現場をしっかり見て勉強したい」と述べた。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709131300_07.html
沖縄タイムス 社説(2007年9月13日朝刊)
[安倍首相退陣]
不可解で理解しがたい
宰相としての見識疑う
安倍晋三首相が本会議のベルが鳴る直前に突然退陣を表明した。
所信表明しながら、それに対する各党・会派の代表質問を受けずに政権を投げ出す。本会議直前の辞意表明は前代未聞であり、国会を混乱させた責任は極めて重大だ。
首相の政治家としての見識を疑わざるを得ない。
首相は十二日午後二時から開いた緊急会見で、辞意を決断した理由の一つに、インド洋での海上自衛隊の給油活動について継続の見通しがたたないことを挙げていた。
さらに、民主党の小沢一郎代表に党首討論を呼び掛けたが断られたことも理由にしている。
政権を投げ出すにはあまりにも希薄な理由であり、それこそ国民への説明責任を欠いた言動といっていいのではないか。
十一月一日に期限切れを迎えるテロ対策特別措置法の延長について、首相が「国際公約」と言い、「職責を賭して取り組む」と述べたのは三日前だ。
民主党など野党の反対で、そのまま延長するのは事実上、困難には違いない。だが、それでも自民党は、一時的に給油活動が中断したとしても衆院での再議決で継続できるよう新法を提出する方針を固めていたではないか。
なのに、会見では「自らけじめをつけることによって、局面を打開しなければいけない。そう判断するにいたった」と述べるにとどまっている。いったい、どのようなわけがあったのだろうか。
国民が知りたいのはそこなのに、会見で肝心の理由が明らかにされたとは言いがたい。
辞めるのであれば、民意が得られず惨敗した参院選の直後であり、内閣を改造し臨時国会で自らの政策を訴えた後ではなかったはずだ。
国民はまたしても十分な説明が得られなかったのであり、退陣に対する不可解さは依然として残されたままだ。
宰相として国民を導くという自覚に欠けていると指摘されても仕方なく、結局、首相の器ではなかったというのが国民の正直な気持ちだろう。
求心力を欠いた結果
「お友達内閣」と揶揄された安倍内閣は発足当初からおかしかった。
まず佐田玄一郎行政改革相が政治資金問題で辞任したのをはじめ、松岡利勝農相、久間章生防衛相、赤城徳彦農相がそれぞれの理由で辞めている。
柳沢伯夫厚生労働相は「女性は産む機械」発言でひんしゅくを買い、改造内閣の農相に就いた遠藤武彦衆院議員もわずか一週間で辞めてしまった。
ひとつの内閣で短期間にこれだけの辞任・更迭者が出たのはかつてない。
最後には首相までが退陣するのだから、首相自身の人事における眼力のなさとともに、自民党の危機管理能力も深刻だといっていい。
戦後生まれの初の首相として、60%を超える高い支持率で船出した安倍内閣だったにもかかわらず、一年もたたないうちに支持率は低下し、先の参院選では歴史的大敗を喫した。
早期退陣を求める民意を無視して首相を続投させた責任は、それを許した党幹部にある。
一方で、健康面に不安があったとはいえ自らの政策を推し進めることができないことを理由に政権を投げ出すのも首相が取るべき行動ではあるまい。
一連の動きは首相のひ弱さを露呈するとともに、求心力のなさも浮き彫りにしたといえよう。
背負った十字架は重い
自民党は首相の退陣表明を受けて後継総裁選びに入る。
総裁選は十四日告示、十九日投票案が浮上しているが、その間の政治空白は避けられない。
新たな総裁が選出されても、憲政史上例を見ない首相退陣の仕方が政治に対する信頼をさらに失墜させたのは間違いない。
その責任はまた連立を組む公明党にもあり、与党新体制によるこれからの政権運営は“いばらの道”になることを覚悟する必要がある。
谷垣派の中谷元・元防衛庁長官は「参院選直後に身を引くべきだった。辞めるべき時に辞めず、辞めてはいけない時に辞めた」と話している。国民誰もがそう感じているのであり、そのツケは新政権にもついて回るはずだ。
自民党は大きな十字架を背負った。国民の信頼を回復するために何が必要か。まずそのことを国民の視線に立ち、真摯な気持ちで検証することだ。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070913.html#no_1
琉球新報 社説
首相退陣表明 無責任極まる決断/最高責任者の見識を疑う
安倍晋三首相が12日、突然退陣を表明した。臨時国会で10日に所信表明演説を行ったばかりである。12日は各会派の代表質問を受けることになっていた。その直前の退陣表明は理解に苦しむ。
11月1日に期限切れとなるテロ対策特別措置法に基づく海上自衛隊のインド洋での米軍などへの給油活動の継続のために「局面を転換する」ことが退陣の最大の理由である。
格差の拡大、政治とカネの問題、年金記録不備問題へのけじめならば、まだ理解もできよう。しかし、安倍首相は会見で「テロとの戦い」の継続を訴えることに終始した。国政を混乱させることにわびる言葉もなかった。
無責任と批判されても返す言葉はあるまい。
なぜこの時期に
安倍内閣は「美しい国づくり」を掲げて昨年9月に発足、ことし8月末に改造内閣を発足させたばかりである。
安倍首相は参院選惨敗後も「逃げてはならない。厳しい状況になるが、政治の空白は許されない」として、世論や与野党内外からの退陣すべきだとの声に耳を貸さなかった。
にもかかわらず、なぜこのタイミングでの退陣表明なのか。安倍政権に国民が実質的に「ノー」を突きつけた参院選後に退陣するべきではなかったか。遅きに失した決断と言わざるを得ない。
民主党の小沢一郎代表との党首会談を断られたことも退陣理由に挙げたが、果たしてそれが理由になり得るのか。
安倍首相は、海上自衛隊の給油活動は「国際社会から高い評価を受けている。何としても継続していかなければならない」とのテロ特措法延長への強い決意を示してきた。
しかし、野党が過半数を占める参院で否決されるのは、ほぼ確実である。
政府が国会に提出する方針を固めている国会承認を必要としない給油支援新法案も、首相の思惑通りにはいかない公算が大きい。
テロ特措法に進退を懸けた首相にとってはまさに正念場である。同法の評価は別として、難問を解決し、難局を打開してこその首相である。
自らの狙い通りにいかないからと、投げ出せるほど首相の職務は軽いものなのか。もともと首相の器ではなかったとの思いもわく。
自らの所信表明に対する質問を各会派にさせないまま、首相を辞めることは前代未聞の出来事であり、許されることではない。
首相はブッシュ米大統領に給油活動の継続を約束している。給油活動継続は「国際公約」とも公言している。
退陣は、それが実現できない情勢になったことへのけじめなのか。首相就任以来の対米追従姿勢が自らを追い込んだとも言えるだろう。
成果に乏しく
首相は教育基本法を1947年の制定以来、初めて改正し、憲法改正に向けた国民投票法も制定した。首相はそれを成果として挙げるが果たしてそうか。
日本が危険な方向へと向かうのではないかとの不安を抱いた国民も少なくない。
数にものを言わせた強行採決という形で重要法案を次々と成立させた。
国民生活にとって大切な法案を、十分な審議を経ずに成立させる強硬な姿勢が国民の不支持につながった側面もある。
沖縄の基地問題では何ら成果を挙げられなかった。
今回の所信表明でも「在日米軍の再編については、沖縄など地元の切実な声によく耳を傾け、地域の振興に全力をあげて取り組むことにより、着実に進める」と述べた。
しかし、首相をはじめ政府は、地元の声を押さえ付けてきたのが現実である。
政府に従う自治体などにだけ再編交付金を与える米軍再編特別措置法はその象徴である。
安倍首相は防衛相に任せっきりで、積極的に地元の声を聞くこともなく、沖縄の基地問題解決のため、指導力を発揮することは最後までなかった。
閣僚らの政治とカネの問題が噴出した際は、かばうことに終始し、即座に対応しなかった。首相の任命責任はうやむやのままである。政治空白を招いた責任も重大だ。
テロ特措法延長だけが退陣理由とすれば、国民感覚からは大きくずれている。
(9/13 9:47)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27103-storytopic-11.html
2007年9月13日(木) 夕刊 5面
記述復活へ懇談会/「集団自決」修正
文部科学省が高校歴史教科書の沖縄戦における「集団自決(強制集団死)」について、日本軍の強制をめぐる記述を二○○六年度の検定で削除させた問題で、教科書の執筆者や歴史学者らが中心となって記述の復活を求める懇談会を二十五日、東京都内で発足させる。各出版社の執筆者や編集者らが連携し“共同歩調”を取る。
懇談会は、〇六年度検定で記述が削除された実教出版「高校日本史B」執筆者の石山久男さんらが中心となって呼び掛けている。記述が削除された五社七冊の教科書執筆者だけでなく、小中高校の地理、歴史、公民の教科書執筆者、教科書会社の編集者、歴史研究者などに対し、幅広く参加を呼び掛けている。
同様の懇談会は一九八〇年代にもあったが、検定制度の変更で消滅していた。
懇談会の再発足に琉球大学の高嶋伸欣教授は「文科省の検定意見を拒否すれば、教科書会社は倒産の危険性に直面するため、執筆者は記述の削除を受け入れざるを得なかった。しかし、懇談会の再発足で、執筆者や出版社が連携を強化し、文科省の強権的な検定に異議を唱え、記述の復活を求めてほしい」と期待している。
糸満市でも実行委結成
【糸満】二十九日に宜野湾市内で開かれる「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に向け、糸満市(西平賀雄市長)は、十三日までに同市実行委員会を結成することを決めた。十六日に市役所内で第一回の会合を開く。
実行委員長は西平市長。事務局は市総務課に設置する。十六日の「設立準備会および第一回実行委員会」で市内二十の関係機関・各種団体代表者を委員として選任し、今後の取り組みなどを確認する。
また、西平市長は市全職員に県民大会に参加するよう呼び掛けている。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709131700_05.html