月別アーカイブ: 2007年10月

沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(10月9日、10日)

2007年10月9日(火) 夕刊 1面

検定審議一部公開を検討/教科書で文科相

 【東京】渡海紀三朗文部科学相は九日午前の閣議後会見で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題への対応について、これまで非公開だった教科用図書検定調査審議会の審議の在り方を見直し、一部を公開する方法を検討していることを明らかにした。

 渡海文科相は「審議会の非公開は今、少なくなっている。透明性を上げる必要があると思う」と指摘。今回の問題で教科書会社からの訂正申請を受けて再審議する場合を含め、可能な限り公開して審議する必要性を強調した。

 その上で「全面的な公開はなかなか難しい部分がある。終わった段階である程度、議論を公表することは可能かもしれない」として、審議終了後にやりとりを公表する方法を検討していることを示した。

 また一部報道で九月二十九日の県民大会の参加人数が「四万数千人だった」とされていることには「人数は重要だが、今回の大会は県民の代表たる知事が出席し、各界、各層、各党派の皆さんが参加している点が非常に大きい。そのこと(人数の多寡)で私自身の考えが大きく変わるとは考えていない」と述べた。


     ◇     ◇     ◇     

検定撤回 再度要請へ/実行委、首相面会求める


 「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の実行委員会が九日、県議会で開かれ、十五、十六の両日に再度上京し、福田康夫首相や町村信孝官房長官、渡海紀三朗文部科学相などに面会を求め、「日本軍強制」の記述を削除した検定意見の撤回と記述回復を求めることを決めた。十一日の実行委で要請先や要請団の規模などを正式決定する。教科書会社や執筆者に訂正を申請するよう要請するほか、全国会議員にも協力を求める方針。

 実行委幹事の平良長政県議は「記述回復を優先させるとの一部報道があるが、(実行委は)ぶれたり動揺はしていない」と話し、検定意見撤回を求める考えをあらためて示した。

 十五日は実行委員長のの仲里利信県議会議長ら幹部が福田首相らに要請し、十六日には二百人規模の要請団で各政党や全国会議員、出版社へ要請することが検討されている。

 同実行委幹部や仲井真弘多県知事は三日、渡海文科相や岸田文雄沖縄担当相などと面会し、検定意見撤回と記述回復を要請した。渡海文科相は「政治介入はあってはならない」とし、検定意見の撤回には応じられないとの立場を示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710091700_01.html

 

2007年10月9日(火) 夕刊 1面

瀬長氏 獄中ノート発見/生誕100年 遺族公開へ

 米軍統治下の沖縄で民衆運動の象徴的存在だった元衆院議員の故瀬長亀次郎氏(一九○七―二○○一年)が、米軍の思想弾圧を受け獄中にいた五五年、差し入れの「資本論」や国際法の書物から丹念に抜き書きし感想をしたためた読書ノート二冊が九日までに見つかった。手書きの大学ノートに「隷属から自主独立へ」「“独立”なければ“平和”なし」などと当時の信条を書き記し、自らリードした反米闘争と本土復帰運動の裏面を伝えている。生誕百年を機に、遺品を整理していた遺族が発見した。

 表紙には二冊とも「memo」という表題と「瀬長」の署名があり、それぞれ一九五五年四月二十日と同二十五日の日付を記載。前者には資本論を意味する「kapital」と書き添えてあった。

 瀬長氏は土着政党の沖縄人民党(復帰後、共産党に合流)の書記長で立法院(琉球政府独自の議会)の議員だった五四年、米国の防共政策を背景に起きた人民党弾圧事件に遭遇。同党の活動家をかくまった容疑で警察に逮捕され、軍事法廷で懲役二年の有罪判決を受けた。獄中ノートを書いたのは宮古島の刑務所に収容されていた時期。後に病気治療のため那覇市の沖縄刑務所(当時)へ移送、五六年に釈放され、同年那覇市長に当選した。

 二女の内村千尋さん(62)=那覇市=によると、瀬長氏は熱心な読書家で、獄中に八十冊以上の書物を取り寄せていた。家族が記録した差し入れ書物のリストには、講和条約や国連憲章の解説書、過去三年の「琉球統計」などの基礎資料のほか、小林秀雄の「ドストエフスキイの生活」も含まれていた。内村さんは「父は獄中で姿勢を正して勉強していたのでは。日記にも簡単なメモは付けていたが、ほかにノートを作って勉強していたことにびっくりした」と話す。

 内村さんらは十一月、那覇市で生誕百年記念の写真・資料展を開き、瀬長氏の愛用品や書簡とともにノートも公開する。

 琉球大の比屋根照夫名誉教授(近代日本思想史)の話 瀬長亀次郎氏は米軍統治が最も厳格だった冷戦下の沖縄で敢然とその支配に立ち向かい、沖縄の人間の尊厳や誇りの回復を目指して闘った。今回見つかった学習ノートは、瀬長氏が獄中でいかに思想形成をしたかを示す貴重な文献で、獄中でもなお沖縄の解放を目指した不屈の意志が読み取れるのではないか。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710091700_02.html

 

2007年10月9日(火) 夕刊 1面

知事、普天間解決を要望/防衛相、政府案堅持示す

 【東京】仲井真弘多知事は九日午後、国会内に石破茂防衛相を訪ね、米軍普天間飛行場の名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への移設などをめぐって意見交換した。石破防衛相の就任後、両者の会談は初めてで、約十分間行われた。

 仲井真知事は冒頭、「防衛省のいろいろな方と話をしながら、課題を早めに解決していきたいので、早めに沖縄に来てほしい」と述べ、普天間移設問題の解決と石破防衛相の早期来県を要望。

 関係者によると、移設をめぐって県や名護市が求めている代替施設案(V字案)の沖合移動など具体的な議論はなかったという。ただ、石破防衛相は「政府の今の立場はお分かりでしょう」などと述べ、日米合意した政府案を堅持する従来の姿勢を示したという。

 一方で、来県については「国会があるが、早めに訪問し、よく話し合いたい」などと前向きな姿勢を見せたという。

 沖合移動をめぐっては政府と沖縄側のこう着状態が続き、移設について話し合う協議会は一月に開かれて以来、再開の見通しが立っていない。

 協議が停滞している影響で、本年度の北部振興事業費も「凍結」され、例年なら八月上旬に配分される予定が、約二カ月が経過してもめどが立たない事態となっている。

 政府は移設に向けた環境影響評価(アセスメント)方法書を県の同意を得ないままに送付するなど、アセス手続きを続行。県側は反発し、受け取りを「保留」しているが、十二月にも「知事意見」の提出期限が迫る中、仲井真知事の対応が焦点となっている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710091700_03.html

 

2007年10月10日(水) 朝刊 1面

普天間代替 アセス知事意見提出へ/仲井真知事が明言

沖合移動の要求示唆

 【東京】仲井真弘多知事は九日夜、米軍普天間飛行場代替施設の環境影響評価(アセスメント)方法書に対する「知事意見」への対応について、「(知事意見を)言うのは当然の話だ」と述べ、提出する考えを初めて明言した。首相官邸で町村信孝官房長官と会談後、記者団に語った。方法書は八月に政府から送付されたが、仲井真知事は「一方的だ」と批判し、受け取りを「保留」していた。しかし、「知事意見」の提出期限が十二月に迫る中、アセス手続きに応じる姿勢を明確にした。

 現在、沖縄防衛局が住民から寄せられた意見概要をまとめており、知事意見は意見概要の受理後、六十日以内(法アセスの場合九十日以内)に沖縄防衛局に提出される。

 仲井真知事は「アセスは小池大臣(元防衛相)の時に置いていかれたから、これはこれで(手続きが)動いている」と政府の方法書送付後、アセス手続きが進んでいる実態を認め、知事意見を提出する考えを明言した。

 その上で「私は節々に三回くらい意見を言う機会がある。(知事意見を)出すのに、地元の意見を聞かなければ」と説明。「方法書」「準備書」「評価書」の各段階で意見を言うとの前提で、名護市の意見を踏まえてV字形滑走路の沖合移動を求める内容の知事意見を出す考えも示唆した。

 仲井真知事は同日、町村官房長官と会談した際、普天間移設について「なるべく早く落ち着かせましょう」と早期解決の意向を伝達。石破茂防衛相との会談でも「課題を早めに解決していきたい」との意向を伝えた。

 仲井真知事は関係者との会談後、記者団に「北部振興策を止めてみたりすることはとんでもない話で、かえって感情的な摩擦が生じる。丁寧さが必要ではないか」と政府の姿勢に疑問を呈した。

 併せて「私も(普天間移設を)前に進めようとしている。新しい官房長官、自民党の枢要な人たちに地元の意見は丁寧に聞いていただきたいということだ」と述べ、沖合移動や公約で掲げた同飛行場の「三年をめどにした閉鎖状態」の実現に向け、政府、与党の前向きな対応に期待感をにじませた。

 ただ、防衛省によると、石破防衛相は知事との初会談で、政府案についてあらためて「合理的理由がない限り変えられない」との発言をしたといい、V字形滑走路の沖合移動が実現する見通しは立っていない。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710101300_01.html

 

2007年10月10日(水) 朝刊 1面

検定撤回 国会決議案提出 困難に/民主、修正も視野

 【東京】民主、社民の両党が参院に提示した沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の教科書検定に関する決議案への対応をめぐり、民主党の平田健二参院幹事長は九日の記者会見で「多数決ではできない。全会一致が原則だ」と述べ、与党が賛成しない限り国会提出は困難との認識を強調した。

 参院自民の執行部からは反対姿勢が相次いでいるが、一部に民主党案の修正があれば賛成は可能との見方もあり、ぎりぎりの調整が続いている。

 平田幹事長は「今まで多数決でがんがん押してきた自公を批判してきた私たちが押し切ることはできない。全会一致以外の方法はあり得ない」と強調。採決に否定的な考えを示した。

 参院民主党の西岡武夫議院運営委員長も五日、「歴史の認定にかかわることに踏み込むのは、もろ刃のやいばになる恐れがある」と慎重姿勢を示していた。

 これに関連し、自民党の山崎正昭参院幹事長は九日の会見で「国会決議は重い。提出されてもすぐ採決できるものではない」と指摘。鈴木政二参院国対委員長も「沖縄の心は尊重すべきだが、国会決議にはなじまない」と述べた。

 一方、民主党関係者は同日、決議案に盛り込まれた(1)教科用図書検定調査審議会の再検討(2)教科用図書検定規則等の見直し―の二項目について、「検定規則の見直しを削除すれば賛成するという話が、参院自民の一部から伝わってきている」と明らかにした。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710101300_02.html

 

2007年10月10日(水) 朝刊 29面

撤回実現まで国へ要求/実行委「我々はぶれない」

 「我々はぶれない」。文部科学省が、高校の日本史教科書から沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述を削除させた問題で、「教科書検定意見の撤回を求める県民大会」実行委は九日、今後の対応を話し合い、大会決議にうたわれた教科書の記述回復と検定意見撤回を政府に求め続ける方針を確認した。二百人規模の要請団が上京し、十五、十六日に政府、国会、教科書会社に県民の意志を伝える。

 検定意見撤回に難色を示す政府の対応に、「県民の考え、思いをもっと伝えなくては」との意見が相次いだ。

 「この問題は県民の感情だけではなく、日本全国の子どもたちにかかわる問題だ」。県PTA連合会の諸見里宏美会長は訴えた。奈良県議会や京都府議会などで、検定意見撤回や記述回復を求める意見決議がされたことを挙げ、「要請で全国と協力することを考えては」と提案した。

 三日の緊急要請行動では、文科省の意向で、渡海紀三朗文部科学相と面談する要請団側出席者が、仲井真弘多県知事ら四人に限定された。県婦人連合会長の小渡ハル子実行委副委員長は、文科省官僚が渡海文科相との面談に女性が同席することを認めようとしなかったエピソードを紹介した。

 県子ども会育成連絡協議会長の玉寄哲永実行委副委員長は「できれば、次回は多くの人の声が届くような方法を考えなくては」と話した。また児童・生徒の「集団自決」教科書検定問題に対する考えを、文科相にはがきで送る運動の準備していることを明かした。

 これらの意見を聞き、県議会議長の仲里利信大会実行委員長は「私たちの気持ちが(政府に)十分に伝わっていない。沖縄戦研究者や『集団自決』関係者の証言をみても、国が検定意見の理由に示していることは根拠がほとんどない」との考えを示した。

 話し合い終了後、仲里委員長は記者団に、教科書会社からの正誤訂正受け入れによる記述修正での決着をはかる動きについて「それは政府の考え」とはねつけ、「我々はあくまでも検定意見撤回と記述回復を求める。ぶれることはありません」と強い口調で語った。


「6・9」実行委も同行

全国会議員に決議要請


 「6・9沖縄戦の歴史歪曲を許さない県民大会」実行委員会は九日、那覇市古島の教育福祉会館で会議を開き、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委が十五、十六の両日に行う要請行動に同行し、文部科学省などに「日本軍強制」の記述を削除した検定意見の撤回を求めることを決めた。「6・9―」実行委は、全国会議員に検定意見撤回の国会決議を求めるほか、教科書会社への訂正申請の要請にも同行する。

 「6・9」実行委共同代表の高嶋伸欣琉球大教授は「教科書会社に訂正申請をさせるなど、文科省のずるい案が提起され、記述回復のみの対応に一部が同調しているようだ」と批判。「『検定意見撤回』という県民大会の決議を明確にして、要請行動をしていこう」と参加を呼び掛けた。

 会議では「政治介入できない」と検定意見撤回や検定制度の見直しに否定的な政府や国会議員らに対して批判が集中。「沖縄戦の通説をひっくり返すことそのものが政治介入にあたる。教科書に事実を記述してほしいとの願いを訴えたい」との声が上がった。

 高嶋共同代表らは十日に記者会見を開き、検定意見撤回を求めることの意義や要請行動へ参加を県民に呼び掛ける。

 同実行委は高教組や沖教組など六十四団体で構成。六月九日に那覇市の県民広場で県民大会を開いたほか、約五十二万人分の署名を集め、文科省に検定意見撤回を求める要請行動を展開してきた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710101300_03.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年10月10日朝刊)

[密約外交]

政府は説明責任果たせ

 密約の存在を示す米公文書が次々に明るみに出る一方で、「密約はない」とかたくなに否定し続ける日本政府。この構図は一体いつまで続くのだろうか。

 沖縄返還交渉の際、日米両政府が核兵器の持ち込みに関する密約を交わしていたことを示す米政府の公文書が見つかった。

 米大統領補佐官だったキッシンジャー氏が当時のニクソン大統領にあてた一九六九年十一月のメモがそれだ。

 このメモは「核兵器持ち込みの秘密合意に関し(日米両首脳が)採るべきゲームプラン(行動計画)」などを記したものである。

 キッシンジャー氏は当時、沖縄返還交渉に深く関与し、佐藤栄作首相とニクソン大統領の首脳会談をサポートした。その際、佐藤首相の密使として舞台裏でキッシンジャー氏と話し合ったのは若泉敬氏(故人)である。

 若泉氏は九四年五月、『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』の中で交渉の経過を詳細に暴露し、秘密合意が存在することを明らかにした。

 今回、キッシンジャーメモが見つかったことで、日米双方の交渉当事者が核密約の存在を認めたことになる。

 有事の際の核持ち込みについては、今回のメモ以外にも、密約の存在を示す米公文書が研究者らによって相次いで発掘されており、ますます疑惑が深まったといえる。

 日米の秘密合意は実は核問題だけに限らない。

 沖縄返還協定をめぐる日米交渉の際、本来米国が支払うべき返還軍用地の原状回復補償費を日本側が肩代わりするという密約があったことは、交渉当事者の吉野文六外務省北米局長(当時)も認めている。

 都合のいい情報は積極的に表に出すが都合の悪いものは隠すという意図的な情報操作や隠ぺい体質が、「密約外交」を助長しているのではないか。

 米軍再編に伴う海兵隊のグアム移転経費、海上自衛隊の給油燃料のイラク戦争への転用、普天間飛行場の辺野古移設問題など、果たしてどこまで政府説明を信じていいものなのか、疑わしい事例が少なくない。

 与党が衆参両院で過半数を占めていた時代、政府はこの種の情報開示に消極的で、説明責任を果たすことよりもその場を切り抜けることだけに精力を傾けてきた。だが、ねじれ国会ではそのような姿勢は通用しない。

 この際、政策決定過程を文書化して保存することや、外交文書の公開のあり方を見直すことなどを含め、説明責任が果たせるような仕組みをつくるべきだ。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071010.html#no_1

 

琉球新報 社説

拉致問題 北朝鮮は根拠示し説明を

 北朝鮮の金正日総書記が韓国の盧武鉉大統領と会談した際「拉致日本人はもういない」と発言したという。南北首脳会談に随行した韓国の文正仁延世大教授が明らかにした。

 事実だとすれば「拉致問題は解決済み」とする北朝鮮の立場をあらためて表明したものとみられるが、最高権力者の発言だけに、看過するわけにはいかない。

 日本政府が北朝鮮による拉致被害者であると認定した17人のうち、安否が確認されているのは2002年に帰国した5人だけである。

 北朝鮮は、残る12人について何ら裏付けを示さないままに「8人は死亡し、4人は入境していない」と説明。死亡したと主張する8人は「自殺、病死、交通事故死、中毒死、水死」とし、「1995年の大洪水で墓は流出した」などと日本政府に回答している。

 到底信用できない内容であり、北朝鮮の態度からは誠意が全く感じられない。

 もとより、拉致の可能性があるのは17人にとどまらない。にもかかわらず「拉致日本人はもういない」と言うのはあまりにも無責任だ。そう言い切るのなら、まず12人の安否について明確な根拠を示して説明してもらいたい。

 文教授によると、盧大統領が「日本人拉致問題」との直接的表現で問題提起したのに対し、金総書記は「拉致された日本人はもうこれ以上いない」と述べ、それ以上は言及しなかったという。

 日本政府は、金総書記の発言内容を確認した上で、事実であれば強く抗議すべきだ。

 少なくとも、すべての拉致被害者が帰国し真相が究明されない限り、拉致問題が解決したことにはならない。

 日本政府に求められるのは、「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化はあり得ない」との方針を堅持しながら、対話と圧力を強めることだ。

 米国に対し、拉致問題が解決しない限り北朝鮮のテロ支援国家指定を解除しないよう引き続き強く働き掛けるべきである。

(10/10 9:50)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27943-storytopic-11.html

 

2007年10月10日(水) 夕刊 1面

教科書検定「部会」要旨公開へ

文科省検討 次回以降に反映

 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書検定問題で、文部科学省が、原則非公開としている教科書検定審議会のうち、実質的に教科ごとの検定の合否を判断している「部会」の議事要旨の公開について検討を始めることが十日、分かった。文科省は今回の問題が決着した後に具体的な検討を進め、次回以降の審議会運営に反映させたい考え。

 審議会は全体で行う「総会」を頂点とし、その下の教科ごとの「部会」、さらに専門ごとに内容を精査する「小委員会」で構成されている。

 議事はすべて非公開となっているほか、議事録も総会の会長あいさつや部会での審議結果の要旨を公開しているだけで、委員の発言内容や合否を判断した根拠などは一切、明らかにならない仕組みになっている。

 また審議会の委員に、沖縄の近現代史の専門家が選ばれていないとの指摘を受けていることから、文科省は委員の選任方法や専門家の意見聴取についても検討課題としている。

 渡海紀三朗文科相は九日の閣議後の記者会見で「今までのやり方でよかったのかどうかも含めて、少し検討したい」と発言。議事の全面的な公開については消極的な姿勢を示したが、審議終了後の議事録公開は検討の余地があるとの考えを示していた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710101700_01.html

 

2007年10月10日(水) 夕刊 1面

名護市長 アセス意見提出へ

 【名護】島袋吉和名護市長は十日午前、米軍普天間飛行場代替施設の環境影響評価(アセスメント)方法書について、仲井真弘多知事が知事意見の提出を明言したことに、「知事がそうおっしゃるなら、名護市としても市の考えを提出したい」と述べ、知事意見の材料となる市町村長の意見を知事に伝える考えを初めて明らかにした。

 名護市は県同様、方法書の受け取りについて「保留」してきた。

 しかし、仲井真知事が九日に知事意見の提出を明確にしたことで、県との共同歩調を強調してきた名護市としても、意見を出さないわけにはいかなくなった状況だ。

 仲井真知事は意見書を提出する際には「地元の意見を聞かなければ」と発言しており、名護市などの意向が反映される。

 島袋市長は市の意見内容について「滑走路を可能な限り沖合へ、との従来のスタンスを申し上げる」として、「V字形滑走路の沖合移動」を盛り込む考えだ。さらに、「住民からいろいろな意見が出てくるはずだ。意見概要のまとめの内容を精査した上で市としての意見をつくりたい」と述べ、沖縄防衛局が住民から寄せられた意見をまとめた意見概要を受理後、市の意見をまとめる考えを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710101700_02.html

沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(10月6日、8日)

2007年10月6日(土) 朝刊 1・29面

文科相「元通り困難」軍強制 認めぬ見通し

検定撤回なお否定

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題への対応で、渡海紀三朗文部科学相が県民大会決議に盛り込まれた「記述の回復」について、「完全に元通りにするのは難しい」との認識を周囲に伝えていたことが分かった。

 複数の政府、与党関係者が五日明らかにした。関係者によると、渡海文科相は「ニュアンスの問題はあるが、県民の意思がきちっと伝わる表現はできるのではないか」とも述べているという。

 政府、自民党は教科書会社からの訂正申請に柔軟に対応する方針を示しているが、検定前に使用されていた「軍による強制」の表現を弱めなければ承認されない見通しが強まり、記述の「原状回復」は困難な情勢だ。

 関係者によると、渡海文科相は、もう一つの大会決議の「検定意見の撤回」については、「検定への政治介入で制度を歪めることになる」として困難視。「(表現を弱めた形で)記述を回復することで、結果的に撤回になる」との判断を示しているという。

 また、民主党などが求めている検定制度の見直しは「そこに踏み込むと時間がかかり、問題が複雑化する」とし、否定的な見方を示した。

 渡海文科相は五日夕、首相官邸で町村信孝官房長官と会談し、検定問題について協議。「政治介入」とならない方法で、早急に対応する方針を確認した。

 渡海文科相は会談後、記者団に対し「原則を確認した。しっかり検定制度を守ることが一つのポイント」と述べた。

 今後の対応では「(来年度の教科書が印刷される)十二月まで引っ張っておくわけにもいかない。ゆっくりしてはいられない。『やれることは何か。こういうことはやれる』ということについて、できるだけ早く結論を出したい」との認識を示した。


     ◇     ◇     ◇     

軍強制記述「譲れず」


 「妥協はしない」。文部科学省が教科書検定で高校の日本史教科書から、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述を削除した問題で五日、渡海紀三朗文科相が記述回復を「完全に元通りにするのは難しい」と困難視していることが分かり、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員会関係者は決意を新たにした。一方で「言葉の選び方次第」と話す関係者もおり、反応に温度差が生じた。

 「検定意見撤回を求める気持ちで、あれだけの県民が一つになった。『気持ちを重く受け止める』のではないのか」。実行委副委員長の玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会長は、驚きを交え語った。「記述は必ず元通りにしてほしい。国や政治家にいいかげんにあしらわれることは、絶対に許せない」と、強い怒りをにじませた。

 三日の文科相への要請で、思いの丈をぶつけた同副委員長の小渡ハル子県婦人連合会長。「あれだけ熱心に聞いてくれ、期待もしていたのに、どうしてそうなるのか。裏切られた気分だ」と憤慨する。「県民の思いが込められた大会決議は譲れない。今度は大勢で押しかけ、福田首相に会う」と決意を込めた。

 一方、実行委幹事の伊波常洋県議(自民)は「日本軍という主語さえはっきりさせれば、戦時下では関与も命令もほぼ同義ではないか。大会の第一段階としてはほぼ実を取った」と、一定の評価をした。「二度と同じことが起きないような検定制度づくりは次の闘い。国会などで論議されていく」との見通しを示した。

 「今は超党派で団結して政府にもの申すことが大事。県民の期待を裏切るような妥協は許されない」と、与党側の動きを懸念する実行委幹事の平良長政県議(護憲ネット)。文科相の認識について、「『記述回復はここまで』と口を出すこと自体が政治介入だ」と批判した。

 日本史教科書を執筆した石山久男歴史教育者協議会委員長は「検定意見を撤回させなければ、何も変わらないことがかえって明確になった」と指摘。「執筆者として、完全な記述の回復まで働き掛けを続けていく」と強調した。

 高嶋伸欣琉球大教授は、政府が一貫して「検定意見撤回は政治介入」としていることを、「自らの非を認めない、官僚や政治家の責任逃れだ」と批判した。「『県民の思いを重く受け止める』と、見せかけの言葉だけ。教科書会社任せで、政府や文科省が自ら改める姿勢は皆無だ」と手厳しい指摘を重ねた。

 「県や実行委関係者は『これで妥協すれば県民への背信行為』と腹をくくり、要請を続けてほしい」


反基地ネット文科省を批判


 あらゆる基地の建設・強化に反対するネットワーク(反基地ネット)の宮城清子共同代表らメンバー七人は五日、県庁で記者会見を開き、「『検定意見撤回』を拒絶した『政治的解決』は認められない」とする緊急声明を発表した。検定意見を維持しながら教科書会社から訂正申請があった場合は「丁重に真摯に対応したい」との渡海紀三朗文部科学相の発言を受けた声明で、あくまでも検定意見の撤回を求めている。

 声明では「検定意見がある限り、元通りの記述では申請できない」とする教科書会社の説明を紹介。その上で「政府・文科省側が検定意見を維持したままで、曖昧な決着を図ろうとしている」と批判した。

 宮城共同代表は、沖縄戦時中に軍の命令を受け、陸軍病院で戦傷者の手当てに当たっていたことに触れ、「当時はすべて軍の命令で動いた。毎日胸が裂けるほど怒りを覚えている」と、軍の「強制」を削除した教科書検定に抗議した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710061300_01.html

 

2007年10月6日(土) 夕刊 1面

記述回復優先で一致/知事と自民議員ら

 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題への対応で、仲井真弘多知事は六日、那覇市内の知事公舎で、県選出・出身の自民党国会議員でつくる「五ノ日の会」(会長・仲村正治衆院議員)らや九月二十九日に開かれた「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員長の仲里利信県議会議長と今後の対応などを協議した。

 仲井真知事は「県民大会決議の検定意見撤回と記述回復を求める」としながらも、記述回復を優先的に求める必要があるという考えを示し、国会議員らと認識を一致させた。国会議員からの「検定撤回は厳しい情勢だ」という指摘に、仲井真知事は「厳しいが最大限に努力し、知恵を出す必要がある」とし引き続き、検定意見撤回を求める姿勢も示したという。

 「五ノ日の会」は週明け、自民党の伊吹文明幹事長らと会い、仲井真知事の意向などを伝える方針だ。

 会談後、仲井真知事は、記者団に「県民大会決議を踏まえ、記述回復を優先させるなど現実的な対応も必要」と述べた。

 仲井真知事は五日午前の定例記者会見で、政府が難色を示している検定意見の撤回を求める考えを強調。一方で「教科書も十二月には印刷しないと間に合わない。そこに(日本軍強制の)記述があるかないかは大きい。物理的な点やいろんなことも考えて、現実的に前に進むという成果を得ることも大事ではないか」と述べ、「日本軍強制」の記述回復を優先させるべきだとの認識を示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710061700_03.html

 

2007年10月8日(月) 朝刊 1面

沖縄核密約 存在示す/米政府公文書を発見

69年キッシンジャー氏、大統領へメモ

 一九七二年の沖縄返還で、米軍が有事の際に核を持ち込むことを認めた日米密約が締結されたことを示す米政府の公文書が七日までに見つかった。返還に合意した六九年十一月の日米首脳会談に向け、米大統領補佐官だったキッシンジャー氏が当時のニクソン大統領にあてたメモで、佐藤栄作首相との密約締結手順を記載している。

 沖縄返還時の核密約の存在を明示した交渉当事者の公文書発見は初めて。日本政府が依然否定している密約の存在を米公文書が裏付けた形だ。密約の文書そのものは公開されていない。文書は一九六九年十一月十二日付と十三日付のメモ。二○○五年に機密解除された文書を信夫隆司日大教授(日米外交史)が米国立公文書館で入手した。

 キッシンジャー氏はまず、「沖縄返還後の米国の核持ち込みと繊維問題に関する日本政府との秘密交渉」と題された十二日付のメモで、核持ち込みについての秘密合意の存在を明記。

 メモの内容が秘密合意に沿って両首脳が会談で行動するための「ゲームプラン」(行動計画)だとした上で、返還に伴う沖縄からの核兵器撤去に触れた共同声明文について交渉の進め方を進言している。また秘密合意が「覚書」の形で事前に文書化されていた点にも触れている。

 沖縄返還時の核密約については、京都産業大教授の若泉敬氏(故人)が九四年、著作「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」を出版、佐藤首相の密使としてキッシンジャー氏を相手にした秘密交渉の一部始終を暴露した。

 キッシンジャー氏は十三日付のメモで、若泉氏が使っていた暗号名「ヨシダ」にも言及。「昨日午後、ヨシダ氏との最終的な協議で行動計画は合意に至った」と述べている。共同声明文をめぐるやりとりも若泉氏の記述と一致している。

 信夫教授は「日米双方の記録で密約が裏付けられた意義は大きい。後は密約そのものを記載した文書の公開だけだが、政府は国民に対して情報開示を行う必要がある」としている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710081300_01.html

 

2007年10月8日(月) 朝刊 23面

修正で決着図る政府/県民大会から1週間

 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述削除を求めた教科書検定に抗議し、宮古と八重山地区を含め十一万六千人が集まった「教科書検定意見撤回を求める県民大会」から一週間が経過した。政府首脳の国会答弁や与党幹部らの発言から、(1)教科書会社からの訂正申請に柔軟に応じ、記述修正を認める(2)検定意見撤回はしない―との対応で、県民からの要求や野党の追及をかわそうとする政府の方針が見えてきた。こうした政府の対応をどう見るか、関係者の考えを聞いた。(吉田啓)

「関与」引用


 「検定においては軍の『関与』を否定しているというものではない」。「教科書記述は軍の『関与』を否定するものではない」。渡海紀三朗文部科学相や福田康夫首相は、国会答弁の中でたびたび「関与」という言葉を使う。同時に「県民の思いを重く受け止めなければ」とも繰り返す。

 大会決議文が「沖縄戦における『集団自決』が、日本軍による関与なしに起こり得なかったことは…」など、「関与」という言葉を使っていることを引用している。

 琉球大の山口剛史准教授は「政府は『検定では関与を認めていて、現在の教科書でも関与を示す記述はある。それでも沖縄県民が怒るから修正に応じよう』と言いたいのだろう」と分析する。

 だが決議文は「文科省は検定意見を付し、(『集団自決』に対する)日本軍による命令・強制・誘導等の表現を削除、修正させている」とも指摘している。

 県子ども会育成連絡協議会長の玉寄哲永・大会実行委副委員長は「『関与』などというあいまいな表現では、記述回復とはいえない。教科書には、日本軍の強制もあり『集団自決』が起きたと、書かれなければいけない」と話す。


安易な妥協


 渡海文科相らは検定意見撤回に難色を示す理由に「検定制度への政治介入の回避」を挙げる。これには公明党や民主党も同調する動きを見せ、野党が提示している国会決議案も、教科書審議会による記述の見直しと、意見撤回の前段として、検定制度の見直しを求めるものとなった。

 山口准教授は「教科書で歴史を歪曲させた責任は、検定意見とそれを決めた審議会、それを認めた文科省にある。『政治介入』は自ら責任を取らないための言い訳」とみる。

 「このような歴史歪曲を許した検定制度の見直しも必要だ。検定意見撤回とともに求めていくべきで、安易な政治的妥協を許せば、将来同じことが起こり得る」と指摘する。

 玉寄副委員長も「『集団自決』の記述への検定意見は文科省の自作自演で付けられた。その責任を避けてはいけない」と現在の政府の対応に怒りを見せる。

 大会実行委は九日正午から会議を開き、十五、十六日に予定している要請行動など、今後の活動方針を話し合う。


全国県人会も撤回決議


 【大阪】全国の県人が一堂に会する第九回全国沖縄県人会交流大会が七日、大阪市大正区で開かれ、教科書検定意見の撤回を求める決議を全会一致で採択した。あて先は文部科学大臣。大会には北海道から中国、四国まで十五県人会から二百人余が参加した。「撤回決議」は地元大阪の県人会連合会から緊急アピールの形で提案された。

 大会は、仲井真弘多知事が「沖縄の現況」と題し特別講演。「十一万人余が結集した県民大会の熱気を政府に伝え、必ず撤回させる」と述べた。

 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」について決議は、「日本軍の関与なしに起こり得なかったことは、紛れもない事実」と強調。「本土に在住する沖縄県人も重大な関心をもっている。今回の検定意見は歴史の事実をねじ曲げようとする暴挙と言わざるを得ない」とし、検定意見の撤回と強制性の記述の速やかな回復を求めている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710081300_02.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年10月8日朝刊)

[検定意見]

経緯を情報開示せよ

 沖縄戦における「集団自決(強制集団死)」への旧日本軍の強制・関与を削除した歴史教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相が「記述の回復」について、完全に元通りにするのは困難だと述べた。

 理由は、県民大会で決議した「検定意見書の撤回」が「検定への政治介入で制度を歪めることになる」からだという。本当にそうだろうか。

 本紙の調べで、教科用図書検定審議会は文科省職員である教科書調査官の「調査意見」を追認しただけで、きちんと審議しなかったことが分かっている。

 「申請図書は、別紙調査意見のとおり検定意見相当箇所がある」と指摘した初等中等教育局の原義書を考えれば、調査意見書の作成段階から文科省が一定の方向性を決めていた可能性も否定できないのではないか。

 伊吹文明前文科相は「文科省の役人も私も、ましてや安倍首相(当時)も、一言の容喙(口出し)もできない仕組み」と述べたが、一連の動きは文科省による政治介入を疑わせるものになっているのである。

 削除理由の一つとして引用された『沖縄戦と民衆』(大月書店)の著者である林博史関東学院大学教授は「『集団自決』は文字どおりの『自決』ではなく、日本軍による強制と誘導によるものであることは、『集団自決』が起きなかったところと比較したとき、いっそう明確になる」と記している。

 林教授は、自らの著書を確認すればそれは明らかであり、なぜ調査意見書を提示した調査官はこのことを無視したのかと問うてもいる。

 これでは教授が言うように、検定意見をつけるため都合のいい部分だけを抜粋したとみられても仕方がない。

 疑わしいところがある以上、調査意見を付した経緯や審議会の審査方法について、国会はその詳細を明らかにする必要があるのではないか。

 教科書検定制度は、教科書の記述に関する判断を第三者である教科用図書検定審議会に委ねることで、政治介入の防波堤にしている。

 それが防波堤になり得なかったのは明白であり、検定意見を執筆者に伝える際、時間をとってその場で反論できるシステムになっていないことにも疑問が残る。

 沖縄戦の実相を教科書に記述するかどうか、最後に判断するのは審議会である。

 なぜ沖縄戦研究者の学説と異なる一方的な説を調査官が採用したのか。審議会は自らの責任でもう一度審査をし直し、検定意見を検証すべきだ。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071008.html#no_1

 

琉球新報 社説

海自給油燃料 それでも残る転用疑惑

 海上自衛隊がテロ対策特別措置法に基づき、インド洋で米艦船などに給油した燃料が、目的外のイラク戦争に転用されていたとの疑惑が浮上している。米国防総省は、日本政府の照会に対し「目的外に用いたことはない」と否定したが、艦船の運用には不透明な部分が多く、回答をそのまま受け取るわけにはいかない。

 目的外に使っていないと言うなら、その根拠を米側は明確に示すべきだ。回答では、インド洋での対テロ阻止行動に日本が供給した燃料の総量が、米軍などの使用した燃料全体の消費量の約10分の1にすぎない―ということなどを挙げているが、説得力を欠く。

 給油を受けた米艦船が、実際にどう運用されたのか。これを明らかにしてもらわないことには国民も納得できまい。米側が「軍事機密だから」と逃げることのないよう、重ねてただす姿勢を日本政府には求めたい。

 疑惑は、市民団体が米軍の情報公開を基に指摘した。インド洋で活動する海自補給艦「ときわ」が米補給艦に燃料を提供後、空母キティホークに間接給油され、イラクでの軍事行動に転用されたとの内容である。

 これが事実なら、アフガニスタンでのテロ阻止行動を目的にしたテロ特措法の趣旨を逸脱する可能性がある。海自によるインド洋上での給油継続については、世論も分かれているが、給油燃料をイラク戦争に転用していたとなると話は違ってくる。その辺を不透明にしたまま、給油継続を容認するということにはならないだろう。

 そもそも、航海中の艦船には対テロ戦に限らず、さまざまな情報収集や偵察活動などの任務が与えられている。その通例に立てば、イラク戦への転用があっても不思議ではないし、現地米軍からすれば「何をいまさら」ということなのかもしれない。

 しかし、これは重大な問題をはらんでいる。間接的とはいえ、自衛隊がイラク攻撃に加担したことになるからだ。国民は武力攻撃参加を認めたわけではない。そのことを政府は肝に銘じるべきだ。

(10/8 10:08)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27908-storytopic-11.html

沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(10月4日、5日)

2007年10月4日(木) 朝刊 1・27面

自民、柔軟に対応/教科書の訂正申請

伊吹幹事長初めて明言/政府と足並み

 【東京】自民党の伊吹文明幹事長は三日、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題の対応で、「出版社から訂正の申し入れが出てくれば政府もしっかり対応し、検定審議会の再諮問も避けて通れないのではないか」と述べ、教科書会社が訂正申請した場合の柔軟な対応に初めて理解を示した。党本部での自民党県連幹部との会談で述べた。検定への対応をめぐっては町村信孝官房長官、渡海紀三朗文部科学相が一日以降、同様の認識を示しており、政府と自民党が足並みをそろえた格好だ。

 伊吹幹事長は、十一万人が集まった県民大会について「重く受け止めている」と強調した。

 訂正申請に柔軟姿勢を示しながらも「中国や韓国とは歴史認識が必ずしも一致していない部分があり、教科書検定を深く掘り下げていくと(外交問題など)いろんなことに発展しかねない。慎重を期さないといけない」と指摘した。

 一方、渡海文科相は同日夕、社民党の福島瑞穂党首と会談し、「文科省で知恵を絞り、(教科書検定撤回を求める)沖縄県民大会の意思に沿うように努力したい」と述べ、訂正申請に柔軟に対応する考えをあらためて示したという。

 福島党首によると、渡海文科相は県民大会実行委員会の要請を受け、「重く受け止めている。世論は大事だ。知事が上京したことは意味があった。今日で結論は出せなかったが、あらゆる可能性を求めたい」と語ったという。ただ、検定意見の撤回については「私の時代に検定意見を悪くしたくない。公正中立の問題が起きるから、悪くしたくない」と消極的な姿勢を崩さなかったという。


     ◇     ◇     ◇     

首相「文科省で検討」 衆院代表質問


 【東京】福田康夫首相は三日午後の衆院本会議で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校教科書検定意見の問題について、「県民大会には県知事をはじめ多くの方々が参加しており、その思いを重く受け止め、文部科学省でしっかり検討する」と述べ、検定結果の撤回を求める県側の意向に理解を示しつつ、結論は文科省の判断に委ねる考えを示した。鳩山由紀夫、長妻昭両氏(民主)の代表質問に答えた。

 福田首相は「教科書検定は、審議会における専門的な審議を経て実施される。今回の検定は沖縄の『集団自決』に関する記述について、軍の関与を否定するものではないと承知している」との認識も示した。


体験者、撤回求める/実行委、一部評価も


 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」から日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題で、渡海紀三朗文部科学相が三日、撤回に応じられないとの考えを示したことに、「集団自決」の体験者らは「記述回復だけでは許されない」とあくまで検定意見の撤回を求めた。一方で、十一万人が参加した「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の実行委員からは「好意的に受け入れられた」との声も。「政治は介入できない」として、検定意見の撤回に否定的な文科省と、県民とのせめぎ合いが始まった。


政治的駆け引き批判


 要請行動を終え、同日夕、那覇空港に戻った仲里利信委員長。「県民の思いはしっかりと伝えてきたつもり。好意的に受け入れられた感触だ」と語った。渡海文科相の発言については「何らかの形で解決できないか。考え続けているようだ」と期待をつなぎ、「沖縄から投げたボールを、国がどう返してくるのか。超党派での理解を広げながら、しっかり見守りたい」と話した。

 県民大会で渡嘉敷島の「集団自決」を証言した吉川嘉勝さんは「どのように検定意見を撤回させるかが問題。審議会に沖縄関係の専門家を入れるなど納得できる形で対応してほしい。大会後、自分も新しい証言を聞いた。もっと証言する人が出てくるのでは」と話す。

 座間味の体験者の宮城恒彦さんは「記述回復だけでは許されない。検定意見が撤回されなければ、意味がない」と厳しい受け止め。「文科相は審議会の決めたことに口出しできないというが、間違ったことをしておいて、なぜ改められないのか。政治的駆け引きは許されない」と不満を表明した。

 諸見里宏美・県PTA連合会長は「体験者が『集団自決』に軍の強制の事実を認めてほしいと叫んできたことを否定した非を認めず、『県民感情に配慮』とは議論のすり替えだ」と批判。「十一万六千人が立ち上がったことを思い出し、第一波、第二波を続けて検定意見撤回を求めたい」と話した。県高校PTA連合会の西銘生弘会長も「検定意見撤回まで何度でも要請していく」と意気込みを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710041300_01.html

 

2007年10月4日(木) 朝刊 2面

収用法活用も視野/新石垣空港

 県議会(仲里利信議長)九月定例会は三日、一般質問の三日目が行われた。新石垣空港建設事業に伴う用地取得の見通しについて、首里勇治土木建築部長は「事業認定庁において公聴会における意見等を踏まえ、厳正な審査の後、認定告示となる。事業認定後も地権者の方々と誠意を持って任意交渉を重ねていく」とした上で、「用地交渉が難航することも予想される。土地収用法の活用も視野に入れ、二〇〇九年度までに残りの用地を取得していく」との考えを示した。

 同事業の進ちょく状況について、仲里全輝副知事は「用地取得の契約状況は取得面積で約百四十七ヘクタール、取得確実な公有地約十二ヘクタールを加えると、事業全体面積約百九十五ヘクタールに対して取得面積は約百六十ヘクタール、取得率約82%となり、着実に進ちょくしている」と述べた。いずれも辻野ヒロ子氏(自民)への答弁。

 米軍再編に伴う嘉手納基地以南の返還跡地利用について、仲里副知事は「国の政策責任として、制度面や財政面からの支援は当然。広大な基地が返ってくるが、今の制度でやるのは無理と思う」と述べた上で、「既存の制度だけでは駄目で、跡地利用の実施主体も含め、新たな機構の創設が必要ではないか。国とも協議し、新たな制度や財政措置の努力をしたい」との考えを示した。吉田勝廣氏(無所属)の質問に答えた。

 老人医療費の動向については、伊波輝美福祉保健部長が「県の〇五年度老人医療費は千七十八億円で、前年度に比較して約三十四億円、3・7%の増。一人当たり老人医療費は全国平均八十二万一千円に対し、県は九十一万九千円で、全国七位。前年度伸び率は7・7%で全国一位」と答えた。仲田弘毅氏(自民)の質問への答弁。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710041300_05.html

 

2007年10月4日(木) 朝刊 2面

アセスへの意見487通/「普天間」代替

 米軍普天間飛行場代替施設建設に向けた環境影響評価(アセスメント)手続きで、沖縄防衛局は三日、方法書に対する住民らからの意見書が、郵送分を合わせて計四百八十七通だったことを明らかにした。二〇〇四年の辺野古沖合への移設案(従来案)の方法書に対する意見書は計千百七十五通だったが、今回は約四割となった。

 同局は、九月二十七日に郵送分(同日消印有効)を除く意見書の受け付けを終了。同日までに計三百七十七通を受理していた。同日消印の郵送分については、今月二日以降は到着しておらず、同局は意見概要の取りまとめ作業に入ることを決めた。

 同局は近く意見概要を県などに送付する。これを受けて、県は早ければ十二月上旬にも知事意見の提出期限を迫られる。方法書の受け取りを「保留」している県の対応が注目される。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710041300_06.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年10月4日朝刊)

[代表質問]

論戦で信頼回復に努めよ

 福田康夫首相の所信表明演説に対する各党代表の代表質問が始まり、参院選の結果がもたらした「ねじれ国会」での論戦がスタートした。

 最初に質問に立った民主党の鳩山由紀夫幹事長は、インド洋での海上自衛隊の給油活動継続に異を唱え、テロ対策特別措置法に代わる新法案にも反対を表明した。給油された燃料のイラク戦争への転用疑惑も挙げ、情報開示を求めている。

 首相は「テロとの戦いで国際的責務を果たすため引き続き活動していく必要がある」と強調。また、疑惑を解くために「可能な限り情報を開示する」と答弁したが、疑惑がある以上、給油国として看過するわけにはいくまい。

 燃料の用途次第では、集団的自衛権の行使を認めていない憲法にも深くかかわってくるからだ。

 首相は情報をすべて開示し、国民との約束を果たしてもらいたい。

 テロ対策特別措置法に代わる新法案の事前協議は民主党が拒否し、自公との対決姿勢を鮮明にしている。

 言うまでもないが、オープンな場での議論は国民にとっても政治を分かりやすくする。政府は「なぜ新法が必要なのか」をきちんと説明しなければならず、民主党もまた「なぜ反対なのか」を論戦を通して国民に提示する責任があろう。

 高校歴史教科書の「集団自決(強制集団死)」の文章から旧日本軍の関与が削除された教科書検定については、鳩山幹事長、長妻昭氏が「歴史を歪曲するもの」として質問。検定に対する見解を沖縄戦における首相の歴史認識とともにただした。

 首相は「教科書検定は専門家による専門的な審議によって行われると思っている」と答えたものの、自らの歴史認識には触れなかった。

 検定制度が文部科学省の所管であることは分かる。だが、歴史認識の問題はそれとは別ではないのか。

 「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に対し「沖縄県民の気持ちは私も分かる」と述べていただけに、首相自身の率直な考えが聞けなかったのは残念というしかない。

 今国会では年金記録不備問題、「政治とカネ」、消費税率の引き上げ時期や幅など論議すべきテーマが多い。

 政治や行政に対する信頼回復は、首相が言うように「喫緊の課題」だ。

 国会での論議を疎かにすれば政治に対する信頼回復はおぼつかない。緊張感に欠けた質問や答弁は国民の期待を裏切るだけだ。衆参国会議員はそのことを肝に銘じ、言論の府として質疑に全力を尽くしてもらいたい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071004.html#no_1

 

琉球新報 社説

衆院代表質問 首相の言葉で具体的説明を

 福田康夫首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が3日、衆院で始まった。民主2氏、自民1氏が質問に立ったが、首相の答弁はほぼ所信表明の域を出ず、一つ一つの課題に対する具体策を丁寧に示したとは言い難い。

 年金問題など今国会の焦点の多くは、前政権が積み残した課題である。首相がそれにどう取り組むのかを国民は知りたがっている。

 しかし、首相は答弁書を読み上げるばかり。課題解決に向けた意気込みは感じられなかった。慎重姿勢が災いしたのか、言質を取られまいとの意識が透けて見えた。

 所信表明の範囲内で答弁するだけでは、論戦にはならない。課題をどう解決するのか、具体策を示し得ないのでは、国民の首相への期待感はしぼむのではないか。

 福田政権の目指す道を具体的に提示しなければ、国民にとっては分かりづらいことこの上ない。野党と堂々と渡り合う気概を示してもらいたい。

 沖縄戦の「集団自決」で軍の強制を削除・修正した教科書検定意見の撤回については「県民の思いを強く、重く受け止め、文部科学省でしっかり検討していく」と述べた。

 県民は検定制度の問題点にも踏み込んだ答弁を期待したが、文科省と同様に「検定は審議会の専門的な審議を経て実施されることになっている。検定意見は日本軍の関与を否定するものではないと承知している」と述べるにとどめた。

 検定に「政治は介入するべきではない」との考えなのだろう。だが、実際には「戦後レジーム(体制)からの脱却」を目指した安倍晋三・前首相の誕生が文科省の検定に大きく影響したと県民の多くはみている。

 11万人余が集まった県民大会で上がった声は「政治は介入すべきではない」として、誤った歴史を掲載した教科書を追認する政治に対する不信の声である。

 沖縄側の要求は検定意見の撤回による記述復活であり、首相にはきめ細かな対応を求めたい。

 首相自らが代表を務める自民党支部での領収書書き換え問題については「実態を踏まえて補正したもので政治資金規正法上、特に問題はない」との認識を示した。

 所信表明演説では「特に、自らについては厳しく戒めていく」との姿勢を示した。それに沿った対応が答弁からは見えてこない。「政治とカネ」問題で国民の対応強化要求にしっかり応えたといえるだろうか。

 安倍・前首相が退陣表明して3週間。休会状態の国会はようやく論戦がスタートした。国民は首相の指導力発揮を期待している。自らの言葉で政策を詳しく説明することは首相の責任である。

(10/4 9:49)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27783-storytopic-11.html

 

2007年10月4日(木) 夕刊 1面

野党、国会決議提出へ/「集団自決」検定撤回

 【東京】民主、共産、社民、国民新の野党四党は四日夕の国対委員長会談で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」についての教科書検定に関する国会決議案を取りまとめる方向で最終調整に入った。五日の参院議院運営委員会に諮り、同日中にも参院に共同提出する。教科書の記述を審議する教科用図書検定調査審議会での再検討や教科書検定規則の見直しなどを盛り込んだ内容になるとみられる。参院は野党が過半数を占めており、本会議に提出されれば、成立する可能性が高い。

 与党も賛成できるような案文をまとめ、全会一致での採択を目指すとしている。

 民主党は四日午前、国会内で「次の内閣」(NC)の文部科学部門会議を開き、小宮山洋子NC文科相が国会決議について、民主党案を報告した。

 同案は「『集団自決』の事実を正しく伝え、沖縄戦の実相を教訓とすることの重要性や平和を希求することの必要性を子どもたちに教えていくことはわれわれに課せられた重要な責務である」と指摘。審議会での再検討や教科書検定の手続きの見直しを含めた改善などを求めている。

 民主党内には、記述を削除させた検定意見そのものの撤回を求めるべきだとの意見もあったが、「検定に政治が踏み込むことになる」との慎重論が強く、審議会で再度検討するよう求めるにとどめた。

 共産党は二日の野党国対委員長会談で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の決議に沿った内容が好ましいとの考えを伝えていた。

 社民党も県選出・出身の山内徳信参院議員、照屋寛徳衆院議員が三日までに案文の調整を進めていた。


     ◇     ◇     ◇     

思い受け文科省で対応/首相、従来方針繰り返す


 【東京】福田康夫首相は四日午前の参院本会議で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員会の要請について、「県民大会には多くの方々が参加した。仲井真知事の要請もいただいた。その思いを重く受け止めて文部科学省においてしっかりと検討していく」と従来の方針を繰り返した。

 福田首相は沖縄戦について「住民を巻き込んだ悲惨な戦いであり、多くの人々が犠牲になったということは、これからも学校教育においてしっかりと教えていかないといけないと思う」と県民感情に理解を示した。

 ただ、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題については「教科書検定は審議会における専門的な審議を経て実施されるものだ」と述べるにとどめ、今後の対応についての具体的な言及はなかった。

 輿石東氏(民主)の代表質問への答弁。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710041700_01.html

 

2007年10月5日(金) 朝刊 1面

教科書検定 沖縄条項新設に消極的

 【東京】渡海紀三朗文部科学相は四日の衆院本会議で、教科書検定基準で沖縄戦に関する記述に配慮する「沖縄条項」を新設することについて、「東京の大空襲や広島、長崎の原爆もあった」として、国内特定地域の「条項」を作ることに消極的な姿勢を示した。同日から参院でも本会議で代表質問が始まり、国会論戦が本格化。自民を除く、与野党五党が沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題を取り上げた。

 「沖縄条項」は一九八二年、教科書検定基準に設けられた、アジア諸国の近現代史の記述に配慮する「近隣諸国条項」の沖縄版。沖縄戦「集団自決」への日本軍強制の削除を教科書検定で繰り返さないための「担保」として設けるべきだとの意見が県内などにある。

 渡海文科相は「沖縄条項」について、「先の戦争では多くの国民が犠牲になった。特定の地域のみに作るということはいろいろと課題もある。慎重に今後検討することが必要だ」と述べた。

 同検定については「軍の関与を否定しているというものではない」と強調。その上で「検定合格後の教科書の中には『日本軍の配った手りゅう弾で集団自決と殺し合いが起こった』との記述がある教科書もある」と例示し、「強制」よりも弱い「関与」程度の記述であれば、検定で問題にならないとの見解も示した。

 検定意見の撤回については、「時の政権の意向で検定が左右されることはあってはならない。政治介入にならないよう、どのような対応が可能か検討している」と、自らが介入できる問題ではないとの見解をあらためて示した。照屋寛徳氏(社民)への答弁。

 一方で、出版社の訂正申請について、渡海文科相は「真摯に受け止め、適切に対処したい。専門的見地から再度、教科書検定審議会の意見を聞くことになる」との見通しを重ねて示した。太田昭宏公明党代表への答弁。

 この日は照屋氏、太田氏のほか、参院本会議で民主党の輿石東氏、衆院本会議で共産党の志位和夫委員長、会派「国民新党・そうぞう・無所属の会」の下地幹郎代表も、教科書検定問題について質問した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710051300_01.html

 

2007年10月5日(金) 朝刊 1面

民主、きょう決議案提出/「集団自決」記述再検討盛り込む

 【東京】民主、共産、社民の三党は四日夕、国会内で野党国対委員長会談を開き、民主党が沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の教科書検定に関する決議案を提示した。共産、社民の両党は、県民大会で決議された「教科書検定意見の撤回」「記述の回復」が決議項目に盛り込まれていないことに難色を示し、持ち帰って対応を協議した。

 三党による共同提案の実現は不透明で、民主党は単独提出も視野に入れている。この場合、共産、社民は本会議で民主案に賛成する意向だ。

 民主党は、五日午前の参院議院運営委員会に決議案を提示する。自民、公明の与党を含めて賛同を求め、本会議終了後、参院に提出。全会一致での成立を目指す。

 衆院では与野党の議運筆頭理事間協議を開き、民主党の川端達夫筆頭理事が自民党の小此木八郎筆頭理事に決議案の内容を提示し、理解を求める予定だ。

 民主案は「『集団自決』の事実を正しく伝え、沖縄戦の実相を教訓とすることの重要性や、平和を希求することの必要性を子どもたちに教えていくことは、われわれに課せられた重要な責務である」と指摘。教科書の記述を審議する教科用図書検定調査審議会での再検討と、教科書検定規則の見直しを盛り込んだ。

 一方、野党共闘を「凍結」している国民新党は、国対委員長会談に参加しなかった。


知事、撤回「目指す」


 仲井真弘多知事は四日、沖縄戦での「集団自決(強制集団死)」から日本軍強制の記述が削除された高校歴史教科書の検定問題で、「昨日まで議長を先頭に実行委員会と県民大会の決議を(政府に)持って行ってきたところ。(大会決議で確認した検定意見撤回と記述回復の)両方を目指していきたい」と述べ、記述回復だけでなく、政府が難色を示している検定意見の撤回を求める考えを示した。

 県議会九月定例会の一般質問で、赤嶺昇氏(維新の会)の再質問に答えた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710051300_02.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年10月5日朝刊)

[6カ国協議合意]

非核化へ着実な前進を

 北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議がまとまり、議長国の中国によって合意文書が発表された。主な内容は以下の通りである。

 (1)北朝鮮は既存のすべての核施設を無能力化する(2)寧辺の三施設については年内に無能力化を完了する(3)年内にすべての核計画を完全かつ正確に申告する。

 この三点の合意内容のほか「核物質、技術、ノウハウを移転しない」ことも再確認された。

 非核化の見返りとして合意文書に盛り込まれたのは、北朝鮮のテロ支援国家指定解除の作業を開始することや重油等のエネルギー支援などである。

 北朝鮮の非核化に向け一歩前進したことは間違いない。「後戻り」や「途中離脱」がないよう、関係国は粘りと忍耐で着実に前へ進める努力を重ねてほしい。

 年内に無能力化するのは、寧辺の実験炉、使用済み核燃料の再処理工場、核燃料棒の製造施設の三施設だ。

 だが、合意文書は、すべての核施設の無能力化をどのような方法で具体化していくのか、申告すべき核計画の範囲はどこまでなのか、という合意履行にかかわる具体策には触れていない。

 濃縮ウランによる核開発疑惑についても文書には盛り込まれなかった。

 今回の合意文書が危うい要素を抱えた米朝主導の合意内容であることは否定できないだろう。

 テロ支援国家指定の解除について米国は、日米関係を重視する姿勢を堅持しつつも「究極的には米国が決める問題」だとして独自判断による解除もあり得ることを強調している。

 拉致問題に関して日本側の軟化を期待する北朝鮮は、日米間にくさびを打ち込むため、さまざまな手を打ってくるに違いない。

 テロ支援国家の指定が解除され、日朝交渉が停滞したまま米朝関係が進展すれば、日本外交は手痛い打撃を受けることになる。

 拉致問題だけを取り出して日朝二国間で解決するのは現実的に極めて困難だ。六カ国協議という枠組みを活用しながら、非核化と拉致問題と国交正常化を絡めた包括的な解決を模索する以外に道はないのではないか。

 南北首脳会談の成果をまとめた四日の共同宣言は、朝鮮戦争終結宣言のため当事国会議を開催することを盛り込んだ。休戦協定を平和協定に転換しようというものだ。

 「非核化達成」と「平和協定締結」の大きな目標に向かって朝鮮半島情勢が動きつつあることは歓迎すべきことである。日本政府にとってはこれからの交渉が正念場だ。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071005.html#no_1

 

琉球新報 社説

6ヵ国合意 実効性を伴ってこそ

 懸案の6カ国協議が3日、北朝鮮の核3施設の無能力化などを柱とする合意文書を発表した。テロ支援国家とされる北朝鮮の核放棄に向け、「核封印」の初期段階から「無能力化」の第2段階へとようやく進展を見せた。

 だが、合意はまだ絵に描いたもちにすぎない。実効性を伴ってこその合意だ。油断は禁物。緊張感を維持し、最終段階となる「核放棄」の実現に向け、引き続き知恵と努力を傾注してほしい。

 今回の協議で、北朝鮮はすべての既存の核施設の無能力化に合意。年内に寧辺の3施設の無能力化の完了を確約した。今後、2週間以内に米国主導の専門家グループが訪朝し、合意内容の実施を確認することになっている。

 北朝鮮は、年内にもすべての核計画を完全かつ正確に申告するほか、核物質や技術、知識を第3国に移転しないことにも合意した。

 無能力化の合意が実現すれば、核兵器に転用可能なプルトニウムの生産が、少なくとも1年以上は不可能になる。アジアの平和と安定を目指す6カ国協議の最終目標達成に大きな礎を築くことになる。ここまで北朝鮮が譲歩した背景には、米国をはじめとする関係国の金融・経済制裁の一定の効果も指摘されている。

 今回の合意では、核無力化の実現の見返りに、5カ国は重油100万トン相当を限度とするエネルギー支援を北朝鮮に行うほか、米国は経済制裁の根拠とする「テロ支援国家」指定の解除に向けた作業の開始を盛り込んでいる。だが、協議筋は文書化されない「合意の見返り」の存在を示唆している。

 核開発や核武装をちらつかせ、周辺国を揺さぶる北朝鮮のしたたかな外交は、時代遅れのようにも映る。現代版の砲艦外交ともいえる「核威嚇外交」の様相である。

 「早期の国交正常化に向けた努力」は盛り込まれたが、拉致問題の解決に向けた光は、今回の合意にも見えない。日本には厳しい中身だ。

 日本は、今後も引き続き核威嚇外交に対抗し、課題を克服できるタフな手腕が問われている。

(10/5 9:53)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27819-storytopic-11.html

 

2007年10月5日(金) 夕刊 1面

知事「記述回復」優先/撤回要求も成果重視

現実的対応を示唆

 仲井真弘多知事は五日午前の定例記者会見で、沖縄戦での「集団自決(強制集団死)」から日本軍強制の記述が削除された高校歴史教科書の検定問題について、政府が難色を示している検定意見の撤回を求める考えをあらためて強調した。一方で「教科書も十二月には印刷しないと間に合わない。そこに(日本軍強制の)記述があるかないかは大きい。物理的な点やいろんなことを考えて、まず現実的に前に進むという成果が得られることが大事ではないか」とも述べ、「日本軍強制」の記述回復を優先させるべきだとの認識を示した。

 知事発言は、記述回復が実現すれば、県民大会で決議した検定意見の撤回に固執しない考えを示唆したものといえ、波紋を広げる可能性もある。

 米軍普天間飛行場代替施設建設に向けた環境影響評価(アセスメント)方法書の知事意見への対応については「まだ結論は出していない」と断った上で、「言わないで(提出しないで)ほっておくと賛成と理解される。そうはいかない」と指摘。名護市の意見を踏まえ、滑走路の沖合移動を求める内容の知事意見を出す可能性も示唆した。

 知事が公約に掲げた「普天間飛行場の三年をめどにした閉鎖状態」については、就任から一年を迎えるのに伴い、閉鎖状態の要求期限が「二年になる」との考えを示した。


民主決議案 共同提出へ

社民


 【東京】社民党は五日までに、民主党が国会に提出する沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の教科書検定に関する決議案を共同提出する方針を決めた。

 四日の野党国対委員長会談で提示された民主党案に「検定意見の撤回」「記述の回復」が明記されていなかったため、共同提出するか対応を協議していたが、決議前文の趣旨部分に同様の認識が示されているため、賛同した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710051700_01.html

 

2007年10月5日(金) 夕刊 1面

公明が体験者ら聴取/北側幹事長知事面談も

 文部科学省が教科書検定で、高校の日本史教科書から、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制をめぐる記述を削除した問題で、公明党の北側一雄幹事長が沖縄を訪れ五日、体験者や「教科書検定意見撤回を要請する県民大会」実行委員会から意見を聞き、仲井真弘多知事と面談した。

 公明党は文科省に、記述回復と沖縄戦に関する調査機関の設置を要請している。

 渡嘉敷村で「集団自決」を体験した源啓祐さん(68)=那覇市=と、山本幸子さん(76)=同=が自らの記憶などを基に「兵事主任が『軍命があった』と話していた」、「手榴弾が配られたのは軍命」などと話した。

 大会実行委は県議会議長の仲里利信・大会実行委員長ら三人が対応。「十年後、証言者がいなくなった後に同じことが起きないようにしなければならない」と伝えた。仲井真知事も「検定意見撤回と記述の早期回復をよろしくお願いします」と話し、大会決議文を手渡した。

 北側幹事長はこれらの要請に対し、「来年配られる教科書なので、記述回復は急がなければいけない」と述べた。

 また、二〇〇六年度の教科書審議会日本史小委員会は委員八人だったことを明かし、「専門分野については、審議会が委員以外の専門家の意見も聞くようなことも考えられる」と検定制度の見直しにも言及した。

 一方、検定意見撤回については「文科相の指示でやるとすれば、政治介入にあたる」とし、民主党が提案する国会決議についても「歴史認識にかかわる事柄で、多数決原理での決議は問題がないか」と消極的な姿勢を示した。

 同日午後に帰京し、夕方にも福田康夫首相と面談、聞き取りの結果を伝えるという。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710051700_02.html

沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(10月1日、2日、3日)

2007年10月1日(月) 朝刊 1面

文科相「重く受け止める」/検定経緯調査に着手

 【東京】渡海紀三朗文科相は三十日午前の臨時閣議後、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に十一万人が参加したことについて、「重く受け止めている。やっぱりそれが沖縄県民の思いなんだろうなと、こう思っている」と語った。

 沖縄タイムス社に対し「今回の検定に至る経緯や趣旨等については十分に精査していきたい」とコメントしたことについては、「今、事務方に作業をさせている。結果がちゃんと出た場合に対応して答える」と述べ、検定の経緯や趣旨などに関する調査に着手していることを明らかにした。

 一方、県民大会を主催した実行委員会が十五、十六日に上京し、検定意見の撤回と記述回復を求める要請行動を展開することには「もちろん、向こう(実行委)のおっしゃりたいことを丁寧に聞かせていただきたい」と話した。

 山崎拓前副総裁が九月二十八日に県内での講演で、渡海氏に検定見直しの勧告を働き掛ける考えを明らかにしたことについては「(山崎氏からそのような働き掛けはまだ)ない。今はまだそのようなことは断定していない」と強調した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011300_03.html

 

2007年10月1日(月) 朝刊 2面

誠実応対の必要性強調/沖縄相「県民の思い受け」

 【東京】岸田文雄沖縄担当相は三十日、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定の撤回を求める県民大会に十一万人が参加したことに「復帰後最大の規模ということで、県民の深い思いが示されたと重く受け止めている」との認識を示した。同日午前の臨時閣議終了後、首相官邸で沖縄タイムス社などの質問に答えた。

 今後の対応では「大会を受けて多くの皆さんから要請が寄せられると思う。丁寧に話を聞きたいし、渡海紀三朗文部科学相にも丁寧に話を聞いてほしいと伝えている」と説明。要請団に、政府が誠実に応対する必要性を強調した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011300_04.html

 

2007年10月1日(月) 朝刊 24面

全国紙、トップ報道/県民大会 1面・特集で

 【東京】全国紙各紙と有力ブロック紙は九月三十日付朝刊で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の模様や同検定のこれまでの経緯などを一斉に報じた。

 朝日新聞は一面トップで扱い、第二社会面で高校生代表がメッセージを読み上げた様子を紹介。二面(総合面)の特集記事では同検定のこれまでの経緯や記述訂正を求める執筆者らの動向などをまとめ、社説で「検定意見の撤回を急げ」と提言した。

 毎日新聞も空撮した会場の写真付きで一面準トップ級で扱い、社会面では高校生代表を紹介。日本経済新聞は社会面で写真付きの五段記事で報道した。

 東京新聞も写真付きで一面トップの扱い、社会面、第二社会面見開きで現場の様子や文部科学省の対応などを紹介。特集ページでは見開きで、当日大勢が参加した高校生ら「沖縄の子どもたち」の視点に立った記事も掲載した。

 読売新聞は、第二社会面で写真付きの五段記事で報じた。

 一方、産経新聞は第二社会面で写真無しの二段記事にとどめ、控えめに報じた。

 APやAFP、ロイターなど海外通信社も県民大会の記事を配信し、台湾、米国やイギリス、トルコ、ロシアなどの新聞で掲載された。


慰安婦問題 共に考えて

早稲田大 洪さん 場で協力呼び掛け


 沖縄戦中の朝鮮人軍夫や「従軍慰安婦」調査をしている早稲田大学大学院の洪〓伸(ホン・ユンシン)さん(29)が県内で従軍慰安婦の調査を続けている。「集団自決(強制集団死)」問題も、「従軍慰安婦」同様に教科書から削除されることに危機感を募らせ、九月二十九日の県民大会にも参加した。

 「『従軍慰安婦』が削除された苦しみを沖縄の人に『集団自決』問題同様に考えてほしい」と、会場で慰安婦にされた女性たちのために宮古島に碑を建てるチラシを五百部配った。来年八月の完成を目指し寄付を募っている。

 今年五月、宮古島市で自宅を慰安所にされたという戦争体験者らの話のほか、慰安所や元慰安婦についての聞き取りを行った。証言集を年内にまとめる予定だ。

 慰安婦にされた韓国人女性も、高齢化のため年々亡くなっている現状に、「沖縄戦体験者も同じ状況。悲惨な過去を繰り返さないために韓国、沖縄の戦争体験者の思いをつづりたい」と語った。

 調査は九日まで。賛同金は一口二千円。宮古島慰霊碑建立委員会、郵便振替口座00150―9―540937。


県民大会の様子 東京で伝えたい

牛島中将の孫・貞満さん


 本土で報道されない沖縄戦の実相を伝えようと、小学校の教諭をしている牛島貞満さん(53)=東京都=が九月二十九日の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に参加し、ビデオカメラで大会の様子を撮影した。「沖縄戦に目を向けてほしい」と東京に戻り、集会などで大会の様子を伝えるつもりだ。

 牛島さんは、沖縄戦で日本軍の総指揮を執った牛島満中将の孫。五年前から「牛島満と沖縄戦」をテーマに、小学校高学年を対象に平和授業を続けている。

 文科省が「集団自決(強制集団死)」の日本軍の強制を削除したことについて「軍隊は住民に捕虜になるなと徹底しており、日本軍がいた場所で『集団自決』は起きている。軍の強制・誘導があったのは当然だ」と強調した。

※(注=〓はへんが「王」でつくりが「允」)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011300_05.html

 

2007年10月1日(月) 夕刊 1面

文科省対応 見守る構え/教科書検定撤回

県民大会で官房長官

 【東京】町村信孝官房長官は一日午前の臨時閣議後の記者会見で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定の撤回を求める十一万人の県民大会が開かれたことについて、「教科書をどうするかという話は今、文部科学省の方で検討していると思う」と述べ、文科省が着手した検定経緯の精査を見守る考えを示した。

 政府としての考え方は「先般、申し上げた通りだ」と述べるにとどめた。町村官房長官は九月二十八日の定例記者会見で「沖縄の皆さんの気持ちを受け止めてしっかり対応しなければならない」との認識を示していた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011700_01.html

 

2007年10月1日(月) 夕刊 1面

知事、撤回へ決意/「県民の強い思い感じた」

 仲井真弘多知事は一日午前、県議会(仲里利信議長)九月定例会の一般質問で、九月二十九日に開かれた沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の関与を削除した教科書検定意見撤回を求める県民大会について、「県民の平和に対する思いや強いエネルギーが爆発寸前のマグマを感じさせる動きだった」と感想を述べた。その上で、「大会決議を持って、実行委員会の皆さんと一緒に目標達成のために頑張っていきたい」と検定意見の撤回に向けて取り組む考えを示した。

 当銘勝雄氏(護憲ネット)への答弁。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710011700_02.html

 

2007年10月2日(火) 朝刊 1・2・27面

訂正申請で記述復活か/政府側が柔軟姿勢

文科相 きょうにも方針/教科書検定

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題への対応で、渡海紀三朗文部科学相は一日夜、記者団に「検定制度を守りながら、沖縄県民の気持ちに何ができるか、いろいろと考えたい」と述べ、何らかの方針を打ち出すことを明らかにした。関係者によると、渡海文科相は二日にも検討方針案を発表する。与党幹部は「教科書会社の『訂正申請』を認める方法が有力」としており、今後、教科書出版社側の自主的な申請という形を取り、何らかの表現で記述が復活する可能性が出てきた。

 渡海氏は一日午前の臨時閣議前に首相官邸で町村信孝官房長官と会談し、同問題への対応を協議。両氏は「政治的介入があってはいけない」として、政治主導の形を取らない方法で解決するべきだとの認識で一致した。

 町村官房長官は同日午後の記者会見で、「(教科書の記述訂正・修正について)関係者の工夫と知恵があり得るかもしれない」との認識を示す一方、渡海文科相に修正が可能かどうか指示したことを明らかにした。

 出版社側の「訂正申請」の働き掛けに応じれば、「政治介入」の構図とはならず、渡海文科相は「通常の法律のルールでも真摯に対応する。こういう状況の中でそういうものがもし出てきたら、真摯に対応したい」と前向きな姿勢を示した。

 一方で、渡海氏は「私が意見を申し上げて修正するということは選択肢として基本的にない」と述べ、文科相の訂正勧告は「政治介入」に当たるとしてこの手法を取らないとの認識を示した。

 検定意見に基づく記述の訂正申請では、一九八○年度の高校現代社会の教科書検定で、水俣病の原因企業名「チッソ」が削除され、世論の反発などで文部省(当時)が事実上検定意見を撤回。教科書会社各社の訂正申請を承認するという形で、記述が復活したケースがある。


首相「気持ち分かる」


 【東京】福田康夫首相は一日、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定意見の撤回を求める県民大会に十一万人が集まったことに「随分たくさん集まったね。沖縄県民の気持ちは私も分かる」と一定の理解を示した。首相官邸で記者団に語った。

 一方で検定撤回については「検討制度というのがあるから。そのことについては、まずは文部科学省の方でどうするかということだと思う。私の方から言う立場にはない」と述べるにとどめた。

 渡海紀三朗文科相への指示には「私からはしていない。町村信孝官房長官からしてるかどうか知りませんけどね」と述べ、首相自身の指示ではないとの認識を強調した。


     ◇     ◇     ◇     

知事「いい結果期待」/文科相修正発言を評価


 仲井真弘多知事は一日夕、町村信孝官房長官が、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定について、修正を指示し、渡海紀三朗文部科学相も対応を検討する考えを示したことについて、「県民の意向にも耳を傾けてその方向で検討されることであれば、非常にありがたい。いい結果を形で出していただくよう期待する」と評価した。県議会内で記者団の質問に答えた。

 その上で「県議会の一般質問が(四日に)終わったら、なるべく早く上京し、文部科学大臣に県民大会の要求を聞き入れていただきたいとお願いしたい」と述べ、検定意見撤回を早期に要望したい考えを示した。

 また、十一万人が集まった県民大会を受け、政府が対応したことについて「超党派で、あらゆる団体が入った各界各層の広がりではないか。十万人を超える大集会をみたことがない。県民のこのテーマに対する強い思いも加え、国の政策に対する地方の意見に耳を傾けて、という思いが強く一緒になって出た結果」と大会の意義を述べた。


[ことば]


 集団自決の記述削除問題 文部科学省はこれまでの教科書検定では沖縄戦の住民集団自決が日本軍の強制によるものとの記述を認めてきたが、今年3月末公表の高校歴史教科書の検定意見で「沖縄戦の実態について誤解する恐れのある表現」と指摘。教科書会社が記述を削除し、検定に合格した。軍の自決命令の有無をめぐり、当時の軍指揮官らが作家大江健三郎さんらを訴えた名誉棄損訴訟が係争中であることも理由の一つとされた。


県内に期待と慎重姿勢/「撤回まで行動共に」


 県民の強い意志が、政府を揺さぶり始めた。「教科書検定意見撤回を求める県民大会」から週が明けた一日、渡海紀三朗文部科学相が検定について「何ができるか」と、対応の検討を省内に指示した。町村信孝官房長官も「修正」の可能性に言及。政府与党の踏み込んだ発言や、事態打開の模索が続いた。実行委員会の関係者や「集団自決(強制集団死)」の体験者は「壁が少しずつ削られている」と期待を込めつつ、決着の行方を慎重に見守る考えを示した。

 大会実行委員長の仲里利信県議会議長は、「県民の気持ちをくんでもらい、ありがたい。大変な配慮だと思う」と歓迎した。「ただ、今は検討を指示しただけ。ぬか喜びすることなく、どういう結論が出るのか冷静に見守らなければ」と強調した。

 副委員長の玉寄哲永沖子連会長は「国が動揺し始めた」とみる。「要請を受け付けなかった文科省の壁が、県民の声で少しずつ削られている。文科省のシナリオや判断の甘さが、反発を買った」と断じた。

 「こんなに対応が早いのは、県民のエネルギーが政府を突き動かしたからだ」と驚いた様子の仲村守和県教育長。「本当に検定意見が撤回できるまで、関係団体と行動を共にして頑張りたい」と力を込めた。

 渡嘉敷村で起きた「集団自決」の惨劇を大会で証言した吉川嘉勝さん(68)は、「求めたのは、あくまで従来の記述に戻すこと。(玉虫色の)政治決着はあってはいけない」と強調する。「大会をお祭りのように終わらせず、県民みんなで見届ける必要がある」と呼び掛けた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021300_01.html

 

2007年10月2日(火) 朝刊 1面

執筆者、記述回復要請へ/教科書会社に

 文部科学省が高校歴史教科書の検定で沖縄戦「集団自決(強制集団死)」から、日本軍強制の記述を削除した問題で、実教出版や東京書籍など複数の執筆者が教科書会社側に記述回復を要請することが一日、分かった。教科書会社の中には、文科省への記述訂正を申請するための検討を始めた社もある。

 実教出版の執筆者グループは五日の会議で「日本軍強制」の記述回復を文科省に申請するよう社に求めることを決める。同社「高校日本史B」で沖縄戦の項目を執筆した石山久男さん(71)は、渡海紀三朗文科相が記述訂正の検討を指示したことに「出版社も文科省に訂正を申請する条件が整ってきた」と歓迎。「政府は県民世論を無視できなくなったのだろう。沖縄戦の学説や通説に反する検定意見なので検討は当然のこと。日本軍『関与』ではなく、あくまで『強制』の記述回復を求める」と話した。

 東京書籍の「日本史A」で沖縄戦の項目を執筆した坂本昇さん(51)も同社の執筆者間で記述回復の検討を始めた。

 渡海文科相らの発言に「執筆者も県民大会の成功に励まされ、記述回復を会社と調整しながら文科省に求めたい」と話した。別の教科書会社の執筆者も「注釈で日本軍の強制があったことを明確に記述したい。県民の怒りが政府を動かした」と話した。

 教科書会社の関係者は、県民大会の前から「記述修正ができないか検討を始めていた」と明かす。検定結果が明らかになった後、「集団自決」体験者からの新証言や、沖縄戦専門家からの発言が相次いだことも「新たな学識状況ととらえる必要がある」と指摘。その上で、町村信孝官房長官の発言を引用し「工夫と努力、知恵を振り絞り、どのような方法があるかを考えていく」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021300_02.html

 

2007年10月2日(火) 朝刊 2面

金武議会が撤回要求/ハンセン共同使用

 金武町議会(松田義政議長)は一日、沖縄防衛局や県を訪れ、米軍キャンプ・ハンセンの陸上自衛隊との共同使用合意の撤回を申し入れた。松田議長は、レンジ3付近で米陸軍グリーンベレー部隊の射撃場建設計画が新たに浮上していることなどを挙げ、「ハンセンは過密で危険な状態にある。射撃場を建設することで陸自も使用するのではないかと懸念している」と訴えた。

 沖縄防衛局の赤瀬正洋企画部長は「陸自のハンセンでの共同使用が可能になると、これまで九州で実施していた実弾射撃訓練などが沖縄で実施できることから、沖縄の陸自部隊の即応性が高まり、災害時などには県民の安全確保にも資する」と理解を求めた。

 これに対し、議員らは「自衛隊のハンセンの使用目的は戦闘訓練のためであり、災害時の即応性を念頭に置いたものではなく、議論のすり替えだ」と反発した。

 一方、県の保坂好泰基地防災統括監は同町議会の申し入れに対し、「(共同使用で)負担増加はあってはならない。町議会の抗議決議は地域の声として重く受け止めたい」と述べた。

 同議会の抗議決議は共同使用を「一方的な基地負担の押し付け」とし、「これ以上の基地機能の強化負担は断じて許されない」としている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021300_06.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年10月2日朝刊)

[首相所信表明]

具体策が聞きたかった

 安倍晋三前首相の退任の後を受けた福田康夫首相が所信を表明した。

 参院で与野党が逆転しているため「野党と誠意をもって話し合いながら国政を進めていく」と述べたが、当然であり、論戦によって国会を活性化させ国民の信頼回復に努めてもらいたい。

 新政権の政策課題の多くは前政権のものを引き継いでいる。突然の政権放棄で国民の不信を買った前首相との違いを期待しただけに、新鮮味、具体性ともに欠いたのは残念だった。

 ただ、抽象的とはいえ小泉純一郎元首相、安倍前首相が推し進めた改革路線との違いは打ち出している。

 構造改革を維持しつつ「地方の痛み」に目を向ける。地域間格差の是正を目指すのは、新政権のスタンスといっていいはずだ。具体策は見えていないが、これからどう骨組みをつくり肉付けをするのか、注視していきたい。

 政府・与党が最重要課題に掲げるテロ対策特別措置法について、首相は「テロリストの拡散を防ぐための国際社会の一致した行動」と強調した。

 その上で、インド洋における海上自衛隊の給油活動継続を「国益に資する」と述べている。

 だがこの問題では、給油された燃料がイラク戦争に転用されているのではないかという疑惑も出ている。

 もしそうであれば、給油対象をインド洋の海上阻止行動に限定した「了解とは違う形」(町村信孝官房長官)になるのは明らかだ。集団的自衛権を禁じた憲法の根幹にもかかわってくる。

 実際はどうなのか。政府は給油を受けた米軍の行動を細かく調査し、国民に知らせる責任がある。

 「政治とカネ」の問題については、指摘された閣僚には説明責任を尽くさせると訴えた。しかし、自ら代表を務める自民党選挙区支部での領収書書き換え問題も表面化している。

 演説では「特に、自らについては厳しく戒めていく」と話したが、「政治とカネ」の問題に国民が敏感になっているのであり、そのことを過小評価してはなるまい。なぜそうなったのか、国会の場できちんと説明する必要があろう。

 一方、年金問題については「年金が安定的に支払われていくよう、長期的な視野に立った制度設計が不可欠」と述べている。受給者の立場を重視した着実な解決を約束したが、どのような手だてを尽くすのか。

 要はその具体策であり、実行可能な解決策の構築である。民主党との協調路線を説く福田首相がどう指導力を発揮していくのか。まずは国会論戦に注目したい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071002.html#no_1

 

琉球新報 社説

所信表明演説 伝わらぬ政策イメージ/「基地」「教科書」への認識は

 揺るぎない年金制度。大都市と地方の格差や所得格差が解消され、暮らし向きが改善される。政治や行政はこの先、国民の生活実態に沿った方向へ大きく変わっていくかもしれない。

 福田康夫首相の所信表明演説に国民が期待したのはまさにこの点だった。

 ましてや時期が時期だ。安倍晋三前首相が代表質問の直前に唐突にも政権を放り出し、政治空白は約3週間にも及んだ。前代未聞の異常事態を受けての所信表明だけに、国民の注目度は普段よりはるかに高かった。

説得力感じられない

 結果はといえば、抽象的な言葉の羅列と総花的な説明が延々と続き、新味に乏しく、説得力はあまり感じられなかった。

 福田政権がどこへ向かおうとしているのか。政策の具体的なイメージは、さっぱり伝わってこなかった。これが大方の国民の正直な感想ではないか。

 首相は、野党が参院で多数を占める「ねじれ国会」の現実を踏まえ、自衛隊のインド洋での給油継続を念頭に民主党など野党と「重要な政策課題について話し合いながら国政を進める」と協調姿勢を鮮明にした。「自立と共生」や「希望と安心」「温(ぬく)もりのある政治」などのフレーズを使い、福田カラーを強調した。

 イデオロギーが過剰ぎみだった安倍政権との違いを分かってもらおうと、自分の持ち味でもある調整能力や手堅さなどを意識し、穏健路線を進めることをアピールしたかったのかもしれない。

 しかし、逆に首相の顔が隠れてしまった感は否めない。やはり具体策を示さない限り、国民は判断しようがない。

 安倍前首相と異なる点は「カタカナ語を避けたところ」と皮肉交じりに語られるのは、首相とて本意ではあるまい。

 国民がいま求めているのは「温もりのある政治」を裏付けるための制度や仕組みなどの具体策を示し、そして実際に体感させてくれる政治、行政を推し進めてくれることだ。

 首相は、今後の国会審議の中で、自らの政治理念に基づく具体的な政策の中身や課題解決への道筋をどう打ち出していくか。それができなければ、野党の追及をかわせないばかりか、国民を納得させることはできない。そのことを強く自覚すべきだ。

 腑に落ちないのは、国民の最大関心事である年金記録の不備問題に対し「着実に解決していく」と述べただけで、解決期限を明示しなかったことだ。

 宙に浮いた形の5千万件の年金記録を照合し、該当する可能性のある人への通知を来年3月までに完了することは、自民党の公約ではなかったか。たしか参院選惨敗の主要原因の一つと総括もしていたはずだ。

おざなりの言及

 照合作業が容易でないことは分かる。だが、あいまいにするのは許されまい。設定した計画が厳しいならその理由を含め、きちんと説明するのが筋だ。

 政治資金規正法への対応についても疑問だ。

 「政治資金の透明性をさらに高めるため、その改善に向けた考え方を取りまとめた」としたものの、政治資金収支報告書をめぐって、肝心の第三者機関によるチェック体制整備には演説で一切触れなかった。

 野党などが要求している一円以上の領収書の添付と公開義務について、首相はどう考えているのか。明確に答えられなければ、参院選で自民党に突きつけられた有権者の激しい反発が再燃することを、覚悟しなければならない。

 「抑止力の維持と負担軽減という考え方を踏まえ、沖縄など地元の切実な声によく耳を傾け、地域の振興に全力をあげて取り組みながら着実に進める」

 米軍再編問題について言及したものだが、9月10日の安倍前首相の所信表明とほぼ同じである。おざなりすぎないか。「切実な声」がどの程度の認識なのか、はなはだ怪しい。

 県民は、教科書検定問題についても首相の考えを聞きたかったはずだ。空前規模の11万人余が結集し、歴史の歪曲(わいきょく)を糾弾した県民大会の意義をどうとらえているのか。首相は語るべきだった。

 これは沖縄だけの問題ではない。根底でアジア外交などとも絡む、政権にとっては重要な歴史認識の問題でもある。

(10/2 9:45)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27719-storytopic-11.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 1・4面

「軍の強制」復活も/文科相、訂正申請容認

 【東京】渡海紀三朗文部科学相は二日午前の閣議後会見で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題で、教科書会社から記述の訂正申請があった場合の対応について「真摯に対応する」と述べ、記述を復活させる可能性を認めた。また、申請の内容を承認するかどうかを判断する際に、教科用図書検定調査審議会で再検討する必要があるとの認識を明らかにした。

 訂正申請に前向きな姿勢を示した理由について渡海文科相は「県民大会だけでなく、新たな事実、証言が出てきた」と述べ、県内の「集団自決」体験者による日本軍の強制を示す新証言が相次いでいることを根拠に挙げた。

 その上で「今回は検定結果に異論があるわけだから、もう一度審議会で検討いただけないかなと思っている」として、再審議の必要性を明確にした。

 渡海文科相は一日、「政治が介入をしないというこの(検定)制度をしっかり守っていきながら、なおかつ、沖縄県民の気持ちに何ができるのか考えたい」と述べ、検定制度に矛盾しない形で事態打開を図る考えを示していた。

 訂正申請は教科書会社の主体的な判断で文科省に対して記述変更の承認を求める手続きで、渡海文科相はこの方法ならば「政治介入」に当たらないと判断したもようだ。


     ◇     ◇     ◇     

「一歩前進の印象」/知事


 渡海紀三朗文部科学相が沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した教科書検定問題への対応で、教科書会社からの記述の訂正申請に前向きな姿勢を示したことについて、仲井真弘多知事は二日午後、「非常にいいことで、県民が全身全霊お願いしたことが実現に向かって一歩踏み出したという強い印象を受ける」と評価。県民の要望である日本軍強制の記述復活に強い期待感を表明した。

 その上で「なるべく早く上京して、いろいろお願いをしたい」と述べ、実行委員会とともに三日にも上京し渡海文科相ら政府要人と面談、検定意見の撤回と記述復活を求めていく意向を示した。


文科相の柔軟性要求/岸田沖縄相


 【東京】岸田文雄沖縄担当相は二日午前、閣議後の会見で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の日本軍の強制を削除した高校歴史教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相ら政府が、記述復活に向けて柔軟姿勢を示していることについて「沖縄の声に対し誠実に対応しようと努力していることは評価できる」と述べた。

 岸田担当相は政府対応について「所管外であり、(検定制度の)具体的な中身は触れられない」と前置き。県民大会に十一万人の県民が集まったことには「沖縄戦で多くの尊い命が失われ、苦しい思いをされた。関係大臣には地元の関係者の方々の声を聞き、誠実に丁寧に対応していただきたいとお願いしている」と述べ、渡海文科相に対し、柔軟な対応を求めたことを再三、強調した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_01.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 5面

記述回復に期待の声/手続き実現に不安も

 渡海紀三朗文部科学相が二日、高校教科書の記述をめぐり、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への「日本軍の強制」記述復活の可能性を示し、対応を一変させた。十一万人が参加した県民大会以降、大きく揺れ出した文科省の対応。県内では「日本軍強制」の記述復活を期待する一方、「本来は検定意見を撤回すべきだ」と厳しい見方も出ている。

 文科相の発言に、渡嘉敷島の「集団自決(強制集団死)」の生存者、吉川嘉勝さん(68)は少し驚いた様子だったが「うれしいの一言」と喜んだ。

 しかし、「手続きをどうクリアし、実現するのか不安。沖縄は何かあると、本土の防波堤の役割をさせられ、差別の思想が生まれつつある。教科書問題後も、沖縄の現状を全国に届けてほしい」と期待を込めた。

 座間味島の「集団自決」の体験者の宮城恒彦さん(73)は「検定意見を付けて記述削除をさせたのは文科省。それなのに教科書会社にげたを預けて訂正させるような官僚のやり方は納得がいかない。文科省はきちんと間違いを認めて自主的に記述回復を認めるべきだ」と文科省の対応を批判した。

 県民大会実行委員長の仲里利信議長は「記述が回復されるのであれば、歓迎したい。大会に十一万人余が結集した県民の思いが政府や文科省を突き動かした」と評価した。

 その上で「検定意見の撤回などを含め文科省が実際どのような対応に出るのか、推移を見守りたい。三日にも上京し、要請行動を展開したい」とした。

 仲村守和県教育長は「本来なら教科用図書検定調査審議会で審議して撤回すべきだろう」と指摘。

 「ただ、いずれにしろ『日本軍』という主語が復活するに越したことはない。県民の平和への思いが政府の大きな山を突き動かした」と語った。

 一方、実教出版「高校日本史B」の執筆者の石山久男さん(71)は「根拠のない検定意見を文科省は誤りを認めて撤回すべきだ」とし、「訂正申請をした場合、日本軍の『強制』の記述を認めるのか、もう少し状況を見極めたい」と慎重な見方を示した。

 山口剛史琉球大准教授は「県民大会の大きな成功を受けて無視できなくなり、問題が大きくなる前に手を打とうということか、と思う」と文科省の対応を分析。

 今後に向けて「一定評価するが、『検定意見の撤回』が県民大会で確認されたばかりの総意。実行委員会や政治家の皆さんは、その線を崩さないよう、根本解決目指して奮闘してほしい」と述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_02.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 1面

実行委、あすにも上京/知事も同行意向

 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」から日本軍強制の記述が削除された検定問題で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の実行委員会(委員長・仲里利信県議会議長)は二日午後、県議会内で協議し、十五、十六日に予定していた要請行動を前倒しし、渡海紀三朗文部科学相らの日程の調整ができれば、三日にも上京し、要請行動を展開する方針を決めた。県議会一般質問への出席を予定している仲井真弘多知事は「県議会の了承が得られれば要請行動に参加する」とし、同行する意向を伝えている。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_03.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 5面

県民大会 ブログで発信/真和志高

 教科書を使う高校生の立場から教科書検定意見の問題を伝えようと、真和志高校インターメディア部(四十三人)が、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の模様をブログで全国に発信している。生徒たちは、絵文字交じりの文章で「沖縄戦を美化した教科書なんて絶ッ対使いたくない」と若い感性で検定意見の撤回を求めている。

 インターメディア部は「写真甲子園」で三度の優勝を誇る。六月の「沖縄戦の歴史歪曲を許さない! 県民大会」を取材。九月二十九日の県民大会には約二十人が参加、訪れた人に参加理由を聞き、写真を撮った。

 同三十日のブログでは「歴史的瞬間に立ち会えました」「若い世代の子もたくさんいて感動」などと記載。

 郡民大会を含め十一万六千人が参加したことに「わー! きゃー! やったぁ(≧◇≦。)」「やるときゃやります沖縄県民(;×;)」とつづった。

 生徒たちは六月の県民大会参加後、壁新聞を張り出したり、校内放送で県民大会への参加を呼び掛けるなどした。新里義和教諭(46)は「教科書も含め何事にも疑問を持っていい。いい経験になったと思う」と目を細めた。

 インターメディア部のブログ「ハイサイブギ放課後日記」のアドレスはhttp://capacamera.cocolog-nifty.com/mawashi/

 

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_04.html

 

2007年10月2日(火) 夕刊 5面

戦争を伝える写真と道具展/あすから沖縄市

 【沖縄】報道カメラマンで県出身の石川文洋さん、エッセイストの村瀬春樹さんが沖縄市に寄贈した写真パネル、戦時中の道具などを集めた展示会「戦争と写真そして道具たち」(主催・沖縄市)が三日から沖縄市役所一階市民ホールで開かれる。写真と道具で、戦争の時代をどう表現したかを紹介する企画。

 石川さん、村瀬さんとも、復帰前後に基地の街・コザを取材するなど沖縄市とゆかりがある。今年一月までに、石川さんがベトナム戦争時代の一九六五年から現在にかけた写真パネル二百五十四点。村瀬さんが自身のコレクションから戦時中の分銅など二百三十七点を市に寄贈した。

 展示会は十四日まで。十一、十二の両日は石川さんと村瀬さんが会場で展示を説明する。十二日は午後七時から沖縄市民小劇場あしびなーで両氏のトークショーが行われる。

 問い合わせは市文化観光課、電話098(929)0261、市史編集担当、電話098(939)1212(内線2273)。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710021700_05.html

 

2007年10月3日(水) 朝刊 1・2・3・24面

野党、国会に見直し決議案共同提出へ

 【東京】民主、共産、社民、国民新の野党四党は二日午後、国会内で国対委員長会談を開き、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題への対応で、見直しを求める国会決議案を衆参両院に共同提出する方針を確認した。「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の決議文を基本に、与党も賛成できるような案文をまとめ、全会一致での採択を目指す。

 各党が近く、それぞれの案文を持ち寄って調整する。文案作成と並行して、衆参の議院運営委員会で与党側に「全会一致」に向けた協力を呼び掛け、「できるだけ早く」(民主・山岡賢次氏)の決議を目指す方針だ。

 関係者によると、会談では民主党側が同日午前の役員会で国会決議案を提出する方針を決定したことを報告、野党共闘での共同提出を提案した。

 共産党の穀田恵二氏は「全会一致で与党が拒否できない内容がいい。(与党国会議員も参加した)九月二十九日の沖縄県民大会の決議に沿った内容であれば自民党も賛同できるのではないか」と指摘し、これに他の各党も同調したという。

 ただ、政府が急きょ柔軟姿勢に転じ、県民大会時とは状況が異なってきた。三日からの代表質問で同問題を取り上げる野党各党は、政府の国会答弁や県民大会実行委員会の要請に対する渡海紀三朗文科相の回答などを踏まえて、具体的な案文を決定するとみられる。

 一方、出版社からの訂正申請に柔軟に対応して解決を図ろうとする政府側の手法に、関係者には「教科書の記述は回復しても、今回の検定意見が残ってしまうのでは意味がない」との懸念がくすぶっている。

 このため、「やることは一つ。審議会のやり直しだ。これは与野党で一致できる問題のはずだ。最低でも今週中に擦り合わせをしたい」(民主党中堅議員)として、文案に再審議を盛り込んだ決議の早期採択を求める声も上がっている。

 

     ◇     ◇     ◇     

野党「撤回」譲らず/妥協的合意を警戒


 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍強制を削除した教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相が二日、教科書会社からの記述の訂正申請を容認する姿勢を示した。与党は「県民大会の思いを受け止めたぎりぎりの対応」と評価した。一方、野党サイドは「検定意見の撤回を求め、検定制度の見直しが必要だ」と批判し、妥協的決着が図られることに警戒感を示している。

 自民党県連の新垣哲司幹事長は「十一万人余が集まった県民大会の世論の波を受け、素早く対応した。検定への政治介入を避けるという大前提の下、ぎりぎりの判断だろう」と評価した。三日に伊吹文明幹事長ら党三役と面会し、協力を要請する予定だ。

 公明党県本の糸洲朝則代表も「県民大会の意義を重んじ、真摯に対応する姿勢を評価したい」と肯定的に受け止めた。同時に「決議に沿って決着できるかが問われる。検定制度の見直しは不可欠で、文科省と県民の共同研究機関を設置すべきだ」と主張した。

 一方、社民党県連の新里米吉書記長は「党で議論はしていないが、教科書で軍強制の記述を回復させる策になる」との考えを示した。「今回の記述削除のように、一部の解釈を審議せず、承認する検定の在り方にメスを入れるべきだ」とも指摘した。

 社大党の喜納昌春委員長は「(教科書)印刷までの時間的制約がある中、歴史が歪曲された教科書が世に出ることを食い止められる」として“県民の勝利”だと評価。

 しかし、「歴史改ざんで混乱を巻き起こした文科省の責任が問われる。検定そのものの見直しに向けた戦いは続く」とした。

 共産党県委の赤嶺政賢委員長は「大会の衝撃で政府は慌てふためいている」とみる。文科省が教科書会社からの記述の訂正申請を容認する姿勢を示していることについては「決議で示した検定意見撤回と記述回復を貫き、あいまいな決着は許してはいけない。検定撤回がない妥協的合意では過ちを繰り返しかねない」と指摘した。

 政党「そうぞう」の下地幹郎代表も「教科書会社に責任をなすりつけた訂正では、同じ過ちを繰り返しかねない」と批判した。「『集団自決』の歴史改ざんを防ぐため、福田康夫首相の談話による政府見解を明らかにすべきだ」と訴えた。

 同様に「記述回復だけでなく、強制を削除した教科書検定の撤回に対応すべきだ」と主張したのは民主党県連の喜納昌吉代表。「軍強制があったのは紛れもない事実。訂正申請でごまかされず、検定やり直しで政府を追及する」との構えだ。

 国民新党県連の呉屋宏代表も「記述回復は当然のこと。検定の見直しが大前提で、教科書会社に過失があったわけではなく、教科書検定に根本の問題がある。審議会のやり直しが不可欠だ」と審議会の再審査と検定撤回を求めた。


苦し紛れ政治決着/政府、不介入装い収拾へ


 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に旧日本軍の強制があったとする記述が削られた教科書検定問題で、検定意見の撤回を全面否定してきた文部科学省は、教科書会社側が記述を修正する「訂正申請」を促す形で軍の関与に関する記述復活を模索する姿勢に転じた。「政治不介入」という検定制度の大原則を表面上保ちつつ、県民の怒りの声を受けた政府が事実上の「政治決着」を誘導する形で事態は進む。突然ともいえる政府の方針転換の背景には、地方への配慮を前面に掲げた福田政権の姿勢が色濃くにじむ。

 「沖縄の教科書問題は大変重要だ」。首相官邸で二日開かれた政府与党連絡会議で、町村信孝官房長官は強調した。

 町村氏は、従来の歴史教科書を「自虐的」と批判する「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーが執筆した中学歴史教科書が二○○一年に教科書検定に合格した当時の文科相。中国、韓国が強く反発したが、町村氏らは検定制度の仕組みを盾に突っぱねた。

 だが今回、町村氏を含めた政府は「教科書会社主導による訂正や修正」の方向に動く。その理由を、ある閣僚経験者は「歴史観にこだわった安倍政権が去ったのが一つ。もう一つは福田さんが『地方の声にしっかり耳を傾ける』と言ったことだ」と説明。県民が十一万人集まって寄せた気持ちを無視することは、政権発足早々から所信表明にも反することになる、というのだ。

 ただ別の自民党文教族議員は「政府自らが教科書会社に修訂正させれば、中国、韓国などが事細かく求めてくる修訂正要求に対応しなければならなくなる。そうしたら教科書制度は破たんだ」と指摘する。自主訂正にこだわる政府の姿勢には、中韓両国と進める歴史教科書に関する研究への影響を最小限に抑えたいとの思惑ものぞく。


復活例


 「専門家の判断は覆せない」と取り付く島もなかったのに、にわかに柔軟な態度を見せ始めた政府の対応を県民はどう見るのか。座間味島で「集団自決」生存者の聞き取り調査に取り組む宮城恒彦さん(73)は「事実上削除させたのは文科省なのに、教科書会社に『自分たちで申請しろ』というのは、幼稚園児でもおかしいと思うだろう」と批判的だ。

 実は、沖縄戦をめぐり、いったん削除された教科書記述の復活に政治が“関与”した例はこれが初めてではない。

 高校日本史で「約八百人の沖縄県民が日本軍に殺害された」との記述が削除された一九八一年度検定では、県民の強い反発で小川平二文相(八二年)と森喜朗文相(八四年)が国会答弁で、それぞれ次の検定での「配慮」を明言。結局、八四年七月に検定結果が公表された教科書で、元の記述が事実上復活することになった。


残る溝


 来春、教育現場に配布される教科書を訂正するには、製作の都合上、今月末には内容を確定する必要がある。官房長官、文科相の発言を受け、教科書会社の中には早期の訂正申請を検討する動きが出ている。

 しかし、元の記述復活にこだわる執筆者側と「関与があったのは間違いないとしても命令の直接証拠はない」とする文科省の間にはまだ溝が残る。今後は教科書会社が申請する内容がどのような表現に落ち着くのかが焦点の一つになる。

 軍強制の記述を削除した実教出版の執筆者石山久男さんは「今回は検定意見に明らかな事実誤認があったケース。変に後退したあいまいな表現で収拾しようとすれば不透明な政治決着として将来に禍根を残しかねない」と指摘した。


元凶の検定意見撤回を/解説


 文部科学省の教科書検定で、高校の日本史教科書から沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に対する日本軍の強制を示す記述が削除された問題で、渡海紀三朗文科相が教科書会社からの正誤訂正の申請を受け入れる形で、「軍の強制」を示す記述を回復させる可能性を示唆した。だが、これで「集団自決」の記述をめぐる教科書検定問題がすべて解決するわけではない。(社会部・吉田啓)

 十一万六千人を集め、政府を揺り動かすきっかけとなった県民大会の決議は、(1)検定意見の撤回(2)教科書の記述回復を求めた。

 なぜか。「沖縄戦について必要な説明を欠く、誤った記述の教科書が使われないようにし、二度とこのような記述を求める検定が起きないようにする」ためだ。

 訂正申請の受け入れ表明で、記述回復の可能性は出てきた。だが、これだけだと、教科書検定問題の原因をつくった検定意見は手つかずで残る。

 検定意見を決めた教科書審議会の審議と、訂正申請の可否を決める教科書審議会の審議は、まったく別のものだからだ。

 渡海文科相は訂正申請を受け入れる理由に、「集団自決」体験者の新証言などを挙げた。軍の強制を示す強力な証言の出現を「学説状況の変化」と、とらえることもできると考えたのだろう。

 こうした考えを基に「学説状況の変化により、集団自決に軍の強制(あるいはもっと曖昧な『軍の関与』とされるかもしれない)が認められる場合も出てきた」と、検定意見の解釈の幅が広げられるかもしれない。

 だが、今回の検定意見は、「『集団自決』に軍命はなかった」とする人らによる訴訟や主張を根拠の一つに決められた。

 それらの人が再び異を唱えた場合、検定意見がこのまま残されると「やはり『軍の強制』はいき過ぎた表現」と、何年後かに今回と同じ検定が下される可能性が残る。

 沖縄は県民の意思と、体験者の証言などの論拠を基に、堂々と検定意見の撤回を求め続けよう。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031300_01.html

 

2007年10月3日(水) 朝刊 1・25面

実行委、きょう撤回要請/「県民の支援」後ろ盾

 沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の日本軍による強制の記述が削除された高校歴史教科書の検定問題で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員長の仲里利信県議会議長や仲井真弘多知事、県関係国会議員らは三日午前、渡海紀三朗文部科学相に会い、検定意見の撤回を要請する。

 岸田文雄沖縄担当相、河野洋平衆院議長、江田五月参院議長にも要請する予定。一方で、実行委側が希望している福田康夫首相、町村信孝官房長官との面会は二日時点では確定していない。

 実行委メンバーら要請団の十四人は二日夜、那覇空港から東京に向けて出発した。仲里議長は「われわれ代表の後ろには多くの県民の期待、支援がある。自信を持って強く要請する」と意欲を示した。


知事も上京/きょう文科相と面談


 教科書検定問題で要請行動を展開するため、仲井真弘多知事も二日夜、急きょ上京した。三日午前に実行委メンバーと合流し、町村信孝官房長官や渡海紀三朗文部科学相らと面談、検定意見の撤回と日本軍強制の記述復活を要請する。(一部地域既報)

 仲井真知事は二日午後、県議会内で記者団の取材に応じ、渡海文科相が教科書会社からの記述の訂正申請に前向きな姿勢を示したことに「非常にいいこと。県民が全身全霊お願いしたことが、実現に向かって一歩踏み出しという強い印象を受ける」と評価。

 「早く上京して、いろいろとお願いしたい」と検定意見撤回に決意を見せた。

 

     ◇     ◇     ◇     

11万人の思い国へ/要請団、実現向け出発


 「大会に集まった十一万人の思いをぶつけたい」「『修正』ではなく『撤回』を」―。「教科書検定意見撤回を求める県民大会」(委員長・仲里利信県議会議長)の実行委員らが二日夜、渡海紀三朗文部科学相ら政府要人への要請行動に向け、那覇空港出発ロビーに再び顔をそろえた。

 当初、今月中旬に予定されていた要請行動は同日午後、急きょ前倒しが決まった。県老人クラブ連合会の花城清善会長は「文科省は揺れている。今行動するのが一番効果的だ」。県市議会議長会会長の安慶田光男那覇市議会議長も「向こうで面会を待つくらいの意気込みでなければ、政府は動かせない」と強調する。

 県民の意思と期待を背負い、要請団メンバーはいずれも上気した表情。

 県市長会会長の翁長雄志那覇市長は「沖縄戦の体験は、保革を超えて県民に一つのぶれもない共通認識だ」と、民意を政府にぶつける構えだ。

 小渡ハル子県婦人連合会長は「今回の要請は第一波。文科省が撤回するまで、何度でも要請する。県民の意地に懸けても撤回させねばならない」と気迫を前面に出した。

 要請団は仲里議長を中心にガンバロー三唱で気勢を上げると、それぞれしっかり前を見据え、航空機に乗り込んだ。


教科書会社に戸惑い


 渡海紀三朗文部科学相が、高校日本史教科書の沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」をめぐる記述について、教科書会社側からの訂正申請を受け入れる姿勢を示したが、教科書会社は戸惑っている。

 文科省の検定意見に従い、「集団自決」への日本軍の強制を示す記述を削ったのに、その検定意見には手つかずのままだからだ。検定意見を付けられた五社のうち三社は訂正申請の検討を始めたが、「『軍の強制』を示しても、検定意見に従った記述と認めてもらえるのか」と悩んでいる。

 文科相の訂正申請の受け入れ発言を聞き、ある教科書会社関係者は「当たり前の話」と思った。

 教科書会社が「客観的事情の変更に伴い明白な誤りとなった事実の記載があった場合」などに訂正申請をすることは、文科省の教科書検定規則で認められているからだ。

 だが、訂正申請が却下される場合もある。「統計数字の更新や、人名などの誤記は簡単に認められるが、微妙な表現の変更には、かなりの理由が求められる」という。

 今回の検定では「集団自決」の記述について、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」という抽象的な検定意見が付いた。教科書会社は文科省の教科書調査官とやりとりし、検定意見の真意を探りながら、軍の強制を示す記述を削除した。

 「検定意見には解釈の幅がある。調査官が示す幅の中に記述を収めなければ不合格になる」。今回の検定では「軍の強制の明記はアウトだった」という。「解釈の幅を広げた」との見解が示されなければ、元通りの記述に戻すように申請するのは難しいようだ。

 別の関係者は、渡海文科相の「県民大会だけではなく、新たな事実、証言が出てきた」という発言に注目する。「『客観的事情の変更』が起きたため、『集団自決』への軍の強制を示す記述も認める」とのサインだと読み取れるからだ。

 一方、文科省は二日、照屋寛徳衆院議員(社民)の記述復活を求める質問主意書への答弁書で、「軍の強制」を削った検定後の教科書の記述について「沖縄における『集団自決』について、旧日本軍の関与が一切存在しなかったとする記載はない」とし、「誤った事実の記載」ではないとの見解を示した。

 「文科省の真意が分からない」と、慎重な姿勢を崩さない社もある。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031300_02.html

 

2007年10月3日(水) 朝刊 2面 

普天間移設で見解/石破茂防衛相インタビュー

 【東京】石破茂防衛相は二日午後、沖縄タイムス社などのインタビューに応じ、米軍普天間飛行場の移設問題について「現場の気持ちを直接聞いてみたい」と述べ、テロ特措法の延長が今国会で成立する見通しが立ち次第、早い時期に沖縄入りし、仲井真弘多知事ら地元関係者と意見交換する考えを明らかにした。

 石破防衛相は「私は、党務をしていたころからこの問題には深くかかわってきた。沖縄の負担と歴史的な経緯を理解しているつもりだ。現地の理解なしに基地政策は進まない」との認識を示した。

 一方で、県や名護市が求めるV字形滑走路の沖合移動については「合理的な理由がない限り、変更は難しい」と述べ、地元側の要望を受け入れる考えがないことをあらためて強調した。

 名護市や岩国市など、米軍再編計画に反対する自治体が支給対象外となっている再編交付金については、「日本や極東の平和のために、負担を我慢しようという地域に政府が配慮するのは当然で、誠心誠意、説明する責任がある」と、支給には地元の合意が必要との認識を示した。

 また、二〇〇七年度末で失効する在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の特別協定協議には「思いやり予算がスタートした時点と今では、わが国の財政事情は違う。日米同盟の信頼性を損なわないことができるのか、あらゆる可能性を排除しない」と述べ、従来より減額することも視野に、日米協議を進める考えを示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031300_07.html

 

2007年10月3日(水) 朝刊 24面

辺野古の海で平和パレード/グリーンピース

 【名護】米軍普天間飛行場の名護市辺野古キャンプ・シュワブ沿岸部への移設問題で、移設に反対する市民団体と環境保護団体グリーンピースのメンバーは二日、海上で平和行動パレードを行った。

 市民団体のメンバーがカヌー二十二艇、ゴムボートなど七隻に乗り込み、一文字ずつ書かれたのぼりを掲げて「PEACE いのち」のメッセージを完成させた。

 沖合に停泊したグリーンピースのキャンペーン船「エスペランサ号」から乗員を乗せてきたボートを囲み、辺野古への移設反対と環境保護を訴えた。

 エスペランサ号のジョエル・スチュワート船長は「このような美しく、絶滅危惧種の生息地を埋め立てて基地を造ることなど米国ではありえず、環境破壊の犯罪だ。世界中の人たちに、辺野古へのサポートを広げていきたい」と語った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031300_08.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年10月3日朝刊)

[記述復活の動き]

収拾策の中身が問題だ


検定で「主語」が消える

 「集団自決(強制集団死)」をめぐる教科書検定問題に新たな動きが出てきた。

 検定で削除された日本軍の強制を示す記述について渡海紀三朗文部科学相は、教科書会社から記述の訂正申請があれば「真摯に対応する」と述べた。

 県民大会の結果を踏まえ、記述復活を示唆したもの、だといえるだろう。歴史の改ざんを憂える十一万人の民意が、かたくなな政府を突き動かしたのである。

 ただ政府が想定している事態収拾策には疑問点もある。あらためて経過を振り返り問題の所在を確認しておきたい。

 文科省によると、教科書会社から検定の申請があると、文科相は教科書調査官にその教科書の調査を命じ、教科書として適切かどうかを教科用図書検定調査審議会に諮問する。

 今回の検定で教科書調査官は、軍の強制や関与によって「集団自決」が起きたとする記述を取り上げ、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」との調査意見書を審議会に提出した。

 「集団自決」の記述に文科省側がクレームをつけたのである。これが事の始まりだ。

 審議会は調査意見書と同じ文言の検定意見をまとめた。

 その結果、五社七冊の高校歴史教科書の記述は書き改められ、「日本軍」と「集団自決」の関係が文章表現上、完全に切り離されてしまった。

 だれに追い込まれたのか、だれに強制されたのかがわからないような、主語不明の文章になってしまったのだ。

 たとえば、「日本軍に『集団自決』を強いられたり」という修正前の記述は、検定意見を受けて「追いつめられて『集団自決』をした人や…」に変えられている。

 一連の過程で明らかになったのは、文科省が書き換えの主導的な役割を担っていること、審議会が十分な議論もせずに結論を出したことなどである。

 検定意見をまとめるにあたって審議会は果たして現地調査や体験者からの証言取り、沖縄戦研究者からの事情聴取などを行ったのか。結論の導き出し方があまりにも安易だ。


訂正申請による復活か


 修正前の記述にあるように、日本軍によって「『集団自決』を強いられたり」「なかには日本軍に集団自決を強制された人もいた」のは歴史的な事実である。

 体験者の証言に謙虚に耳を傾け、沖縄戦研究者の膨大な研究蓄積を丁寧にひもとけば、軍強制の記述を削除するような検定は行われていなかったはずだ。

 なぜ、このようなずさんな検定が通ってしまったのか。政府は検定申請から記述修正に至る議論の一部始終を公開すべきである。密室による検定が大きな疑惑を生んでいる以上、事実関係の詳細な情報開示が必要だ。

 検定制度には「検定済み図書の訂正」に関する規定がある。

 誤記、誤植が発見された場合や、客観的事情の変更に伴って記述の明白な誤りが明らかになった場合、検定済み図書であっても訂正ができるという仕組みだ。

 政府が検討しているのはこの手法による事態収拾である。

 だが、この収拾策には問題点がある。今回の混乱を招いたのが文科省であるにもかかわらず文科省の責任が不問にされ、検定申請者である教科書会社にボールを投げ返している点だ。


政府の見解が聞きたい


 県民大会決議は「検定意見の撤回」と「記述の復活」の二点を政府に求めている。

 検定意見そのものを撤回しなければ、今後、同じような検定騒動が起こりかねない。審議会の検定意見がどう処理されるのか、まだあいまいだ。

 私たちが切実に知りたいと思っているのは、沖縄戦の「集団自決」について福田康夫首相がどのような歴史認識をもっているのか、政府はどのような見解をもっているのかということである。

 軍民混在の地上戦で生じた「集団自決」問題は、決して沖縄問題ではない。「集団自決」と「日本軍による住民殺害」は、同じ根から出た現象だといっていい。それがなぜ生じたかを解き明かし未来の戒めとすることは、日本全体の課題であるはずだ。

 あらためて政府の見解表明を求めたい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071003.html#no_1

 

琉球新報 社説

教科書記述訂正 説明責任は済んでいない

 宮古、八重山での郡民大会を含め「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に復帰後最多の11万6千人(主催者発表)もの人々が結集したことで、とうとう政府も重い腰を上げざるを得なくなってきた。

 教科書の発行者が記述の訂正を申請すれば教科用図書検定規則に基づき「学習を進める上に支障となる記載」に当たるかどうかを判断して対応する方針を政府が2日の閣議で決定したのだ。

 渡海紀三朗文部科学相は「検定結果に対していろんな意見があるので、その中身をもう一度審議会で検討しなければいけない」と述べ、再検討する意向を示した。

 今回の検定によって、日本軍が「集団自決」を強制したとの記述を削除・修正した教科書発行者5社のうち複数が訂正を申請する方向で調整に入っている。

 改ざんされた記述が正しい形で復活する可能性が出てきたことは喜ばしいが、政府の態度はあまりにも誠意に欠けている。

 文科相が発行者に訂正を勧告するという選択肢は「政治による介入になる」として否定し、あくまで発行者の判断で訂正申請が出た場合に対応するとの姿勢を示しているからだ。

 そもそも、教科用図書検定調査審議会に修正を求める検定意見の原案を示したのは文科省である。

 審議会には沖縄戦を研究した委員がおらず実質的審議がなされない中で原案通り検定意見が決まった。教科書発行者はこの意見を踏まえ、記述変更を迫られた。

 教科書の記述を書き換えさせたのは文科省にほかならない。にもかかわらず、検定経過の適否を明確にしないまま、発行者の訂正申請にげたを預けるやり方は、責任転嫁以外の何ものでもない。

 何よりも批判されるべきなのは、事ここに至るまで、記述の削除・修正を求める検定意見が出された経過に関し、文科省が何一つ説明責任を果たしていないことだ。

 政府は、どのような歴史の検証、研究を踏まえて検定意見がまとまったのか、まず国民、県民に説明する義務がある。

 その上で、自らの非を潔く認め、沖縄県民に謝罪すべきだ。教科用図書検定調査審議会や教科書発行者に責任を押し付けるのは不誠実極まりない。

 沖縄戦では、住民が日本軍によって「集団自決」に追いやられたり、幼児を殺されたり、スパイ容疑をかけられて殺害されたりした。

 仲里利信県議会議長が県民大会で指摘していたように、軍命による「集団自決」が、自ら進んで死を選択したとする殉国美談に仕立て上げられたのではたまらない。

 政府は自らの責任において、教科書の記述を正しい形で速やかに復活させるべきだ。

(10/3 9:46)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27756-storytopic-11.html

 

2007年10月3日(水) 夕刊 1面

検定意見撤回を否定/要請団に文科相回答

「政治介入できない」

 【東京】文部科学省が沖縄戦「集団自決(強制集団死)」から日本軍強制の記述を削除した高校歴史教科書の検定問題で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員長の仲里利信県議会議長や仲井真弘多知事、県選出・出身国会議員らは三日午前、渡海紀三朗文部科学相に会い、検定意見撤回と記述回復を要請した。渡海文科相は「検定を守ることは非常に大事なこと」と話し、検定意見撤回には応じられない、との考えを示した。一方で「関係者が知恵を出すことによってこの問題に反映することは何とか可能にならないか」と町村信孝官房長官の言葉を引用。教科書会社からの訂正申請に柔軟に応じる姿勢を示した。

 仲里議長は「(大会は)百三十万人余りの県民の総意だと受け止めてほしい。ご配慮ください」と話し、「沖縄戦における『集団自決』が日本軍による関与なしには起こり得なかったことは紛れもない事実」とする大会決議文を読み上げた。

 仲井真知事も同様の趣旨の要望書を手渡し、検定意見の撤回と記述の速やかな回復を求めた。

 渡海文科相は「県民の代表である知事、超党派で来られたのは重く受け止めさせてもらいたい。教科書検定制度は政治的介入があってはならない」との立場を示した。

 さらに、赤嶺政賢衆院議員(共産)が「検定意見が残ったままで何かできると言うのでは県民の不信がぬぐえない。そこに一番のポイントがある」と検定意見撤回を迫ったのに対し、渡海文科相は「(検定意見撤回は)制度そのものに新たな道を切り開くということになってしまう」と否定的な見解を示した。

 渡海文科相が教科書検定問題で、県民大会実行委員会のメンバーや仲井真知事と会うのは初めて。要請には、翁長雄志那覇市長や安慶田光男那覇市議会議長、玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会長、小渡ハル子県婦人連合会長、共催団体の代表ら約三十人が参加。面談は約二十分。人数を絞り込んで行われた。これまでの要請は非公開だったが、今回は報道陣にすべて公開された。

 一行は、渡海文科相のほか、岸田文雄沖縄担当相や官邸の大野松茂官房副長官、衆参両院議長らも訪れた。大野官房副長官は「(大会に)県民の多くが集まったことを政府として重く受け止め、総理や官房長官にも伝えたい」と答えたという。岸田沖縄担当相は「所管外だが、沖縄発展のための担当相として誠実に受け止めたい」と理解を示した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031700_01.html

 

2007年10月3日(水) 夕刊 5面

実行委に落胆の色/検定撤回否定

 【東京】沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題で三日、文部科学相ら関係閣僚と初めて面談した県民大会実行委員会の要請団。政府が軟化の姿勢を見せるなど、前回要請時とは打って変わった「厚遇対応」に期待感を膨らませた実行委員だが、「検定意見の撤回」に言質を与えない政府の姿勢に、緊迫した空気も。記者会見した仲里議長は「もうちょっと前向きな発言があると思っていたが…」と語り、実行委に落胆の色は隠せなかった。

 同日朝、当初の予定よりも十五分ほど早く宿舎のロビーに集まった要請団の一行。九時半の江田五月参院議長との面談から始まるこの日の要請行動を前に、緊張した面持ちで大会決議文に何度も目を落とす仲里利信実行委員長(県議会議長)の姿があった。

 「前回は事実上の門前払いだったが、今回は雲泥の差」と前回の審議官対応とは異なる大臣対応の要請行動に期待感をにじませた。その上で「記述の回復だけではなく、検定意見の撤回も併せて強く求めたい」と要請の意義を強調した。

 午前十一時。今回の要請の「本丸」である渡海紀三朗文科相との面談は、仲里議長らが面談実現への謝意を示すなどリラックスしたムードで始まった。だが決議文を読み上げ始めてから要請団とともに一斉に表情を引き締め、「百三十七万人の総意だと受け止めてほしい」と付け加えた。

 小渡ハル子県婦人連合会会長は「女性として母として、子どもにゆがんだ教育はしたくない。真実を伝えていきたい。検定意見を撤回してほしい」と語気を強めた。

 「重く受け止めさせていただく」。ひざに両手を添え恐縮し切った様子で要請団の話に聞き入っていた文科相だが、「検定意見の撤回」については「検定を守ることは非常に大事」などと慎重な姿勢を崩さなかった。

 これに赤嶺政賢衆院議員(共産)は「県民の不信がぬぐえない」と「検定意見の撤回」を重ねて注文。下地幹郎衆院議員(無所属)も「安易な解決策は良くない。悪い検定に政治が介入するのは当たり前だ」と念を押したが、渡海氏からは前向きな回答がないまま、要請が終了した。


支援団体が要請行動


 教科書検定意見の撤回を求める沖縄からの要請団の行動に合わせ、「大江・岩波沖縄戦裁判を支援し沖縄の真実を広める首都圏の会」が三日午前十時から、東京・丸の内の文部科学省前で要請行動を始めた。

 同会のメンバーや県人会、東京都の教職員組合関係者ら約二十人が参加した。ハンドマイクを使い、教科書会社からの訂正申請の容認で解決を図ろうとする文科省の姿勢を批判し、「あくまでも検定意見の撤回を」と訴えた。県民大会で配布された沖縄タイムス速報などのコピーも道行く人々に配ったという。同会の渡辺勝之事務局次長は「通りかかる人々も興味を持ってくれているようだ」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200710031700_02.html

沖縄タイムス 関連記事・社説、琉球新報 社説(9月29日、30日)

2007年9月29日(土) 朝刊 1・27面

手榴弾配り自決命令/住民が初めて証言

検定撤回きょう県民大会

 一九四五年三月二十五日、座間味村の忠魂碑前に軍命で集まった住民に対し、日本兵が「米軍に捕まる前にこれで死になさい」と手榴弾を渡していたことが二十八日、同村在住の宮川スミ子さん(74)の証言で分かった。長年、座間味村の「集団自決(強制集団死)」について聞き取りをしてきた宮城晴美さん(沖縄女性史家)は「単純に忠魂碑前へ集まれでなく、そこに日本軍の存在があったことが初めて分かった」と指摘している。一方、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」(主催・同実行委員会)が二十九日午後三時から、宜野湾海浜公園で開かれる。(又吉健次)

 忠魂碑前で日本兵が手榴弾を配ったとする証言は初めて。

 宮川さんは当時、座間味国民学校五年生。米軍が座間味島を空襲した四五年三月二十三日に、母のマカさんとともに家族で造った内川山の壕に避難していた。二十五日夜、マカさんが「忠魂碑の前に集まりなさいと言われた」とスミ子さんの手を引き壕を出た。

 二人は、米軍の砲弾を避けながら二十―三十分かけ、忠魂碑前に着いた。その際、住民に囲まれていた日本兵一人がマカさんに「米軍に捕まる前にこれで死になさい」と言い、手榴弾を差し出したという。スミ子さんは「手榴弾を左手で抱え、右手で住民に差し出していた」と話す。

 マカさんは「家族がみんな一緒でないと死ねない」と受け取りを拒んだ。スミ子さんはすぐそばで日本兵とマカさんのやりとりを聞いた。二人はその後、米軍の猛攻撃から逃れるため、あてもなく山中へと逃げた。

 聞き取りが当時の大人中心だったため、これまで証言する機会がなかった。スミ子さんは「戦前の誤った教育が『集団自決』を生んだ。戦争をなくすため、教科書には真実を記してほしい」と力を込めた。

 宮城さんは「日本軍が手榴弾を配ったことが、さらに住民に絶望感を与え、『集団自決』に住民を追い込んでいった」と話している。

 一方、県民大会の実行委員会は五万人以上の参加を呼び掛けており、九五年十月二十一日に開かれた米兵暴行事件に抗議の意思を示した県民大会以来十二年ぶりの規模となる。県議会や県婦人連合会、県遺族連合会など二十二団体の実行委員会と約二百五十(二十八日現在)の共催団体が超党派で加わっている。

 大会では実行委員長の仲里利信県議会議長や仲井真弘多県知事、「集団自決」の体験者、女性、子ども、青年団体などが文部科学省に抗議の意思を示す。文科省が高校歴史教科書から沖縄戦の「集団自決」への日本軍の強制を削除させた検定意見の撤回を要求する。


     ◇     ◇     ◇     

市民広場利用 米軍が認めず/大会関係者怒り


 【宜野湾】二十九日の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」で、大会実行委員会(委員長・仲里利信県議会議長)が大会当日に宜野湾市役所向かいの「市民広場」を駐車場として利用することについて、米軍が「中立の立場を維持する」として許可しないことが二十八日、分かった。同広場は普天間飛行場の提供施設内で、市に無償開放されている。超党派の県民大会での駐車場使用を米軍が許可しないことに同実行委からは「県民の思いを理解できない」など反発している。

 同広場は約二百台の駐車場があり、通常は市民らが野球やゲートボールなどを楽しんでいる。大会当日は会場までバスでピストン輸送する予定だった。

 同飛行場のリオ・ファルカム司令官(大佐)は「日本国内の重要かつ慎重を期する問題について、中立の立場を維持する必要性がある」と強調。「論争となっている日本国内の政策については、支持あるいは不支持と受け取られることを避けるというのが私たちの方針」と説明している。

 宜野湾市の伊波洋一市長は「あえてゲートを閉めれば不支持と受け止められる。県民感情を逆なでする行為だ」と憤慨。「直接、基地に関係するものでもなく、納得できない。通常通り開門するべきだ。閉鎖すれば大会の怒りは基地に向かうだろう」と話した。

 県民大会実行委員会の玉寄哲永副実行委員長は「大会は超党派で日本軍強制の事実が削除されたことに対し、記述の回復を求めるもの。政府の顔色をうかがい、県民の思いを理解できない米軍人の思考回路はまったく理解できない」と批判。小渡ハル子副実行委員長も「県民の土地を奪い取り使っているのに米軍は恥を知らないのか。だから米軍は県民に嫌われる。言語道断の話であり、県民をばかにしている」と憤った。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709291300_01.html

 

2007年9月29日(土) 朝刊 1・2面

文科相「検定の経緯精査」/意見変更可能性も

 【東京】渡海紀三朗文部科学相は二十八日、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除した高校歴史教科書の検定問題への対応で、沖縄タイムス社に「今回の検定に至る経緯や趣旨等については十分に精査していきたい」とコメントし、検定過程を詳しく調査する考えを明らかにした。

 文科省はこれまで「教科用図書検定調査審議会が決めたことには口出しできない」などとして、検定を問題視しない考えを示していた。

 渡海文科相が検定経緯の調査にまで踏み込んだコメントをしたことで、文科省側が検定結果を変更する可能性も出てきた。

 本紙は渡海文科相の就任後、沖縄戦の専門家がおらず文科省主導で審議が進んだ検定の経緯などについて質問書を提出。文科相が二十八日に文書で回答した。

 渡海文科相は「集団自決」についても書面で、「多くの人々が犠牲になったということについて、これからも学校教育においてしっかりと教えていかなければならない」とコメントした。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709291300_02.html

 

2007年9月29日(土) 朝刊 26・27面

歪曲許さぬ思いは一つ/遺族の願い切実

書かれるのはつらい それでも教科書に事実を 戦争を起こさぬため/山城美枝子さん

 「書かれるのは本当はつらい。でも事実を教科書にはっきりと書いてほしい」。座間味村の「集団自決(強制集団死)」で助役兼兵事主任だった父親・宮里盛秀さん=当時(33)=ら家族五人を亡くした山城美枝子さん(66)が、二十九日宜野湾海浜公園で行われる「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に参加する。教科書記述から軍強制が消された現状と、軍に抗えなかった沖縄戦時下とを重ね、「時代が逆戻りしている」と危機感を抱く。記述が復活し「集団自決」の事実が全国で知られることを願う。(謝花直美)

 一九四五年三月二十六日座間味村・産業組合の壕で、役場職員とその家族ら六十七人が「集団自決」に追い込まれた。美枝子さんは、父母、七歳、六歳、十一カ月のきょうだい三人を失った。一人残され、常に家族のことを思いながら生きてきたが、公の場で語ることはこれまでなかった。

 平和への願いは強く、これまでも普天間包囲行動や米軍ヘリ墜落の抗議集会には孫の手を引いて参加した。今年三月、日本軍の強制が削除された検定結果が明らかになった後も、父・盛秀さんが、兵事主任として軍からの命令を住民に伝える立場だったため、「集団自決」問題について話すことには迷いがあった。

 しかし、沖縄戦の歴史を歪曲させないという怒りが県民の間にわき起こったことに「後押しされているように」思えた。

 九月本紙で、住民に「集団自決」の軍命を伝え、自らも子どもたちを手にかけなければならなかった父親の苦悩への思いを語った。「家族から一人残されたことは、父が思いを託すため」とも考えるようになった。

 美枝子さん自身、「集団自決」の記述に触れることで、心をかきむしられ、涙が止まらなくなる。子どもを抱き締め号泣した父親の心痛がありありと感じられるからだ。「書かれることも本当はつらい」。それでも、教科書には軍強制の記述をしっかり書くべきだと主張する。「事実は事実として受け止めなければならない。そうでなければ、時代があの時と同じに戻るのではないか」と懸念する。

 大会には、座間味村出身の夫功さん(74)とともに参加。記述復活はもちろんのこと「県民大会で全国の一人でも多くに戦争の醜さが伝えられれば」と期待する。


     ◇     ◇     ◇     

復帰前闘争つながる 「怒り」再び 「島ぐるみ」今回も/中根章さん


 全四十一市町村や県議会二度の意見書可決などを経て、開かれる「教科書検定意見撤回を求める県民大会」。沖縄戦を体験し、一九五〇年代の土地闘争や七〇年代の復帰闘争、九五年の県民大会などに参加した元県議の中根章さん(75)=沖縄市=は「史実改ざんに抗議する大会は復帰前の『島ぐるみ』の闘争とつながっている」と強調。「史実の歪曲を絶対に許してはならない。体験者、子、孫の世代が一斉に立ち上がってほしい」と話している。

 五〇年代半ば、米軍の強制的な土地接収に、県民の怒りは頂点に達していた。五六年七月、那覇高校で開かれた「四原則貫徹県民大会」は、十五万人が集まった。

 「すき間もないほどびっしりと人が運動場を埋めた。先祖代々の土地を奪われ、繰り返される事件や事故。民衆が一斉に抗議した瞬間だった」と振り返る。

 教科書検定の撤回を求める県民大会については「沖縄戦で日本軍の強制は『集団自決(強制集団死)』以外にもあった。日本兵は住民に捕虜になるより死ぬことを選ぶように教えてきた。この史実を否定することはできない」と憤る。

 大会には家族や知人ら六十人と参加する。「復帰前と同規模の住民が参加し、思いを一つにしたい」と話す。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709291300_03.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年9月29日朝刊)

[県民大会の日に]

民意のうねり届けよう


体験を記憶のふちに沈め

 座間味島出身の宮城恒彦さん(73)は毎年一冊ずつ、慰霊の日にあわせて沖縄戦体験をつづった小冊子を発行している。一九八九年に第一号を出版して以来、一度も欠かしたことがない。

 八八年に母ウタさんが九十一歳で亡くなったことがきっかけだった。

 「母は娘のことを生涯悔やんで嘆いてましたから。なんか書き残さなくてはと思ったんです」

 座間味島の内川の壕で起きた「集団自決(強制集団死)」は一発の手りゅう弾から始まっている。二十人前後の住民が身を潜めていたらしい。

 宮城さん一家はウタさんと恒彦さんら子ども五人の計六人が行動をともにしていた。当時十九歳の姉は腹部をざっくりえぐり取られた。

 手りゅう弾で死ねなかった人たちが何人もいた。学校の校長はカミソリで妻を手にかけ、この後自分の首の動脈を一振りした。妻はかろうじて生き残ったが、夫はその場で息絶えた。

 瀕死の重症を負い、もだえ苦しむ娘を壕の中に置き去りにして死なせたことが戦後、ウタさんを苦しめる。

 「集団自決」は、渡嘉敷・座間味・慶留間などの慶良間諸島だけでなく、伊江村、読谷村、糸満市など県内各地で発生している。

 生き残った者はせい惨な体験を記憶のふちに沈め、戦後、悲しみに耐えて生きてきた。だが、内面の傷は癒えることがない。座間味島生まれの女性史研究家宮城晴美さんが祖父母の体験をつづっている。

 ある日、学校からの帰り祖父母の家に寄った。家の裏庭にあるヤギ小屋で不気味な鳴き声がするので物陰からのぞいたら、祖父がヤギを宙づりにしてほふっていた。

 祖母は晴美さんに向かって、祖父に聞こえるような声で「この人は首切り専門だから」と、いてつくような言葉を投げたという。

 米軍上陸後、祖父は妻と子どもたちの首をカミソリで切って「自決」を試みた。息子が即死し、祖母ものどに深い傷を負った。

 祖父は祖母に何を言われても反論せず、時々、夜のとばりが下りるころ、サンシンを持ち出して護岸で静かに民謡を歌っていたという(『母の遺したもの』)。


住民保護の視点を欠く


 「集団自決」はなぜ起きたのか。

 私たちはこの問いが、今を生きるウチナーンチュに突きつけられた逃れられない問いだと思っている。

 過去に向き合い、歴史体験から学ぶ姿勢がなければ、現在の風向きを知ることはできない。

 沖縄戦で多発した「集団自決」は基本的に旧日本軍の強制と誘導によって起こったもので、県議会の意見書が指摘するように「日本軍による関与なしに起こり得なかったことは紛れもない事実」である。

 米軍が上陸したとき、住民をどう保護すべきか。残念ながら旧軍は住民保護の視点を欠いた軍隊だった。

 本土決戦の時間稼ぎと位置づけられていた沖縄戦で重視されたのは、人と食糧を現地調達し軍官民共生共死の態勢を築くことだった。

 「生きて虜囚の辱めを受けず」という戦陣訓。「死は鴻毛よりも軽しと覚悟せよ」という軍人勅諭。投降や降伏を否定する軍の論理は住民に対しても求められ、指導層に浸透していった。

 米軍上陸後の住民対策は、司令官訓示や軍会報、「上陸防御教令(案)」、「島嶼守備隊戦闘教令(案)」、「国土決戦令」などに示されている。

 防諜に厳に注意すべし。沖縄語をもって談話しあるものは間諜として処分す。不逞の分子に対しては断固たる処置を講ぜよ。

 渡嘉敷島や座間味島は、特攻艇を秘匿した秘密基地だった。秘密保持が優先され一部住民には玉砕を想定してあらかじめ手りゅう弾が手渡されていた。そのような状況の中で米軍に包囲され、猛攻撃を受けたのである。


揺らぐ教科書への信頼


 日本軍の関与を示す記述を削除した文部科学省の教科書検定は、歴史的事実の核心部分を故意に無視したものと言わざるを得ない。

 文部科学省の教科書調査官が示した検定意見の原案に対し、審議会は、実質的な審議も具体的な議論もしないまま通してしまったという。

 調査官は、係争中の訴訟の一方の当事者の意見だけを取り入れて教科書に反映させようとしたことも明らかになっている。教科書への信頼さえ揺らぎかねないずさんな検定である。

 「見たくないものは見えない」という言葉がある。見たくないものを見ようとする意思がなければ、沖縄の民意を理解することはできない。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070929.html#no_1

 

琉球新報 社説

検定県民大会 歴史わい曲は許さない/結集し撤回への総意示そう

 声を上げる。このことがいかに重要か。教科書検定意見撤回を求める県民大会の大きなうねりは、県子ども会育成連絡協議会会長の怒りの電話に端を発する。県婦人連合会、PTA連合会がまず結束。連携の輪は県内はもちろん、県外まで異例の広がりを見せている。

 そしてきょう、県民大会が開催される。実行委員会は当初5万人規模の参加を目標に掲げたが、歴史のわい曲を許さないという県民の決意は固く、目標を軽く超えるに違いない。

 国・文部科学省は、大会をしっかり見てほしい。県民の怒りがどれほどのものか。歴史をゆがめることがいかに愚かなことか。

責任は文科省に

 わたしたち県民がなぜ、こぞって反発しているのか。高校歴史教科書検定で、沖縄戦の「集団自決」記述から日本軍の強制・関与が削除・修正されたからだ。しかも、教科用図書検定調査審議会ではほとんど議論もなく、文科省の調査官が出した意見書に沿った内容で提言がなされた。さらに、審議会には沖縄戦を詳しく研究した専門家もいない。

 沖縄戦当時、住民は米軍の捕虜になれば、女性は辱めを受け、男性は惨殺されるという情報を信じさせられ、恐怖を植え付けられていた。生き残る選択肢はなかったに等しい。

 糸満市のカミントウ壕での「集団自決」から生き残った74歳の女性は証言する。壕内に砲弾が撃ち込まれたことで、入り口付近の日本兵2人が自決。直後、住民の「集団自決」が始まった。多くの家族が次々と手りゅう弾の信管を抜き、命を絶った。手りゅう弾を持っていたのは、家族の中に防衛隊として日本軍から渡されていた男たちがいたからだという。後は地獄のようなさまだ。「片目をえぐられた幼なじみ、内臓が出た人、足がもげて大声を上げて苦しんでいる少年」

 別の生き残り女性の体の中にはまだ弾の破片が4個残っている。「集団自決」で破裂した手りゅう弾のかけらだ。60年も前にあったらしいというあやふやな事ではない。女性の体にある破片は、恐ろしい事実をわたしたちに突き付けている。

 もし、当時の住民が「米軍に見つかったら決して抵抗せず、捕虜になりなさい。生き残れるかもしれない」と教えられていたら、どれほどの人が死なずにすんだか。恐怖に駆られた肉親同士が「早く死ななければ」と殺し合うことなど決してなかった。

 文科省側は、意見書を付すに当たり、沖縄の地を踏んで調査していない。あまりにもずさんだ。このような認識で、「集団自決」の実相をゆがめられてはたまらない。検定意見をまとめた文科省の責任はとてつもなく重い。

最終目的は記述復活

 就任したばかりの渡海紀三朗文科相は県民大会について「どういう大会になるのか、どういう意見が出るのかを見極めて対応したい」と、これまでの文科相対応とは違う含みを持たせた発言をした。

 しかし見極める必要はない。沖縄側の主張ははっきりしているからだ。県と41市町村議会すべてが抗議決議し、大会には41首長すべてが出席する。実行委員会には老若男女、農林漁業、企業など多方面にわたる22団体が加わり、一致して検定意見の撤回を求めているのだ。

 それでも見極めたいというなら、ぜひ大会に参加して、じかに県民の訴えを聞き、意志の結集を肌で感じてほしい。「集団自決」から生き残ったお年寄りの苦痛に満ちた証言を聞いてほしい。

 大会では「子供たちに、沖縄戦における『集団自決』が日本軍の関与なしに起こり得なかったことが紛れもない事実であったことを正しく伝えること(中略)は我々に課せられた重大な責務である」と訴え「県民の総意として国に対して今回の教科書検定意見が撤回され、『集団自決』記述の回復が直ちに行われるよう」求める決議を採択する。

 思想信条を超え結集する大会は、歴史に刻まれるものとなろう。県民はそれほどの決意を持っている。

 確認しておきたいのは、わたしたち県民にとって、大会成功が目標の達成ではない。あくまで、日本軍強制の記述の復活、つまり検定意見の撤回が最終目標だ。大会は、文科省を動かす第一歩であり、撤回実現まで要求し続けたい。

(9/29 9:51)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27623-storytopic-11.html

 

2007年9月29日(土) 夕刊 1面

検定撤回へ結集/宜野湾・宮古・八重山で県民大会

 高校歴史教科書の検定で、文部科学省が沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」から日本軍の強制を示す記述を削除させたことに抗議する「教科書検定意見撤回を求める県民大会」(主催・同実行委員会)が、二十九日午後三時すぎ、宜野湾海浜公園で開かれた。数万人が会場を埋め、実行委員長の仲里利信県議会議長らが登壇し、文科省に検定意見の撤回と記述回復を求めた。開会前、平和への思いを訴える読谷高校生の創作ダンスや渡嘉敷村の「集団自決」犠牲者を慰める鎮魂歌「白玉の塔」などがささげられた。宮古、八重山でも同時刻、郡民大会が開かれた。同日午前、沖縄戦終焉の地・糸満市摩文仁で「平和の火」が採火され、三十四キロ離れた会場まで百人以上が走り継いだ。

 実行委には県議会や県婦人連合会など二十二団体に二百四十七の共催団体が加わった。

 会場には家族連れや戦争体験者、学生などが詰め掛けた。那覇市の花城隆さん(74)、トヨさん(76)夫妻。共に沖縄戦の体験者として「政府は、なぜ『集団自決』の生き残りの証言を信じてくれないのか。『集団自決』の現場は見ていないが、同じ体験者として絶対許せない」と憤った。

 読谷村から来た山内昌善さん(71)=無職=は「私も戦争体験者。教科書が変えられたと聞き、居ても立ってもいられなかった」と話し、「日本軍は住民にいいことは何一つしてない。戦争の実相を正しく伝え、日本本土に強く訴えないと、沖縄は埋没してしまう」と訴えた。

 うるま市の伊保清一さん(72)=無職=は「最近の報道を見て、真実が伝えられていないと感じる。大会を通して、削除された部分を復活し、子どもや孫に真実を伝えてほしい」と語った。

 「平和の火」の採火式は、午前九時四十五分から行われ、県民大会実行委と糸満市、八重瀬町の関係者ら百人が参加した。

 糸満市の西平賀雄市長、玉城朗永市議会議長、市立米須小学校六年の玉城寿倫哉君の三人が、広場に設置された「平和の火」から採った火を仲里実行委員長の持つトーチに点火した。

 「平和の火」は、沖縄戦最初の米軍上陸地で、「集団自決」で多数の住民らが犠牲となった座間味村と被爆地広島の「平和の灯」、長崎の「誓いの火」から合火。

 平和を希求する火の前で、仲里実行委員長は「県民大会には、県内外から五万人以上が参加をいただき、史実を歪曲する文部科学省に検定意見の撤回を力強く求めていく」と決意を述べた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709291700_01.html

 

2007年9月29日(土) 夕刊 4・5面

島の惨劇 後世に/決意胸に撤回訴え

 「平和の火」が、人の波が、会場に押し寄せた。二十九日、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が開かれた宜野湾海浜公園。「集団自決(強制集団死)」が起きた座間味村と渡嘉敷村の住民らは船とバスを乗り継いで会場に着いた。愛する家族や親せきを失ったお年寄りらは「歴史を歪めさせない」「子どもたちに真実を伝える」と誓い合った。宮古、八重山を含む県内各地で、大勢の県民が決意と期待の声を上げた。大会前、小中高生らが燃えさかるトーチを手から手へつないだ。

 一九四五年三月二十六日に「集団自決(強制集団死)」が起きた座間味村の住民約五十人は二十九日午後一時すぎ、船とバスを乗り継ぎ「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が開かれる宜野湾海浜公園に到着した。「集団自決」の体験者らは「多くの人が参加し、県民の声が全国に届く大会にしたい」と気持ちを新たにした。

 一行は同日午前、座間味港や阿嘉港から本島向けの船に乗り込んだ。阿嘉港から乗船した元村議の中村武次郎さん(77)は慶留間島で、家族三人のうち姉が「集団自決」で亡くなった。「記述が削除されては、島で何が起きたのか教えられなくなる。大会を成功させようと思い、参加を決めた」と力を込めた。

 沖縄戦当時の村助役兼兵事主任の兄、宮里盛秀さんと家族を亡くした宮平春子さん(81)の「集団自決」体験を県民大会で代読する元役場職員、宮里芳和さん(59)は「兄家族を失った宮平さんには熱い思いがある。宮平さんの万感胸に迫る思いを訴えようと、燃える気持ちだ」と少し緊張した面持ちだった。

 村実行委員会副委員長の仲村三雄村長(64)は「大戦中の尊い命を犠牲に、戦後は平和な座間味島を築いてきた。全国に県民の声が届く大会にしたい」と話した。

 宮里順之村議(72)は四五年三月、「集団自決」が起きた産業組合壕で、死ぬために「中に入れてほしい」と大人たちが押し問答したことを子ども心に覚えている。「『集団自決』があった座間味村から、多くの人が参加して大会を成功させたい」と力を込めた。

 四二年に徴兵され、「死んで座間味に帰ってくるはずだった」という宮里正太郎さん(87)。「会場に多くの人が集まっているが、これは問題の大きさを表している。今後の平和のためにも、真実を曲げてはいけない」と言い切った。


     ◇     ◇     ◇     

史実きちんと継承して/怒り 期待の声あふれ


 教科書検定撤回を求める県民大会の二十九日、県内各地で、史実歪曲への怒りと大会に寄せる期待の声が聞かれた。

 大宜味村の宮城光一さん(25)=公務員=は「戦前・戦中に軍を優先させる教育があって『集団自決(強制集団死)』は起きた。村内でも白浜事件という旧日本兵による住民虐殺があった。検定結果がそのままになると、自分たちのおじいさん、おばあさんの世代が亡くなった時に、そうしたことまで、すべてなかったことにされてしまうかもしれない」と危惧。「歴史をきちんと継承しないと戦争が再び起きてしまう」と意義を語った。

 宜野湾市真栄原の木村美乃さん(33)=主婦=は「集団自決」の体験を読み「危機感が、つらい体験者の重い口を開かせたのだろう」と感じるようになった。三年前、沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故後に開かれた市民大会に足を運んだ。「参加することで抗議の気持ちを体で表せた」。今回は三歳の長男を含む家族三人で参加する。

 石垣市登野城の宮良洋子さん(65)は、家族と一緒に市総合体育館の八重山郡民大会に足を運ぶ。この問題を聞いたとき、「歴史をゆがめるようなことを絶対に許してはいけない」と強く思った。「子どもたちに真実を伝えるために一人一人が立ち上がり、県全体、本土にも広がり、検定意見の撤回につながってほしい」と期待している。

 宮古島市平良の与儀一夫さん(70)は「『集団自決』の問題が今出てくるのは、戦争の反省をしっかりしてこなかったからだと思う。(日本軍の強制を示す記述の)削除には怒りを感じる。戦争のことをしっかり整理しなければならない」と話す。

 戦争中は小学校低学年。宮古島でも「軍命」の名の下に飛行場建設や食料の調達がなされたことを肌で感じており、検定意見撤回のため同市内で開かれる郡民大会にも参加する。「一人一人の市民が積極的に参加して多くの人で宮古郡民大会を成功させたい」と話している。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709291700_02.html

 

2007年9月29日(土) 夕刊 4面

悲惨な思いつなぐ/平和の火リレー

 【糸満・豊見城】教科書検定意見の撤回と平和希求の思いを託し二十九日午前、県民大会会場の宜野湾海浜公園に向け出発した「平和の火リレー」。小中高生らが“平和のシンボル”を次々とつないだ。燃え上がるトーチを掲げ、力強く歩を進める走者に、沿道から温かい声援が送られた。

 糸満市の西平賀雄市長と玉城朗永市議会議長に交じり、リレー出発前に採火した同市立米須小六年の玉城寿倫哉君。「大人たちの話を聞いて沖縄戦の歴史を正しく教科書に残してほしいと思った」と話した。

 第一走者は、同市立高嶺中三年の生徒会メンバー五人。大会実行委員長の仲里利信県議会議長から「はい、どうぞ。お願いします」と声を掛けられトーチを手渡され、笑顔でスタートした。

 夏場を思わせる強い日差し。玉城寛之君を先頭に、行き交う車の声援に手を振り応えながら、軽い足取りで約一キロを走った。

 第二走者の市立兼城中学校三年のイラバニ・ロクサナさんら八人の生徒に「がんばれ」と声を掛け、トーチをつないだ玉城君。

 「気持ちよく走れた。大事なものを託されているということを胸に、平和な世の中になってほしいという思いで走った」と話し、額の汗をぬぐった。

 豊見城市役所から名嘉地交差点までの一・六キロの区間では、市議会全議員や市職員、豊見城高校野球部など約百人がリレーをつないだ。

 糸満市の子ども会からトーチを受け取った豊見城市議会の大城英和議長は「六十二年前の沖縄戦で起こった悲惨な出来事を胸に刻みながら、しっかりと走ってほしい」と走者らに呼び掛けた。

 豊見城高校野球部の屋我伸也さん(17)は「これから歴史を勉強する子どもたちのためにも真実を伝えてほしい」と話した。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709291700_03.html

 

2007年9月30日(日) 朝刊 1面

11万人結集 抗議/検定撤回 9・29県民大会

 私たちは真実を学びたい。次世代の子どもたちに真実を伝えたい―。高校歴史教科書の検定で、文部科学省が沖縄戦「集団自決(強制集団死)」から日本軍強制の記述を削除したことに抗議する「教科書検定意見撤回を求める県民大会」(主催・同実行委員会)が二十九日午後、宜野湾市の宜野湾海浜公園で開かれた。大会参加者は当初予想を上回る十一万人(主催者発表)。宮古、八重山を含めると十一万六千人に達し、復帰後最大の“島ぐるみ”大会になった。大会では日本軍の命令、強制、誘導などの記述を削除した文科省に対し、検定意見撤回と記述回復を求める決議を採択した。

 戦争を体験した高齢者から子どもまで幅広い年代が参加、会場は静かな怒りに包まれた。県外でも東京、神奈川、愛媛などで集会が開かれ、検定意見撤回と記述回復を求める県民の切実な願いは全国に広がった。

 大会実行委員長の仲里利信県議会議長は「軍命による『集団自決』だったのか、あるいは文科省が言う『自ら進んで死を選択した』とする殉国美談を認めるかが問われている。全県民が立ち上がり、教科書から軍隊による強制集団死の削除に断固として『ノー』と叫ぼう」と訴えた。

 仲井真弘多県知事は「日本軍の関与は、当時の教育を含む時代状況の総合的な背景。手榴弾が配られるなどの証言から覆い隠すことのできない事実」とし、検定意見撤回と記述復活を強く求めた。

 「集団自決」体験者、高校生、女性、子ども会、青年代表なども登壇。検定撤回に応じず、戦争体験を否定する文科省への怒りや平和への思いを訴えた。

 渡嘉敷村の体験者、吉川嘉勝さん(68)は「沖縄はまたも国の踏み台、捨て石になっている。県民をはじめ多くの国民が国の将来に危機を感じたからこそ、ここに集まった。為政者はこの思いをきちっと受け止めるべきだ」とぶつけた。

 体験文を寄せた座間味村の宮平春子さん(82)=宮里芳和さん代読=は、助役兼兵事主任をしていた兄が「玉砕する。軍から命令があった」と話していたことを証言した。

 読谷高校三年の津嘉山拡大君は「うそを真実と言わないで」、照屋奈津美さんは「あの醜い戦争を美化しないで」とそれぞれ訴えた。

 会場の十一万人は体験者の思いを共有し、沖縄戦の史実が改ざんされようとする現状に危機感を募らせた。宮古、八重山の郡民大会に参加した五市町村長を含み、大会には全四十一市町村長が参加した。

 実行委は十月十五、十六日に二百人規模の代表団で上京し、首相官邸や文科省、国会などに検定意見の撤回と記述回復を要請する。

 仲里実行委員長は「県民の約十人に一人が参加したことになる。県民の総意を国も看過できないだろう」と、記述回復を期待した。


検定見直し国会決議も/超党派視野民主が検討


 民主党の菅直人代表代行は二十九日、政府や文部科学省に「集団自決(強制集団死)」で軍強制を削除した検定のやり直しを求め、応じない場合は超党派で国会決議案提出を検討する意向を示した。また、国会の委員会審議の参考人として「集団自決」体験者を招き、証言を直接聴取する考えも明らかにした。

 教科書検定撤回を求める県民大会に出席した後、記者団の取材に応じた菅代表代行は「臨時国会の代表質問や予算委員会審議で取り上げ、文科省の調査官のコントロールでねじ曲げられた検定のやり直しを求める」と強調。「検定の見直しや規則を変えることに応じなければ、国会の意思を問う」とした。野党共闘を軸に、与党にも働き掛け、超党派で提出する考えを示した。

 大会に出席した共産党の市田忠義書記局長は「県民大会の決議の趣旨であれば賛同する」、社民党の照屋寛徳副党首も「検定撤回を求め、国会の意思を示すべきだ」と賛同。国民新党の亀井久興幹事長も「決議に賛成したい」とし、野党各党とも国会決議案提出に賛成する意向だ。

 一方、与党側は、参加した公明党の遠山清彦宣伝局長が「撤回を求めるのは同じだが、国会決議で個別の検定を見直すことは今後の政治介入を許す危険性もあり、慎重に対応したい」との考え。自民党の県選出・出身でつくる「五ノ日の会」の仲村正治衆院議員は「今回の大会決議で要請することが先だ。今後の対応は党の協議次第だ」と述べるにとどまった。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709301300_01.html

 

2007年9月30日(日) 朝刊 27面

人の波 怒り秘め/真実は譲らない

 私たちの歴史は変えさせない。二十九日、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が開かれた宜野湾海浜公園には、主催者の予想をはるかに上回る十一万人が集まった。県民の十人に一人近くが参加し、復帰後最大の規模に膨れ上がった。「たとえ醜くても、真実を伝えたい」。沖縄戦で体験した地獄を語る勇気と、受け継ぐ覚悟。静かな会場に、世代を超えた県民の決意が満ちた。検定の標的にされた「集団自決(強制集団死)」の体験者は、失った家族に向けて涙ながらに成功を報告した。宮古、八重山の会場にも合わせて六千人が結集した。すべての視線が、文部科学省に向けられた。

 午後三時に大会が始まってからも、会場を目指す人の波は続いた。車いすのお年寄りと、乳児を乗せたベビーカーが、並んで進む。うるま市の山城真理子さん(54)は「大人から子どもまで、本当に県民こぞっての集まり」と、感激の面持ちを浮かべた。

 会場の広大な芝生は人で埋め尽くされ、周辺の敷地にも参加者があふれ返った。あらゆる木陰や車の陰に人、また人。

 「一九九五年の大会ではこの辺りまではいなかった。きょうは二倍いるんじゃないか」と驚く沖縄市の照屋哲さん(68)。ステージは遠く見えないものの、私語はほとんどない。訴えにじっと耳を傾け拍手を送った。

 家族連れや若い世代の姿も目立った。浦添市の下地正也さん(42)は、十二歳と八歳の息子の手を引いて参加。「まだ大会の意義は分からないと思うが、参加した記憶が残れば。これをきっかけに将来、自分で学んでほしい」と願いを込めた。

 球陽高校三年の真壁科子さん(17)は、チビチリガマがある読谷村から来た。一緒に参加した両親などから、「集団自決」への軍関与を聞かされて育った。「夢は教員。でも教科書が書き換えられてしまったら、悲劇をどう生徒に伝えればいいの」と、心配顔になった。

 体調が悪く、不参加を決めていた豊見城市の金城範子さん(64)は、朝起きてすぐに意を決し、足を運んだ。「私の後ろには、参加したくてもできない戦没者やお年寄りがたくさんいる。責任に押された」。最前列に一人で座り、「日本兵を恨みはしない。ただ、自分の名誉のために歴史全体を曲げることだけはしないでほしい」と訴えた。

 「きょうはうれしい一日だよ」。「集団自決」を体験した座間味村出身の宮城恒彦さん(73)は、帰路に就く人々を見詰めながら語った。「普段おとなしい県民のマグマが噴火した。何度踏みにじられても、沖縄の命運が懸かった問題では十万以上の人が動いた。戦争を体験していない世代が頼もしく見える」と、目を細めた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709301300_02.html

 

2007年9月30日(日) 朝刊 3面

書き換え「許さず」/超党派で撤回要求

 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」で軍強制を削除した高校歴史教科書検定問題に対し、二十九日、宜野湾海浜公園で開かれた県民大会には、各政党の本部幹部らが多数参加した。十一万人が結集した大会の意義をそれぞれが高く評価、沖縄戦の史実をねじ曲げる検定の撤回を求めた。

 民主党の菅直人代表代行は「『集団自決』で軍関与を否定した動きを許さないという県民の思いを強く感じた」との感想を述べた。大会の意義については「戦争を風化させ、ねじ曲げようとする一部の動きに、当事者が苦しい体験を勇気を出して発言した。多くの人々が集まったことは歴史的な意義があり、歴史の歪曲を止めるきっかけになる」と話した。

 遠山清彦公明党宣伝局長は「県民が怒るのは、文科省が学問的、客観的に運用した検定制度と、戦争体験者の体験がずれているからだ」と指摘した。文科省には、同党県本部が四月に求めた県民参加による「沖縄戦共同研究機関」の創設を強く要望。沖縄戦の公正、客観的な検証を求めた。県民からの直接ヒアリングなど、検定制度の見直しも必要との認識を示した。

 市田忠義共産党書記局長は「これまで日本政府も軍関与を認めていた。それを覆すのは許されない歴史の書き換えだ」として、国政の場で検定意見撤回に向けて働き掛けていく考えを示した。大会について「県民の平和へのエネルギーが一層伝わった。国民全体の問題として、党派を超えて、歴史の偽造は許されないという思いをますます強くした」と述べた。

 社民党の保坂展人平和市民委員長は「教科書問題は住民虐殺や慰安婦問題などと同様に、戦争を客観的に見られるのかという歴史観全体の問題だ」と指摘。「県民の大きな声を、福田政権がどう受け止めるのか、週明けの所信表明に注目したい」とした上で、「他の野党と連携し、渡海紀三朗文科相への質問で、全面撤回の契機となる見解、発言を引き出す努力をする」と述べた。


県民の不満が「爆発寸前に」

知事、政府に配慮求める


 仲井真弘多知事は二十九日の県民大会終了後、記者団の取材に応じ「私が初めて見たほど大勢の県民が集まった。ある種のマグマというかエネルギーというか、何かが爆発寸前にあるのではないかと予感させた大会だった」と述べ、沖縄戦の実相と異なる文部科学省の検定意見に対し、県民の不満が限界点にあるとの認識を示した。その上で検定意見の撤回に全力で取り組む意向をあらためて表明するとともに、「地方の意見に耳を傾ける、理解に努めるという、中央におられる人々の感性をもう一回磨いて、精妙にしていただく必要があるのではないかと思う」と指摘。政府に対し、県民感情に配慮するよう求めた。

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709301300_03.html

 

2007年9月30日(日) 朝刊 28面

22万の瞳にこたえよ/視点

 強い日差しの中、時折心地よい風が吹いた。会場に入りきれない人々は、公園や隣の建物、小道、雑木林の中に座り、遠くで聞こえるマイクの声にじっと聞き入った。ステージが遠くても、見えなくても、そこに集まった二十二万の瞳は、検定撤回を求めるスピーチが続く舞台を静かに見詰め続けていた。

 けれども、あなたはそこにはいなかった。

 内間敏子さん=当時(19)。りんとしたまなざし、ピンクのブラウスがよく似合ったあなたは、座間味国民学校の教師。音楽が好きで、あなたがオルガンで奏でた重厚なハーモニーに感動し、戦後音楽の道へ進んだ教え子もいた。そのことをあなたは知らない。一九四五年三月二十六日、座間味村の「集団自決(強制集団死)」で亡くなった。

 自ら手にかけなければならない子どもたちをぎゅっと抱きしめ、「こんなに大きくなったのに。生まれてこなければよかったね。ごめんね」と号泣した宮里盛秀さん=当時(33)。戦時下、座間味村助役兼兵事主任だったあなたは、「集団自決」の軍命を伝えることで、軍と住民の板挟みになり苦しんだ。「父が生きていれば、自分が見識がもっと広く、大局的な見方ができたらと悔やんでいたと思う」。一人残された娘の山城美枝子さん(66)は、あなたに代わって会場に立った。

 なぜ、あなたたちは死に追い詰められたのか。残された人々が、私たちに語ってくれたことで、真実が伝えられた。

 魂の底から震えるように、軍の命令で家族が手をかけ合った「集団自決」を話した。戦後、片時も忘れることができない体験。請われて語ることで自らも傷ついた。それでも、「集団自決」が、沖縄戦のようなことが再び起こらないように、奮い立ってくれた。

 しかし、軍強制を削除した教科書検定は、「集団自決」の真実と、残された人々の心痛をも全て消し去った。

 検定に連なる背景には、日本軍の加害を「自虐的」とし、名誉回復を目指す歴史修正主義の動きがある。「集団自決」は標的にされたのだ。

 軍の名誉を守るために「集団自決」の真実を否定し、苦しさを乗り越え語る人々の心を踏みにじる。沖縄と、そこに生きる人々を踏みつけなければ、回復できない名誉とは、なんと狭量で、薄っぺらであることか。

 時代が違えば、「集団自決」に追い込まれたのは、今、沖縄に生きる私たちだった。

 沖縄戦を胸に刻んできた体験者、沖縄戦を考えることが心に芽吹いた若者たち。「集団自決」で死んで行ったあなたを、残された人々を、決して一人では立たせないとの思いで結集した。

 十一万六千人もの人々が共に立ち、誓った。私たちの生きてきた歴史を奪うことは許さない。「集団自決」の事実を、沖縄戦の歴史を歪めることは許さない。舞台を静かに見据えた瞳はそう語っていた。

 政府は、この二十二万の瞳にこたえよ。(編集委員・謝花直美)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709301300_04.html

 

2007年9月30日(日) 朝刊 26面

沖縄戦事実 否定に怒り/解説

 十一万六千人。人口百三十七万人の沖縄県でこれだけの県民が集まった。東京都で考えれば、百八万人の集会に相当する。その意思表示を文部科学省はどう考えるのか。今後の対応を注視する。

 そもそも、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の開催は、沖縄からの民意や反論に文科省が真剣に対応してこなかったことが背景にある。

 「『集団自決』で日本軍の強制があったことを否定されれば、ガマからの追い出し、食料の強奪、スパイ容疑での虐殺など、そのほかの沖縄戦の住民被害を否定されたのと同じになる」。平良長政・大会実行委員会幹事が大会後に述べたように、県民は今回の教科書検定で、体験、記憶、学習を通じて共有してきた「沖縄戦の事実」が否定されたと感じたのだろう。

 県議会と全四十一市町村議会で検定意見撤回を求める意見書が採択されたのは、その民意の表れだ。

 「集団自決」に対する日本軍の強制があったことを証明するこれまでの研究に、体験者による新たな証言がいくつも加えられ、検定結果への反証として示されてきた。

 県議会、市町村議会、副知事、教育長、市民団体。沖縄は、こうした民意と反証を基に、何度も文科相に説明と対応を求めてきた。そのたびに文科省は、「審議会による学術的な審議に基づく決定で覆せない」と、事実と異なる「官僚答弁」に終始してきた。

 対応に当たるのは、検定の内実を詳しく知る課長でもなければ、決裁権を持ち、責任が問われる立場の局長や文科相でもない、中間管理職の審議官だった。

 六月、伊吹文明文科相(当時)は「検定結果について沖縄の皆さんの気持ちに沿わないようなことがあるんだろうと思う」と発言した。ここにボタンの掛け違いがある。

 県民はあいまいな感情で怒っているのではない。「事実を否定された」から怒り、その論拠も示している。

 渡海紀三朗・現文科相は県民大会について、「どういう大会になるのか、どういう意見が出るのかを見極めて、対応したい」と発言した。期待したい。行政が過ちを認めないとき、それをただすのは政治の役割だ。

 文科省は県民大会であらためて示された事実と、事実歪曲への怒りを素直に受け止めるべきだ。(社会部・吉田啓)


     ◇     ◇     ◇     

検定抜本改善へ歴史的一歩/高嶋伸欣氏・琉大教授


 県民大会準備に参画していた一員として、何より勇気づけられるのは、参加者が十一万人を超えたことだった。主権在民のこの社会では、行政や政策に関連して主権者が何らかの形で意思表示をしなければ、民主主義の健全さは保てない。

 大会準備中、実行委員会は五万人という控えめな目標数を設定した。それには弱気すぎないかという声も少なくなかった。しかし、だからと言って自信をもって大丈夫と主張できる根拠を見出すのは困難だった。

 それが連休明けの九月二十五日から様相が一変し、県内だけでなく県外どころか国外からもメディアや市民運動からの照会、連携行動の情報が洪水のように押し寄せた。

 東京中心のメディアの場合、腰をあげるのが遅すぎた面もある。それだけに、いよいよ沖縄での盛り上がりぶりを知って、動かざるをえなくなったのだとも考えられた。メディアの世界でも。一地方にすぎない沖縄が中央に揺さぶりをかけたのだと見て取れる。

 この解釈は、県民大会会場に駆けつけていた全国からのメディアの姿によって、裏付けられていた。中央のメディアを揺さぶり、この件について今後は真剣に取り組まざるを得ないと認識させる状況づくりに、われわれも多少は参画できたのだと、誇りに思いたい。

 このことは、伊吹文明前文部科学大臣の詭弁同然の弁明を、これまでのところ結果的には容認してしまっていた中央のメディアを、著しく緊張させたことになる。来月中旬に予定されている実行委員会の東京行動では、今回の大盛会を背景に強気の交渉が予想される。文科省交渉では、これまで一切の面会を拒否していた初等中等教育局長や事務次官のレベルでは済まされない。文科大臣の面会は当然だ。首相官邸の場合、首相はともかくとしても、官房長官が政府総体としての対応を示すためにも出て来ざるを得ないと思える。

 それに、ここまで解決を遅らせた結果、問題の根本原因が検定制度の構造的欠陥、特にきわめて非民主的な強権性と密室性にあることまで、多くの人々が気付くに至った。国会では野党各党が、「集団自決」の検定意見撤回だけでなく、検定制度の見直しにまで踏み込んだ議論を、国会で展開する準備に着手したという。

 この事態は、今回の「集団自決」検定問題が、戦後の教育界で積年の論点となっていた教科書制度の抜本的再検討をいよいよ不可避にしたことを意味している。それは、当然ながら全国の教育関係者を巻き込む議論になる。

 一九六五年度から全面実施された小・中学校の教科書無償制は、日本の民主的な教育を支えるものとして国内外で高く評価されている。その無償制が高知県の母親たちを中心とした市民運動が発端だったと、教育関係者の間では語り継がれている。同様に、やがて教科書制度が大幅に民主化された時、それは沖縄の県民大集会で示されたエネルギーが発端だったと語り継がれることになる。

 われわれは今、新たな誇れる歴史をまた刻むことができた。それがこの九・二九県民大集会だった。(社会科教育専攻)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200709301300_05.html

 

沖縄タイムス 社説(2007年9月30日朝刊)

[11万人の訴え]

政府の見解を問いたい


史実の改ざんを許すな


 宜野湾海浜公園を埋め尽くした老若男女。三〇度を超える日差しの中で特にお年寄りの姿が目立ち、親子連れ、本土からの参加者も多い。

 「教科書検定意見撤回を求める県民大会」に参加した人々は十一万人を超え、大会決議が採択されてからも人の流れは途切れることがなかった。

 一九九五年の米兵による暴行事件に抗議した「10・21県民総決起大会」の八万五千人を大きく上回ったのは、沖縄戦における「集団自決(強制集団死)」から旧日本軍の関与を削除しようとする教科書検定の動きに対し県民の怒りがわき上がったからだ。

 沖縄戦の記憶は県民の心の奥深くに脈打っている。自分の親や子どもに手をかけ、親類などが「集団自決」した関係者にはさらに重くのしかかる。

 文部科学省の検定は、「集団自決」の問題だけでなく、軍と住民が「共生共死」の関係におかれた上に、旧軍が住民を守らなかったという沖縄戦の実相をゆがめようとする動きに映る。

 「十一万」という数字はそのことに対する異議である。文科省は抗議の声が参加できなかった多くの県民にも幅広くあり、島ぐるみの大会だということを見過ごしてはなるまい。

 「戦(いくさ)が終わったときも暑かったよ。世の中、段々おかしくなっていくようだし、きょうは何が何でも来ようと思っていたさぁ」

 午後一時すぎ、離島から船とバスを乗り継いで来たという年配者のグループはこう話した。

 参加者は決して政治的な意図を持った人たちではない。農業に従事する人、漁業者、公務員、会社員、婦人会の仲間、世代を超えて中学生、高校生だけのグループもいる。

 「教科書の問題は私たちの問題。戦争のことは知らないけど、『集団自決』という怖いことも真実は真実として教えてもらいたいし、次の人たちにも伝えていくべきだ」と話したのは宜野湾市内の女子高生だ。

 参加者の願いはそこにこそあり、沖縄戦の実相を史実として歴史教科書に記述し、そのことから平和の尊さを学ぼうということである。


歴史の修正試みる動き


 では、現在の高校歴史教科書に記述されている「集団自決」における旧軍の関与が、なぜ今回、書き換えられたのだろうか。

 二〇〇六年十二月の検定意見受け渡しで、文科省の教科書調査官は次のような意見をつけている。

 「『集団自決』をせざるを得ない環境にあったことは事実であろうが、軍隊から何らかの公式な命令がでてそうなったのではないということで見方が定着しつつある」

 本当にそうだろうか。体験者の証言はむしろ旧軍の関与を如実に示すとともに、手榴弾を配布して“玉砕”を強いたことも明らかにしている。

 伊吹文明前文科相は「文部科学省の役人も、私も、安倍総理(当時)も、一言も容喙(口出し)できない仕組みで日本の教科書の検定というのは行われている」と述べた。

 だが、これまでの文科省の対応を考えれば詭弁と言わざるを得ない。

 調査官の意見と前文科相の発言は、旧軍の関与を消し去ろうとする試み以外の何ものでもなく、そこには政治的な思惑さえ感じさせる。

 歴史を修正する試みであり、歴史を歪曲しようとする動きが県民の理解を得られるはずがない。


信頼を取り戻す努力を


 「どういう意見が出るのかを見極めて、対応させていただきたい」。渡海紀三朗文科相の発言だ。

 岸田文雄沖縄担当相も「この問題に対する県民の思いの深さをあらためて感じている。私も福田内閣もしっかり受け止めていかねばならない」と話す。

 長い間うちに秘め、親やきょうだいに手をかけるという凄惨な体験を口にしなければならない状況に追い込んだのは、言うまでもなく国である。

 高校生を代表した読谷高校の津嘉山拡大君、照屋奈津美さんは、おじいさんやおばあさんに聞いた戦争中のことを「それを嘘だというのですか」と問うた。旧軍関与の削除には「嘘を真実と言わないでください。私たちは真実を学びたい。そして次の子どもたちにも伝えていきたい」と訴えている。この声を政府はどう受け止めるのか。

 教科書の信頼を取り戻すには事実をゆがめず、史実を真摯に記すことだ。県民の訴えを政府がどう聞くのか。国会の動きとともに注視していきたい。

http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070930.html#no_1

 

琉球新報 社説

検定撤回県民大会 国は総意を見詰めよ/歪曲を許さない意志固く

 「歴史の改ざんや歪曲(わいきょく)は決して許してはならない。禍根を残すことになる」

 会場を埋め尽くした参加者の胸の内は、老若男女を問わず恐らく、この一点に集約されるのではないか。

 苛烈な62年前の沖縄戦で日本軍が住民に「集団自決」(強制集団死)を強制したとの教科書記述が削除・修正された問題で、文部科学省の検定意見に抗議する県民大会は、最大規模に膨れ上がった。宜野湾海浜公園を目指して四方八方から押し寄せる人々の波は、開始後も切れ目なく続いた。11万人。参加者は大会が終わるまでひきも切らなかった。

記憶の底に刻む

 名前もない小さな川が、同じ流れを求めて緩やかにうねる。大会はそんなドラマを連想させる趣があった。

 空前の規模ばかりではない。テレビの前で中継を見守った多くの人々を含め、信条や立場、世代を超え、県民があらためて歴史認識の共有を確認しあった。その意義は、計り知れない。沖縄の歴史と県民の記憶の底に、将来にわたってしっかりと刻み込まれるだろう。

 実行委員会に加わった22団体の代表をはじめ、高校生、戦争体験者らが次々に登壇、撤回要求に応じない文科省の姿勢を厳しく批判したのは当然だ。

 「軍の命令や強制、誘導によって集団自決があったのは隠しようのない事実だ」「史実として正しく伝え、悲惨な戦争を再び起こさないことが私たちの責務」

 国・文科省は、大会で発せられた声に対し、どう向き合うのだろうか。検定によって沖縄戦の実相をゆがめることへの怒りや痛苦に満ちた訴えを、真正面から受け止めるべきだ。島ぐるみの抗議を軽視することは許されない。

 いかなる改ざん、隠ぺい工作が行われたにしても、真実の姿を必死に伝えようとする県民の意志をくじくことはできない。規制や圧力が強まるほど、語り継ぎたい思いは増幅するに違いない。

 文科省は、このことを強く肝に銘じるべきだ。

 記述の削除・修正から大会に至るまでの経緯を、いま一度振り返ってみたい。

 発端は今年3月末、2008年度から使用される高校日本史教科書で文科省が修正を要求する検定意見を付したことだ。集団自決に日本軍の命令や強要があったと記述した5社、7冊の教科書に対し「沖縄戦の実態について誤解する恐れがある」との検定意見である。

 この結果、すべての教科書から集団自決をめぐる軍の強制の記述が消えた。

 肉親同士が殺し合い、自ら命を絶つほかに選択肢がなかったのが集団自決の本質だ。教科書から「日本軍」という主語が消されれば、その実相はつかむことができなくなる。

国の論理は転倒

 だが教科書会社は主語を削ったり、あいまいな表現に書き換えたりした。文科省から合格判定を得るために大幅に修正した。

 県民の怒りを買ったのは、検定撤回を迫る要請団らの再三の要求に対し、文科省が門前払い同様に扱ったことだ。教科用図書検定調査審議会が決めることを理由ににべもない姿勢に終始してきた。

 町村信孝官房長官は大会前日の28日、記者会見で「検定制度の客観性、信頼性を失わせないよう政治の立場からあまり物を言うべきではない」と述べた。

 この発言は理があるように見えなくもない。しかし、実態はあべこべこではないのか。国の論理が転倒していると言わざるを得ない。文科省こそが教科書への信頼を損ねている。多くの県民はそう考えている。審議会とは実は名ばかりで、実質的論議がなかったことは委員らも認めているからだ。

 記述の削除・修正は、文科省の事実上の書き換え指示なしには起こり得なかった、とわたしたちは強く主張したい。

 本土各地でも議会決議が相次いでいる。訂正申請に向けた執筆者の動きも見られる。執筆者には県民総意を踏まえ、手を取り合って記述復活に傾注してほしい。研究者の良心を、ぜひとも示してもらいたい。

 文科省には繰り返し注文しておきたい。県民の決意の重さを見誤ってはならない。検定制度の見直しも不可欠だ。

(9/30 10:10)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-27661-storytopic-11.html