沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(10月1日、2日、3日)

2007年10月1日(月) 朝刊 1面

文科相「重く受け止める」/検定経緯調査に着手

 【東京】渡海紀三朗文科相は三十日午前の臨時閣議後、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に十一万人が参加したことについて、「重く受け止めている。やっぱりそれが沖縄県民の思いなんだろうなと、こう思っている」と語った。

 沖縄タイムス社に対し「今回の検定に至る経緯や趣旨等については十分に精査していきたい」とコメントしたことについては、「今、事務方に作業をさせている。結果がちゃんと出た場合に対応して答える」と述べ、検定の経緯や趣旨などに関する調査に着手していることを明らかにした。

 一方、県民大会を主催した実行委員会が十五、十六日に上京し、検定意見の撤回と記述回復を求める要請行動を展開することには「もちろん、向こう(実行委)のおっしゃりたいことを丁寧に聞かせていただきたい」と話した。

 山崎拓前副総裁が九月二十八日に県内での講演で、渡海氏に検定見直しの勧告を働き掛ける考えを明らかにしたことについては「(山崎氏からそのような働き掛けはまだ)ない。今はまだそのようなことは断定していない」と強調した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011300_03.html

 

2007年10月1日(月) 朝刊 2面

誠実応対の必要性強調/沖縄相「県民の思い受け」

 【東京】岸田文雄沖縄担当相は三十日、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定の撤回を求める県民大会に十一万人が参加したことに「復帰後最大の規模ということで、県民の深い思いが示されたと重く受け止めている」との認識を示した。同日午前の臨時閣議終了後、首相官邸で沖縄タイムス社などの質問に答えた。

 今後の対応では「大会を受けて多くの皆さんから要請が寄せられると思う。丁寧に話を聞きたいし、渡海紀三朗文部科学相にも丁寧に話を聞いてほしいと伝えている」と説明。要請団に、政府が誠実に応対する必要性を強調した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011300_04.html

 

2007年10月1日(月) 朝刊 24面

全国紙、トップ報道/県民大会 1面・特集で

 【東京】全国紙各紙と有力ブロック紙は九月三十日付朝刊で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の模様や同検定のこれまでの経緯などを一斉に報じた。

 朝日新聞は一面トップで扱い、第二社会面で高校生代表がメッセージを読み上げた様子を紹介。二面(総合面)の特集記事では同検定のこれまでの経緯や記述訂正を求める執筆者らの動向などをまとめ、社説で「検定意見の撤回を急げ」と提言した。

 毎日新聞も空撮した会場の写真付きで一面準トップ級で扱い、社会面では高校生代表を紹介。日本経済新聞は社会面で写真付きの五段記事で報道した。

 東京新聞も写真付きで一面トップの扱い、社会面、第二社会面見開きで現場の様子や文部科学省の対応などを紹介。特集ページでは見開きで、当日大勢が参加した高校生ら「沖縄の子どもたち」の視点に立った記事も掲載した。

 読売新聞は、第二社会面で写真付きの五段記事で報じた。

 一方、産経新聞は第二社会面で写真無しの二段記事にとどめ、控えめに報じた。

 APやAFP、ロイターなど海外通信社も県民大会の記事を配信し、台湾、米国やイギリス、トルコ、ロシアなどの新聞で掲載された。


慰安婦問題 共に考えて

早稲田大 洪さん 場で協力呼び掛け


 沖縄戦中の朝鮮人軍夫や「従軍慰安婦」調査をしている早稲田大学大学院の洪〓伸(ホン・ユンシン)さん(29)が県内で従軍慰安婦の調査を続けている。「集団自決(強制集団死)」問題も、「従軍慰安婦」同様に教科書から削除されることに危機感を募らせ、九月二十九日の県民大会にも参加した。

 「『従軍慰安婦』が削除された苦しみを沖縄の人に『集団自決』問題同様に考えてほしい」と、会場で慰安婦にされた女性たちのために宮古島に碑を建てるチラシを五百部配った。来年八月の完成を目指し寄付を募っている。

 今年五月、宮古島市で自宅を慰安所にされたという戦争体験者らの話のほか、慰安所や元慰安婦についての聞き取りを行った。証言集を年内にまとめる予定だ。

 慰安婦にされた韓国人女性も、高齢化のため年々亡くなっている現状に、「沖縄戦体験者も同じ状況。悲惨な過去を繰り返さないために韓国、沖縄の戦争体験者の思いをつづりたい」と語った。

 調査は九日まで。賛同金は一口二千円。宮古島慰霊碑建立委員会、郵便振替口座00150―9―540937。


県民大会の様子 東京で伝えたい

牛島中将の孫・貞満さん


 本土で報道されない沖縄戦の実相を伝えようと、小学校の教諭をしている牛島貞満さん(53)=東京都=が九月二十九日の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に参加し、ビデオカメラで大会の様子を撮影した。「沖縄戦に目を向けてほしい」と東京に戻り、集会などで大会の様子を伝えるつもりだ。

 牛島さんは、沖縄戦で日本軍の総指揮を執った牛島満中将の孫。五年前から「牛島満と沖縄戦」をテーマに、小学校高学年を対象に平和授業を続けている。

 文科省が「集団自決(強制集団死)」の日本軍の強制を削除したことについて「軍隊は住民に捕虜になるなと徹底しており、日本軍がいた場所で『集団自決』は起きている。軍の強制・誘導があったのは当然だ」と強調した。

※(注=〓はへんが「王」でつくりが「允」)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011300_05.html

 

2007年10月1日(月) 夕刊 1面

文科省対応 見守る構え/教科書検定撤回

県民大会で官房長官

 【東京】町村信孝官房長官は一日午前の臨時閣議後の記者会見で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定の撤回を求める十一万人の県民大会が開かれたことについて、「教科書をどうするかという話は今、文部科学省の方で検討していると思う」と述べ、文科省が着手した検定経緯の精査を見守る考えを示した。

 政府としての考え方は「先般、申し上げた通りだ」と述べるにとどめた。町村官房長官は九月二十八日の定例記者会見で「沖縄の皆さんの気持ちを受け止めてしっかり対応しなければならない」との認識を示していた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011700_01.html

 

2007年10月1日(月) 夕刊 1面

知事、撤回へ決意/「県民の強い思い感じた」

 仲井真弘多知事は一日午前、県議会(仲里利信議長)九月定例会の一般質問で、九月二十九日に開かれた沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の関与を削除した教科書検定意見撤回を求める県民大会について、「県民の平和に対する思いや強いエネルギーが爆発寸前のマグマを感じさせる動きだった」と感想を述べた。その上で、「大会決議を持って、実行委員会の皆さんと一緒に目標達成のために頑張っていきたい」と検定意見の撤回に向けて取り組む考えを示した。

 当銘勝雄氏(護憲ネット)への答弁。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011700_02.html

 

2007年10月2日(火) 朝刊 1・2・27面

訂正申請で記述復活か/政府側が柔軟姿勢

文科相 きょうにも方針/教科書検定

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題への対応で、渡海紀三朗文部科学相は一日夜、記者団に「検定制度を守りながら、沖縄県民の気持ちに何ができるか、いろいろと考えたい」と述べ、何らかの方針を打ち出すことを明らかにした。関係者によると、渡海文科相は二日にも検討方針案を発表する。与党幹部は「教科書会社の『訂正申請』を認める方法が有力」としており、今後、教科書出版社側の自主的な申請という形を取り、何らかの表現で記述が復活する可能性が出てきた。

 渡海氏は一日午前の臨時閣議前に首相官邸で町村信孝官房長官と会談し、同問題への対応を協議。両氏は「政治的介入があってはいけない」として、政治主導の形を取らない方法で解決するべきだとの認識で一致した。

 町村官房長官は同日午後の記者会見で、「(教科書の記述訂正・修正について)関係者の工夫と知恵があり得るかもしれない」との認識を示す一方、渡海文科相に修正が可能かどうか指示したことを明らかにした。

 出版社側の「訂正申請」の働き掛けに応じれば、「政治介入」の構図とはならず、渡海文科相は「通常の法律のルールでも真摯に対応する。こういう状況の中でそういうものがもし出てきたら、真摯に対応したい」と前向きな姿勢を示した。

 一方で、渡海氏は「私が意見を申し上げて修正するということは選択肢として基本的にない」と述べ、文科相の訂正勧告は「政治介入」に当たるとしてこの手法を取らないとの認識を示した。

 検定意見に基づく記述の訂正申請では、一九八○年度の高校現代社会の教科書検定で、水俣病の原因企業名「チッソ」が削除され、世論の反発などで文部省(当時)が事実上検定意見を撤回。教科書会社各社の訂正申請を承認するという形で、記述が復活したケースがある。


首相「気持ち分かる」


 【東京】福田康夫首相は一日、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定意見の撤回を求める県民大会に十一万人が集まったことに「随分たくさん集まったね。沖縄県民の気持ちは私も分かる」と一定の理解を示した。首相官邸で記者団に語った。

 一方で検定撤回については「検討制度というのがあるから。そのことについては、まずは文部科学省の方でどうするかということだと思う。私の方から言う立場にはない」と述べるにとどめた。

 渡海紀三朗文科相への指示には「私からはしていない。町村信孝官房長官からしてるかどうか知りませんけどね」と述べ、首相自身の指示ではないとの認識を強調した。


     ◇     ◇     ◇     

知事「いい結果期待」/文科相修正発言を評価


 仲井真弘多知事は一日夕、町村信孝官房長官が、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定について、修正を指示し、渡海紀三朗文部科学相も対応を検討する考えを示したことについて、「県民の意向にも耳を傾けてその方向で検討されることであれば、非常にありがたい。いい結果を形で出していただくよう期待する」と評価した。県議会内で記者団の質問に答えた。

 その上で「県議会の一般質問が(四日に)終わったら、なるべく早く上京し、文部科学大臣に県民大会の要求を聞き入れていただきたいとお願いしたい」と述べ、検定意見撤回を早期に要望したい考えを示した。

 また、十一万人が集まった県民大会を受け、政府が対応したことについて「超党派で、あらゆる団体が入った各界各層の広がりではないか。十万人を超える大集会をみたことがない。県民のこのテーマに対する強い思いも加え、国の政策に対する地方の意見に耳を傾けて、という思いが強く一緒になって出た結果」と大会の意義を述べた。


[ことば]


 集団自決の記述削除問題 文部科学省はこれまでの教科書検定では沖縄戦の住民集団自決が日本軍の強制によるものとの記述を認めてきたが、今年3月末公表の高校歴史教科書の検定意見で「沖縄戦の実態について誤解する恐れのある表現」と指摘。教科書会社が記述を削除し、検定に合格した。軍の自決命令の有無をめぐり、当時の軍指揮官らが作家大江健三郎さんらを訴えた名誉棄損訴訟が係争中であることも理由の一つとされた。


県内に期待と慎重姿勢/「撤回まで行動共に」


 県民の強い意志が、政府を揺さぶり始めた。「教科書検定意見撤回を求める県民大会」から週が明けた一日、渡海紀三朗文部科学相が検定について「何ができるか」と、対応の検討を省内に指示した。町村信孝官房長官も「修正」の可能性に言及。政府与党の踏み込んだ発言や、事態打開の模索が続いた。実行委員会の関係者や「集団自決(強制集団死)」の体験者は「壁が少しずつ削られている」と期待を込めつつ、決着の行方を慎重に見守る考えを示した。

 大会実行委員長の仲里利信県議会議長は、「県民の気持ちをくんでもらい、ありがたい。大変な配慮だと思う」と歓迎した。「ただ、今は検討を指示しただけ。ぬか喜びすることなく、どういう結論が出るのか冷静に見守らなければ」と強調した。

 副委員長の玉寄哲永沖子連会長は「国が動揺し始めた」とみる。「要請を受け付けなかった文科省の壁が、県民の声で少しずつ削られている。文科省のシナリオや判断の甘さが、反発を買った」と断じた。

 「こんなに対応が早いのは、県民のエネルギーが政府を突き動かしたからだ」と驚いた様子の仲村守和県教育長。「本当に検定意見が撤回できるまで、関係団体と行動を共にして頑張りたい」と力を込めた。

 渡嘉敷村で起きた「集団自決」の惨劇を大会で証言した吉川嘉勝さん(68)は、「求めたのは、あくまで従来の記述に戻すこと。(玉虫色の)政治決着はあってはいけない」と強調する。「大会をお祭りのように終わらせず、県民みんなで見届ける必要がある」と呼び掛けた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021300_01.html

 

2007年10月2日(火) 朝刊 1面

執筆者、記述回復要請へ/教科書会社に

 文部科学省が高校歴史教科書の検定で沖縄戦「集団自決(強制集団死)」から、日本軍強制の記述を削除した問題で、実教出版や東京書籍など複数の執筆者が教科書会社側に記述回復を要請することが一日、分かった。教科書会社の中には、文科省への記述訂正を申請するための検討を始めた社もある。

 実教出版の執筆者グループは五日の会議で「日本軍強制」の記述回復を文科省に申請するよう社に求めることを決める。同社「高校日本史B」で沖縄戦の項目を執筆した石山久男さん(71)は、渡海紀三朗文科相が記述訂正の検討を指示したことに「出版社も文科省に訂正を申請する条件が整ってきた」と歓迎。「政府は県民世論を無視できなくなったのだろう。沖縄戦の学説や通説に反する検定意見なので検討は当然のこと。日本軍『関与』ではなく、あくまで『強制』の記述回復を求める」と話した。

 東京書籍の「日本史A」で沖縄戦の項目を執筆した坂本昇さん(51)も同社の執筆者間で記述回復の検討を始めた。

 渡海文科相らの発言に「執筆者も県民大会の成功に励まされ、記述回復を会社と調整しながら文科省に求めたい」と話した。別の教科書会社の執筆者も「注釈で日本軍の強制があったことを明確に記述したい。県民の怒りが政府を動かした」と話した。

 教科書会社の関係者は、県民大会の前から「記述修正ができないか検討を始めていた」と明かす。検定結果が明らかになった後、「集団自決」体験者からの新証言や、沖縄戦専門家からの発言が相次いだことも「新たな学識状況ととらえる必要がある」と指摘。その上で、町村信孝官房長官の発言を引用し「工夫と努力、知恵を振り絞り、どのような方法があるかを考えていく」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021300_02.html

 

2007年10月2日(火) 朝刊 2面

金武議会が撤回要求/ハンセン共同使用

 金武町議会(松田義政議長)は一日、沖縄防衛局や県を訪れ、米軍キャンプ・ハンセンの陸上自衛隊との共同使用合意の撤回を申し入れた。松田議長は、レンジ3付近で米陸軍グリーンベレー部隊の射撃場建設計画が新たに浮上していることなどを挙げ、「ハンセンは過密で危険な状態にある。射撃場を建設することで陸自も使用するのではないかと懸念している」と訴えた。

 沖縄防衛局の赤瀬正洋企画部長は「陸自のハンセンでの共同使用が可能になると、これまで九州で実施していた実弾射撃訓練などが沖縄で実施できることから、沖縄の陸自部隊の即応性が高まり、災害時などには県民の安全確保にも資する」と理解を求めた。

 これに対し、議員らは「自衛隊のハンセンの使用目的は戦闘訓練のためであり、災害時の即応性を念頭に置いたものではなく、議論のすり替えだ」と反発した。

 一方、県の保坂好泰基地防災統括監は同町議会の申し入れに対し、「(共同使用で)負担増加はあってはならない。町議会の抗議決議は地域の声として重く受け止めたい」と述べた。

 同議会の抗議決議は共同使用を「一方的な基地負担の押し付け」とし、「これ以上の基地機能の強化負担は断じて許されない」としている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021300_06.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年10月2日朝刊)

[首相所信表明]

具体策が聞きたかった

 安倍晋三前首相の退任の後を受けた福田康夫首相が所信を表明した。

 参院で与野党が逆転しているため「野党と誠意をもって話し合いながら国政を進めていく」と述べたが、当然であり、論戦によって国会を活性化させ国民の信頼回復に努めてもらいたい。

 新政権の政策課題の多くは前政権のものを引き継いでいる。突然の政権放棄で国民の不信を買った前首相との違いを期待しただけに、新鮮味、具体性ともに欠いたのは残念だった。

 ただ、抽象的とはいえ小泉純一郎元首相、安倍前首相が推し進めた改革路線との違いは打ち出している。

 構造改革を維持しつつ「地方の痛み」に目を向ける。地域間格差の是正を目指すのは、新政権のスタンスといっていいはずだ。具体策は見えていないが、これからどう骨組みをつくり肉付けをするのか、注視していきたい。

 政府・与党が最重要課題に掲げるテロ対策特別措置法について、首相は「テロリストの拡散を防ぐための国際社会の一致した行動」と強調した。

 その上で、インド洋における海上自衛隊の給油活動継続を「国益に資する」と述べている。

 だがこの問題では、給油された燃料がイラク戦争に転用されているのではないかという疑惑も出ている。

 もしそうであれば、給油対象をインド洋の海上阻止行動に限定した「了解とは違う形」(町村信孝官房長官)になるのは明らかだ。集団的自衛権を禁じた憲法の根幹にもかかわってくる。

 実際はどうなのか。政府は給油を受けた米軍の行動を細かく調査し、国民に知らせる責任がある。

 「政治とカネ」の問題については、指摘された閣僚には説明責任を尽くさせると訴えた。しかし、自ら代表を務める自民党選挙区支部での領収書書き換え問題も表面化している。

 演説では「特に、自らについては厳しく戒めていく」と話したが、「政治とカネ」の問題に国民が敏感になっているのであり、そのことを過小評価してはなるまい。なぜそうなったのか、国会の場できちんと説明する必要があろう。

 一方、年金問題については「年金が安定的に支払われていくよう、長期的な視野に立った制度設計が不可欠」と述べている。受給者の立場を重視した着実な解決を約束したが、どのような手だてを尽くすのか。

 要はその具体策であり、実行可能な解決策の構築である。民主党との協調路線を説く福田首相がどう指導力を発揮していくのか。まずは国会論戦に注目したい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071002.html#no_1

 

琉球新報 社説

所信表明演説 伝わらぬ政策イメージ/「基地」「教科書」への認識は

 揺るぎない年金制度。大都市と地方の格差や所得格差が解消され、暮らし向きが改善される。政治や行政はこの先、国民の生活実態に沿った方向へ大きく変わっていくかもしれない。

 福田康夫首相の所信表明演説に国民が期待したのはまさにこの点だった。

 ましてや時期が時期だ。安倍晋三前首相が代表質問の直前に唐突にも政権を放り出し、政治空白は約3週間にも及んだ。前代未聞の異常事態を受けての所信表明だけに、国民の注目度は普段よりはるかに高かった。

説得力感じられない

 結果はといえば、抽象的な言葉の羅列と総花的な説明が延々と続き、新味に乏しく、説得力はあまり感じられなかった。

 福田政権がどこへ向かおうとしているのか。政策の具体的なイメージは、さっぱり伝わってこなかった。これが大方の国民の正直な感想ではないか。

 首相は、野党が参院で多数を占める「ねじれ国会」の現実を踏まえ、自衛隊のインド洋での給油継続を念頭に民主党など野党と「重要な政策課題について話し合いながら国政を進める」と協調姿勢を鮮明にした。「自立と共生」や「希望と安心」「温(ぬく)もりのある政治」などのフレーズを使い、福田カラーを強調した。

 イデオロギーが過剰ぎみだった安倍政権との違いを分かってもらおうと、自分の持ち味でもある調整能力や手堅さなどを意識し、穏健路線を進めることをアピールしたかったのかもしれない。

 しかし、逆に首相の顔が隠れてしまった感は否めない。やはり具体策を示さない限り、国民は判断しようがない。

 安倍前首相と異なる点は「カタカナ語を避けたところ」と皮肉交じりに語られるのは、首相とて本意ではあるまい。

 国民がいま求めているのは「温もりのある政治」を裏付けるための制度や仕組みなどの具体策を示し、そして実際に体感させてくれる政治、行政を推し進めてくれることだ。

 首相は、今後の国会審議の中で、自らの政治理念に基づく具体的な政策の中身や課題解決への道筋をどう打ち出していくか。それができなければ、野党の追及をかわせないばかりか、国民を納得させることはできない。そのことを強く自覚すべきだ。

 腑に落ちないのは、国民の最大関心事である年金記録の不備問題に対し「着実に解決していく」と述べただけで、解決期限を明示しなかったことだ。

 宙に浮いた形の5千万件の年金記録を照合し、該当する可能性のある人への通知を来年3月までに完了することは、自民党の公約ではなかったか。たしか参院選惨敗の主要原因の一つと総括もしていたはずだ。

おざなりの言及

 照合作業が容易でないことは分かる。だが、あいまいにするのは許されまい。設定した計画が厳しいならその理由を含め、きちんと説明するのが筋だ。

 政治資金規正法への対応についても疑問だ。

 「政治資金の透明性をさらに高めるため、その改善に向けた考え方を取りまとめた」としたものの、政治資金収支報告書をめぐって、肝心の第三者機関によるチェック体制整備には演説で一切触れなかった。

 野党などが要求している一円以上の領収書の添付と公開義務について、首相はどう考えているのか。明確に答えられなければ、参院選で自民党に突きつけられた有権者の激しい反発が再燃することを、覚悟しなければならない。

 「抑止力の維持と負担軽減という考え方を踏まえ、沖縄など地元の切実な声によく耳を傾け、地域の振興に全力をあげて取り組みながら着実に進める」

 米軍再編問題について言及したものだが、9月10日の安倍前首相の所信表明とほぼ同じである。おざなりすぎないか。「切実な声」がどの程度の認識なのか、はなはだ怪しい。

 県民は、教科書検定問題についても首相の考えを聞きたかったはずだ。空前規模の11万人余が結集し、歴史の歪曲(わいきょく)を糾弾した県民大会の意義をどうとらえているのか。首相は語るべきだった。

 これは沖縄だけの問題ではない。根底でアジア外交などとも絡む、政権にとっては重要な歴史認識の問題でもある。

(10/2 9:45)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27719-storytopic-11.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 1・4面

「軍の強制」復活も/文科相、訂正申請容認

 【東京】渡海紀三朗文部科学相は二日午前の閣議後会見で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題で、教科書会社から記述の訂正申請があった場合の対応について「真摯に対応する」と述べ、記述を復活させる可能性を認めた。また、申請の内容を承認するかどうかを判断する際に、教科用図書検定調査審議会で再検討する必要があるとの認識を明らかにした。

 訂正申請に前向きな姿勢を示した理由について渡海文科相は「県民大会だけでなく、新たな事実、証言が出てきた」と述べ、県内の「集団自決」体験者による日本軍の強制を示す新証言が相次いでいることを根拠に挙げた。

 その上で「今回は検定結果に異論があるわけだから、もう一度審議会で検討いただけないかなと思っている」として、再審議の必要性を明確にした。

 渡海文科相は一日、「政治が介入をしないというこの(検定)制度をしっかり守っていきながら、なおかつ、沖縄県民の気持ちに何ができるのか考えたい」と述べ、検定制度に矛盾しない形で事態打開を図る考えを示していた。

 訂正申請は教科書会社の主体的な判断で文科省に対して記述変更の承認を求める手続きで、渡海文科相はこの方法ならば「政治介入」に当たらないと判断したもようだ。


     ◇     ◇     ◇     

「一歩前進の印象」/知事


 渡海紀三朗文部科学相が沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題への対応で、教科書会社からの記述の訂正申請に前向きな姿勢を示したことについて、仲井真弘多知事は二日午後、「非常にいいことで、県民が全身全霊お願いしたことが実現に向かって一歩踏み出したという強い印象を受ける」と評価。県民の要望である日本軍強制の記述復活に強い期待感を表明した。

 その上で「なるべく早く上京して、いろいろお願いをしたい」と述べ、実行委員会とともに三日にも上京し渡海文科相ら政府要人と面談、検定意見の撤回と記述復活を求めていく意向を示した。


文科相の柔軟性要求/岸田沖縄相


 【東京】岸田文雄沖縄担当相は二日午前、閣議後の会見で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の日本軍の強制を削除した高校歴史教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相ら政府が、記述復活に向けて柔軟姿勢を示していることについて「沖縄の声に対し誠実に対応しようと努力していることは評価できる」と述べた。

 岸田担当相は政府対応について「所管外であり、(検定制度の)具体的な中身は触れられない」と前置き。県民大会に十一万人の県民が集まったことには「沖縄戦で多くの尊い命が失われ、苦しい思いをされた。関係大臣には地元の関係者の方々の声を聞き、誠実に丁寧に対応していただきたいとお願いしている」と述べ、渡海文科相に対し、柔軟な対応を求めたことを再三、強調した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_01.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 5面

記述回復に期待の声/手続き実現に不安も

 渡海紀三朗文部科学相が二日、高校教科書の記述をめぐり、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への「日本軍の強制」記述復活の可能性を示し、対応を一変させた。十一万人が参加した県民大会以降、大きく揺れ出した文科省の対応。県内では「日本軍強制」の記述復活を期待する一方、「本来は検定意見を撤回すべきだ」と厳しい見方も出ている。

 文科相の発言に、渡嘉敷島の「集団自決(強制集団死)」の生存者、吉川嘉勝さん(68)は少し驚いた様子だったが「うれしいの一言」と喜んだ。

 しかし、「手続きをどうクリアし、実現するのか不安。沖縄は何かあると、本土の防波堤の役割をさせられ、差別の思想が生まれつつある。教科書問題後も、沖縄の現状を全国に届けてほしい」と期待を込めた。

 座間味島の「集団自決」の体験者の宮城恒彦さん(73)は「検定意見を付けて記述削除をさせたのは文科省。それなのに教科書会社にげたを預けて訂正させるような官僚のやり方は納得がいかない。文科省はきちんと間違いを認めて自主的に記述回復を認めるべきだ」と文科省の対応を批判した。

 県民大会実行委員長の仲里利信議長は「記述が回復されるのであれば、歓迎したい。大会に十一万人余が結集した県民の思いが政府や文科省を突き動かした」と評価した。

 その上で「検定意見の撤回などを含め文科省が実際どのような対応に出るのか、推移を見守りたい。三日にも上京し、要請行動を展開したい」とした。

 仲村守和県教育長は「本来なら教科用図書検定調査審議会で審議して撤回すべきだろう」と指摘。

 「ただ、いずれにしろ『日本軍』という主語が復活するに越したことはない。県民の平和への思いが政府の大きな山を突き動かした」と語った。

 一方、実教出版「高校日本史B」の執筆者の石山久男さん(71)は「根拠のない検定意見を文科省は誤りを認めて撤回すべきだ」とし、「訂正申請をした場合、日本軍の『強制』の記述を認めるのか、もう少し状況を見極めたい」と慎重な見方を示した。

 山口剛史琉球大准教授は「県民大会の大きな成功を受けて無視できなくなり、問題が大きくなる前に手を打とうということか、と思う」と文科省の対応を分析。

 今後に向けて「一定評価するが、『検定意見の撤回』が県民大会で確認されたばかりの総意。実行委員会や政治家の皆さんは、その線を崩さないよう、根本解決目指して奮闘してほしい」と述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_02.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 1面

実行委、あすにも上京/知事も同行意向

 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」から日本軍強制の記述が削除された検定問題で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の実行委員会(委員長・仲里利信県議会議長)は二日午後、県議会内で協議し、十五、十六日に予定していた要請行動を前倒しし、渡海紀三朗文部科学相らの日程の調整ができれば、三日にも上京し、要請行動を展開する方針を決めた。県議会一般質問への出席を予定している仲井真弘多知事は「県議会の了承が得られれば要請行動に参加する」とし、同行する意向を伝えている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_03.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 5面

県民大会 ブログで発信/真和志高

 教科書を使う高校生の立場から教科書検定意見の問題を伝えようと、真和志高校インターメディア部(四十三人)が、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の模様をブログで全国に発信している。生徒たちは、絵文字交じりの文章で「沖縄戦を美化した教科書なんて絶ッ対使いたくない」と若い感性で検定意見の撤回を求めている。

 インターメディア部は「写真甲子園」で三度の優勝を誇る。六月の「沖縄戦の歴史歪曲を許さない! 県民大会」を取材。九月二十九日の県民大会には約二十人が参加、訪れた人に参加理由を聞き、写真を撮った。

 同三十日のブログでは「歴史的瞬間に立ち会えました」「若い世代の子もたくさんいて感動」などと記載。

 郡民大会を含め十一万六千人が参加したことに「わー! きゃー! やったぁ(≧◇≦。)」「やるときゃやります沖縄県民(;×;)」とつづった。

 生徒たちは六月の県民大会参加後、壁新聞を張り出したり、校内放送で県民大会への参加を呼び掛けるなどした。新里義和教諭(46)は「教科書も含め何事にも疑問を持っていい。いい経験になったと思う」と目を細めた。

 インターメディア部のブログ「ハイサイブギ放課後日記」のアドレスはhttp://capacamera.cocolog-nifty.com/mawashi/

 

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_04.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 5面

戦争を伝える写真と道具展/あすから沖縄市

 【沖縄】報道カメラマンで県出身の石川文洋さん、エッセイストの村瀬春樹さんが沖縄市に寄贈した写真パネル、戦時中の道具などを集めた展示会「戦争と写真そして道具たち」(主催・沖縄市)が三日から沖縄市役所一階市民ホールで開かれる。写真と道具で、戦争の時代をどう表現したかを紹介する企画。

 石川さん、村瀬さんとも、復帰前後に基地の街・コザを取材するなど沖縄市とゆかりがある。今年一月までに、石川さんがベトナム戦争時代の一九六五年から現在にかけた写真パネル二百五十四点。村瀬さんが自身のコレクションから戦時中の分銅など二百三十七点を市に寄贈した。

 展示会は十四日まで。十一、十二の両日は石川さんと村瀬さんが会場で展示を説明する。十二日は午後七時から沖縄市民小劇場あしびなーで両氏のトークショーが行われる。

 問い合わせは市文化観光課、電話098(929)0261、市史編集担当、電話098(939)1212(内線2273)。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_05.html

 

2007年10月3日(水) 朝刊 1・2・3・24面

野党、国会に見直し決議案共同提出へ

 【東京】民主、共産、社民、国民新の野党四党は二日午後、国会内で国対委員長会談を開き、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題への対応で、見直しを求める国会決議案を衆参両院に共同提出する方針を確認した。「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の決議文を基本に、与党も賛成できるような案文をまとめ、全会一致での採択を目指す。

 各党が近く、それぞれの案文を持ち寄って調整する。文案作成と並行して、衆参の議院運営委員会で与党側に「全会一致」に向けた協力を呼び掛け、「できるだけ早く」(民主・山岡賢次氏)の決議を目指す方針だ。

 関係者によると、会談では民主党側が同日午前の役員会で国会決議案を提出する方針を決定したことを報告、野党共闘での共同提出を提案した。

 共産党の穀田恵二氏は「全会一致で与党が拒否できない内容がいい。(与党国会議員も参加した)九月二十九日の沖縄県民大会の決議に沿った内容であれば自民党も賛同できるのではないか」と指摘し、これに他の各党も同調したという。

 ただ、政府が急きょ柔軟姿勢に転じ、県民大会時とは状況が異なってきた。三日からの代表質問で同問題を取り上げる野党各党は、政府の国会答弁や県民大会実行委員会の要請に対する渡海紀三朗文科相の回答などを踏まえて、具体的な案文を決定するとみられる。

 一方、出版社からの訂正申請に柔軟に対応して解決を図ろうとする政府側の手法に、関係者には「教科書の記述は回復しても、今回の検定意見が残ってしまうのでは意味がない」との懸念がくすぶっている。

 このため、「やることは一つ。審議会のやり直しだ。これは与野党で一致できる問題のはずだ。最低でも今週中に擦り合わせをしたい」(民主党中堅議員)として、文案に再審議を盛り込んだ決議の早期採択を求める声も上がっている。

 

     ◇     ◇     ◇     

野党「撤回」譲らず/妥協的合意を警戒


 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍強制を削除した教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相が二日、教科書会社からの記述の訂正申請を容認する姿勢を示した。与党は「県民大会の思いを受け止めたぎりぎりの対応」と評価した。一方、野党サイドは「検定意見の撤回を求め、検定制度の見直しが必要だ」と批判し、妥協的決着が図られることに警戒感を示している。

 自民党県連の新垣哲司幹事長は「十一万人余が集まった県民大会の世論の波を受け、素早く対応した。検定への政治介入を避けるという大前提の下、ぎりぎりの判断だろう」と評価した。三日に伊吹文明幹事長ら党三役と面会し、協力を要請する予定だ。

 公明党県本の糸洲朝則代表も「県民大会の意義を重んじ、真摯に対応する姿勢を評価したい」と肯定的に受け止めた。同時に「決議に沿って決着できるかが問われる。検定制度の見直しは不可欠で、文科省と県民の共同研究機関を設置すべきだ」と主張した。

 一方、社民党県連の新里米吉書記長は「党で議論はしていないが、教科書で軍強制の記述を回復させる策になる」との考えを示した。「今回の記述削除のように、一部の解釈を審議せず、承認する検定の在り方にメスを入れるべきだ」とも指摘した。

 社大党の喜納昌春委員長は「(教科書)印刷までの時間的制約がある中、歴史が歪曲された教科書が世に出ることを食い止められる」として“県民の勝利”だと評価。

 しかし、「歴史改ざんで混乱を巻き起こした文科省の責任が問われる。検定そのものの見直しに向けた戦いは続く」とした。

 共産党県委の赤嶺政賢委員長は「大会の衝撃で政府は慌てふためいている」とみる。文科省が教科書会社からの記述の訂正申請を容認する姿勢を示していることについては「決議で示した検定意見撤回と記述回復を貫き、あいまいな決着は許してはいけない。検定撤回がない妥協的合意では過ちを繰り返しかねない」と指摘した。

 政党「そうぞう」の下地幹郎代表も「教科書会社に責任をなすりつけた訂正では、同じ過ちを繰り返しかねない」と批判した。「『集団自決』の歴史改ざんを防ぐため、福田康夫首相の談話による政府見解を明らかにすべきだ」と訴えた。

 同様に「記述回復だけでなく、強制を削除した教科書検定の撤回に対応すべきだ」と主張したのは民主党県連の喜納昌吉代表。「軍強制があったのは紛れもない事実。訂正申請でごまかされず、検定やり直しで政府を追及する」との構えだ。

 国民新党県連の呉屋宏代表も「記述回復は当然のこと。検定の見直しが大前提で、教科書会社に過失があったわけではなく、教科書検定に根本の問題がある。審議会のやり直しが不可欠だ」と審議会の再審査と検定撤回を求めた。


苦し紛れ政治決着/政府、不介入装い収拾へ


 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に旧日本軍の強制があったとする記述が削られた教科書検定問題で、検定意見の撤回を全面否定してきた文部科学省は、教科書会社側が記述を修正する「訂正申請」を促す形で軍の関与に関する記述復活を模索する姿勢に転じた。「政治不介入」という検定制度の大原則を表面上保ちつつ、県民の怒りの声を受けた政府が事実上の「政治決着」を誘導する形で事態は進む。突然ともいえる政府の方針転換の背景には、地方への配慮を前面に掲げた福田政権の姿勢が色濃くにじむ。

 「沖縄の教科書問題は大変重要だ」。首相官邸で二日開かれた政府与党連絡会議で、町村信孝官房長官は強調した。

 町村氏は、従来の歴史教科書を「自虐的」と批判する「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーが執筆した中学歴史教科書が二○○一年に教科書検定に合格した当時の文科相。中国、韓国が強く反発したが、町村氏らは検定制度の仕組みを盾に突っぱねた。

 だが今回、町村氏を含めた政府は「教科書会社主導による訂正や修正」の方向に動く。その理由を、ある閣僚経験者は「歴史観にこだわった安倍政権が去ったのが一つ。もう一つは福田さんが『地方の声にしっかり耳を傾ける』と言ったことだ」と説明。県民が十一万人集まって寄せた気持ちを無視することは、政権発足早々から所信表明にも反することになる、というのだ。

 ただ別の自民党文教族議員は「政府自らが教科書会社に修訂正させれば、中国、韓国などが事細かく求めてくる修訂正要求に対応しなければならなくなる。そうしたら教科書制度は破たんだ」と指摘する。自主訂正にこだわる政府の姿勢には、中韓両国と進める歴史教科書に関する研究への影響を最小限に抑えたいとの思惑ものぞく。


復活例


 「専門家の判断は覆せない」と取り付く島もなかったのに、にわかに柔軟な態度を見せ始めた政府の対応を県民はどう見るのか。座間味島で「集団自決」生存者の聞き取り調査に取り組む宮城恒彦さん(73)は「事実上削除させたのは文科省なのに、教科書会社に『自分たちで申請しろ』というのは、幼稚園児でもおかしいと思うだろう」と批判的だ。

 実は、沖縄戦をめぐり、いったん削除された教科書記述の復活に政治が“関与”した例はこれが初めてではない。

 高校日本史で「約八百人の沖縄県民が日本軍に殺害された」との記述が削除された一九八一年度検定では、県民の強い反発で小川平二文相(八二年)と森喜朗文相(八四年)が国会答弁で、それぞれ次の検定での「配慮」を明言。結局、八四年七月に検定結果が公表された教科書で、元の記述が事実上復活することになった。


残る溝


 来春、教育現場に配布される教科書を訂正するには、製作の都合上、今月末には内容を確定する必要がある。官房長官、文科相の発言を受け、教科書会社の中には早期の訂正申請を検討する動きが出ている。

 しかし、元の記述復活にこだわる執筆者側と「関与があったのは間違いないとしても命令の直接証拠はない」とする文科省の間にはまだ溝が残る。今後は教科書会社が申請する内容がどのような表現に落ち着くのかが焦点の一つになる。

 軍強制の記述を削除した実教出版の執筆者石山久男さんは「今回は検定意見に明らかな事実誤認があったケース。変に後退したあいまいな表現で収拾しようとすれば不透明な政治決着として将来に禍根を残しかねない」と指摘した。


元凶の検定意見撤回を/解説


 文部科学省の教科書検定で、高校の日本史教科書から沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述が削除された問題で、渡海紀三朗文科相が教科書会社からの正誤訂正の申請を受け入れる形で、「軍の強制」を示す記述を回復させる可能性を示唆した。だが、これで「集団自決」の記述をめぐる教科書検定問題がすべて解決するわけではない。(社会部・吉田啓)

 十一万六千人を集め、政府を揺り動かすきっかけとなった県民大会の決議は、(1)検定意見の撤回(2)教科書の記述回復を求めた。

 なぜか。「沖縄戦について必要な説明を欠く、誤った記述の教科書が使われないようにし、二度とこのような記述を求める検定が起きないようにする」ためだ。

 訂正申請の受け入れ表明で、記述回復の可能性は出てきた。だが、これだけだと、教科書検定問題の原因をつくった検定意見は手つかずで残る。

 検定意見を決めた教科書審議会の審議と、訂正申請の可否を決める教科書審議会の審議は、まったく別のものだからだ。

 渡海文科相は訂正申請を受け入れる理由に、「集団自決」体験者の新証言などを挙げた。軍の強制を示す強力な証言の出現を「学説状況の変化」と、とらえることもできると考えたのだろう。

 こうした考えを基に「学説状況の変化により、集団自決に軍の強制(あるいはもっと曖昧な『軍の関与』とされるかもしれない)が認められる場合も出てきた」と、検定意見の解釈の幅が広げられるかもしれない。

 だが、今回の検定意見は、「『集団自決』に軍命はなかった」とする人らによる訴訟や主張を根拠の一つに決められた。

 それらの人が再び異を唱えた場合、検定意見がこのまま残されると「やはり『軍の強制』はいき過ぎた表現」と、何年後かに今回と同じ検定が下される可能性が残る。

 沖縄は県民の意思と、体験者の証言などの論拠を基に、堂々と検定意見の撤回を求め続けよう。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031300_01.html

 

2007年10月3日(水) 朝刊 1・25面

実行委、きょう撤回要請/「県民の支援」後ろ盾

 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の日本軍による強制の記述が削除された高校歴史教科書の検定問題で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員長の仲里利信県議会議長や仲井真弘多知事、県関係国会議員らは三日午前、渡海紀三朗文部科学相に会い、検定意見の撤回を要請する。

 岸田文雄沖縄担当相、河野洋平衆院議長、江田五月参院議長にも要請する予定。一方で、実行委側が希望している福田康夫首相、町村信孝官房長官との面会は二日時点では確定していない。

 実行委メンバーら要請団の十四人は二日夜、那覇空港から東京に向けて出発した。仲里議長は「われわれ代表の後ろには多くの県民の期待、支援がある。自信を持って強く要請する」と意欲を示した。


知事も上京/きょう文科相と面談


 教科書検定問題で要請行動を展開するため、仲井真弘多知事も二日夜、急きょ上京した。三日午前に実行委メンバーと合流し、町村信孝官房長官や渡海紀三朗文部科学相らと面談、検定意見の撤回と日本軍強制の記述復活を要請する。(一部地域既報)

 仲井真知事は二日午後、県議会内で記者団の取材に応じ、渡海文科相が教科書会社からの記述の訂正申請に前向きな姿勢を示したことに「非常にいいこと。県民が全身全霊お願いしたことが、実現に向かって一歩踏み出しという強い印象を受ける」と評価。

 「早く上京して、いろいろとお願いしたい」と検定意見撤回に決意を見せた。

 

     ◇     ◇     ◇     

11万人の思い国へ/要請団、実現向け出発


 「大会に集まった十一万人の思いをぶつけたい」「『修正』ではなく『撤回』を」―。「教科書検定意見撤回を求める県民大会」(委員長・仲里利信県議会議長)の実行委員らが二日夜、渡海紀三朗文部科学相ら政府要人への要請行動に向け、那覇空港出発ロビーに再び顔をそろえた。

 当初、今月中旬に予定されていた要請行動は同日午後、急きょ前倒しが決まった。県老人クラブ連合会の花城清善会長は「文科省は揺れている。今行動するのが一番効果的だ」。県市議会議長会会長の安慶田光男那覇市議会議長も「向こうで面会を待つくらいの意気込みでなければ、政府は動かせない」と強調する。

 県民の意思と期待を背負い、要請団メンバーはいずれも上気した表情。

 県市長会会長の翁長雄志那覇市長は「沖縄戦の体験は、保革を超えて県民に一つのぶれもない共通認識だ」と、民意を政府にぶつける構えだ。

 小渡ハル子県婦人連合会長は「今回の要請は第一波。文科省が撤回するまで、何度でも要請する。県民の意地に懸けても撤回させねばならない」と気迫を前面に出した。

 要請団は仲里議長を中心にガンバロー三唱で気勢を上げると、それぞれしっかり前を見据え、航空機に乗り込んだ。


教科書会社に戸惑い


 渡海紀三朗文部科学相が、高校日本史教科書の沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」をめぐる記述について、教科書会社側からの訂正申請を受け入れる姿勢を示したが、教科書会社は戸惑っている。

 文科省の検定意見に従い、「集団自決」への日本軍の強制を示す記述を削ったのに、その検定意見には手つかずのままだからだ。検定意見を付けられた五社のうち三社は訂正申請の検討を始めたが、「『軍の強制』を示しても、検定意見に従った記述と認めてもらえるのか」と悩んでいる。

 文科相の訂正申請の受け入れ発言を聞き、ある教科書会社関係者は「当たり前の話」と思った。

 教科書会社が「客観的事情の変更に伴い明白な誤りとなった事実の記載があった場合」などに訂正申請をすることは、文科省の教科書検定規則で認められているからだ。

 だが、訂正申請が却下される場合もある。「統計数字の更新や、人名などの誤記は簡単に認められるが、微妙な表現の変更には、かなりの理由が求められる」という。

 今回の検定では「集団自決」の記述について、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」という抽象的な検定意見が付いた。教科書会社は文科省の教科書調査官とやりとりし、検定意見の真意を探りながら、軍の強制を示す記述を削除した。

 「検定意見には解釈の幅がある。調査官が示す幅の中に記述を収めなければ不合格になる」。今回の検定では「軍の強制の明記はアウトだった」という。「解釈の幅を広げた」との見解が示されなければ、元通りの記述に戻すように申請するのは難しいようだ。

 別の関係者は、渡海文科相の「県民大会だけではなく、新たな事実、証言が出てきた」という発言に注目する。「『客観的事情の変更』が起きたため、『集団自決』への軍の強制を示す記述も認める」とのサインだと読み取れるからだ。

 一方、文科省は二日、照屋寛徳衆院議員(社民)の記述復活を求める質問主意書への答弁書で、「軍の強制」を削った検定後の教科書の記述について「沖縄における『集団自決』について、旧日本軍の関与が一切存在しなかったとする記載はない」とし、「誤った事実の記載」ではないとの見解を示した。

 「文科省の真意が分からない」と、慎重な姿勢を崩さない社もある。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031300_02.html

 

2007年10月3日(水) 朝刊 2面 

普天間移設で見解/石破茂防衛相インタビュー

 【東京】石破茂防衛相は二日午後、沖縄タイムス社などのインタビューに応じ、米軍普天間飛行場の移設問題について「現場の気持ちを直接聞いてみたい」と述べ、テロ特措法の延長が今国会で成立する見通しが立ち次第、早い時期に沖縄入りし、仲井真弘多知事ら地元関係者と意見交換する考えを明らかにした。

 石破防衛相は「私は、党務をしていたころからこの問題には深くかかわってきた。沖縄の負担と歴史的な経緯を理解しているつもりだ。現地の理解なしに基地政策は進まない」との認識を示した。

 一方で、県や名護市が求めるV字形滑走路の沖合移動については「合理的な理由がない限り、変更は難しい」と述べ、地元側の要望を受け入れる考えがないことをあらためて強調した。

 名護市や岩国市など、米軍再編計画に反対する自治体が支給対象外となっている再編交付金については、「日本や極東の平和のために、負担を我慢しようという地域に政府が配慮するのは当然で、誠心誠意、説明する責任がある」と、支給には地元の合意が必要との認識を示した。

 また、二〇〇七年度末で失効する在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の特別協定協議には「思いやり予算がスタートした時点と今では、わが国の財政事情は違う。日米同盟の信頼性を損なわないことができるのか、あらゆる可能性を排除しない」と述べ、従来より減額することも視野に、日米協議を進める考えを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031300_07.html

 

2007年10月3日(水) 朝刊 24面

辺野古の海で平和パレード/グリーンピース

 【名護】米軍普天間飛行場の名護市辺野古キャンプ・シュワブ沿岸部への移設問題で、移設に反対する市民団体と環境保護団体グリーンピースのメンバーは二日、海上で平和行動パレードを行った。

 市民団体のメンバーがカヌー二十二艇、ゴムボートなど七隻に乗り込み、一文字ずつ書かれたのぼりを掲げて「PEACE いのち」のメッセージを完成させた。

 沖合に停泊したグリーンピースのキャンペーン船「エスペランサ号」から乗員を乗せてきたボートを囲み、辺野古への移設反対と環境保護を訴えた。

 エスペランサ号のジョエル・スチュワート船長は「このような美しく、絶滅危惧種の生息地を埋め立てて基地を造ることなど米国ではありえず、環境破壊の犯罪だ。世界中の人たちに、辺野古へのサポートを広げていきたい」と語った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031300_08.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年10月3日朝刊)

[記述復活の動き]

収拾策の中身が問題だ


検定で「主語」が消える

 「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書検定問題に新たな動きが出てきた。

 検定で削除された日本軍の強制を示す記述について渡海紀三朗文部科学相は、教科書会社から記述の訂正申請があれば「真摯に対応する」と述べた。

 県民大会の結果を踏まえ、記述復活を示唆したもの、だといえるだろう。歴史の改ざんを憂える十一万人の民意が、かたくなな政府を突き動かしたのである。

 ただ政府が想定している事態収拾策には疑問点もある。あらためて経過を振り返り問題の所在を確認しておきたい。

 文科省によると、教科書会社から検定の申請があると、文科相は教科書調査官にその教科書の調査を命じ、教科書として適切かどうかを教科用図書検定調査審議会に諮問する。

 今回の検定で教科書調査官は、軍の強制や関与によって「集団自決」が起きたとする記述を取り上げ、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」との調査意見書を審議会に提出した。

 「集団自決」の記述に文科省側がクレームをつけたのである。これが事の始まりだ。

 審議会は調査意見書と同じ文言の検定意見をまとめた。

 その結果、五社七冊の高校歴史教科書の記述は書き改められ、「日本軍」と「集団自決」の関係が文章表現上、完全に切り離されてしまった。

 だれに追い込まれたのか、だれに強制されたのかがわからないような、主語不明の文章になってしまったのだ。

 たとえば、「日本軍に『集団自決』を強いられたり」という修正前の記述は、検定意見を受けて「追いつめられて『集団自決』をした人や…」に変えられている。

 一連の過程で明らかになったのは、文科省が書き換えの主導的な役割を担っていること、審議会が十分な議論もせずに結論を出したことなどである。

 検定意見をまとめるにあたって審議会は果たして現地調査や体験者からの証言取り、沖縄戦研究者からの事情聴取などを行ったのか。結論の導き出し方があまりにも安易だ。


訂正申請による復活か


 修正前の記述にあるように、日本軍によって「『集団自決』を強いられたり」「なかには日本軍に集団自決を強制された人もいた」のは歴史的な事実である。

 体験者の証言に謙虚に耳を傾け、沖縄戦研究者の膨大な研究蓄積を丁寧にひもとけば、軍強制の記述を削除するような検定は行われていなかったはずだ。

 なぜ、このようなずさんな検定が通ってしまったのか。政府は検定申請から記述修正に至る議論の一部始終を公開すべきである。密室による検定が大きな疑惑を生んでいる以上、事実関係の詳細な情報開示が必要だ。

 検定制度には「検定済み図書の訂正」に関する規定がある。

 誤記、誤植が発見された場合や、客観的事情の変更に伴って記述の明白な誤りが明らかになった場合、検定済み図書であっても訂正ができるという仕組みだ。

 政府が検討しているのはこの手法による事態収拾である。

 だが、この収拾策には問題点がある。今回の混乱を招いたのが文科省であるにもかかわらず文科省の責任が不問にされ、検定申請者である教科書会社にボールを投げ返している点だ。


政府の見解が聞きたい


 県民大会決議は「検定意見の撤回」と「記述の復活」の二点を政府に求めている。

 検定意見そのものを撤回しなければ、今後、同じような検定騒動が起こりかねない。審議会の検定意見がどう処理されるのか、まだあいまいだ。

 私たちが切実に知りたいと思っているのは、沖縄戦の「集団自決」について福田康夫首相がどのような歴史認識をもっているのか、政府はどのような見解をもっているのかということである。

 軍民混在の地上戦で生じた「集団自決」問題は、決して沖縄問題ではない。「集団自決」と「日本軍による住民殺害」は、同じ根から出た現象だといっていい。それがなぜ生じたかを解き明かし未来の戒めとすることは、日本全体の課題であるはずだ。

 あらためて政府の見解表明を求めたい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071003.html#no_1

 

琉球新報 社説

教科書記述訂正 説明責任は済んでいない

 宮古、八重山での郡民大会を含め「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に復帰後最多の11万6千人(主催者発表)もの人々が結集したことで、とうとう政府も重い腰を上げざるを得なくなってきた。

 教科書の発行者が記述の訂正を申請すれば教科用図書検定規則に基づき「学習を進める上に支障となる記載」に当たるかどうかを判断して対応する方針を政府が2日の閣議で決定したのだ。

 渡海紀三朗文部科学相は「検定結果に対していろんな意見があるので、その中身をもう一度審議会で検討しなければいけない」と述べ、再検討する意向を示した。

 今回の検定によって、日本軍が「集団自決」を強制したとの記述を削除・修正した教科書発行者5社のうち複数が訂正を申請する方向で調整に入っている。

 改ざんされた記述が正しい形で復活する可能性が出てきたことは喜ばしいが、政府の態度はあまりにも誠意に欠けている。

 文科相が発行者に訂正を勧告するという選択肢は「政治による介入になる」として否定し、あくまで発行者の判断で訂正申請が出た場合に対応するとの姿勢を示しているからだ。

 そもそも、教科用図書検定調査審議会に修正を求める検定意見の原案を示したのは文科省である。

 審議会には沖縄戦を研究した委員がおらず実質的審議がなされない中で原案通り検定意見が決まった。教科書発行者はこの意見を踏まえ、記述変更を迫られた。

 教科書の記述を書き換えさせたのは文科省にほかならない。にもかかわらず、検定経過の適否を明確にしないまま、発行者の訂正申請にげたを預けるやり方は、責任転嫁以外の何ものでもない。

 何よりも批判されるべきなのは、事ここに至るまで、記述の削除・修正を求める検定意見が出された経過に関し、文科省が何一つ説明責任を果たしていないことだ。

 政府は、どのような歴史の検証、研究を踏まえて検定意見がまとまったのか、まず国民、県民に説明する義務がある。

 その上で、自らの非を潔く認め、沖縄県民に謝罪すべきだ。教科用図書検定調査審議会や教科書発行者に責任を押し付けるのは不誠実極まりない。

 沖縄戦では、住民が日本軍によって「集団自決」に追いやられたり、幼児を殺されたり、スパイ容疑をかけられて殺害されたりした。

 仲里利信県議会議長が県民大会で指摘していたように、軍命による「集団自決」が、自ら進んで死を選択したとする殉国美談に仕立て上げられたのではたまらない。

 政府は自らの責任において、教科書の記述を正しい形で速やかに復活させるべきだ。

(10/3 9:46)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27756-storytopic-11.html

 

2007年10月3日(水) 夕刊 1面

検定意見撤回を否定/要請団に文科相回答

「政治介入できない」

 【東京】文部科学省が沖縄戦「集団自決(強制集団死)」から日本軍強制の記述を削除した高校歴史教科書の検定問題で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員長の仲里利信県議会議長や仲井真弘多知事、県選出・出身国会議員らは三日午前、渡海紀三朗文部科学相に会い、検定意見撤回と記述回復を要請した。渡海文科相は「検定を守ることは非常に大事なこと」と話し、検定意見撤回には応じられない、との考えを示した。一方で「関係者が知恵を出すことによってこの問題に反映することは何とか可能にならないか」と町村信孝官房長官の言葉を引用。教科書会社からの訂正申請に柔軟に応じる姿勢を示した。

 仲里議長は「(大会は)百三十万人余りの県民の総意だと受け止めてほしい。ご配慮ください」と話し、「沖縄戦における『集団自決』が日本軍による関与なしには起こり得なかったことは紛れもない事実」とする大会決議文を読み上げた。

 仲井真知事も同様の趣旨の要望書を手渡し、検定意見の撤回と記述の速やかな回復を求めた。

 渡海文科相は「県民の代表である知事、超党派で来られたのは重く受け止めさせてもらいたい。教科書検定制度は政治的介入があってはならない」との立場を示した。

 さらに、赤嶺政賢衆院議員(共産)が「検定意見が残ったままで何かできると言うのでは県民の不信がぬぐえない。そこに一番のポイントがある」と検定意見撤回を迫ったのに対し、渡海文科相は「(検定意見撤回は)制度そのものに新たな道を切り開くということになってしまう」と否定的な見解を示した。

 渡海文科相が教科書検定問題で、県民大会実行委員会のメンバーや仲井真知事と会うのは初めて。要請には、翁長雄志那覇市長や安慶田光男那覇市議会議長、玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会長、小渡ハル子県婦人連合会長、共催団体の代表ら約三十人が参加。面談は約二十分。人数を絞り込んで行われた。これまでの要請は非公開だったが、今回は報道陣にすべて公開された。

 一行は、渡海文科相のほか、岸田文雄沖縄担当相や官邸の大野松茂官房副長官、衆参両院議長らも訪れた。大野官房副長官は「(大会に)県民の多くが集まったことを政府として重く受け止め、総理や官房長官にも伝えたい」と答えたという。岸田沖縄担当相は「所管外だが、沖縄発展のための担当相として誠実に受け止めたい」と理解を示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031700_01.html

 

2007年10月3日(水) 夕刊 5面

実行委に落胆の色/検定撤回否定

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題で三日、文部科学相ら関係閣僚と初めて面談した県民大会実行委員会の要請団。政府が軟化の姿勢を見せるなど、前回要請時とは打って変わった「厚遇対応」に期待感を膨らませた実行委員だが、「検定意見の撤回」に言質を与えない政府の姿勢に、緊迫した空気も。記者会見した仲里議長は「もうちょっと前向きな発言があると思っていたが…」と語り、実行委に落胆の色は隠せなかった。

 同日朝、当初の予定よりも十五分ほど早く宿舎のロビーに集まった要請団の一行。九時半の江田五月参院議長との面談から始まるこの日の要請行動を前に、緊張した面持ちで大会決議文に何度も目を落とす仲里利信実行委員長(県議会議長)の姿があった。

 「前回は事実上の門前払いだったが、今回は雲泥の差」と前回の審議官対応とは異なる大臣対応の要請行動に期待感をにじませた。その上で「記述の回復だけではなく、検定意見の撤回も併せて強く求めたい」と要請の意義を強調した。

 午前十一時。今回の要請の「本丸」である渡海紀三朗文科相との面談は、仲里議長らが面談実現への謝意を示すなどリラックスしたムードで始まった。だが決議文を読み上げ始めてから要請団とともに一斉に表情を引き締め、「百三十七万人の総意だと受け止めてほしい」と付け加えた。

 小渡ハル子県婦人連合会会長は「女性として母として、子どもにゆがんだ教育はしたくない。真実を伝えていきたい。検定意見を撤回してほしい」と語気を強めた。

 「重く受け止めさせていただく」。ひざに両手を添え恐縮し切った様子で要請団の話に聞き入っていた文科相だが、「検定意見の撤回」については「検定を守ることは非常に大事」などと慎重な姿勢を崩さなかった。

 これに赤嶺政賢衆院議員(共産)は「県民の不信がぬぐえない」と「検定意見の撤回」を重ねて注文。下地幹郎衆院議員(無所属)も「安易な解決策は良くない。悪い検定に政治が介入するのは当たり前だ」と念を押したが、渡海氏からは前向きな回答がないまま、要請が終了した。


支援団体が要請行動


 教科書検定意見の撤回を求める沖縄からの要請団の行動に合わせ、「大江・岩波沖縄戦裁判を支援し沖縄の真実を広める首都圏の会」が三日午前十時から、東京・丸の内の文部科学省前で要請行動を始めた。

 同会のメンバーや県人会、東京都の教職員組合関係者ら約二十人が参加した。ハンドマイクを使い、教科書会社からの訂正申請の容認で解決を図ろうとする文科省の姿勢を批判し、「あくまでも検定意見の撤回を」と訴えた。県民大会で配布された沖縄タイムス速報などのコピーも道行く人々に配ったという。同会の渡辺勝之事務局次長は「通りかかる人々も興味を持ってくれているようだ」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031700_02.html

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