沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(11月8日、9日、10日、11日)

2007年11月8日(木) 朝刊 1面

「普天間」移設 国、北部振興再開を検討

来月の協議会で判断

 【東京】米軍普天間飛行場の移設に関する協議会が約十カ月ぶりに再開されたことを受け、政府は七日、予算が凍結されている北部振興事業の執行再開について、十二月中旬に予定されている次回の第五回協議会で判断する方針を固めた。同事業をめぐって昨年の第一回協議会で承認された「普天間飛行場の移設に係る協議が円滑に進む状況の下、着実に実行する」との配分条件を満たすかどうかが今後の焦点となる。

 協議会が再開されたものの、政府と沖縄側には、普天間代替施設案(V字案)の沖合移動をめぐってなお隔たりがあり、「協議が円滑」とはいえない状況だ。

 予算を所管する内閣府は「次回協議会で何らかの歩み寄りがあれば執行の条件を満たせる」(幹部)と期待感をにじませる。一方、防衛省は「県が合理的な根拠のない沖合修正を求め続けるなら、予算執行はおろか、二〇〇八年度分の予算計上も難しい」(幹部)と厳しい姿勢。同問題を取り仕切る内閣官房の対応が注目される。

 七日の協議会で、仲井真弘多知事が北部振興事業の凍結に不快感をあらわにしたことを受け、町村信孝官房長官は、次回協議会までに予算執行のめどが付くよう、環境整備を急ぐ考えを示した。

 仲井真知事は沖合移動については「環境影響評価(アセスメント)前の修正」を求めるスタンスから、「アセス内の修正」へと柔軟姿勢に転じた。

 しかし、「融通むげに沖合に持っていく性格のものではない」(町村官房長官)、「(移設協議は沖合移動を)前提としない」(石破茂防衛相)などと厳しい姿勢を崩しておらず、先行きは依然不透明だ。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711081300_01.html

 

2007年11月8日(木) 朝刊 1面

専門家から意見聴取へ/日本史小委

沖縄戦 審議公開も議論

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題で、教科書会社からの訂正申請を受けて記述を再審議する教科用図書検定調査審議会の日本史小委員会が五日に開かれていたことが七日、分かった。関係者によると、審議に際して沖縄戦の専門家から意見を聞く必要性で一致。二〇〇六年度の審議会が検定意見の決定過程で密室性が強かったとの批判を受け、審議の公開の在り方も議論した。訂正申請後、同委員会が開かれたのは初めて。

 沖縄戦専門家の選定は現在、四―五人の候補が挙がっており、最終的な人選を委員長に一任することになったという。

 五日の日本史小委は、〇六年度の教科書検定で検定意見が付いた五社のうち、二日までに四社が訂正申請を終えたことを受け、「予備的な会合」(関係者)として開かれた。記述内容の審議はまだ始まっていないという。十一月中に再度、会合を開く見通しだ。

 同小委での結論は、審議会の第二部会(社会科)を開いて決定する段取りも確認した。

 「集団自決」記述に関する訂正申請は、一日に東京書籍と実教出版が文部科学省に初めて提出。二日には清水書院と山川出版が申請した。

 教科書会社関係者によると、文科省は五社に対して「五日までに申請してほしい」と要望していたが、七日時点で三省堂がまだ申請していない。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711081300_02.html

 

2007年11月8日(木) 朝刊 23面

執筆者懇「検定撤回を」声明発表

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題で、教科書会社の執筆者や編集者でつくる「社会科教科書執筆者懇談会」は七日、文部科学省で記者会見し、同省に(1)訂正申請された記述の受け入れ(2)検定意見の速やかな撤回―などを求める声明を発表した。検定意見の決定に強い影響力を持つ教科書調査官と、教科用図書検定調査審議会委員の人選の透明化・公正化など、検定制度の改善を文科省に求めていく考えも盛り込んだ。

 声明は執筆者や教育研究者ら十七人が呼び掛けて作成した。

 「集団自決」に関する二〇〇六年度の教科書検定で、文科省が検定意見の根拠に大阪で係争中の「『集団自決』訴訟」を挙げていることを指摘。「係争中の裁判での一方の側の主張を教科書に記述してはならないと言ってきた、文科省自身のこれまでの言明とも明らかに反する」と批判している。

 記者会見した執筆者の石山久男さんは「訂正申請がきちんと受け止められることと、訂正申請によって検定意見の撤回があいまいにされないよう願っている」と述べた。

 子どもと教科書全国ネット21の俵義文事務局長は、一九九一年度の検定で教科書に引用された著書の記述に検定意見が付き、後に文部省(当時)が作者に謝罪した事例などを報告。「文科省は『制度上、検定意見の撤回はできない』と言うが、事実上、撤回した経緯はある」と指摘した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711081300_03.html

 

2007年11月8日(木) 朝刊 23面

「自決」の負傷者 写真に/山梨学院大の我部教授入手

 沖縄戦の慶良間諸島で軍命によって起きた「集団自決(強制集団死)」の負傷者を撮影した写真二枚が七日までに見つかった。座間味島の病院で、子どもたちが首に包帯を巻いた姿で撮影されている。我部政男山梨学院大学教授が米国立公文書館で入手した資料の中にあった。写真を託された沖縄女性史研究家の宮城晴美さんは「国の都合によって、いたいけな子どもたちまでが犠牲を強いられたことを示した写真だ」と話した。(編集委員・謝花直美)

 我部教授が二〇〇四年十二月に米公文書館から持ち帰った資料を整理する中で見つけた。記録では撮影日付「一九四五年四月二十一日」、撮影者「E・C・サッカーソン大尉」とあり、「座間味島の病院にいた子どもたち。親が子どもたちののどを切ろうとしたことが分かる」と説明がある。

 四五年三月二十六日、米軍は座間味島に上陸、島を制圧する一方で病院を設置、軍人や民間人の治療に当たった。渡嘉敷島からもけが人が運ばれた。当時病院は二カ所あり、集落内に焼け残った建物を接収した病院が重傷者用、ヒナヌカーと呼ばれる浜辺にテント張りで設置されたのは軽傷者用だった。写真にはテントが写っているため軽傷者用の病院とみられる。

 宮城さんがこの写真に関し、聞き取り調査したが、病院の場所以外の情報は得られていない。「最も信頼する親から傷つけられなければならなかった子どもたちの悲鳴が聞こえてきそうだ。心身の傷は生涯癒えることはなく、あらためて日本軍、国家に対し、はらわたが煮えくり返る思いを禁じ得ない」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711081300_04.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年11月8日朝刊)

[「普天間」移設協]

住民の目線に立ってこそ

 米軍普天間飛行場の移設に関し政府と地元が話し合う「普天間飛行場移設協議会」が首相官邸で開かれた。

 福田新政権になって初の協議会で、約十カ月ぶりの開催である。

 仲井真弘多知事は、代替施設の建設計画について「まずは(政府が)自主的に沖合に寄せ、アセス手続きの中で、さらに沖合に寄せるよう知事意見が出た場合は、誠実に対応してほしい」と、政府の譲歩を求めた。

 政府は「現行案が基本」との姿勢を崩していないが、「地元の意見を受け止め、誠意をもって協議していきたい」(町村信孝官房長官)と答えている。

 政府はこれまで地元の声を無視し、米軍基地再編交付金をちらつかせながら受け入れを迫ってきた。米国と合意した現状のV字形滑走路案に固執してきたこれまでの姿勢を考えれば、話し合い路線への転換といえるだろう。

 膠着状態が続いていた「普天間」問題が大きな転機を迎えたのは間違いない。

 しかし、輸送ヘリの陸域上空飛行や装弾場などの付帯施設について情報開示が不十分という自治体首長らによる訴えに、関係閣僚は十分な説明をしなかった。

 米軍が配備を決めている垂直離着陸機MV22オスプレイ、大浦湾側に整備されるという二百メートルを超える護岸についてもしかりである。

 政府に対し県民が不信感を抱くのは情報を小出しにするか封印し、新たな情報が常に米側から漏れてくることにある。

 地元への情報開示が不足しているという北部の首長らの指摘を、政府は重く受け止めなければならない。

 県は代替施設の沖合移設を求めているが、それによって実際に何が変わるのか。周辺住民の暮らしへの影響はどうなのか。詳細な情報を提示する責務がある。

 知事の公約である普天間飛行場の危険性除去については、この日の協議会でもゼロ回答に近かった。

 もし、移設まで普天間飛行場をそのままにしておくのなら、場周経路に関する日米合意によっても危険性が除去されるとは思えない。

 次回協議会は十二月中に開かれるが、県、名護市などが歩み寄れば凍結した北部振興事業予算を解除し、基地交付金も検討する方針だという。

 対話路線に隠れた露骨な「アメとムチ」の手法と言うしかない。協議に当たっては、住民の目線に立って不安を解消していくことが国や県、関係自治体の責務である。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071108.html#no_1

 

琉球新報 社説

普天間移設協議会 住民の安全最優先に/地元要求実現は政府の責務

 政府と県、関係市町村が米軍普天間飛行場代替施設の建設計画などを話し合う普天間移設措置協議会が十カ月ぶりに開かれた。

 仲井真弘多知事は名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に建設するV字形滑走路を沖合へ寄せるよう求めたが、政府は環境への影響などを理由に応じなかった。

 普天間移設問題が地元の理解と協力なしには前進しないことは、海上基地建設が頓挫したことからも明らかである。

 地元は、県外移設がベストだと考えながらも、苦渋の選択で県内移設に基本合意したのである。

 そのような経緯からしても、少なくとも騒音の軽減、危険性の除去に向けた県や関係市町村の要求を実現することが政府の在り方である。

過剰な期待禁物

 移設措置協は、第3回まで防衛相と沖縄担当相が主宰してきたが、今回から官房長官主宰に格上げされた。

 これまでの協議会は、防衛省が主導権を握り、政府案を地元に押し付ける場でしかなかった。地元の要望に耳を貸さず、話し合いとは程遠い実態になっていた。

 仲井真知事は協議会後、「(政府は)これまでは既定路線で展開したいという強い思いがあったが、今回は沖縄の意見に耳を傾ける姿勢と気持ちがあった」と評価した。「ここで解決できないものはない印象を受けた。コミュニケーションは緊密、率直にできるようになった」とも述べた。

 協議会に変化の兆しがあったことで、県や関係市町村が期待感を抱くことも理解できる。

 しかし、この日の協議会でも県など地元要求に対して、前進は一切なかった。過剰な期待は禁物である。

 実際、石破茂防衛相は「政府として今の形(政府案)が最も適切だと考えている」と、これまでの姿勢を崩してはいない。

 防衛省はこの間、米軍再編交付金をちらつかせ、交付金の対象となる「再編関連特定周辺市町村」の指定から名護市など4市町村を外すなど、圧力をかけてきた。移設先の環境現況調査(事前調査)では自衛艦まで動員した。

 防衛省は日米合意を最優先に推し進めることに終始し、協議会を形骸化(けいがい)させてきたと言っていい。

 政府全体の姿勢が変わったのかを、今後の協議を通してしっかり見極める必要がある。

 仲井真知事が沖合への修正を求めたのに対し、政府は沖合修正によるジュゴンや藻場など、自然環境への影響増大を指摘し、政府案への理解を求めた。

 普天間代替施設は160ヘクタールもの埋め立てを伴う。環境にいくら配慮しても、環境が破壊されることは確実である。

 現行案に固執する政府が環境への配慮を持ち出すことは、説得力を欠く。

情報すべて開示を

 日米合意で最も問題なことは、地域住民の安全が確約されていないことだ。

 新設される基地には次世代兵員輸送機MVオスプレイが配備されることが確実視されている。同機は開発、試験飛行段階で4回墜落し、うち3回で計30人が死亡している。同機の危険性は依然として解消されてはいない。

 普天間移設は、危険性の除去が大きな目的だった。そのことからして、地域住民の安全保障を最優先することがまず求められる。その視点が政府には欠落している。

 町村信孝官房長官は沖合への修正について「日米の合意が必要。日本の事情で勝手に変えられるものではない」と述べた。

 そもそも地元の頭越しに米側と勝手に合意したのは政府の方である。政府には米側に修正合意を取り付ける責任がある。

 県内移設そのものに反対する声は根強い。沖縄だけに負担を押し付ける姿勢を政府が大きく転換しない限り、県民大多数の理解を得ることはできない。

 政府はそのことをまず認識し、12月上旬に予定されている次回の協議会に臨むべきである。

 全長約180メートルの艦船が停泊できる岸壁や戦闘機装弾場など建設計画の全容が政府から地元に一切伝えられていない。地元には重要な事項にもかかわらずである。

 これまでに明らかになっている米側の公文書からは、単なる移設ではなく、より強化された基地が新設されることが分かっている。

 情報をすべて開示しないままで協議がうまくいくはずはない。

(11/8 9:55)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-28766-storytopic-11.html

 

2007年11月8日(木) 夕刊 5面

対馬丸の悲劇 映画化

 大阪府門真市で劇団ARK代表を務める齋藤勝さん(48)は七日、那覇市若狭の対馬丸記念館で会見し、先の大戦で米軍に撃沈された学童疎開船「対馬丸」の悲劇を題材にした映画を製作すると発表した。齋藤さんは約八年前から対馬丸事件をテーマにしたオリジナル戯曲「銀の鈴」を舞台化、府内で上演しており、これから撮る作品はその映画版となる。すでに撮影を開始している。一般公開は二〇〇九年四月を予定している。

 齋藤さんは、対馬丸の生き残りの上原妙さん(76)から聞いた「生き残ってからが本当の戦争でした」との言葉に衝撃を受け、映画化を決意したと説明した。


証言基に構成


 その上で「表現者としてどうしても伝えたい話だと思った。沖縄戦の悲劇の象徴である対馬丸を風化させてはならない」と熱い思いを語った。

 「銀の鈴」は対馬丸へと、子どもたちを送り出した教師と奇跡的に助かった人たちが織り成す物語。沖縄に残った教師や疎開先での子どもたちの生活を描きながら、生き延びた後も戦争に翻弄され続ける人々の姿を描いた。登場人物や疎開先のエピソードは架空の話だが、「対馬丸」生存者の証言を基に構成・脚本化した。


関係者も期待


 会見には上原さんのほか、高良政勝同記念館会長も同席。高良会長は「教科書検定問題のように対馬丸も軍命ではなく自由な意思で疎開したと史実を書き換えられることに危機感を覚える。そうならないよう多くの人に対馬丸の悲劇を知ってもらう作品になれば」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711081700_01.html

 

2007年11月9日(金) 朝刊 1面

米、沖合移動に強い難色/国内議論牽制か

国防長官来日/官房長官に言明

 【東京】米国のゲーツ国防長官が八日、町村信孝官房長官と首相官邸で会談し、米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への移設について、「どこか一カ所を変えると、(米軍再編の)全体が崩壊する」と述べ、県や名護市が求めているV字形滑走路の沖合移動に強い難色を示していたことが分かった。複数の日米外交筋が明らかにした。

 ゲーツ長官は、今年五月、ワシントンで久間章生防衛相(当時)と会談した際、沖合移動に柔軟だった久間氏に「一部を変えたりすることなく、そのままの形で実現していくことが重要だ」と牽制しており、日米合意案を堅持する米政府の姿勢があらためて浮き彫りとなった。

 会談で町村長官は、政府と県、名護市など関係自治体による普天間移設協議会を自ら主宰して七日に開催したことを報告しており、同協議会で県や名護市から要望があった沖合移動についても紹介したとみられる。

 ゲーツ長官の今回の発言は沖合移動をめぐり、日本国内でなお議論がくすぶっていることへの不満と、修正は認められないとする強い意思を重ねて示したものといえる。

 ゲーツ長官は町村長官との会談後、石破茂防衛相とも会談。米軍再編に関し、個別の基地に関する発言は控えつつも、「2プラス2(日米安全保障協議委員会)で合意されたロードマップ(米軍再編最終報告)が大事だ。パッケージとして大事で、交渉された通りに履行されるべきだ」と述べ、普天間移設を日米合意に沿って進めるべきだとの考えを示唆した。

 また両氏は、テロ対策特別措置法の期限切れに伴って中断している海上自衛隊のインド洋での給油活動について、早期に再開する必要があるとの認識で一致した。

 会談後、石破防衛相とゲーツ長官は共同記者会見し、米軍再編について「昨年五月のロードマップに従い、普天間飛行場の移設返還、海兵隊のグアム移転などを着実に進めていくことを確認した」と発表した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711091300_01.html

 

2007年11月9日(金) 朝刊 1面

墜落同型ヘリ新たに6機/普天間計10機

 【宜野湾】米海兵隊報道部は八日、部隊配備計画(UDP)の一環として、沖縄国際大学に墜落したCH53D大型輸送ヘリコプターの同型機十機と約百五十人の兵士らを普天間飛行場にローテーション配備することを明らかにした。

 ローテーション配備されるのは同機を含む第一海兵航空団第四六三海兵重ヘリ中隊。六カ月で兵士らを交代させる。

 同報道部によると、同部隊は「イラクの自由作戦」の支援任務から帰還し、「日米安保条約を遂行する能力を維持するため」に訓練を行うとしている。

 このうち、四機と約六十人の兵士らは既に「普天間」に到着。残る六機の飛来時期については「後日、到着する」としている。

 宜野湾市の伊波洋一市長は「人口密集地の『普天間』に配備することは住民に大きな不安を与える。断じて許されない。米軍に即時撤去を求める」と強調。週明けにも米海兵隊外交政策部(G5)や外務省沖縄事務所、沖縄防衛局などに抗議行動を行う考えを明らかにした。

 同部隊は通常、山口県の岩国基地に展開しているが、二〇〇五年からイラクの作戦支援で派遣されていた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711091300_02.html

 

2007年11月9日(金) 朝刊 1面

訂正申請出そろう/教科書検定

 二〇〇八年春から使用される高校歴史教科書の検定で、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に関する記述に検定意見が付いた三省堂が八日、文部科学省に訂正申請を提出した。これで記述を削除された五社七冊の訂正申請が出そろった。三省堂は日本軍強制を示す記述を明記したとみられる。文科省は、今月中にも教科用図書検定調査審議会の日本史小委員会で訂正を認めるかどうか結論を出す見込み。

 三省堂は日本史A、B二冊の教科書の訂正申請を提出。検定時は「日本軍に『集団自決』を強いられた」との記述だったが、検定で「追い詰められて『集団自決』した」との記述で合格していた。

 関係者によると、記述内容は執筆者同士が合意した案では「『集団自決』は自発的な死ではなく、日本軍が強いたという趣旨が分かる記述になっている」としている。「集団自決」以外にも、近現代史で沖縄や北海道に本土からの差別や偏見があったことに関する記述を増やした。「集団自決」関連の訂正だけが突出しないよう配慮したという。

 「集団自決」に関する訂正申請は東京書籍と実教出版が一日、文科省に提出。二日には清水書院と山川出版が続いた。東京書籍、実教出版、清水書院の三社も日本軍の強制を示す記述内容になっているとみられる。検定規則では、申請を承認するか、結論が出るまでは教科書会社、文科省とも申請内容を公表できない。

 訂正申請が出そろったことに琉球大学の山口剛史准教授は「教科書会社、執筆者の努力を評価したい。だが、文科省が検定意見を撤回しないままでは記述がそのまま認められるのか分からない。学術的に公正・中立な審議がなされることを期待したい」と話した。


     ◇     ◇     ◇     

大江・梅澤氏きょう出廷/「集団自決」訴訟


 沖縄戦時に慶良間諸島で相次いだ住民の「集団自決」をめぐり、「沖縄ノート」などの書籍に自決を命じたと記され、名誉を傷つけられているとして、旧日本軍の戦隊長らが著者の大江健三郎氏(72)と発行元の岩波書店に、出版の差し止めなどを求めている訴訟の本人尋問が九日、大阪地裁で開かれる。原告で座間味島の元海上挺進第一戦隊長の梅澤裕氏(90)と、渡嘉敷島の海上挺進第三戦隊長だった故赤松嘉次氏の弟秀一氏(74)が出廷。大江氏も自ら証言に立つ。

 同訴訟の提起は、沖縄戦の「集団自決」に対する日本軍の強制性が削除された、二〇〇六年度の高校歴史教科書検定に多大な影響を及ぼした。

 梅澤氏は自決命令は出しておらず、軍命は援護法の適用を受けるための虚偽だったなどと主張。岩波側は、多くの書籍や資料などの記録から軍や戦隊長による命令は明らかと反論している。

 原告側が名誉棄損だと主張している「沖縄ノート」の各記述について、大江氏側は「集団自決」の責任者個人を批判してはいないと主張しており、尋問では大江氏が各表現を用いた経緯や狙いについて自ら語る。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711091300_03.html

 

2007年11月9日(金) 朝刊 2面

共同使用受け入れ検討/金武町長

 【北部】在日米軍再編に基づく、米軍キャンプ・ハンセンでの陸上自衛隊の共同使用問題について、金武町、宜野座村、恩納村で構成する三町村連絡協議会会長で金武町の儀武剛町長は八日、沖縄タイムス社の取材に対し「負担の増大につながるか見極めた上で判断したい」と述べ、これまでの反対の姿勢を軟化させ、共同使用の受け入れも視野に検討していく考えを示した。

 これまで三連協は、共同使用が新たな基地負担の増加につながるとして反対の意思を示していたが、儀武町長は「どのように負担が増えるのか、もう一度検証して判断する必要がある」と述べた。

 儀武町長は、共同使用問題について「金武町だけで決められることではないが、想像以上の訓練ではないように感じている」とした上で、「宜野座村や恩納村と話し合い、それぞれの考えをまとめながら結論を出していく」と、三町村の協議を経て、結論を出すとした。

 沖縄防衛局では十月二十二日に金武町役場を訪れ、三連協に対して、ハンセン内のレンジ1、2や、都市型戦闘訓練施設が移設されるレンジ16一帯を使用したいとして、受け入れを要望。さらに同二十六日には、恩納村、宜野座村当局と村議会、五日には金武町議会にそれぞれ説明している。

 防衛省は三町村を、共同使用の受け入れに反対しているとして、米軍再編交付金の交付対象となる「再編関連特定周辺市町村」から外している。しかし、三町村が共同使用の受け入れや協力が得られれば、財務省と協議した上で交付対象に指定する考えを示している。

 恩納村議会と金武町議会はこれまでに、共同使用について反対の決議を行っている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711091300_10.html

 

2007年11月9日(金) 夕刊 1面

軍命めぐり当事者主張/「集団自決」訴訟

 沖縄戦時に慶良間諸島での「集団自決(強制集団死)」をめぐり、ノーベル賞作家、大江健三郎氏の「沖縄ノート」や故家永三郎氏の「太平洋戦争」で住民に自決を命じたと記され、名誉を傷つけられているとして、島に駐屯していた部隊の元戦隊長らが大江氏と書籍発行元の岩波書店に、出版の差し止めなどを求めている訴訟の本人尋問が九日、大阪地裁(深見敏正裁判長)で始まった。午前は座間味島に駐屯していた元海上挺進第一戦隊長の梅澤裕氏(90)が出廷。「私は自決命令なんか絶対に出していない。村民が『集団自決』で亡くなったことは気の毒だと思うが、自決しないよう厳しく止めたし(自決用の)弾薬はやれないと言った」などと述べた。

 また梅澤氏は「手榴弾を防衛隊員に配ってはいないし、隊員に配ることを許可してもいない」と強調。梅澤氏の許可なく手榴弾が住民に渡ることはないとし、忠魂碑前で日本兵が住民に渡したとの指摘に対し「全然知らないし、あり得ないと思う」とした。

 「集団自決」については、当時はまったく予想しておらず、昭和三十三(一九五八)年ごろ、週刊誌で大々的に報じられるまで知らなかったと述べ、原因については「(多くの玉砕者が出た)サイパンの前例などもあるし、ああいう小さな島で米軍が上陸したら大変なことになると思っていたのではないか」などと述べた。「(軍ではなく)行政の上司から指示を受けていたのだと思う」とも語った。

 また座間味島で米軍の上陸を控えた一九四五年三月二十五日夜、兵事主任だった村役場の宮里盛秀助役から村民の「集団自決」のために弾薬を求められたが、梅澤氏は「何で自決する必要があるのかと厳しく言った。大事な場面で、はっきりと覚えている」とした。

 「沖縄ノート」については「去年、念のために読んだ」という。

 被告の岩波側はこれまで、梅澤氏は部隊の最高指揮官で、住民に「集団自決」を命じていたことは多くの書籍や資料の記録から明らかと反論。「沖縄ノート」については、梅澤氏ら戦隊長個人を特定して批判・論評しておらず、名誉棄損には当たらない、としている。

 また梅澤氏が、「集団自決」のための弾薬を求められたが断ったとしていることについては、その場にいた故宮城初枝氏の手記や、初枝氏の話を著作にまとめた娘の晴美氏の証言を基に、自決に追い込まれることは承知の上で、貴重な戦備を渡さなかったにすぎないと反論している。

 戦後、援護の担当者が梅澤氏に「軍命は援護法の適用を受けるためだった」として謝罪、執筆・押印したとされる書面についても、担当者の意志により作成されたものではないと指摘している。

 午後は大江氏が証言。原告側は渡嘉敷島に駐屯していた元海上挺進第三戦隊長、故赤松嘉次氏の弟秀一氏(74)も証言に立つ。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711091700_01.html

 

2007年11月9日(金) 夕刊 6・7面

元隊長、関与を否定/命令は「那覇から」

 沖縄戦時、渡嘉敷、座間味両村で起きた「集団自決(強制集団死)」に対する戦隊長命令をめぐり、「沖縄ノート」の著者で作家の大江健三郎さん(72)や発行元の岩波書店を相手に大阪地裁に起こされた「集団自決」訴訟は九日、原告の座間味島・海上挺進第一戦隊の元隊長、梅澤裕さん(90)や大江さんらへの本人尋問でヤマ場を迎えた。

 「集団自決」教科書検定問題の原因ともなった訴訟に注目は高まり、原告、被告双方の多くの支援者らが見守る中、緊迫した尋問が始まった。

 静かな緊張感が漂う法廷で、十時半すぎ、本人尋問が始まった。梅澤さんと、渡嘉敷島・海上挺進第三戦隊の元戦隊長・故赤松嘉次さんの弟、赤松秀一さん(74)が証言台に並び、宣誓した。

 最初に灰色のジャケットを着た梅澤さんが、証言台前のいすに座った。

 「住民に手榴弾を配ったり、配るのを許可したことは」、「ありません」。「住民があなた方がいた壕を訪ねたとき、なんと言ったのか」、「とんでもないこと言うんじゃない。死んではいけない」。原告側弁護士のゆっくりとした質問に、歯切れよく答え続けた。

 村助役らが「老人、婦女子ら足手まといになるものは死んでくれと言われている」と話したことも証言したが、「だれから言われていたのか」と問われると「行政の上司、那覇あたりからの」と説明し、「集団自決」への軍命や強制に自らかかわったことは一貫して否定した。

 一方、被告側弁護士が、梅澤氏が故宮城初枝さんに最初に会った時期などを尋ねると、これまでの証言や示された証拠と矛盾する答えをする場面もあった。

 自らの陳述書に引用した宮城さんの手紙の一文「忠魂碑の前集合は住民にとっては軍命令と思い込んでいたのは事実でございます」について、「同じ気持ちか」と尋ねられると肯定し、後で「われわれの部隊が駐留したという程度の意味」と付け加えた。


     ◇     ◇     ◇     

大江氏、表情崩さず


 尋問を終え、梅澤さんが法廷を後にした約十五分後、大江さんが地裁に到着した。岩波書店関係者らに付き添われ、正面玄関につけた車から降りた。

 約八十人の支援者や報道陣が見守る中、拍手に出迎えられた。紺色のスーツを着た大江さんは、一瞬、支援者の方に顔を向けたが、口を結んだ真剣な表情は崩さず、正面を向き直してまっすぐ建物の中に入っていった。


抽選会場に700人列/原告側が気勢 騒然


 「集団自決」教科書検定問題の原因ともなった訴訟に注目は高まり、原告、被告双方の支援者らが集まって、大阪地裁は騒然とした雰囲気に包まれた。

 開廷は午前十時半だったが、傍聴抽選会場となった大阪地裁北側駐車場には午前八時前から傍聴希望者が並び始めた。六十五席の傍聴席に対し、同訴訟ではこれまでで最も多い六百九十三人が列をなした。

 抽選会場付近では、「戦隊長による軍命はなかった」と主張する原告側支援者が、「大江健三郎の人権侵害を許すな」と書かれたビラを配り、ハンドマイクで「九月二十九日の県民大会には慶良間諸島からの参加者はいなかった」、「渡嘉敷、座間味の住民に日本軍を恨んでいる人はいない」などと気勢をあげた。

 被告側には沖縄などからも支援者が駆けつけ、静かに開廷を待った。兵庫県宝塚市から訪れた大森悦子さん(65)は「沖縄の体験者のおじいさん、おばあさんたちが話していることが、なぜ(原告側に)分からないのか。人間の気持ちに立ち戻り、素直に考えてほしい」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711091700_02.html

 

2007年11月9日(金) 夕刊 1面

知事、年内決着を期待/普天間移設

 仲井真弘多知事は九日午前の定例記者会見で、米軍普天間飛行場移設問題について、年内に開催される政府との次回協議会での決着に期待感を示した。知事は地元が求めている代替施設の沖合移動などについて「(政府に)どこまで受け止められるかはまだ分からない」としながらも、「(次回協議会が)開催されれば無条件で参加しようと思っている。意見調整できるなら(協議会は)一番いい場だ」と述べ、政府との協議加速に前向きな姿勢を強調した。

 普天間飛行場の閉鎖状態については「政治判断が必要」との認識を示す一方、代替施設の沖合移動は「技術論と受け止めている。文字通りの微調整」と指摘。その上で、ゲーツ米国防長官が八日の町村信孝官房長官らとの会談で、沖合移動に強い難色を示したことに「(地元の要求は)日米合意をはみだしていないと思う。われわれの主張を理解してもらっているのか」と疑問を呈した。

 沖縄国際大学に墜落した米海兵隊ヘリと同型のCH53D大型輸送ヘリが普天間飛行場にローテーション配備されることには「閉鎖状態の実現を求めている流れに逆らっている」と不快感を示した。

 県が来年度から予定している宮古・八重山両支庁を廃止・改編する方針について「行財政改革の流れの中で既定路線に沿っていきたいと考えている」と述べ、地元の意向を見極めた上で最終判断する考えを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711091700_03.html

 

2007年11月9日(金) 夕刊 7面

防衛局「誤飲ない」/ジュゴンの藻場にクギ

 【名護】米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への代替施設建設に伴う海域の現況調査(事前調査)で、ジュゴンの餌場となる藻場に、短いくぎが使われ自然保護団体が「ジュゴンが誤飲する危険がある」と指摘した問題で沖縄防衛局は沖縄タイムス社の取材に対し、九日までに「約九センチの鉄製ピン」を使用していることを認めた。専門家は「無害の実証がない」と批判している。

 防衛局は「海底の砂の層が薄く、その下層が硬い場合には、鉄製の棒の設置ができないことから鉄製のピンを採用しているが、設置の際、海底の砂にできるだけ深く埋め込むようにしていることから、容易に抜けることはなく、ジュゴンが誤飲することはないと考えている」との見解を示した。

 ジュゴンの生態に詳しい元帝京科学大学教授の粕谷俊雄さんは「ジュゴンの餌場にくぎ(ピン)が配置されているということ自体、聞いたことがない。ジュゴンに決していい影響はない。無害が実証されない限り、この種の実験は行うべきではない」と、国の説明不足を批判した。

 防衛局は取材に対し当初、「長さ六十―八十センチ程度の棒」を使用していると回答していた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711091700_06.html

 

2007年11月9日(金) 夕刊 6面

米に最大規模返還要求/キャンプ瑞慶覧

 【東京】自民党国防部会、安全保障調査会、基地対策特別委員会の合同会議が九日午前、党本部であり、防衛省が八日の日米防衛首脳会談について報告した。金澤博範防衛政策局長は、在日米軍再編の「嘉手納以南六基地」の全面・一部返還で、米側との調整が難航しているキャンプ瑞慶覧の返還規模について、「最大限の規模での返還」を米側に求めたことを明らかにした。

 合同会議では、安次富修衆院議員が、「細切れではなく、一括で返還できるようにしてもらいたい」などと要望。

 これに対し金澤局長は「在沖米海兵隊のグアム移転の詳細が固まっていない中で、何とも言えないが、そのように進めていきたい」などと述べ、「最大限の規模での返還」に積極的に取り組む考えを示した。安次富氏はそのほか、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の特別協定協議で、日本側が米軍基地従業員の諸手当約百億円の削減を提案している問題で、県内基地従業員が国家公務員の基本給に10%上乗せしている「格差給」廃止案を撤回するよう求めていると指摘。

 これに対し防衛省側は「従業員の生活をしっかり考えて検討する」などと述べるにとどめた。

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2007年11月10日(土) 朝刊 1・26面

大江氏「軍命」主張/「集団自決」訴訟

 【大阪】沖縄戦時に慶良間諸島で相次いだ住民の「集団自決(強制集団死)」をめぐり、大江健三郎氏の「沖縄ノート」などの書籍に住民に自決を命じたと記され、名誉を傷つけられているとして、島に駐屯していた部隊の元戦隊長らが大江氏と著作発行元の岩波書店に、出版の差し止めなどを求めている訴訟の本人尋問が九日、大阪地裁(深見敏正裁判長)であった。午後から大江氏が出廷。「集団自決」について「軍による命令と考えている」と語った。

 「沖縄ノート」の記述などをめぐって原告と被告双方の質問に約一時間ずつ答えた。

 大江氏は「集団自決」について「太平洋戦争下の日本軍、現地の第三二軍、島の守備隊をつらぬくタテの構造によって、島民に強制された」とし、「日本軍による責任は明確で、『沖縄ノート』の記述を訂正する必要は認めていない」と述べた。

 原告側が戦隊長らの名誉棄損を主張している「沖縄ノート」の各記述について、大江氏は「日本軍の命令系統の最先端にいる責任者として、責任を負っている」としたが、「注意深く、隊長個人の名を書くことはしなかった。個人の名を挙げるよりも、問題が明確になる」とし、隊長個人は非難していない、との認識を示した。

 原告側は、大江氏が語った「タテの構造」の話は、「沖縄ノート」では説明されておらず「一般読者の注意と読み方に照らし、そうは読めない」と反論。各記述についてそれぞれ「戦隊長個人を非難している」などとただしたが、「文章を読み違えている」とする大江氏と平行線をたどった。

 大江氏は「『集団自決』が美しく、清らかだという欺瞞に反対するのが私の仕事だと思う」とし、「愛国心のために自ら命を絶った、国に殉じて美しい心で死んだと、事実をゆがめること自体が人間をおとしめている」と語った。

 午後の尋問では、渡嘉敷島の戦隊長だった故赤松嘉次氏の弟秀一氏(74)も証言。「兄は尊敬の対象」だったとした上で、沖縄タイムス社の「鉄の暴風」で、嘉次氏が住民に「集団自決」を命じたと書かれ、「ショックだった。人殺しの大悪人と書かれているわけだから」と述べた。曽野綾子氏の著作「ある神話の背景」で、「兄の無罪がはっきりし、兄への親近感を取り戻せた。家族も戦隊の方々も心の支えになっていると思う」などと語った。

 被告側の反対尋問では、命令を出したことを生前、嘉次氏に確かめたことはないと述べた。


     ◇     ◇     ◇     

大江氏、身乗り出し反論


 書き上げたのは個人への断罪ではなく、琉球処分以後、大和世、戦世、アメリカ世と続き、施政権返還後も続きそうな沖縄への抑圧とそこに暮らす人々の苦しみ。それに対する日本本土の人々の無関心さ、無自覚さ。そうした自分を含む「日本人」への反省と問いかけだった。「沖縄ノート」(岩波新書)の著者、作家・大江健三郎さん(72)は、なぜこの本を書き、なぜ「集団自決(強制集団死)」を取り上げたのか、法廷で言葉を紡いだ。

 濃紺のスーツ姿で証言台に立った。

 「集団自決」を命じた日本―日本軍―三二軍と連なる「タテの構造」と、「その先端にいた渡嘉敷島の元戦隊長(海上挺進第三戦隊の戦隊長・故赤松嘉次さん)の沖縄再訪」に、沖縄と本土にある差異に無知、無自覚な日本人の意識が表れているとの考えを述べた。

 「いまでも慶良間諸島の『集団自決』に日本軍の軍命、強制があったと考えるか」との問いには「沖縄の新聞、本土の新聞にそれを示す新たな証言が掲載され、確信を強くした」と答えた。

 原告側は反対尋問で、「沖縄ノート」の記述の解釈や、根拠について詳細な説明を求めた。

 「罪の巨塊」という言葉で、個人を断罪しているのではないか。作家・曽野綾子さんが著作「ある神話の背景」などで「沖縄ノート」の記述を批判しているのと同様の主張を尋問でぶつけた。

 大江さんは「罪とは『集団自決』を命じた日本軍の命令を指す。『巨塊』とは、その結果生じた多くの人の遺体を別の言葉で表したいと考えて創作した言葉」「私は『罪の巨塊の前で、かれは…』と続けている。『罪の巨塊』というのは人を指した言葉ではない」と説明、「曽野さんには『誤読』があり、それがこの訴訟の根拠にもつながっている」と指摘した。

 原告側は、別の記述を引用し「赤松さんらの個人の責任を追及しているように読める」などと、何度も詰め寄った。

 大江さんの反論にも熱が入った。顔を紅潮させ、身を乗り出すように「それは誤読です」「そうは読めません」と強く否定した。繰り返される原告側の主張を諭すように「説明しましょうか」と申し出て、「個人に対してではなく、『集団自決』を慶良間諸島の人々に命じ、強いた構造への責任を問う」ことが記述の主眼であることなどを説いた。

 「赤松隊長はどの時点で『集団自決』を予見できたと考えるのか」との質問には、「手榴弾が住民に配られた時点」と答え、体験者の金城重明さんや吉川勇助さんの証言を根拠に挙げた。

 二時間にわたる尋問を終えた大江さんは、大きく肩を上下させてシャンと背を伸ばし、正面を見据えて証言台を後にした。


原告と被告、溝鮮明に/解説


 「集団自決」訴訟の本人尋問は、民事訴訟の被告になったノーベル賞作家が法廷に立つことで、注目を集めた。ただ、戦隊長命令の有無をめぐる訴訟で、むしろ意味合いが大きいのは、戦後手だてを尽くして自決命令を否定してきた元戦隊長が、自らの言葉で何を語るかだった。

 原告側は、米軍の上陸を控え、村の幹部らが梅澤裕氏を訪ねて来た一場面に絞り、梅澤氏による命令を全面否定。皇民化教育を背景に、日本軍が島に駐屯した経緯をたどり、軍や戦隊長による強制・命令の実態をとらえる被告側との擦れ違いは鮮明になった。

 梅澤氏の主張は従来通りだったが、部隊の最高指揮官としての責任を否定した証言は印象深い。主尋問で「責任はない」と明言し、反対尋問や会見でも「一番の責任は米軍にある」「命令を出したのは軍ではなく県」とするなど、多くの犠牲者が出た「集団自決」という事実からの“逃避”をうかがわせた。

 七月にあった宮城晴美氏の証人尋問で、原告代理人は「梅澤さんは責任がないとはひと言も言ってない」と明言していただけに、梅澤氏の発言は、弁護団とのずれをのぞかせる場面ともなった。

 同訴訟の提起は二〇〇五年八月だが、原告側が名誉棄損の主たる対象にしている「沖縄ノート」を「去年になって初めて読んだ」と話す梅澤氏。赤松嘉次・渡嘉敷島元戦隊長の弟も、訴訟を起こしたきっかけを、嘉次氏の陸軍士官学校同期生から誘われたと述べた。

 軍の命令と戦隊長による命令を明確に区別し、原告側が元戦隊長ら個人の名誉回復を強調する一方、岩波側の支援者は「狙いは日本軍そのものの名誉回復」とみる。本人尋問では、訴訟の提起が少なくとも原告本人の発意ではなかったことを事実上、裏付けた。

 同訴訟は、係争中でも高校の歴史教科書検定の主たる根拠となった。判決は将来の検定に影響を与えるのに十分な可能性をはらんでいる。(社会部・粟国雄一郎)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711101300_01.html

 

2007年11月10日(土) 朝刊 26・27面

元戦隊長発言転換/「自決」指示は県 強調

 【大阪】「『集団自決』を指示したのは、軍でなく県だ」―。九日、大阪地裁で開かれた「集団自決」訴訟の本人尋問。沖縄戦時に座間味島で指揮を執った元戦隊長の梅澤裕さんは、閉廷後の記者会見で持論を展開した。尋問では「集団自決(強制集団死)」への日本軍の責任を「ありません」と明言した後、「関係ないとは言えない」と軌道修正する迷走ぶり。日本軍の責任を県に押し付ける責任転嫁の手法に、被告側支援者は「あきれてものが言えない」と言葉を失った。

 約二年三カ月に及ぶ訴訟はこの日、本人尋問で大詰めを迎えた。静まり返る二〇二号法廷。よわい九十の“元軍人”は背筋をぴんと伸ばして着席した。

 「自決命令なんか絶対に出していない」「死んだらいけないと厳しく言った」

 島の住民に命令を出したかを問われ、何度も語気を強めた。

 海上挺進第一戦隊の最高指揮官を務めたが、一九四五年三月二十五日に、日本兵が忠魂碑前で手榴弾を配ったとの今年九月に出た住民証言について「全然知らない」「あり得ないと思う」と自身の指示や関与を否定した。

 午前中の尋問では自決命令の主体を「村の助役」としていた従来の主張から「行政側の上司の那覇あたりからの指令」と大きく飛躍。夕刻の会見では記者団に「(指示は)軍ではなく県なんだ。みんなぼかしてるけど、重大な問題だ」とし、当時の島田叡知事に責任があるとした。

 一方、訴訟を起こすきっかけになった大江健三郎さんの著書「沖縄ノート」を初めて通読したのは昨年だったことを法廷で明かした。訴訟前に大江さんや発行元の岩波書店に抗議したこともなかった。

 大江さんの証言については、会見で「くだらん話」と一蹴。

 「集団自決」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題で、教科書会社から訂正申請が相次いでいることには「沖縄でワーワー大騒ぎして十一万人だとか言って、また元の悪い教科書に戻ろうという運動がどんどん出てる」と不快感を表明した。

 渡嘉敷島に駐屯した故・赤松嘉次元戦隊長の弟の赤松秀一さんは被告側尋問で、訴訟提起のきっかけが嘉次さんの陸軍士官学校同期からの誘いだったかを問われ「そういうことになりますかね」と認め、支援者らの強い意向があったことをうかがわせた。

 渡嘉敷島での「集団自決」を「(嘉次さんから)直接聞いたことはない」とも明らかにした。

 被告側支援者で大阪歴史教育者協議会の小牧薫委員長は「日本軍の責任を県に押し付けるつもりなのか、と昼休みに支援者と話していたところだった。今日の尋問で元戦隊長がいかに無能だったかを梅澤氏自身が証明した」と厳しく批判した。


訴訟は成り立たぬ/被告側


 【大阪】「集団自決」訴訟で本人尋問が終わった九日午後、被告側代理人の弁護団が大阪司法記者クラブで記者会見した。元戦隊長らから名誉棄損で訴えられている作家・大江健三郎さんの著書「沖縄ノート」について、渡嘉敷島、座間味島の戦隊長の実名を挙げていないことを指摘。秋山幹男弁護士は「梅澤裕氏も隊長が命令したとは書かれていないことを認めており、訴訟として成り立たないのが実情だ」として、名誉棄損が成立していないとの認識を示した。

 秋山弁護士は「沖縄ノート」での「集団自決(強制集団死)」記述について「日本軍―三二軍―慶良間諸島の守備隊という全体構造で、軍の命令・強制があったとの考えで書かれている」と説明。両元戦隊長を個人としてひぼう・中傷したものではないと強調した。


問題点のすり替え/原告側


 【大阪】「集団自決」訴訟で原告側は九日午後、被告側代理人に続いて、大阪司法記者クラブで記者会見した。座間味島に駐屯していた梅澤裕元戦隊長は、被告で作家の大江健三郎さんの尋問について「要点を外してだらだら話し、何てくだらん話をするなと思って聞くのが嫌になった」と批判した。

 渡嘉敷島に駐屯していた故・赤松嘉次元戦隊長の弟の赤松秀一さんも「本で明らかな個人攻撃をしているのに、三二軍を出して問題点のすり替えをしている」と不満をあらわにした。

 原告側代理人の徳永信一弁護士は「大江さんは軍命について軍隊による実行行動の総称としたが、『沖縄ノート』にそんなことは一言も書かれていない。私などではついていけない有名な『大江ワールド』が法廷で展開された」と皮肉った。


     ◇     ◇     ◇     

支援団体、大阪で報告集会


 沖縄戦本人尋問報告集会(主催・大江・岩波沖縄戦裁判を支援し沖縄の真実を広める首都圏の会ほか)が九日、大阪市内で開かれ、県内外の支援団体から約二百人が参加した。弁護団が、本人尋問の内容を報告。琉球大学の山口剛史准教授が「沖縄戦の真実は消せない―島ぐるみの闘い」、歴史教育者協議会の石山久男委員長が「著書が語る教科書検定問題」をテーマに講演。

 山口准教授は教科書検定問題を取り上げた県内紙を資料として配り、「県民の願いはあくまで検定意見の撤回。全国に連帯の輪が広がっている。さらなる攻勢を政府、文科省へとかけていきたい」と語った。

 石山委員長は「この裁判は検定問題と連動し、計画的に行われたもの」と指摘。「責任を明らかにし、再び同じ過ちを犯さぬよう検定制度を改めてほしい」と話した。


検定意見撤回へ全国集会を開催/来月3日東京


 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」から日本軍の強制を示す記述を削除させた文部科学省の教科書検定意見を撤回させようと「大江・岩波沖縄戦裁判を支援し沖縄の真実を広める首都圏の会(沖縄戦首都圏の会)」は十二月三日午後六時半から、東京都の九段会館で全国集会を開く。

 教科書会社六社から文科省に記述の訂正申請が提出される一方で、検定意見撤回に応じない文科省に対し抗議の意思を示す取り組み。千五百人規模の集会を目指し、東京沖縄県人会にも協力を呼び掛けていく。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711101300_02.html

 

2007年11月10日(土) 朝刊 1・2面

検定合格社も訂正申請/全6社「軍の強制」記述

 二〇〇八年春から使用される高校歴史教科書の検定で、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に関する記述に検定意見が付かず、修正せずに合格していた第一学習社(広島市)が九日、文部科学省に訂正申請を提出した。日本軍強制に関する記述を新たに盛り込んだとみられる。これで、二〇〇六年度検定を受けた六社すべてが訂正申請をした。

 第一学習社の教科書は、県内で最も多い十八校で使用される予定。「高校日本史A」では「沖縄戦では、一般住民を含む県民十二万人が犠牲となった(「沖縄県援護課資料」)。この中には、『集団自決』のほか、スパイ容疑や、作戦の妨げになるなどの理由で日本軍によって殺された人もいた」と記述している。この部分に検定意見は付かず、そのまま合格していた。

 渡海紀三朗文科相の要請を受けた教科用図書検定調査審議会は、五日に日本史小委員会をすでに開催し、沖縄戦の専門家に意見を聞くことを決めている。現在、四、五人の候補が挙がっており、人選は委員長に一任されている。同委員会は早ければ今月中にも訂正を認めるかどうか結論を出す見込みだ。


     ◇     ◇     ◇     

撤回と記述回復を/文科省に九州市議長会


 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する教科書検定問題で、九州市議会議長会の代表は九日午後、文部科学省を訪ね、検定意見の速やかな撤回と記述の回復を求めた。文科省側は、教科用図書検定調査審議会で審議されることを強調し、具体的な対応方針には言及しなかった。

 要請は、議長会のメンバーである安慶田光男那覇市議会議長が行った。議長会が十月に決議した「教科書検定に関する要請」を、銭谷真美事務次官や初等中等教育局の金森越哉局長らに手渡した。

 安慶田議長は「『集団自決』は軍の命令、強制、誘導なしには起こりえず、今回の削除・修正は容認できない。沖縄県民は検定意見の撤回を求めている」などと理解を求めた。

 銭谷事務次官らは「沖縄県民の気持ちは重く受け止めている」とした上で、民間の教科書会社からの訂正申請を受け、審議会で再び審査されることを説明。来春からの教科書使用に向けて、手続きを進める考えを強調したという。

 議長会は、小・中学校の耐震化を含めた校舎整備の予算確保を求めたほか、内閣府に対して那覇空港の拡張整備に政府の配慮を要望した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711101300_03.html

 

2007年11月10日(土) 朝刊 2面

普天間代替/防衛局、新たに調査せず

 米軍普天間飛行場代替施設建設の環境影響評価(アセスメント)方法書について審議する県環境影響評価審査会(会長・津嘉山正光琉大名誉教授)が九日、宜野湾市で開かれ、実質的な審議がスタートした。アセス方法書の概要説明の中で沖縄防衛局は、滑走路の沖合移動を求める仲井真弘多知事が、実際に航空機を飛ばして騒音データを収集する必要性を提案したことに関し、「現在の普天間飛行場の状況から推測し、シミュレートする形で予測する」として、新たなデータ収集はしない考えを示した。

 審議の中で津嘉山会長は、県が滑走路の沖合移動など修正を求めていることに言及。「滑走路を沖合にずらすと、アセスの周辺海域評価も変わってくる。(建設位置の)詰めをしていない段階で、どうして方法書を出したのか理解できない」とただした。

 同局は「今のところは、政府案の実現性が高いということで提出した。仮に位置が変わったとして(アセスは)変更の程度にもよる。日米合意に基づく二〇一四年の完成時期に伴う手続き期間を考えると、この時期に(方法書を)出さないといけなかったということだ」と説明した。

 方法書の中身について委員からは、工事による生態系への悪影響を評価する方法に具体性が欠けていることや、工事段階でも必要な作業ヤードとして大浦湾の大規模埋め立てが計画されていることの影響を懸念する指摘が相次いだ。

 会議は、施設建設の近隣地区の住民など約四十人が傍聴。「方法書はでたらめだ」「基地建設は環境破壊」などの声が飛び交う場面もあった。

 審査会は次回十五日の会議で、環境団体など八団体が要望していた住民などの意見聴取の場を設けることを全会一致で決めた。


沖合移動「相当難しい」/町村氏


 【東京】町村信孝官房長官は九日午後の記者会見で、米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への移設で、県や名護市が求めているV字形滑走路の沖合移動について、「相当難しいことだ」と、従来よりも厳しい見解を示した。

 町村氏は七日に再開した普天間移設に関する協議会後の記者会見では、「可能性はないとは言わない」と述べ、修正の可能性を初めて示唆していた。

 しかし、八日にゲーツ米国防長官に「どこか一カ所を変えると(米軍再編の)全体が崩壊する」と指摘され、九日の会見では「そう簡単に日米間で話がつく性格のものと仲井真知事が理解されているなら、そこは違うのではないか」と県の要望を厳しく指摘した。

 町村氏は、県が「日米合意の範囲内」の微修正を求めていることにも、「そういう解釈をしているようだがどうか。微という範囲によりけりだが、(V字案は)相当煮詰めた議論をして決めた経緯がある。百パーセント不可能と言い切るつもりはないが、相当難しいことだ」と困難視した。


墜落同型ヘリ再配備に抗議


 沖縄国際大学に墜落した米海兵隊ヘリと同型のCH53D大型輸送ヘリが普天間飛行場にローテーション配備される問題で、普天間基地爆音訴訟団と基地の県内移設に反対する県民会議の代表らは九日、県庁記者クラブで会見し、抗議声明を発表した。

 会見した普天間基地爆音訴訟団の新垣清涼副団長は「再配備は市民、県民を蔑視したものであり、軍事優先の米軍の横暴である」と批判。「連日、深夜から早朝に至るまで、爆音に苦しめられている宜野湾市民を愚弄するものだ」と、今回の配備の即時中止を求めた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711101300_05.html

 

2007年11月10日(土) 朝刊 2面

F15飛行停止/沖縄市議会が抗議へ

 【沖縄】米本国での墜落事故を受け、米軍嘉手納基地のすべてのF15戦闘機が飛行を停止している問題で、沖縄市議会の基地に関する調査特別委員会(与那嶺克枝委員長)は九日、「欠陥機と指摘されているF15を即刻撤去せよ」とする抗議決議と意見書の両案を十六日の臨時会に提案することを決めた。全会一致で可決される見通しだ。

 抗議決議文では、十月三十日に強行された同基地でのF15戦闘機の未明離陸にも触れ、「米軍は例外規定を盾に未明離陸を繰り返しており、騒音防止協定が形骸化している」と指摘。軍用機などの早朝・夜間訓練の全面中止と同協定の抜本的な見直しも求めている。


「異例の事態」/空幕長が懸念


 【東京】防衛省の田母神俊雄航空幕僚長は九日の定例会見で、米空軍のF15戦闘機が米国で墜落事故を起こしたことにより、国内すべてのF15が飛行を見合わせている問題について、「米軍がこれだけ何日もグローバルに戦闘機を飛行停止するのは、たぶん初めてのこと。非常に異例の事態だ」との認識を示した。

 飛行再開の見通しについては「米軍の技術に空自も頼っている以上、米軍が何らかの動きに出なければ結論が出せない状況にある。ただ、二週間も一カ月も止まるということはないとは思うが、現状ではよく分からない」との見通しを示した。

 F15が飛行を見合わせている間、代わりにF4戦闘機が領空侵犯対処に当たることについては「F4は古くなってきているので、F15並みの稼働率を維持するためには相当の労力がいるが、領空侵犯対処に穴が開かないよう、部隊は懸命に頑張っている」と述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711101300_06.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年11月10日朝刊)

[元専務逮捕]

防衛利権の徹底糾明を

 防衛装備品調達をめぐる官業癒着、防衛利権の糾明へ向け、東京地検特捜部が強制捜査に着手した。

 逮捕された防衛商社「山田洋行」元専務の宮崎元伸容疑者は、頻繁なゴルフ接待など守屋武昌前防衛事務次官と親密な交際を続けていた。

 直接の逮捕容疑は、業務上横領、有印私文書偽造・同行使だが、特捜部の主眼がその先にある防衛利権の不正の解明にあるのは明らかだ。

 一九九八年には旧防衛庁調達実施本部の装備品納入をめぐる背任、汚職事件が発覚し、元副本部長や元防衛施設庁長官らが逮捕、起訴されている。

 防衛省が調達する装備品については防衛上の秘密や装備の特殊性から、特定業者に発注が集中する傾向があると指摘されてきた。着服された約一億円の使途や資金の流れ、宮崎元専務と政官の癒着の全容解明を期待したい。

 元専務はオーナー側と対立し、二〇〇六年に新会社「日本ミライズ」を設立するまで、政官工作を担ってきた。

 山田洋行は航空自衛隊の次期輸送機(CX)に搭載予定の米国メーカー製エンジンの販売代理権を持っており、施策機用の五基(計約三十九億円)を受注している。

 日本ミライズは今年七月末に代理権を獲得しており、山田洋行側との裁判にまで発展していた。

 守屋前次官は国会の証人喚問で、二百回以上のゴルフ接待を受けていたことや、夫婦でゴルフセットをもらったり、飲食や旅行の接待を受けていたことなどを認めた。

 逮捕された宮崎元専務と守屋前次官の癒着ともいえる異常な交際にはあきれるばかりである。

 エンジンの販売代理権をめぐる対立を背景に、部下に対して「日本ミライズと随意契約できないのか」と口出ししたとの疑惑を守屋前次官は全面否定した。元専務側に対する便宜供与についても否定している。

 しかし、一般常識から考えて、これだけの接待を受けて何もなかったというのはにわかには信じ難い。ゴルフで偽名を使用したことも認めており、後ろめたさがあったのは確かだろう。

 山田洋行が六年前、敵のレーダーなどをかく乱させる「チャフ・フレア・ディスペンサー」について水増し請求をしていたが、契約変更による減額措置になっていたことについても疑惑の目が向けられている。

 守屋前次官は接待の場に防衛庁長官を歴任した政治家が同席していたと語った。癒着の根は想像以上に深いかもしれない。特捜部は徹底的にメスを入れ、疑惑解明に全力を挙げてほしい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071110.html#no_1

 

琉球新報 社説

「検定」訂正申請 審議会の透明性を求める

 高校歴史教科書の沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)をめぐる検定問題で、検定意見を付けられ日本軍の「強制性」に関する記述を削除・修正した教科書出版社5社が、文部科学省に訂正申請を行った。文科省は、教科用図書検定調査審議会の日本史小委員会に諮って年内に結論を出す。

 執筆者らによると、新たに申請した記述は、日本軍の強制性を明記し、書き換えられる前と同じ趣旨の記述が盛り込まれた。住民を集団自決に追いやった日本軍の存在、9月の県民大会が要求した「主語」が復活した。

 それにしても不可解なのは文科省の姿勢だ。検定意見の撤回には頑として応じようとしないのは理解に苦しむ。今回の問題は調査意見書からすべてが出発していることを見落としてはならない。

 検定審議会が仮に今回の訂正申請を認めるとすれば、検定意見も当然変わらなければならない。審議会の新たな判断と検定意見は不可分の関係にあるからだ。前提はそのままで、結論だけ変えるのは理屈に合わない。

 文科省の教科書調査官が作成した調査意見書が検定審議会に諮問され、その意見に沿って「沖縄戦の実態について誤解されるおそれのある」記述である、と審議会も判断したのである。

 記述の修正については訂正申請どおり了承するが、検定意見は撤回しない。それは論理矛盾だ。明らかに整合性を欠く。

 審議会の論議がいまだに十分説明されていないのもおかしい。責任放棄に等しい。

 批判されなければならないのは審議会委員の感度の鈍さだ。調査意見書は、これまで容認された内容の重大な変更である。なぜ変更なのか。それを問うのが常識ではないか。沖縄戦の専門家の不在を理由に基本的事項の誤りに気付かないようでは、委員の資質が問われかねない。

 県民大会への配慮から訂正されるのではない。間違いだから正さねばならないのだ。審議会は、今度こそ議論の内容を公開し、結論に責任を持たなければならない。

(11/10 12:31)

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琉球新報 社説

宮崎元専務逮捕 防衛利権の不正徹底解明を

 守屋武昌前防衛事務次官と親密な交際を続けていた「山田洋行」の元専務宮崎元伸容疑者が8日、東京地検特捜部に業務上横領などの容疑で逮捕された。山田洋行の米国子会社から約1億1700万円を着服した疑いである。もちろん、特捜部の真の狙いは防衛関連装備調達をめぐる疑惑の解明であろう。宮崎元専務の逮捕は、そのための第1歩とみているのではないか。

 特捜部が注目しているのは守屋前次官との関係である。200回以上にも上るゴルフ接待は尋常ではない。守屋前次官は偽名を使ってプレーしたことも認めている。さらに賭けゴルフや賭けマージャンをし、接待旅行も受けていた。「自衛隊員倫理規程」違反が異常なほどに繰り返されていたわけだ。

 その灰色の関係から生みだされたものは何か。そこが今後の捜査の焦点となろう。

 つまり接待への「見返り」の可能性である。守屋前次官が公務に絡んで宮崎容疑者側が有利となるよう働き掛けをしなかったのかどうか。その延長線上にあるのは贈収賄容疑であり、特捜部は同容疑での立件も検討するとみられている。

 宮崎容疑者は昨年9月に、新しい防衛商社「日本ミライズ」を設立した。同社は、航空自衛隊の次期輸送機(CX)に搭載する予定だった米国メーカー製エンジンの販売代理権を今年7月末までに獲得した。同エンジンに関して、事務次官在任中の守屋氏が日本ミライズと「随意契約できないか」と部下に口出ししたことが関係者の証言で分かっている。

 親密な関係を越えた宮崎容疑者と守屋前次官との癒着。CX搭載予定のエンジン契約に関する口出し。守屋前次官は便宜供与を否定しているが、常識を超えた両者の関係からすれば、疑惑を持たれるのは自然の流れではないだろうか。

 宮崎容疑者と政治家との関係も表に出てきた。守屋前次官の接待の場に、防衛庁長官経験者が同席していたことを、10月29日に行われた証人喚問で前次官が認めたのだ。癒着の疑惑は、政界にまで広がりかねない様相を見せている。

 宮崎容疑者が着服したとされる1億1700万円はどこへ、どのように流れたのか。倫理規程に違反するゴルフ接待がなぜ、10年余りも続けられてきたのか。防衛商社と政官界は果たしてどこまで結びついているのか。

 特捜部は九日、日本ミライズの本社などを家宅捜索した。防衛利権に絡む不正は、どろどろと底なしのように広がっているように見える。宮崎容疑者逮捕を機に官業癒着に鋭く切り込み、徹底的に解明してほしい。

(11/10 12:35)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-28833-storytopic-11.html

 

琉球新報 社説

墜落ヘリの再配備 「普天間」の県外撤去を

 米軍の無神経さにはあきれるほかない。彼らにとって、沖縄はいまだ植民地、との感覚でしかないのだろう。「良き隣人」などとは、どう考えて噴飯ものだ。やはり、基地の県外移転、地位協定の改定。これが必要だ。そのことを、県民に再認識させる、反面教師としての役割を、あらためて見せつけてくれた。

 米海兵隊のCH53D大型輸送ヘリコプターが、沖縄国際大学に墜落したのは2004年8月。県警は現場検証もできず、乗組員の責任、事故原因も追及できなかった。結局、県警は今年の8月、整備兵4人を氏名不詳のまま書類送検。那覇地検が不起訴処分にしている。果たして、これが独立国家での出来事なのかという屈辱と恐怖を多くの県民が味わったことだろう。いまだ記憶に新しい。

 ところが、事故同型機が、普天間飛行場に、再び常駐化される可能性がでてきた。在沖海兵隊報道部によると合計10機のヘリと兵員約150人が、来年1月までに同飛行場に配備され、訓練飛行するという。具体的な駐留期間は不明だが、常駐化で同型機の訓練飛行が恒常化する、と専門家は指摘する。ヘリは岩国基地(山口県)所属だが、「形式的に岩国に所属させ、実態は普天間に置きたいのではないか」とも言う。

 同型機は墜落から1年半後の05年12月までにE型と入れ替わり、同飛行場から姿を消していた。事故のほとぼりも冷めたと考えたのか、2年ぶりに舞い戻ってきたことになる。

 伊波洋一宜野湾市長は「再び市民の上空を飛ぶのは許されない。絶対に反対」と抗議するが、当然だろう。仲井真弘多知事も「感覚的におかしい。戻ってくるべきではない」と述べる。「(普天間の)3年内の閉鎖状態」との公約を掲げる知事にとっても、今回の動きは閉鎖状態どころか、逆に基地の強化につながるものだ。到底認められないだろう。

 現場から県警など沖縄側を完全に閉め出して、米軍の捜査当局が出した事故報告書は「整備兵がヘリ尾部の接続器具コッター・ピンの装着を忘れたのが事故原因」と結論付けた。しかし、同ヘリは開発から40年以上もたつ。老朽化も指摘されており、単なる装着忘れが原因、とは納得できない。構造的な欠陥を疑うのが自然だ。

 県民は、米軍の一方的な事故報告で決着、とはみていない。ヘリの再配備は、事故再発への不安をいっそうかきたてるだけだ。

 日米地位協定上、第1次裁判権は米側にある。米軍はそう主張する。ならば、やはり地位協定の改定が不可欠だろう。さらに危険なヘリはどこであれ県内への配備は認められない。普天間飛行場とともに県外にもっていくしかない。

(11/11 10:55)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-28854-storytopic-11.html

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