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「集団自決」訴訟判決、検定意見の根拠否定 在日米軍再編交付金、名護・宜野座 正式指定 米軍車両侵入、うるま市が抗議決議など  沖縄タイムス関連記事・社説、琉球新報 社説(3月29日から4月2日)

2008年3月29日(土) 朝刊 1・10面

検定意見の根拠否定/執筆者ら再訂正へ

「集団自決」訴訟判決/元隊長陳述「信用性疑問」

 慶良間諸島の「集団自決(強制集団死)」は戦隊長が命じたとする本の記述をめぐる大阪地裁の「集団自決」訴訟で二十八日に言い渡された判決は、原告の元戦隊長の梅澤裕氏(91)の陳述書について「信用性に疑問があるというほかない」と否定した。文部科学省は、この陳述書などを根拠に「集団自決」への軍の強制を削除する検定意見を出していた。陳述書が判決で否定されたことで、被告側の支援者らは「根拠が崩れた。検定意見を撤回させたい」との姿勢で、来月に文科省へ要請行動をする意向を示した。

 梅澤氏の陳述書は、「集団自決」は同氏の命令したものではなく、村幹部が懇願して手榴弾を要求したと主張。しかし、判決は「戦隊長の了解なしに部下が手榴弾を交付したというのは不自然」と指摘。当時、島の補給路が断たれ、装備が不十分な環境だったことを踏まえ「部下の行動を知らなかったというのは、極めて不自然である」とした。

 地裁での判決後、大阪市内で開かれた被告側の支援者による報告集会でも、判決を評価した上で、検定意見撤回に正当性があるとする声が相次いだ。

 教科書執筆者の石山久男氏は「陳述書の信用性は完全に否定されたといっていい。これに基づき検定意見を言い渡した文科省はこれを深く反省し、検定意見を直ちに撤回しなければならないと思う」と述べ、来年四月から使われる教科書の記述について、今年七月ごろをめどに再度訂正申請したい考えを示した。

 同じく執筆者の一人の坂本昇氏は「判決は、軍が駐屯していた所で『集団自決』が起き、駐屯していない所ではなかった、ということまで触れて軍の強い関与があったことを明らかにした。歴史研究の成果が取り入れられた」と評価。他の執筆者や教科書会社と相談しながら再訂正申請に向け取り組むとした。


     ◇     ◇     ◇     

「集団自決」訴訟判決(要旨)


 「沖縄ノート」の各記述は著書である被告大江健三郎(以下、大江)が沖縄戦における「集団自決(強制集団死)」の問題を本土の日本人の問題としてとらえ返そうとしたものである。

 各記述には、慶良間諸島の「集団自決」の原因について、日本人の軍隊の部隊の行動を妨げずに食糧を部隊に提供するために自決せよとの命令が発せられるとの記載や渡嘉敷島で住民に「集団自決」を強要させたと記憶される男である守備隊長との趣旨の記述などがあり、渡嘉敷島における「集団自決」を命じたのが、当時の守備隊長であることが前提となっている。

 また「この血なまぐさい座間味村、渡嘉敷島のむごたらしい現場」との記載があり、大江自身、本人尋問で「沖縄ノート」が原告梅澤裕(以下、梅澤)をも対象にしたことを自認している。

 渡嘉敷島、座間味島で「集団自決」が行われた際に、故赤松嘉次(以下、赤松)が渡嘉敷島の、梅澤が座間味島の守備隊長もしくは軍隊の長であることを示す書籍は多数存在するなど、「沖縄ノート」の各記述内容が赤松、梅澤に関する記述であると特定し得ることは否定できない。

 以上、特定性ないし同定可能性の有無について被告らの主張は、理由がないというべきである。

 家永三郎(以下、家永)著の「太平洋戦争」の記述には「座間味島の梅澤隊長は、老人・こどもは村の忠魂碑前で自決せよと命令した」などとの記述があり、梅澤が部隊の食糧を確保するために、本来、保護してしかるべきである老幼者に対して無慈悲に自決することを命じた冷酷な人物であるとの印象を与え、梅澤の社会的評価を低下させる記述であることは明らかである。

 「沖縄ノート」の記述では、座間味島、渡嘉敷島を含む慶良間諸島での「集団自決」が日本軍の命令によるものであるとし、「集団自決」の責任者の存在を示唆している。ほかの記述と併せて読めば、座間味島および渡嘉敷島の守備隊長である梅澤、赤松が「集団自決」の責任者であることをうかがわせる。したがって、「沖縄ノート」の記述は「集団自決」という平時ではあり得ない残虐な行為を命じたものとして、梅澤および赤松の社会的評価を低下させるものと認められる。

 名誉棄損が違法性がないと判断されるために、「太平洋戦争」、「沖縄ノート」の執筆、出版を含む表現行為の主な動機が公益を図る目的であるかを見る。

 「太平洋戦争」は、歴史研究書であり、その記述は公共の利害に関するものであること、公益を図る目的を併せ持ってなされたものであることには当事者間の争いがない。

 家永は多数の歴史的資料、文献等を調査した上で執筆したことが認められる。「太平洋戦争」の記述の主な目的は戦争体験者として、また、日本史の研究者として太平洋戦争を評価、研究することにあったと認められ、それが公益を図るものであることは明らかだ。

 「沖縄ノート」は、大江が沖縄が本土のために犠牲にされ続けてきたことを指摘。日本人とは何かを見つめ、戦後民主主義を問い直したものであること、各記述は、沖縄戦における「集団自決」の問題を本土日本人の問題としてとらえ返そうとしたものであることが認められる。

 これらの事実および、梅澤、赤松が公務員に相当する地位にあったことを考えると、「沖縄ノート」の記述の主な目的は、日本人の在り方を考え、読者にも反省を促すことにあったものと認められ、公益を図るものであることは明らかだ。

 以上によれば、「太平洋戦争」、「沖縄ノート」の各記述に関する表現行為の目的がもっぱら公益を図る目的であると認められる。


太平洋戦争時の沖縄の状況


 1944年6月ごろから、三二軍が沖縄に駐屯を開始した。三二軍司令官の牛島満は、沖縄着任の際、沖縄における全軍に対し、「防諜ニ厳ニ注意スヘシ」と訓示を発した。

 このように沖縄において防諜対策は、日本軍の基本的かつ重要な方針だった。三二軍司令部の基本方針を受け、各部隊では民間人に対する防諜対策が講じられた。

 軍人軍属を問わず標準語以外の使用を禁じ、沖縄語を使用する者をスパイとみなし処分する旨の命令や、島しょにおける作戦では原住民がスパイ行為をするから気を許してはならない旨の訓令などが出された。

 また、三二軍は同11月18日、県民を含めた総力戦体制への移行を急速に推進し、「軍官民共生共死の一体化」を具現するとの方針を発表した。

 慶良間諸島には同9月、陸軍海上挺進戦隊が配備され、座間味島に梅澤が隊長を務める第一戦隊、阿嘉島・慶留間島に野田隊長(以下、野田)の第二戦隊、渡嘉敷島に赤松が隊長を務める第三戦隊が駐留した。

 45年3月の米軍侵攻当時、慶良間諸島に駐屯していた守備隊はこれらの戦隊のみであった。「集団自決」発生当時、米軍の空襲や艦砲射撃のため、沖縄本島など周囲の島との連絡が遮断されており、食糧や武器の補給が困難な状況にあった。

 海上挺進戦隊は、もともと特攻部隊としての役割を与えられていたことから、米軍に発見されないよう、特攻船艇の管理は厳重で、そのほかの武器一般の管理も同様であった。

 渡嘉敷島は44年10月10日の空襲以降、それまで徴用され陣地構築作業をしていた男子77人があらためて召集され、兵隊とともに国民学校に宿営することになった。

 座間味島は45年3月23日から25日まで空襲を受けた。住民は壕に避難するなどしていたが、同25日夜、伝令役が住民に忠魂碑前に集合するよう伝えて回った。その後、同26日、多数の住民が手榴弾を使用するなどして集団で死亡した。

 同27日午前、米軍が渡嘉敷島に上陸した。赤松は、米軍の上陸前、巡査に「住民は西山陣地北方の盆地に集合するよう」指示し、巡査は防衛隊員とともに住民に集合を促した。住民は同28日、防衛隊員らから配布された手榴弾を用いるなどして、集団で死亡した。

 慶留間島では、45年2月8日、野田が住民に対し「敵の上陸は必至。敵上陸の暁には全員玉砕あるのみ」と訓示し、同3月26日、米軍上陸の際、「集団自決」が発生した。

 以上の「集団自決」が発生した場所すべてに日本軍が駐屯しており、日本軍が駐屯しなかった渡嘉敷村の前島では、「集団自決」は発生しなかった。


日本軍による住民加害


 元大本営参謀で厚生省引揚援護局の厚生事務官馬淵新治(以下、馬淵)の調査によれば、日本軍の住民に対する加害行為は各地で行われていた。

 例えば、馬淵は「将兵の一部が勝手に住民の壕に立ち入り、必要もないのに『軍の作戦遂行上の至上命令である。立ち退かないものは非国民、通敵者として厳罰に処する』等の言辞を敢えてして、住民を威嚇強制のうえ壕からの立ち退きを命じて己の身の安全を図ったもの」。

 「ただでさえ貧弱極まりない住民個人の非常用食糧を『徴発』と称して略奪するもの、住民の壕に一身の保身から無断進入した兵士の一団が無心に泣き叫ぶ赤児に対して『此のまま放置すれば米軍に発見される』とその母親を強制して殺害させたもの」などがあったとしている。

 また「敵上陸以後、いわゆる『スパイ』嫌疑で処刑された住民は十指に余る事例を聞いている」としている。

 日本軍は、渡嘉敷島において防衛隊員であった国民学校の大城徳安訓導が身寄りのない身重の婦人や子どもの安否を気遣い、数回部隊を離れたため、敵と通謀する恐れがあるとして、これを処刑した。

 また、赤松は「集団自決」でけがをして米軍に保護され治療を受けた2人の少年が米軍の庇護のもとから戻ったところ、米軍に通じたとして殺害した。さらに米軍の捕虜となり、米軍の指示で投降勧告にきた伊江島の住民6人に、自決を勧告し、処刑したこともあった。

 そのほか、沖縄では、スパイ容疑で軍に殺された者など、多数の軍による住民加害があった。


援護法の適用


 梅澤命令説および赤松命令説は、沖縄で援護法の適用が意識される以前から存在していたことが認められる。援護法適用のために捏造されたものであるとの主張には疑問が生ずる。

 また、隊長命令がなくても戦闘参加者に該当すると認定された自決の例もあったことが認められ、梅澤命令説および赤松命令説を捏造する必要があったのか直ちには肯定し難い。

 宮村幸延が作成したとされる「証言」と題する親書の記載内容は、「昭和二十年三月二十六日の集団自決は梅澤部隊長の命令ではなく、当時兵事主任兼助役の宮里盛秀の命令で行われた」との部分も含めて拝信しがたい。これに関連する原告梅澤の陳述書も拝信し難い。

 「母の遺したもの」の記載を子細に検討すれば、「集団自決」に援護法を適用するために原告梅澤の自決命令が不可欠であったことや、「村の長老」から虚偽の供述を強要されたことなど援護法適用のために自決命令の捏造を直ちにうかがわせるものではない。

 沖縄において、住民が「集団自決」について援護法が適用されるよう強く求めていたことは認められるものの、そのために梅澤命令説および赤松命令説が捏造されたとまで認めることはできない。


梅澤命令説


 「集団自決」の体験者の供述から、原告梅澤による自決命令の伝達経路等は判然とせず、梅澤の言辞を直接聞いた体験者を全証拠から認められない。取材源が明示されていない「鉄の暴風」「秘録 沖縄戦史」「沖縄戦史」等から、直ちに「太平洋戦争」にあるような「老人・こどもは村の忠魂碑の前で自決せよ」との梅澤の命令それ自体までは認定することには躊躇を禁じ得ない。

 しかしながら、梅澤が座間味島における「集団自決」に関与したものと推認できることに加え、少なくとも2005年度の教科書検定までは、高校の教科書に日本軍によって「集団自決」に追い込まれた住民がいたと記載されていた。布村審議官は、座間味島および渡嘉敷島の「集団自決」について、日本軍の隊長が住民に自決命令を出したとするのが通説であったと発言していた。

 学説の状況、諸文献の存在、その信用性に関する認定、判断、家永および大江の取材状況等を踏まえると、梅澤が座間味島の住人に対し「太平洋戦争」の内容の自決命令を発したことを直ちに真実と断定できないとしても、合理的資料もしくは根拠があると評価できる。

 各書籍の発行時において、家永や被告らが事実を真実であると信じるについての相当の理由があるものと認めるのが相当である。


渡嘉敷島の「集団自決」


 体験者らの体験談は、いずれも自身の実体験に基づく話として具体性、迫真性、信用性を有することができる。

 渡嘉敷島における「集団自決」は、1945年3月27日に渡嘉敷島に上陸した翌日の28日に赤松大尉に西山陣地北方の盆地への集合命令の後に発生している。赤松大尉率いる第三戦隊の渡嘉敷島の住民らに対する加害行為を考えると、赤松大尉が上陸した米軍に渡嘉敷島の住民が捕虜となり、日本軍の情報が漏えいすることを恐れて自決命令を発したことがあり得ることは、容易に想像できる。

 赤松大尉は防衛隊員であった国民学校の大城徳安訓導が、身重の夫人や子供の安否を気遣い、数回部隊を離れたため、敵と通謀する恐れがあるとして処刑している。

 米軍の上陸後、手榴弾を持った防衛隊員が西山陣地北方の盆地へ集合している住民のもとへ赴いた行動を赤松大尉が容認したとすれば、自決命令を発したことが一因ではないかと考えざるを得ない。

 第三戦隊に属していた皆本義博証人が手榴弾の交付について「恐らく戦隊長の了解なしに勝手にやるようなばかな兵隊はいなかったと思います」と証言していることは、先に判示している通り。手榴弾が「集団自決」に使用されている以上、赤松大尉が「集団自決」に関与していることは、強く推認される。

 沖縄県で「集団自決」が発生したすべての場所に日本軍が駐屯し、駐屯しなかった渡嘉敷村の前島では、「集団自決」は発生しなかったことを考えると、「集団自決」は日本軍が深くかかわったものと認めるのが相当である。

 沖縄では、第三二軍が駐屯し、その司令部を最高機関として各部隊が配置され、渡嘉敷島では赤松大尉を頂点とする上意下達の組織であったと認められる。渡嘉敷島における「集団自決」に赤松大尉が関与したことは十分に推認できる。

 渡嘉敷島の「集団自決」の体験者の体験談等から赤松大尉による自決命令の伝達経路は判然とせず、命令を直接聞いた体験者を全証拠から認められない。取材源などは明示されていない。「鉄の暴風」「秘録 沖縄戦史」「沖縄戦史」等から「沖縄ノート」にある記述のような赤松大尉の命令の内容それ自体まで認定することには躊躇を禁じ得ない。

 しかしながら、合理的資料もしくは根拠があると評価できるから、「沖縄ノート」の発行時に、被告らが事実を真実と信じるについて相当の理由があったと認めるのが相当である。

 被告らによる梅澤および赤松大尉に対する名誉棄損は成立せず、したがって、その余の点について判断するまでもなく、これを前提とする損害賠償、出版の差し止めに理由はない。


文献の評価


 「鉄の暴風」には、初版における梅澤の不審死の記載、渡嘉敷島への米軍の上陸日時に関し、誤記が認められるものの、戦時下の住民の動き、非戦闘員の動きに重点を置いた戦記として、資料価値を有するものと認める。

 「母の遺したもの」には木崎軍曹が住民に「途中で万一のことがあった場合は、日本女性として立派な死に方をしなさいよ」と手榴弾一個が渡されたとのエピソードも記載され、日本軍関係者が米軍の捕虜になるような場合には自決を促していたことを示す記載としての意味を有する。梅澤命令説を肯定する間接事実となり得る。

 「ある神話の背景」に、赤松大尉による自決命令があったという住民の供述は得られなかったとしながら、取材をした住民がどのような供述をしたかについては詳細に記述していない。家永教科書検定第三次訴訟第一審の証言で、「ある神話の背景」の執筆に当たっては、富山兵事主任に取材をしなかったと証言しているが、それが事実であれば、取材対象に偏りがなかったか疑問が生じる。

 「ある神話の背景」は、命令の伝達経路が明らかになっていないなど、赤松命令説を否定する見解の有力な根拠となり得るものの、客観的な根拠を示して覆すものとも、渡嘉敷島の「集団自決」に関して軍の関与を否定するものともいえない。

 米軍の「慶良間列島作戦報告書」で、原告が主張するように訳したとしても、日本軍の兵士たちが慶留間の島民に対して米軍が上陸した際には自決するよう促していたことに変わりはなく、その訳の差異が本訴請求の当否を左右するものとは理解されない。

 赤松大尉は、大城徳安や米軍の庇護から戻った2少年、伊江島の住民男女6人を正規の手続きを踏むこなく、処刑したことに関与した。住民への加害行為を行っているのであって、こうした人物を立派な人だった、悪く言う者はいないなどと評価することが正当であるかには疑問がある。

 知念朝睦証人は、陳述書に「私は、正式には小隊長という立場でしたが、事実上の副官として常に赤松隊長の傍にいた」と記載しているが、西山陣地への集結指示については、聞いていない、知らない旨証言。「住民が西山陣地近くに集まっていたことも知りませんでした」と記載している。

 いずれにしても赤松大尉の自決命令を「聞いていない」「知らない」という知念証人の証言から自決命令の存在を否定することは困難である。


皆本証言


 赤松大尉のそばに常にいたわけではないことが認められ、赤松大尉の言動を把握できる立場になかった。赤松大尉の言動についての証言の評価に当たっては、この点を重視する必要がある。

 皆本義博証人の証言は、手榴弾を交付した目的を明示する陳述書の内容と食い違い、手榴弾に関する陳述書の記載およびその証言には疑問を禁じ得ない。


梅澤証言


 梅澤は本人尋問で、手榴弾を防衛隊員に配ったことも、手榴弾を住民に渡すことも許可していなかったと供述する。

 一方で木崎軍曹が手榴弾を交付したことについて、木崎軍曹が住民の身の上を心配して行ったのではないかと供述する。

 慶良間諸島は沖縄本島などと連絡が遮断されていたから、食糧や武器の補給が困難な状況にあったと認められ、装備品の殺傷能力を検討すると手榴弾は極めて貴重な武器であったと認められる。

 軍の装備が不十分で、補給路が断たれていたことについては、梅澤自身も、村民に渡せる武器、弾薬はなかったと供述している。

 そうした状況で、戦隊長である梅澤の了解なしに木崎軍曹が(住民の)身の上を心配して手榴弾を交付したというのは、不自然である。

 貧しい装備の戦隊長である梅澤が、そうした部下である兵士の行動を知らなかったというのは極めて不自然であるというべきである。

 梅澤作成の陳述書と本人尋問の結果は、信用性に疑問がある。


赤松手記


 赤松手記は、自己への批判を踏まえ、自己弁護の傾向が強く、手記、取材ごとにニュアンスに差異が認められるなど不合理な面を否定できない。全面的に信用することは困難である。


体験者証言


 本件訴訟を契機に、宮平春子、上洲幸子、宮里育江の体験談が新聞報道されたり、本訴に陳述書として提出されたりしている。沖縄戦の体験者らの体験談は、いずれも自身の実体験に基づく話として具体性、迫真性を有するものといえる。

 また多数の体験者らの供述が、1945年3月25日の夜に忠魂碑前に集合して玉砕することになったという点で合致しているから、その信用性を相互に補完し合うものといえる。

 こうした体験談の多くに共通するものとして、日本軍の兵士から米軍に捕まりそうになった場合には自決を促され、そのための手段として手榴弾を渡されたことを認めることができる。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803291300_01.html

 

2008年3月29日(土) 朝刊 26・27面

決意「教科書正す」/勝利判決 国に重し

 「検定意見撤回のはずみに」「次は教科書で軍強制記述復活を」。慶良間諸島の「集団自決(強制集団死)」をめぐる訴訟の中で、高校の歴史教科書検定問題で検定意見の根拠とされた元戦隊長の陳述の信用性が否定されたことで、教科書問題の関係者は意気上がる。被告側支援者も集会を開き「全面勝利」と喜びながら、次の闘いへ気持ちを引き締めた。

 「集団自決」訴訟の判決を受け、被告側の支援者らによる「大江・岩波沖縄戦裁判」判決報告集会が二十八日午後、大阪市中央区のエル・おおさか(大阪府立労働センター)で開かれた。沖縄のほか、関西や関東などから約二百五十人が参加し、熱気に包まれた。

 「一審判決は大勝利だった」。被告側の代理人を務めた秋山幹男弁護士が口を開くと、会場から拍手がわいた。秋山弁護士は昨年の教科書検定問題によって、この訴訟が作家の大江健三郎さんと岩波書店の弁護にとどまらず、「多くの期待と不安を担わないといけないという大変な思いをした」と率直に振り返った。

 一方で、検定を契機に体験者から新たな証言を得られた成果を強調。「一審の勝利は心から喜びつつ、二審に向け気を引き締めなくてはならない」と述べた。

 「沖縄ノート」とともに訴えられた家永三郎著「太平洋戦争」について、岩波書店の岡本厚編集局副部長が発言。座間味島の元戦隊長が本の中で軍命を出したと名指しされ、名誉を傷つけられたと訴えたことに、「『太平洋戦争』は現代史を学ぶ人の古典であり、歴史研究の自由、表現の自由それ自体が問われた裁判だった」と指摘、「全面勝利」の意義を強調した。

 参加者からは「『踏み込んだ判決』ではなく『当然の公正な判決』だ」「これだけ多くの支援があることに勇気をもらった」などの声が上がった。名古屋市から駆け付けた南山大学二年の吉田有希さん(20)は「若者は物事の判断材料が少なく、先生や教科書の影響が大きい。この問題に無関心であってはならないと強く感じた」と話した。

 大江・岩波沖縄戦裁判支援連絡会の小牧薫事務局長は、控訴審では事実審理を行わないよう働き掛けるほか、「集団自決」の記述から軍の強制性を削除した教科書検定意見について、撤回を求める取り組みを強化する方針を示した。


文科省 検定論拠失う


 教科書検定意見撤回運動に取り組んできた山口剛史琉球大学准教授の話 教科書検定意見についての文部科学省の説明の核心は、梅澤裕元戦隊長の陳述書を挙げて「当事者の証言が出ている」というものだった。大阪地裁判決は、梅澤陳述が信用に足るものではない、としている。実証性がなく裁判でも認められない、ということは学術研究の成果としてまったく通用しないということ。検定意見を付した前提が崩れ、文科省にとっては、かなり重要な論拠を失ったといえる。今後、検定意見撤回に向けて、裁判の結果をどう結び付けていくか、効果的な時期と場面を検討しながら、追及していく必要がある。


仲里県議会議長「再び行動必要」

実行委の協議示


 昨年九月の教科書検定意見撤回を求める県民大会の実行委員長を務めた仲里利信県議会議長は「文部科学省が検定意見の理由に挙げた『新しい事実』のほとんどが今回の裁判で崩れた」と指摘し、「速やかに検定意見を撤回すべきだ」と訴えた。

 あくまで個人的意見としながらも「この判決を受けて、実行委員会として再度、検定意見撤回を求めていくべきだと思う。今がいい機会だ。何ができるかを含めて話し合いたい」と述べた。


     ◇     ◇     ◇     

「無念晴らした」

渡嘉敷 遺族ら安堵


 【渡嘉敷】渡嘉敷島などで起きた住民の「集団自決」をめぐり二十八日、軍の関与を認める判決が言い渡されたとの速報を聞き、犠牲者をまつる「白玉之塔」を参拝に訪れた多くの遺族が「犠牲になった家族や親類の無念の思いを晴らす判決だ」と安堵の表情を浮かべた。

 「集団自決」の現場で手榴弾が爆発せず、生き残った当時六歳の源啓祐さん(69)。「山を挟んで遠く離れた阿波連集落の住民が、なぜ危険を冒してまで北山に向かったのか」と問い掛け、「軍命で島民が集められたことは明らか。これからも県民の声を強く訴えていきたい」と力を込めた。

 村老人クラブ連合会会長として参拝した村田實保さん(85)は「軍が絶対的な影響力を誇る当時の時代背景を考えれば、軍関与を認める今回の判決は当然の結果だ」と評価した。

 塔の刻銘の前でひざをつき手を合わせた吉川嘉勝さん(69)は「島の思いがやっと届きました」と静かに御霊へ報告した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803291300_02.html

 

2008年3月29日(土) 朝刊 27面

養護学校侵入、米海軍車両と認める/軍報道部「道を間違えた」

 うるま市の県立沖縄高等養護学校内に侵入した車両は米海軍所属だったことが二十八日、分かった。同日午後六時すぎ、在沖米海軍報道部から沖縄防衛局に連絡があった。米海軍の連絡によると、車両に乗っていた隊員は新任だったため、道を間違えたという。所属部隊など詳細は明らかにしていない。

 沖縄防衛局によると、在沖米海軍司令官が二十八日、全隊員に対し、厳重注意したという。連絡を受けた同局管理部の立津長一業務課長は口頭で(1)隊員の教育(2)綱紀粛正(3)再発防止を申し入れた。

 仲村守和県教育長は「新任だったとか、道を間違えたからとかはまったく理由にならない」と非難。「事前に隊員の教育を徹底しない限り基地の外に出すべきではない」とし、週明けにも米軍に再発防止を求め抗議要請をする考えを示した。

 仲村教育長や保坂好泰基地防災統括監らは同日、沖縄防衛局と外務省沖縄事務所を訪ね、再発防止を求め抗議した。

 一方、県高等学校障害児学校教職員組合(高教組)は同日、「教育現場への侵入は、いかなる理由があろうと許せない。学校の安全・安心を守る立場から、謝罪と真相の究明を求める」とする抗議声明を発表した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803291300_04.html

 

2008年3月29日(土) 朝刊 2面

原野火災頻発「安保揺るがす」/金武町長・防衛局に抗議

 米軍キャンプ・ハンセン内で相次ぐ原野火災発生で、金武町の儀武剛町長は二十八日、那覇市の沖縄防衛局を訪ね、真部朗局長に対し、「金武町は日米安保に理解を示してきたが、今のままでは日米安保体制を揺るがす態度を取るかもしれない。これまで協力してきた態勢も取れなくなる」と強く抗議し、火災原因や発生場所の徹底究明、火災につながる訓練中止を求めた。

 儀武町長は相次ぐ事件・事故にも言及。政府に対し、米軍へ強い姿勢で交渉するよう求めた。

 その上で「このままではうっぷんはものすごく大きくなる。これまでの私は協力してきたが、もう協力態勢は取れなくなる。一つずつ信頼関係をなくすと、後で大きな痛手。米軍再編を含めて大きな問題になる」と訴えた。

 また、現在の米軍の演習通報の在り方も疑問視。「変わるのは日付だけで詳細な形が分からない。機密だから教えられないというのは真の日米同盟といえるのか。政府の対応は弱腰に見える」と厳しく非難した。

 真部局長は「徹底究明を米側にもしっかり申し入れて、確実に伝えたい。町長の言葉を重く受け止めたい」と述べた。


町議会も国に要請行動


 金武町議会(松田義政議長は)は二十八日、沖縄防衛局や外務省沖縄事務所などを訪れ、演習被害を受けている同町伊芸区の米軍基地の全面返還や、レンジ3で着工している米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)の小銃(ライフル)用射撃場の建設の即時中止などを求める要請行動を行った。

 松田議長は二十六日のキャンプ・ハンセン内で発生した大火事について、米軍が発生地として説明している廃弾処理場(EOD)1でなく、伊芸集落に近いレンジ4付近で発生していると指摘した。「これまでよりも踏み込んで伊芸の基地返還を求めざるを得ない。米軍は演習のルールを破っている。確認するのが国の仕事」と強く求めた。

 沖縄防衛局の真部朗局長は「日米安全保障条約に基づき、日本の安全を確保する立場としては、残念ながら難しい」と要請に賛同しない意向を示した。その上で「だが火災はまったく日米安保に必要ないことで看過できない。(発生場所について)あらためて米軍に疑問をぶつけて確かめたい」と述べた。

 松田議長は「政府は米軍の言いなりで弱腰だ。信頼できる材料は何もない。地域の安全も安保で守ってほしい」と訴えた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803291300_06.html

 

2008年3月29日(土) 朝刊 2面

米海兵隊、巡回域の拡大検討/美浜・宜野湾・名護など

 在沖米海兵隊が現在、在沖の四軍に課している夜間外出禁止や基地外での終日アルコール摂取の禁止措置を今後緩和する際に、金武町や名護市辺野古などで行っていた巡回指導の対象地域の拡大を検討していることが二十八日、分かった。米軍準機関紙「星条旗」が同日、在日米海兵隊スポークスマンの話として報じた。

 対象地域を北谷町美浜のアメリカンビレッジや宜野湾市、名護市などに広げるかどうか議論しているという。

 巡回指導は日米両政府や地元関係者を含めたワーキングチームで協議している米軍と県警の共同パトロールとは異なり、米海兵隊が一部米空軍と実施している独自のもの。

 在沖米軍は今年に入って相次ぐ事件・事故を受け、夜間(午後十時―午前五時)の外出禁止措置などを課している。同紙によると、夜間外出やアルコール摂取を禁じる以前は、法的権限を持たない下士官らが週末の夜などに名護市辺野古や金武ほか、沖縄市の空港通り、中央パークアベニュー、北谷町北前などで巡回指導を実施していたという。

 海兵隊のスポークスマンは同紙に対し、「現在のアルコール摂取制限措置はいずれ緩和されるが、いつになるか推測できない」と述べている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803291300_07.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年3月29日朝刊)

[「集団自決」訴訟]

史実に沿う穏当な判断


日本軍の関与を認める

 座間味・渡嘉敷両島で起きた「集団自決(強制集団死)」に旧日本軍はどのように関与したのか。戦隊長の自決命令はあったのか、なかったのか。沖縄戦の「集団自決」をめぐる史実論争に初めて、司法の判断が示された。

 判決は、体験者の証言を踏まえた穏当な内容であり、今後この問題を考える上で里程標になるだろう。

 ノーベル賞作家の大江健三郎さんの著作「沖縄ノート」などの中で集団自決を命じたように書かれ、名誉を傷つけられた、として元戦隊長と遺族が大江健三郎さんと出版元の岩波書店に出版差し止めなどを求めた訴訟の判決で、大阪地裁の深見敏正裁判長は、請求を棄却した。

 判決は、戦隊長による自決命令について「伝達経路が判然とせず、(あったと認定するには)ちゅうちょを禁じえない」と指摘した。

 戦隊長命令の存在までは断定しなかったものの、「日本軍が深くかかわった」と認定。戦隊長が「集団自決に関与したことは十分に推認できる」との判断を示した。

 また、大江さんらの著述について「真実であると信じる相当の理由があった」ことを認め、名誉棄損に当たらないと結論付けた。

 今回の判決でもう一つ注目したいのは、体験者の証言の重みを理解し、さまざまな証言や資料から、島空間で起きた悲劇の因果関係を解きほぐそうと試みた点だ。

 一九八二年の教科書検定で文部省(当時)は、日本軍による住民殺害の記述にクレームをつけ修正を求めた。記述の根拠となった「沖縄県史」について「体験談を集めたもので研究書ではない」というのが文部省の言い分だった。あしき文書主義というほかない。

 文書は貴重な歴史資料である。だが、文書だけに頼って沖縄戦の実相に迫ることはできない。軍の命令はしばしば、口頭で上から下に伝達されており、命令文書がないからと言って自決命令がなかったとは言い切れない。

 今回の判決は、沖縄戦研究者が膨大な聞き取りや文書資料の解読を基に築き上げた「集団自決」をめぐる定説を踏まえた内容だといえるだろう。


「住民殺害」も根は一つ


 戦後世代の私たちは、ごく普通に「集団自決」という言葉を使う。だが、この言葉は戦後に流布したもので、沖縄戦の際、住民の間で一般に使われていたのは「玉砕」という言葉である。

 座間味でも渡嘉敷でも、島の人たちは、折に触れて幾度となく「米軍が上陸したら捕虜になる前に玉砕せよ」と軍から聞かされてきた。

 「軍官民共生共死」―軍はそのような死生観を住民にも植え付け、投降を許さなかった。部隊の配置など軍内部の機密がもれることを心配したのである。日本軍がどれほど防諜に神経をとがらせていたかは、陣中日誌などで明らかだ。

 実際、米軍への投降を呼び掛けたためにスパイと見なされて殺害されたり、投降途中に背後から狙撃されて犠牲になった人たちが少なくない。

 「集団自決」と「日本軍による住民殺害」は、実は、同じ一つの根から出たものだ。

 座間味や渡嘉敷では、住民に手りゅう弾が手渡されていたことが複数の体験者の証言で明らかになっている。今回の判決もその事実を重視し、軍の関与を認定した。「沖縄で集団自決が発生したすべての場所に日本軍が駐屯し、日本軍のいなかった渡嘉敷村の前島では集団自決は発生していない」とも判決は指摘している。


犠牲者と向き合えるか


 大江健三郎さんの「沖縄ノート」が発行されたのは復帰前の一九七〇年のことである。なぜ、今ごろになって訴訟が提起されたのだろうか。私たちはここに、昨年の教科書検定と今回の訴訟の政治的つながりを感じないわけにはいかない。

 高校教科書の検定作業真っ盛りの昨年八月、安倍晋三前首相の側近議員が講演で「自虐史観は官邸のチェックで改めさせる」と発言したという。文部科学省の教科書調査官は、係争中の今回の訴訟を引き合いに出して軍の強制を否定し、記述の修正を求めた。昨年の検定が行き過ぎた検定であったことは、判決でも明らかだと思う。

 ところで、名誉回復を求めて提訴した元戦隊長や遺族は、黙して語らない「集団自決」の犠牲者にどのように向き合おうとしているのだろうか。今回の訴訟で気になるのはその点である。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080329.html#no_1

 

琉球新報 社説

大江訴訟判決 体験者の証言は重い/教科書検定意見も撤回を 2008年3月29日

 「集団自決」の構造的な問題に言及できるかが焦点だった岩波・大江訴訟で大阪地裁は28日、体験者の証言や、これまでの沖縄戦研究を重く見て「日本軍が深くかかわったと認められる」と判断。訴えた座間味島の元戦隊長梅澤裕氏らの主張を全面的に棄却した。この日は63年前に渡嘉敷島で「集団自決」が起きた日である。同島では慰霊祭が行われ、島は深い悲しみに包まれた。惨劇を証言した体験者は、証言を重視した判決に報われた思いを抱いているに違いない。座間味・渡嘉敷両村長も判決を納得し、評価しており、「沖縄戦」の本質を理解した妥当な判決だといえよう。

◆軍の関与は明白

 梅澤氏らは、沖縄戦で軍指揮官が「集団自決」を命じたとする岩波新書「沖縄ノート」などの記述をめぐり、岩波書店と作家の大江健三郎さんに、出版差し止めなどを求めていた。

 最大の争点は座間味島、渡嘉敷島での「集団自決」であるが、判決は、日本軍の深いかかわりを認めた。「元守備隊長らが命令を出したとは断定できない」としながらも、「関与したと十分推認できる」と指摘。「その事実について合理的資料、根拠がある」として(1)多くの体験者が、兵士から自決用に手榴弾(しゅりゅうだん)を配られた(2)沖縄で「集団自決」が発生したすべての場所に日本軍が駐屯しており、駐屯しなかった渡嘉敷村前島では「集団自決」が発生しなかった―ことなどを挙げた。

 岩波側の証拠として提出された女性の証言には「『自決しなさい』と手榴弾を渡された」とある。「軍官民共生共死」の意識を徹底させられた住民にとっては、軍民は一体であり「命令」と受け取るしかないだろう。判決にもある通り、この女性だけでなく多くの住民が同じような証言をしており、軍関与を認めた判決は妥当といえよう。

 さらに判決が「集団自決」の要因として、前島の事例を挙げたのは分かりやすい。住民を守るはずの軍隊が駐屯した島で惨劇が起き、その一方で無防備の島では多くの住民が救われた。「集団自決」の本質にかかわる重要な指摘だ。

 原告側の「激しい戦闘で追い込まれ、死を覚悟した住民の自然の発意によるもので、家族の無理心中」という主張は、県民の思いとあまりにも懸け離れている。

 被告側の大江さんは「非常につらい悲劇についての証言が裁判に反映された。心から敬意を表したい」と語った。

 戦時の極度の混乱状況では、書類など物的証拠が残されることはほとんどない。それ故に、戦争体験者の証言は貴重である。地裁がその証言を重視したことは、沖縄戦の史実の真偽について争う今後の議論にも影響を与えるに違いない。

◆史実継承の重要性増す

 今回の判決はここだけにとどまらない。高校歴史教科書検定問題である。昨年3月、文部科学省の教科書検定で、高校の歴史教科書から「集団自決」の「軍の強制」記述が修正・削除された。検定意見の根拠の一つとなったのが、梅澤氏が訴訟に提出していた陳述書である。判決ではその陳述書が否定された。修正・削除は教科書検定審議会の慎重さを欠く突出した対応であり、いっそう批判を浴びることは免れない。司法判断を受けた今、検定審議会は検定意見を速やかに撤回するべきである。

 原告側は週明けにも控訴することを表明した。「軍の関与をもって、隊長命令に相当性があるとすることは、明らかに論理の飛躍がある」という主張である。

 ここで問題にすべきは、大江さんの言うように「個人の犯罪」ではなく、「太平洋戦争下の日本国、日本軍、現地の第32軍、島の守備隊をつらぬくタテの構造の力」による強制であろう。

 戦争の体験者は「人が人でなくなる」と繰り返し語る。国家の思想が浸透され、個人の意思を圧倒する。タテの構造により命令が徹底され、住民は「軍官民共生共死」を強要される。

 この裁判によって、沖縄戦史実継承の重要性がいっそう増した。生き残った体験者の証言は何物にも替え難い。生の声として録音し、さらに文字として記録することがいかに重要であるか。つらい体験であろう。しかし、語ってもらわねばならない。「人が人でなくなる」むごたらしい戦争を二度と起こさないために。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-130610-storytopic-11.html

 

2008年3月29日(土) 夕刊 5面

要請団、来月14・15日上京/県民大会

 「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」実行委員会(玉寄哲永委員長)は二十八日、那覇市の県教育会館で第四回幹事会を開いた。

 四月十四と十五の両日、構成団体の代表らで五十人以上の要請団を組織して上京し、首相や外相、防衛相や在日米軍司令部などに抗議要請する方針を決定した。

 また、大会当日のカンパや大会後の募金などを含め、二十八日現在、約六百四十万円の寄付が集まったと発表した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803291700_02.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年3月30日朝刊)

[地位協定見直し]

支援の輪の広がりを期待

 民主、社民、国民新の野党三党が合同で、日米地位協定の改定案をとりまとめた。続発する米軍人らの事件・事故に対し、県民が最大公約数として求めている地位協定の改定に向けた動きを、後押しする試みだと評価したい。

 改定案には、基地外に住む米軍関係者への外国人登録義務や被疑者の拘禁は原則日本の施設で行うこと、米軍施設を返還する際の環境汚染の浄化は米国の責任―などが盛り込まれている。

 日米安保条約に基づいて駐留しているとはいえ、米軍はゲストだ。国際慣習上、優遇せざるを得ない面があるにしても、基地から一歩外に出た米軍人らの生活や犯罪、環境問題などに関してまで、ホスト国が国内法の適用を制限してゲストを優遇する必要があるのだろうか。

 そういった県民の声は、大多数の国民の耳には届かないというもどかしさがある。

 米軍基地が集中し、そこから派生する米軍人・軍属らの事件・事故。さらに、沖縄は島しょ県であり、米軍基地の整理・縮小、地位協定の抜本的改定を求める県民の思いは、県外にはなかなか伝わらない。

 米軍基地がある神奈川や青森、山口県などを除いては、三党の地位協定改定案に盛り込まれた内容がどういうことなのか、実感として分からないのではないか。

 県議会や市町村議会は、米軍絡みのトラブルが発生するたびに抗議決議をし、地位協定の改定を求める意見書を可決してきた。仲井真弘多知事は、訪米して米国政府に訴える意向を示している。四代の沖縄県知事が続けて米国を訪れ、沖縄の窮状を訴えることになる。

 日本政府に訴えても「運用改善」という一点張りだ。簡単にはいかない。そのため、ゲスト国にも訴えざるを得ない状況に置かれた沖縄の現状がある。

 地位協定改定は、政党や連合などの労組も動きだしている。沖縄支援の輪が広がることを期待したい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080330.html#no_2

 

2008年3月31日(月) 朝刊 25面

「普天間」直訴 視界不良/宜野湾・平和基金否決で紛糾

 宜野湾市議会が、米軍普天間飛行場の返還に向けた伊波洋一市長の訪米費用を市民から募る、市提案の「平和まちづくり基金条例」を賛成九、反対十八の賛成少数で否決した。議会は同条例に関する与党議員の一般質問をめぐり、過半数を占める野党が質問と答弁を「不適切」として本会議への入場を拒否するなど混乱した。(中部支社・銘苅一哲)

 「委員会への挑戦的な態度だ」「議会を軽視している」―。二十七日の同議会一般質問。最後の質問者となった森田進議員(みらい)への当局側の答弁に、野党議員からやじが飛んだ。

 条例案を支持する森田議員は、総務常任委員会が議案を否決したことに対する当局の所見について質問。

 山内繁雄基地政策部長は「非常に残念だ」とした上で、二〇〇六年に市長の訪米費用を盛り込んだ予算案が、財政状況などを理由に議会に否決されたことなど、条例案を提案した経緯を説明。寄付金による税額控除を導入した「ふるさと納税」と連動する可能性など、条例のメリットを強調した。

 訪米の有効性を疑問視し、総務常任委員会で条例案を否決していた野党側は、「一般質問は議案の説明を再度求める場ではない。委員会の存在を無視した質問と答弁だ」などと強く反発した。

 最終本会議の二十八日、開会予定時間の午前十時になっても議場に野党議員の姿はなかった。待機中、ある野党議員は「当局の説明を引き出すやらせ的な質問。答弁も委員会への恨み節に聞こえた」と両者の発言を批判した。

 最終的に議員と部長の二人が「不適切な発言だった」として議事録からの削除を申し出て収拾。条例案は最終本会議で否決された。

 昨年四月に大差で保守系候補を退け、再選を果たした伊波市長だが、議会では与党十人に対し、野党は十五人、中立が三人で立ち往生もしばしば。与党の一人は「野党は数の力で議会を進めている」と唇をかんだ。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803311300_03.html

 

2008年3月31日(月) 夕刊 1面

名護・宜野座 正式指定/在日米軍再編交付金

 【東京】政府は三十一日、在日米軍再編への協力に応じて支払う再編交付金の交付対象となる「再編関連特定市町村」に、米軍普天間飛行場の移設先である名護市、宜野座村を正式に指定し、同日付の官報で告示した。本年度分交付額は、同交付金制度の初年度であるため、移設完了時に支払われる「上限額」の10%分に相当する約四億六千万円が支払われるが、年度内執行が困難なため来年度に繰り越される。

 約四億六千万円のうち、名護は約三億九千七百万円、宜野座が約六千七百万円。政府は、普天間代替施設案(V字案)の沖合移動を要求している名護市に対し、「米軍再編への理解と協力が不十分」などと交付を凍結していた。だが、島袋吉和名護市長の市議会答弁や沖縄防衛局のアセス調査許可で、交付要件である米軍再編への「理解と協力」が満たされたと判断した。

 二〇〇八年度分は、普天間移設に向けた環境影響評価(アセスメント)調査の開始を受け、25%分に相当する約十一億六千万円(名護・約九億九千万円、宜野座・約一億八千万円)が交付される見通し。〇八年度は本年度の繰り越し分も合わせた計約十六億二千万円が一括交付される予定だ。


両首長「当然」との認識


 【名護・宜野座】米軍普天間飛行場の移設先である名護市、宜野座村が再編交付金の対象に指定されたことについて、島袋吉和名護市長と東肇宜野座村長は三十一日午前、「指定は当然」との認識を示した。

 島袋市長は「継続して国との協議会にも出席し、環境アセスの手続きにも同意した。SACO交付金が廃止され、これに代わるものを求めてきた。われわれとしては遅かったという思いだ」と述べた。併せて、「滑走路の沖合移動を求める市の考えが反映されるよう、国と協議していきたい」との姿勢を示した。

 東村長は「基本合意に基づき、米軍機が地域上空を飛行しないという事で国は計画を進めていると理解している。(再編交付金は)法律で決まっており、地域活性化のためには必要だ」との考えを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803311700_01.html

 

2008年3月31日(月) 夕刊 5面

うるま市が抗議決議/米軍車両侵入

 【うるま】米海軍車両の県立沖縄高等養護学校内への侵入事件で、うるま市議会(島袋俊夫議長)は三十一日午前に臨時会を開き、無断侵入に対する抗議決議と意見書を全会一致で可決した。無断侵入の詳細と基地間の移動ルートの県民への公表を強く求めており、同議会とうるま市の石川邦吉副市長らは四月一日、嘉手納基地内の在沖米海軍艦隊活動司令部や沖縄防衛局を訪れ、抗議する。

 抗議決議文では三月二十七日に発生した米軍車両の侵入について、昨年七月に同養護学校、八月には前原高校でも同様のトラブルが起きたことを指摘し「安全であるべき学校敷地内に無断で侵入する暴挙は、常識では到底考えられない」と事態を重く見ている。

 従来の「米軍側の綱紀粛正、再発防止の実効性がない」として、(1)移動ルートの公表(2)米軍人の教育と綱紀粛正の徹底(3)実効性のある再発防止策の公表(4)米軍組織の管理体制と責任の明確化│などを求めている。

 同様な事件での度重なる抗議決議に、同市議会基地対策特別委員会の東浜光雄委員長は「議会からは、車両侵入に対して罰則規定を求める意見もある。要望に応えてもらうよう抗議したい」と話している。

 抗議決議は駐日米国大使や在日米軍沖縄地域調整官、在沖米国総領事など、意見書は衆参両院議長、首相、外務省沖縄担当大使、沖縄防衛局長、県知事などにあてた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803311700_04.html

 

2008年4月1日(火) 夕刊 4面

防衛局移転 町の声反映を

 【嘉手納】沖縄防衛局が那覇市前島から嘉手納町に移転し、一日午前から業務を開始した。町内では、基地被害の実態を肌で感じ、住民の声を反映した防衛行政が行われることや、約四百四十人の職員による経済波及効果に期待の声が高まっている。

 部課長ら約三十人と、同局を誘致した宮城篤実町長が出席した看板除幕式で、真部朗局長は「中部地区は広大な基地が存在する。住民の思いを肌で感じる機会が与えられた。血の通った防衛行政にまい進せねばならない」と訓示した。

 同局移転により、嘉手納防衛事務所は三月三十一日付で廃止。那覇市泊に那覇防衛事務所を新設する。沖縄防衛局の新庁舎は、嘉手納ロータリー地区の市街地再開発事業で建設された嘉手納タウンセンター内にある。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200804011700_04.html

 

2008年4月2日(水) 朝刊 29面

実行委、記述回復要請へ4日に再始動/大阪地裁判決受け

 「集団自決」訴訟で、元戦隊長らの請求を棄却した大阪地裁判決を受け、超党派の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員長の仲里利信県議会議長と幹事の与野党県議は一日、四日に県議会で実行委を開くことを決めた。実行委は「判決で検定意見の根拠が崩れた」との認識で一致。検定意見撤回と「軍強制」の記述回復を求め、国に再び要請する方向で協議する。要請行動は十六日をめどに調整する。

 幹事の伊波常洋県議(自民)や平良長政県議(護憲ネット)は、軍の強制を削除した教科書検定意見について、文部科学省が「集団自決」訴訟を理由に挙げていたことを指摘。判決を受け、検定意見撤回を求めるべきだとの認識を示した。

 実行委開催を呼び掛けてきた副委員長の玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会会長や小渡ハル子県婦人連合会長は「文科省を動かすには今が絶好の機会。急いで行動する必要がある」、「検定意見を撤回させ『軍強制』の記述を復活させないと、沖縄戦の犠牲者に申し訳が立たない」と訴えた。

 県高等学校PTA連合会の西銘生弘会長も「対応が遅くなれば効果も薄れる。今夏の教科書再訂正申請も見据え、実行委でしっかり方針を決めたい」と話した。

 教科書検定問題をめぐっては昨年末、文科省が「軍関与」の記述を認め、自民党県連は今年一月「実行委の役割は終えた」として、解散を求める方針だった。一方、検定意見撤回と「軍強制」の記述回復を求める幹事団体などは反発。実行委は「活動停止状態」が続いていた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200804021300_03.html

 

2008年4月2日(水) 朝刊 2面

車両侵入 進入禁止の看板設置/うるま市議団に米軍約束

 【うるま】米海軍車両がうるま市の県立沖縄高等養護学校内に侵入した問題で、うるま市議団や石川邦吉副市長は一日、米軍嘉手納基地内に在沖米艦隊活動司令部を訪ね、抗議した。対応した参謀長代理のジョセフ・ヤント大尉は、車両は同市のホワイトビーチから沖縄市のキャンプ・シールズに向かう途中だったと説明。防止策として学校正門への車両進入禁止を示す看板の早期設置を約束したという。

 また、車両のルート内にある学校の写真を隊員らに示すことで、トラブルの再発防止に努める姿勢を示したという。

 一方、沖縄防衛局で対応した岡久敏明管理部長は「市民に不安な思いをさせて大変迷惑をかけた」と謝罪し、車両の通行ルートを米軍側に照会すると述べた。

 島袋俊夫議長は「米軍側から、抗議に対して即座に対応するという回答を得た。看板の設置については、市内をはじめ四軍が管理するすべての地域に広げるよう要望した」と話した。

 同市議団はそのほか在沖米国総領事館、外務省沖縄事務所でも抗議を行った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200804021300_07.html

 

2008年4月2日(水) 朝刊 2面

オスプレイ、新型の機関銃装備へ

 早ければ二〇一四年度にも県内への配備が指摘されている米海兵隊の垂直離着陸機MV22オスプレイに、三百六十度全方位へ発射が可能な機関銃が装備されることが一日までに分かった。米軍の準機関紙「星条旗」が報じている。

 米軍担当者が同紙に明らかにしたところによると、オスプレイはすでに機体後方に機関銃を設置しているが、口径七・六二ミリの新しい機関銃を装備することで、海兵隊の輸送ヘリとしては初めて前方にも発射が可能になるという。

 装備時期は明らかにしていない。

 海兵隊はじめ米四軍の特殊部隊を束ねる米特殊作戦軍(SOCOM)と契約している英軍需産業BAEシステムズの担当者は、機関銃は発射速度毎分三千発で射程約千メートルと説明している。

 オスプレイは普天間飛行場に配備されているCH46中型輸送ヘリの後継機。主翼の両端にプロペラ部分の角度が変わる傾斜式回転翼(ティルトローター)があり、ヘリコプターのような垂直離着陸と、固定翼機のような巡航が可能。開発や試験飛行段階で四回墜落し、うち三回で計三十人が死亡、危険性が指摘されてきたが、昨年イラクに実戦配備された。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200804021300_09.html

 

琉球新報 社説

防衛局移転 “痛み”共有し解決促進を 2008年4月2日

 沖縄防衛局が1日から、局舎を嘉手納町に移転した。米軍機の爆音がとどろく町に、国の安保行政の中枢機関が居を構えた。米軍基地を抱える町民の痛みと苦悩を「国」が共有し共感する。爆音禍の軽減と基地問題の抜本解決に向けた転機としてほしい。

 移転の日。嘉手納町の宮城篤実町長は、「地域住民が基地にどう向き合っているかも肌身で感じてもらい、基地から発生する障害について一緒に対応策を考えてほしい」と注文を付けた。

 防衛省沖縄防衛局の真部朗局長は「防衛局にとっても非常な好機。より血の通った防衛行政にまい進していかなければならない」と決意を語っている。

 「足を踏んでいる人は、踏まれている人の痛みを知らない。踏んでいることにも気付かなければ、罪の意識すらもない」

 9年ほど前、そんな話を宮城町長から聞いた。稲嶺恵一知事が誕生し、副知事候補に宮城町長の名前が上がったころだ。

 「施設局(当時)が嘉手納に来れば、防衛庁も町民の痛みを共有してもらえる。基地問題の解決は、そこからしか始まらない。町民と一緒に闘いたい」。宮城町長は、そう語り、副知事就任を否定した。

 嘉手納町は、町面積の83%を米軍基地が占め、町民1万3700人は残る17%、262ヘクタールに押し込められている。

 2005年の国勢調査では、嘉手納町の完全失業率は17・5%にも達し、基地の過重負担で「企業を誘致する土地すらない」との閉(へい)塞(そく)感も漂っている。

 移転前、完成間近の庁舎には「歓迎、嘉手納防衛施設局」の横断幕が掲げられていた。

 町にとって局舎移転は、那覇市から嘉手納町に職場を移した440人の防衛局職員の消費など経済波及効果や、新たな雇用創出への期待もある。

 安保の「負の遺産」の軽減にとどまらず、「恩恵」も、という町民の期待に、防衛局はどう応えるのか。局舎移転が嘉手納町にとどまらず、米軍基地を抱える地域住民の負担軽減の具体的な政策転換につながることを期待したい。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-130754-storytopic-11.html

 

2008年4月2日(水) 夕刊 5面 

県出身画家「戦争画」公開

来月、県立美術館企画展

 県出身の画家・故大嶺政敏氏(一九一二―九四年)が、戦時中に銃後で勤労奉仕する人々を描いたいわゆる「戦争画」二作品が、五月に那覇市の県立博物館・美術館で行われる企画展「情熱と戦争のはざまで?無言館と沖縄の画家たち?」で公開されることがこのほど決まった。(与儀武秀)

 戦争に協力・賛美するために描かれたとされる戦争画で、県出身作家の作品が沖縄で一般公開されるのは戦後初めて。専門家は「大嶺氏はほかにも戦争画を描いており時代性を感じさせる」と話している。

 大嶺氏は戦後沖縄美術の大家として知られる故大嶺政寛氏の実弟。那覇市生まれで県師範学校卒業後上京し、東京を拠点に約六十年間、絵画活動を続けた。

 公開される戦争画は「増産戦士」「僕も征くぞ米本土」の二作品。

 共に一九四三年に制作された百号の大作で、丸太を炭に加工する様子や基地建設と思われる労働に励む人々がキャンバス一枚の表裏に描かれている。

 大嶺氏は五六年に沖縄を訪れた際、戦後の窮状に強い衝撃を受け、その後は沖縄の庶民生活や風景を描きながら、平和を希求する作風に変化したといわれる。

 同展では、二作品のほか、戦没者への鎮魂を描いた晩年の作品「集団自決供養(ケラマ島)」も展示される。

 県立美術館の翁長直樹学芸員は「戦争当時の作家はほかにも戦争画を描いている。美術が戦争に協力した贖罪意識があったのかもしれない」と話している。

 同企画展は五月十七日から同館で行われる。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200804021700_01.html

ハンセン大規模山火事 うるま市、米車両が学校に侵入 「集団自決」訴訟、元隊長の請求棄却など  沖縄タイムス関連記事・社説、琉球新報 社説(3月26日から28日)

2008年3月26日(水) 朝刊 2面

「地位協定改定案」/実現へ政府の「壁」厚く

 民主、国民新、社民の野党三党による日米地位協定改定案が二十五日、まとまった。三党は週明けにも政府への要請行動を展開する予定だが、政府は「運用改善で対応する」との立場を崩さず、福田康夫首相も「改定は考えていない」とかたくなだ。二十三日に開かれた地位協定改定を決議した米軍の事件・事故に抗議する県民大会が超党派にならず、仲井真弘多知事が参加を見送るなど、足並みの乱れもあり、改定実現に向けた壁は厚い。

国会決議模索


 「県民大会でも地位協定の改正を図るべきだという参加者の思いが強かった」

 三党の実務レベル協議で社民党から参加した照屋寛徳衆院議員は、改定は県民の総意であるとの見解を強調し、合意を歓迎した。

 野党内には政府への要請行動に合わせ、地位協定改定を後押しする国会決議を模索する動きも浮上するなど、機運が高まっている。

 しかし、三党合意に町村信孝官房長官は二十五日の会見で「政府としては地位協定を見直す考えは全くない。運用の改善ですべてのことが対応できると思っている」と突き放す。

 ある政府関係者も「改定まで踏み込むと、米側の要望まで入ってきて収拾がつかなくなる。実際に日米合同委員会合意で対応できる部分は大きい。県民大会が仮に六千人を大きく上回り、超党派になってたとしても、政府の対応は変わらなかっただろう」とみる。


パンドラの箱


 与党内の一部でも、地位協定改定に向けた動きが出始めている。

 自民党は来月にも沖縄振興委員会と外交調査会の合同部会を開き、地位協定改定の論議を始めたい考えだ。党関係者は「党幹部と仲井真弘多知事との事前の調整は済んでいる」と説明。今秋に予定している仲井真知事の訪米までに意見を集約させたい思惑がある。

 一方、地位協定改定を政府に要請し、県民大会に参加した公明党。しかし、党本部関係者は「運用改善ならホワイトハウスで完結するが、改定なら米議会まで巻き込むことになる。改定案を持ち込めば、超党派で反対される。まさに“パンドラの箱”だ」と慎重だ。

 同関係者は「将来的に改定を考えていかなければいけないという思いはあるが、今の段階で県本部との温度差があるのは事実」と党内事情を説明する。

 地位協定改定をめぐり、野党内には「三党の合意により、与党も無視できない状況になる。そうなれば政府も無視できないはず」との見方があるが、ある与党関係者は「議院内閣制を敷いている以上、難しい」と厳しい見通しを示した。(東京支社・島袋晋作、西江昭吾)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803261300_03.html

 

2008年3月26日(水) 朝刊 27面

模擬裁判で争点整理/「集団自決」訴訟

 「集団自決(強制集団死)」訴訟の判決を前に、「沖縄戦の歴史歪曲を許さず、沖縄から平和教育をすすめる会」が二十五日、那覇市の教育福祉会館で集会を開いた。

 集会では、訴訟の経過や双方の主張、争点を分かりやすく伝えようと、模擬裁判が開かれた。同会会員が裁判官や原告、被告双方の弁護士に扮し、当時の戦隊長による直接の軍命の有無とその根拠、「集団自決」に使われた手榴弾の配布の事実や戦隊長の関与などをめぐり、法廷さながらの緊迫したやりとりを演じた。

 裁判官役が「なぜ『集団自決』が起きたと考えるのか」と問い掛けると、原告側役は「『戦隊長命令、軍命があったから死んだ』というのはあまりにも軽率だ。米軍に対する恐怖心や家族愛、狭い島での同調圧力が働いた」と主張した。

 被告側役は「当時は、戦陣訓や三二軍による『軍官民共生共死』の方針が徹底されていた。大変に貴重な武器だった手榴弾が戦隊長の許可なしに住民に渡されることは考えられない」と反論した。

 最後に、裁判官役が「沖縄戦では軍と住民の関係が如実に現れた。この教訓をどう学び、どう生かすかが問われている」と呼び掛けた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803261300_04.html

 

2008年3月26日(水) 朝刊 2面

陸上自衛隊 沖縄訓練場/工期遅れ8月完成

 米軍の旧東恩納弾薬庫地区に新設する陸上自衛隊の沖縄訓練場と、泡瀬ゴルフ場の代替施設建設の完成がともに遅れることが二十五日までに分かった。沖縄訓練場は今月末に完成予定だったが、ことし八月ごろになる見通し。沖縄防衛局は「不発弾処理や天候不良で工期が長引いている」と明らかにしたが、工期日程について「三月末を予定していた工事の完了が遅れる見込みとなった。関係機関や請け負い業者と調整中」と述べている。

 沖縄訓練場は陸自が小火器射撃訓練施設として建設。陸自第一混成団は現在九州に移動して行っている訓練を沖縄訓練場で効率的に行える、と歓迎。完成の遅れに伴っては「〇八年度の運用計画に支障は出ない」と説明している。

 泡瀬ゴルフ場の移設は二〇〇八年度中の完了を予定していたが、沖縄防衛局は埋蔵文化財を発見したため、〇九年秋ごろまで遅れると説明した。造成工事中にうるま市側で民家跡や古墳群などの埋蔵文化財が発見された。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803261300_08.html

 

2008年3月26日(水) 朝刊 2面

米軍基地内 空き家1割

 【東京】外務省の西宮伸一北米局長は二十五日の参院内閣委員会で、県内の米軍基地内の空き家は約一割であるとの米側からの説明を明らかにした。

 西宮局長によると、今年一月末時点で八千百三十九戸の住宅があり、米軍関係者の入居率は約八割。しかし、改装などで、使用することができない住宅が約九百戸あり、米側は「これら使用不可能な住宅を考慮すると入居率は九割になる」と説明しているという。

 糸数慶子氏(無所属)への答弁。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803261300_09.html

 

2008年3月26日(水) 夕刊 5面

悲劇の日、「集団自決」犠牲者に史実継承誓う/座間味

 【座間味】沖縄戦で「集団自決(強制集団死)」が起こった座間味島で二十六日午前、仲村三雄座間味村長や村民らが、高月山中腹にある平和の塔前で、犠牲者を悼み史実の継承を誓った。

 座間味島では、六十三年前のこの日に米軍が上陸、「集団自決」が起きた。

 仲村村長は「昨年は教科書検定問題もあり、平和ガイドブック編さんの過程でも村民の新たな証言も得た。歴史を風化させたくないという村民の思いが強くなっている」とあいさつ。三十三回忌を区切りとして慰霊祭は中止していたが、今後は戦後六十五年、七十年など五年おきに行う意向を示した。

 参拝に訪れた男性は「中学生のころまでは毎年訪れていたが、久しぶりに来た。若者もお参りしやすい機会をつくるのはいいことだと思う」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803261700_04.html

 

2008年3月26日(水) 夕刊 1面

米兵脱走 県内5人/05年以降警察庁把握分

 【東京】警察庁の小野正博審議官は二十六日午前の衆院外務委員会で、神奈川県横須賀市のタクシー運転手刺殺事件で浮上した脱走米兵への対応に関連し、二〇〇五年以降に米軍から日本側に脱走兵の逮捕要請が九件あり、その中に在沖米兵五人が含まれていることを明らかにした。笠井亮氏(共産)、照屋寛徳氏(社民)への答弁。

 笠井氏は、警察庁が一九六八年、米側からの逮捕要請があった場合の報告を義務付ける通達を出しているにもかかわらず、二〇〇四年以前の統計を把握していないことを問題視。これに対し、高村正彦外相は「関係省庁で情報共有し、米からも情報を得る仕組みをつくりたい」と考えを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803261700_06.html

 

2008年3月27日(木) 朝刊 1・31面

ハンセン大規模山火事/一時民間地に600メートル

05年に次ぐ被害

 【金武】金武町の米軍キャンプ・ハンセンレンジ4付近で二十六日午後一時半ごろ、大規模な山火事が発生した。ピーク時には民間地まで推定約六百メートル前後まで火の手が迫った。現場に近い伊芸区の住民らによると、ガラス窓を揺らすほどの爆発音の直後に火災が発生。同区では煙のにおいが立ち込め、灰が降るなどの被害が出ている。日没のため、ヘリによる消火活動は中断されており、二十七日午前零時現在、鎮火は確認されていない。

 町関係者によると、二〇〇五年に約八十ヘクタールを焼失した山火事に次ぐ規模で、これほど民間地に近い火災は近年では珍しいという。火災原因や焼失面積は調査中。

 火災現場は、レンジ4の都市型戦闘訓練施設に近い山間部。米軍から沖縄防衛局に入った連絡では、発生現場は「レンジ3」の爆発物処理場(EOD1)付近だとしている。

 伊芸区によると、今年に入り、レンジ4付近で大きな爆発音を伴う火災が三回発生した。同区は、通常レンジ3のEOD1だけで行われている爆破訓練を、レンジ4付近で実施している疑いがあるとして、沖縄防衛局に確認する方針。

 伊藝達博副町長は「詳しい状況を調べている。二十七日の議会で状況を報告し、二十八日にも抗議する。EOD訓練が原因だとしたら許せない」と話した。


     ◇     ◇     ◇     

爆発音・煙 集落襲う/頻発「処理訓練か」


 【金武】突然の爆発音とともに強風が吹き、火が燃え広がった。二十六日に発生した金武町キャンプ・ハンセンでの大規模火災。約一キロの範囲に点在する火の手は、民間地まで約六百メートルに迫った。数時間に及ぶ米軍ヘリの消火活動も追いつかず、日没になっても炎を上げ燃え続けた。伊芸区には焦げたような煙のにおいが立ち込め、黒い灰が飛び散った。

 今年に入り、頻繁に起きている爆発音を伴う山火事に、地元では「住民に知らされないまま、爆発物処理訓練をしているのでは」と、不安が広がっている。

 前回二回の山火事の原因について、沖縄防衛局は「実弾射撃訓練」と発表。だが、伊芸区の池原政文区長は「実弾射撃訓練ならあんな爆音はしない。米軍はいつも真実を言わない。爆発物処理訓練が、どんどん民間地に近づいている」と危機感を募らせる。

 北風に乗った灰は、集落内の道路や民家、子どもたちが遊ぶグラウンドにも降ってきた。

 自宅にいた照屋藤さん(85)は「ドドンと何かが爆発したようなすごい音がして家から飛び出した」。町内のグラウンドで野球の練習をしていた新垣祐介くん(金武中二年)は「ここまで黒い灰が飛んできたのは初めて。ヘリの音もうるさくて煙のにおいも臭い」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803271300_01.html

 

2008年3月27日(木) 朝刊 31面

父の願い 私が語る/座間味「集団自決」の日

 沖縄戦下の座間味島で「集団自決(強制集団死)」が起き、百七十七人が犠牲になってから二十六日で六十三年。島では遺族らが戦没者をまつる平和の塔などを訪れ、鎮魂の祈りをささげた。「集団自決」の記述から日本軍の強制性を削除する教科書検定問題で激しくせめぎ合ったこの一年。「歴史を曲げないで」という揺るがない思いが、住民の心に深く根を張った。(上原綾子)

 「歴史から真実を消さない。それが生き残った者の役目です」。宮平春子さん(81)は昨年、戦時中に座間味村助役兼兵事主任だった兄の故宮里盛秀さんが、日本軍から軍命を受けたと初めて公に重い口を開いた。助役が軍命を出したと元戦隊長らが主張している「集団自決」訴訟が、教科書から軍の強制を削る根拠にされ、黙っていられなかったからだ。

 「三月二十六日は一生忘れられない。軍命がなければ、兄が愛するわが子たちに手をかけることはなかった」。そう言うと、自然と涙があふれた。

 この日に合わせ、夫や孫とともに島に渡った盛秀さんの次女、山城美枝子さん(66)=宜野湾市。両親ときょうだい三人を「集団自決」で亡くし、一人生き残った。

 戦時中は三歳。家族のぬくもりはほとんど記憶にないという。あのころの自分の年齢に近い孫の鳳翔ちゃん(2)を抱きながら、「さまざまな人の証言で、当時の背景を知ることができた。父は戦争のない世の中をつくってほしいとメッセージを発していると思う。代弁者になりたい」と目頭を熱くした。

 宮平さんと山城さんは平和の塔を参拝した後、盛秀さんらの位牌がある宮村文子さん(82)宅を訪れ、仏壇に手を合わせた。二十八日に大阪地裁で判決が出る「集団自決」訴訟について「しっかり見守りたい」と山城さん。宮平さんは「兄さんたちの死を無駄にはしない」と、この日何度も口にした言葉を再び自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803271300_04.html

 

2008年3月27日(木) 朝刊 2面

名護市、アセス認可

 沖縄防衛局の真部朗局長は二十六日の定例会見で、防衛省が十五日から始めた普天間飛行場の代替移設建設に伴う環境影響評価(アセスメント)調査について、名護市が二十一日までに、必要な認可を出したことを明らかにした。

 真部局長は「移設そのものに対して理解を持って協力していただいた」と評価した。

 真部局長は二十五日、名護市の島袋吉和市長と宜野座村の東肇村長を訪ね、在日米軍再編の協力に応じて支払う再編交付金の支給決定を説明。島袋市長は真部局長に対し、「(移設に関する)協議会での議論の結果に基づき適切に対応していきたい」とあらためて表明したという。

 名護市が沖合移動を求めていることについて真部局長は「滑走路の長さや代替施設の位置について、お考えがあることは承知している」との認識を示しながらも、「(名護市の姿勢は)基本的に前向き。新たな判断材料を頂いた」と再編交付金の指定に踏み切った理由を説明した。

 防衛省は三十一日付の官報で告示する見通し。本年度分は名護が約三億九千四百万円、宜野座が約六千六百万円。来年度はアセス調査開始を受け、名護が約九億八千六百万円、宜野座が約一億六千六百万円になる見通し。

 年度末で本年度分の支払いが不可能なため、来年度に一括で支払う。

 アセス調査について反対派が阻止行動を展開していることについては「大きな支障は生じていない。対応できない場合は従来通り、警察や海上保安庁と連携して対応していきたい」と述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803271300_07.html

 

2008年3月27日(木) 夕刊 1・5面

10時間半燃え鎮火/ハンセン

 金武町の米軍キャンプ・ハンセンで発生した大規模な山火事は二十六日午後十一時五十四分ごろ、鎮火した。米軍から沖縄防衛局を通し連絡を受けた県基地対策課が二十七日午前、発表した。約十時間半かけて燃え、ピーク時には火の手が民間地に推定六百メートルまで迫った。県や沖縄防衛局によると、火災原因や焼失面積は米軍が調査を行っており、明らかになっていない。

 石川署によると、二十六日午後二時四十五分ごろには、約二万二千五百平方メートルが焼失。同日午後七時二十分ごろには、沖縄自動車道に約五百メートルの地点まで燃え広がったという。

 火災現場はレンジ4の都市型戦闘訓練施設に近い山間部。米軍から沖縄防衛局に入った連絡では爆発物処理場(EOD1)付近という。


     ◇     ◇     ◇     

金武町が抗議へ


 【金武】金武町の米軍キャンプ・ハンセンのレンジ4付近で発生した大規模火災について、町は二十七日、沖縄防衛局に抗議することを決めた。儀武剛町長は「伊芸区民の心情を考えると大変遺憾」と話した。

 町は同日午前に開かれた町議会三月定例会の予算特別委員会冒頭で、火災について説明。沖縄防衛局が通常爆破訓練の行われているレンジ3の「爆発物処理場(EOD1)付近」としている火災発生場所ついて、「レンジ4の都市型訓練施設の裏手」と説明。議員から「EOD1と発生場所が離れている。詳細な調査が必要」と指摘があった。

 同町議会米軍基地問題対策調査特別委員会の知名達也委員長は「レンジ3の射撃場建設に対する抗議決議をしたばかりで、すぐこのような問題が起こり、米軍への強い怒りを感じる」と話した。

 同町議会はレンジ3に関する抗議決議を二十八日、同局に持っていく際、山火事についても抗議する。


シュワブも火災


 【名護】米軍から沖縄防衛局に入った連絡によると、二十七日午後零時半ごろ、名護市のキャンプ・シュワブ内のレンジ10付近で原野火災が発生した。火災原因は調査中。同午後一時現在、米軍が消火活動を行っている。


一夜明け山肌無残/地元、赤土流出懸念


 【金武】金武町の米軍キャンプ・ハンセンの大規模な山火事から一夜明けた二十七日、火災現場に近い同町伊芸区の住民からは、火災で露出した赤土の流出などの被害を懸念する声が上がっている。

 現場となった同訓練場レンジ4付近の山間部では、真っ黒に焼けただれた斜面から赤土がむき出しになっていた。同区の男性(63)は「火事で木々が焼けて、赤土が流出しやすくなる。河川や海への悪影響が心配だ」と、不安げな表情を見せた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803271700_02.html

 

2008年3月28日(金) 朝刊 1・29面

米車両?学校に侵入/うるま市 ビデオに映像

 【うるま】二十七日午後一時五十九分ごろ、うるま市田場の県立沖縄高等養護学校(塩浜康男校長・百二十四人)内に米軍関係とみられる車両が侵入し、校内で方向転換して引き返した。けが人や器物の破損はなかった。

 同校では昨年七月十八日に米軍の装甲車が侵入、同八月には近隣の前原高校でも同様のトラブルが起こっており、教育関係者や住民から怒りの声が上がっている。

 学校関係者によると、二人乗りで車幅の広い深緑色の車両が侵入、車内には迷彩色の服を着た外国人とみられる男二人が乗っていた。

 監視カメラには県道224号から車両が入り、駐車場で方向転換して引き返す様子が撮影されていた。所要時間は約一分半だった。

 塩浜校長は「(米軍車両であれば)二度目なので怒り心頭だ」。知念恒男うるま市長は「教育現場でこのようなことが起こるのは許されない」と述べた。

 

     ◇     ◇     ◇     

知事、強い不快感


 仲井真弘多知事は二十七日夜、二十六日から二十七日にかけて米軍基地内で山火事が二件起こり、米軍とみられる車両がうるま市の県立沖縄高等養護学校に侵入したことに、「多過ぎる。米軍は緩んでいるのではないか」と強い不快感を示した。

 その上で「民間企業であれば、しばらく営業停止だ」と憤りを示した。県庁で沖縄タイムス社の質問に答えた。

 米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会直後に相次ぐ不祥事に「(綱紀粛正が)徹底していないのか。ちょっと理解に苦しむ」とした。


「3度目」怒り心頭/学校職員らに衝撃


 【うるま】「開いた口がふさがらない。怒り心頭だ」。二十七日、うるま市田場の県立沖縄高等養護学校(塩浜康男校長)で起こった米軍関係とみられる車両侵入のトラブルに、教育関係者はあきれ、憤った。春休みの静かな校内に突然、入り込んできた車両を目撃した学校職員らは「どう対応したらいいのか」と衝撃を受けている。

 仲村守和県教育長は声を震わせながらコメントを発表。「許し難い。米軍車両が学校の敷地内に入るのは前代未聞のこと。県民大会も開かれる中で三度起きた。米軍の綱紀粛正という言葉は疑わしい」と怒った。さらに「直ちに再発防止に向けた具体的な方策を示すようあらためて関係機関に強く求めたい」と話し、米軍当局に直接抗議する考えを示した。

 うるま市議会基地対策特別委員会の東浜光雄委員長は「(再発は)沖縄の心を踏みにじる行動で、許せない。防止するには日米地位協定の改定しかない」と語気を強めた。同議会は二十八日に委員会を開いて今後の対応を協議する。

 高教組の松田寛委員長は「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会が開かれたばかりだ。あきれて物も言えない」と語気を強めた。県高校PTA連合会の西銘生弘会長も「春休みであっても学校の敷地内に入ったことは許せない。どんな抗議をしても何の変化もない、聞く耳を持たないなんて、強い占領意識の表れだ。詳細を把握して、すぐに抗議したい」と憤った。

 一方、沖縄防衛局は二十七日、在沖米海兵隊外交政策部(G5)と四軍調整官事務所に事実関係を照会していると説明。同日、同校を訪れ、監視カメラのビデオを入手。二十八日にもG5を訪問し、米軍関係者とともに映像を検証し、車両を特定する考えを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803281300_01.html

 

2008年3月28日(金) 朝刊 1面

「集団自決」訴訟きょう地裁判決

 慶良間諸島で起きた住民の「集団自決(強制集団死)」をめぐり、「沖縄ノート」などの著作で命令を出したと記され名誉を傷つけられているとして、旧日本軍の元戦隊長らが作家の大江健三郎氏と岩波書店に出版の差し止めなどを求めた訴訟の判決が二十八日午前、大阪地裁(深見敏正裁判長)で言い渡される。

 二〇〇五年八月の提訴から約二年七カ月。住民に「集団自決」を命じた事実はないと主張する元軍人らに、軍や戦隊長による強制と命令があったことは真実と、岩波側が反論してきた。沖縄戦の史実をめぐる争いに、大阪地裁がどのような判断を示すか注目される。

 訴えているのは、座間味島に駐屯していた海上挺進第一戦隊の隊長だった梅澤裕氏(91)と、渡嘉敷島の海上挺進第三戦隊の隊長だった故赤松嘉次氏の弟の秀一氏(75)。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803281300_03.html

 

2008年3月28日(金) 朝刊 28面

戦死した父と“再会”/形見の万年筆 壕で発見

 【糸満】沖縄戦で亡くなった父の名が刻印された万年筆が見つかったとの知らせを頼りに、北海道から二女の千葉郁子さん(68)らが沖縄入りし二十七日、糸満市宇江城にある発見場所の壕などを訪れた。終戦から六十三年を経て届いた形見の品を握り締め、「バイオリンが好きだった父」に思いをはせた。(与那嶺功)

 万年筆の刻銘を確かめた千葉さんは「父がそばに居るような気がして胸がいっぱい。家で待っている母に早く見せたい」と涙ぐんだ。

 万年筆は戦没者の遺骨収集を続けている修養団(本部・東京)メンバーが今年二月、日本兵を祭る「山雨の塔」地下の自然壕で見つけた。刻銘の「槙武男」から、所有者が北海道新得町出身と判明、千葉さんらの訪問につながった。

 壕内に入り「迎えに来ましたよ」と心で呼び掛けたという千葉さん。故郷の酒と水、お菓子を供えた。「暗く狭苦しくて息も詰まりそう。どうやって生きていたのかを思うと切なくなる」と表情を曇らせた。

 修養団沖縄支部の宮城英次会長から万年筆を受け取った、千葉さんは「本当にありがとうございました」と深々と頭を下げて感謝していた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803281300_04.html

 

2008年3月28日(金) 朝刊 2面

野党3党 改定案に調印/日米地位協定

 【東京】民主党の鳩山由紀夫幹事長、社民党の重野安正幹事長、国民新党の亀井久興幹事長は二十七日、国会内で会合を開き、三党で取りまとめた日米地位協定の改定案に調印し、正式に了承した。三党は三十一日以降に外務省などに改定を求めて要請する予定だ。また、政府に前向きな対応を促すため、野党が多数を占める参院を中心に、地位協定改定を求める国会決議を目指す動きも出ている。

 改定案は(1)基地外居住米軍関係者への外国人登録義務(2)被疑者の拘禁は原則日本の施設で行う(3)起訴前の身柄引き渡し要請に対する米軍の同意(4)施設返還時の環境汚染浄化は米国の責任(5)基地使用計画を八年ごとをめどに提出―などが柱となっている。

 県内で起きた米兵による暴行事件を受け、三党は実務レベルで協議を重ね、二十五日までに大筋で合意していた。

 調印後の記者会見で、鳩山幹事長は「住民の思いを受け止めた案。一刻も早く改定されるよう努力していきたい」と意欲を示した。

 重野幹事長も「対等の目線で沖縄が見られるよう、互いに協力する」と強調。亀井幹事長は「政府に受け入れてもらえるよう、努力していく」と述べた。


改定「必要ない」/外務省北米局長が答弁


 【東京】外務省の西宮伸一北米局長は二十七日の参院内閣委員会で、民主、社民、国民新の野党三党がまとめた日米地位協定の改定案について、「改正する必要があるとは考えていない。その時々の問題に、より機敏に対応していくためには、運用改善で対応していくことが合理的」と述べ、今後も運用改善で対応していくとの従来見解を繰り返した。糸数慶子氏(無所属)への答弁。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803281300_05.html

 

2008年3月28日(金) 朝刊 2面

シュワブ 射撃で火事/米軍演習場

 名護市の米軍キャンプ・シュワブのレンジ10付近で二十七日午後零時半ごろ、山火事が発生し、同日午後二時五十二分に鎮火した。沖縄防衛局から電話連絡を受けた県基地対策課が発表した。

 米軍所属のヘリコプター一機が消火を行った。沖縄防衛局によると、火災原因は実弾射撃訓練によるもので、焼失面積は明らかになっていない。

 また、金武町の米軍キャンプ・ハンセンで二十六日に発生した大規模な山火事の原因について、米軍から連絡を受けた沖縄防衛局は、廃弾処理によるものと発表した。

 在沖米海兵隊報道部は同日、沖縄タイムスに対し、出火原因を「訓練でなく、定期的に行うレンジのメンテナンス作業に伴うもの」と説明。米海兵隊消防が消火活動を行い、鎮火したのは二十七日午前十時二十五分だとした。正式な焼失範囲については、現段階で出せないとしている。

 同報道部は「この火災は海兵隊の演習場に制限されており、地元住民に危険は絶対にない。重大な損害はない」と述べた。

 山火事の原因が廃弾処理という説明について、伊芸区の池原政文区長は「廃弾処理がどんどん民間地に近づいている。(今年に入って)レンジ4で起きた前の二回の火災も、同じ爆発音が聞こえた。それらも廃弾処理ではないか。沖縄防衛局は米軍の発表をうのみにせず、独自で調査して住民に真実を伝えてほしい」と求めた。


     ◇     ◇     ◇     

伊芸区が抗議/演習場の撤去を要請


 金武町伊芸区の池原政文区長や同区行政委員会の登川松榮議長らは二十七日、沖縄防衛局と外務省沖縄事務所を訪れ、キャンプ・ハンセンのレンジ3付近で今月着工した米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)の小銃(ライフル)用射撃場建設の即時中止と、二十六日に同区周辺で発生した山火事などの演習被害に抗議し、同区に隣接する全演習場の即時撤去を要請した。

 沖縄防衛局の真部朗局長は「日米安保条約の下、新たな訓練施設や演習場は必要と認識しており、中止や撤去を要求することは難しい」と返答。米軍の存在や活動で影響を受けていることは承知している―と述べた上で、「生活環境に対する影響を最小限にするのが私どもの責務。努力が不十分であれば反省して取り組みたい」と理解を求めた。

 池原区長は、廃弾処理が廃弾処理場でなく、集落に近いレンジ4付近で行われているのではないかと指摘し、「窓ガラスが割れるような振動で、騒音も九〇デシベル以上。しっかり調べてほしい」と求めた。

 外務省沖縄事務所は田中賢治課長補佐が対応し、「レンジ3は構造上も安全性が確認できている」と述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803281300_06.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年3月28日朝刊)

[ハンセン山火事]

被害への丁寧な対応を

 米軍キャンプ・ハンセンで、演習に伴う山火事が多発している。二十六日午後に発生した山火事は、十時間あまりも燃え続け、一時は民間地の数百メートルまで火の手が迫ったという。

 鎮火後の火災現場は、見るからに痛々しい。青々とした若葉が失われ、黒く焼けただれた山肌は赤土がむき出しになっている。

 米軍、那覇防衛施設局(当時)、県の三者が本格的にハンセンの火災防止対策に乗り出したのは、三十年以上も前のことである。演習中、初期消火のためヘリを待機させたり、演習場内の火災多発地域に防火帯を設けたり、伊芸地区の水源かん養林への延焼を防ぐため境界に標識を設置したりした。

 だが、照明弾、えい光弾を使った訓練や爆破訓練、迫撃砲などの実弾射撃訓練を実施しているため、山火事そのものを防ぐのは難しい。

 山火事だけではない。ハンセンのレンジ3と呼ばれる演習区域では、米陸軍特殊部隊の小銃用射撃場建設も始まった。金武町議会は二十四日、施設建設に反対する決議を可決したばかりである。

 レンジ4にある都市型戦闘訓練施設(コンバットタウン)は、伊芸区の民家からおよそ三百メートルしか離れていないため、民間地域から離れた別の場所に移すことが決まっている。当初計画では三月末に移転工事が完了する予定であったが、大幅に遅れ、来年秋にずれ込む見通しだ。

 多発する山火事、新しい訓練施設の建設、都市型戦闘訓練施設の移設作業の遅れ、陸上自衛隊による共同使用の開始。およそ負担軽減とは正反対の事態が次から次に生起している現実を見過ごすことはできない。

 米軍は、ゲリラとの市街戦を想定した訓練も、非戦闘員救出訓練も、各種の火器を用いた実弾射撃訓練も、すべては、ハンセンで認められた通常の訓練であり、錬度維持のために欠かせない訓練、だと強調する。

 だが、地元住民はこうした訓練によって山火事、騒音、被弾、跳弾、赤土汚染などの被害を日常的に被っているのである。

 確かに、金武町、宜野座村、恩納村の三町村は、自衛隊の共同使用を受け入れる見返りに米軍再編交付金を受けることになったが、演習に伴う被害の発生まで認めたわけではない。

 防衛省や外務省は、こうした被害に慣れっこになって、ありきたりの対応で済ましている面がないかどうか、自己点検が必要だ。周辺住民の負担を軽減するため、政府には被害への丁寧な対応を求めたい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080328.html#no_2

 

琉球新報 社説

米軍基地火災 県民の命を危険にさらすな 2008年3月28日

 米軍被害が拡大し、歯止めがかからない。米兵犯罪に続き、26日には米軍キャンプ・ハンセンで、27日にはキャンプ・シュワブと基地内での火災が相次いでいる。県民の命を危険にさらす米軍に強く抗議したい。

 演習被害とみられる基地内火災だが、火災原因は「まだ報告がない」(県)ため不明だ。

 26日のハンセンの火災では、煙とすすが金武町伊芸区の集落にまで流れ込んでいる。一帯には焦げたにおいが漂っていたという。

 火災は午後1時すぎに発生し、米軍はヘリコプター2機を使い消火に当たったが、鎮火は午後11時54分。日没でヘリでの消火を断念した米軍は、地上からの消火を続け、ようやく消し止めている。夕闇の中で、燃えさかる火の手に、周辺住民は不安を募らせた。

 その鎮火から半日もたたないうちに、27日正午すぎ、今度はキャンプ・シュワブのレンジ10付近での火災である。米軍はヘリ1機を派遣し、消火に当たり、午後3時前に鎮火している。

 米軍基地内の火災は、昨年は20件と、前年の8件から倍増している。火災原因は「実弾演習によるものが多い」(県)というが、詳細は米軍の報告を待つしかない。

 県は火災発生のたびに原因究明と再発防止、住民に不安を与えないよう抗議と申し入れを繰り返してきた。だが、事態は改善どころか今年に入ってむしろ悪化している。

 基地内火災の怖さは、消火活動に県や基地所在自治体がかかわれないことだ。

 靴の上からかゆい足をかく、まさに隔靴掻痒(かっかそうよう)のじれったさがあり、命を危険にさらす火災を、黙って眺めているしかない悔しさがある。

 これも日米地位協定が定める米軍の強大な「管理権」(三条)によるものである。

 住民の命が危険にさらされる中で、繰り返される基地内火災の消火活動に県や当該自治体が関与できない。国民を守るはずの「日米安保」や「米軍駐留」が、むしろ国民を危険にさらしている。日米両政府には再発防止はもちろんだが、納得のいく説明を求めたい。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-130575-storytopic-11.html

 

琉球新報 社説

秘密漏えい 知る権利脅かす揺さぶり 2008年3月28日

 国民の「知る権利」と「報道の自由」が危機にさらされている。「防衛秘密漏えい」の自衛隊法違反での一等空佐の書類送検だが、防衛省の狙いは、新聞記者への情報提供の阻止。防衛秘密を盾に「知る権利」を脅かす行為である。警戒が必要だ。

 陸上自衛隊警務隊は、防衛省情報本部の課長だった一等空佐を自衛隊法違反容疑で26日までに東京地検に書類送検している。

 南シナ海で起きた中国潜水艦の事故情報を2005年5月、読売新聞記者に漏らしたことが「防衛秘密漏えい」に当たるとしている。

 防衛秘密漏えい罪は、01年の自衛隊法改正で新設された。守秘義務違反は1年以下の懲役、または3万円以下の罰金だが、防衛秘密漏えい罪は「5年以下の懲役」と罰則が重くなっている。

 しかも自衛隊員にとどまらず、他の国家公務員、民間業者にまで対象が拡大されている。

 今回の立件は、取材を受けた公務員の刑事責任を追及する従来にはない極めて異例の措置だ。

 識者は「今後、メディアや外部に漏らすとこうなるぞ」との「組織内部に対する脅しのようなもので、情報公開の壁となる」と警鐘を鳴らしている。

 知る権利に直結する報道機関への情報提供を、「スパイ事件並みに摘発し、“見せしめ”にする意図も見え隠れしている」との指摘もある。

 今回は「記者」の立件は見送られたが、取材記者もいつ「教唆」で立件されるとも限らない。言論封殺と思想弾圧を行った戦前の「治安維持法」を想起させる脅威である。

 一等空佐が漏らしたとされる日本近海での中国潜水艦の事故の情報は、果たして防衛秘密に当たるのであろうか。むしろ国民が知っておくべき内容である。秘密指定の基準もあいまいで、「何でも秘密」の防衛省の隠ぺい体質も見え隠れする。

 「防衛秘密」は07年6月末現在で約9千件あり、ほかに守秘義務を課されるいわゆる「省秘」は9万9千件にも上る。

 米国から供与された装備品などの性能に関する事項は「特別防衛秘密」とされ、一般国民も含め探知・収集、未遂犯も対象で、最高「10年以下の懲役」である。

 刑罰の重さ、知る権利の確保の観点からは、防衛秘密の指定基準の明確化と第三者機関による指定基準や中身の監査も必要であろう。

 日米両政府は、昨年「日米軍事情報包括保護協定」を締結。秘密保全の新法制定の動きもある。

 「知る権利の侵害に対する国民の鈍感さ」に、強い危機感を抱く識者もいる。「新たな戦前」を招かないためにも、国民による防衛省の監視体制を強化したい。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-130576-storytopic-11.html

 

2008年3月28日(金) 夕刊 1面 

元隊長の請求棄却/「集団自決」訴訟

軍命に真実相当性/大阪地裁「深く関わった」

 沖縄戦時に座間味、渡嘉敷島で起きた「集団自決(強制集団死)」は戦隊長が命じたとする本の記述をめぐる「集団自決」訴訟の判決が二十八日午前、大阪地裁で言い渡された。深見敏正裁判長は、大江健三郎氏(73)の「沖縄ノート」について、座間味島の戦隊長だった梅澤裕氏(91)と渡嘉敷島の戦隊長だった故赤松嘉次氏への名誉棄損の成立を認めず、原告の請求を棄却した。梅澤氏が住民に「集団自決(強制集団死)」を命じたとする「太平洋戦争」(故家永三郎著)の記述にも真実相当性を認め、原告梅澤氏の訴えを退けた。原告側敗訴の判決で、梅澤氏らは控訴する。

 判決は、梅澤氏の自決命令について、「自決命令があった」などとする体験者の証言を「実体験に基づく話として具体性、迫真性を有するもの」と認め、自決に軍所有の貴重な武器だった手榴弾が使われたことなどを指摘。「各書籍の記述どおりの自決命令」をそのまま認めることには「伝達経路等が判然としないため、躊躇を禁じえない」としたものの、「梅澤氏が集団自決に関与したものと推認できる」とした。

 また、赤松氏の自決命令について、赤松氏がスパイ容疑で住民を処刑したことを指摘。米軍上陸後、北山陣地近くに集合した住民の元へ手榴弾を持った防衛隊員が現れた行動を「赤松氏が容認したとすれば、赤松氏が自決命令を発したことが一因ではないかと考えざるを得ない」とした。

 さらに、「集団自決」に関する学説状況や「集団自決」への日本軍による強制を示す記述を認めてきた二〇〇五年度までの教科書検定の対応、大江氏、家永氏の取材状況などから「真実であると信じるについて相当な理由がある」と両著の記述の正当性を認め、慶良間諸島での日本軍の駐留状況などからも「『集団自決』については日本軍が深く関わったものと認める」とした。

 一方、「『集団自決には軍命があった』という住民の話は、遺族年金をもらうための捏造」などとした、原告側証人の証言や文書は「証人の経歴や文書作成の経緯に照らして採用できない」とした。

 沖縄戦での「集団自決」に対する日本軍の強制を示す記述を、高校の日本史教科書から削除させた二〇〇六年度の教科書検定で、文部科学省が根拠の一つに挙げており、今後の同省の対応が注目される。


     ◇     ◇     ◇     

知事、妥当と認識/「体験伝えていくべき」


 仲井真弘多知事は二十八日午前、「集団自決」訴訟判決で原告側の請求が棄却されたことについて、「正確には判決の中身を読ませていただきたい」とした上で、「やっぱりそういうものだったのか」と述べ、判決が妥当との認識を示した。

 「集団自決(強制集団死)」に関しては、「証言されている一人一人は大変な勇気を持って表現されている。痛恨の体験をされた人々の気持ち、その社会的背景を含めて、きちっと伝えていくべきだと思う」との見解を述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803281700_01.html

 

2008年3月28日(金) 夕刊 7面

「新証言 聞いてくれた」/大江さん冷静に評価

 六十三年前の沖縄戦。慶良間諸島で起きた住民の「集団自決(強制集団死)」への軍関与の史実について二十八日、司法が踏み込んだ判断を示した。被告の大江健三郎さんは、著書を「しっかり読んで下さった」と評価。被告側支援者らは、涙を浮かべて喜び、元戦隊長ら原告は、顔をこわばらせた。被告側を支援してきた県内の関係者らは「判決は当然。ほっとした」「次は教科書の記述復活だ」と、一様に歓迎した。悲劇の舞台の一つ渡嘉敷島は、くしくも六十三回目の「あの日」。遺族らが犠牲者の名を刻んだ白玉之塔に手を合わせた。

 「裁判所が私の『沖縄ノート』を正確に読んで下さった」「新しい証人の声をよく聞いてくれた」。判決の言い渡し後、大阪司法記者クラブで開かれた会見。作家の大江健三郎さん(73)は原告側の訴えを一蹴した司法判断について、落ち着いた表情でよどみなく言葉を連ねた。

 「個人の名を挙げて、彼を罪人としたり、悪人としたりしていない」と著書の記述が元戦隊長個人を誹謗・中傷したものではないとあらためて強調した。

 また、「裁判の背景に大きな政治的な動きがあった」と指摘。二〇〇三年の有事法制の成立、〇五年の「集団自決」訴訟の提起、〇七年の教科書検定で「集団自決」の記述から軍の強制性が削除された問題が、一連の流れの中で起きたと述べた。

 一方、昨年九月に宜野湾市で開かれた教科書検定意見の撤回を求める県民大会について、「あの十一万人の集会が本土の人間に、この問題がどのようなものであるか知らしめた」と語った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803281700_02.html

 

2008年3月28日(金) 夕刊 7面

検定撤回 決意新た/体験者ら「歴史正す一歩」

 渡嘉敷島での体験者吉川嘉勝さんは(69)は「県民としてほっとしている。渡嘉敷、座間味だけでなく、県民大会など県民全体が団結して行動し、発言してきた結果だ。しかし原告側は控訴するだろう。予断を許さない。引き続き沖縄戦の真実を全国に訴えていきたい」と語った。吉川さんは多くの島民の犠牲者の名前を刻んだ渡嘉敷島の白玉之塔に手を合わせ、裁判結果を静かに報告した。

 座間味島で「集団自決」を体験した宮城恒彦さん(74)は「請求棄却は当然。被告の訴えが認められなければ大変なことになる。座間味の人たちが体験した、地獄絵の事実は簡単に曲げられない。この判決は、歴史を正すための一歩になる」と評価した。

 琉球大学の高嶋伸欣教授は「積極的に踏み込んだ判決で、評価できる。裁判所も県民大会などに表れた沖縄の声を聞かざるを得なくなった」と指摘。「文科省の検定意見の不当性もますます明白になり、あらためて撤回と謝罪を求めていく」と強調した。


     ◇     ◇     ◇     

犠牲の島民思い ひと時も忘れず/渡嘉敷


 【渡嘉敷】沖縄戦で住民の「集団自決(強制集団死)」が起きた渡嘉敷島で二十八日、慰霊祭が行われた。六十三年前のこの日、集団自決で住民三百二十九人、島全体では約五百人の命が失われた。犠牲者を祭る白玉之塔には早朝から遺族や住民らが参拝に訪れ、御霊の冥福を祈った。

 「請求棄却」の判決について小嶺安雄村長は「村内でもいろんな意見を持つ住民がおり、村としての公式なコメントは控えさえていただきたい」と答えた。

 娘二人を亡くした北村登美さん(96)は「六十三年間、ひとときも忘れたことはない。犠牲になった家族や島民のことを思うと涙をこらえることができない」と語った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803281700_03.html

 

2008年3月28日(金) 夕刊 1面

米軍車両侵入 防止策要請へ/知事が批判

 仲井真弘多知事は、米軍関係とみられる車両が県立沖縄高等養護学校(うるま市)敷地に無断侵入したことについて、二十八日の定例会見で「どうしてこういうことが起こるのか。きちっと詰めれば解決できる話だ」と述べ、近く在沖米軍トップのリチャード・ジルマー四軍調整官に防止策を申し入れる考えを示した。

 仲井真知事は二月十日の米兵暴行事件以降、米軍や米軍関係者による事件・事故が十八件起こっていることを指摘。「綱紀、仕事の仕方、組織の問題などいろいろあるだろうと想像させられる。軍隊ではいいんだという話はあり得ない」と米軍の対応を批判した。


     ◇     ◇     ◇     

うるま議会 現場視察/臨時議会で抗議決議へ


 【うるま】うるま市田場の県立沖縄高等養護学校(塩浜康男校長・生徒百二十四人)内に米軍関係とみられる車両が侵入した問題で、うるま市議会の島袋俊夫議長らは二十八日、同校を訪れ、現場を検証、塩浜校長からも状況を聞いた。同議会は基地対策特別委員会を招集し、抗議行動などを協議。うるま市側も抗議行動を検討している。

 島袋議長は「米軍は昨年の車両侵入で抗議した際に徹底した指導を約束した。短期間に連続して発生しており由々しき事態だ」と怒りをあらわにした。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803281700_04.html

県民大会、米軍へ6000人抗議 地位協定改定案、野党3党が合意など  沖縄タイムス関連記事・社説、琉球新報 社説(3月23日から25日)

2008年3月23日(日) 朝刊 1・29面

沖縄の怒り全国に訴え/きょう午後 県民大会

大会実行委決議案確認/米兵事件続発

 「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」(主催・同実行委員会)が、二十三日午後二時から北谷町の北谷公園野球場前広場(雨天時は同公園屋内運動場=北谷ドーム)で開かれる。

 大会は宮古島、石垣市でも同時開催される。

 二十二日、大会を呼び掛けた六団体による幹事会が那覇市の県教育会館で行われ、日米地位協定の抜本改定などを要求する決議案やプログラムを最終確認した。

 関係者らは「県民の痛みと怒りを全国へ広げる大会にしたい」と強調した。

 大会では、開催地の野国昌春北谷町長のほか、東門美津子沖縄市長、翁長雄志那覇市長が登壇し、あいさつする。

 三市町長を含め少なくとも十三市町村長が参加する予定。二十二日までに、市民団体や労組など九十五団体から大会の趣旨に賛同する協賛金が集まった。

 大会決議案は、戦闘機、ヘリの墜落事故や爆音、さらに女性への性暴力事件が起きた今年二月以降も凶悪事件が頻発していることを指摘し、「基地被害により県民の人権が侵害されている」と厳しく批判。

 その上で、日米両政府に対し、(1)日米地位協定の抜本改正(2)米軍による人権侵害の根絶(3)実効性ある再発防止策(4)米軍基地の整理・縮小と兵力削減―の四項目を求める内容となっている。

 また、女性団体や教育、労働団体、地域住民代表、性暴力の被害者らが壇上に立ち、それぞれの立場から抗議の意思を表明する。

 大会実行委は今月八日に正式発足。超党派の大会を目指し県議会へ要請を繰り返したが、自民党県連は組織参加を見送り、仲井真弘多県知事も二十一日、不参加を表明した。

 実行委員長の玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会会長は「米兵による事件の背後に人権問題がある。県民の痛みと怒りを全国へ広げていける大会にしたい」と決意を述べた。

 実行委は大会終了後、四月中旬をめどに上京し要請行動を行う予定。


     ◇     ◇     ◇     

犯罪被害 共闘誓う/神奈川の事件当事者


 「基地がなければ起こらない事件で、米軍に対する思いは私たちも同じ。一緒に闘っていると感じたい」。在日米軍による犯罪・事故の被害者の会の山崎正則さん(60)=横須賀市=と椎葉寅生さん(69)=横浜市=が、「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」に参加するため二十二日、来県した。山崎さんは、米兵の犯行で妻を失った。椎葉さんは米軍戦闘機墜落事故の被害者だ。沖縄と基地への思いを共有するために二十三日、二人は北谷公園に向かう。

 「米軍は再発防止を何度も言うが事件は減らない。妻の事件の時も『二度とこのようなことは起こさない』と言い、外出禁止などやったが何にもならない」。山崎さんは、不満を一気に話した。

 二〇〇六年一月、山崎さんの妻は、金目当ての米空母乗員に惨殺された。山崎さんは同年十一月、日本政府や米軍の管理責任を問い損害賠償を求める裁判を起こし、現在も係争中だ。「私だって大変だった。被害者が声を出すのは勇気のいること」と被害者を思いやり、「国の政策で基地を置くなら、基地から出すな。米軍任せでは駄目だ」と、国の責任を厳しく問う。

 椎葉さんは一九七七年、自宅近くに米軍機が墜落、自宅を失い妻も全身にやけどを負った。「横須賀でも、沖縄と同じように、次から次へと事件や事故が起こっている。どこの県民というのではなく、同じような被害を受けている者として、一緒に闘いたい。被害者がもっと腹を立てて、怒らないといけない」と話した。

 「私たちのような被害者を二度とつくらないでほしい。不幸にして被害者になった人がいたら、やれるだけのことをしてあげたい」。二人は、昨年六月に二人の仲間と同会を立ち上げた。「沖縄で、多くの人に勇気をもらって帰り、向こうでまた頑張りたい。それが、また沖縄の人たちを元気づけることになればと思う」。二人は静かに、参加し連帯することの意義を話した。


「被害者名」記し批判/産経・世界日報にチラシ


 二十二日に県内で宅配された産経新聞と世界日報の折り込みチラシに、米兵による暴行事件の被害者の実名とも読める氏名を記載して被害者を批判する文書が含まれていたことが分かった。チラシの折り込みを依頼した国旗国歌推進県民会議の惠忠久会長は「氏名を記したのは軽率だったかもしれない」と話し、世界日報は販売店にチラシの回収を命じた。

 チラシには被害者を批判する文章のほか、「県民大会を開かせるな、自民党、公明党は絶対に参加すべきではない」などとした惠会長の主張がA4紙二枚に記されている。

 惠会長は、数百部を同日の両紙朝刊に折り込むよう販売店に依頼したという。記載された名前は実名ではないが、惠会長は実名かどうか把握しておらず、「チラシはある文章を引用して作ったが、名前を記すことの意味はよく考えていなかった。被害者の人権を指摘されれば多少、軽率だったかもしれない」と述べた。

 沖縄タイムスの取材に対し、世界日報の黒木正博編集局長は「同日夕方ごろ、沖縄の販売店から報告を受けた。不穏当な表現だと考え、すぐに回収を命じた」と話した。

 産経新聞社大阪本社の広報担当は「折り込み広告は販売店が判断して入れている。公序良俗等に反するものは控えるよう販売店には言っている。内容の確認をしていないが、もし事実なら遺憾に思う」としている。

 県人権協会の永吉盛元事務局長は「被害者である、という立場をまったく理解していない。本当に実名を出していたとしたら、甚だしい人権侵害で悪意に満ちた態度だ」と憤った。「言論の自由があると言うかもしれないが、私たちの社会で到底許されるものではない」と述べ、強い抗議が必要との認識を示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803231300_01.html

 

2008年3月23日(日) 朝刊 28面

「集団自決」跡を見学/1フィート運動の会

 沖縄戦記録フィルム1フィート運動の会(福地曠昭代表)は二十二日、「集団自決(強制集団死)」を現地で学ぼうと、渡嘉敷島平和ツアーを行った。同会設立二十五周年記念企画の一環。参加者十二人は、「集団自決」体験者吉川嘉勝さんの案内で同島内を回り、「集団自決」跡地、日本軍本部跡地、白玉の塔、慰安所だった建物などを見学した。

 「集団自決」跡碑の前では、吉川さんが当時の状況を説明。命令がなければ自決場に向かわなかったこと、「天皇陛下万歳」の声で惨劇が始まったこと、母親の言葉でその場から逃げだしたことなどを話した。参加者は、沢に下り現場まで歩き、当時の様子に思いをめぐらせた。

 福地代表は「実際の場で話を聞くと、わずか一キロほど離れた所の地獄のような騒ぎを日本軍が気付かなかったわけがない、とつくづく思う」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803231300_11.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年3月23日朝刊)

[きょう県民大会]

相次ぐ事件もはや限界

 米兵による事件が沖縄だけでなく全国の米軍基地所在地で相次いでいる。

 二〇〇六年一月、神奈川県横須賀市で日本人女性が殺害され、米空母キティーホークの乗組員が逮捕された。容疑者が犯行を認めた直後の一月、北谷町のキャンプ瑞慶覧ではタクシー強盗事件が起きた。事件の連鎖は今年に入ってからも顕著だ。

 一月に沖縄市で起きた米海兵隊員二人によるタクシー強盗致傷、二月の米兵による女性暴行、名護市辺野古の民家への住居侵入。横須賀市では三月十九日、タクシー運転手が刺殺されるという事件が起きた。

 車内に残されていたクレジットカードが米兵のものと判明したため、米軍は、この米兵を脱走罪で拘束し、事件との関係を調べている。

 夜間外出制限、隊員の着任研修、繁華街の巡回。米軍はさまざまな再発防止策を打ち出してきたが、効果をあげているとは言い難い。

 アフガニスタンやイラクでの戦場経験と、帰還後の犯罪の関連性を指摘する声もある。

 米国防総省の報告書によると、〇六年十月から〇七年九月までの米軍兵士による性暴力事件は二千六百八十八件に達し、このうち約60%がレイプ事件だった。

 多発する米兵犯罪が住民の安全を脅かし、不安に陥れている。

 蛮行を許してはならない。「命と尊厳」を守るため声を上げよう―そんな切羽詰まった思いから、二十三日、「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」が開かれる。

 大会参加をめぐって態度を保留していた仲井真弘多知事は、大会前々日になって「被害者への配慮」などを理由に参加を見送ることを決めた。

 県議会与党のうち自民党県連はいち早く不参加を表明。公明党県本は参加する方針を明らかにした。与党の中で態度が割れた。

 今回のようなケースでは、県知事や政党が県民大会に参加することも、不参加を表明することも、ともに政治的意思表示になる。不参加という名の政治的意思表示は、沈静化には役立っても、問題解決を促す力にはなり得ないだろう。

 地位協定の抜本的見直しに向け訪米を検討していると言いながら、その一方で、大会に参加しないというのは、なんともちぐはぐだ。

 深刻な被害を受けている地域がそれぞれ声を上げなければ、事態はいつまでたっても改善されない。

 県民大会をその第一歩と位置づけたい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080323.html#no_1

 

琉球新報 社説

きょう県民大会 知事の不参加は残念だ 2008年3月23日

 1995年の県民大会から、沖縄における米兵による事件・事故は減ったのだろうか。何も変わらない、というのが現状ではないだろうか。今回の女子中学生に対する暴行事件を見ても、過去の教訓が生かされているとは到底、言い難い。

 日米両政府、米軍とも、やることなすこと、同じことの繰り返しだ。事件が起きるたびに「綱紀粛正」「兵士教育の徹底」など再発防止策を掲げるが、どれだけの効果があったのだろう。「その場しのぎ」「ほとぼりが冷めるのを待つ」。多くの県民が両政府の態度をこう見ているとしても仕方がないのではないか。

 もちろん、今回も軍属を含む外出禁止措置など、いくつかの再発防止策が取られた。ただ、その後も次から次へと米兵絡みの事件が発生したのも事実だ。小手先の対処策では、もはやどうにもならないことは、過去の事例を見ても明らかだろう。両政府は基本的なところで現実から目をそらしているとしか思えない。

 当局がそうであれば、われわれにできることは、抗議の声を上げ続けていくことだ。そうすることで、このような社会を変えていくしかない。何もしないのは現状を容認することにしかならない。

 きょう開かれる「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」(同実行委主催)に、仲井真弘多知事が不参加を決めた。被害者への配慮、を理由の一つに挙げている。為政者として、当然の気配りだろう。意思を固めるまで散々悩んだことと思う。

 しかし、その判断はやはり、残念としか言いようがない。米兵によるこの種の犯罪で、表面化するのは氷山の一角だという指摘もある。声も上げられない被害者。そんな被害者のためにも、むしろ知事が先頭に立ち、代わって抗議の声を上げるべきではないのか。知事が大会に参加することで、被害者が傷つくとは思えない。

 大会のスローガンは再発防止策の徹底はもちろん、日米地位協定の改定、基地の整理縮小などであり、「私が言っているのとほとんど同じ」(仲井真知事)。そうであるなら、なおさら知事は参加の道を選ぶべきだった。知事は夏にも訪米し、協定改定など直接米国政府に訴えるという。大会不参加は、その決意のトーンダウンを印象付けることにならないか。

 玉寄哲永実行委員長は「知事の参加の有無で、大会の意義は変わらない。今回は県民の人権を取り戻す闘い」と語る。その通りだろう。参加団体の数の多寡、超党派かどうか。これらで、大会の性格が左右されるはずもない。協定改定から基地の整理縮小、さらには基地の撤去まで。一人一人が愚直に声を上げ続けていくしかない。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-130390-storytopic-11.html

 

2008年3月24日(月) 朝刊 1面

米軍へ6000人抗議/地位協定の改定訴え

宮古・石垣でも600人

 「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」(主催・同実行委員会)が二十三日、北谷町の北谷公園野球場前広場で開かれた。激しい雨の中、女性団体や教育関係、労組などの市民団体、地域住民ら六千人(主催者発表)が参加。続発する米兵犯罪や基地被害を厳しく批判し、日米地位協定の抜本改定などを求める大会決議を採択した。宮古島市、石垣市でも同時開催され、六百人が怒りの声を上げた。

 県民大会に呼応し、東京都内でもデモ行進などが行われ、米兵による事件・事故に抗議した。

 実行委員長の玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会会長は「この大会は人権を保障させる運動の第一歩になる。沖縄の怒りを日米政府へぶつけよう」と呼び掛けた。

 二〇〇二年に神奈川県で米兵に暴行された被害女性が登壇。「被害者として黙っていられない。心の傷は残っているが、この場に来て私は一人じゃないと思えた」と語り掛けた。会場は静まり返った。

 開催地の野国昌春北谷町長、東門美津子沖縄市長、翁長雄志那覇市長ら本島中部を中心に十市町村長が出席したほか、国会議員や県議らも参加した。

 大会決議は、一九九五年の米兵暴行事件後に約束された再発防止や基地の整理・縮小が守られていないことを批判。日米両政府に(1)日米地位協定の抜本改正(2)米軍による県民の人権侵害を根絶するため政府が行動を起こすこと(3)米軍人への厳しい綱紀粛正と実効性ある再発防止策(4)基地の一層の整理・縮小と兵力削減―の四項目を要求した。

 実行委は、構成九十九団体の代表らに呼び掛け要請団を結成し、四月十日をめどに、首相官邸や衆参両院議長、外務省、防衛省、在日米大使館に要請行動する予定。


[ことば]


 地位協定改定要求 1995年11月、大田昌秀知事は10項目の地位協定見直しを政府に要求。その後、米軍が地位協定に基づく「施設間の移動」と主張していた民間地域での行軍を禁止、被害者補償に備え米兵の全マイカーを任意自動車保険に加入させることなどが実現したが、多くは稲嶺恵一、仲井真弘多知事の代へ持ち越された。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803241300_01.html

 

2008年3月24日(月) 朝刊 22・23面

「安心を返して」/「涙雨」静かな怒り

 「沖縄に、安全で安心な暮らしを返してほしい」。二十三日、北谷町の北谷公園野球場前広場であった県民大会。県民が繰り返し訴え続けてきた願いを胸に、強い雨と風の中、約六千人(主催者発表)が集まった。米兵による犯罪の被害者らの怒りや悲しみを込めた訴えに会場は静まり、涙する人も。後を絶たない米兵の事件・事故と、防げない日米両政府に抗議と怒りが広がった。

 大会開会の一時間ほど前から勢いを増した雨に強い風。参加者は傘を差し、雨がっぱを着込んでも吹き込む雨や寒さに耐えながら、アスファルトの広場やぬかるんだ芝生、雨宿りした野球場の軒下から舞台に視線を注いだ。

 「県知事は地位協定の抜本的な改定を求め米国に行くのに、県民の声を反映させることもなく手ぶらで行くのか」。大会実行委の玉寄哲永委員長は、参加しなかった仲井真弘多知事や自民党県連の姿勢にいつになく怒りをあらわにした。

 翁長雄志那覇市長は穏やかな口調ながら、地位協定見直しに消極的な町村信孝官房長官や日本政府の対応に「どこの国の官房長官かと思う」などと、厳しい言葉を重ねた。

 高まる檀上のボルテージに拍手や指笛、「そうだ」の掛け声が飛んだ。

 神奈川県内で米海軍所属の米兵に性的暴行を受けたオーストラリア出身のジェーンさん(仮名)が話し始めると、会場は静けさに覆われた。

 米兵に暴行を受け、心に一生の傷を負ったこと。「助けてくれる」と思った日本政府が捜査でも裁判でも助けてくれなかったことを語り、「私は性犯罪被害者です。私は恥ずかしくない。私は悪くないから」、「何も悪くない沖縄、何も悪くない私」と訴えた。

 率直に体験や気持ちを語るジェーンさんの言葉に、参加者はうつむいてじっと聴き入ったり、まぶたを手でぬぐったりした。

 「平和のための行動を進めていきましょう」。

 ジェーンさんの訴えに応じるように、地位協定の抜本的見直しや在沖米軍基地の整理・縮小の促進などを求める六千人の「ガンバロー」のこぶしが、雨空へ力強く突き上げられた。


     ◇     ◇     ◇     

勇気の訴え共鳴/性暴力被害者・ジェーンさん


 「性暴力の被害者として、黙っていられない」。二〇〇四年に神奈川県内で米海軍横須賀基地所属の米兵に暴行されたジェーンさん(仮名、四十代)は、犯罪を問うため闘ってきた六年間の思いを語った。訴えは、六千人に染み入った。

 オーストラリア出身のジェーンさんは来日三十年で東京に在住。加害者の米兵相手に民事訴訟を提起、東京地裁は賠償金の支払いを命じたが、米兵は審理中に帰国し行方知れずに。

 「暴行されたとき、殺された方がましだと思った。何年たっても忘れられない」。帽子にサングラスで登壇したジェーンさん。時折叫ぶように語った。

 二月の暴行事件後のライス米国務長官来日に触れ「きちんと謝罪するというなら、加害者の米兵を日本に戻して」と訴えた。

 大会参加に葛藤もあった。自分に恥ずべきことはないとの信念と、顔や名前を隠して登壇することへの悩み。小学生の息子に「家族の名前を出していい? ママのことでいじめがあるかも知れないよ」と尋ねてみた。息子は「大丈夫。お母さんは何も悪くない。僕が守ってあげる」。涙が止まらなかったという。

 ずっと一人で闘ってきたジェーンさんが、日米政府、警察から掛けてほしかった言葉だった。「悪いものは悪い、正しいものは正しい」。訴え続ける勇気になった。

 大会後、壇上のジェーンさんのもとに、女性が駆け寄り、握手を求めた。「自分もずっと苦しんできた」と打ち明け「今日から強く生きていきたい」と語ったという。「涙が出た。つないだ手を放したくなかった」

 「私たちの活動を世界が注目している。今日、私は一人ではないという気持ちになれた。一緒にやっていきましょう」。そう締めくくったジェーンさんを温かい拍手が包んだ。


「声上げ日米動かす」/宮古・八重山でも集会


 【宮古島・八重山】米兵による事件・事故に抗議する宮古集会と、八重山郡民大会が二十三日、宮古教育会館、石垣市役所前広場でそれぞれ開かれ、日米地位協定の抜本改正などを求める決議案を採択した。

 宮古集会(主催・同実行委)には二百八十人(主催者発表)が参加。実行委員長の伊志嶺亮宮古島市長は、一九九五年の県民大会以後も米兵による暴行事件が起こっているとし、「われわれの声を日米両政府に届けるよう、宮古からも訴えていきたい」と述べた。

 下地昌明多良間村長は強い憤りを示し「米軍の再発防止策は不十分だ」と批判。宮古島市婦人連合会の下地正子会長は「米軍基地を子や孫の世代に残してはいけない」と訴えた。

 八重山郡民大会(主催・同実行委員会主催)には約三百五十人が結集。実行委員長の本底充連合沖縄八重山地域協議会議長は「一人一人の怒りを大きなうねりに、日米両政府を動かそう」と強調。大浜長照石垣市長は「基地があるから米兵の事件・事故が起きる。根底から考える必要がある」、大盛武竹富町長は「日米両政府は再発防止の具体策を示すべきだ」と述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803241300_02.html

 

2008年3月24日(月) 朝刊 3面

知事不在 批判も/県、協定改定に重点

 「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」は約六千人(主催者発表)が参加したが、仲井真弘多知事や自民党県連は参加せず、「超党派」の集会とはならなかった。県は同大会の意義を評価しつつ、与党を中心に日米地位協定の抜本的改正に取り組む姿勢を強調。一方、政府は知事の不参加などを理由に「これまでの県民大会とは重みが違う」と冷静に受け止めている。

 県民大会に約六千人が参加したことについて県首脳は「ある程度のインパクトはある。特に日米地位協定の抜本的改正については県民の思いが強い」と評価。

 日米地位協定の改正は県も最大の政治課題に挙げる。だが、大会の主催者あいさつでは、参加を見送った自民党などが厳しく批判された。

 別の県幹部は「参加しなかったことで、県民から『知事は何をしているのか』と言われかねない」と指摘。「地位協定改定に向けた具体的なプランを早めに打ち出す必要があるだろう」と話す。

 仲井真知事は今秋に訪米を予定。自民党県連も訪米前の県民大会開催を検討している。県幹部は「自民党を中心に超党派で大会を開き、県選出の与党国会議員とも連携しながら進めていかなければならない」と全県を網羅した運動の必要性を強調する。

 知事周辺は「政府が『運用改善』を繰り返すのは、政府自身が現状に問題があると認識しているからだ」と指摘する。「理念的な改正案でなく、日米両政府がテーブルに着くような実態に即した改正案に踏み込む必要がある」と今後の県の方向性を示唆した。


県民の思い強い

仲里副知事


 仲井真知事は大会参加を見送ったものの、仲里全輝副知事が会場に姿を見せた。「あんまり少ないとアピールにならない。どういう状況か気になった」と説明した仲里副知事。「雨が降る中、傘やかっぱ姿で六千人参加したというのは、それだけ県民の思いが強いということ。日米両政府も米軍当局もしっかり評価するべきだ」との認識を示した。

 日米地位協定の改正などを掲げたスローガンを「実行委員会は最大公約数的な県民の立場で整理しており、高く評価する」と話す。

 だが、知事が参加を見送った経緯に触れ「県民大会というには参加団体が網羅されていなかった。参加できる条件が整わなかったことは残念だった」と述べた。


     ◇     ◇     ◇     

政府、影響力を疑問視

「不参加で重み変わった」


 【東京】二十三日の県民大会を受け、政府内には「しっかり受け止める」と一定の配慮を示す声がある一方、主催者発表六千人の参加者数や、仲井真弘多知事らの不参加を理由に挙げ、「重みが違ってきた」と、基地問題や日米地位協定の改定問題など、日米間の懸案事項に対する影響は小さいとの見方が支配的だ。

 ある防衛省幹部は、大会決議を尊重する姿勢を示しつつ、仲井真知事や県選出・出身の自民党国会議員らが参加を見合わせたことに、「知事らの不参加で重みが変わった。こちら(政府)の受け止め方も変わる」と、深刻な事態は避けられたとの認識を示した。

 野党の日米地位協定改定案策定など、協定改定をめぐる論議が盛り上がりつつある中、別の関係者も知事や自民党県連の欠席が大会の影響力を弱めたとの考え方で、「誰に言われても、地位協定は変えられない」と、協定改定に対する政府方針に変更がないことを強調した。

 また、ある内閣府幹部は、「よく相談して超党派体制が取れるようにした方が良かったが、主催者側が急ぎ過ぎた」と指摘。協定見直し決議も「今回の事件との直接的な因果関係は弱い。(政府内には)何で協定の話になるのか、という思いはある」と疑問を呈した。


東京でも同時150人抗議集会


 【東京】米兵事件に抗議する県民大会に呼応する緊急行動集会(主催・同実行委)が二十三日、都内であり、約百五十人が「米兵による性暴力を許さない」などと憤りの声を上げた。デモ行進では「基地ある限り安心安全な沖縄はない」と訴えた。一方、米軍北部訓練場のヘリパッド移設に反対する東村高江区の住民らを支援するイベントも中野駅北口広場で開催した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803241300_03.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年3月24日朝刊)

[3・23県民大会]

尊厳をかけた問い掛け


被害者「私は悪くない」

 戦後も六十二年が過ぎ、沖縄の人々はいや応なしに米軍基地との共存を強いられてきた。おびただしい米兵による犯罪、数え上げればきりがない。

 北谷公園野球場前広場で開催された「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」(主催・同実行委員会)では、米軍人らによる凶悪事件を糾弾する怒りの声が広がった。

 悪天候にもかかわらず、大会には約六千人(主催者発表)が参加。肌寒い中で参加者は傘やかっぱで強い雨をしのぎ、熱気を帯びた大会となった。

 今回の県民大会では、神奈川県で米海軍所属の米兵に暴行を受けた被害者の肉声が初めて響き渡った。

 「私は性犯罪の被害者。私は恥ずかしいことありません。私は悪くない」

 オーストラリア人のジェーンさん(仮名)はPTSD(心的外傷後ストレス障害)にさいなまれながらも、黙ってはいられないと沖縄に足を運んだという。被害者の生の悲痛な叫びは大会参加者の心を揺さぶった。

 一九九五年の10・21県民総決起大会の際は米兵による暴行事件に怒った約八万五千人の県民らが結集し、米軍人の綱紀粛正、日米地位協定の見直し、基地の整理縮小―を求めた。

 党派を超えた県民の一致した声が日米両政府をゆるがせ、普天間飛行場の全面返還という日米政府の決断を導き出す契機になったのである。

 しかし、今回は超党派の足並みが乱れた。県政与党の自民党県連が不参加を決定したのに続き、肝心の仲井真弘多知事も参加を見送った。

 県政与党の公明党県本部は大会参加へとかじを取った。本島中北部の基地所在市町村の首長や那覇市長らは立場を超えて、地位協定の抜本改正を求める声に賛同し、大会に参加した。

 地位協定の抜本改正という点では一致しつつも、「被害者への配慮」を最優先したというのが主な不参加の理由だ。しかし、県知事は何を根拠にして日米両政府に要請しようというのか。

 長年の間に、米兵による理不尽な犯罪さえも日常の光景に溶け込み、私たちの人権感覚はすっかり鈍麻したのではないかと、考えさせられる。


対策の「実効性」を問う


 最近の米兵による犯罪は目に余る。女性への性的暴行やタクシー強盗、住居侵入、偽ドル偽造、覚せい剤使用…。米軍が夜間外出禁止令を発令しても事件が続いて発生している。

 イラク開戦から五年を経て、米兵の死者数は約四千人に上る。AP通信によると、米軍の報告書でアフガン戦争以来七年で複数回戦場に行った兵士の四人に一人以上が精神面で問題を抱えていることが明らかにされた。

 興奮して騒いだ後、急に黙り込む、酔うと殺気だった目つきになる―。イラク帰還兵の異常な行動を感じるという県内基地従業員の証言もある。

 出口が見えないまま、長期化する米国の対テロ戦争が影を落とし始めているのではないか。こんな疑念を払しょくすることができない。

 大会では(1)米軍優先の日米地位協定の抜本改正(2)米軍による人権侵害を根絶するため政府はその責任を明確にし、実効ある行動を起こすこと(3)米軍人の綱紀粛正策を厳しく打ち出し、実効性ある具体的な再発防止策を示すこと(4)米軍基地の一層の整理縮小と海兵隊を含む米軍兵力の削減―を要求していくことを決議した。

 「実効性」を重ねて強調しているのは、これまでの防止策には効果がなく、犯罪がとどまる気配がないことに対する県民の不信の現れである。


県民の声を一つにして


 イラク戦争で米国の威信は深く傷ついた。だが、大統領選の行方が注目され、変化の兆しが見えてきた。

 沖縄の保守系議員は軍事安全保障重視の思考にとらわれ、内向きになっていないか。被害を受ける県民の声を代弁するのが重要な務めのはずだ。

 日米両政府は地位協定改正には否定的だ。知事が訪米要請をしても、らちが明かないのは目に見えている。

 この問題への対応を県内の党派対立に矮小化すれば、「現実的な対応」で、振興策と引き換えに被害もやむを得ないという誤ったメッセージになりかねない。

 勇気を振り絞って表に出た被害者の声をしっかり受け止めたい。知事は県民の声を一つにまとめ上げ、主張すべきはきっちりと主張していくべきだ。

 県民は小手先の再発防止策ではなく、抜本的な対策を求めている。爆発寸前の県民の怒りといらだちを日米両政府は真摯に受け止めてもらいたい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080324.html#no_1

 

琉球新報 社説

米兵抗議県民大会 人間の尊厳を守れる国に/政府は「痛み」取る責務果たせ 2008年3月24日

 会場に降りしきる雨が、残忍な事件や悲惨な事故で半世紀余にわたり、犠牲や泣き寝入りを強いられた人々の涙雨に見えて仕方がなかった。北谷町で23日に開かれた「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」は、主催者発表で約6000人が集まり、理不尽な基地被害への県民の怒りの大きさを見せつけた。

 県民の切なる願いは、憲法がうたう基本的人権が保障され、平穏な暮らしを取り戻したい―そのことに集約されるだろう。広大な基地に万余の米兵が居座る沖縄の現実は、願いから程遠いが、日米両政府は「沖縄の痛み」を正面から受け止め、これを取り除くという責務を果たしてもらいたい。

「治外法権」の現実

 沖縄駐留の米兵らに県民が人権を踏みにじられた例は、枚挙にいとまがない。本土復帰後も凶悪な殺人事件をはじめ、粗暴な犯行が後を絶たない。戦闘機やヘリ墜落など大事故の検証もしかりで、今なお「治外法権」の様相だ。

 1995年秋、沖縄本島北部で買い物帰りの女児が複数の米兵に拉致され乱暴された痛ましい事件では、くすぶり続けた県民の怒りが爆発した。日米両政府に対し、強く異議を申し立てる過去最大規模の総決起大会が開かれ、安保体制を揺さぶった。

 大会あいさつ冒頭で、当時の大田昌秀知事は「行政を預かる者として、本来一番に守るべき幼い少女の尊厳を守れなかったことを心の底からおわびしたい」と謝罪。高校生代表の女生徒は「やりきれない思いで胸がいっぱい。軍隊のない、悲劇のない平和な島を返して」と訴えた。

 知事の言葉は本来、日米両政府のトップが真っ先に口にすべきことだろう。少女の尊厳も守れない政治家に国防など論じる資格はないと考えるし、国際社会に対して主権国家だと胸を張れまい。

 あれから13年。残念ながら基地沖縄の現実は、さほど変わっていない。米兵らによる事件・事故は相次ぎ、今回の大会開催の契機となった女子中学生暴行事件が起きた。「綱紀粛正」「再発防止」の連呼がむなしく聞こえる。

 しかし、あきらめるわけにはいかない。県民は愚直と言われようが、繰り返し、理不尽な現状からの脱却を訴え続ける必要がある。そうしないと、この小さな島は巨大な軍事基地で人権侵害のるつぼと化し、取り返しのつかない状態になってしまうだろう。

 今回の県民大会では、4点の要求決議が採択された。米軍優先である日米地位協定の抜本改正、米軍による人権侵害根絶への政府の責任明確化と実効ある行動、厳しい綱紀粛正策と具体的な再発防止策の提示、基地の一層の整理縮小と海兵隊を含む米軍兵力の削減―がそれだ。

民意を見誤る恐れ

 これらは県民からすれば極めて当然の要求であり、日米両政府は実現に全力を挙げるべきだ。人権が踏みにじられる状況はこれ以上放置できないし、期限を切って協議してほしい。

 心配な点もある。13年前と違い、大会に知事や県議会議長らの姿が見えなかったことだ。仲井真弘多知事は大会2日前になって「契機となった事件の被害者と家族をそっとしておいたらどうか」などと述べ、参加しない考えを表明した。

 県議会の仲里利信議長も、自民党県連の不参加決定を受ける形で「超党派でなく、議長としても、一県議としても参加できない」と説明した。

 知事や議長の不参加は、返す返すも残念である。今回の大会を野党色が強いと見るなら、与党第一党が参加してこそ、そのイメージも払えるというものだろう。実際には県婦人連や県子ども会育成連絡協など社会教育団体が参加しており、不参加は選挙を控えて勘繰りすぎとの印象が否めない。

 いずれにしろ、知事らの不参加は「沖縄は一枚岩ではない」ととられ、日米両政府から見くびられる恐れがある。沖縄から誤ったメッセージを発信してしまう危険性をはらんでおり、今後、知事が訪米して基地問題を訴えても説得力を欠くことになりかねない。

 ただ、日米両政府も今回の大会を見くびると、民意を見誤ることになる。基地の重圧は尋常ではない。県民の怒りは沸点に達しており、負担軽減の約束が裏切られたとの思いが充満している。両政府は訴えの一つ一つに耳を傾け、抜本的な解決策を示すべきだ。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-130421-storytopic-11.html

 

2008年3月24日(月) 夕刊 1面

知事、一定の評価/県民大会

 仲井真弘多知事は二十四日午前、北谷町で二十三日に開かれた「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」に六千人が参加したことについて、「雨の中でよく集まったと思う」と述べ、一定の評価をした。県庁で記者団の質問に答えた。

 大会で採択された日米地位協定の抜本改正などを求める決議については「スローガンは(以前から)僕も申し上げた。(県の姿勢と)同じだと思う」として、決議の趣旨には賛同する考えを示した。

 日米地位協定の改定に消極姿勢を示す日米両政府に、大会決議が与える影響については「主催者の方もおられるし、ちょっと言いにくい」と述べ、明言を避けた。


     ◇     ◇     ◇     

6千人結集「意義ある」

名護市長


 島袋吉和名護市長は二十四日、雨の中六千人が集まった県民大会について、「あれだけの人が集まって怒りの声を上げたことは意義がある」と評価した。

 大会で、日米地位協定の抜本的改正や米軍人への厳しい綱紀粛正、再発防止などを求めたことについては「米軍は事件が起きるたびに綱紀粛正を言ってきたが、効果は見られない。徹底した綱紀粛正を行い、目に見える形で効果を出してもらいたい。県民の怒りの声は、米軍や日本政府に届いたのではないか」と、徹底した再発防止策の実現と地位協定の改正を求めた。

 県民大会へは前日までに参加を明言し、当日も会場付近まで足を運んでいたが、雨が降り風邪気味だったため、車中でラジオ中継を聞いていたという。


政府消極的「運用改善で」


 【東京】町村信孝官房長官は二十四日午前の定例会見で、米兵事件に抗議する県民大会で決議した日米地位協定改定の要求について、「先般の事件で地位協定で何か支障があったかといえば、その点はなかったと思っており、引き続き運用改善を図っていきたい」と消極的見解を繰り返した。

 高村正彦外相も、同日午前の参院予算委員会で、日米地位協定が世界の米軍駐留国の地位協定より運用改善面で進んでいることを強調し、「これからも運用改善を積み重ねて、機動的に対応していきたい」との考えをあらためて示した。

 一方で県民大会の感想については「県民に多大な負担をかけていることをあらためて強く認識した。米兵の事件・事故の再発防止に取り組んでいかなければならないという決意を新たにした」と語った。山内徳信氏(社民)に答弁した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803241700_01.html

 

2008年3月24日(月) 夕刊 5面

新射撃場に反対決議/金武町議会が全会一致

 【金武】金武町議会(松田義政議長)は二十四日午前の三月定例会で、米軍がキャンプ・ハンセン「レンジ3」付近で予定している最大千二百メートルの射程に対応する米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)の小銃(ライフル)用射撃場建設に反対する抗議決議、意見書、要請決議案をそれぞれ全会一致で可決した。

 決議では「負担の軽減がなされぬまま、米陸軍射撃場建設が強行されたことは町民を愚弄するなにものでもない」と指摘している。

 「射撃場建設の即時中止」、「レンジ4における暫定使用の即時中止と解体撤去」「伊芸地域の米軍基地の全面返還」の三つを求めている。

 意見書のあて先は首相、外相、防衛相など。抗議決議は駐日米国大使、在日米軍司令官など。

 同議会が射撃場建設に反対する抗議決議案を可決するのは昨年八月に続き二回目。今月十五日には、同町伊芸区が同様の抗議決議文を決議している。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803241700_06.html

 

2008年3月25日(火) 朝刊 1面

洗機場移設 大幅遅れ/嘉手納基地大・中型用

年頭に代替着工

 【東京】住宅地への洗浄水飛散が問題となっていた米軍嘉手納基地の洗機場移設をめぐり、大・中型機用の代替施設の着工が約半年遅れ、予定していた年度内の完成が大幅にずれ込むことが二十四日、分かった。関係者によると昨年七月の着工予定が、米側の意向で設計が直前に変更されたほか、立ち入り手続きが大幅に遅れたことで、工事開始が今年一月にずれ込んだことが要因という。(東京支社・島袋晋作)

 防衛省の担当者は、「移設は地元のニーズも高い。工事を急ぎ、なるべく早く完成させたい」と説明。八カ月間を予定していた工期を約二カ月短縮し、七月ごろの完成を目指しているが、その間は現在の洗機場が使われることになる。

 現在の洗機場は、嘉手納町屋良の住宅地に近接する海軍駐機場内にあるが、風向きによって大量の水しぶきが住宅地に飛散し、住民の苦情が相次いでいた。

 日米特別行動委員会(SACO)最終報告に基づき、海軍駐機場とともに沖縄市側へ移設されることが決まっていたが、移設完了は二〇一〇年度以降となる見込みとされた。このため、嘉手納町が洗機場の移設を切り離し、早急に実施するよう日米に働き掛けて作業が始まった経緯がある。

 このうち、F15戦闘機などを対象とした小型機用の洗機場は、滑走路南側の空軍駐機場エリアに〇六年に完成し、すでに運用が始まっている。

 一方、移設が遅れている大・中型機用の洗機場は嘉手納町役場から南に約八百メートル離れた地区に移設する計画。

 KC135空中給油機などを対象にしており、ポンプ棟を一棟建設するほか、洗浄水を噴射するノズルや貯水槽などを含んだ洗機施設を整備する予定。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803251300_01.html

 

2008年3月25日(火) 朝刊 2面

首相、地位協定改定に否定的/衆院予算委で初見解

 【東京】福田康夫首相は二十四日の参院予算委員会で、日米地位協定の改定について「考えていない。地位協定がある中で、いかにして運用改善するかということに力を入れている」との見解を示した。福田首相が公式の場で地位協定改定に否定的な姿勢を示すのは初めて。

 高村正彦外相も、同日午前の同委員会で、日米地位協定が世界の米軍駐留国の地位協定より運用改善面で進んでいると強調し、「これからも運用改善を積み重ねて機動的に対応していきたい」との考えをあらためて示した。山内徳信氏(社民)への答弁。

 一方高村氏は、二○○六年十月から○七年九月までの米軍兵士による性暴力事件が、二千六百八十八件に上ると指摘した米国防総省の報告に関する井上哲士氏(共産)の質問に対し、「性犯罪防止の取り組みの一環として、性犯罪の透明性をできるだけ高めるために行われているものと承知しており、(件数を)一概に論ずることは困難」と指摘。

 これに対し井上氏は「事件が多いからアメリカは対策を取っている。それを一概に論じれないというのはおかしい。きちんとした認識を持つ必要がある」と批判した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803251300_05.html

 

2008年3月25日(火) 朝刊 27面

そそり立つサンゴの壁 名護市大浦湾 WWFJ調査

 【名護】名護市大浦湾で二十四日、衛星利用測位システム(GPS)測量や潜水によるアオサンゴ群落の形状、分布、環境調査が行われた。同群落は昨年九月に発見された。調査は世界自然保護基金(WWF)ジャパンが初参加し、二十二日から行われている。

 目崎茂和南山大学教授は「内湾にこれだけのサンゴ群落があるのは珍しい。また十数メートルもそそり立った壁を形成しているのは見たことがない。形状的には世界でもまれではないか」と群落の希少性を強調。

 沖縄リーフチェック研究会の安部真理子会長は「普天間飛行場代替施設の建設が始まると海流が変わる恐れがあり、赤土も発生する。群落の生態系に影響がないわけではない」と同湾周辺の動きを危惧した。

 調査を総括したWWFジャパンの花輪伸一さんは「今回得たデータは大浦湾の三次元マップ作成や、市民版アセスを正しく行うための基礎資料としたい」と意気込んだ。

 調査は二十四日で終了した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803251300_06.html

 

2008年3月25日(火) 朝刊 2面

「修学旅行に配慮を」/県議会特別委

要請決議案提出へ

 県議会の米軍基地関係、少子高齢化対策、観光振興・新石垣空港建設促進の特別委員会が二十四日、開かれた。観光・新石垣委では、四月からの航空運賃値上げに伴う本土修学旅行客への影響を考慮し、航空会社へ配慮を求める決議議案を本会議に提出することを決めた。

観光・新石垣


 観光振興・新石垣空港建設促進特別委員会(国場幸之助委員長)は、航空四社に修学旅行客への影響が出ないよう、団体割引料金の設定などで配慮を求める決議案を議員提案で提出することを決めた。四月一日からの航空運賃値上げで修学旅行の減少傾向がさらに進むとの懸念があるためで、各委員連名で二十六日の本会議に要請決議案を提出する。

 県の有識者委員会が導入の是非を検討しているカジノについて、仲田秀光観光商工部長は「(県への導入が決まった場合)県内の人を入れないなどの手法も考えている」と述べ、青少年などへの影響を防ぐため、何らかの入場制限を検討する意向を示した。外間久子氏(共産)との質疑で述べた。


少子高齢対策


 少子高齢化対策特別委員会(吉田勝廣委員長)は、二〇〇八年度県予算の保育関係事業費の削減について審議した。

 同関係事業費では(1)認可外保育施設認可化促進事業の休止(2)地域子育て支援拠点事業の補助基準額10%減額(3)センター型からひろば型への移行による削減―などについて、県私立保育園連盟から削減しないよう陳情が出ている。赤嶺昇氏(維新の会)は「少子化対策に逆行している」と批判した。

 伊波輝美福祉保健部長は財政難の中で厳しい予算編成を強いられたと説明。一方で認可外保育園への米代支給新設などを挙げ「全体として保育費関連予算は6・9%伸びた」と成果を強調した。

 赤嶺氏は「認可外保育園への米代支給の芽出しは評価するが、子ども一人当たり十一円の額は支援としてあまりにも少なすぎる。増額が必要」と述べた。


米軍基地関係


 米軍基地関係特別委員会(親川盛一委員長)は、防衛省が嘉手納基地周辺の騒音測定調査(コンター見直し作業)を実施している件で、新嘉手納爆音訴訟原告団(仲村清勇会長)が対象地域の拡大を求めている陳情について審議した。

 県側は、政府が二十八年ぶりに進めている見直し作業について、渉外知事会を通して、防音工事対象区域の拡大を要請していると説明。また県軍用地転用促進・基地問題協議会(軍転協)を通じ、住宅防音工事の助成制度の拡充拡大を要請していると述べた。

 また防衛省が二〇〇六年までに厚木飛行場(神奈川県)周辺の第一種区域を見直した件について報告。対象区域面積が計約七千七百ヘクタールから約一万五百ヘクタールに増加、対象世帯も十四万七千世帯から二十四万四千世帯に増加したと説明した。金城勉氏(公明)への答弁。

 二十三日の県民大会について、上原昭知事公室長は「六千人の参加は一定の成果があったと思う」と評価。知事の不参加について、「県民の声をくみ取ることはいろんな手法で可能。こういう大会や県議会などあらゆる場でくみ取って政府や米軍にぶつけていく」と述べた。嘉陽宗儀氏(共産)への答弁。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803251300_07.html

 

2008年3月25日(火) 夕刊 1面

地位協定改定案 野党3党が合意

週明けにも政府要請

 【東京】日米地位協定の改定案をめぐる民主、国民新、社民の野党三党の実務レベルによる第三回会合が二十五日午前、都内で開かれ、米軍の基地使用計画提出の期間など相違のあった複数の項目で合意し、成案の概要をまとめた。

 今後、文言を擦り合わせ、三党幹事長クラスが二十七日に正式合意する。三十一日以降に政府への要請行動を展開する予定。民主、国民新、社民の三党は、米軍人・軍属の基地外居住に関し、外国人登録法を義務付けることや、起訴前の身柄引き渡しへの同意―などで一致。施設返還時の原状回復義務でも、環境汚染の浄化は米国が責任を負うとすることも確認した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803251700_02.html

 

2008年3月25日(火) 夕刊 1面

「県民の思い受け止める」/沖縄相、県民大会で

 【東京】岸田文雄沖縄担当相は二十五日午前の閣議後会見で、二十三日に開かれた「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」について、「県民の思いを重く受け止めなければいけない。政府が打ち出した再発防止策をできるだけ早く具体化し、実施にこぎ着けることが最大の役割だ」と述べた。

 さらに「政府全体として、従来の防止策の趣旨が貫徹されていたか検証することも必要」とした。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803251700_03.html

 

2008年3月25日(火) 夕刊 5面

自衛隊「共同使用を」/ごみ搬入道 倉浜組合に申し入れ

 【沖縄】沖縄市にある倉浜衛生施設組合が旧東恩納弾薬庫地区内で建設中の新焼却炉へのごみ搬入道について、沖縄防衛局と自衛隊が、同地区内で建設中の射撃場への進入路に利用したいと、申し入れていたことが二十五日までに分かった。同組合の運営委は結論を出していない。

 二十四日の市議会二月定例会で、普久原朝健議員が「補助金がおりたかもしれないのに共同使用の提案をけったため、(ごみ搬入道路の建設費が)市民の負担になった」などと指摘。

 島袋芳敬副市長は「管理者(沖縄市、宜野湾市、北谷町の首長)を中心に防衛庁に(ごみ搬入道路の)補助金を要請したが、該当しないとのことだった。二市一町で整備することになり、その搬入路を自衛隊が使わせてほしいと申し入れがあった」とし、共同使用と道路建設の補助金は別問題と説明した。

 新焼却炉建設のために現在利用している米軍パイプラインは、ごみ搬入道路としての使用を米軍に断られたため、同組合が独自でごみ搬入道路(約三百九十メートル)を建設している。事業費は四億九千万円。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803251700_04.html

米軍住宅1万1295戸整備/思いやり予算5459億円 知事、県民大会不参加を表明など  沖縄タイムス関連記事、琉球新報 社説(3月19日から22日)

2008年3月19日(水) 朝刊 2面

米軍住宅1万1295戸整備/思いやり予算5459億円

 【東京】石破茂防衛相は十八日の衆院本会議で、日本政府が一九七九年度から二〇〇七年度にかけて整備した米軍基地内の家族住宅が、現在建設中のものも含め、全国で一万千二百九十五戸に上り、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)約五千四百五十九億円が投じられたことを明らかにした。照屋寛徳氏(社民)への答弁。

 米軍住宅の整備をめぐって政府は、照屋氏の質問主意書に対する今月七日の答弁書で、日本政府が七五年度から〇六年度にかけて建設した家族住宅が六千百八戸に上るとしており、約半分が県内に集中している実態も浮き彫りとなっている。

 一方、高村正彦外相は、米軍機による爆音訴訟で、嘉手納、厚木、横田などすでに確定した八件の訴訟の賠償金の合計が百二十二億円に上るが、米国が分担金支払いに応じていないことを明らかにした。賠償金は日本政府が肩代わりして原告住民らに支払っている。

 高村外相は分担金をめぐる日米協議について、「政府としては米国に賠償金の分担を要請しているが、両国政府の立場が異なっていることから妥結をみていない。このため、米国が負担する金額について現時点で答えるのは困難」と説明した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803191300_05.html

 

2008年3月19日(水) 朝刊 2面

新射撃場着工 重ねて「反対」/金武町長

 【金武】金武町の儀武剛町長は十八日、開会中の町議会の一般質問で、現在同町キャンプ・ハンセン「レンジ3」付近で建設が進んでいる、米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)の小銃(ライフル)用射撃場について、「反対しているのにもかかわらず、着工されたことは誠に遺憾だ」として、あらためて反対の意志を示した。

 今後の対応については、「近接する伊芸区も反対決議をしており、区長や議長の三者で協議して、対応したい」と述べた。

 十七日から同訓練場で始まった陸上自衛隊の共同使用が基地の固定化につながるのではないかとの質問には「新たな施設整備を伴わない訓練のみの実施であり、基地の固定化につながるものではない」と、否定。

 迫撃砲やヘリを使った訓練の可能性については、「沖縄防衛局に確認し、使用はないとの説明を受けた」との認識を示した。仲間昌信議員への答弁。


     ◇     ◇     ◇     

陸自ハンセン訓練公開


 陸上自衛隊第一混成団は十八日、在日米軍再編に伴い米軍キャンプ・ハンセンで実施している共同使用訓練の一部を報道陣に公開した。都市型戦闘訓練施設(コンバットタウン)で行った通過訓練と、懸垂降下訓練施設(ラペリングタワー)で、予定していたロープ降下訓練は悪天候で中止された。

 訓練したのは第一混成群第三〇一普通科中隊など約百五十人。コンバットタウンでは、両側に民家や教会を模した六、七棟が立ち並ぶ通りを、一個分隊約八人が前後左右を警戒しながら通り抜けた。隊員は通常の戦闘訓練用という八九式小銃や鉄製ヘルメット、防弾チョッキ、ゴーグルなどを装備していた。

 第一混成団の武内誠一団長は同日、「部隊の能力を高め、さらに即応性を向上させ、県民の安心・安全のために貢献できるものと確信する」とコメントした。

 在沖米軍専用施設を使った初の日米共同使用訓練は同日、終了した。同広報室によると、次回訓練は日時、内容ともに調整が済んでいないという。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803191300_06.html

 

2008年3月19日(水) 朝刊 2面

名護市、水質調査を認可/普天間「アセス」

 米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への代替施設建設に向け、沖縄防衛局が着手している環境影響評価(アセスメント)調査で、県や名護市の許認可が必要な申請項目のうち、名護市は十八日、水質調査の立ち入りを認可した。

 県や名護市は随時、許認可する見通し。

 防衛局は全九項目を申請する必要があるが、すでに八項目は申請済み。残る一項目の県に求める水質調査の申請について調整を進めている。

 一方、同日沖縄防衛局がアセス調査と位置付け初めて着手した海域調査は天候不良のため、午前中だけにとどめた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803191300_08.html

 

2008年3月19日(水) 朝刊 24面

「基地」教わった学びやに恩返し/沖国大・事故時1年生卒業

 二〇〇四年のヘリ墜落事故当時一年生だった沖縄国際大学の学生ら約十五人が十八日、四年間過ごした学びやを掃除した。学生らはヘリ事故を通して基地の重圧に苦悩する沖縄の現状を学んだ。二十一日は同大で卒業式があり、事故当時を知る最後の学生が巣立つ。

 学生らは「使ったモンをキレイにできない奴が社会人になれるか!感謝沖国大掃除大会」と銘打ち、約七時間かけて机やいすのふき掃除や掲示板のテープはがしなど、丹念に清掃した。

 掃除大会を呼び掛けた高橋正太郎さんは、県外の修学旅行生を案内する平和ガイド団体やヘリ事故後の「ノーフライゾーン・コンサート」に携わった一人。「やりたいと思ったことができた四年間だった。沖国大にありがとうって気持ちでいっぱい」

 新里豪さん(22)は「ヘリが落ちても基地問題に無関心だった自分が、県外出身の仲間とかかわることでヘリ事故は非常識なんだと気付かされた」と振り返る。その後、基地問題や沖縄の歴史に関心を持ち、平和ガイド仲間らと修学旅行生約千人を戦跡案内した。「コンサートの打ち合わせなど、友人たちと楽しく過ごした大学への恩返し」と語った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803191300_10.html

 

2008年3月19日(水) 夕刊 5面

靖国合祀 遺族ら提訴/取り下げ求め那覇地裁に

 靖国神社に肉親を合祀されている沖縄戦の遺族ら五人が十九日午後、親族を無断で祭られて追悼の自由を侵害されているとして、同神社に合祀の取り下げを求める訴えを那覇地裁に起こした。国が同神社に戦没者情報を提供したのは、憲法の政教分離に違反しているとして、併せて国と同神社に慰謝料の支払いを求めた。

 提訴したのは、沖縄戦で母と兄が犠牲になった原告団長の川端光善さん(72)や、ひめゆり学徒に動員されて姉を亡くした男性ら。提訴までに同神社に直接文書で合祀の取り下げを求めたところ、「遺族の承認を得て合祀することはない。靖国神社には信教の自由がある」などと回答したという。

 原告側は訴状で「戦争の被害者として無念の死を遂げた人々を、国に殉じた英霊として合祀しているのは許しがたい苦痛で、積極的に合祀に協力した国には怒りを感じる」と主張している。

 また壕から追い出されたり「集団自決(強制集団死)」を強いられたりして亡くなった被害者に、戦傷病者戦没者遺族等援護法(援護法)が適用されている仕組みにも言及。住民を軍に対する積極的な戦闘協力者にすり替え、加害者の皇軍に取り込んでいるとして、「死者に対する冒涜にほかならない」と訴えている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803191700_01.html

 

2008年3月19日(水) 夕刊 5面

タクシー窃盗事件/容疑者は米兵の子

 十六日夜に沖縄市内の路上で米国人少年二人がタクシーから現金箱を盗んだ事件で、逮捕された少年はいずれも米兵の息子であることが十九日分かった。住所不定無職の少年(15)は海兵隊員の息子で、同市八重島の男子高校生(16)は空軍兵の息子だった。無職少年は容疑を認め、高校生は否認しているという。

 調べでは、二人は十六日午後十時十五分ごろ、同市桃原の路上で、乗っていたタクシーを停車させ、現金五千四百円入りの現金箱(千円相当)を盗んだ疑い。

 沖縄署によると、二人は桃原付近で乗車した後、無職少年は助手席に、高校生は後部座席に座った。行き先をはっきり言わないなど不審な点があったため、乗務員が停車した際、外に出た無職少年が現金箱を取って逃走。後ろに乗っていた高校生も運転手のバッグを取ろうとしたが、運転手が取り返したという。

 駆け付けた警察官が近くにいた高校生を見つけ、署に呼んで緊急逮捕。無職少年は基地外にいたとみられ、米軍捜査機関が身柄を確保し、同署に引き渡した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803191700_04.html

 

2008年3月19日(水) 夕刊 5面

反対派の船接近アセス一時中断

 【名護】米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への代替施設建設に向け、沖縄防衛局が行っている海域での環境影響評価(アセス)の作業は、二日目の十九日午前九時すぎ、嘉陽海岸付近で調査に反対する市民団体のボートなどが調査船に近づいたため、午前中、中断した。同海域では、沖縄防衛局側の調査船など八隻と市民団体側のゴムボートなど三隻が対峙した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803191700_07.html

 

2008年3月20日(木) 朝刊 27面

医師のヘリ添乗 協定/自衛隊急患搬送

 自衛隊のヘリコプターを使用した急患搬送で県、離島十八市町村と県立四病院、民間五病院が「離島からの急患を空輸する際にヘリコプター等への医師等の添乗に関する協力協定書」を締結することが十九日、分かった。県内では復帰後三十年近く自衛隊法の災害派遣要請を適用してヘリ急患搬送を実施している。医師添乗の在り方や運航の安全確保など運用について協定を結ぶのは初めて。

 協定では県や離島市町村、協力病院の役割を明確化した。任意で不定期の集まりだった県ヘリコプター等添乗医師等確保事業運営協議会の会長に県福祉保健部長を充て、添乗した医師の災害補償の在り方などを含め総合調整の役割を担う。添乗医師の確保は協力病院の責任とし、離島市町村はヘリ急患搬送についての啓蒙活動や、協力病院の負担軽減策などを検討することを盛り込んだ。

 また離島市町村が一部事務組合方式によるヘリ急患搬送事業の検討委員会を設立し、全国で初めて救急救命士の添乗を検討する。

 運航の安全性確保では(1)急患搬送の中止は現地の気象条件を最優先(2)飛行気象条件はマニュアルに記載(3)ヘリ乗員と添乗医師は飛行前に天候や患者の容態などに関する情報交換を行う―とした。

 当番医師の裁量に委ねていた添乗の可否は、原則として添乗し、やむを得ない場合に限り看護師などほかの医療従事者の代替策を構ずる。医師の添乗研修を実施することも明記した。

 協定締結式は二十六日、那覇市内で開かれる。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803201300_05.html

 

2008年3月20日(木) 朝刊 26面

沖縄戦の実相 取り戻したい/靖国合祀訴訟原告ら会見

 沖縄戦の遺族らによる靖国神社の合祀取り下げ訴訟で、原告団長の川端光善さん(72)ら訴訟団が十九日、訴状提出後に那覇市内で記者会見した。

 川端さんは「国は靖国を利用して人々を戦争に駆り立ててきた。私の戦後処理は合祀されている母と兄の名を、一刻も早く靖国から消し去ること」と語った。

 沖縄戦で日本軍に壕から追い出され、砲弾の犠牲になったという母親らが祀られている原告の崎原盛秀さん(74)は「母は日本軍に殺されたと思っているが、援護法では積極的に軍に協力したことにされている。これほどの侮辱は許されない」と語気を強めた。

 弁護団長の池宮城紀夫弁護士は「援護法によってねじ曲げられた沖縄戦の実相を取り戻すこともこの裁判の目的」と指摘。

 弁護団の丹羽雅雄弁護士は「沖縄戦の犠牲者を国に殉国死した英霊にすり替えているのが靖国神社と援護法。現在と未来にかかわる裁判だ」などと訴えた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803201300_07.html

 

2008年3月21日(金) 朝刊 29面

県民は怒っている/大会へ高まる意欲

実行委員長に玉寄さん/幹事会、参加と寄付呼び掛け

 米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会(23日、北谷公園野球場前広場)の実行委員会幹事会が20日、那覇市の教育会館で開かれた。大会実行委員長に県子ども会育成連絡協議会の玉寄哲永会長が就任し、大会プログラムなどについて話し合った。23日当日は宮古島市や石垣市でも抗議集会が予定されており、大会に向けて関係者の意気込みが高まっている。

 実行委幹事会で、幹事の小渡ハル子・県婦人連合会長は「米兵による事件続発に県民はみんな怒っている。これ以上、ばかにされて我慢できますか」と、大会への参加を呼び掛けた。

 幹事会では、大会を予定通り二十三日午後二時から開催することを最終確認した。雨天決行で、雷雨や豪雨の場合は同広場近くの北谷ドームに会場を移す。

 大会は、女性団体や老人団体、学校関係団体などの代表が米軍・米兵による事件・事故の続発に対する抗議や意見などを述べる。

 本島中部の地域住民代表にも、基地被害の実態や不安を話してもらうほか、二〇〇二年に神奈川県内で、米海軍横須賀基地所属の米兵に暴行されたオーストラリア人女性にも、檀上から被害の深刻さを訴えてもらう予定。

 二十日までに、八十七団体から計約二百二十六万円の協賛金が集まったが、目標金額の四百万円には届いておらず、同実行委では引き続き団体や個人からの寄付を募っている。

 問い合わせは実行委事務局、電話098(867)0292。


     ◇     ◇     ◇     

抗議署名825人分/松島中PTA


 松島中学校PTA(金城喜美代会長)は米兵による暴行事件への抗議文と、父母や家族八百二十五人分の署名を在沖米総領事館に送付する。

 あて先はブッシュ米大統領、ケビン・メア在沖米総領事、リチャード・ジルマー在沖米四軍調整官。米総領事館に手渡しでの要請を依頼したが、断られたという。

 金城会長は「今回は政治的な基地返還ではなく、親としての立場から署名を呼び掛けた。事件が単なるニュースとして一過性のものにならないよう、家族の中で話し合うきっかけにしてほしい」と話した。


八重山・宮古でも開催


 【八重山・宮古】県民大会に合わせて八重山地区でも郡民大会が、二十三日午後二時から石垣市の新栄公園で開かれることになった。同地区の労働組合や平和団体などでつくる実行委員会が十九日夜、同市内で開かれ、日時や場所などを決めた。

 本底充連合沖縄八重山地域協議会議長が実行委員長に就いた。石垣、竹富、与那国の三市町長や昨年九月の「教科書検定撤回を求める八重山郡民大会」で実行委を構成した各団体に参加を呼び掛ける。

 大会のスローガンを「人権の保障と確立」「日米地位協定の抜本改正」「目に見える基地の整理・縮小」などと掲げ、抗議決議を採択する予定。

 一方、宮古島市でも二十三日午後二時から、市陸上競技場東駐車場で「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する宮古集会」が開かれる。伊志嶺亮市長も参加する。スローガンや決議文などは、県民大会と同じ。

 二十一日午後、市長や連合沖縄宮古地域協議会などが会見を開き、大会への参加を呼び掛ける。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803211300_01.html

 

2008年3月21日(金) 朝刊 28面

元少年兵が名乗り/県系米兵呼び掛けに安里さんら

 戦後すぐに米サンフランシスコ湾のエンジェル島捕虜収容所で出会った沖縄出身の少年兵と再会したいという県系二世の元米兵ピーター・オオタさんの呼び掛けを掲載した本紙報道に安里洋太郎さん(80)=北中城村=と安里祥徳さん(78)=同=の二人が名乗り出た。日系米国人の聞き取り調査を行っている非営利組織JAリビングレガシーの日本事務所代表郷崇倫さんが来県し、十九日、安里さんたちから話を聞いた。

 一九四五年当時、県立一中の四年生だった洋太郎さんは鉄血欽皇隊に、同二年生だった祥徳さんは通信隊に入隊。本島南部で別々に捕虜になり、屋嘉からハワイ、米本土へと送られた。安里さんたちは、同年八月から九月ごろまで滞在したという。オオタさんのことは覚えていなかったが、日系二世の兵士が数人いたことや収容所の様子などを語った。祥徳さんによると、エンジェル島には一中以外にも多くの学徒(少年兵)がいたが、連絡先などは分からない。

 オオタさんが気になっている、という帰国時の気持ちについて、祥徳さんは「戦争で何もないと考えていたから、(沖縄に)帰って生きるのは大変だろうと思った」と振り返った。洋太郎さんは「ハワイに送られる時から空っぽで何も感じなかった。沖縄に戻って親が生きているのが分かった時に『良かった』と感情が戻ってきた」と振り返った。

 郷さんは二十二日まで県内で調査する予定で元少年兵に関する情報を求めている。郷さんの携帯電話は090(6153)4158。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803211300_08.html

 

2008年3月21日(金) 夕刊 1面

知事、参加最終判断へ/県民大会

 仲井真弘多知事は二十一日午前、二十三日に開かれる米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会への参加について、副知事や知事公室長らを交えて協議したが、結論を持ち越した。同日午後に開かれる県議会軍事基地関係特別委員会に県婦人連合会などから提出されている超党派による大会開催を求める陳情の採択結果を踏まえ、同日夕方にも最終判断し、正式に表明する。

 仲井真知事はこれまで「(米兵事件の再発防止などを)アメリカに言う必要がある。大会の効果はそれなりにある」と開催意義を認める一方、「超党派的な形がとれれば参加しやすい」「いろいろな人の意見を聴いてみたい」と参加への判断を留保している。

 県議会最大会派の自民は「被害者感情への配慮」などを理由に組織的参加を見送る一方、公明党県本は参加を決めるなど、県議会与党内でも対応が割れている。


     ◇     ◇     ◇     

翁長那覇市長、参加へ


 翁長雄志那覇市長は二十三日に北谷町で開催される「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」に参加する意向を固めた。仲井真弘多知事と協議し、二十一日午後にも正式に参加を決める。翁長市長は「仲井真知事の参加・不参加にかかわらず、よほどのことがない限り市長として参加するつもりでいる」としている。同日朝、沖縄タイムスの取材に答えた。

 また、翁長市長は「大会の開催の仕方には課題があると思うが、外部の人は参加人数に注目している。みんなが訴えたいことは同じ。参加しなかったために県民のパワーが軽んじられるようなことがあってはいけないと思っている」とし、参加の意義を強調。

 今回、超党派による大会参加が実現できなかった課題を指摘した上で、事件・事故の発生にかかわらず、今年八月ごろまでに日米地位協定に関する最大規模の県民大会開催が必要との考えを示した。


県民の思い受け止める

岸田沖縄相


 【東京】岸田文雄沖縄担当相は二十一日午前の閣議後会見で、二十三日に開かれる米兵事件に抗議する県民大会について「県民の事件に対する怒り、深い思いをしっかりと受け止めなければならないと思う」との認識を示した。政府の対応として「大会の状況を見守り、再発防止策の実施へ一丸となって努力しないといけない」と述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803211700_01.html

 

2008年3月22日(土) 朝刊 1面

知事、県民大会不参加を表明

被害者に配慮強調 仲里議長も見送り

 仲井真弘多知事は二十一日夜、二十三日に開かれる「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」への不参加を表明した。仲井真知事は「(大会開催の)契機となった事件の被害者やご家族をそっとしておいたらどうかという判断が第一」と被害者への配慮を強調した。

 また、自民党県連が組織的参加を見送ったことで、超党派の結集が実現しなかったことも理由の一つに挙げた。同日午後九時ごろ、県庁で報道陣に答えた。知事は県民大会開催について「問題、課題解決に必要で大事なこと」と意義を認めながらも、「(被害者を)そっとしてあげたいというのも大事なこと。二つとも同じ重みがあるが同時には成り立たない」と説明した。

 県民大会の位置付けについて「各界各層の多数の団体や超党派の参加が必要」との考えを示し、「これまでの県民大会とは異なる状況にあり、十分じゃないと総合的に判断した」と話した。

 「人権」や「日米地位協定の抜本改正」などの大会スローガンについては「私が申し上げてきたこととほとんど同じ内容」と賛同。特に地位協定は「四十八年もそのままで運用は米側に委ねられている。人権や環境について抜本的な追加、改正がどうしても必要」と重ねて表明した。

 その上で、「公約の大きな部分。私の切り口で、県民各界各層の力を得て、しっかりと改正に向け取り組んでいきたい。今後は、しぼむんじゃなくて、むしろ(改定の)意識、認識は拡大していく」と述べ、地位協定改定に全力を挙げる姿勢を強調した。

 県議会の仲里利信議長は同日、県民大会について「議長という公的立場やその影響を考慮し、参加を控えるべきだと判断した」と大会出席を見送る考えを明らかにした。


実行委は決議案固める


 「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」(二十三日、北谷町開催)の実行委員会事務局は二十一日、大会プログラムを最終調整し、日米両政府に日米地位協定の抜本改定や基地の整理・縮小、県民への人権侵害の根絶などを求める決議案をまとめた。開催地区代表として野国昌春北谷町長と東門美津子沖縄市長が登壇する予定。二十二日に正式決定する。

 二十一日現在、大会趣旨に賛同する九十四団体、三百三十三個人から協賛金が集まった。

 大会では、米兵犯罪と騒音、環境破壊などの基地被害に対し、女性団体や地域代表らがそれぞれの立場から抗議の意思を表明する。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803221300_01.html

 

2008年3月22日(土) 朝刊 31面

「私たちがやる」/県民大会 知事不参加

 「先頭に立ってほしかった」。二十一日、超党派を目指した「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」に仲井真弘多知事が不参加を表明したことに、大会の実行委員と中部の首長らは落胆しつつも「予測していたこと。やるしかない」と気持ちを新たにした。県トップが参加しない県民大会となるが、「沖縄の痛み、怒りを伝える意義は大きい」との思いは変わらない。

 実行委員長の玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会会長は、知事が夏にも訪米し地位協定改定を訴えることに触れ「県民大会の決議を受けて行かなければ、効果はない。政党の顔色ばかり見ているのではないか」と姿勢を疑問視。「ウチナーンチュとしての気持ちに共感して多くの市町村や団体が参加してくれる。知事が参加しなくても、沖縄の痛みと怒りを政府に伝える上で、大会は大いに意義がある」と強調した。

 当初から県民大会の動きを引っ張ってきた県婦人連合会の小渡ハル子会長は、記者発表前に仲井真知事本人から、電話で不参加の決断を聞いた。「残念で食事も、のどを通らない」と悔しさをにじませた。決断するまでの知事の立場を思いやるが、それでも「私たち県民が怒りの声を上げていかなければ、現状は何も変わらない。ぜひ成功させましょう」と気持ちを切り替え、力強く話した。

 開催地となる北谷町の野国昌春町長は「知事の不参加は予測はしていたが、残念だ。本来なら先頭に立ってほしかった。大会に向けて足並みがそろわない面もあるが、全市町村議会で事件への抗議決議があったことは事実。大方の県民が米軍の事件・事故へ怒りを持っているはずだ」と大会の成功を願った。東門美津子沖縄市長は「県のトップとして出てほしいという気持ちはあったが、残念だ。最終的に本人が判断したことだから」と語った。


13首長は参加 名護市長ら北部からも


 二十三日に北谷町で開かれる「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」について二十一日までに、県内十三市町村の首長が参加を決めた。本島北部では島袋吉和名護市長のほか、島袋義久大宜味村長、高良文雄本部町長、與那嶺幸人今帰仁村長が参加する。

 島袋市長は「名護市辺野古でも住居侵入事件などが起きたこともあり、市長として参加する」と話した。高良町長は「北部市町村会でも、事件に対して抗議決議をしている」と述べた。

 このほか、翁長雄志那覇市長、知念恒男うるま市長、東門美津子沖縄市長、伊波洋一宜野湾市長、野国昌春北谷町長、安田慶造読谷村長、新垣正祐西原町長、新垣清徳中城村長、新垣邦男北中城村長が参加の予定だ。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803221300_02.html

 

2008年3月22日(土) 朝刊 2面

「負担軽減に影響」/米軍駐留経費 協定期限切れ懸念

 【東京】防衛省の豊田硬報道官は二十一日の定例会見で、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)に関する新特別協定案が国会承認を得られない可能性が出ていることについて「協定が発効できなければ、訓練移転の経費負担ができない」と述べ、現行協定が期限切れとなる四月以降、米軍嘉手納基地のF15戦闘機の訓練移転などが実施できないとの見通しを示した。

 同報道官は「地元の負担軽減の点で、将来的に影響が出てくる可能性もある」と指摘。「想定される問題について、米側とある程度話をしている」と述べ、協定の期限切れに伴う影響を米側にすでに伝達していることも明らかにした。新特別協定案は十八日に衆院で審議入り。衆院での承認は確実だが、野党が多数を占める参院では既に反対を表明している社民、共産両党に民主党が加われば不承認となる。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803221300_05.html

 

2008年3月22日(土) 朝刊 3面

ロシア軍機が沖縄周辺飛来

 【東京】防衛省統合幕僚監部は二十一日夜、ロシアのTU―142対潜哨戒機が同日の昼ごろ、北海道北側から太平洋を経由し、沖縄本島周辺までの往復飛行を確認したと発表した。

 統幕によると、同機は領空侵犯はしていないというが、領空が点在する伊豆諸島の間を通過し、沖縄本島の東側約二百キロの沖合まで飛行。航空自衛隊の戦闘機が対領空侵犯措置(スクランブル)で対応した。

 統幕は「ロシア機が沖縄周辺まで飛来するのは最近では聞いたことがない。特異な飛行だ」としている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803221300_06.html

 

2008年3月22日(土) 朝刊 31面

警官に暴行 米兵逮捕 容疑で那覇署

 那覇署は二十一日、男性警察官二人に暴行したとして、公務執行妨害の疑いで、米軍キャンプ瑞慶覧所属の海兵隊三等軍曹、アーロン・サンサリック容疑者(26)を現行犯逮捕した。

 調べでは、サンサリック容疑者は同日午後六時四十五分ごろ、那覇市内の路上で、同署の巡査部長(45)と巡査長(28)に擦り傷を負わせた疑い。同署員は、同容疑者と別居中の妻から夫婦間のトラブルを相談され、現場に同行。妻につかみかかろうとした同容疑者を制止した際に押し倒された。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803221300_07.html

 

琉球新報 社説

海自不祥事処分 問題は片付いていない 2008年3月22日

 イージス艦衝突事故や護衛艦「しらね」の火災など海上自衛隊の一連の不祥事を受け、石破茂防衛相は21日、海自隊員を中心に関係者の処分を発表した。

 防衛省の事務方トップ増田好平事務次官を減給10分の1としたほか、海自を統括する吉川栄治海上幕僚長を減給にした上で更迭するといった内容である。処分対象は計88人(延べ94人)に上る。防衛相や防衛副大臣、防衛政務官は給与の一部を2―1カ月返納する。

 イージス艦の衝突事故をめぐっては、連絡態勢の不備、その後の対応の不手際など組織的に問題を抱えている実態を次々に露呈した。国の危機管理を預かる官庁とは思えない失態だった。防衛省に対する国民の信頼は地に落ちたと言っていい。処分は当然だ。

 ただし今回の処分は、一つのけじめにすぎない。事故原因の解明はまだ終わっていない。なぜ事故は起きたのか、核心部分の究明はこれからだ。原因を徹底的に突き止め、その反省の上に立ち二度と同じ過ちを繰り返さないよう万全の再発防止策を講じなければならない。今回の処分で「幕引き」を図ることは許されない。

 共同通信の全国世論調査では防衛相の責任問題について「事故処理や再発防止策を取りまとめた後で辞任するべきだ」との回答が約6割に上った。防衛相はいま何をなすべきかを明示するものだ。

 処分と併せて公表したイージス艦事故の中間報告は、全体の対応評価について「衝突前の見張り員や当直員の配置など、艦全体として見張りが適切でなかった」と総括。漁船との位置関係からイージス艦に回避義務があったと指摘した上で「回避措置も十分でなかった可能性が高い」とした。

 実力部隊としての危機管理意識を著しく欠き、往来の過密な海域を漫然と航行していた緊張感のなさがうかがえる。文民統制にもかかわる問題だけに深刻だ。

 隊員の士気、組織体制をどう立て直していくか。単にマニュアルを書き換えるだけでは信頼の回復は遠のくばかりだ。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-130354-storytopic-11.html

 

2008年3月22日(土) 夕刊 5面

大会成功へ 事務局熱気/全国からも支援続々

 大会まであと一日―。「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」(二十三日、北谷球場公園前広場)実行委員会事務局は二十二日午前、スタッフらが電話やファクスの対応に追われ、慌ただしさと熱気に包まれた。仲井真弘多県知事が二十一日夜に大会不参加を表明したばかりだが、関係者は落ち込むことなく大会成功に向け、懸命の準備作業を続けている。

 午前十時、那覇市内の事務局にスタッフ四人が集合。前日夜遅くまで議論した決議文の事務局案を最終確認した後、知事の不参加を受けたプログラムの見直し、参加団体や登壇者の確認作業に追われた。午後に開かれる最終確認の幹事会用に資料データを打ち込みながら打ち合わせ。黒板に追加日程を書き込むなど、ギリギリの調整を続けた。

 その間にも、電話やファクスはひっきりなし。固定電話だけでは足りず、それぞれの携帯電話もフル活用し、関係者とのやりとりやマスコミ対応をこなした。

 開催が正式決定してからわずか二週間の「短期決戦」。スタッフの一人は「準備にあと一カ月ほしいくらいだったが、ようやくめどが立った。参加団体や住民からの反応がすごいので、うれしい。後は頑張るだけ」と声を弾ませた。

 事務局の机には、県外からの応援メッセージが。「県民大会は平和で公正な世界の創造に向けて大変意義深い。共に行動しましょう」(全国地域婦人団体連絡協議会)「沖縄はじめ全国の仲間と連帯して運動していく決意です」(福岡県労働組合連合)。そのほか東京都世田谷区や山形県の住民団体からも、米兵犯罪に抗議し、県民大会に賛同するファクスが届いている。

 事務局の国吉司さんは「個人で手紙や寄付を持ってきてくれる人もいる。とても心強い。何としても大会を成功させたい」と笑顔を見せた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803221700_02.html

 

2008年3月22日(土) 夕刊 5面

米ヘリ?提供施設外訓練/名護市安部

 【名護】米軍普天間飛行場の移設先、名護市キャンプ・シュワブ沿岸部に近い米軍提供施設外の安部オール島で二十日午後三時すぎ、米軍機とみられるヘリが離着陸訓練を少なくとも二回行っていたことが二十二日、分かった。米軍の運用の在り方があらためて問われそうだ。

 機体の型からCH46中型ヘリとみられる。目撃した男性(33)によると、キャンプ・シュワブ方向から大浦湾上空に飛行、安部オール島の南東側に降下。いったん、シュワブ方向に戻ったが、十分から二十分後に再び同島上空に現れ、着陸した。同島は民間地域で米軍提供施設外。

 目撃した男性は、大浦湾洋上で、普天間飛行場の移設に反対する抗議活動を行っていた。男性は「機体のトラブルなど緊急性があるようには見えなかった。普天間飛行場が移設されれば、こうした事は日常的に起こる」と訴えた。

 名護市の玉城政光政策推進部長は「週明けに、沖縄防衛局や米軍に、事実関係を確認したい」と話している。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803221700_03.html

陸自参加、ハンセン共同使用訓練 普天間代替、アセス調査本格着手 名護・宜野座に交付金など  沖縄タイムス関連記事・社説、琉球新報 社説(3月16日、17日、18日)

2008年3月16日(日) 朝刊 27面

検定問題 劇で再現/横浜の教員

 【横浜】教科書検定制度の問題点を訴えようと、東京と横浜に住む高校教員や主婦らが十五日、横浜市内で公演し、文部科学省と教科書会社とのやりとりなどを寸劇で再現した。

 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」への日本軍強制の記述を高校歴史教科書から削除した二〇〇六年十二月の文科省から教科書会社への検定意見通達や、教科書裁判の尋問など、文科省の役人、執筆者らの当時の様子を描いた。三人の解説員が問題の背景を補足。「誰も抗議しなかったら、検定の再審議もなかった。おかしいことをおかしいと言う大切さが目に見える形になった」と訴えた。

 家永教科書訴訟などを支援してきた市民らでつくる「教科書・市民フォーラム」が主催。脚本を書いた浜名早苗さん(48)は「誰にも知られず一方的な力関係で内容が決まる矛盾を伝えたかった。今後も劇を続け、検定制度の存在の是非を問いたい」と意義を語った。

 寸劇後には琉球大学の高嶋伸欣教授が講演、「今秋にも再訂正申請する執筆者らの意思表示があり、支援体制が必要」と強調した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803161300_03.html

 

2008年3月16日(日) 朝刊 26面

「孤児院で子の世話」/沖縄戦当時の従軍慰安婦

 韓国のナヌムの家・日本軍「慰安婦」歴史館の研究員らが県内の慰安所跡や「従軍慰安婦」にされた女性たち、朝鮮人軍夫についての聞き取り調査を始めている。同館のリニューアルに向け、沖縄戦当時の慰安婦の状況や新たな証言をまとめ、展示する予定だ。同館の村山一兵研究員は「沖縄戦中の慰安婦の状況について詳しくまとめ、六月ごろから展示したい」と準備を進めている。

 調査は十四日から十七日までの四日間。初日は一九四五年ごろ、羽地村(当時)の田井等孤児院で過ごした座覇律子さん(75)=本部町=と、沖縄戦中に朝鮮人軍夫が働く港近くに住んでいた友利哲夫さん(75)=名護市=が証言した。

 当時十三歳だった座覇さんは孤児院で元慰安婦だった女性らに育てられた状況を説明。「ササキのおばさん」と呼ばれていた元慰安婦について「日本語は分からないが、子どもたちの洗濯や世話をしてくれた。美人で、とても優しかった」と振り返った。

 孤児院近くにあった野戦病院でも元慰安婦の女性が看護師として働いていた。座覇さんは、孤児院を出た後に周りから女性らが慰安婦だったことを聞かされたといい、「慰安婦と言われてもまだ幼かったので、女性たちが何をされていたのかも分からなかった」と語った。戦後、女性らが帰国する記事を見て、「当時は無事に帰国するんだと思ったが、女性が大変なことをされたことを後で知った。今、当時を振り返ると帰国後どんな気持ちで暮らしているのかと思うと胸が苦しい」。

 ナヌムの家には現在、慰安婦にされた女性七人が生活している。同館には、渡嘉敷島で慰安婦として働かされたぺ・ポンギさんの生涯が展示されている。


従軍慰安婦の歴史継承訴え/平和会、街頭で寸劇


 平和運動に取り組む県内の大学生などでつくる「平和(ぴょんふぁ)会」メンバー約三十人は十五日、那覇市の国際通り周辺で、歴史教科書から削除された従軍慰安婦問題の継承を訴える寸劇や歌を披露した。

 「もうやめよう、慰安婦問題と性暴力」のメッセージや亡くなった慰安婦の写真などを掲げ、「日本軍に強制連行された被害者は戦後ずっと苦しんできて、今でも誤解や差別を受けている」と訴えた。歴史継承の思いを込めた「継いでゆくもの」を合唱。従軍慰安婦として連行された朝鮮人の女性が、周囲の人から差別される様子を表現した寸劇が演じられた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803161300_04.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年3月16日朝刊)

[アセス調査着手]

方法書にはまだ疑問点が

 防衛省は、米軍普天間飛行場の代替施設建設に向けた環境影響評価(アセスメント)方法書を再修正し県に提出した。

 方法書作成の手続きを終えたことで、沖縄防衛局はさっそく建設予定地でのアセス調査を開始、移設に向けた作業はさらに一歩進んだ。だが、方法書には問題が多く、アセス法の趣旨にかなっているとは言い難い。

 最初に県に送付された方法書はわずか七ページである。県環境影響評価審査会の審査に付せる中身でなかったのはいうまでもない。同審査会などの反発を受け、二〇〇七年八月に出てきたのが三百一ページの方法書だ。

 これも内容に不備があり約百五十ページの追加説明書を提出。さらに追加修正を加えたのが三百九十五ページの方法書である。この経緯をみただけでも、島津康男前環境アセスメント学会長の「わが国のアセス史上最悪の事例」という指摘はうなずけるのではないか。

 肝心要の航空機騒音予測結果も方法書にではなく別資料に記されている。「方法書の趣旨を完全に逸脱している」(島津氏)という批判に防衛省はどう応えるのだろうか。

 アセスを行う以上、正確な建設場所や工事内容、航空機の機種、飛行回数、飛行ルートなどすべて明らかにすべきであったはずだ。それを「現時点で飛行経路を特定するのは困難」というのでは、住民は納得できない。

 米軍の飛行場ということで情報が得られないのなら、事業の熟度に問題があると同時に方法書の要件を最初から満たしていなかったことになる。

 防衛省は米軍が「訓練の形態等」を明らかにした場合は必要な調査をするというが、明らかにしなかった時はどうするのか。その点についても住民が納得できる説明が必要だろう。

 県が求めたジュゴン調査の複数年実施を確約しなかったのも気になる。

 ジュゴンは国の天然記念物だ。環境省から絶滅の危険性が最も高い「絶滅危惧1A類」に指定されている。サンフランシスコ連邦地裁もまた、ジュゴンに関する環境影響評価文書の提出を求める判決を下しているからだ。

 防衛省は十五日から県の許認可を必要としない気温、風向などの気象調査と飛来塩分量の測定に入った。十七日には県や名護市にサンゴ採取なども申請するという。

 アセスに約一年かけて準備書を作成。県民の意見を募って評価書の策定作業に入るが、方法書のやり直しを求める声は根強い。環境に大きな負荷を掛ける計画だけに、アセスには慎重の上にも慎重を期す。それが国の責任だ。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080316.html#no_1

 

琉球新報 社説

アセス開始 見切り発車は認められない 2008年3月16日

 さまざまな疑問点を残したままでは、見切り発車との批判は免れまい。米軍普天間飛行場代替施設建設に関し、沖縄防衛局は15日、辺野古近海でのアセス調査に着手した。

 環境影響評価(アセスメント)方法書の書き直しの県意見を受けて、再修正を加えた方法書確定版を防衛局が県に提出したことを受けてのものだ。確定版とはいうが、これまで指摘された疑問などについて明確に答える内容にはなっていない。2014年の建設完工に向けて、とにもかくにも手続きを進めたい、という国のなりふり構わぬ姿勢ばかりが目立つ。

 確定版では、県が繰り返し求めてきたジュゴン調査の複数年実施やヘリなどの飛行経路、訓練形態など、最後まで明らかにしていない。普天間基地の移設は危険の除去という大義名分がある。が、この間の国の対応を見ると、こうした県民の不安や要望にどれだけ応えたのか。さらに、違法との指摘の強い事前調査(環境現況調査)をはじめとして、事業の進め方そのものも、当初から県民にとって納得のいかないものだ。

 07年には県に対し、方法書を強行に送付したかと思えば、事前調査に海自の掃海母艦「ぶんご」を投入。県民の大きな反発を呼んだ。方法書についても事業の実施に影響するような重要な事実を後から後から出してくる。護岸や弾薬搭載エリア、洗機場建設などなど。まるで「後出しジャンケン」だ。加えて、オスプレイ配備や民間上空の飛行は、国はいまだに認めようとはしない。

 一事が万事。情報は可能な限り住民には隠し、施策を思い通りに進めようとする、典型的な事なかれ主義と言える。むしろ、情報を事前に公開し、地域住民の理解を得ようとする米側に比べても日本政府の態度はお粗末。「よらしむべし、知らしむべからず」。官僚のあしき体質を、これでもか、という具合に見せつけてくれた。

 方法書の書き直しが2回。知事意見については3回。どう見ても異常な行政手続きではないか。環境保全を最大の目的とする環境影響評価法の精神を、これほど踏みにじる例もあるまい。単に、アリバイづくりでアセスを実施していると言われても仕方がない。

 住民と混在する危険な普天間飛行場をそのままにはしておけない。一刻も早く撤去すべきというのは県民の総意だろう。ただ、代替施設の県内移設は認められないというのが私たちの立場だ。オスプレイ配備や民間上空の飛行などを考えても、新基地建設で危険が取り除かれるとは思えない。「危険のたらい回し」でしかない。

 この際、危険の除去という原点に立ち返り、日米両政府とも県外移設を真剣に再検討すべきだ。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-32210-storytopic-11.html

 

2008年3月17日(月) 朝刊 2面

陸自参加 きょう/ハンセン共同使用

 在日米軍再編に伴う、陸上自衛隊第一混成団(那覇市)による米軍キャンプ・ハンセンの共同使用が十七日、始まる。在沖米軍専用施設の日米共同使用は初めて。第一混成団第一混成群(鈴来洋志群長)から一個中隊基幹約百五十人が参加し、野営訓練やロープ降下訓練などを実施する。十八日まで。

 陸自によると、八九式小銃や機関銃を装備するが、今回は空砲を含め、射撃訓練や爆破訓練は実施しない、と説明している。

 二〇〇八年度以降は、小火器(小銃、機関銃、拳銃)を使用した射撃や不発弾処理訓練を予定。将来的に迫撃砲の実弾射撃やヘリコプターを使用した救難訓練も想定。在沖米海兵隊との共同訓練も視野に入れている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803171300_03.html

 

2008年3月17日(月) 朝刊 23面

「真実伝えて」高1切実/「集団自決」大阪で座談会

 【大阪で西江昭吾】中学の授業で沖縄戦を学んだ大阪府内の高校一年生らが恩師とともに集まり、「集団自決(強制集団死)」をめぐり問題となった教科書検定や米兵暴行事件などについて語り合う座談会が十六日、吹田市の公民館であった。四月から日本史の新教科書を使うことになる生徒らは「極限状態で起きた事実をなかったとしてはいけない」と胸の内を語った。

 「授業で使う教科書が沖縄戦についてあいまいだと、習う側が分からなくなる」と指摘したのは柿ケ原さん。薮下愛さんも「周りは地上戦があったことは知っているけど、実態までは知らない。発表の機会があれば習ったことを伝えたい」と思いを語った。末也 依然後を絶たない米兵の事件・事故について三宅充啓君は、沖縄と本土も憤りの温度差があるとし、「なかなかできない意識の改革には日本の法律を守らせるよう日米地位協定を変えてほしい」と話した。

 二十八日の判決が迫った「集団自決」訴訟について、玉置晋太郎君は「軍の命令はなかった、と言う人もいるが、手榴弾を渡された事実があり(証言の根拠としても)強いのではと思う」と感想。中島拓哉君は「悲惨な出来事を今後もあやふやに伝えたくない」と決意を述べた。

 生徒らは二〇〇六年四月から一年間、同市内の西山田中学で平井美津子教諭らから指導を受けた。修学旅行の時、事前に沖縄の歴史を十六時間学習。県内でも壕や基地を巡った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803171300_04.html

 

沖縄タイムス 社説(2008年3月17日朝刊)

[陸自の共同使用]

雲散霧消する「負担軽減」

 陸上自衛隊第一混成団(那覇)が十七日から二日間、米海兵隊のキャンプ・ハンセン演習場で訓練を実施する。

 研修という名の部隊間交流は県内でも過去に何度も行われているが、沖縄の陸上自衛隊が県内の米軍演習場で正式に訓練をするのは初めてである。

 参加するのは第一混成団第一混成群の隊員約百五十人。約二十メートルの訓練塔を利用したロープ降下訓練や野営訓練などが予定されている。実弾は使用しないという。

 訓練の内容は、陸上自衛隊が日常的に実施している小規模なもので、特にどうということはない。だが、二〇〇六年五月に合意された在日米軍再編計画に基づく今回の訓練は、米軍再編の性格を雄弁に物語るもので、政治的な意味は大きい。

 「日米防衛協力のための指針」(旧ガイドライン)がまとまったのは一九七八年十一月。ガイドライン策定を機に日米共同訓練が活発化した。同時期の七八年十月に沖縄を訪問した永野茂門陸上幕僚長は、第一混成団の隊員を前に「米軍の演習場を共同使用することが望ましい」と語っている。

 あれからちょうど三十年。第一混成団にとって、創隊以来の悲願がようやく実現することになる。住民の根強い反自衛隊感情を考慮して隠忍自重してきた自衛隊からすれば、今回の訓練はエポック・メーキングな出来事なのである。

 だが、住民側から見た場合、自衛隊の共同使用は、負担軽減に逆行する動きと言うほかない。

 将来的には機関銃、対戦車用火器、迫撃砲などを使った実弾射撃訓練が予想される。さらに次の段階として想定されるのは在沖米海兵隊との共同訓練だ。現時点で計画がないからといって将来も実施しないという保障はない。

 第一混成団はこれまで、迫撃砲などの実弾射撃訓練や大掛かりな演習は、九州の大矢野原、日出生台などの演習場を利用してきた。その基調はすぐには変わらないだろうが、ハンセンでできるものはハンセンで、という内部圧力は間違いなく高まってくるはずだ。

 地元の金武町、宜野座村、恩納村は、米軍再編交付金と引き換えに自衛隊の共同使用を受け入れた。苦渋の選択には違いない。だが、米軍再編の目的の一つが沖縄の負担軽減であったことを忘れるわけにはいかない。

 在日米軍再編計画に基づいて本土への訓練移転が行われている嘉手納基地でも、負担軽減の側面が後景に追いやられ、逆の現象が目立つ。この計画、やはり無理があると言わざるを得ない。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20080317.html#no_1

 

琉球新報 社説

防衛省「裏金」 不正の温床を断ち切れ 2008年3月17日

 税金は、国民が血の出るような苦心をして納める重さから「血税」といわれる。その血税を、官僚らが「裏金」化して私的に流用していたとしたら、大問題である。疑惑が指摘された時点で実態解明に努め、早期に公表するのは当然であろう。

 ところが、この当然のことを、指摘された省庁が事実上放置していたという。国会で大臣が「調査中」と答弁しているにもかかわらずだ。あきれて言葉もないが、なぜ放置したのか、納税者が納得する説明を求めたい。

 問題の省庁は防衛省である。同省は前事務次官の逮捕やイージス艦衝突事故など不祥事続きで、またかの感もあるが、疑惑をうやむやにされては困る。

 今回は、情報収集を主な目的とする報償費の多くを架空の領収書で裏金化したという疑惑である。OBらの名前を使って協力者から情報提供を受けたと見せ掛け、架空の領収書を大量に作成。報償費は表向きの収支上、ほぼ使い切った形とし、裏金に変える。実に手の込んだ仕組みだ。

 2007年度予算の場合、防衛省分の報償費は約1億6000万円だが、ひねり出したプール金の総額は少なくとも数千万円に上るとされる。国会では、こうした幹部らの裁量で使えるような不正経理を組織ぐるみで長年続けていた疑惑が指摘された。

 これに対し、石破茂防衛相は調査中と繰り返し、時期を明示せず「中間報告」を検討する意向を表明した。にもかかわらず、省内では裏金の具体額の報告を求めないなど内部調査を事実上放置していたことが分かった。

 疑惑を払いたいなら、調査に及び腰になることはあるまい。それとも裏金が広範囲にわたり、調べれば収拾がつかなくなるということなのだろうか。どちらにしろ、問題発覚から4カ月が経過している。放置は許されないし、防衛トップの責任が問われよう。

 事態を重く見て、会計検査院が領収書や帳簿などの調査に乗り出すという。実態を明らかにし、不正の温床があるのなら、断ち切ってもらいたい。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-32237-storytopic-11.html

 

2008年3月17日(月) 夕刊 1面

アセス調査本格着手/普天間代替

 米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への代替施設建設に向け、沖縄防衛局は十七日、環境影響評価(アセスメント)調査のうち、海域で海藻草類やサンゴ類の生息状況などを調べる準備に入った。午前八時ごろ、名護市の汀間漁港に調査船など約十隻が確認された。しかし、周辺海域でジュゴンが遊泳しているとの情報があり、午後一時現在、出港していない。沖縄防衛局は方法書を提出する前の昨年五月、事前の海域調査を行っていたが、本格的なアセス調査に着手する。

 沖縄防衛局は、辺野古ダムの水質調査などを行うため同日、名護市に許認可を申請した。県に対しても、サンゴ類や海藻草類、ウミガメの卵の殻など採取に必要な項目など計九項目について許認可申請を行う。

 島袋吉和名護市長は同日午前、「市民の意見を聞きながら適切に対処したい」と述べた。県や名護市は随時、許可を出す予定だ。

 海域調査については、汀間漁港で同局がチャーターした漁船などに機材を搬入する様子が確認された。だが、名護市安部オール島周辺でジュゴンの遊泳が確認されたという情報がある。防衛局は調査船の出港を控え、ヘリコプターを飛ばして目視調査を行っている。

 沖縄防衛局は十四日、アセス方法書の追加修正資料の修正版を県に提出して、方法書を確定した。十五日から県の許認可などを必要としない調査に着手し、風向きや風速、気温、湿度などを計測する大気質にかかる気象調査や、沿岸部で海からの塩分の飛来量を測定する調査を開始していた。


     ◇     ◇     ◇     

ジュゴン調査止める/反対派「自ら訴え」


 【名護】「ジュゴンも、基地を造るなと訴えている」。米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への代替施設建設のための環境影響評価(アセスメント)調査に向かう沖縄防衛局の調査船は十七日午後一時現在、出港を見合わせている。同市の安部オール島周辺海域でジュゴンの遊泳情報があったため、配慮したもの。

 同日午前八時、名護市汀間漁港でシュワブ周辺海域の海藻草類やサンゴ類などの生息状況調査のための調査船への調査機材の積み込み作業などが開始されたが「ジュゴン情報」で、作業員らは同港で待機を続けている。

 市民団体のメンバーらも船二隻とゴムボート三隻で阻止行動を行うため待機している。

 辺野古で座り込みをしているヘリ基地反対協議会の安次富浩代表委員は「ジュゴンが自分の生息環境を壊すなと訴えている」と話した上で「海を埋め立てて、基地を造ること自体が時代に逆行している。米兵絡みの事件・事故も、基地がある限りなくならない」と訴えた。

 平和市民連絡会の当山栄事務局長は「追加・修正を繰り返した違法なアセスは容認できない。事前調査と組み合わせることも許されない」として、アセスの即時中止と方法書の見直しを求めた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803171700_01.html

 

2008年3月17日(月) 夕刊 1・5面

ハンセン陸自共同使用を開始

 在日米軍再編に伴う、陸上自衛隊第一混成団(那覇市)による米軍キャンプ・ハンセンの共同使用が、十七日正午ごろ始まった。

 陸自が在沖米軍専用施設で単独訓練を行うのは初めて。

 金武町のキャンプ・ハンセン第三ゲートでは同日午前七時半ごろから、第一混成団第一混成群のトラックやジープなど約三十台が施設内に入ったとみられる。

 訓練には第一混成群(鈴来洋志群長)から一個中隊約百五十人が参加し、野営訓練やロープ降下訓練などを実施した。89式小銃や機関銃を装備しているが、今回は空砲を含め、射撃、爆破訓練は行わない方針だという。


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基地強化に抗議/ハンセン前で労組集会


 【金武】十七日に始まった陸上自衛隊第一混成団(那覇市)による米軍キャンプ・ハンセンの共同使用に対し、沖縄平和運動センター、北部地区労などは同日午前、キャンプ・ハンセンのゲート前で、抗議集会を開いた。集まった約二十五人が、共同使用を止めるよう求めた。

 同センターの山城博治事務局長は「自衛隊が県民の前に堂々と現れ、米軍と共同訓練を行う。さらなる基地の強化になり、恐怖を覚える」と怒りの声を上げた。

 同地区労の仲里正弘議長は「きのうも沖縄市で外国人によるものとみられる強盗事件が起きた。米兵の中には、イラク戦争で精神が荒廃した者も多く、沖縄での相次ぐ事件・事故と無縁ではない。そういう状況での共同訓練。断固反対する」と訴えた。

 参加者たちは「共同訓練をやめろ」と、シュプレヒコールを上げた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803171700_02.html

 

2008年3月17日(月) 夕刊 5面

地位協定改定で決議へ/あす那覇市議会

 那覇市議会は十八日の市議会二月定例会の最終本会議で、相次ぐ米兵事件に抗議する意見書を可決する。米軍基地の整理・縮小のほか、日米地位協定の具体的な中身にまで踏み込み、抜本的な改定の早期実現を求める。

 日米地位協定の施設・区域に関する措置や環境保全、施設返還、裁判権などに関する条文を列挙し、明記すべき具体的な文言の改正を求めている。

 施設・区域に関する措置では「合衆国軍隊は施設および区域が所在する地方公共団体に対し、事前通知後の施設および区域への立ち入りを含め、公務を遂行する上で必要かつ適切なあらゆる援助を与えること。ただし、緊急の場合は、事前通知なしに即座の立ち入りを可能にする旨を明記すること」としている。

 意見書では「度重なる事件・事故等の発生は、米軍関係者優先の日米地位協定にも起因するものであることは言うまでもない」と指摘。(1)実効ある米軍基地の整理・縮小(2)海兵隊を含む米軍兵力の大幅な削減―に加え、「日本の主権と国民の基本的人権に制限を加える不平等な『日米地位協定』の抜本的改定を求める」としている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803171700_04.html

 

2008年3月18日(火) 朝刊 1面

名護・宜野座に交付金/再編への「協力」評価

2年分総額14億円

 【東京】政府は十七日、在日米軍再編への協力の見返りに自治体に支払う再編交付金を、米軍普天間飛行場移設先の名護市、宜野座村へ交付する方針を固めた。島袋吉和名護市長が十二日の市議会で代替施設建設計画について「(移設に関する)協議会での議論の結果に基づき適切に対応していきたい」と米軍再編への「理解」を表明。移設に向けた環境影響評価(アセスメント)でも沖縄防衛局のアセス調査を許可し、「協力姿勢」を示す見通しとなったことで、交付要件を満たすと判断した。

 再編交付金を規定する「米軍再編推進法」は、交付要件に、米軍再編への「理解と協力」を求めている。

 これまで他の北部自治体とともに「島袋市長を支援する」と歩調を合わせてきた宜野座村も、名護市が「理解と協力」の姿勢を示したことで、自動的に「協力自治体」とみなされた。

 防衛省は近く、財務省と本格的な事務調整に入る。石破茂防衛相が月内に、名護市、宜野座村を再編交付金の交付対象となる「再編関連特定市町村」に指定し、官報で告示する予定だ。

 「米軍再編推進法」は再編の進ちょく率を(1)交付自治体に指定(10%)(2)アセス調査着手(25%)(3)工事着工(66・7%)(4)再編実施(100%)―の四段階に分類。

 進ちょく率の四段階目に相当する代替施設完成で支払われる再編交付金の上限額(100%分)は単年度で約四十億円に上る見込み。名護市と宜野座村の配分率は代替施設が占める面積などで案分されるが、おおむね五対一となる見込み。

 米軍再編推進法の施行年度である本年度の分は、再編交付金の交付対象となる「防衛施設」を指定した十月末時点の進ちょくで交付額を決定するため、上限額の10%分に相当する約四億円が支払われる見込み。

 ただ、本年度内の予算措置は補正予算成立後で困難であるため、二〇〇七年度分は〇八年度に繰り越す見通し。〇八年度以降は基準日が法律上四月一日とされるため、アセス調査の開始を受け十億円が支払われ、〇七年度分を合わせ総額十四億円になる。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803181300_01.html

 

2008年3月18日(火) 朝刊 2面

普天間代替 海域調査見送る/ジュゴン確認で

 米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への代替施設建設に向け、沖縄防衛局は十七日、環境影響評価(アセスメント)調査のうち、海域で予定していた海藻草類等の海域調査を見送った。周辺海域でジュゴンを確認したためで、同報道室は「(個体に)配慮し、念のため実施を見合わせた」と述べた。十八日以降に調査に入る見通し。

 十七日はヘリコプターで上空からジュゴンの目視調査を行って対応した。沖縄防衛局は十四日に確定したアセス方法書で「ジュゴンが確認された場合は速やかに作業を一時中断するなど適切に対応する」と定めていた。

 また同局は十七日、アセス調査のうち、県や名護市の許認可が必要な九項目について、八項目の許認可を申請した。サンゴ類や海藻草類、ウミガメの卵の殻の採取については県水産課に申請した。

 県に求める河川での水質調査の項目については調整中で、まだ申請していない。県や名護市は随時、項目ごとに許可を出す予定。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803181300_02.html

 

2008年3月18日(火) 朝刊 1面

ハンセン内陸自が訓練

 在日米軍再編に伴う陸上自衛隊第一混成団(那覇市)による金武町の米軍キャンプ・ハンセン共同使用で十七日午後、初めて在沖米軍専用施設で単独訓練を行う陸自の様子が上空から確認できた。

 山すそに建てられたコンクリート製のタワーで整列する隊員の姿や陸自車両があった。ロープ降下訓練を実施したとみられる。近くには射撃場や造成中の施設が数カ所あった。一個中隊約百五十人が参加する訓練は十八日も行われる。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803181300_03.html

 

2008年3月18日(火) 朝刊 29面

5市町村に実行委/県民大会

 北谷町で二十三日に開かれる「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」に向け、沖縄市と北谷町、与那原町、読谷村、大宜味村で十七日までに、市町村実行委員会が立ち上がった。各実行委は、構成団体を通して住民らに大会参加を呼び掛ける。

 北谷町の実行委には子ども会育成連絡協議会、女性連合会など九団体が加わった。実行委員長の野国昌春町長は「短期間の取り組みだが、周知徹底も含め協力をお願いしたい」と述べた。

 読谷村の実行委は、村議会や村PTA連合会など二十三団体で構成。実行委員長の安田慶造村長は「県民の怒りを対外的に示す必要がある」と訴えた。

 沖縄市実行委は、東門美津子市長、大宜味村実行委は島袋義久村長をそれぞれ実行委員長に選出した。

 与那原町の実行委は町民有志約三十人で組織する「町民が主人公の与那原をつくる会」を中心に活動。十四日の初会合で、共同代表に津多則光氏と根川清義氏が就任した。


知事参加を要請 実行委


 米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会の実行委員会幹事会の玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会長らは十七日午後、県庁に上原昭知事公室長を訪ね、仲井真弘多知事の大会出席を要請した。

 玉寄会長は「(大会内容は)県議会の抗議決議の範囲内だ」とし、知事の出席を求めた。上原公室長は「知事は、いろいろな人の意見を聴いて判断したいとしている。要請は知事に伝えたい」と答えた。

 玉寄会長らは、県議会の仲里利信議長や同議会自民会派にも出席を要請した。

 日本共産党県委員会(赤嶺政賢委員長)の村山純委員長代理と、前田政明県議も同様に要請した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803181300_04.html

 

2008年3月18日(火) 夕刊 1面

普天間代替 アセス海域調査開始

 【名護】米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への代替施設建設に向け、沖縄防衛局は十八日午前、海藻草類やサンゴ類の生息状況などの調査に着手し、初めて海域での環境影響評価(アセス)の作業に入った。当初は十七日からの予定だったが、周辺海域でジュゴンを確認したため見合わせていた。

 汀間漁港で調査機材を積み込んだ調査船など約十隻は、八時半ごろから北側の嘉陽海域へ向かった。波はやや高かったが、リーフ内を中心にボートで調査員をえい航して海面から調査するマンタ法による生息調査のほか、ダイバーが水中に潜って写真撮影し、ボードに記録している様子などが確認された。

 一方、市民団体メンバーらは、阻止活動のため船二隻とゴムボート二隻を出した。しかし、海域の状況が悪いため、辺野古沖海上で警戒活動を続け、嘉陽沖までは船を出しておらず、午前中は調査船との衝突は確認されていない。

 平和市民連絡会の当山栄事務局長は「防衛局は何度もジュゴンの生態を無視した調査を行っていたのに、報道陣が多い時に環境への配慮をアピールした印象だ。辺野古海域での調査阻止を重点に、新基地建設計画を阻止する」と訴えた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803181700_01.html

 

2008年3月18日(火) 夕刊 4面

地位協定改定 12項目求める/那覇市議会

 那覇市議会(安慶田光男議長)は十八日午前の二月定例会最終本会議で相次ぐ米兵事件に抗議し、基地の整理・縮小、日米地位協定の抜本的な改定の早期実現に関する意見書案を、全会一致で可決した。

 地位協定の条文関係など12項目を列挙し、それぞれ明記すべき具体的内容を盛り込んだ。

 意見書は「暴行事件発生後も米兵による事件が相次ぎ、米軍と日本政府の再発防止や綱紀粛正、日米地位協定の運用改善による対応は十分ではなく、県民の怒りは限界まで達している」と指摘。

 地位協定改定のほか、(1)実効ある米軍基地の整理・縮小(2)海兵隊を含む米軍兵力の大幅な削減―を求めた。

 あて先は衆参両院議長、首相、法務・外務・防衛・環境・沖縄および北方対策担当大臣。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200803181700_04.html