社説(2007年5月12日朝刊)
[国民投票法案]
民意をくみ取るべきだ
衆参の「数の力」は理不尽
参院憲法調査特別委員会は十一日、憲法改正手続きを定める与党提出の国民投票法案(憲法改正手続き法案)を自民、公明の賛成多数で可決した。
先月十三日の衆院通過に続き、十四日の参院本会議で与党の賛成多数で可決され、成立する見通しだ。
国民投票法案は手続き法とはいえ、
憲法改正、特に「戦争放棄と戦力の不保持」をうたう九条の変更と密接に絡む重要法案である。
本来、与野党が民意をくみ取りつつ、十分に審議を重ねて「公正、公平、中立」な制度の実現に向け合意を達成するのが筋だったはずだ。
それが衆参両院とも「数の力」で採決されるのは理不尽であり、極めて遺憾と言わざるを得ない。
参院特別委では「審議は十分尽くした」とする与党側に対し、民主、共産、社民、国民新の野党四党は「中央公聴会も実施されていない。審議が不十分」と主張し、採択に反対した。
しかし、与党が付帯決議をすることで譲歩したことを評価、採決では衆院可決時のような混乱は回避された。
付帯決議は、最低投票率制度の是非の検討や投票権者の年齢を十八歳に引き下げる法整備など、今後の検討課題として十八項目を挙げている。
投票権を二十歳以上ではなく、十八歳以上に引き下げているが、国民の意思を確認するために行われるのだから、まず投票率が問題となる。十八項目の中で、最も重大な論点といえる。
参院の審議では野党側から、一定の投票率に達しない場合は投票を無効とする「最低投票率」を設けるべきだとの指摘が相次いだ。
憲法九六条は、国会の憲法改正の発議について「(衆参両議院の)総議員の三分の二以上の賛成」と厳格に定める一方で、国民投票の承認については「その過半数の賛成」としている。
その過半数とは、実際に投票所に行き、賛成・反対の明確な意思を表示した投票権者、つまり有効投票の過半数であることは明白だ。
だが、法案には何の制約もない。投票率がどうあろうと有効投票総数の過半数が賛成すれば改憲案が承認されることになっている。
地方公聴会では賛否両論
現憲法には、最低投票率を法律で定めるようには書いていないからという理由で、最低投票率を設定することは違憲だという主張さえある。
しかし、現憲法には国民投票法をつくること自体も明記されていないのであり、それらの解釈も含めて今後の論点となろう。
参院特別委の地方公聴会では、最低投票率について公述人から賛否両論の意見が出された。
「投票のボイコット運動で多数決による民主主義が影響されるのではないか」「一部の意思のみで憲法が変更されると正当性を損なう。少なくとも過半数の投票が成立要件になるべきだ」「ボイコット運動などで要求される投票率を超えられないなら、改正の機が熟していないと判断すべき」などだ。
いずれにせよ、最低投票率の定めがないことが大きな問題であり、最低投票率、あるいは絶対得票率を定めるのは避けて通れないはずだ。
公務員や教員がその地位を利用して国民投票に関する運動を禁止するのも問題である。
罰則がないとはいえ、「団体の力で学生に影響を与える恐れがある」と運動禁止を支持する人もいれば、逆に「職種による人権や人格権の否定につながりかねない」との声も強い。
憲法改正、現実の政治課題に
法案では、投票日の二週間前まで改憲についての有料意見広告をテレビやラジオに出すことが許されている。
資金力があればいくらでも改憲の主張がマスメディアを通じて国民にアピールできるわけであり、改憲に有利に働くのは明らかだ。
今後の論議は、国民投票法成立を受け、七月の参院選後の臨時国会で衆参両院に設置される憲法審査会に主舞台が移る。
三年間は改憲案の提出、審査は凍結され、現行憲法の問題点などの調査が進められることになる。
安倍首相は「自民党は新憲法草案をつくって改正の意思表示をし九条は変えると決めている」と述べ、憲法九条を含む改憲の是非を夏の参院選で争点としたい考えをあらためて表明した。
憲法改正が現実の政治課題となり、国民一人一人が真剣に向き合わなければならない局面に入っている。
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070512.html#no_1
2007年5月13日(日) 朝刊 1・23面
復帰「評価」89% 沖縄タイムス復帰35年世論調査
「本土と格差」87%/基地縮小85%が望む
十五日で本土復帰三十五周年を迎えるのを前に、沖縄タイムス社が実施した県民世論調査で、県民の89・3%が復帰して「よかった」と評価する一方、87・1%は沖縄と本土の間に「格差」があると感じていることが分かった。「格差」を感じているもので最も多かったのは「所得」(48・1%)だった。米軍基地については、「段階的に縮小」(70・0%)、「ただちに全面撤去」(15・4%)を合わせ八割強が縮小を求めている。沖縄の米軍基地を縮小するため、本土移転に「賛成」と回答したのは約半分の52・4%だった。
復帰して「よかった」と回答した人に理由を聞いたところ、「本土との交流が盛んになった」が41・2%で最も多かった。次いで、「経済的に豊かになった」(19・5%)、「道路や公共施設がよくなった」(15・5%)の順だった。
逆に、復帰して「よくなかった」と回答した人の理由では「経済的に豊かにならなかった」で33・3%が最多。「自然破壊が進んだ」「基地問題が解決していない」がともに23・3%だった。
「沖縄らしさ」が残っていると感じているもので、最も多かったのは「伝統文化」49・4%。「沖縄らしさ」が失われたものとしては「自然」(29・4%)、「方言」(26・5%)、「独自の食生活」(19・8%)の順だった。将来にわたって沖縄が大切にしていくべきことは、「平和・戦争を忘れない」(42・1%)が最も多く、「助け合いの心・ユイマールの精神」(21・6%)、「豊かな人情・優しい心」(9・9%)と続いた。
沖縄戦の体験などを次の世代に語り継ぐことについては、「すすんで語り継ぎたい」(51・3%)と積極的で、「尋ねられたら話す」(40・1%)を合わせ約九割が戦争体験継承の必要性を感じていることがうかがえる。
中高年を中心とした沖縄移住ブームに対しては、「地域経済が活性する」(34・8%)と「過疎化に歯止めがかかる」(13・4%)との肯定的とらえ方がある一方、「地域のまとまりが薄れる」(17・3%)と「独自の自然・文化が損なわれる」(25・9%)など否定的な見方もあり、評価が分かれている。
▽調査の方法 県内の有権者を対象に六日、コンピューターで無作為に抽出した番号に電話をかけるRDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)法により実施した。八百人が回答。内訳は男性49%、女性51%。
◇ ◇ ◇
沖縄らしさ 文化に健在/方言にも危機感26%
復帰から三十五年たち、伝統文化は再興の兆しが見られるが、自然や方言は失われつつある―。沖縄タイムス社の県民世論調査で「沖縄らしさ」について尋ねたところ、県民のこんな意識が浮かび上がった。過去の調査と比べて、傾向は顕著になっている。県外出身者と接して「歴史の違い」を感じ、沖縄移住ブームには複雑な視線を向けている。
沖縄らしさの設問では、残っているものとして49・4%が「伝統文化」を選んだ。失われたとしたのは4・6%で、文化継承の自負が表れた。残っているとしたのは一九九七年調査で28%、二〇〇二年調査では21%で、一気に増加した。
一方、残っているものとして「自然」を挙げたのは7・5%にとどまり、29・4%が失われたとした。失われたと答えたのは九七年調査で17%、〇二年調査では11%で、危機感は深まっている。
同様に、「方言」も残っていると考えているのは9・3%にすぎず、失われたものに挙げた人が26・5%に上った。失われたとしたのは九七年は10%、〇二年は9%で、大幅に増えている。
年代別では、伝統文化が残っていると答えたのは五十代が最も多かった。自然、方言が失われたと考えている人が多かったのはそれぞれ三十代、二十代だった。
このほか、「助け合いの心」は「残っている」が16・3%、「失われた」が16・6%と見方が分かれた。「独自の食生活」は「残っている」が14・8%、「失われた」が19・8%だった。
将来も沖縄が大切にすべきことを聞いた質問では、「平和・戦争を忘れない」が42・1%でトップ。「助け合いの心・ユイマールの精神」21・6%、「豊かな人情・優しい心」9・9%と続いた。
「自然」8・8%、「祖先崇拝」8・1%、「文化」4・1%、「国際化」3・0%の順に挙がり、「本土との結びつき」は1・5%で最下位だった。
県外出身者に自分たちと違う面を「感じる」と答えた人は62・0%。「感じない」は35・3%だった。復帰後に成長した世代でも「感じる」と答えたのが二十代で59・4%、三十代で71・6%と多数を占めた。七十歳以上は「感じる」と「感じない」が47・5%で同率だった。
違いを感じる点は「沖縄と本土の歴史の違い」が40・1%と最多。続いて「言葉や話し方」18・3%、「時間の感覚」17・5%、「会社や団体など組織との結びつき」15・3%、「天皇や皇室に対する気持ち」7・7%が挙がった。
「歴史の違い」を選んだのは六十代が最も多かった。「言葉や話し方」は七十歳以上、「時間の感覚」は二十代がそれぞれ最多で、年代によって感じ方に差があった。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705131300_01.html