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沖縄タイムス 関連記事(12月29日、30日、31日)

2007年12月29日(土) 朝刊 1・27面

実行委の存続決定/「軍強制」回復目指す

 「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員会が二十八日、県議会で開かれ、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」をめぐる高校日本史教科書の記述で、教科書会社からの訂正申請に対する文部科学省の決定についての見解や、今後の対応を話し合った。実行委は解散せず、来年一月に文科省に対して「日本軍による住民への強制」を示す記述の回復や、検定意見撤回などを求める要請行動をすることが決まった。

 同実行委の仲里利信委員長は、「ほかの実行委の理解が得られた場合、実行委は解散する」との見通しを示していた。だが、この日の議題に「組織の存続、解散」は上がらず、一月の要請行動を決めたことで当面の解散はなくなった。

 同実行委は、訂正申請に対する文科省の決定について「(教科用図書検定調査審議会が示した)基本的とらえ方の結果、『日本軍による強制』の記述がなくなるという重大な問題が生じている」「文科相談話でも検定意見撤回や、教科書検定で沖縄戦の記述改ざんの再発防止措置などに何ら触れていない」と批判し、「到底許すことは出来ない」とした要請文を採択した。

 一月に実行委のメンバーが上京して、福田康夫首相や渡海紀三朗文科相に要請文を手渡し、検定意見の撤回や、沖縄戦の「集団自決」に触れた教科書記述での「日本軍による強制」の語句の承認をあらためて求める方針だ。

 仲里委員長は「ある程度の記述が回復したことで、検定意見も撤回された」との見方を示しているが、実行委内には文科省の決定への厳しい意見も多いことから、実行委の「公式見解」では批判を強めることになった。


     ◇     ◇     ◇     

「軍強制」復活へ決意新た


 県民大会実行委員会の存続が決まった。沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を示す記述を削除させた教科書検定問題で同実行委は二十八日、県庁で話し合いを持ち、来年一月に文部科学相などに「軍強制」の記述復活などを再要請することを発表した。仲里利信実行委員長(県議会議長)は、教科用図書検定調査審議会の報告内容に対し「不満は残るが記述はほぼ回復された」として実行委の「解散」も検討していた。当面の存続が決まったことで、活動の継続を望んでいたほかのメンバーからは安堵の声が上がった。

 同実行委の玉寄哲永副委員長は「多くの県民から『実行委の存続を』と言われていたので、安心した」と述べた。「超党派の『県民党』で実行委の活動を続けるには、県民の力が必要。実行委は検定意見の撤回と『軍の強制』の記述回復の二つは絶対に譲らない。一歩一歩、県民の思いを前に進めていくので支えてほしい」と呼び掛けた。

 県PTA連合会長の諸見里宏美会長と、元女子学徒隊でつくる「青春を語る会」の中山きく会長は、いずれも「ほっとした」と話す。諸見里会長は「年明けには中学教科書の見直しも始まる。今回のようなことにならないよう、しっかりと文科省の動きを見据えないといけない」。中山会長は「ここで解散したら、沖縄の願いはこの程度だと見透かされる。政府の思うつぼだ」と強調した。

 この日の実行委員会では、検定意見の撤回や「軍強制」を求める要請文を全会一致で可決。しかし、ある実行委員からは、「実行委は超党派の組織だが、幹部の意見が解散か存続で割れている気がする」と、同委員会の存続を不安視する声も出た。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712291300_01.html

 

2007年12月29日(土) 朝刊 2面

F15、10機の点検完了/飛行再開時期は不明

 米本国での墜落事故を受けて飛行停止措置が取られている米空軍嘉手納基地所属のF15戦闘機約五十機のうち、十機が点検を終えて飛行可能な状態にあることが二十八日、分かった。

 飛行再開の時期については不明。同基地のジョン・ハッチソン広報局長が明らかにした。

 同広報局長は「二十八日時点で十機が再点検を済ませ、飛行可能になっている」と説明した。ただ、飛行再開の見通しについては「上級司令部が決定する」とし、嘉手納基地の判断では決められない状況にあることを明らかにした。

 同基地では所属機二機で縦通材(ロンジロン)の亀裂が判明した。同部位については全機の塗装をはがし、非破壊検査を実施。ロンジロンの「厚さ」に関するデータを米本国のロビンズ基地に送っているという。

 同広報局長は「嘉手納基地所属の全機の点検を終えても、上級司令部の飛行停止解除の命令が出なければ飛行は再開しない」とする一方、「全機の点検が終了する前に飛行を再開するケースもあるが、その場合は基準をクリアした機体のみの運用となる」と強調した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712291300_06.html

 

2007年12月30日(日) 朝刊 1面

「瑞慶覧」過半返還を/政府、最大規模要求

「嘉手納」以南基地/米、移転策定前と難色

 【東京】在日米軍再編で日米合意した「嘉手納以南六基地」の返還交渉で、キャンプ瑞慶覧(約六百四十ヘクタール)の一部返還をめぐって日本側が、過半の約三百二十ヘクタール以上を求めていることが二十九日、関係者の話で分かった。キャンプ桑江の海軍病院の移転予定地と住宅統合エリアを除く、キャンプ瑞慶覧西側の一帯などが対象。しかし米側は在沖米海兵隊のグアム移転計画がまとまっていないことなどから難色を示しており、同計画によっては最終的な返還規模は縮小する可能性もある。

 一九九〇年の日米合同委員会で返還合意した泡瀬ゴルフ場(四十七ヘクタール)や、日米特別行動委員会(SACO)で合意したロウワープラザ地区(二十三ヘクタール)、喜舎場地区(六ヘクタール)、普天間地区(五十五ヘクタール)も含まれている。

 一方、在日米軍沖縄地域調整事務所がある国道330号の東側部分や、住宅統合が進み、米軍高官が居住するアッパープラザ地区などは返還が困難とみられているが、日本側は「可能な限り最大」の返還を求めている。

 二〇〇六年五月の在日米軍再編に関する日米合意文書(ロードマップ)は、嘉手納以南の基地返還について〇七年三月までに「詳細な計画」を作成することを明記。しかし、「瑞慶覧」の返還規模確定が遅れ、めどが立たない状況となっている。

 関係者によると、返還の検討を進めるには、グアムに移転する部隊や兵員数の内訳を確定することが前提。しかし米側はグアム移転のマスタープラン(基本計画)案の作成時期を〇八年三月としている。このため、「瑞慶覧」の返還規模確定を含めた嘉手納以南の返還に関する「詳細な計画」作成も〇八年三月以降にずれ込む見通しだ。

 「瑞慶覧」の返還規模をめぐるこれまでの交渉で、国道58号沿いの約百ヘクタールについては米側も大筋で了承しているという。しかし、「嘉手納以南」の返還を、米軍再編に伴う「負担軽減」の“目玉”としたい日本政府は、より多くの返還を要望。

 石破茂防衛相も十一月、ゲーツ米国防長官に対し「県民に、目に見えるものとしてきちんと示さなければならない。長官のリーダーシップをお願いしたい」と最大規模の返還を求めている。


[ことば]


 嘉手納以南6基地返還 06年5月に日米合意した在日米軍再編最終報告(ロードマップ)に盛り込まれた普天間飛行場、牧港補給地区(キャンプ・キンザー)、那覇港湾施設(軍港)、キャンプ桑江、陸軍貯油施設第一桑江タンク・ファームの5施設全面返還と、キャンプ瑞慶覧の部分返還のこと。これらは在沖米海兵隊のグアム移転と「パッケージ」とされている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712301300_01.html

 

2007年12月30日(日) 朝刊 21面

情報漏れか偶然か/名護市発注工事 ピタリ入札

 名護市発注の公共工事の入札で、事前に公表されない最低制限価格(最低価格)と一円単位まで一致する金額で多数の事業が落札されたことが明らかになった。市議らは「建設業者側への情報漏れや、業者間の談合があるのではないか」と追及。市議会も調査に乗り出した。一方、市は関与を否定し、業者側も「過去の傾向から割り出した」と説明している。市の情報漏れや談合はあったのか、それとも「偶然の一致」なのか。見解は対立したままだ。(社会部・鈴木実、北部支社・石川亮太)

 名護市は工事発注に当たり、資材の単価や数量、難易度などの要素を数量化し、非公表の「設計価格」を設定。ダンピング防止などのため、65―85%を最低価格とし、それを下回った入札は無効とする。この最低価格は、市長や副市長ら決裁権のある市幹部が最終的に決め、封をして保管される。

 設計価格は、例えば「539487円」などと切りの悪い数字になるため、「入札予定価格」は端数を切り捨てたり、総額を数%圧縮する。事前に公表されるのはこの数字だけだ。

 業者が事前に最低価格を割り出すためには、「(非公表の設計価格)×(非公表の掛け率)」を積算する形となり、「ぴたり」特定の可能性は極めて低い。

 自治体によっては、最低価格を分からなくしようと、「81・34%」など掛け率を小数点以下まで細かく書き入れるケースもあるという。


予定価格と関連も


 名護市は設計価格や掛け率を非公表にしているものの、最低価格が把握されるのを防ぐこうした工夫が徹底されていないとの指摘もある。

 例えば、市教育委員会発注の二〇〇七年度校舎建築事業では、三つの事業の最低価格を予定価格のちょうど85%に設定、ほかにも85%台が五つあった。設計価格や掛け率が分からなくても、「予定価格の85%=最低価格」の単純な予想が成り立つ仕組みだ。

 市内の建設会社社長は「事業によっては予定価格と最低価格に関連性があり、見破るのは簡単。落札額と一致しても不思議ではない」と話し、当局からの情報漏れは否定する。最低価格との「ぴたり入札」の中には、当局の傾向を業者側に見透かされた事例も含まれるとみられ、市内部からも「なぜ、こんな分かりやすい価格なのか」との批判もある。


特定事業で何度も


 ただ、こうした構図では説明しきれない入札結果も多い。

 特定の事業で何度も「ぴたり入札」が重なったり、予定価格との関連性が見られない分野でも金額が一致するケースがあるからだ。加えて、報道機関などに事前に流れた談合情報通りに落札する事例もあり、「市当局からの情報漏えいや談合があるのではないか」とのうわさはなくならない。

 末松文信副市長は「最低価格は封印されており、封をした人でない限り分からない」と強調、情報漏れを否定している。

 一方、市外の設計士は「これだけ多くの事業で一致率が高いことは偶然ではあり得ない」と話す。野党市議らは「最低価格付近で落札すれば見掛け上は落札率も下がり、談合との批判が避けられる。公共工事はもともと予定価格が高めに設定されており、最低価格でも利益は出せる。市と業者の間で何らかの不正があるのではないか」と疑問を投げ掛ける。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712301300_02.html

 

2007年12月30日(日) 朝刊 21面

検定撤回訴えサイクリング/教諭ら40キロ走破

 【北谷】沖縄戦で起きた「集団自決(強制集団死)」での日本軍の強制を否定する教科書検定意見の撤回を求める「ピースサイクリングおきなわ」(主催・同実行委員会)が二十九日、糸満市の「平和の礎」から北谷町砂辺馬場公園の約四十キロで行われた。高校教諭ら九人が自転車をこぎ、沖縄戦の事実を後世に伝えようとアピールした。

 九月の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」で示された思いをPRしながら、同大会の「平和の火リレー」コースを一列になって走行。県民大会が行われた宜野湾海浜公園を経て、米軍上陸地モニュメントがある北谷町へ向かった。

 おそろいの黄色のTシャツを着けた一行は、約四時間半をかけゴール。伴走した車の拡声器を使い「沖縄戦の実相をゆがめる文部科学省の検定意見を撤回させよう」と呼び掛けた。

 宜野湾市立真志喜中の西島一郎教諭(37)は「サイクリングは基地撤去まで続く。いつになるかは分からないが、参加者の姿を見て児童・生徒も平和について考えるはずだ」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712301300_10.html

 

2007年12月31日(月) 朝刊 1面

サヨナラ2007年・・・怒・偽・明

 二〇〇七年がもうすぐ暮れる。政治の世界では七月の参院選挙で自民党が歴史的な惨敗。安倍晋三首相の突然の退陣に国民はあっけにとられ、福田康夫首相が後を継いだ。社会保険庁のずさんな事務で、「宙に浮いた」五千万件もの年金記録が発覚。防衛商社から約三百回もゴルフ接待を受けた「大物防衛次官」が逮捕されたほか、老舗や有名店で食の偽装が相次ぐなど、不祥事が目立った一年だった。

 県内では、文部科学省が高校歴史教科書から、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の日本軍強制の記述を削除する検定審議会意見に、「歴史歪曲は許さない」と県民の怒りが高まった。

 九月には計十一万六千人(主催者発表)が参加した県民大会も開催された。

 超党派の実行委員会などが再三にわたって政府への要請を続けた結果、軍の「関与」を示す記述は復活した。しかし、「軍が強制」の表現は認められなかった。

 米軍普天間飛行場の移設問題では、国と県の交渉が膠着状態に陥った。地元との溝はいまだに埋まっていない。米軍の演習・訓練も激化の一途をたどった。

 また、全国学力テストの結果で沖縄が最下位となり、教員採用試験では採点ミスも発覚するなど、教育関係の「暗いニュース」も多かった。

 一方で、スポーツ界では明るい話題も。特にゴルフでは、米ツアー本格参戦二年目の宮里藍が女子世界マッチプレーで準優勝。諸見里しのぶも日本女子オープン選手権で初優勝し、県民を沸かせた。

 「来年はもっと明るい年になってほしい」。多くの県民がそう願う中、二〇〇八年がまもなく明ける。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712311300_01.html

沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(12月27日、28日)

2007年12月27日(木) 朝刊 1・2・3面

「軍が強制」認めず/関与記述復活

検定審の結論承認/文科省「意見は有効」

 【東京】高校歴史教科書の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する検定問題で、教科書会社六社から提出された八冊の訂正申請を審議していた教科用図書検定調査審議会(検定審)の杉山武彦会長は二十六日午後、渡海紀三朗文部科学相と会談し、審議結果の報告書を手渡した。これを受け、渡海文科相は全社の記述を承認した。「集団自決」について「日本軍によって追い込まれた」など軍の「関与」を示す記述は復活したが、「日本軍が強制した」など主語の「日本軍」と「強制」を直接つなげる表現は認められなかった。大半の会社が検定審の方針に沿う形で、「集団自決」の背景・要因を詳しく記述した。

 一方、「集団自決」に関して「『強制集団死』とする見方が出されている」(三省堂)、「強制的な状況の下で追い込まれた」(実教出版)など、主語を明示しない表現に限って「強制」の文言が容認された。

 九月二十九日の県民大会で決議された「検定意見の撤回」は検定審で議論されず、実現しなかった。記述が修正されたことで「事実上の撤回」との指摘も挙がっているが、文科省は「検定意見を変更するものではない」(伯井美徳教科書課長)とし、今後の検定でも有効との認識を示している。

 検定審が承認した記述では、「集団自決」が起こった背景や要因として、六社のうち五社が「戦時体制下の日本軍による住民への教育・指導や訓練」(第一学習社)、「敵の捕虜になるよりも死を選ぶことを説く日本軍の方針」(東京書籍)などを詳述した。

 清水書院も県内議会の意見書可決の動きを年表に記載した。

 検定審は二十五日午後に日本史小委員会と第二部会(社会科)を相次いで開き、訂正申請された六社・八冊すべての記述について「承認することが適当」との意見を付すことで一致した。

 日本史小委は審議の過程で指針に当たる「基本的とらえ方」をまとめ、文科省教科書調査官を通じて教科書会社側に伝達。「過度に単純化した表現」は「生徒の理解が十分にならないおそれがある」として、日本軍だけが住民に「集団自決」を強制したと読み取れる表現を事実上、禁じた。また、「集団自決」が起きた背景に複合的な要因があったことを詳述することなどを求めていた。


重く受け止める/福田首相


 福田康夫首相は二十六日夜、沖縄戦の「集団自決」をめぐる教科書検定問題の決着について「記述を学術的、科学的に決めていく制度だから、われわれの口から良い悪いを言う立場にない。ただ沖縄県民の思いは重く受け止めている」と述べた。


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密室審議で灰色決着/文科省、体面に固執


 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」をめぐる日本史教科書検定問題が二十六日、決着した。県民の猛反発を受けた政府が、教科書会社の「自主的な」訂正申請を誘導する異例の展開。あくまで検定意見は撤回せず、実質的な記述復活で丸く収めようとする教科書検定審議会は、教科書会社と“密室”で交渉を続け、「軍の強制」は許さないが「関与」「心理的強制」は容認するという“灰色判定”で幕引きを図った。


「強制」に照準


 「直接的な軍の命令を示す根拠は確認できていない」。十二月三日、検定審の日本史小委員会が三回目の非公開審議を終えた直後、各教科書会社の役員が文部科学省に呼び出された。個別に面談した教科書調査官からは「基本的とらえ方」と題する検定審の指針が口頭で伝えられた。

 各社が十一月上旬に提出した訂正申請には、「強制」「強要」など軍の直接的関与を示す表現が盛り込まれていた。その内容変更を暗に求める指針の告示。執筆者の一部は反発したが、調査官は「調整」と呼ばれる各社との意見交換の場でも「強制」の文言を削るようさらに迫った。

 教科書会社の立場は「一方的に指示を受けるだけで、質問すらできない」(社員)ほど弱いという。約一カ月後、各社は訂正申請をいったん取り下げ、軍による教育・指導で住民が自決に追い込まれた状況を詳述するなどした修正版を再提出。「軍が強制」の記述はきれいに消えていた。


「自主的」強調


 だが一方で、いくつかの教科書は「軍によってひきおこされた『強制集団死』」「軍とともに死ぬ(『共生共死』)ことを求められた」など新たな記述を追加。全体としては「集団自決」と軍の関与についての記述が大幅に増える結果になった。

 文科省幹部はこの間の経緯を「あ・うんの呼吸で決まった」と表現するが、ある教科書執筆者は「文科省と検定審は最後までメンツにこだわった。検定意見の維持という『名』を取る代わりに、沖縄戦の記述が増えたり、(軍の強制と)ほぼ同じ意味の表現になることは認めて『実』を捨てたんだ」と指摘する。

 今回の検定結果について発表した文科省の記者会見。担当幹部は「あくまで教科書会社の自主的な申請に基づいたもの」「具体的な文言はすべて各社の創意工夫」と原則論を繰り返し、具体的な判断基準についての質問には「審議会のことなので」と応じなかった。


制度改善遠く


 さまざまな圧力の影響を受けない「静ひつな環境」を保つとの目的から検定審の審議は公開されず、議事録すらない。事実上の方針転換となった今回のケースも、代弁役の文科省が「当初の検定意見や審議に問題はなかった」と評価すれば、それ以上の検証は困難だ。

 「透明性の向上や細やかな審議の必要性などについてさまざまな指摘があった」。渡海紀三朗文科相は二十六日、検定制度の改善を検討する意向を示したが、文科省の担当幹部は「具体的な改善策は、ケースに応じその都度考えていく」と慎重な姿勢を崩さない。

 今回、修正を迫られた執筆者の一人は「今のままでは検定制度も教科書も信頼を失ってしまう。子どもにとってどんな教科書が必要なのかを、開かれた場でみんなで考える仕組みが必要なのに…」と危機感を強める。県民を巻き込んだ今回の“再検定騒ぎ”が将来の制度改善に資するかどうかは不透明だ。


知事は関与記述評価


 教科用図書検定調査審議会(検定審)の審議結果について、仲井真弘多知事は二十六日、記者団に対し、軍の「関与」を示す記述が認められたことについて、一定の評価を下した。

 県庁で、記者団の質問に答えた仲井真知事は「百点とはいえなくても、まずまずの配慮というか受け止め方を文部科学省がやっているのではないか。後退した印象を与える面もあるが、県民大会のマグマというかエネルギーを受けて、今の審議会や文部科学省で、ぎりぎり受け止めてもらったという線まで来ているのではないか」との見方を示した。

 教科書会社からの訂正申請に伴って、「集団自決(強制集団死)」に関する記述が大幅に増えることについては、「一つの背景説明とか、いろんな様相がある。そういうものを簡潔に分かりよく、背景とかさまざまなことを表現しているということは、立体的というか理解はしやすいと思う」と歓迎の意向を示した。


「主張認められた」


五ノ日の会仲村正治会長


 高校歴史教科書の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する検定問題で、文部科学省が教科書会社からの訂正申請を承認したことについて、県選出・出身の自民党国会議員でつくる「五ノ日の会」の仲村正治会長(衆院議員)は二十六日、「主張が認められた」と評価した。

 後援会事務所で会見した仲村氏は「『集団自決(強制集団死)』をはじめ、沖縄戦の実態を詳しく記述し、われわれが主張してきた内容が認められた」と評価。

 訂正内容について、「実質的に軍の関与や強制を示す表現になっている」との見方を示した。

 また、検定意見については「教科用図書検定調査審議会の再審議を経て訂正されたことで、事実上撤回されたと判断した」との考えを示した。


県民への配慮必要性を強調


岸田文雄沖縄担当相


 【東京】岸田文雄沖縄担当相は二十六日、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相が訂正申請を承認したことを受け、コメントを発表した。

 「先の大戦で国内最大の地上戦を経験し、多くの方々が犠牲になり、つらく悲しい経験をした県民の思いは、沖縄担当相として重く受け止めなければならない」と県民への配慮の必要性を強調した。

 「この機会に、内閣府としても沖縄戦について一般の方々に理解を深めていただくため、沖縄戦関係資料の閲覧事業でインターネット閲覧の充実など、利用者の利便性向上を図る」として、内閣府が所管する「沖縄戦関係資料閲覧室」の機能を強化する方針をあらためて示した。


「関与」回復と県教育長評価


「思い伝わった」


 仲村守和県教育長は二十六日、教科用図書検定調査審議会の審議結果について、「来年四月から子どもたちが使う教科書で、日本軍の関与という主語が回復されていると考える。沖縄戦の実相を正しく伝えることができることから大きな意義があり、評価したい」と歓迎した。

 記述回復がなされた理由については、「九月二十九日に結集した十一万余の平和を希求する県民の強い思いが、国や文部科学省に伝わったと思う」と話した。


渡海文科相 一問一答


 検定審の報告を受け、渡海紀三朗文部科学相は二十六日午後、省内で記者会見した。一問一答は以下の通り。

 ―検定審報告への感想は。

 「手続きは大変真摯にやっていただいた。先生方の結論なので、私の立場からコメントすることは差し控えたい」

 ―この結果を県民は理解すると思うか。

 「審議会の審議を明らかにし、専門的・学術的に審議していただいた。理解をいただきたいとは思う」

 ―大臣談話にある沖縄戦学習の一層の充実には、「沖縄条項」の検討も含まれるのか。

 「第二次世界大戦では広島、長崎、東京など多くの国民が被害にあった。特定の地域を取り上げて条項をつくるのは適切ではない」

 ―結論は、二〇〇六年度検定が「歴史の教訓を風化させる内容だった」という意味にならないか。

 「検定はあくまで、その時の知り得る学術的・専門的な意見や著述などを総合的に審議会で判断するもので、今回の訂正が現在の説に対して、どうなのかを審査したものだと理解している」

 ―今回は検定審の審議の前に、文科省の方針が示されたことが問題なのではないか。

 「それはなかった。通常の手続きにのっとり、先生方が審議した。それ以前に何らかの(文科省の)結論が出ていたと言われたが、承知していない」

 ―「政治介入」という指摘もされているが。

 「(教科書会社の)訂正申請を誘導したのではという指摘もあるが、大臣就任後に一番心掛けたのは、『政治的な介入』にならない検定制度をどう守るかが私の一番の責任だと考えていたので、それはない」

 ―今回の承認と06年度検定意見の間で齟齬はないという認識か。

 「そういうことです。報告書を読めば理解いただける。私は報告書を読んでそう思った」

 ―県民が納得しない場合の手だてはあるか。

 「基本的にはない。納得していただきたいと言ったが、中身についてではなく、手続きを踏んだことを納得していただけるという意味です」

 ―県民大会の怒りは何だったと思うか。

 「沖縄の方々には『これは違う。歴史がゆがめられた』という思いがあったのではないか」

 ―検定意見を撤回せずに記述を変えられるなら、今後の検定でも同じことが起こり得るのか。

 「絶対ないとは言えないが、あくまで通常の検定手続きにのっとりやった結果である。より良い記述にしようと教科書会社から訂正が出た。こういうことが起こらないように、検定の過程の透明性を上げるなど検討していく」


専門家9人から意見聴取


 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書記述について、教科用図書検定調査審議会は九人の専門家に意見を求めていたことを明らかにした。

 このうち、元陸上自衛官で軍事史専門家の原剛氏や日本大学講師で現代史家の秦郁彦氏は、梅澤裕氏ら「集団自決」訴訟の原告や原告側証人の証言などを引用し、「集団自決」への日本軍による命令や強制を否定した。

 沖縄県史編集委員で沖縄戦研究家の大城将保氏や、関東学院大教授で日本近現代史専門の林博史氏は体験者の証言、「軍官民共生共死」が徹底されていた状況などを踏まえ、「集団自決」には日本軍による命令・強制・誘導があったとした。氏名と意見内容の非公表を望んだ一人を除く、八人の意見要旨は次の通り。

 大城将保・沖縄県史編集委員 「敵の捕虜になる前に潔く自決せよ」という軍命令は沖縄全域に徹底されていた。地上戦となった沖縄戦の悲劇を象徴するのは「集団自決」と「住民虐殺」。事実誤認と歪曲に基づく主張で、教科書から抹殺するような検定の在り方は許し難い暴挙というしかない。

 我部政男・山梨学院大教授 沖縄戦末期にいわゆる「集団自決」が事実として起こった。その背景に「軍官民一体化」の論理が存在していたことは明確だ。因果関係を説明する方法として提示されているのが「軍命令」であり、「軍官民一体化」論理の範囲に入ると考える。

 高良倉吉・琉球大教授 日本軍は本土上陸作戦を阻止するため沖縄での時間稼ぎが最大の課題だった。目前の住民の生死より作戦遂行を至上とした軍の論理があり、軍民雑居状態を放置した。慶良間諸島での「集団自決」も、軍の結果責任は明らかで、軍側の論理の関与を否定できる根拠はない。

 秦郁彦・現代史家 渡嘉敷島を中心に考察するが、「集団自決」の軍命説は成立しない。自決の「強制」は物理的に不可能に近い。自決者は全島民の三割に及ばず多数が生き延びた。負傷者の治療に軍医らが当たったと村長が認めている。攻撃用手りゅう弾の交付と「集団自決」に因果関係はない。

 林博史・関東学院大教授 沖縄戦での「集団自決」が、日本軍の強制と誘導で起きたことは沖縄戦研究の共通認識。捕虜になるのを許さない軍思想の教育などさまざまな方法で、軍は住民を「集団自決」に追い込んだ。私の著書を根拠に強制性の叙述を削除させたのは、著書内容を歪曲しており検定意見の撤回しかない。

 原剛・防衛研究所戦史部客員研究員 沖縄戦では戒厳令は宣告されず、軍に住民への命令権限はなかった。関係者の証言などによると、渡嘉敷・座間味両島の「集団自決」は軍の強制と誘導によるものとはいえない。「鬼畜米英に辱めを受けるより死を選ぶ」という思潮が強かったことが原因。自ら死を選び自己の尊厳を守ったのだ。

 外間守善・沖縄学研究所所長 日本本土の一億日本人のため沖縄島は防波堤として使われた。沖縄県民十余万人を犠牲とした、「集団自決」を含む責任は日本国にある。日本国、日本人に沖縄の痛みを理解してもらいたい。沖縄における軍の存在は住民にとって脅威だった。「集団自決」の問題にもこれらが通底している。

 山室建徳・帝京大講師 軍人が死闘を繰り広げる中、日本人全体が屈服しないことを見せつけるべきだという考えが共有された状態で沖縄戦に突入したが、先祖伝来の地に住む沖縄県民の多くは「集団自決」の道をとらなかった。一部の軍が住民に自決を強要したとだけ記述するのは、事実としても適切ではない。

 審議会の日本史小委員会委員は次の通り。(一人は本人意向で非公表)

 【日本史小委員会委員】有馬学(九州大大学院教授)▽上山和雄(国学院大教授)▽波多野澄雄(筑波大副学長)▽広瀬順晧(駿河台大教授)▽二木謙一(国学院大名誉教授)▽松尾美恵子(学習院女子大教授)▽吉岡真之(国立歴史民俗博物館教授)

 


[県選出・出身国会議員コメント]

歴史観に明確表現必要

 下地幹郎衆院議員(無所属) 官房長官談話など政治の歴史観に対する強い平和への意思があって然(しか)るべきだ。記述回復と同時に、審議会を超えた政治の強い意志をあらためて首相が表すべきだ。戦争に関する歴史観には明確な表現が必要だ。

あいまいな表現に不満

 照屋寛徳衆院議員(社民) 検定意見撤回がなされず、県民の求める完全な記述回復にもなっていない。あいまいな表現で極めて不満だ。生存者の証言からも日本軍の命令、強制があったことは明白である。沖縄条項の確立を強く要求する。

要因・背景詳しく表現

 嘉数知賢衆院議員(自民) 県民の声を真摯(しんし)に受け止め、訂正前に比べて沖縄戦の悲惨さ、住民の「集団自決」に追い込まれるに至った要因、背景などが詳しく表現され、軍の関与なくしてこの事が起こり得なかった事実が述べられ評価したい。

世論が検定審動かした

 西銘恒三郎衆院議員(自民) 県民世論が検定審議会を動かした。特に歴史小委員会は7回開かれ、沖縄史の専門家から意見聴取したことを評価する。教科書の記述内容は、囲みや側注の補足もあり、歴史事実を記述に回復したと思う。

検定意見も事実上撤回

 仲村正治衆院議員(自民) 問題発覚後、国会や党内で沖縄戦の真実を歪(ゆが)めることは許さないと追及した。「集団自決(強制集団死)」の軍関与など沖縄戦の実態を詳しく記述し、われわれの主張が認められた。検定意見も事実上撤回された。

沖縄を思う決意に敬意

 安次富修衆院議員(自民) 検定審の報告で、日本軍の関与や強制という記述が明記されたことで、記述の回復と前回の検定意見撤回がなされたものと判断する。渡海紀三朗文部科学相が談話を発表し、沖縄を思う決意に心から敬意を表したい。

記述後退に憤り感じる

 赤嶺政賢衆院議員(共産) 県民の思いを深く受け止めると言いながら、軍の強制を踏まえた執筆者の一回目の訂正申請を「過度に単純化した表現」としてばっさり切り捨て、記述を後退させたことに憤りを禁じ得ない。戦争の実相を歪める。

訂正承認した努力評価

 島尻安伊子参院議員(自民) 県民大会の決議を重く受け止め、異例の訂正申請をした教科書出版社と執筆者、訂正を承認した検定審議会と文部科学省の努力を評価する。悲惨な沖縄戦の教訓を後世に継ぐ重大な国民の責務を果たしたい。

軍の残虐行為覆い隠す

 糸数慶子参院議員(無所属) 「集団自決」記述への検定意見は、日本軍の残虐な行為を覆い隠し、軍官民共生共死という沖縄戦の美化を目的とした明確な意図の下に付されたと理解する。大臣談話に得るものはなく、検定意見の撤回を求めていく。

はびこる国家主義官僚

 喜納昌吉参院議員(民主) 文科相は「検定は国が教科書記述の欠陥を指摘するのが基本」と言うが、国が欠陥を押し付け、歴史を改ざんしたのが実態。安倍時代錯誤政権の国家主義官僚がはびこり、福田首相は裸の王様である。沖縄は闘う。

戦争の肯定につながる

 山内徳信参院議員(社民) 県民大会の総意は検定意見の撤回と記述の回復。記述の量は増えたが、肝心な「集団自決」への軍の強制を否定、責任逃れに終始している。戦争肯定の教育とつながる。子どもの未来を守り抜く民衆力が必要だ。

[県内政党コメント]

自民党県連・事実上の「検定」撤回

 沖縄戦、「集団自決」における日本軍関与が明確に書き記されたほか、その背景についても書き加えられており、これまでより詳しく記述されたことは評価する。検定審議会の再審議による内容であり、事実上の「検定意見の撤回」と判断したい。

社民党県連・強制認めず強い怒り

 日本軍の強制が認められなかったことに強い怒りを持つ。背景、要因の記述は必要だが、軍の強制が削除されると沖縄戦の実相が歪(ゆが)められる。検定意見も有効との認識では、大臣談話の内容と有効性に問題が残る。沖縄の声を発信し続ける。

公明党県本・史実を教育に生かせ

 日本軍による強制は採用されず、関与の表現にとどまった。一方、説明記述で、「集団自決」の歴史的背景が詳しく述べられる。「検定意見の撤回」については議論されず。県民の思いは届かないのか。歴史の真実を後世の平和教育に生かすべきだ。

社大党・戦争の肯定許されぬ

 今回の検定結果は前回同様、文科省指導により事実をありのままに書いていない。県民は検定意見の撤回と事実に基づいた記述を求めており、到底承服できない。沖縄戦体験者の前では、いかなる人でも戦争を肯定し美化することはできない。

共産党県委・福田内閣に強く抗議

 検定意見も撤回せず、「軍強制」の記述回復も認めなかった。県民大会に込めた思いを踏みにじる福田内閣に強く抗議する。軍は住民を守らないという沖縄戦の教訓を消そうとする策動が根強く続いている。最後まで検定意見の撤回を求める。

政党「そうぞう」・県民の思いとはズレ

 日本軍に「追い込まれた」という記述で軍の「関与」は認めたが、「強制」という強い表現にならなかったことで、県民の思いとのズレがはっきりした。大臣談話に、沖縄の戦後史について踏み込んだ表現がないことも、非常に残念に思う。

民主党県連・検定制度の廃止要求

 軍命の強制を曖昧(あいまい)にし、軍や戦争への嫌悪感を消すことに固執する自公政権は、教育現場で戦争準備をしているのではないか。旧日本軍を擁護する政治的関与を排除できない検定制度、審議会を直ちに廃止し、民主的な機構をつくる必要がある。

国民新党県連・県民の思いではない

 そもそも、この問題の発端は、沖縄戦に詳しくない審議会(専門委員会)で歴史問題を検討したことが問題だった。行政的に落としどころを模索した結果だと思うが、沖縄県民の思いではない。大臣が出した談話はもっと踏み込むべきだ。

[関係首長コメント]

総意伝わらず残念だ

 翁長雄志那覇市長 県民の総意が伝わらなかったのかと残念。一定の配慮はあったようだが、県民は素直な表現を望んでいたはずだ。県外では、沖縄と文科省だけの問題としてとらえられていた印象が強く、今後の運動について話し合いが必要。

歴史ねじ曲げに怒り

 東門美津子沖縄市長 検定審とは何なのか。「集団自決」の体験者などから多くの証言がある中で、なぜこんな結論が出るのかまったく分からない。県民の思いが伝わらず、歴史的事実が時の政府によってねじ曲げられることに怒りしか感じない。

犠牲者のため真実を

 知念恒男うるま市長 教科書が都合のいいように変えられることはショックだ。いつの時代でも事実は事実として教えるべきではないのか。このままでは、次は沖縄戦の記述すらなくならないか心配だ。犠牲者のためにも真実を伝えるべきだ。

決定は死者への冒涜

 儀間光男浦添市長 太平洋戦争では国民全体が皇民化教育などの体制下、日本軍に従うようになっていた。そのこと自体が軍の命令を表す。軍の強制を認めないことは言葉のもてあそびで死者への冒涜(ぼうとく)だ。間違いは素直に認めて改めるべきだ。

国の主張に反撃必要

 伊波洋一宜野湾市長 日本軍の強制を否定し、歴史を歪曲する検定意見が今後も有効ならば、県民の思いを害し続けることになる。国は検定意見を撤回するべきだ。沖縄戦を風化させない取り組みを続け、国の主張に反撃することが必要だ。

継続して思い訴える

 島袋吉和名護市長 あれだけ大きな県民大会を開き、沖縄の心が国を動かすと思っていたが、検定意見の撤回が実現できずに残念だ。これで終わりではなく、継続して沖縄の思いを訴え続け、検定意見撤回を勝ち取るまで頑張っていきたい。

県民の訴えとは逆行

 西平賀雄糸満市長 体験者は「軍強制」を事実だと言っている。今回の結果は大変遺憾だ。事実を伝えていかなければ、教育にならない。県民の行動に対し、国の動きは逆行しているようだ。県民の訴えをもっと真摯に受け止めてほしい。

研究者の意見を排除

 伊志嶺亮宮古島市長 県民大会の思いは検定意見の全面撤回だった。日本軍による強制の実態を正しく残すことだったが、沖縄戦研究者の意見も取り入れられていない。県民の総意がこのような形で無視されるのは、非難されるべきだ。

県民は普遍性求めた

 金城豊明豊見城市長 「9・29」の県民大会以降の県民の要求は、あくまで正しい歴史の記述復活である。県民は歴史認識の普遍性を求めており、後世再び、この問題が再燃する可能性も否定できない今回の検定審の結論は、大変残念に思う。

今後の記述後退懸念

 大浜長照石垣市長 軍の命令があったという声は参考にならなかったのか。不満どころか怒りを感じる。検定意見が残れば教科書の記述は後退する恐れがある。沖縄戦の専門家の意見を取り入れて判断すべきで、検定意見撤回を求め続けたい。

史実改ざん許されず

 古謝景春南城市長 県民大会で決議されたことが検定審で審議されなかったことは誠に残念だ。史実の改ざんは許されるものではない。戦争は人間を異常な状態にするものであり、二度とこのような戦争を起こさせないことが大事なことだ。

戦没者に申し訳ない

 小嶺安雄渡嘉敷村長 はっきり言って期待外れの結果だ。この内容では「集団自決(強制集団死)」があった地元の首長として、亡くなられた御霊に申し訳ない。証言に基づく史実を後世に伝え、平和国家を築くため、訴え続ける必要がある。

軍国主義否定教育を

 仲村三雄座間味村長 多くの村民や県民が望んだ検定意見の撤回が実現しなかったことは遺憾だ。一方、軍の関与に一歩踏み込んだ記述がされており、これらを通して、当時の軍国主義教育などの反省に立った教育がなされることを期待する。

誤った教育に危機感

 安田慶造読谷村長 教科書検定問題が表面化して以降、これまで口をつぐんでいた人も、後世に真実を残そうと勇気を出して証言してきたのに残念だ。大人の都合だけで誤った教育を受けることになってしまう子どもたちの将来が危惧(きぐ)される。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712271300_01.html

 

2007年12月27日(木) 朝刊 26・27面

ぼけた核心 落胆/歪曲懸念 消えず

 高校歴史教科書検定問題で教科用図書検定調査審議会(検定審)は二十六日、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への「日本軍の強制」「軍命」などの記述を認めなかった。「軍関与」の表現にとどめ、九月二十九日の県民大会で決議された検定意見の撤回にも触れなかった。「日本軍の黒い行為をぼかす」「自分たちがうそをついているというのか」。「集団自決」や沖縄戦の体験者、学校関係者は怒りをあらわにした。一方、東京で記者会見した県民大会実行委員会のメンバーらは不満は残るとしながらも「記述の回復は、ほぼなされた」と一定の評価。受け止めは分かれた。

 「日本軍の黒い行為が、消しゴムでこするように灰色にぼかされた。次の検定では白にするんですか」。座間味島の「集団自決」の体験者、宮城恒彦さんは憤りを抑える口調で問い掛けた。

 「過ちを犯したのは日本軍であって今の政府ではないのに、認めてどんな損があるのか。不可解だ」と声を落とす。「私たち体験者がいなくなった後は、誰も事実を伝えられない。検定ごとに首相や文科相の意向で歪曲されてしまう」と将来を案じた。

 渡嘉敷島で「集団自決」を体験した池原利江子さんは「私たちは、防衛隊の伝令に軍の命令だからと言われ、まさか死ぬとは思わず集合した」と強調。軍の命令を認めない文科省に「まるで私たちがうそを言っているみたいだ。怒るというより、あきれる。死んだ人がかわいそう」と憤る。「このまま、黙っていてはいけない。私たちが生きているうちに、どうにか教科書の記述を回復してほしい」と力を込めた。

 慶留間島で「集団自決」を目の当たりにして生き延びた体験を持つ元座間味村長の與儀九英さんは「(軍の強制を明記せずに)『追い込まれた』というと、自決する以外にも選択肢があったように聞こえるが、当時はそんな生ぬるい状況ではなかった。個人の自由や主体性が生まれる余地はなく、軍の命令には絶対服従で、自決する以外に道はなかった」と記述の“後退”を批判した。

 「日本軍の強制は入れるべき」。元女子学徒隊でつくる「青春を語る会」の中山きく会長は、納得がいかない。「受け入れられないのなら上京し、自分たちの思いを伝えたい」。戦時中、手榴弾を配られ自ら命を絶とうとした悲しい過去を忘れることはない。「これだけ生き証人がいる。日本軍の強制を入れるまで訴えていきたい」と語った。


文科相 謝罪・反省踏み込まず


 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相は二十六日午後、文科省で記者会見し、教科用図書検定調査審議会(検定審)が承認した訂正申請について「沖縄県民に理解をいただきたい」と述べた。

 県民の反発を招いた文科省の対応については、「何を反省すべきか整理していない」とし、謝罪や反省に踏み込まなかった。訂正申請に沖縄側が反発した場合の手だては「基本的にない」として、今回の対応で決着とする考えを強調した。

 検定意見を撤回せずに記述を変更したことの整合性について「齟齬はない。検定審の報告書を読めば理解いただける」と述べ、訂正申請が検定意見の範囲内で審議されたとの認識を説明した。

 沖縄条項の創設に関しては「第二次世界大戦で悲惨な出来事は広島、長崎、東京大空襲もある。特定地域を取り上げて条項をつくるのは適切でない」と述べ、否定的な考えをあらためて示した。

 会見に先立ち、渡海文科相は大臣談話を発表。検定手続きの改善方策を検定審で検討し、二〇〇八年夏をめどに一定の方向性を示す方針を明らかにした。


実行委 不満残すも「80点」


 【東京】「不満は残るが記述はほぼ回復された」。文部科学省の教科書検定に抗議し、記述の回復と検定意見の撤回を文部科学省などに要請した県民大会実行委員会の委員らは二十六日、都内で記者会見し、検定審の結論を“八十点”とした。

 仲里利信実行委員長(県議会議長)は、検定意見が撤回されなかったことについては「記述が回復されたことで、検定意見は自動的に消滅したと理解している」と述べ、事実上、県民大会の決議要望は果たせたとの認識を示した。

 一方で「日本軍による強制や命令の語句が修正・削除されたことは不満」と強調。(1)沖縄戦に関する記述に配慮した「沖縄条項」(2)審議委員に沖縄戦研究者を加えること(3)沖縄戦の実相に関する調査研究を進めること―などを今後も強く求めていく考えを示した。

 実行委幹事の平良長政県議も県議会、市町村議会の意見書可決や県民大会に関する記述が盛り込まれたことは評価したものの、「相当不満もあるし課題もたくさんある」。

 会見後、「沖縄戦書き換えの動きを完全には押し返せなかったが、不満ばかり言っていたらせっかく一つになった沖縄がばらばらになる」と複雑な心境を吐露した。

 仲里議長らはこの日沖縄へ戻り、二十八日午後の実行委で経過を報告する。仲里議長は「仮定の話」とした上で、他の実行委の理解が得られた場合、実行委は解散するとの見通しを明らかにした。


執筆者 文科省姿勢を批判


 実教出版の高校歴史教科書執筆者の石山久男さんは「『軍の強制』があいまいにされた」と不満をあらわにした。「根本は検定意見にある。検定意見を撤回させて、『軍の強制』を明示する記述が戻るまで、来年度以後も訂正申請を続ける」と決意を新たにしていた。

 東京書籍の執筆者、坂本昇さんは、「日本軍によって『集団自決』に追いこまれたり」と「日本軍」の主語が復活した点は成果を認めたが、「集団自決」体験者の金城重明さんの著書から引用したうち、軍命に触れた部分が認められず「残したかった」と肩を落とした。

 別の教科書会社の執筆者は「『日本軍によって自決を強要された』との記述が認められず、非常に残念だ」。その上で「強制集団死という記述を盛り込むことができた。二歩後退、一歩前進。検定意見を撤回せずメンツだけを守ろうとする姿勢は許せない」と文部科学省を批判した。


学校現場も懸念


 実際に教科書が使われる学校現場からも、落胆の声が上がった。北部農林高校の大城尚志教諭は「多くの高校生が県民大会に参加したが、『結局自分たちの知らない所で偉い人が決めてしまう』と感じるのが怖い」と懸念する。

 高教組の福元勇司書記長は「二度も書き直しをさせる文科省の姿勢は異常だ」と指摘。「『集団自決』を現場で子どもたちと一緒に考えていきたい」と強調した。

 沖教組の大浜敏夫委員長は「次回以降の検定基準として定着する可能性」を挙げ、「今後も検定意見撤回を求める」とした談話を発表した。


     ◇     ◇     ◇     

撤回触れず 後退危険も/解説


 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する教科書検定問題で、教科用図書検定調査審議会(検定審)の結論は、「集団自決」を「日本軍が強制した」という直接的な記述を認めず、「関与」を示す表現にとどめた。軍の強制を明記した複数の会社に訂正申請の取り下げを促すなど、「強制回避」に固執。記述修正に対する賛成、反対の両派に配慮したあいまいさが際立った。検定意見は手つかずで残り、今後の検定で記述が後退する危険性をはらんだままだ。

 訂正申請後に検定審を頻繁に開き、専門家の意見を聞いた慎重な対応も、裏を返せば「軍の強制」記述を削除した二〇〇六年度検定の審議がいかに不十分だったかを浮き彫りにした。

 検定審は今回の訂正申請を受けた十一月五日以降、沖縄戦を審議する日本史小委員会を今月二十五日までに七回開いた。沖縄戦、沖縄史、軍事史の専門家九人から意見を聴取するなど「とりわけ慎重かつ丁寧」(報告書)な対応を取ったとしているが、遅きに失した感は否めない。

 そもそも、住民を巻き込んだ国内唯一の地上戦とされる沖縄戦の記述を審議するに当たり、前回の検定審で不可欠な作業を怠っていたことの表れだ。教科書が沖縄戦の実相を生徒に正確に伝えるためにも、検定審議を恒久的に改善する取り組みが求められる。

 訂正申請の審議では「集団自決」について「日本軍に追い込まれた」など、軍の関与を示す表現が認められた。一方、実教出版は「日本軍は(略)集団自害と殺しあいを強制した」との訂正申請のやり直しを余儀なくされた。

 「関与」は県議会が検定意見の撤回を求めて意見書を可決する際、与野党が一致するキーワードだった。検定審と文科省がこれを「落としどころ」に設定し、「軍の強制」をぼかす表現で幕引きを狙った印象はぬぐえない。(東京支社・吉田央)


渡嘉敷・座間味村に号外


 沖縄タイムス社は二十六日午後、教科用図書検定調査審議会が、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関して、日本軍強制の記述を認めなかったことを伝える号外三万部を「集団自決」のあった渡嘉敷、座間味両村を含む県内各地で配布した。

 渡嘉敷村へは午後四時ごろ、チャーター船で二百部届けた。村役場や港ターミナル、雑貨店などで配布。村民らは食い入るように読んでいた。

 村在住の當山清林さん(69)=会社代表=は「じっくり読んで、友人らと議論したい」と話した。

 ホテル経営の関根史郎さん(44)は「このような結果になったのは非常に残念で許し難い。教科書会社もいろんな圧力がかかり大変だとは思う」と悔しさをにじませた。

 座間味村には午後五時ごろ、三百五十部届くと、人々は驚いた様子で受け取った。四十代の男性は「島であったことは、直接言葉で子どもたちに語り継いでいくしかない」と決意したように語った。


「県民大会」新たに追加


 【東京】教科用図書検定調査審議会(検定審)が訂正申請を認めた複数の教科書に、九月二十九日に開かれた「教科書検定意見撤回を求める県民大会」など教科書検定をめぐる県内の動きや問題そのものを取り上げる記述が新たに加わった。

 東京書籍の「日本史A」は最近の出来事として、「2007年の教科書検定の結果、沖縄戦の『集団自決』に日本軍の強制があった記述が消えたことが問題になった」と記述。「側注」で「沖縄県では、県議会・全市町村議会で検定意見の撤回を求める意見書が可決され、同年九月には大規模な県民大会が開催された」と紹介している。

 清水書院の「日本史B」は年表の中に「沖縄県と県下全市町村の議会、集団自決についての教科書検定意見の撤回を求める意見書を可決」との記述を加えた。


きょう緊急県民集会


 文部科学省が教科書会社からの訂正申請への対応を公表したことを受け、「6・9沖縄戦の歴史歪曲を許さない!県民大会」実行委員会は二十七日、緊急の県民集会を開く。文科省が沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」についての教科書記述で、日本軍の「強制」を示す記述の回復を許さず、「関与」などの表現にとどめさせたことに抗議する。

 二十六日、県庁で記者会見した同実行委の大浜敏夫共同代表は、文科省の訂正申請への対応について「(検定意見撤回などを求めた)全市町村や県議会の決議、体験者の新たな証言、九月二十九日の県民大会に参加した十一万六千人の意見を無視するものだ」と批判、「県民の抗議の意思を示そう」と参加を呼び掛けた。

 緊急集会は、二十七日午後六時から那覇市の県民広場で開かれる。


退職教員らが軍命削除抗議


 高校歴史教科書検定問題で、退職教員などでつくる「おきなわ教育支援ネットワーク」は二十六日、「沖縄県民の意志を踏みにじる『軍命』再々削除に抗議し、『検定意見撤回・軍命記述回復』をかちとるまでがんばろう」との声明を発表した。


つくる会が抗議


 新しい歴史教科書をつくる会は二十六日、沖縄戦の「集団自決」に日本軍の関与があったとの記述を認めた教科書検定審議会の決定について「到底容認できない」などとする抗議声明を出した。つくる会は「文部科学省は検定制度の根幹を揺るがすという重大な汚点を残した」としている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712271300_02.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年12月27日朝刊)

[教科書検定審報告(上)]

史実をぼかす政治決着


「強制」認めず「関与」へ

 高校日本史教科書の検定問題で教科用図書検定調査審議会は、教科書会社六社から訂正申請のあった沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に関する記述について、渡海紀三朗文科相に審議結果を報告した。

 そこで県内のすべての高校生に質問したい。

 以下の三つの文章は(1)が原文である。その後、文部科学省や審議会の意思が働いて(2)に書き改められ、多くの県民の強い抗議を受けて教科書会社が訂正申請をした結果、(3)の記述に変わった。さて、この三つの文章は、どこがどのように変わったのか。なぜ、このような変更をしなければならなかったのか。そのねらいは何か。

 (1)「日本軍によって壕を追い出され、あるいは集団自決に追い込まれた住民もあった」

 (2)「日本軍に壕から追い出されたり、自決した住民もいた」

 (3)「日本軍によって壕を追い出されたり、あるいは集団自決に追い込まれた住民もあった」

 どうだろうか。

 よくよく読み比べないと気付かないような変化なので、二度、三度とゆっくり読み直してほしい。

 (1)は「日本軍」という主語と「集団自決に追い込まれた」という述語の関係が明確だ。だが、(2)は主語と述語が切れてしまい、両者の関係があいまいになっている。

 (3)は原文とうり二つである。原文がほぼ復活したといえるが、主語と述語のつながりはやや弱くなった印象だ。

 この一連の経過を通して見え隠れするのは「できれば日本軍という主語を消したい」「日本軍と集団自決の関係をあいまいにしたい」という背後の意思である。

 検定審の結論は三点に要約される。

 第一に、検定意見を撤回していない。第二に、「日本軍によって強制された」というような軍の強制を示す表現は採用していない。第三に、日本軍によって「追い込まれた」などの軍の関与を示す記述は認められた。

 検定で消えた「強制」を「関与」という形で復活させ、この問題の決着を図ったわけだ。


沖縄戦の特徴とは何か


 九月二十九日の県民大会で決議されたのは「検定意見の撤回」と「記述復活」の二点だった。

 県民世論が検定審を動かし、ある程度の記述復活が実現したのは確かだ。

沖縄の取り組みは決して徒労に終わったわけではない。

 しかし、教科書各社が「強制」の復活を目指し前後の表現を工夫しながら訂正申請したにもかかわらず、検定審は「このままの記述では訂正は認められない」と再度の書き換えを求めた。

 なぜこれほど「強制」という言葉の使用を忌避するのか、不可解というほかない。

 検定審は訂正申請を審議するに当たって県内外の専門家八人から意見を聴いた。その中で、ある専門家は、日本軍によって住民が追い詰められたことが沖縄戦の特徴であり、日本軍の存在が決定的な役割を果たしている、と述べている。

 また、別の専門家は「『戦闘能力のないものは捕虜になる前に自決(玉砕)せよ』という方針は全軍的な作戦方針に基づくものであって、特定の部隊長がその場になって命令したか否かの次元の問題ではない」と指摘している。私たちもその通りだと思う。

 隊長命令があったかどうかという問題と、日本軍によって強制されたという問題を混同してはならない。


検定制度改革が必要だ


 沖縄からの異議申し立てに対し、「政治的な介入があってはならない」との声が上がった。だが、それを言うのであれば次の疑問にも答えてほしい。

 二〇〇五年度までは軍の強制記述が認められてきた。なぜ、今回、学説の大きな変化がないにもかかわらず、検定意見がついたのか。係争中の裁判の一方の主張を検定意見の根拠にしたのはなぜなのか。

 今回、あらわになったのは検定制度の密室性である。検定審の審議内容は非公開で、議事録も公表されていない。検定意見の詳細な内容は文書化されず、ほとんどが口頭説明だという。

 検定審は突っ込んだ議論もせずに教科書調査官の検定意見原案を通してしまった。調査官が検定審とどういう関係にあるのかもベールに包まれたままだ。

 検定制度は、透明性を確保するため抜本的に改革する必要がある。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071227.html#no_1

 

琉球新報 社説

教科書問題 「軍強制」は明らか/検定意見は撤回すべきだ

 沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)に関し、「日本軍による強制」の記述を修正・削除した高校歴史教科書検定意見問題で、教科用図書検定調査審議会(検定審)は、県民が求めた検定意見の撤回を認めなかった。

 「集団自決」の現場にいながら命拾いをした多くの体験者らがこれまで「軍の強制」を証言してきた。その事実を検定審が一つ一つ丹念に検証した形跡はない。

 そのことを抜きに「軍の直接的な命令」を示す根拠はないと断定することに、果たして正当性があるだろうか。

 歴史的事実を追究する努力を尽くさず、体験者の証言を顧みることもなく「集団自決」の本質とも言える「軍の強制」を削除できるほど、歴史は軽いものなのか。

乱暴な論理

 検定審は訂正申請した教科書出版社に対して「直接的な命令」「強制」の断定記述は「生徒が誤解するおそれがある」との指針を通知していた。

 指針は検定審の考えを押し付けるものである。「集団自決」の実相と真摯(しんし)に向き合った教科書執筆者や教科書出版社に対する圧力以外の何ものでもない。

 「それぞれの集団自決が、住民に対する直接的な軍の命令により行われたことを示す根拠は、現時点では確認できていない」として、検定意見から一歩も踏み出さないとあっては、結論は分かり切っていたと言わざるを得ない。

 専門家からの意見聴取にしても形式的なものだったと言えまいか。

 検定意見が歴史に照らして正しいものであれば、それを堅持することは当然のことである。

 しかし、今回の「集団自決」についての検定意見は妥当なものと言えるだろうか。

 検定審の意見聴取に対して大城将保氏(沖縄県史編集委員)は「直接命令を下した指揮官名まで判明している事例も少なくない」と指摘している。

 多くの沖縄戦研究者が検定意見を批判していることを、検定審はまず重く受け止めた上で、審議に臨むべきではなかったか。

 意見聴取に対しては、日本軍の強制をめぐって多様な意見があった。検定審は結果的に「軍の強制はなかった」との意見を採用したとも言える。

 だが、検定審がこれまでの沖縄戦研究の積み重ねを無視するに至った理由は、不透明と言わざるを得ない。検定審はその説明責任を尽くすべきである。

 「軍命を示す根拠は確認できない」との理由だけで、納得する人がどれだけいるだろうか。

 すべての「集団自決」で軍の強制を示す根拠はない。だからといって、軍の強制が明らかにあったケースがあるにもかかわらず「軍の強制」記述を一切認めないのはあまりにも乱暴な論理である。

史実後世へ

 県内全41市町村議会で「検定意見の撤回」を求める意見書が可決され、県議会は二度にわたって決議した。検定意見の撤回などを求めた9月の県民大会には11万6千人(主催者発表)が集まるなど、検定意見の撤回は県民の総意と言っていい。

 一連の大きなうねりが政府の訂正申請に応じる方針を引き出したと言える。

 教科書出版社が「集団自決」の背景をより詳しくしたことには評価する声もある。一部の教科書は検定前に近い記述が認められた。

 だが、日本軍の関与を薄めさせようとする検定審と教科書調査官の意図に変化はない。「集団自決」の重要なポイントである「軍の強制」の記述抜きには、正しい歴史を子どもたちに教えることはできないのではないか。

 渡海紀三朗文科相は検定審の意見提出を受けて「歴史の教訓を決して風化させることのないようにと願う。沖縄県民の思いを重く受け止め、これからも子どもたちにしっかりと教えていかなければならない。沖縄戦の学習がより一層充実するよう努めたい」との大臣談話を出した。

 大臣談話を実現するには「集団自決」に導いた「軍の強制」について、文科省や検定審は現地での聞き取りなど、幅広い調査を実施するべきである。

 県民要求の一つは「記述の復活」である。今回の訂正申請承認を歓迎する声もあるが、中途半端な解決では後世に禍根を残すことにもなりかねない。

 史実を後世に伝えるのは県民の責務であることを再確認したい。

(12/27 10:00)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-30065-storytopic-11.html

 

2007年12月27日(木) 夕刊 1面

僕らの教科書から「軍強制」消えた/高校生ら危機感と憤り

 「なぜ、正しい記述が認められないの」。沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する検定問題で、「日本軍」と「強制」を直接つなげる表現を認めなかった教科用図書検定調査審議会の結論に、実際に教科書を使う立場にある県内高校生から戸惑いと不満の声が上がった。9・29県民大会で決議された「検定意見撤回」は実現せず、「僕たちや後輩たちに悪影響が出る」と危機感を募らせた。

 県民大会参加後、報告会を開いた北部農林高校生徒会長で三年の島袋奈津子さん(18)は「軍は関与はしたけど、強制はしていないというあいまいな表現になっている。体験者が強制されたという事実が否定された感じがする」と懸念する。

 南風原高校三年の具志沙織さん(18)は「沖縄と本土で沖縄戦に対する考え方がこんなに違うのかと無力感を覚えた。沖縄にはたくさんの生存者の証言や遺留品があるのに、どうして正しい記述が認められないのだろうか」と疑問を投げ掛けた。

 その上で「あやふやな教科書では、これから歴史を学ぶ後輩たちに大きな誤解を与えてしまう。沖縄戦を経験したオジーやオバーの心の傷は決して癒えることはないのに、歴史だけが書き換えられていくようで憤りを感じる」と語った。

 宮古郡民大会で「なぜ事実をもみ消し、ゆがんだ情報を伝えようとするのか」と訴えた宮古高校二年の我如古博斗君(17)は「日本軍の関与が認められたことはいいことだが、『軍』と『強制』を直接つなぐ表現が記述されなかったことはショック」と話す。親せきの高齢者から沖縄戦当時の話を聞き、日本軍の強制は歴史的事実ととらえた。検定意見の撤回が実現しなかったことに「間違った検定意見が残ると、僕たちや後輩が学ぶ上で悪影響が出る」と語った。

 父親に誘われ、参加した県民大会をきっかけに、初めて「集団自決」の問題を真剣に考えるようになったという那覇国際高校三年の当真里菜さん(18)。多くの県民の熱意で埋め尽くされた会場に立って、「軍の強制があったことは間違いない」との思いを一層強くしたという。「これまで祖父母や両親、先生から沖縄戦の実相について学んできた。私たちの力で今後、再び県民が願う教科書に戻していけると信じている」と力強く語った。


[ことば]


 教科書検定問題 2008年度から使用される高校歴史教科書の検定で文部科学省が沖縄戦の「集団自決」から日本軍の強制を示す記述を「誤解を与える恐れがある」として、検定意見を付け、教科書会社に削除を求めた。この問題で県内では検定意見の撤回と記述回復を求める抗議の動きが広がり、9月に11万6000人(主催者発表)が参加した県民大会が開かれた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712271700_01.html

 

2007年12月27日(木) 夕刊 1・4面

「軍強制」復活を要請/執筆者らが文科省に

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する教科書検定で、渡海紀三朗文部科学相が「日本軍の強制」記述を認めない形で訂正申請を承認したことを受け、教科書執筆者や教育関係者、労組らでつくる四団体と県関係の野党国会議員が二十七日午前、文科省に松木秀彰教科書課長補佐を訪ね、検定意見の撤回と「軍強制」を含む記述の回復を要請した。

 出席者によると、松木補佐は「軍強制」に関する記述について「文章全体を見て判断しており、『強制』という文言を排除したわけではない」と説明したという。

 琉球大学の高嶋伸欣教授は「渡海文科相の談話に謝罪はおろか、反省の言葉も含まれていない」と指摘。松木補佐は「沖縄県民の思いを重く受け止めるという言葉が入っている」と返答した。

 糸数慶子参院議員は「軍の強制記述は二〇〇五年まで認められていた。学説状況に変化がないのに、なぜ検定意見が付いたのか」と疑義を示した。松木補佐は「わずかな変化があった」として、大阪で係争中の「集団自決」訴訟が影響したことを示唆したという。

 出席団体の要請書では、訂正申請の審議に際して文科省が「教科書会社が訂正申請を取り下げた」と説明しているが、実際には教科書調査官から申請のやり直しを要求されていたことなど審議の「密室性」を批判した。

 松木補佐は「あくまで教科書会社が自主的に取り下げたと認識している」と述べるにとどめた。

 実教出版執筆者の石山久男さんは要請後、「根拠のない検定意見を付けた誤りを認めようとせず、質問にもごまかしの回答しかしない文科省の姿勢に憤慨している」と怒った。

 これに先立ち、共産党の穀田恵二国対委員長、赤嶺政賢衆院議員らが布村幸彦大臣官房審議官と面談し、同様の趣旨を要望した。布村審議官は「軍強制」の記述削除について「直接的な軍の命令を示す根拠は現時点では確認できていない」と述べ、理解を求めた。


     ◇     ◇     ◇     

教科書検定意見 撤回求め抗議文/第9条の会


 高校歴史教科書の検定問題で、教科用図書検定調査審議会が沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に対する軍強制記述を認めなかったことに対し、第9条の会・沖縄うまんちゅの会(安里要江ほか共同代表)は二十七日、文部科学大臣と同審議会長あてに「教科書検定意見をただちに撤回せよ」と訴える抗議文を電報で送った。


記述の回復へ運動すすめる/県労連がコメント


 高校歴史教科書の検定問題で、教科用図書検定調査審議会が沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への軍強制の記述を認めなかったことに対し、県労働組合総連合の宮城常和議長は二十七日、「『検定意見の撤回』と『記述の回復』という沖縄県民の総意の実現に向けて県民とともに運動をすすめる決意である」などとするコメントを発表した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712271700_02.html

 

2007年12月28日(金) 朝刊 1面

「軍強制」再三差し戻し/教科書検定申請

執筆者ら「不当」と批判

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の記述に関する教科書検定の訂正申請をめぐり、文部科学省が「日本軍の強制」に関する記述などについて複数回、教科書会社に差し戻し、書き換えを求めていたことが二十七日、分かった。

 九月二十九日の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の記述では、「(主催者発表の)十一万人については異説や疑問の声も出ている」として、別の書き方を打診したという。差し戻し後、記述を書き換えた教科書会社の編集部長らの説明を受けた執筆者が都内で会見し、明らかにした。執筆者らは「文科省が不当な修正を強要した」と批判した。

 執筆者によると、十一月一―九日にかけ各社が訂正申請した後、文科省の教科書調査官と各社の編集部部長、役員らが記述を調整。執筆者に問い合わせるなどした後、最終的に社の判断として記述を書き換えた。

 実教出版の執筆者・石山久男さんによると、当初訂正した「日本軍は…集団自害と殺しあいを強制した」との記述について調査官の指摘があり、「日本軍が…集団自害と殺しあいを誘導し、強制した」と再申請した。

 しかし、この記述も認められず、同社はいったん申請の取り下げを検討した。その後、調査官が「(申請の)不承認はあり得ない」として再々申請を強く求めたため、「日本軍」の主語を削除した。

 東京書籍の執筆者・坂本昇さんは、体験者の証言を掲載した「囲み」で、「集団自決」について「軍から命令が出たとの知らせがあり」との記述を加えて申請したが、差し戻された。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712281300_01.html

 

2007年12月28日(金) 朝刊 25面

「強制」削除市民怒り/運動の継続誓う

 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を示す記述を削除させた教科書検定問題で、「6・9沖縄戦の歴史歪曲を許さない!県民大会」実行委員会は二十七日、教科書会社からの訂正申請に、「軍強制」を示す記述を認めなかった文部科学省に抗議する緊急集会を那覇市の県民広場で開いた。約七百人(主催者発表)が参加し、「軍強制」の記述復活と検定意見の撤回などを求めた。

 同実行委の大浜敏夫共同代表は「教科用図書検定審議会は『(日本軍)に強制、誘導された集団自決』は駄目で『追い込まれた』という記述なら良いという基準を設けた。絶対に許すことはできない」と語気を強めた。

 「沖縄戦の歴史歪曲を許さず、沖縄から平和教育をすすめる会」事務局長の山口剛史琉球大学准教授は「文科省は教科書会社が申請した『日本軍が強制した』との訂正記述を書き直させ、二重に検定で事実を歪めた」と指摘。「教科書執筆者たちは『訂正申請は毎年できる。強制が認められるまで何度でも申請する』という決意だ。私たちも検定意見撤回まで共に頑張ろう」と呼び掛けた。

 参加者からは九月二十九日の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の実行委員会に運動存続を求める声が相次いだ。

 高校教員の新垣真理さん(54)=那覇市=は「実行委を中心にもう一度、沖縄の声を示すべきだ。せっかく声を上げた『集団自決』体験者らの証言を、後世に伝える方法も考えてほしい」と訴えた。

 無職の照喜名朝寿さん(70)=同市=は「『軍強制』を認めないことがうそで、歴史歪曲だ。実行委は解散せず、今まで通りに検定意見撤回まで活動を続けてほしい」と期待する。

 看護師の知花喬さん(38)=同市=も「国の方針で歴史の事実をすり替えるのは、やっぱりおかしい。九月の県民大会では、県民の総意として検定意見の撤回を求める声が出た。『軍強制』の記述回復も大いに期待していたのに」と納得いかない様子だった。


実行委解散を困難視

玉寄哲永副委員長


 「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員会の玉寄哲永副委員長は二十七日、那覇市の県民広場で開かれた抗議集会に参加し、同実行委の二十八日での解散について「なかなかそうならないのでは」と述べ、早期の解散は難しいとの認識を示した。

 玉寄副委員長は抗議集会で「文科省の対応には不満が残る。九月二十九日の県民大会で決議された検定意見撤回、記述回復を含め、政府に要求した四項目のすべてが実現が中途だ」と指摘。「二十八日の実行委でどのような反応があるのか、解散になるのかは不透明だ」と話した。その後、記者団の取材に「実行委の中には、文科省の対応に厳しい意見も多く、簡単に解散するとはならないのでは」との見通しを示した。


都内でも抗議の声


 教科書検定審議会の結論を受け、教育関係の市民団体などが二十七日、東京都内で集会を開催、記者会見で参加者は「再び歴史の真実を歪曲したことに強く抗議する」と訴え、検定意見の撤回と記述の回復をあらためて求めた。

 教科書執筆者の一人で歴史教育者協議会の石山久男委員長は「まったくのゼロ回答。沖縄県民の怒りを無視し、沖縄戦研究をも否定した」とした上で「検定意見の撤回や制度の抜本的改善が実現するまで戦い続ける」と宣言した。

 九月の沖縄県民大会の実行委員らが一定の評価をしていることについて、高嶋伸欣琉球大教授は「一緒に運動している人は『首相らが謝罪するまでケリがつかない』という点で一致している」と述べた。

 集会では、大阪市の社会科教諭(46)から「小手先の修正で子どもをごまかすのはやめてほしい」などの意見が出た。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712281300_02.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年12月28日朝刊)

[教科書検定審報告(下)]

幾つもの問いが残った


県民大会が示したもの


 教科書検定をめぐる九月二十九日の県民大会で、心に残る印象深い場面があった。読谷高校の津嘉山拡大君と照屋奈津美さんが高校生を代表して演壇に立ち、検定意見に疑問を投げ掛けた時のことである。

 「沖縄戦を体験したおじぃおばぁたちが嘘をついていると言いたいのでしょうか」

 「私たちは真実を学びたい。そして、次の世代の子どもたちに真実を伝えたいのです」

 タオルを握り締め何度もうなずきながら話を聞いているおばぁ。小さい体を丸めて目頭を押さえるおばぁ。そういう姿を壇上から見て、胸が熱くなった、と津嘉山君は語っている。

 会場には親子連れや家族連れが目立った。小さな子どもが大会の意味を分かるわけではないが、大会に参加した記憶は残る。大きくなって、その大会がどういう大会であったかを自ら学び、自分なりに解釈する。これが追体験だ。そういう仕方でおじぃおばぁの戦争の記憶が子や孫の世代に継承されてきたのだと思う。

 家庭の中で沖縄戦の話になった途端、おじぃおばぁの表情が曇り、口を閉ざすことがある。実はその沈黙に触れることが沖縄戦の継承になっているのではないか。沈黙はどのような言葉よりも雄弁に、抱えている問題の真実を照らし出す。

 沖縄社会は、そのようにして戦争体験を戦後世代に語り継いできた。

 六十年を超える戦後の時間の堆積の中で継承されてきたものは、変化することはあっても簡単には崩れない。それを示したのが今回の沖縄側の取り組みだった。県民大会になぜ、あれほど多くの人たちが集まったのか。この問いをないがしろにせず、深く考え抜くことが大切だ。

 「集団自決(強制集団死)」に関する教科書の記述が一部復活したからといって、これで終わり、というわけにはいかない。検定意見が撤回されていない以上、同じ問題が再び繰り返される恐れがあるし、何よりも沖縄にとって大きな課題は、これから先、沖縄戦をどのように継承していくかという問題である。


土地の記憶・国民の記憶


 かつて沖縄に中屋幸吉という詩人がいた。米軍統治下に生きた中屋は、文学と社会運動に身を投じ、復帰前に若くして自ら死を選んだ。彼の残した言葉にこんな表現がある。

 「キミハ ソッチカラ オレヲナガメ オレハ コッチガワカラ キミタチヲ ミテイル」

 この表現の真意は分からない。本土の視線を見返す沖縄の視線のようにも感じられる。確かなことは、「キミ」と「オレ」の間に深い溝があることが自覚されていることだ。

 今回の教科書検定であらわになったのも、日本軍による強制を認めようとしない「キミ」と、史実がねじ曲げられることを憂慮する「オレ」の対立の構図だった。沖縄の戦後史は、今に至るまで、このような図式の繰り返しだった、ともいえる。

 沖縄戦における「集団自決」や「日本軍による住民殺害」の体験は、沖縄の人たちにとっては琴線に触れる「土地の記憶」であるが、「国民の記憶」と呼べるものにはなっていない。

 広島、長崎の被爆体験は「土地の記憶」であると同時に、「国民の記憶」にもなっている。だが、沖縄の地上戦体験は「土地の記憶」にはなっているが、「国民の記憶」になっているとは言い切れない。


体験の継承と普遍化を


 教科書検定のために提出した清水書院の申請図書は「なかには日本軍に集団自決を強制された人もいた」という表現だった。検定で「日本軍」「強制」という言葉にクレームがつき、「なかには集団自決に追い込まれた人々もいた」と書き改められた。

 訂正申請で「強制」という文言の復活を試みたが拒否され、結局、次のような長い文章に変わった。

 「…米軍の捕虜になって悲惨な目にあうよりは自決せよ、と教育や宣伝を受けてきた住民のなかには、日本軍の関与のもと、配布された手榴弾などを用いた集団自決に追い込まれた人々もいた」

 次代を担う学生に希望したいのは、今回の検定事例を丹念に、さまざまな角度から検証する機会をつくってほしいということである。大きな問いを引き受けることが戦争体験の継承と普遍化につながっていく。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071228.html#no_1

沖縄タイムス 関連記事(12月25日、26日)

2007年12月25日(火) 夕刊 1面

山崎氏「記述ほぼ復活」/「集団自決」検定撤回

 文部科学省が高校の日本史教科書から、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述を削除させた教科書検定問題で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員会の幹部ら六人が二十五日朝、三度目となる文科省への要請行動のため上京した。要請団と面談した自民党沖縄振興委員会の山崎拓委員長は「集団自決」への軍強制を示していた検定前の記述がほぼ復活すると述べた。また、岸田文雄沖縄担当相が内閣府の沖縄戦関係資料閲覧室の機能を強化する考えを示した。

 山崎委員長は、県議会議長の仲里利信・県民大会実行委員長ら要請団と正午すぎに面談し、教科書会社からの訂正申請に対する文科省の対応の結果、「ほぼ検定前の記述に戻るのではないか。ただ、直接的に軍が命令したとの記述にはならないと思う」との見通しを示した。

 要請団はその後、岸田文雄沖縄担当相とも面談した。岸田沖縄担当相は沖縄戦関係資料閲覧室の資料をインターネットで閲覧できるようにするなど、機能強化を図る考えを示した。

 文科省は「軍の強制」を示す記述回復を求めた教科書会社からの訂正申請に対し、沖縄戦の「集団自決」について「直接的な軍命は確認できていない」などとした教科用図書検定調査審議会の指針を示し、教科書会社に「軍の強制」を薄めた記述での再訂正をさせている。

 九月二十九日の県民大会では、検定意見の撤回と記述回復を求める決議がされており、県民大会実行委は教科書審議会の指針に抗議するとともに、渡海紀三朗文科相への面談を求め、「軍の強制」を示す記述の回復と検定意見の早期撤回を求める予定。

 仲里委員長は「十一万六千人の意思が、文科省職員や審議会の一握りの意見で拒まれるようなことがあれば、県民一丸となり長期的に検定意見撤回と記述回復の実現に取り組むことになる」と決意を述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712251700_03.html

 

2007年12月26日(水) 朝刊 1面

普天間アセス 知事、調査着手を困難視

 仲井真弘多知事は二十五日、沖縄タイムス社など報道各社のインタビューに応じた。米軍普天間飛行場移設に向けた環境影響評価(アセスメント)に関連し、沖縄防衛局が来年二月初めのアセス調査着手に向け県に求めているサンゴ類採捕などの許認可について、「(県環境影響評価)審査会がちゃんとした(アセス)方法と認めなければ前に進まない」などと述べ、アセス方法書の追加や補充がなければ困難との方針を示唆した。

 現況調査(事前調査)のデータ結果をアセスに取り込むことを前提とする防衛局の姿勢に対しては、「これまで事業者が適当にやってきたものを方法として認めてもらって、それを継ぎ足せばいいとのやり方はおかしい」と異議を唱えた。

 また、都道府県を再編成して「道」や「州」などの広域自治体をつくる道州制については、「(県民に)受け入れられやすいのは独立州だと思う」との認識を示した。その上で、「ユニバーサルサービスを行う上で、財政力が税源を含めて達成可能かと考えるともう少し詰めがいる」とし、新年度から県庁内に新体制をつくり、道州制導入に向けた論議を本格化させる方針を明らかにした。

 現行の沖縄振興特別措置法(沖振法)が二○一一年で終了した後の対応については、単純延長を困難視する一方、「(沖振法に規定されている)情報、金融特区などがうまくフル活用されていない感がある。産業振興上は、さらにあと十年あると非常に効果的だと思う」と述べ、産業振興面での優遇措置の延長は必要との認識を示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712261300_03.html

 

2007年12月26日(水) 朝刊 1面

沖縄戦資料室を強化/沖縄担当相

ネット閲覧可能に

 【東京】岸田文雄沖縄担当相は二十五日午後、「教科書検定撤回を求める県民大会」実行委員会の仲里利信委員長ら幹部と会談し、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する教科書検定問題に絡み、内閣府が所管する「沖縄戦関係資料閲覧室」(東京都港区)の機能を強化する方針を明らかにした。

 内閣府によると、同閲覧室が所蔵している沖縄戦に関する公文書約一千二百九十点をインターネットで閲覧できるよう、関係経費千九百万円を二〇〇八年度予算に計上した。また、同室を国会図書館に隣接する永田町合同庁舎に移転し、利便性を向上させる。広さも約二倍に拡大する。岸田沖縄相は「ネットなどで幅広く活用してもらえるようシステムの拡充、強化を考えている。この(教科書検定)問題にできるだけ資する努力をしたい」と述べた。

 実行委の玉寄哲永副委員長(県子ども会育成連絡協議会長)は「沖縄戦をもっと正確にとらえるため、新しい証言を収集することもしてほしい」と体験者の証言収集強化の必要性を訴えた。

 実行委に同行した安次富修衆院議員は「全国の高校で(慰霊の日の)六月二十三日は沖縄にとって特別な日だと教育するなど、今回の問題を契機に新しい取り組みをしてほしい」と要望した。

 一方、自民党沖縄振興委員会の山崎拓委員長は実行委に、教科書会社からの訂正申請を受けた教科用図書検定調査審議会が近く公表する結論で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制記述が「ほぼ検定前に戻るのではないか」との見通しを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712261300_04.html

 

2007年12月26日(水) 夕刊 5面

CH53D配備に抗議/宜野湾市議会 意見書も可決

 【宜野湾】宜野湾市議会(伊波廣助議長)は、二十六日午前の十二月定例会最終本会議で、沖縄国際大学に墜落した米海兵隊CH53D大型輸送ヘリコプターの同型機の普天間飛行場への配備に対する意見書と抗議決議の両案を全会一致で可決した。

 抗議決議などでは、墜落事故から三年を経て市民が恐怖にさらされていることを指摘。「飛行訓練が恒常化する可能性があり、市民・県民を愚弄した行為に対し、激しい怒りを覚える」と糾弾した。

 その上でヘリの飛行は「市民の生命を軽視するものであり、断じて容認できるものではない」として、(1)住宅地上空での飛行訓練の即時中止(2)外来機の飛来禁止(3)基地強化につながる航空機・部隊の配備中止(4)同飛行場の早期返還―の四点を求めている。

 あて先は在日米軍司令官、在沖米四軍調整官、駐日米国大使など。


民主「次の内閣」「普天間」を視察

宜野湾市長と意見交換


 【宜野湾】民主党「次の内閣」の視察団(団長・武正公一衆院議員)は二十六日午前、宜野湾市の伊波洋一市長と意見交換し、市役所屋上から普天間飛行場を視察した。

 伊波市長は同飛行場の危険性やマスタープランで土地利用禁止区域(クリアゾーン)が明記されていることを説明。「国民の安全が守られるような仕組みを作るべきだ」と要望した。

 これに対し、武正団長は利用禁止区域に小学校が立地することなどに触れ、「多くの示唆をいただいた。われわれもこの視点を生かしたい」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712261700_04.html

 

2007年12月26日(水) 夕刊 4面

ヘリパッド工事再開/東村高江区4カ月ぶり

 【東】米軍北部訓練場の一部返還に伴い、ヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の移設作業が予定されている東村高江区で二十五日、八月以降、約四カ月ぶりに工事が再開された。

 沖縄防衛局が同日正午すぎ、移設作業地点のN―4地区ゲート前に到着。移設に反対する住民が抗議する中、十トントラック二台分の砂利を搬入した。

 もう一方のN―1地区ゲート前では、反対派住民が二トントラック一台の前に立ちふさがり、搬入を阻止した。

 N―4地区で座り込みを行っていた同区の清水暁さん(37)は「これから年末年始にかけて、緊張した日々が続くのではと不安になる。住民の声を無視して、戦争につながる基地を造るのは反対だ」と、政府の姿勢を批判した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712261700_05.html

沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(12月20日から23日)

2007年12月20日(木) 朝刊 1面

米軍再編経費に191億円/防衛予算

 【東京】防衛省は十九日、二〇〇八年度防衛予算の米軍再編(地元負担軽減分)と日米特別行動委員会(SACO)の両関係経費を財務省に変更要求した。米軍再編(地元負担軽減分)の関係経費の総額は歳出ベースで〇七年度当初予算比約二・六倍の百九十一億七百万円を要求。SACO関係経費は五十四億二千六百万円増の百七十九億八千六百万円(歳出ベース)を求めた。

 普天間飛行場移設は、移設先の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部周辺で〇七年度の継続で海象、気象、文化財調査や、海域の環境現況調査、既存施設の再配置などに、四十八億三千百万円(同)を要求。埋め立てに関する基本検討も行う。

 〇七年度当初予算比三十八億二千八百万円増だが、〇七年度契約分の執行によるものだ。

 「嘉手納以南六基地」の全面・一部返還は、既存施設などへの機能移転で米側との交渉に役立てるため、施設の配置検討を実施。二千九百万円増の二億千九百万円(同)を求めている。

 在沖米海兵隊八千人のグアム移転では、日本側が整備する家族住宅やインフラの整備に向けた事業者選定などに関する業務を調査検討する費用として四億円(同)。

 〇七年度から始まった嘉手納基地所属F15戦闘機の本土六自衛隊基地への訓練移転経費は七億五千万円増の十一億二千三百万円(同)。大規模な訓練移転に備え、新田原飛行場(宮崎県)の滑走路補強や隊舎、食堂を拡充する。

 防衛省関係者によると、二十日の財務省の予算原案内示で全額が認められる見通しだ。

 SACO関係経費では、「土地返還のための事業」に七十八億四千七百万円増の百三十三億四千七百万円を要求。キャンプ桑江(北谷町)の海軍病院移転経費などで、SACO関係経費全体を押し上げた。

 米軍再編とSACO関係経費は八月の概算要求時には金額が確定せず、合計額を「仮置き」していたが、変更要求に合わせて精査した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712201300_03.html

 

2007年12月20日(木) 朝刊 2面

米海軍P3C 飛行停止/尾翼に構造的問題

 米海軍は十九日までに、P3C哨戒機の機体の経年疲労分析の結果、尾翼低部に構造的な問題が判明したとして、三十九機の飛行停止措置を取った。米海軍司令部が十七日発表した。うち十機が実戦配備中の機体というが、嘉手納基地の米海軍所属機が含まれているかどうかは不明。

 同機は海上自衛隊那覇基地にも約二十機が配備されている。同基地によると、海上幕僚監部が米海軍と製造メーカーに照会中で、同機による哨戒活動は通常通り実施しているという。

 米軍準機関紙「スターズ・アンド・ストライプス」によると、飛行停止されている機体の分析は十八―二十四カ月かかる見込み。同機は二〇〇五、〇六年にも計三回、飛行停止措置が取られたが、問題の見つかった機体は任務に復帰しているという。

 米海軍はP3Cを計百六十一機所有。平均耐用年数は二十八年で、製造から最も古い機体は四十四年、最も新しい機体で十六年が経過している。

 米海軍はP3Cの後継機として、P8Aを一三年から配備予定。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712201300_04.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年12月20日朝刊)

[前次官再逮捕]

政官業癒着にメスを

 ゴルフ接待などにとどまらず、やはり現金の授受があった。生活費や借金返済などに充てたというから驚かされる。感覚がここまでまひするのか。

 前防衛次官汚職事件で、東京地検特捜部は前次官の守屋武昌容疑者を収賄容疑で、防衛商社「山田洋行」元専務の宮崎元伸容疑者と、同社の米国子会社元社長の秋山収容疑者を贈賄容疑でそれぞれ再逮捕した。

 守屋容疑者は、防衛装備品の納入をめぐり便宜を図った見返りとして現金約三百六十万円のわいろを受け取った疑いがもたれており、三人はいずれも容疑を認めているという。

 守屋容疑者は最初の逮捕容疑となったゴルフ旅行接待について収賄罪で起訴され、宮崎容疑者は贈賄罪で追起訴された。

 しかし、疑惑の解明はまだ緒についたばかりである。この汚職事件の奥には防衛利権をめぐる深い闇が広がっており、今後、政界ルートをどこまで解明できるかが大きな鍵になる。

 参院での証人喚問で、守屋容疑者は「建設関係で政治家から『防衛省の仕事をやりたい会社を防衛省に登録するためにはどうしたらいいか』と相談を受け、担当先を紹介したことがある」と述べ、政治家との関係に触れた。

 守屋容疑者は「防衛省の天皇」とも評され、その背景には自民党の国防族議員との親密な関係があったと指摘されてきた。

 特捜部は与野党の国防族議員が名を連ねる「日米平和・文化交流協会」を捜索している。今後、注目されるのは「肝心なことは供述していない」(捜査関係者)という守屋容疑者の供述の行方である。

 身柄拘束のまま年越しで取り調べを継続するのは異例とされる。検察の強い意欲の表れだろう。今度こそ防衛利権をめぐる政官業の癒着の深部にメスを入れ、全容解明につなげてほしい。

 「防衛機密」というベールに包まれた随意契約による装備品の調達という手法にも問題があったのは確かだ。

 政府は防衛省改革に関する有識者会議を発足させた。文民統制(シビリアンコントロール)の徹底と、装備品調達をどう透明化していくかが当面の重要課題であることは言うまでもない。

 沖縄から見ていて最も気になるのは米軍再編問題に絡んだ捜査の行方である。特捜部は米軍再編に関する多数の資料を押収し、防衛省関係者から事情を聴いているという。

 「普天間」移設をめぐる防衛省を中心とした強硬路線の背後に何らかの利権が絡んでいたのかどうか、疑惑の徹底解明を強く求めたい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071220.html#no_1

 

琉球新報 社説

墜落同型ヘリ飛行 米軍は無神経すぎないか

 宜野湾市の沖縄国際大学に墜落したヘリと同型のCH53D大型ヘリ2機が18日、同市住宅地上空を飛行した。県民にとっては、悪夢としかいいようがない。

 米軍普天間飛行場から一時的に姿を消したCH53Dは11月6日から再配備され、来年1月までに合わせて10機になる。兵員も約150人が移動してくる。

 今後、民間地上空を頻繁に飛び交い、住民を危険にさらすことは確実な情勢である。

 2004年8月の沖国大ヘリ墜落事故について米軍捜査当局がまとめた報告書で明らかになったことは、普天間飛行場では定められた手順を無視した整備が行われていたということだ。

 事故機以外にも整備不良のヘリが日常的に住宅地上空を飛行し続けている疑いが濃厚である。米軍はそのような状態を放置していたのである。

 報告書は「整備兵がヘリ尾部の接続器具コッター・ピンの装着を忘れたのが事故原因」と結論付けたが、そのような初歩的なミスの背景には米軍のずさんな管理、組織上の欠陥があったのである。

 ずさんな整備レベルが改善されたとの確証を県民が持ち得る状況にはいまだない。危険性は墜落事故時と何ら変わりないのである。

 ヘリの想定使用年数は20年との指摘がある。D型は平均使用年数37年とされ、それを大きく上回っている。老朽化したヘリはいくら整備しても、構造的疲労は進行する。それを見逃す可能性は十分あり得る。

 墜落事故から3年余が経過しても、何ら安全性は保証されていないのである。そればかりか、老朽化がさらに進んだことで、危険性はより増したとみるべきである。

 米軍が事故機と同型機を再配備し、飛行することは無神経に過ぎる。

 墜落事故のはるか前から住宅街への事故発生の危険性が指摘され、墜落事故は起こるべくして起きたのである。同じような墜落事故が起きないと言い切れるだろうか。

 墜落事故直後、県議会や宜野湾市議会をはじめ、多くの市町村議会が抗議決議を可決した。事故機と同型機だけでなく全機種の飛行停止を求めたが、米軍はそれを無視し、日本政府もそれを容認している。

 アジアの安定を言いながら、沖縄を危険にさらす矛盾に気付くべきだ。

 米軍も日本政府も、事故の危険性を排除するための方策を真剣に考えてほしい。

 事故の危険性のある機体は米国に戻し、住宅地のど真ん中にある普天間飛行場は即座に閉鎖することが唯一確実な事故防止策であることを認識するべきだ。

(12/20 10:07)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-29882-storytopic-11.html

 

琉球新報 社説

08年度予算原案 減額続きの理由の説明を/基地主導型振興は危険だ

 政府の沖縄振興予算の減りが止まらない。20日、各省庁に内示された財務省の2008年度予算原案でも、沖縄予算は本年度比3・4%減の2551億円。01年度以降、7年連続の減少だ。山積する沖縄問題に、果たして処方箋(せん)となる中身か。検証したい。

 一般会計総額は0・2%増の83兆613億円。小幅だが増えている。その中で、沖縄予算が減っている。

 本土復帰から08年度までの沖縄予算(旧・沖縄開発庁一括計上分、現在・内閣府沖縄担当部局予算)のピークは、10年前の1998年。総額は4713億円。08年度予算は、53%の水準だ。毎年約216億円、減り続けてきた勘定となる。

薬効問われる振興策

 政府の沖縄予算は、「沖縄問題」の処方箋としての沖縄振興計画に基づき、処方されてきた薬だ。

 復帰後、ことしで35年。その間に「投薬」は9兆円を超えた。

 「薬効」はどうか。社会資本の整備など、ハード面の治療には一定の効果を挙げた。だが、主たる治療すべき疾病として政府や県が掲げた全国一の高失業、低所得、高財政依存、高基地経済依存に象徴される「沖縄問題」の状況に、改善の兆しがみられない。

 むしろ、失業率は復帰時の4%から最近は7%に悪化し、全国平均と比較した所得水準は、一時は75%近くまで改善したが、最近値では70%前後と低迷している。

 財政依存度も高まり、基地依存経済は復帰時の15%から、最近値では5%を切ると言われるが、総額では2000億円を超え、むしろ重みを増している。

 政府の一般会計のピークは2000年の89兆3000億円。以後は増減の波を打ちながら、07年度は82兆9000億円と増加基調に転じている。その中で、沖縄予算の激減である。

 政府は5年前に新処方箋となる「沖縄振興計画」「沖縄振興特別措置法」を策定した。

 高失業、低所得の病状改善に向け、打ち出された治療方針は「従来の社会資本整備」に加え、「活力ある民間主導の自立型経済の構築」である。

 そのための旧薬の「社会資本整備」に、新薬は「観光」「情報通信産業」「金融」「科学技術新大学院大学」、これに「大規模駐留軍用地跡地利用の促進、円滑化」を加えている。

 08年度予算原案でも、沖縄予算は、「金融」はまだ見えないが、この5本柱が中心だ。

 目玉は情報通信産業の一大集積拠点を目指す「沖縄IT津梁パーク」の建設費7億9000万円の計上。

 観光は、国際観光地を目指すプロモーションモデル事業が目玉だ。

 沖縄科学技術大学院大学は、12年開学に向け、建設費やソフト合わせて107億円が計上され、本体工事が本格化する。

確かな目で「選択と集中」

 「旧薬」では、懸案の那覇空港沖合展開に向けた調査費、老朽化の著しい4小中学校の全面改築費、特別自由貿易地域への賃貸向上整備事業などが計上されている。

 基地跡利用では、ギンバル訓練場跡地のふるさとづくり整備事業(15億6000万円)など大型事業が計上された。

 個別の事業をみると華やかに見えるが、木を見て森を見ずでは困る。政府や県には、沖縄予算の総額が減額を続けている背景説明を求めたい。

 気になるのは、ソフト事業が中心の基本的政策企画立案等経費が本年度比15・7%の大幅減となった理由だ。原因は「島田懇談会事業」の終了。米軍基地所在市町村の活性化特別事業として展開されてきたが、要は基地受け入れの迷惑料的な色彩が強い。

 政府の沖縄振興策は、内閣府主導から防衛省主導へ、基地主導型振興策への転換が進んでいる。

 再編交付金をめぐる政府と県との交渉でも、基地受け入れと振興策がリンクしている。本来あるべき地域振興の理念を忘れてはいけない。施設建設後、維持管理費の重荷に借金を増やす市町村の例も少なくない。基地受け入れ市町村は、不要不急の施設建設に走らぬよう注意すべきだろう。

 半減した沖縄予算の中で、県はいっそうの「選択と集中」を迫られている。無駄な事業はないか、費用対効果はどうか。処方薬の「薬効」を見極め、復活折衝に挑んでほしい。

(12/21 9:46)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-29907-storytopic-11.html

 

2007年12月20日(木) 夕刊 1面

沖縄関係2551億円/08年度予算原案内示

 【東京】政府は二十日、二〇〇八年度予算原案を内示した。内閣府沖縄担当部局の内示額は二千五百五十一億円(概算要求額三千百二十五億円)で、〇七年度予算額を3・4%(九十一億円)下回った。減額は七年連続。一九九〇年度以来、十八年ぶりの低水準になった。一方、沖縄科学技術大学院大学関連の経費は二十億円増の百七億円を確保。第一研究棟や管理棟など、メーンキャンパス関連の建築工事が本格化する。内閣府が重視する情報技術(IT)、観光の両分野には新規事業を手厚く配した。

 政府が〇七年度分の執行と〇八年度分の計上を凍結していた北部振興事業費は、今月十二日の「米軍普天間飛行場の移設に関する協議会」で普天間移設に関する政府と地元の協議が「円滑」に進んでいることが確認されたため、例年通り百億円が認められた。〇七年度分の百億円も一月中旬に執行される見通しだ。

 内示の減額は(1)公共事業関係費が3・2%(六十八億円)減少(2)沖縄米軍基地所在市町村活性化特別事業(島田懇談会事業)費が米軍ギンバル訓練場の跡地利用を除いて〇七年度で終了し24・1%(四十九億円)減少―したことが要因。

 主な新規事業では、情報通信関連産業の振興で、沖縄に高度なIT企業や関連産業を集積する「IT津梁パーク」整備事業に七億九千万円が認められた。観光関連では、自然環境の保全に配慮した観光地づくりを支援する事業や、中国など東アジア諸国の観光市場の動向調査事業などを盛り込んだ。

 人材育成では、アジア各国の若者が沖縄に滞在して交流を深める「アジア青年の家」事業や、観光業界の経営者を対象にしたセミナーなど、幅広い年齢層に対応した新規事業を配した。

 宮古・八重山地域で地上デジタル放送への円滑な移行を推進する事業は内示段階で予算がつかず、岸田文雄沖縄担当相が二十二日に額賀福志郎財務相と復活折衝する。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712201700_01.html

 

2007年12月20日(木) 夕刊 1面

県議会、未明離陸で抗議

 【沖縄】県議会米軍基地関係特別委員会の親川盛一委員長らは二十日午前、米軍嘉手納基地に、マックス・カシュバム第一八任務支援群司令官(大佐)を訪ね、相次ぐ未明離陸やGBS(地上爆発模擬装置)を用いた訓練が県民に不安を与えているとして抗議した。

 親川委員長によると、カシュバム司令官は「日米安保条約に基づき、任務遂行のために未明離陸や即応訓練を実施している」として要請を拒否。その上で「住民感情には配慮したい」などと述べたという。

 親川委員長は「県民の理解がないと基地は運用できない。今後も抗議決議の趣旨に沿って行動したい」と話した。

 県議会が十九日に可決した抗議決議は、(1)深夜・早朝(午後十時―午前六時)の時間帯の航空機の離着陸の原則禁止を定めた航空機騒音防止協定の厳守(2)嘉手納基地で大規模即応訓練を今後行わない(3)県内基地所属以外の航空機の訓練などは行わない―の三点を求めている。

 一行は同日午後、在日米軍沖縄地域調整事務所、在沖米国総領事、沖縄防衛局などを訪ね、抗議・要請行動を展開する。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712201700_02.html

 

2007年12月20日(木) 夕刊 7面

P3Cが離着陸訓練/嘉手納

 【嘉手納】嘉手納基地の米海軍所属のP3C対潜哨戒機が二十日午前、同基地で複数回の離着陸訓練を実施している様子が確認された。同機は、尾翼底部に構造的な問題が判明したとして、米海軍が所有する百六十一機のうち、三十九機の飛行を停止している。嘉手納基地所属機が含まれているかどうかは不明。

 目撃者などによると、嘉手納基地北側滑走路を使用し、P3Cが離着陸を繰り返した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712201700_05.html

 

2007年12月21日(金) 朝刊 1面

国、来年7月にも準備書/普天間アセス

 【東京】十二日に開かれた米軍普天間飛行場移設に関する政府と地元の第五回協議会で、防衛省が代替施設建設に伴う環境影響評価(アセスメント)準備書を来年七月にも県に提出する意向を示していたことが二十日、分かった。防衛省が現在実施している現況調査(事前調査)を、アセス調査に取り込むことを前提にしていることが裏付けられた形だ。現況調査について県環境影響評価審査会は、方法書に対する県への答申で「中止も含め検討させる必要がある」と指摘。二十一日の知事意見での位置付けが注目される。

 防衛省は今年五月から九月にかけて建設予定地の周辺海域に現況調査の調査機器を設置。現況調査をアセスに反映させるかどうかについて防衛省は「県などと協議する」とし、公式には明言を避けている。

 十二日の協議会で、町村信孝官房長官は準備書の提出時期を石破茂防衛相に確認。石破防衛相は「当初は来年七月末ごろを予定していた」と説明した。

 これに対し、仲井真弘多知事は「準備書の提出時期は再来年の二月ごろと考えている」と異議を唱えた。

 アセス調査は最低でも通年実施することが必要とされている。知事の指摘は、方法書が確定する来年二月から一年間をアセス調査期間として確保するべきだ、との見解を示したものとみられる。

 準備書の提出時期について、防衛省幹部は「(来年七月末の)スケジュールは変わっていない」としているが、別の政府関係者は「現在実施している現況調査では、今年秋の調査が不十分なため、準備書は来年九月ごろになる」との見通しを示している。

 ただ、準備書が来年九月に提出された場合でも、現況調査をアセス調査に取り込むことが前提となる。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712211300_02.html

 

2007年12月21日(金) 朝刊 1面

代替施設滑走路1600メートルはオスプレイ用/米軍文書 司令官が明示

 米軍普天間飛行場の移設に伴い、代替施設で計画されている滑走路の長さ千六百メートル(オーバーランを含めた全長千八百メートル)は、海兵隊の垂直離着陸機MV22オスプレイの着陸に必要な距離であることが、一九九六年の米軍文書で分かった。米太平洋軍司令官が代替施設の主力機をオスプレイと明示、施設の必要条件として指示していた。

 進行中のV字形滑走路案の環境影響評価(アセスメント)手続きで、沖縄防衛局は滑走路の長さを「短距離で離着陸できる航空機のニーズ」と説明し、方法書でオスプレイの配備には触れていない。二〇〇六年にも在沖米海兵隊基地司令官が代替施設の滑走路はオスプレイを想定した長さだと発言しており、あらためて文書で裏付けられた。

 文書は、太平洋軍司令官の指示を受けた海軍検討グループが一九九六年八月付で作成した。積載量、ブレーキ能力、標高などから、必要な滑走路長を千五百五十四メートル(五千百フィート)と算出した。

 また、SACO(日米特別行動委員会)合意による普天間飛行場の「五―七年以内の返還」について、「施設の建設は四―五年で可能でも、環境調査や影響の緩和措置、設計を二年で完了することはおそらく不可能だ」と指摘している。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712211300_03.html

 

2007年12月21日(金) 朝刊 2面

小学校の存在無視/米軍普天間マスタープラン

 【宜野湾】米軍が米軍基地周辺の土地利用を制限する「航空施設整合利用ゾーン(AICUZ)」を普天間飛行場に設定していることが二十日、宜野湾市が米国から入手した同飛行場マスタープラン(一九九二年作成)で明らかになった。滑走路の両端から約九百メートルの範囲は土地利用禁止区域となり、住宅や学校などの立地が制限されるが、実際には普天間第二小学校が立地している。記者会見した伊波洋一市長は「小学校の存在を無視した偽りのプランで、危険な普天間の実態を覆い隠したものだ」と指摘、今後も日米両政府に同飛行場の撤去を求める考えだ。

 AICUZは基地周辺住民の安全を守り、航空機の運用を円滑にするための土地利用の指針。しかし、同プランには禁止区域に含まれる普天間第二小学校などの記述がなく、設定された飛行ルート以外でも航空機が飛んでいるのが実情だ。

 同飛行場の危険性については現在、普天間爆音訴訟団が国を相手に裁判で争っており、住民らの危険への接近が争点となっている。伊波市長は「普天間は七〇年代に滑走路が整備され飛行場として機能が強化されたが、小学校の開校は六〇年代。小学校があることを知っていながら日米両政府は危険性を放置した」と指摘。「欠陥飛行場の普天間は直ちに撤去するべきだ」と訴えた。

 基地問題に詳しいNPO法人ピースデポの梅林宏道代表は「マスタープランは(住民を守るための)利用禁止区域の定義を書いておらず、高さ制限など航空機の安全のための記述しかない。意図的に危険地域の話をそらして米軍の望む形で計画を作り、基地を運用したいのだろう」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712211300_04.html

 

2007年12月21日(金) 朝刊 31面

「集団自決」きょう結審 大阪地裁

 沖縄戦時に慶良間諸島で相次いだ住民の「集団自決(強制集団死)」をめぐり、大江健三郎氏の「沖縄ノート」などの著作で名誉を傷つけられているとして、旧日本軍の元戦隊長らが大江氏と岩波書店に慰謝料などを求めた訴訟は二十一日、大阪地裁で結審する。

 住民に「集団自決」を命じた事実はないと主張する元戦隊長の梅澤裕氏(91)ら原告側に、記録や住民の証言から事実は明らかと被告の大江・岩波側が反論。審理は二〇〇五年八月の提訴から約二年五カ月に及び、来年三月には判決が言い渡される見通し。判決が「集団自決」の史実にどこまで踏み込むかが焦点となる。

 同訴訟における梅澤氏らの主張は、「集団自決」に関する表記をめぐって日本軍の強制性が削除された、今年三月公表の歴史教科書検定の根拠になり注目された。


習志野市議会も撤回要求意見書

検定問題で可決


 【千葉】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制が削除された教科書検定問題で、千葉県の習志野市議会(高橋司議長、定数三十人)は十九日、検定意見の撤回を求める意見書案を賛成多数で可決した。反対は三人だった。

 意見書は「(検定意見は)沖縄戦の体験者の声や県などの調査を否定するもので、『集団自決』がたとえ一部の軍人の強制・誘導であっても、軍は関与していないとは言い切れない」とし、子どもたちに事実を伝える重要性を指摘している。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712211300_07.html

 

2007年12月21日(金) 夕刊 1面

軍命めぐり最終弁論/「集団自決」訴訟

大阪地裁3月にも判決

 沖縄戦時に慶良間諸島で相次いだ住民の「集団自決(強制集団死)」をめぐり、島に駐屯していた部隊の元戦隊長とその遺族らが、作家・大江健三郎氏の「沖縄ノート」などの著作で名誉を傷つけられているとして、大江氏や岩波書店に出版の差し止めや慰謝料などを求めている訴訟は二十一日午後、大阪地裁(深見敏正裁判長)で最終弁論が始まった。

 原告と被告の双方がこれまでの主張をまとめた最終準備書面を提出。法廷で代理人がそれぞれ十五分ずつ、要旨を陳述した。提訴から約二年五カ月の審理を経て弁論は同日で終結し、来年三月には判決が言い渡される見通し。

 これまでの審理で原告側は、自決命令を否定する元戦隊長らの名誉回復訴訟と位置付け、戦隊長による個別の命令について事実の立証を要求。被告側は、当時の状況から軍隊による強制や命令があったのは明らかで、戦隊長による命令も数多くの資料から真実だと反論。判決が「集団自決」の事実にどこまで踏み込むかが焦点となる。

 訴えているのは、座間味島駐屯部隊の戦隊長だった梅澤裕氏(91)と、渡嘉敷島の戦隊長だった故赤松嘉次氏の弟の秀一氏(74)。「沖縄ノート」や故家永三郎氏の著作「太平洋戦争」で、住民に「集団自決」を命じたと記され、両元戦隊長の名誉とともに、秀一氏が兄を慕い敬う「敬愛追慕の情」が侵されている、としている。

 弁論に先立ち、傍聴抽選が行われ、六十四枚の傍聴券を求めて百七十八人が並んだ。

 宜野湾市から傍聴に訪れた平和ネットワーク会員の外間明美さん(41)は「沖縄戦の実相を住民からみれば、軍によって多くの被害をもたらされ、命を失うところまで追いやられたのは明らか。被告側は幾つもの新証拠で示している」と指摘し、「裁判所は、それを踏まえた判決を書いてほしい」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712211700_03.html

 

2007年12月22日(土) 朝刊 1面

「強制」文言避け調整/「集団自決」修正

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書検定問題で、文部科学省の教科書調査官が教科書会社に、日本軍を主語にした「強制」や「強いた」という言葉を使わないよう求めていることが二十一日、分かった。これを受け、訂正申請した六社のほとんどが「強制」の文言を使わない形で申請をやり直しているもようだ。

 関係者によると、主語が日本軍と明確には読み取れぬように「強制」の表現を残している会社もあるという。九月の県民大会を受け、十一月に訂正申請した各社の記述では、「日本軍の強制」を明記していたものが多かったが、大幅に後退した格好。「軍強制を削除した検定直後の記述に戻ってしまった」(関係者)との声も挙がっており、県民の反発は必至だ。

 関係者によると教科書調査官は今月中旬、各社の担当者に「日本軍の主語と強制の述語が直接つながる表現は避けてほしい」との趣旨を伝達したという。教科用図書検定調査審議会(検定審)の意向を受けた対応とみられる。

 検定審は訂正申請の記述が出そろった後の審議を経た今月四日、教科書調査官を通じて六社の担当者に「『集団自決』が起こった背景・要因について、過度に単純化した表現で記述することは、生徒の理解が十分にならない恐れがある」などとする「指針」を伝達。「集団自決」を軍だけが強制したと読み取れる記述を事実上、禁じていた。

 この後、「日本軍の強制」と「集団自決」の背景を併記して再訂正申請した会社もあったが、今回の措置を受けて再々訂正申請したもようだ。

 検定審は週明けにも日本史小委員会を開き、今回の方針を受けた記述を審議する。


[ことば]


 集団自決検定問題 2008年度から使用される高校の日本史教科書の検定で、沖縄戦の集団自決に日本軍の強制があったとの記述に対し、教科書検定審議会は「沖縄戦の実態について誤解を与えるおそれがある表現」との検定意見を付けた。各教科書会社は意見に従い「強制」の記述を削除・修正し検定に合格。県内での大規模な抗議集会を受け、町村信孝官房長官が「工夫と努力と知恵があり得るのかもしれない」と発言した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712221300_03.html

 

2007年12月22日(土) 朝刊 1面

「集団自決」訴訟 大阪地裁で結審

 沖縄戦時に慶良間諸島で相次いだ住民の「集団自決(強制集団死)」をめぐり、旧日本軍の元戦隊長やその遺族が、大江健三郎氏の「沖縄ノート」などの著作は名誉棄損だとして、大江氏と岩波書店に慰謝料などを求めた訴訟は二十一日、大阪地裁で結審した。判決は来年三月二十八日に言い渡される。

 最終準備書面で原告の元戦隊長側は、住民への手榴弾交付や村長の「万歳三唱」を隊長命令にすることは、事実を論評にすり替え、無理やりに軍命説を維持するためのねつ造だと主張。

 「集団自決」が軍命令や隊長命令で起きたという指摘について、「具体的な証拠の検証に基づかない、人間心理や戦場の現実への想像力に欠けた、極めて浅薄な思考観念であることが明らか」などと述べた。

 被告側は、沖縄では皇民化教育が強力に推進され、日本軍は「軍官民共生共死一体化」の方針で、総動員作戦を展開していたと強調。米軍上陸の際は、村民とともに玉砕する方針を採っており、捕虜となることを禁じ、いざという時は「玉砕」するよう言い渡していたと結論付けた。

 大江氏の「沖縄ノート」について、戦隊長の「集団自決」命令が出されたことも、戦隊長を特定する記述もなく、名誉棄損にあたらないことは明らかとしている。

 訴えているのは、座間味島の戦隊長だった梅澤裕氏(91)と、渡嘉敷島の元戦隊長、故赤松嘉次氏の弟の秀一氏(74)。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712221300_04.html

 

2007年12月22日(土) 朝刊 1面

再審査と公表 要求/普天間アセス

方法書に知事意見 手続き否定せず

 仲井真弘多知事は二十一日、米軍普天間飛行場代替施設建設の環境影響評価(アセスメント)方法書のうち、県条例の対象となる飛行場建設部分について三十六項目二百三十三件の「知事意見」を、事業主体の沖縄防衛局に提出した。アセス調査前に、具体的に事業内容についての調査手法や予測評価などの再審査・公表を求める異例の知事意見。しかし県条例による差し戻しは適用せず、方法書の不備を指摘しながらもアセス手続きは進むことになる。沖縄防衛局は提出された意見を勘案して調査方法を決める。来年二月にもアセス調査を開始する見通しで、移設に向けた手続きが前進する。

 下地寛県環境政策課長が同日、那覇市泊の沖縄防衛局を訪れ、知事意見を手渡した。受け取った杉山真人局調達計画課長は「よく読ませていただき適切に対応したい」と述べた。

 知事意見を提出後、記者会見した友利弘一県環境企画統括監は「意見に沿って調査・評価すれば、準備書提出は再来年二月以降になる」とし、来年七月にも準備書提出の意向を示している国をけん制した。

 意見の実効性については、沖縄防衛局が来年二月初めのアセス調査着手に向けて県に求めているサンゴ類採捕などの許可に対し「知事意見を真摯に受け取っていただかなければ、厳しい対応にならざるを得ない」(同部)とし意見の順守を求めた。

 意見の前文では建設位置や規模などの協議が十分に進まないまま、方法書手続きに移った同局の姿勢を疑問視。今後の計画具体化やアセス手続きで地元自治体や住民に広く情報公開を求める意見を付け加えた。

 一方、同局が現在実施している現況調査について答申では「中止を含め検討する必要がある」としたのに対し、「(審査会の指摘を)十分配慮する必要がある」と若干表現を弱めた。答申の指摘に加えて、「航空機騒音及び低周波音について名護市試案の位置も含め可能な限り沖合へ移動した位置での予測・評価を行うこと」などさらに二十五件の意見も追加した。


審査会の運営 支障来し残念/仲井真知事


 仲井真弘多知事は二十一日、「審査会の質問にも十分な対応がなされなかったことから、方法書審査の目的である環境影響評価の項目、手法などが適切か否か判断ができず、このままでは審査が困難との声が上がるなど、審査会の運営に支障を来したことは大変残念」と指摘。その上で「今後の公有水面の埋め立てにかかる方法書審査への誠意ある対応と、知事意見に対する適切かつ確実な対応」を求めるコメントを発表した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712221300_05.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年12月22日朝刊)

[知事意見の提出]

手続きがまた一つ進んだ

 米軍普天間飛行場の代替施設建設に伴う環境影響評価(アセスメント)方法書に対し、仲井真弘多知事は、記載内容が不十分であるとの意見を沖縄防衛局に提出した。

 方法書は環境アセスメントの項目や調査・予測・評価の方法などを記載したものである。事業者である国は、住民や市町村長、知事から方法書に対する意見を聴いた上で方法を選定し、その方法に基づいて環境アセスメントを実施することになる。

 方法書に対し、防衛省は「形式的な要件を満たしており問題はない」と主張している。これに対し、県環境影響評価審査会は、記載された内容が不十分なため、アセスの項目や調査手法が適切かどうかを判断することができないと厳しい評価を下し、書き直しを求める意見を知事に答申した。

 審査会の答申は知事意見に反映されたのだろうか。

 知事意見は審査会の答申に沿った内容ではあるものの、防衛省に対して方法書手続きのやり直しを求める内容にはなっていない。

 審査会の答申内容を「真摯に受け止める必要がある」との知事意見は、国にとって想定の範囲内のことで、今後の手続きに支障を来すものではないだろう。

 どうしてこのようなえん曲表現になったのか。

 おそらく、内容が不十分とはいえ法律や条例で規定する事項は一応記載されていること、正面からやり直しを要求した場合、国との関係に再び亀裂が生じ、北部振興事業費百億円の凍結解除にも悪影響を与える、と判断したからではないか。

 知事は意見の中で、滑走路建設場所の沖合移動や、三年をめどに普天間飛行場を閉鎖状態にすること、なども盛り込んでいる。

 しかし、それにしても、環境アセスメントを実施するための一連の手続きには腑に落ちない点が多い。

 滑走路建設場所は、事業計画の中心部分ともいえるものだが、肝心の建設場所について地元の同意が得られず、地元との調整も整わないうちに、一方的に方法書が送られた。

 その上、審査会の三十五項目七十六問に及ぶ質問書に対しても「決定しておらず具体的に示すことは困難」だとしてその多くがゼロ回答だった。

 飛行経路などの運用形態や陸上飛行、航空機装弾場、大型岸壁なども方法書には記載されていない。

 審査会の答申内容を引用して不備を指摘した知事意見の、引用部分にこそ問題の核心があるというべきである。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071222.html#no_1

 

2007年12月22日(土) 夕刊 5面

「県民ばかにしている」/「軍強制」文言回避

 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書検定問題で、文部科学省が教科書会社に日本軍による「強制」の表現を避けるよう求め、会社側もほぼ従って再申請していることが分かった。「このままでは文科省の思い通りに史実が曲げられる」。二十二日、県民大会実行委員会の危機感は頂点に達した。

 県民大会実行委員長の仲里利信県議会議長は「強制記述の有無は非常に重大。内容を確認した後にコメントしたい」とした。二十五日からの東京での要請行動を控え、「県民は蚊帳の外。不退転の決意で行く」と強調した。

 副委員長を務めた小渡ハル子県婦人連合会会長は「沖縄をばかにするな」。怒りは収まらず、「県民の努力を徒労に終わらせるわけにはいかない。文科相に会って検定を撤回させるまで、東京から帰らない」と語気を荒げた。

 琉球大学の山口剛史准教授は「三月の検定結果発表からまったく前進がなく、史実として間違った記述になる」と批判。「柔軟姿勢を示していた文科省が強硬になったのは、強制を否定する団体の巻き返しに力を得たのではないか」と指摘した

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712221700_03.html

 

2007年12月23日(日) 朝刊 2面 

07年度北部振興費 年明けに執行延期

談合事件受け慎重

 【東京】岸田文雄沖縄担当相は二十二日の記者会見で、二〇〇七年度の北部振興事業費(百億円)について、執行が年明けにずれ込むとの見通しを明らかにした。

 財務省は現在、北部振興事業の個別メニューを精査している。国頭村で、北部振興策の一環として国が補助金を出した園芸農業活性化事業で談合があり、建設業者代表らが逮捕された事件を受け、手続きを慎重に進めている。

 岸田沖縄相は「年明けのできるだけ早い時期に準備ができ次第、執行されるものと期待している」と述べた。

 北部振興事業と普天間移設の関係では、「直接は基地移設の議論とかかわらないと考えるが、広い文脈の中で影響は受けるのかなと思っている」と述べた。

 〇七年度の北部振興事業費は、米軍普天間飛行場の移設に関する政府と地元の協議がこう着していたことを理由に、執行が凍結された。しかし、今月十二日の米軍普天間飛行場の移設に関する協議会で、岸田沖縄相が「予算の執行手続きを進めたい」と明言し、了承されていた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712231300_03.html

 

2007年12月23日(日) 朝刊 2面

防衛局嘉手納移転を内示/那覇には事務所新設

 【東京】財務省は二十二日までに、二〇〇八年度の機構・定員を各省庁に内示した。県関係では沖縄防衛局の嘉手納町への移転と「那覇防衛事務所」の新設を内示した。

 沖縄防衛局は、嘉手納ロータリー地区の市街地再開発事業で建設されるビルに来春にも移転する見通し。防衛省によると、人員など規模の変動はないという。

 一方、南部地区の防衛施設行政に対応するため、新たに「那覇防衛事務所」を設置する。場所は未定だが、市内のビルに入居する見通し。所長、次長以下に業務課、施設課を配置、計十五人体制となるという。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712231300_04.html

 

2007年12月23日(日) 朝刊 2面

中城海保に48人増員/シュワブ警備増強

 【東京】財務省は二十二日までに、二〇〇八年度の政府の機構・定員について総務省に内示した。県関係では、海上保安庁が米軍普天間飛行場移設先の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部での海上警備強化を目的に要求していた、第十一管区海上保安本部・中城海上保安署の「保安部」格上げと、四十八人の増員が認められた。

 国土交通省人事課によると、現在の同保安署の構成は署長、次長以下に陸上職員二十人、船員十四人の合計三十六人。増員のほか、海上保安庁の人事の振り替えで計九十七人体制となるという。

 「保安部」移行に伴い管理、警備救難、交通の各課を新設。増員される人員は「警備対策官」と位置付ける。同課は「臨機応変に対応するため」としている。

 そのほか、十一管への「刑事課」設置も認められた。十一管は全国で唯一、刑事課がなかった。これまで業務を兼任していた警備部門の人手がシュワブ警備に割かれることが想定されるためだ。

 海上保安庁がシュワブでの警備強化を想定し、〇八年度予算概算要求に盛り込んだ巡視艇の新造、監視取締艇、ゴムボートの整備など総額約四十八億円は、〇七年度補正予算に前倒しされて、財務省原案に盛り込まれている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712231300_05.html

 

琉球新報 社説

「強制」外し 密室の結論は容認できず

 無理が通れば道理が引っ込む、というが、まさにその通りの展開だ。文部科学省は何が何でも、「集団自決」(強制集団死)における旧日本軍の負の側面を消し去りたいらしい。

 高校歴史教科書の検定問題に関し、訂正申請の記述内容について文科省の教科書調査官と教科書出版社が、日本軍による「強制」の文言使用を避ける方向で調整していることが分かった。

 関係者によると、教科用図書検定調査審議会は軍の「強制」という文言そのものの使用を認めない方針という。これを受け、教科書調査官は出版社に対し「日本軍」と「強制」の文言を直接結び付けないよう求めている。

 出版社はこの方針に従う見通しで、軍の強制を表す表現が大幅に後退する可能性が高いという。これでは、検定直後の記述に戻ってしまうことになり、何のための訂正申請だったのか。

 さらに解せないのは、訂正申請の審議過程で、検定審が各社に示した「指針」で、今後の調整は文科省の教科書調査官に一任する、としていたことだ。これでは、検定審の責任放棄に等しい。何より調査官が「新しい歴史教科書をつくる会」と密接な関係にあることも、本紙報道で明らかになっている。同会が反訂正申請のキャンペーンを展開しているのは周知の事実。公平性を欠き、恣意(しい)性が疑われても仕方なかろう。

 そもそも検定審や日本史小委員会の中には沖縄戦の専門家はいない、と指摘されている。さらに今回の検定意見が出た過程においても、ほとんど論議はなかった、というのは本紙の報道で明らかになっている。では「強制はなかった」とする根拠は何なのか。

 この間、検定審に沖縄戦の専門家を加えて審議をしたのか。それは誰なのか。どういう論議を経て「強制はない」と結論付けたのか。すべて明らかにすべきだろう。

 集団自決にはさまざまな要因があり、背景を書き込め、との指針は、むしろ望ましいところだ。軍の強制性が、より明らかになるだろう。いずれにしろ、密室での結論は到底、受け入れ難い。

(12/23 10:01)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-29966-storytopic-11.html

 

琉球新報 社説

普天間代替アセス 県は最後まで筋を通せ

 防衛省のごり押しを結果的に追認する形とならないか。アセス法の限界も背景にはあるのだろうが、もっと県の主体性を明確にすべきだった。

 米軍普天間飛行場の代替施設建設に関し、防衛省が作成した環境影響評価(アセスメント)方法書について、県は「方法書は不十分」と指摘。その上で、アセス調査の前に事業内容や調査・予測・評価の手法を具体化させ、再審査させるよう求める知事意見を、沖縄防衛局に提出した。

 ただ、県環境影響評価審査会が答申で言及した方法書の書き直しについては「(答申を)真摯(しんし)に受け止める必要がある」とするにとどめ、方法書の公告縦覧など手続きのやり直しは求めなかった。

 さらに、現況調査(事前調査)についても「中止も含め検討する必要があるとの審査会からの指摘があり、事業者は十分配慮する必要がある」とし、中止要求までは踏み込まなかった。

 いずれも、審査会に責任を預ける格好だ。これでは県の真意が伝わらない。従来、知事は事前調査や方法書について批判を重ねており、それからしても今回の意見は納得できるものではない。問題の先送り、とされても仕方がない。はっきりと方法書の「差し戻し」を要求すべきではなかったのか。

 アセス調査前に事業の見直し個所の公表、再審査せよ、との要求にしても、これまでの事業者(防衛省)の態度をみると、どれだけ実行できるか。はなはだ疑問だ。審査会でも、委員の事業内容の説明要求に対し「決定しておらず具体的に示すことは困難」(沖縄防衛局)と、木で鼻をくくるような、核心部分のはぐらかしに終始した。

 知事意見の本気度をどう判断するか。例えばアセス調査に先立つ県の許認可がある。来年2月に予定されているアセス本調査で、沖縄防衛局はサンゴ類、ウミガメの卵の採捕について、県の許認可を得る必要がある。これについて県の下地寛環境政策課長は「再審査を求めたことに対し、沖縄防衛局が要求を守らなかった場合、サンゴなど採取の許認可は厳しい」と述べて、防衛局を牽制(けんせい)する。

 こうした態度を最後まで県が貫けるかどうか。本気度を図るバロメーターとなる。書き直しを明記した審査会の答申を県自身が「真摯に受け止めよ」としており、このことは、県にも向けられている。字句通りに解釈すれば、県のとる道は限られてくる。

 「アセスに協力がもらえないなら、北部振興策も凍結ということになる」(防衛省幹部)。早くも中央からは、こんな「脅し」も伝わってきた。知事意見が玉虫色になった背景の一つでもあろう。しかし、安易な妥協は禁物だ。県は最後まで筋を通してほしい。

(12/23 10:03)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-29967-storytopic-11.html

沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(12月16日から19日)

沖縄タイムス 社説(2007年12月16日朝刊)

[思いやり予算]

聖域化する余裕はない

 在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)をめぐる特別協定改定交渉で、日米両政府は光熱水料の一部を減額することで合意した。

 日本側は大幅減額を求めてきたが、米側が反発し、日本が譲歩した。インド洋での海上自衛隊による給油活動の中断、米国の北朝鮮のテロ国家指定解除への懸念などを踏まえ、対米配慮を優先したようだ。

 しかし、厳しい財政事情を背景に、日本側が強気で今回の交渉に臨み、大幅削減を要求してきた経緯を考えると妥協するのが早過ぎはしないか。腰砕けの感は否めない。

 特別協定改定には国会の承認が必要になる。積算根拠など不明な点が多く問題点を整理し、国会でさらに論議を深める必要がある。

 今回の合意によると、二〇〇八年度の光熱水料(現行二百五十三億円)は維持し、〇九、一〇年度は各四億円削減する。日本人従業員の基本給などの労務費(千百五十億円)と訓練移転費(五億円)は現状維持。

 また、二年間だった特別協定の期間を〇八年度から三年間に延長する。

 一方、思いやり予算のうち、特別協定とは別枠の日米地位協定に基づく提供施設整備費(四百五十七億円)と、各種手当など労務費(三百八億円)の来年度負担分については交渉中だ。

 日本側は一九七八年度から基地従業員の福利費などを負担。その後、従業員の基本給や光熱水費なども引き受けるようになった。特別協定と地位協定に基づく二〇〇七年度の思いやり予算は総額二千百七十三億円に上る。

 日米両政府は今回、「より効率的で効果的な駐留経費負担とするために包括的な見直しを行う」ことでも一致している。

 日本の駐留経費負担額は二〇〇二年当時で韓国の約五培、ドイツ、イタリアなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国全体の額を上回るなど、米国の同盟国の中でも突出している。

 さらに米海兵隊のグアム移転に伴う移転経費のうち、六十億九千万ドル(約七千二百億円)の負担問題もある。

 「同盟国の中で最も気前がいい」という米側の発言の背景に思いやり予算がある。「米国よりも安くつく」駐留経費は、沖縄の基地整理縮小を進める上で大きな障害にもなってきた。

 だが、駐留経費負担が始まった時点と比べて、日本の財政事情悪化は著しい。少子高齢化で社会保障費の負担増など国民負担が重くなる中で、駐留経費負担を聖域化する余裕はない。

 思いやり予算にメスを入れずに、大盤振る舞いを続けるようでは国民のコンセンサスは得られないだろう。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071216.html#no_1

 

琉球新報 社説

普天間代替アセス 知事意見に「書き直し」を

 ここは素直に過ちを認めるべきだ。そして、方法書を書き直して環境影響評価法の手続きの仕切り直しに踏み切るべきだろう。それが、国が県民の信頼を取り戻す唯一の道ではないだろうか。

 米軍普天間飛行場の代替施設建設に伴い、環境影響評価(アセスメント)方法書を審議していた県環境影響評価審査会は14日、方法書の書き直しを国に求めさせることを明記した知事への答申をまとめた。内容を見ると、方法書は「具体的事業の記載が不十分であり、審査(の対象)たるものとなっていない」と手厳しい。

 これは裁判に例えれば、提訴の形式そのものがなっていない。つまり、審理以前の問題で、方法書が、いわば門前払い、あるいは却下されたに等しいことになる。

 審査会は17日にも知事へ答申する予定だ。今後の焦点は、その内容を知事意見に盛り込めるかどうか。これまで、折に触れ方法書の不備を指摘し続けてきた知事だが、ここは正念場を迎える。県民の意思に沿った判断が下せるか。知事の姿勢を見守りたい。

 これまでの経緯を見ると、ここまでこじれた責任は国にあると言わざるを得ない。そもそも、4月から強行している現況調査(事前調査)そのものが、アセスメント方法の決定(スコーピング)を欠いており、法律や条例に違反しているという専門家の指摘もある。

 さらに、方法書の前提となる施設の計画内容についても、国は情報開示を意図的にか、怠ってきている。200メートル余の護岸や弾薬搭載エリア、洗機場の建設など国は12日の普天間移設措置協議会で初めて明らかにした。当然、これらは方法書に盛り込まれていない。

 また、海兵隊の次期主力輸送機オスプレイ配備や民間上空の飛行についても、国はいまだに認めようとしない。これらの情報開示はむしろ、米側が交渉過程で求めてきた経緯がある。地元の理解を得るためにも開示すべきだとしていた。これを日本側がひたすら隠し続けて、結局、報道で明らかになったというのが実情だ。

 これら重要な計画内容が反映されていない方法書に「審査たりえない」との判断が下されたのは、当然といえば当然の結果だろう。

 環境影響評価法第28条(条例は25条)によれば、方法書の公告後から評価書の公告までの間に、「大きな事業の変更」があれば、方法書前の手続きに戻らなければならない、としている。オスプレイ配備や弾薬搭載エリア建設などが、この「大きな事業の変更」に当たるのは、常識的にみても明らかではないだろうか。

 国の側に勇み足がある、と見るのが自然だろう。知事は意見書に「書き直し」を盛り込むべきだ。

(12/16 10:37)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-29778-storytopic-11.html

 

2007年12月17日(月) 朝刊 1面 

愛媛の団体、来月提訴/検定意見撤回と国賠請求

 文部科学省が高校歴史教科書から、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述を削除させた問題で、「えひめ教科書裁判を支える会」などが呼び掛け、「違法な政治介入を行った」として、国(文科省)などを相手に、検定意見の違法確認と取り消し、損害賠償を求める訴訟を起こす方針であることが十六日、分かった。来年一月下旬までに愛媛県の松山地裁に提訴する。同問題をめぐっての訴訟の動きは、全国で初めて。国と同時に検定撤回などを求めず違法を放置した、として愛媛県教育委員会も訴える予定。

 今月中に原告参加者の第一次集約を行う。原告や支援者を募っている。

 同会は、同県で扶桑社の「新しい歴史教科書」が採択されたことなどで国や県に対しその取り消しや損害賠償を求める裁判などを支援している。

 同日、松山市民会館で行われた集会で、提訴の方針を示し、参加者に協力を求めた。また、9・29県民大会に愛媛から参加した人の報告もあった。

 同会連絡先になっている奥村悦夫さんは「文科省は、記述回復だけで、責任をあいまいに済まそうとしている。問題の根本を問いたい。全国でも同じような動きが起きて、問題解決への力になってほしい」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712171300_02.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年12月17日朝刊)

[防衛省裏金]

今度は公金くすねか

 守屋武昌前事務次官が汚職事件で逮捕された防衛省で、今度は裏金疑惑が発覚した。

 情報収集を主な目的とする「報償費」の多くを裏金に変えて、幹部や関係部局の裁量で使えるようにしていたというから開いた口がふさがらない。

 同省の公金管理体制は一体どうなっているのだろうか。

 国民の税金を、たとえ一部であれ自分たちの飲み食いに使うことが許されていいはずがない。ましてや裏帳簿まで存在するというのは悪質であり、これでは組織的に公金をくすねたと言われても仕方がない。

 石破茂防衛相は内部調査を進める方針を示している。

 当然である。不正経理はいつから始まったのか。各局にまたがるのかどうか。何人が関係し、どのように経費を粉飾してきたか―を徹底的に洗い出してもらいたい。

 判明した裏金のつくり方はこうだ。まず、大臣官房などが防衛省OBらの名前を情報を提供する協力者に見せ掛けて使い、職員が偽りの領収書を作成する。

 偽の情報提供者を接待したり毎月現金を渡していたように装い、架空の領収書を切って裏金を捻出する手法だ。

 工作は数十年間繰り返され、使い切れずに残された金は数千万円に上るという。裏金を見抜けなかった会計検査院の責任も指摘しなければなるまい。

 国機関の裏金問題では、接待や会議に裏金を流用したり職場の懇親会に使ったことが発覚した二〇〇一年の外務省が記憶に新しい。岐阜県庁や北海道庁、宮崎県庁など多くの自治体でも同じような問題があった。

 時系列を考えると、外務省が国民から糾弾されている際にも防衛省は裏金工作を続けていたことになる。あきれ果てた話であり、国民の信頼を裏切る行為と言わざるを得ない。

 報償費は前次官の問題ともかかわるはずだ。同省が抱える問題は深刻であり、疑惑の解明に国民の目が集まっていることを肝に銘ずるべきだ。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071217.html#no_2

 

2007年12月17日(月) 夕刊 1面

県「移動50メートル不十分」/普天間代替

 県議会米軍基地関係特別委員会(親川盛一委員長)が十七日午前、開かれた。米軍普天間飛行場代替施設の建設をめぐって県が政府に求めている滑走路の沖合移動の範囲について、上原昭知事公室長は「五十メートルでは騒音軽減の効果が小さい。五十メートル以上(沖合に)寄せてほしい」と述べ、五十メートルの移動では不十分との見解を明らかにした。

 普天間代替施設の機能については「現在の普天間飛行場の機能が移設するというのが(政府と地元の)互いの確認内容。大幅な機能拡大はあってはならない」との認識を示した。

 普天間代替施設に関する環境影響評価(アセスメント)方法書について、県文化環境部の友利弘一環境企画統括監は「(県環境影響評価審査会で)予測や手法について不明瞭な点があるとの意見があり、私どももそのような認識だ」と述べ、県としても記載内容が不十分との見解をあらためて示した。

 小渡亨氏(自民)、嘉陽宗儀氏(共産)への答弁。

 方法書をめぐっては、県環境影響評価審査会が十七日午後、事業者の沖縄防衛局に対し方法書を書き直し、再提出するよう求める答申を県に提出する予定だ。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712171700_03.html

 

2007年12月18日(火) 朝刊 1面

普天間代替 アセス書き直し要求/県審査会知事答申

 米軍普天間飛行場代替施設建設に伴う環境影響評価(アセスメント)方法書を審議する県環境影響評価審査会(会長・津嘉山正光琉大名誉教授)は十七日、県条例の対象となる飛行場建設部分について「調査前に方法書を見直し審査・公表等の措置を取らせるべき」とし、事実上の書き直しを求める三十六項目二百八件の意見を仲井真弘多知事に答申した。

 答申を受け取った知念建次文化環境部長は「審査会の意見を知事意見に反映させるよう調整したい」と述べた。

 県は知事意見を二十一日に沖縄防衛局に提出する見込み。

 知事意見では、方法書に記載がなく、沖縄防衛局が新たに飛行場施設として追加した戦闘航空機装弾場などを、県条例で方法書の書き直しを強制する「大規模な修正」と見なすかが、答申の書き直し要求の実効性を左右する。

 答申案の「総括的事項」の中で指摘した調査前の方法書見直しと公表については、前文の中にも追加、繰り返し強調して求めた。

 また沖縄防衛局がアセス前に実施している現況調査についても「中止を含め検討する必要がある」と強い懸念を示した。

 津嘉山会長は「方法書は審査の材料として十分でなかった。答申は実質的に書き直していただきたいということ」と説明。書き直した場合の手続きについて「基本的には公開だ」と述べ、手続きのやり直しに当たる公告縦覧の実施を要望した。

 審査会は年明け早々、アセス法の対象となる残る埋め立て部分の審議を実施する。

 津嘉山会長は「必要があれば再度質問書もお願いする」とし、今後の審議でも方法書の不備を指摘していく考えを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712181300_03.html

 

2007年12月18日(火) 朝刊 2面

きょう入札公告/シュワブ隊舎解体・撤去工事

 米軍普天間飛行場代替施設建設に伴い、沖縄防衛局が十二月から着手を予定していた名護市キャンプ・シュワブ内の隊舎などの建設工事が来年にずれ込む見通しとなっていた問題で、沖縄防衛局は十八日、「建物建設工事に伴う既存建物の解体・撤去工事」の入札手続きを公告する。工事着手は来年二月五日に予定されている入札後に実施される。

 キャンプ・シュワブの代替施設予定地付近にある既存施設は、普天間代替施設建設に伴って、シュワブ内の内陸部分に移築予定。

 沖縄防衛局は今年三月、シュワブ内の移築に関する建築・設備・土木設計や、下士官宿舎の新設工事にかかる建築・土木設計の入札を実施。履行期限を「十一月末」に設定していたが、防衛省は「実施設計の調整を進める中で、米側との調整で時間を要している」とし、来年二月末に延長。

 既存施設の移築にかかる建設工事の着手時期について防衛省は「設計が終わらないと着手できない。設計業務の終了後、適切に着手していきたい」とし、来年三月以降にずれ込む可能性を示唆していた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712181300_05.html

 

2007年12月18日(火) 夕刊 5面

知事意見に答申反映を/普天間アセス

 米軍普天間飛行場代替施設建設に伴う環境影響評価(アセスメント)をめぐり、方法書の書き直しを求めた県環境影響評価審査会の答申を受け、基地の県内移設に反対する県民会議は十八日午前、答申を基に提出される知事意見で、沖縄防衛局に方法書の撤回を求めるよう要請した。

 県環境政策課の下地寛課長は「方法書に記載のない装弾場や洗機場が、書き直しの根拠となる県条例で規定された微修正の範囲を超えるかは、今のところ難しい」とし、法的に書き直しさせることは厳しいとの見方を示した。その上で「事業者は知事意見を勘案しなければならない」とし、法的根拠がない場合でも答申通りの厳しい知事意見が出れば、事業者は従うべきとの考えを強調した。

 県民会議は知事意見に(1)方法書の撤回(2)新たな方法書を基本計画確定後に再提出させる(3)沖縄防衛局の現況調査(事前調査)中止―などを盛り込むよう要望した。

 城間勝副代表は「審査委員が科学的に出した結論を、政治でトーンダウンさせてはならない」とし、知事意見に答申を反映するよう求めた。

 下地課長は「答申は、方法書審査では述べない現況調査への懸念もあえて答申しており、審査委員の思いが詰まっている。その気持ちを大事にして知事意見を作っていきたい」と説明した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712181700_04.html

 

2007年12月19日(水) 朝刊 25面

教科書検定/「再訂正」各社出そろう

 文部科学省が高校の日本史教科書から、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述を削除させた問題で十八日、都内で教科用図書検定調査審議会の日本史小委員会が開かれた。各教科書会社から再訂正の申請が出そろったことを受けての開催とみられる。

 日本史小委員会では、審議委員に各社からの再訂正の内容について説明があったとみられるが、その可否についての結論は次回に持ち越した。

 関係者によると、少なくとも二社が、沖縄戦では住民に捕虜になることを許さなかった日本軍の方針が徹底されていたことなどの背景を付け加えた上で、「集団自決」には「軍の強制」もあったことを示す記述での再訂正を予定していた。

 ただ、同審議会は沖縄戦の「集団自決」について「直接的な軍命は確認できていない」として、「過度に単純化した記述」への懸念を示す指針を出しており、再訂正の申請に向けて教科書会社と文科省がやりとりする中で、記述が「軍の強制」を薄める内容に変更された可能性もあるという。

 渡海紀三朗文科相は記述訂正について年内には結果を示す方針で、教科書審議会の意見が決まるのを待って、来週内にも結論を明らかにするとみられる。


「つくる会」が不承認意見書


 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する教科書検定問題で、「新しい教科書をつくる会」(藤岡信勝会長)は十八日午後、文部科学省を訪れ、民間教科書会社から申請される訂正の「不承認」を求める意見書を提出した。

 藤岡会長は「文科省は検定意見は撤回せず、『過度に単純化した表現を認めない』としており、『軍の強制』を明示した表現は不承認とするのが当然の筋道である」などとした。同会が意見書として文科省に申し入れるのは四回目。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712191300_01.html

 

2007年12月19日(水) 朝刊 2面

全駐労、格差給廃止に合意

 【東京】在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の新特別協定改定に合わせた基地従業員の給与見直しをめぐり、全駐労(山川一夫委員長)と防衛省は十八日の三役交渉で、格差給、語学手当、枠外昇給制度を廃止し、退職手当を引き下げることを正式に合意した。格差給、語学手当に関しては、来年四月一日の施行日から五年間、廃止前に受けている額の五割を固定支給することを確認した。

 一方、経過措置として制度改正前に受けている基本給、格差給、語学手当の「合計額」を当面維持するが、昇給などで実際の給与額がこの「合計額」を超えるまでの間とする暫定的なものとなった。


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特殊性 辛くも死守


 米軍基地で働く日本人従業員の給与見直しをめぐる全駐労と防衛省の労使間交渉で、最大の焦点となっていた「格差給」は廃止され、今後五年間その半分を固定して支給することで決着した。基本給と語学手当、格差給の「合計額」を保障する仕組みも獲得し、全駐労は既存の枠組み分を辛うじて維持した格好だ。ただ、実際の給与がその「合計額」を上回るまでの暫定措置で、昇給するごとに“うまみ”は減っていく仕組み。「苦渋の選択」で受け入れた全駐労だが、五年後の給与見直しをめぐる協議で問題が再燃するのは必至だ。

 全駐労によると、格差給は一九四八年、言語、風俗、習慣が異なるなど特殊環境の下で働くことに配慮し、当時の国家公務員の給与水準に10%上積みしたことに始まった。

 六三年には公務員俸給表を準用した現行の給与制度を確立した。

 引き続き特殊な環境を考慮し、新基本給の10%上積み額とすることが定められた。

 しかし、近年その「特殊性」が薄れてきたことや長年見直されてこなかったことなどを理由に、政府は在日米軍駐留経費負担の新特別協定改定に合わせて「格差給」の見直しに切り込んだ。


二面外交で調整


 日本政府は、新特別協定改定でアメリカと、同協定の枠外にある「格差給」などをめぐっては全駐労と、“二面外交”で調整を図ってきた。

 約三兆円に上るといわれる在日米軍再編経費などで予算の圧迫が今後予想される中、厳しい姿勢で臨んだ対米交渉だったが、日本人従業員の労務費や米軍施設の光熱水料、訓練移転費の大幅削減を事実上見送った。

 交渉の最中にアラビア海から海上自衛隊が撤収するなど、対米関係で守勢に回ったことが、事実上の「敗北」を喫した大きな要因だった。

 このため、日本側が負担し、米側の直接的な“痛み”につながらない「格差給」廃止など給与見直しに向けた財政当局の目は厳しさを増した。最終的には「歩み寄った」(防衛省幹部)とはいえ、格差給額は半減し、五年後以降の見通しは立っていない。


「闘い」終わらず


 全駐労は今回の交渉で「格差給」の全額分について、定年まで固定して支給するよう求めていたが、政府側は「固定して」支給する仕組みに強い難色を示し、妥結を長引かせた最大の要因となっていた。

 このため、格差給額の半分を支払う制度をいつまで続けるかについて年限が確認されておらず、五年後の見直し協議の重要なテーマとなることが予想される。

 「闘いは終わったわけではない」。全駐労の山川一夫委員長らは、そのほかの勤務条件の改善の必要性も指摘し気を引き締める。

 十八日の三役交渉では、年金制度や福利厚生の改善について「プロジェクトチームを設置し、有識者の意見を踏まえ具体化を図る」ことなども確認したといい、五年後を見据えた水面下の動きはすでに始まっている。(東京支社・島袋晋作)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712191300_05.html

 

2007年12月19日(水) 朝刊 2面

泡瀬環境保全委/クビレミドロ生育成功

 中城湾港泡瀬地区埋め立てに伴う環境対策を検討する環境保全・創造検討委員会の海藻草類専門部会が十八日、那覇市内で開かれ、人工的に育てた絶滅危惧種の藻類クビレミドロが産卵し、第二世代の個体が生育していることが報告された。

 これまでの人工的生育では産卵は行われたが、その卵が成長することはなかった。

 人工的に育てたクビレミドロで産卵を繰り返す技術を確立すれば、同種の保護のほか、未解明部分の多いクビレミドロの研究も進むと期待されるという。

 同部会座長の野呂忠秀・鹿児島大教授は「海藻類で世界的に同様の成功例はマリモくらい。水生生物保護の手本になる可能性もある」と評価した。

 これは事業主体の沖縄総合事務局が行っているもので、実験室で育てたクビレミドロを屋外の実験プールに移植したところ、夏に産卵し、さらにその卵から新しいクビレミドロが生育しているのが今月になり確認された。また卵の状態でこのプールに移植したところ、ここでもクビレミドロの生育が確認された。

 会議ではこのほか、同地区の海底で二〇〇五年度から行われている、移植した海草の生育に適した環境づくりについての実証実験結果も報告され、波よけの構造物と一定量の盛り砂が海草定着法の一つとして効果があるとの結論を了承した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712191300_09.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年12月19日朝刊)

[審査会答申]

知事意見に注目したい

 米軍普天間飛行場の代替施設建設のため防衛省がまとめた環境影響評価(アセスメント)方法書について、県環境影響評価審査会は、記載内容が不十分だとして書き直しを求める意見を県に答申した。

 これを受けて仲井真弘多知事は、沖縄防衛局に対し、二十一日までに知事意見を提出する予定である。

 知事意見に法的な拘束力はないが、政治的には、大きな意味を持つ。

 知事意見は、アセスの方法書に対する見解表明であるにしても、そのことを通して普天間問題と環境問題に対する知事の基本的な考え方が示されるわけで、知事の姿勢が問われる局面を迎えた、といえる。

 知事は昨年の知事選の際、普天間飛行場の移設問題について、地元の頭越しの日米合意を批判し、現行V字形案に反対することを明らかにした。しかし、普天間問題の争点化を回避するため、それ以上多くを語らず、意識的にあいまい戦略を採用して当選した。

 この一年間、「沖合移動」を主張してきたが、なぜ移動が必要なのか、仮に移動が実現したとして、その場合の受け入れ条件は何なのか、移動すればそれで済む話なのか、具体的な数字や事例をもとに説得力のある言葉で語ったことはない。

 一九九八年の県自然環境保全審議会の答申で、キャンプ・シュワブ沖水域は、自然環境の厳正な保護を図る区域として最も評価の高い「評価ランクI」に区分された。この水域に生息する世界的にも貴重なジュゴンは、絶滅危惧種の指定を受けている。

 こうした問題に知事がどのような考えと感度を持っているかが問われているのである。

 政府は第五回普天間移設協議会で、凍結していた北部振興事業費百億円を近く執行する方針を明らかにした。

 その一方で防衛省幹部は、環境影響評価審査会の厳しい答申をそのまま踏襲して厳しい知事意見を出してきた場合、「協議が円滑に進む状況でなくなるため北部振興事業の執行も見直さざるを得ない」と、露骨な脅しをかけている。アセス制度の趣旨を無視した不謹慎な発言というほかない。

 政府は来年二月からアセス調査に着手する考えだ。知事意見に対しても、どのような内容であれ「今後の作業に影響はない」と強気の姿勢を崩していない。だが、知事意見を無視してアセスを進めることは制度の形骸化を意味する。あってはならないことだ。

 この難しい局面に知事はどのようなメッセージを発信するのか。知事意見に注目したい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071219.html#no_1

 

2007年12月19日(水) 夕刊 1面

米軍訓練激化/県議会が抗議決議

 県議会(仲里利信議長)十一月定例会の最終本会議が十九日開かれ、総額五十六億三千八百九万六千円の一般会計補正予算案、県立高校の授業料を引き上げる条例改正案、県立石嶺児童園の指定管理者を指名する議決案件、特別自由貿易地域の分譲価格を引き下げる条例案などを賛成多数で可決した。

 また、嘉手納基地での深夜・未明の戦闘機離陸や大規模即応訓練などの中止を求める「米軍の度重なる離陸と訓練の激化に関する抗議決議」案と意見書案を全会一致で可決。二十日にも、県内の米軍基地や国の関係機関に要請する。

 抗議決議は(1)嘉手納基地でのF15戦闘機や空中給油機の相次ぐ深夜・未明の離陸(2)F15の飛行停止につながった墜落事故や不具合(3)米空軍と米海兵隊合同の大規模即応訓練に伴うFA18戦闘攻撃機など外来機の飛来やGBS(地上爆発模擬装置)訓練による騒音被害の増大―などを指摘。「基地負担の軽減に逆行するもので容認できない」と批判した。

 「地方議会議員の位置付けの明確化を求める意見書」「割賦販売法の抜本的改正を求める意見書」「ハンセン病問題基本法制定を求める意見書」を全会一致で可決。「道路財源の確保と道路整備の推進に関する意見書」も賛成多数で可決した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200712191700_02.html