沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(10月6日、8日)

2007年10月6日(土) 朝刊 1・29面

文科相「元通り困難」軍強制 認めぬ見通し

検定撤回なお否定

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題への対応で、渡海紀三朗文部科学相が県民大会決議に盛り込まれた「記述の回復」について、「完全に元通りにするのは難しい」との認識を周囲に伝えていたことが分かった。

 複数の政府、与党関係者が五日明らかにした。関係者によると、渡海文科相は「ニュアンスの問題はあるが、県民の意思がきちっと伝わる表現はできるのではないか」とも述べているという。

 政府、自民党は教科書会社からの訂正申請に柔軟に対応する方針を示しているが、検定前に使用されていた「軍による強制」の表現を弱めなければ承認されない見通しが強まり、記述の「原状回復」は困難な情勢だ。

 関係者によると、渡海文科相は、もう一つの大会決議の「検定意見の撤回」については、「検定への政治介入で制度を歪めることになる」として困難視。「(表現を弱めた形で)記述を回復することで、結果的に撤回になる」との判断を示しているという。

 また、民主党などが求めている検定制度の見直しは「そこに踏み込むと時間がかかり、問題が複雑化する」とし、否定的な見方を示した。

 渡海文科相は五日夕、首相官邸で町村信孝官房長官と会談し、検定問題について協議。「政治介入」とならない方法で、早急に対応する方針を確認した。

 渡海文科相は会談後、記者団に対し「原則を確認した。しっかり検定制度を守ることが一つのポイント」と述べた。

 今後の対応では「(来年度の教科書が印刷される)十二月まで引っ張っておくわけにもいかない。ゆっくりしてはいられない。『やれることは何か。こういうことはやれる』ということについて、できるだけ早く結論を出したい」との認識を示した。


     ◇     ◇     ◇     

軍強制記述「譲れず」


 「妥協はしない」。文部科学省が教科書検定で高校の日本史教科書から、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述を削除した問題で五日、渡海紀三朗文科相が記述回復を「完全に元通りにするのは難しい」と困難視していることが分かり、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員会関係者は決意を新たにした。一方で「言葉の選び方次第」と話す関係者もおり、反応に温度差が生じた。

 「検定意見撤回を求める気持ちで、あれだけの県民が一つになった。『気持ちを重く受け止める』のではないのか」。実行委副委員長の玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会長は、驚きを交え語った。「記述は必ず元通りにしてほしい。国や政治家にいいかげんにあしらわれることは、絶対に許せない」と、強い怒りをにじませた。

 三日の文科相への要請で、思いの丈をぶつけた同副委員長の小渡ハル子県婦人連合会長。「あれだけ熱心に聞いてくれ、期待もしていたのに、どうしてそうなるのか。裏切られた気分だ」と憤慨する。「県民の思いが込められた大会決議は譲れない。今度は大勢で押しかけ、福田首相に会う」と決意を込めた。

 一方、実行委幹事の伊波常洋県議(自民)は「日本軍という主語さえはっきりさせれば、戦時下では関与も命令もほぼ同義ではないか。大会の第一段階としてはほぼ実を取った」と、一定の評価をした。「二度と同じことが起きないような検定制度づくりは次の闘い。国会などで論議されていく」との見通しを示した。

 「今は超党派で団結して政府にもの申すことが大事。県民の期待を裏切るような妥協は許されない」と、与党側の動きを懸念する実行委幹事の平良長政県議(護憲ネット)。文科相の認識について、「『記述回復はここまで』と口を出すこと自体が政治介入だ」と批判した。

 日本史教科書を執筆した石山久男歴史教育者協議会委員長は「検定意見を撤回させなければ、何も変わらないことがかえって明確になった」と指摘。「執筆者として、完全な記述の回復まで働き掛けを続けていく」と強調した。

 高嶋伸欣琉球大教授は、政府が一貫して「検定意見撤回は政治介入」としていることを、「自らの非を認めない、官僚や政治家の責任逃れだ」と批判した。「『県民の思いを重く受け止める』と、見せかけの言葉だけ。教科書会社任せで、政府や文科省が自ら改める姿勢は皆無だ」と手厳しい指摘を重ねた。

 「県や実行委関係者は『これで妥協すれば県民への背信行為』と腹をくくり、要請を続けてほしい」


反基地ネット文科省を批判


 あらゆる基地の建設・強化に反対するネットワーク(反基地ネット)の宮城清子共同代表らメンバー七人は五日、県庁で記者会見を開き、「『検定意見撤回』を拒絶した『政治的解決』は認められない」とする緊急声明を発表した。検定意見を維持しながら教科書会社から訂正申請があった場合は「丁重に真摯に対応したい」との渡海紀三朗文部科学相の発言を受けた声明で、あくまでも検定意見の撤回を求めている。

 声明では「検定意見がある限り、元通りの記述では申請できない」とする教科書会社の説明を紹介。その上で「政府・文科省側が検定意見を維持したままで、曖昧な決着を図ろうとしている」と批判した。

 宮城共同代表は、沖縄戦時中に軍の命令を受け、陸軍病院で戦傷者の手当てに当たっていたことに触れ、「当時はすべて軍の命令で動いた。毎日胸が裂けるほど怒りを覚えている」と、軍の「強制」を削除した教科書検定に抗議した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710061300_01.html

 

2007年10月6日(土) 夕刊 1面

記述回復優先で一致/知事と自民議員ら

 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題への対応で、仲井真弘多知事は六日、那覇市内の知事公舎で、県選出・出身の自民党国会議員でつくる「五ノ日の会」(会長・仲村正治衆院議員)らや九月二十九日に開かれた「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員長の仲里利信県議会議長と今後の対応などを協議した。

 仲井真知事は「県民大会決議の検定意見撤回と記述回復を求める」としながらも、記述回復を優先的に求める必要があるという考えを示し、国会議員らと認識を一致させた。国会議員からの「検定撤回は厳しい情勢だ」という指摘に、仲井真知事は「厳しいが最大限に努力し、知恵を出す必要がある」とし引き続き、検定意見撤回を求める姿勢も示したという。

 「五ノ日の会」は週明け、自民党の伊吹文明幹事長らと会い、仲井真知事の意向などを伝える方針だ。

 会談後、仲井真知事は、記者団に「県民大会決議を踏まえ、記述回復を優先させるなど現実的な対応も必要」と述べた。

 仲井真知事は五日午前の定例記者会見で、政府が難色を示している検定意見の撤回を求める考えを強調。一方で「教科書も十二月には印刷しないと間に合わない。そこに(日本軍強制の)記述があるかないかは大きい。物理的な点やいろんなことも考えて、現実的に前に進むという成果を得ることも大事ではないか」と述べ、「日本軍強制」の記述回復を優先させるべきだとの認識を示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710061700_03.html

 

2007年10月8日(月) 朝刊 1面

沖縄核密約 存在示す/米政府公文書を発見

69年キッシンジャー氏、大統領へメモ

 一九七二年の沖縄返還で、米軍が有事の際に核を持ち込むことを認めた日米密約が締結されたことを示す米政府の公文書が七日までに見つかった。返還に合意した六九年十一月の日米首脳会談に向け、米大統領補佐官だったキッシンジャー氏が当時のニクソン大統領にあてたメモで、佐藤栄作首相との密約締結手順を記載している。

 沖縄返還時の核密約の存在を明示した交渉当事者の公文書発見は初めて。日本政府が依然否定している密約の存在を米公文書が裏付けた形だ。密約の文書そのものは公開されていない。文書は一九六九年十一月十二日付と十三日付のメモ。二○○五年に機密解除された文書を信夫隆司日大教授(日米外交史)が米国立公文書館で入手した。

 キッシンジャー氏はまず、「沖縄返還後の米国の核持ち込みと繊維問題に関する日本政府との秘密交渉」と題された十二日付のメモで、核持ち込みについての秘密合意の存在を明記。

 メモの内容が秘密合意に沿って両首脳が会談で行動するための「ゲームプラン」(行動計画)だとした上で、返還に伴う沖縄からの核兵器撤去に触れた共同声明文について交渉の進め方を進言している。また秘密合意が「覚書」の形で事前に文書化されていた点にも触れている。

 沖縄返還時の核密約については、京都産業大教授の若泉敬氏(故人)が九四年、著作「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」を出版、佐藤首相の密使としてキッシンジャー氏を相手にした秘密交渉の一部始終を暴露した。

 キッシンジャー氏は十三日付のメモで、若泉氏が使っていた暗号名「ヨシダ」にも言及。「昨日午後、ヨシダ氏との最終的な協議で行動計画は合意に至った」と述べている。共同声明文をめぐるやりとりも若泉氏の記述と一致している。

 信夫教授は「日米双方の記録で密約が裏付けられた意義は大きい。後は密約そのものを記載した文書の公開だけだが、政府は国民に対して情報開示を行う必要がある」としている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710081300_01.html

 

2007年10月8日(月) 朝刊 23面

修正で決着図る政府/県民大会から1週間

 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述削除を求めた教科書検定に抗議し、宮古と八重山地区を含め十一万六千人が集まった「教科書検定意見撤回を求める県民大会」から一週間が経過した。政府首脳の国会答弁や与党幹部らの発言から、(1)教科書会社からの訂正申請に柔軟に応じ、記述修正を認める(2)検定意見撤回はしない―との対応で、県民からの要求や野党の追及をかわそうとする政府の方針が見えてきた。こうした政府の対応をどう見るか、関係者の考えを聞いた。(吉田啓)

「関与」引用


 「検定においては軍の『関与』を否定しているというものではない」。「教科書記述は軍の『関与』を否定するものではない」。渡海紀三朗文部科学相や福田康夫首相は、国会答弁の中でたびたび「関与」という言葉を使う。同時に「県民の思いを重く受け止めなければ」とも繰り返す。

 大会決議文が「沖縄戦における『集団自決』が、日本軍による関与なしに起こり得なかったことは…」など、「関与」という言葉を使っていることを引用している。

 琉球大の山口剛史准教授は「政府は『検定では関与を認めていて、現在の教科書でも関与を示す記述はある。それでも沖縄県民が怒るから修正に応じよう』と言いたいのだろう」と分析する。

 だが決議文は「文科省は検定意見を付し、(『集団自決』に対する)日本軍による命令・強制・誘導等の表現を削除、修正させている」とも指摘している。

 県子ども会育成連絡協議会長の玉寄哲永・大会実行委副委員長は「『関与』などというあいまいな表現では、記述回復とはいえない。教科書には、日本軍の強制もあり『集団自決』が起きたと、書かれなければいけない」と話す。


安易な妥協


 渡海文科相らは検定意見撤回に難色を示す理由に「検定制度への政治介入の回避」を挙げる。これには公明党や民主党も同調する動きを見せ、野党が提示している国会決議案も、教科書審議会による記述の見直しと、意見撤回の前段として、検定制度の見直しを求めるものとなった。

 山口准教授は「教科書で歴史を歪曲させた責任は、検定意見とそれを決めた審議会、それを認めた文科省にある。『政治介入』は自ら責任を取らないための言い訳」とみる。

 「このような歴史歪曲を許した検定制度の見直しも必要だ。検定意見撤回とともに求めていくべきで、安易な政治的妥協を許せば、将来同じことが起こり得る」と指摘する。

 玉寄副委員長も「『集団自決』の記述への検定意見は文科省の自作自演で付けられた。その責任を避けてはいけない」と現在の政府の対応に怒りを見せる。

 大会実行委は九日正午から会議を開き、十五、十六日に予定している要請行動など、今後の活動方針を話し合う。


全国県人会も撤回決議


 【大阪】全国の県人が一堂に会する第九回全国沖縄県人会交流大会が七日、大阪市大正区で開かれ、教科書検定意見の撤回を求める決議を全会一致で採択した。あて先は文部科学大臣。大会には北海道から中国、四国まで十五県人会から二百人余が参加した。「撤回決議」は地元大阪の県人会連合会から緊急アピールの形で提案された。

 大会は、仲井真弘多知事が「沖縄の現況」と題し特別講演。「十一万人余が結集した県民大会の熱気を政府に伝え、必ず撤回させる」と述べた。

 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」について決議は、「日本軍の関与なしに起こり得なかったことは、紛れもない事実」と強調。「本土に在住する沖縄県人も重大な関心をもっている。今回の検定意見は歴史の事実をねじ曲げようとする暴挙と言わざるを得ない」とし、検定意見の撤回と強制性の記述の速やかな回復を求めている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710081300_02.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年10月8日朝刊)

[検定意見]

経緯を情報開示せよ

 沖縄戦における「集団自決(強制集団死)」への旧日本軍の強制・関与を削除した歴史教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相が「記述の回復」について、完全に元通りにするのは困難だと述べた。

 理由は、県民大会で決議した「検定意見書の撤回」が「検定への政治介入で制度を歪めることになる」からだという。本当にそうだろうか。

 本紙の調べで、教科用図書検定審議会は文科省職員である教科書調査官の「調査意見」を追認しただけで、きちんと審議しなかったことが分かっている。

 「申請図書は、別紙調査意見のとおり検定意見相当箇所がある」と指摘した初等中等教育局の原義書を考えれば、調査意見書の作成段階から文科省が一定の方向性を決めていた可能性も否定できないのではないか。

 伊吹文明前文科相は「文科省の役人も私も、ましてや安倍首相(当時)も、一言の容喙(口出し)もできない仕組み」と述べたが、一連の動きは文科省による政治介入を疑わせるものになっているのである。

 削除理由の一つとして引用された『沖縄戦と民衆』(大月書店)の著者である林博史関東学院大学教授は「『集団自決』は文字どおりの『自決』ではなく、日本軍による強制と誘導によるものであることは、『集団自決』が起きなかったところと比較したとき、いっそう明確になる」と記している。

 林教授は、自らの著書を確認すればそれは明らかであり、なぜ調査意見書を提示した調査官はこのことを無視したのかと問うてもいる。

 これでは教授が言うように、検定意見をつけるため都合のいい部分だけを抜粋したとみられても仕方がない。

 疑わしいところがある以上、調査意見を付した経緯や審議会の審査方法について、国会はその詳細を明らかにする必要があるのではないか。

 教科書検定制度は、教科書の記述に関する判断を第三者である教科用図書検定審議会に委ねることで、政治介入の防波堤にしている。

 それが防波堤になり得なかったのは明白であり、検定意見を執筆者に伝える際、時間をとってその場で反論できるシステムになっていないことにも疑問が残る。

 沖縄戦の実相を教科書に記述するかどうか、最後に判断するのは審議会である。

 なぜ沖縄戦研究者の学説と異なる一方的な説を調査官が採用したのか。審議会は自らの責任でもう一度審査をし直し、検定意見を検証すべきだ。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071008.html#no_1

 

琉球新報 社説

海自給油燃料 それでも残る転用疑惑

 海上自衛隊がテロ対策特別措置法に基づき、インド洋で米艦船などに給油した燃料が、目的外のイラク戦争に転用されていたとの疑惑が浮上している。米国防総省は、日本政府の照会に対し「目的外に用いたことはない」と否定したが、艦船の運用には不透明な部分が多く、回答をそのまま受け取るわけにはいかない。

 目的外に使っていないと言うなら、その根拠を米側は明確に示すべきだ。回答では、インド洋での対テロ阻止行動に日本が供給した燃料の総量が、米軍などの使用した燃料全体の消費量の約10分の1にすぎない―ということなどを挙げているが、説得力を欠く。

 給油を受けた米艦船が、実際にどう運用されたのか。これを明らかにしてもらわないことには国民も納得できまい。米側が「軍事機密だから」と逃げることのないよう、重ねてただす姿勢を日本政府には求めたい。

 疑惑は、市民団体が米軍の情報公開を基に指摘した。インド洋で活動する海自補給艦「ときわ」が米補給艦に燃料を提供後、空母キティホークに間接給油され、イラクでの軍事行動に転用されたとの内容である。

 これが事実なら、アフガニスタンでのテロ阻止行動を目的にしたテロ特措法の趣旨を逸脱する可能性がある。海自によるインド洋上での給油継続については、世論も分かれているが、給油燃料をイラク戦争に転用していたとなると話は違ってくる。その辺を不透明にしたまま、給油継続を容認するということにはならないだろう。

 そもそも、航海中の艦船には対テロ戦に限らず、さまざまな情報収集や偵察活動などの任務が与えられている。その通例に立てば、イラク戦への転用があっても不思議ではないし、現地米軍からすれば「何をいまさら」ということなのかもしれない。

 しかし、これは重大な問題をはらんでいる。間接的とはいえ、自衛隊がイラク攻撃に加担したことになるからだ。国民は武力攻撃参加を認めたわけではない。そのことを政府は肝に銘じるべきだ。

(10/8 10:08)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27908-storytopic-11.html

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